ビッグデータ社会における「個人データ」保護のあり方の検討~ナッジによる規制の提案~
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(2) Vol.2013-DPS-156 No.20 Vol.2013-GN-89 No.20 Vol.2013-EIP-61 No.20 2013/9/13. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 2. プライバシー保護の手段としての「個人デー タ」保護 2.1 プライバシーと個人情報,個人データの相違 「プライバシー」と「個人情報」の両者の違いについては, 必ずしも明確に区別されずに議論されることが多く,その ことにより,両者の概念が混同されていると言える. プライバシーとは,辞書(小学館「大辞泉」)によると, 「個人や家庭内の私事・私生活.個人の秘密.また,それ が他人から干渉・侵害を受けない権利」とある. 個人情報保護法において,個人情報とは,「生存する個 人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年 月日その他の記述等により特定の個人を識別することがで きるもの(他の情報と容易に照合することができ,それに. 図 1 個人情報,個人データ,プライバシーの関係. より特定の個人を識別することができることとなるものを 含む)」 (2 条 1 項)のことであり,個人データとは, 「個人 情報データベース等を構成する個人情報」 (2 条 4 項)であ る.ここで「個人情報データベース等」とは, 「個人情報を 含む情報の集合物であって,特定の個人情報を電子計算機 を用いて検索することができるように体系的に構成したも の,およびそれに準じるもの」をいう. 個人情報保護法は,個人情報の適正な取扱と保護につい て定めた法律であり, 「個人情報の有用性に配慮しつつ,個 人の権利利益を保護することを目的とする」 (1 条)として おり, 「プライバシーの権利の保護」を目的としてはおらず, 法律の条文においても, 「プライバシー」という用語は用い られていない.. 日本においては,プライバシーの権利は,憲法の幸福追 求権(憲法 13 条)を根拠とする学説が通説となっている[3]. 1964 年の「宴のあと事件」[b]によって,プライバシー権 は「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし 権利」として承認された.本判決は,プライバシーの侵害 による不法行為の成立要件として,以下の 3 つの要件をあ げている. ①公開された内容が私生活の事実又はそれらしく受け とられるおそれのある事柄であること ②一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立っ た場合,公開を欲しないであろうと認められること ③一般の人々に未だ知られない事柄であること. 本稿において,「個人データ」[ a]とは,個人情報保護法 の定義より広い範囲で, 「ライフログを含む個人に関する多 種多様なデータ」という意味で使用する.図 1 に, 「個人情 報」,「個人データ」と「プライバシー」の関係を示す.. 本判決を契機として,プライバシー権は「私生活をみだ りに公開されないという法的保障ないし権利」として発展 していった. さて,例えば,事業が保管している個人情報が漏洩した. 2.2 個人データ保護とプライバシー侵害の関係. 場合,単に漏洩が生じたという事実をもって,プライバシ. プライバシーの権利は,米国において 1890 年にウォーレ. ーが侵害されたと言えるだろうか.プライバシーが侵害さ. ンとブランダイスが著した「プライバシーの権利」にて,「一. れたか否かは,専ら当該個人の感受性に依存している.そ. 人にしておいてもらう権利(right to be let alone)」としてのプ. れは時(time)と場所. ライバシーの権利が主張されたのを端緒とし,不法行為法. 況(context)よって,同一人に対しても変動し得る概念で. 上の権利として,また,合衆国憲法上の権利として確立し. ある.プライバシー侵害は,事後的な評価と救済で対応せ. ていった[4].. ざるを得ない.. (place)と態様(manner)など状. 一方個人データ保護は,漏洩によるプライバシー侵害を 生じるリスクを低減する手段と位置付けられる.事業者の 故意・過失による個人情報の漏洩や不適切な利用を未然に 防止するため,事前に必要な対策を実施することが求めら れる. プライバシー侵害と個人データ保護は,事後と事前の関 a 経済産業省および総務省では,同様の概念を「パーソナルデータ」と定 義している.本稿では, 「個人データ」という用語を用いたが,不要な概念 の混乱を避けるため,今後は「パーソナルデータ」に改めたい. 経済産業省:IT 融合フォーラム パーソナルデータワーキンググループ報 告書(平成 25 年 5 月) 総務省:パーソナルデータの利用・流通に関する研究会報告書(平成 25 年 6 月). ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. 係であり,区別して扱う必要がある.本稿では,個人デー タ保護のための事前の対策に焦点を当てる.. b東京地判昭和 39 年 9 月 28 日判時 385 号 12 頁. 2.
