Title
確率論的地震ハザード評価の高度化とその応用( 内容の要旨
(Summary) )
Author(s)
奥村, 俊彦
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(工学) 甲第310号
Issue Date
2007-03-25
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/21450
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏名(本籍) 学 位 の 種 類 学位授与番号 学位授与日付 専 攻 学位論文題目 学位論文審査委員 奥 村 俊 彦(愛知県) 博 士(工学) 甲第 310 号 平成19 年 3 月 25 日 生産開発システム工学専攻 確率論的地震ハザード評価の高度化とその応用 (Re丘nementandExtensionofProbabilisticSeismicHazardAnalysis andItsEngineeringApplication) (主査) (副査) 太厚呂 莫 暢 戸 鴨 島 杉 八 能 授授授 教教教 授 小 鴨 智
論文内容の要旨
1995年1月に発生した兵庫県南部地震を契機として、政府に地震調査研究推進本部が 設置され、全国の主要な活断層に関する調査が推進されるとともに、調査研究に基づく活 断層や海溝型の地震に関する評価が公表されるようになった。また、全国1,000箇所以上 の強震観測網が整備され、多数の強震記録が収集、公開されるようになった。 確率論的地震ハザード評価は1968年にCornellによって基礎的な理論が構築されて以 来、さまざまな発展をしてきたが、近年急速に充実してきたデータや情報を生かして高度 化を図ることが可能な状況となってきた。 本研究では、このような背景の下、確率論的地震ハザード評価の高度化を図ることを目 的に実施したものであり、確率論的地震ハザード評価を構成する2つの大きな要素である 地震動強さの確率評価と地震活動の確率モデルのそれぞれについて、特に不確定性の取り 扱いに関連して高度化を図るとともに、従来単一地点を対象に定式化されていた地震ハザ ード評価を複数地点の同時地震ハザード評価の概念に拡張する手法を提案した。 <地震動強さの確率評価に関する高度化> 地震動強さの確率評価に関しては、まず第2章において、現在一般的に用いられている 距離減衰式を用いた地震動強さの確率分布の評価を取り扱い、そのばらつきの要因を整理 した上で、従来明確にされていなかった確率論的地震ハザード評価で用いるべきばらつき について基本的な考え方を提案した。さらに、多数の地震観測記録にもとづいてばらつき を分離抽出し、ばらつきの具体的な数値を算定した。 次いで、第3章では、近年進展の著しい詳細な強震動シミュレーション手法を用いるこ とによる確率論的地震ハザード評価の高度化の方向性について検討した。具体的には、震 源パラメータを変動させた多数の強震動シミュレーション結果に基づき、震源パラメータ の変動が地震動予測の結果に対して及ぼす影響を定量的に評価し、その結果を中央値とば らつきの空間変動の観点で考察した0この結果、特に長周期帯域の地震動成分については、 中央値とばらつきの空間変動が顕著であることが明らかとなった。すなわち、このような特性を表現するためには現在一般的に用いられている距離減衰式では不十分であり、詳細 な強震動シミュレーション手法を用いることが地震動の確率評価の高度化において不一可 欠であることを示した。 <地震活動の確率モデルの高度化> 地震活動の確率モデルに関しては、まず、第4章において、近年蓄積されている活断層 調査結果の状況を踏まえ、活断層の活動履歴の情報の不確定性を考慮した地震発生確率の 算定方法を新たに提案するとともに、神戸市を対象として兵庫県南部地震の発生前後での 地震ハザードの比較検討から、活動履歴の情報を考慮することの重要性を示した。 次に、第5章では、全国を概観した確率論的地震動予測地図作成のために構築された地 震活動モデルを対象に、そこで表現されている地震数を過去に発生した地震数と比較・検 討した。このために、まず、全国の主要な活断層帯で発生する地震のモデル化における活 動間隔と最新活動時期に関する不確定性の取り扱いについて検討した。この結果、活断層 全体としてみたときには、活動間隔と最新活動時期の中央値の組み合わせで算定される地 震発生確率では地震数をやや少なめに、逆に発生確率の最大値を採用した場合には地震数 をやや多めに評価することが明らかとなった。