(3) Vol.2013-DPS-156 No.20 Vol.2013-GN-89 No.20 Vol.2013-EIP-61 No.20 2013/9/13. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 3. 個人データ保護のための規制要素 3.1 レッシグの四規制要素 レッシグは,人のふるまいに影響を及ぼすすべてのこと を「規制」と定義づけており,規制要素として、 「法律(law)」, 「規範(norms)」,「市場(markets)」,「コード(code)/アーキ テクチャー(architecture)」をあげている[2]. 「法律」の規制は,制裁の脅しに裏付けられた命令によ る規制である. 「規範」の規制は,社会やコミュニティの不 文律による規制である. 「市場」の規制は,価格や企業の評 価を通しての規制である. 「コード」の規制とは,ハードウ ェアとソフトウェアがサイバー空間を規制・制御する際の 規律による規制である,例えば,パスワードがないとアク セスできないサイトや実名でないと登録できないサイトな どである. プライバシーについて,レッシグは次のように言及して いる. 「技術の向上により,人々のふるまいの永続的で安上 がりな監視が可能となった.個人が適切なコントロール水 準の回復のために, 「法律」と「技術」をいかにミックスす るかを検討しなければならず,また,その水準は私的/公 的な利益でバランスを取らなければならない」としている [2]. 3.2 個人データ保護のための規制要素 レッシグは前述のとおり 4 つの規制要素を示した.林は これらが個人データ保護にも応用可能であるとし, 6 つの 規制要素に拡張した.6 つの規制要素とは, 《法律》, 《組織 規律》, 《市場価値》, 《自己防衛》, 《ナッジ・デザイン》, 《技 術》である[5]. 以下,林の案を踏襲し,補足的に説明する.ここで,レ ッシグの《規範》は,個人情報の利用者側と情報の帰属者 側に分解されると考えたことより, 《組織規律》と《自己防 衛》に分け, 《コード/アーキテクチャー》は実現手段とし ての《技術》と,設計思想としての《ナッジ・デザイン》 に分けている.. 間接的な「抑止」の効果がある.一方,個人データ保護の 場合,個人情報保護法では,事前に,データ提供者の権利 利益の侵害を阻止し,事後に公的介入をおこなう構造とな っている. (2) 組織規律 企業は社会から企業倫理としての組織規律が期待され る.個人データを大量に保有している企業のなかには,法 令遵守の一環として,個人情報保護法を遵守するために個 人情報保護の取り組みをおこなうだけなく,「個人データ」 に関するより高い水準での保護を達成するため,自主規制 として,プライバシーマークなどの第三者認証の取得・維 持に取り組むものもある. (3) 市場価値 競争原理に基づく市場の機能である.経済学者のフリー ドマンは以下のように述べている. 「われわれの世界はけっ して完全ではない.そこにはつねに貧弱な商品があり,ニ セ医者や詐欺師がいることだろう.しかし概していえば, 市場競争がその働きにまかせてもらえれば,今日ますます 市場に対して上から押し付けられてきている政府による規 制やその他の活動よりも,消費者をはるかによく保護して くれる」としている[7]. つまり,消費者から信頼を得られない企業は,やがては 淘汰されるということである.しかし,個人データを提供 する側と利用する企業の間には,情報の非対称性が存在す るため,粗悪なサービスしか提供されなくなると,その市 場は成立しなくなる[c].よって,企業側にも,個人データ 保護に対する自己の取り組みの自主的な公開や第三者認証 の取得等による,情報の非対称解消への誘因(インセンデ ィブ)が働く理由がある. (4) 自己防衛 個人データが帰属する個人の側には,「自己防衛」という 責任も期待される. 日本の消費者,特に若年層は,自衛手 段による個人情報保護対策の実施率が低く,企業や社会の 保護対策に委ねる傾向が強い[8]. ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で,. (1) 法律 国家が強制力をもって,人(自然人及び法人)を規制し, 違反した場合にはサンクション(制裁)が課せられる.人 の行動を規制する法的手段のあり方としては,以下の 3 つ の要素がある[6]. ①介入のタイミング(行為の前/行為の後) ②介入の形式(阻止/サンクションの賦課). 青少年が自分の情報を安易に晒したり,他人の情報を公開 し,プライバシー侵害にまで発展するなど問題になってい るが,情報リテラシーを育むことが現代の規範とも言える. (5) ナッジ・デザイン 辞書(研究社 新英和中辞典)によると、ナッジ(nudge) とは「(注意を引くためひじで) 〈人を〉そっと突く, 〈…す るように〉 〈人を〉そっと突く[押す]」とある. セイラー. ③私的介入/公的介入(民事訴訟,刑事訴訟・行政行為) プライバシー侵害は,事後に不法行為法(民法 709 条) に基づき,民事訴訟を経て,損害賠償請求により,被害の 救済が行われる.わが国では,懲罰的損害賠償は認められ ず,介入の形式は,不法行為による損害賠償責任を通じた. ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. c いわゆる「レモン市場」の原理である.レモンとは,食物のレモンでは なく,中古車のことを指している.中古車を売る側は故障個所といった情 報を把握しているが,その情報は中古車を買う側には分からない.また, 買う側にとっては,中古車を買う前にその品質を見極めることは困難であ るため、買う側はなかなか中古車を買わないか,もしくは適切な価格より も大幅に安くなければ買わなくなる.したがって,売る側にとっては,適 正な価格を維持するために,情報の非対称解消への誘因(インセンディブ) がある.. 3.