さらに、海溝型地震も含めた日本周辺で発 生する全ての地震についても同様に、地震活動モデルで表現される規模別の地震数を、過 去に発生した地震数と比較検討したところ、モデルで表現されている地震数と過去に発生 した地震数がほぼ整合していることが明らかとなった。 <複数地点の同時地震ハザード評価への拡張> 第6章では、ライフライン事業者など多数の施設を保有する組織の地震リスクマネジメ ントへの適用を念頭に、従来、単一地点での評価を対象として定式化されてきた確率論的 地震ハザード評価手法を拡張し、複数の地点を対象とした同時地震ハザード評価の概念を 提案し定式化した。さらに、適用例を通じて同時地震ハザードの基本的な性状を示した。 同時地震ハザードに対しては、単一地点を対象とした場合とは異なる地震の寄与が大きく なる場合があること、すなわち地震対策で注意すべき地震像が異なる場合があることを示 した。
論文審査結果の要旨
本研究では、確率論的地震ハザード評価の高度化を図ることを目的に実施したものであ り、確率論的地震ハザード評価を構成する2つの大きな要素である地震動強さの確率評価 と地震活動の確率モデルのそれぞれについて、特に不確定性の取り扱いに関連して高度化 を図るとともに、従来単一地点を対象に定式化されていた地震ハザード評価を複数地点の 同時地震ハザード評価の概念に拡張する手法を提案している。研究成果は以下に要約され る。 (1)地震動強さの確率評価に関する高度化 地震動強さの確率評価に関しては、現在一般的に用いられている距離減衰式を用いた地 震動強さの確率分布の評価を取り扱い、そのばらつきの要因を整理した上で、従来明確に されていなかった確率論的地震ハザード評価で用いるべきばらつきについて基本的な考-31-え方を提案した。さらに、多数の地震観測記録にもとづいてばらつきを分離抽出し、ばら つきの具体的な数値を算定した。 次いで、近年進展の著しい詳細な強震動シミュレーション手法を用いることによる確率 論的地震ハザード評価の高度化の方向性について検討した。具体的には、震源パラメータ を変動させた多数の強震動シミュレーション結果に基づき、震源パラメータの変動が地震 動予測の結果に対して及ぼす影響を定量的に評価し、その結果を中央値とばらつきの空間 変動の観点で考察した。この結果、特に長周期帯域の地震動成分については、中央値とば らつきの空間変動が顕著であることが明らかとなった。すなわち、このような特性を表現 するためには現在一般的に用いられている距離減衰式では不十分であり、詳細な強震動シ ミュレーション手法を用いることが地震動の確率評価の高度化において不可欠であるこ とを示した。 (2)地震活動の確率モデルの高度化 地震活動の確率モデルに関しては、まず、近年蓄積されている活断層調査結果の状況を 踏まえ、活断層の活動履歴の情報の不確定性を考慮した地震発生確率の算定方法を新たに 提案するとともに、神戸市を対象として兵庫県南部地震の発生前後での地震ハザードの比 較検討から、活動履歴の情報を考慮することの重要性を示した。 次に、全国を概観した確率論的地震動予測地図作成のために構築された地震活動モデル を対象に、そこで表現されている地震数を過去に発生した地震数と比較・検討した。この ために、まず、全国の主要な活断層帯で発生する地震のモデル化における活動間隔と最新 活動時期に関する不確定性の取り扱いについて検討した。この結果、活断層全体としてみ たときには、活動間隔と最新活動時期の中央値の組み合わせで算定される地震発生確率で は地震数をやや少なめに、逆に発生確率の最大値を採用した場合には地震数をやや多めに 評価することが明らかとなった。さらに、海溝型地震も含めた日本周辺で発生する全ての 地震についても同様に、地震活動モデルで表現される規模別の地震数を、過去に発生した 地震数と比較検討したところ、モデルで表現されている地震数と過去に発生した地震数が ほぼ整合していることが明らかとなった。 (3)`複数地点の同時地震ハザード評価への拡張 ライフライン事業者など多数の施設を保有する組織の地震リスクマネジメントへの適 用を念頭に、従来、単一地点での評価を対象として定式化されてきた確率論的地震ハザー ド評価手法を拡張し、複数の地点を対象とした同時地震ハザード評価の概念を提案し定式 化した。さらに、適用例を通じて同時地震ハザードの基本的な性状を示した。同時地震ハ ザードに対しては、単一地点を対象とした場合とは異なる地震の寄与が大きくなる場合が あること、すなわち地震対策で注意すべき地震像が異なる場合があることを示した。 以上が本研究の主な成果である。本研究で提示された「確率論的地震ハザード評価の高 度化」に関する成果は、この分野の進展に大きく貢献するものであり、きわめて価値の高
い研究成果である。このような評価に基づき、本研究は学位論文として認定するに値する ものと判定した。