(4) Vol.2013-DPS-156 No.20 Vol.2013-GN-89 No.20 Vol.2013-EIP-61 No.20 2013/9/13. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report &サンスティーンは, 「人々を強制させることなく望ましい. ④ゼロサムではなくポジティブサム. 行動に誘導するようなシグナル,または仕組みのこと」を. ⑤エンドツーエンドのライフサイクルで実施する. ナッジ(nudge)と呼んでいる[9].彼らは,人間は必ずしも,. ⑥可視化と透明性. 合理的に判断し最適な選択を行ってはおらず,ナッジを適. ⑦ユーザーのプライバシーを尊重する. 切に組み込むことによって,人々がより良い生活が送れる よう自発的に取り込むことができるとし,人々の選択をナ. PbD の実践として,個人データを推定されてもプライバ. ッジにより支援する仕組みを「選択アーキテクチャー」と. シー侵害につながらないように匿名化などの処理を施すこ. 呼んでいる.そして,良い選択アーキテクチャーをつくる. とがあげられる.ナッジ・デザインの例としては,個人デ. 6 原則として,以下をあげている.. ータの利活用を想定する際に,サービス提供者に対し,PdD. ・インセンティブ(iNcentives). のソリューションを提示し,サービス利用者に対しては,. ・マッピングを理解する(Understand mapping). サービス提供者が個人データに対する匿名化処理の組み込. ・デフォルト(Defaults). みをおこない,プロセスの透明性を確保する仕組みを構築. ・フィードバックを与える(Give feedback). していることをガイドするなどが考えられる.. ・エラーを予期する(Expect error) ・複雑な選択を体系化する(Structure complex choices) ナッジ・デザインとは,ナッジの考え方を「デザイン(設 計)」に取り込む概念であり,後述するプライバシー・バイ・ デザインに通じるものである. (6) 技術. 4.2 防犯環境設計のアナロジーとしてのナッジ・デザイン ナッジ・デザインの実践を,防犯環境設計のアナロジー として考察する. 防犯環境設計とは,犯罪が発生する物的な環境や状況に 着目した犯罪予防の手法であり,CPTED(Crime Prevention. ここでは個人データ保護に資するための技術の総称であ. Through Environmental Design)とも呼ばれている[11].物的. る,プライバシー強化技術(Privacy-Enhancing Technologies ,. な環境を適切に整備・管理し,効果的に利用すれば,犯罪. 以下 PET と記述)が相当する.PET とは,不必要又は違法. の機会を減らすだけでなく,犯罪不安を軽くし,人や社会. な処理を防ぐことにより,個人データに関するコントロー. の生活の質を向上させることができるという考え方に基づ. ルを強化するためのツール,あるいは,データ提供者にコ. いている.防犯環境施設計には,直接的な手法として, 「①. ントロールを提供することにより,情報システムにおける. 被害対象の強化・回避」と「②接近の制御」,間接的な手法. 個人データ保護を強化する情報通信技術のことである.. として,「③監視性の確保」と「④領域性の強化」があり, これらを組み合わせて行う.. 個人データ保護について,上記のような要素を組み合わ せ,私的/公的な利益でバランスを取った制度設計が行わ れるべきである.社会的に保護すべき利益は複雑に絡み合 っているため,どれかを絶対視するのではなく,相対化して 見ることが求められる.. ①被害対象の強化 犯罪の被害対象になることを回避するため,犯罪の誘発 要因を除去したり,対象物の強化を図ることである. ・出入口や窓の鍵を強化する ・警報装置や防犯カメラなど設置する. 4. ナッジ・デザインの実践に向けて 4.1 プライバシー・バイ・デザイン プライバシー・バイ・デザイン(Privacy by Design,以下 PbD と記述)[10]は,カナダオンタリオ州情報&プライバ シーコミッショナーのアン・カヴォキアンが 1990 年代に提 唱したものである.PbD とは,「プライバシー侵害のリス クを低減するために,システムの開発においてプロアクテ ィブ(事前)にプライバシー対策を考慮するというコンセ プトであり,企画から保守段階までのシステムライフサイ クルで一貫した取り組みを行うこと」である. PbD は,以下の 7 つの基本原則によって構成される. ①事後ではなく事前に. ②接近の制御 犯罪者が被害対象に近づきにくくすることにより犯罪 を未然に防ぐことである. ・庭の周囲を塀で囲う ・上方への足場を少なくする ③監視性の確保 多くの人の目が自然に届く見通しを確保することであ る. ・外部照明の改善 ・街路や窓からの見通しの確保 ④領域の強化 共用のエリアに対する住民のコントロールを強めること である.. ②プライバシー保護をデフォルト設定とする. ・不法投棄や放置自転車を撤去したり,掃除や落書きを. ③プライバシー対策は設計時に組み込む. 消すなど,住宅やその周辺の維持管理状態を向上させる. ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. 4.
(5) Vol.2013-DPS-156 No.20 Vol.2013-GN-89 No.20 Vol.2013-EIP-61 No.20 2013/9/13. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report ・住民の屋外交流を促して,部外者が侵入しくにくい環. 法的な表現は一般の利用者には,わかりくにいものである.. 境をつくる. それらを,平易で簡潔な表示したり,ラベル(アイコンや マーク)で表示するなど,利用者に理解しやすいよう工夫 することがあげられる.また,利用者が提供するデータは 選択可能とし,その際,利用可能なサービス機能や制限に ついて,利用者に理解しやすいよう工夫する必要がある.. 5. 法人の責任の課題 5.1 法人の責任 プライバシー侵害などの民事の事案においては,故意や 過失で他人の権利を侵害すると,その損害を賠償する責任 が生ずる(民法 709 条)が,その主体は行為者すなわち個 人である.当該個人を雇っている法人は,事業執行上のこ とであれば「使用者責任」を負うが(715 条 1 項),「相当 図 2 防犯環境設計の概念. の注意を払っていれば免責される(同条但し書き). しかし,公害や製造物責任のように事業者の労働者の行. 次に,ナッジ・デザインによる個人データ保護に資する 環境(つまりシステム)設計を検討する. ナッジ・デザインは,ナッジの 6 原則を組み合わせ,利. 為というよりも,企業活動そのものが他人の権利を侵害し ていると解するのが自然である. 個人データが一度漏洩し,インターネット上で拡散する. 用者の選択を支援する仕組みを設計する.. と,拡散したデータの回収や現状回復は,事実上不可能で. ①インセンティブ. ある.企業の個人データ保護を企業の自主的な取り組みに. サービスを利用することに対するメリットが必要であ. 依存させる以上,責任の主体は法人とするべきではないだ. る.例えば,利用者の期待に対する充足度や満足度などが. ろうか.そのため,行為者は罰せられずに法人だけが責任. ある.なお,サービスを利用するにあたっては,自由な選. を負う制度の検討が必要である.. 択が保障されなければならず,オプトイン/オプトアウト が保障されなければならない. ②マッピングを理解する 利便性とリスクはトレードオフの関係にある.サービス. 5.2 コミットメント責任論 林と鈴木は,コミットメント責任という,情報管理に関 する法人の責任に関する新しい考え方を提案している[12].. 利用に伴うリスクを,利用者に正しく認識させる必要があ. 「コミットメント責任」とは, 「事業者が,情報管理. る.また,どの局面でリスクが高いか,その対策について. の取扱いに関する約束事を消費者に対して表示し,または. も例示が必要である.例えば,パスワードの設定や管理は. 社会に対して宣言したにもかかわらず,それに違反するこ. 利用者の責任に委ねられることなどがあげられる.. とによって生じる責任(法的責任を中心としながらも,よ. ③デフォルトを設定する. り広い概念としての責任,免責を含む)」である.. 取得や公開の範囲はデフォルトで設定する. ④フィードバックを与える. コミットメント責任を組み込んだ制度として,米国のプ ライバシー保護に関する第三者評価制度である TRUSTe が. 利用者の個人データがどのように使われているか,わか. ある.TRUSTe は,事業者がプライバシーステートメント. るようにする.例えば,アクセス履歴が閲覧できるように. やポリシーをウェブサイト上に表示することで,消費者と. するなどがあげられる.透明性を確保するため,中立的な. の間で一定のコミットをするよう制度要請されている.つ. 第三者機関による評価や関与についても検討するべきであ. まり,自己宣言を基調とする制度となっており,消費者に. る.. 対して表示と異なる欺瞞的な行為をした場合は,FTC(連. ⑤エラーを予期する. 邦取引委員会)の調査権の発動を招く.民間の第三者認証. 人間は間違いを犯すものである.例えば,重要な処理の 前に確認ダイアログを表示したりするなど注意を引くなど. 制度が,法律との補完関係によって一定程度の消費者保護 の実効性を確保できる例として参考になる[13].. あげられる.また,データ管理上のミスの対策として,デ ータ保護のための暗号化や匿名化の処理を検討する. ⑥複雑な選択を体系化する 利用規約やプライバシーステートメントは冗長であり,. ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. 6. おわりに 本稿では, 「個人データ」保護のための,レッシグの規. 5.
(6) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2013-DPS-156 No.20 Vol.2013-GN-89 No.20 Vol.2013-EIP-61 No.20 2013/9/13. 制の 4 要素(法,規範,市場,コード)に,新たに追加す る規制要素の「ナッジ」を中心に解説した. 防犯環境設計は,物的な環境を適切に整備・管理し,効 果的に利用すれば,犯罪の機会を減らすだけでなく,犯罪 不安を軽くし,人や社会の生活の質を向上させることがで きるという考え方であるが,ナッジ・デザインも,防犯環 境設計のように,個人データ保護に資するシステム設計の 思想となりうると考える. 個人データを保護する方法に,唯一絶対のものは存在し ない. 《法律》, 《組織規律》, 《市場価値》, 《自己防衛》, 《ナ ッジ・デザイン》,《技術》の各要素の組み合わせによる解 決策を模索すべきである. 社会的に保護すべき利益は複雑に絡み合っているため, 私的/公的な利益でバランスを取った制度設計が行われる べきである.技術革新のスピードが速く,多様な価値観を 持つ人々が複雑に関係する現代社会においては,ハードな 定型的な方法より,ソフトな柔軟な方法に期待が高まるも のと思われる.本稿で提案したナッジ・デザインは,柔軟 性のある解決策の一つであると考える. 今後,システム構築の要件定義やユーザー・インターフ ェース設計の分野で,ナッジ・デザインの実践を調査する 予定である.. 参考文献 1) JR 東日本が Suica データの外部提供について説明、オプトアウ ト受付も開始 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20130726/494266/ 2) ローレンス・レッシグ,山形浩生(訳) :CODE VERSION 2.0, 翔泳社(2007). http://office.microsoft.com/ja-jp/word-help/CL010072933.aspx 3) 芦部信喜,高橋和之:憲法 第五版,岩波書店(2011). 4) 石井夏生利:個人情報保護の理念と現代的課題 プライバシー 権の歴史と国際的視点,勁草書房(2008). 5) 林紘一郎:多様な利益の比較考量を,日本経済新聞経済教室 (2013 年 7 月 19 日). 6) スティーブン・シャベル:田中亘,飯田高(訳) :法と経済学, 日本経済新聞社(2010). 7) ミルトン・フリードマン,ローズ・フリードマン,西山千明 (訳):選択の自由―自由への挑戦,日本経済新聞社(2012). 8) 小林慎太郎,八代拓,伊藤智久,奥見紗和子:ビックデータ社 会におけるプライバシー「個人情報」から「プライバシー」の保 護へ,知的資産創造,2012 年 9 月号,pp.36-55,野村総合研究所(2012). 9) リチャード・セイラー,キャス・サスティーン,遠藤真美(訳) : 実践行動経済学-健康,富,幸福への聡明な選択,日経 BP 社(2009). 10) 高坂定,瀬戸洋一:エンジニアのためのセキュリティ入門 プ ライバシー・バイ・デザイン,月刊自動認識 2011 年 10 月号,pp.57-64, 日本工業出版社(2011). 11) 子ども安全まちづくりパートナーズ / 防犯環境設計 (CPTED) http://kodomo-anzen.org/manual/p051/tishiki-16/ 12) 林紘一郎・鈴木正朝:情報漏洩リスクと責任-個人情報を例 として-,法社会学,第 69 号(2008). 13) 林紘一郎:第7章 法学的アプローチ,松浦幹太(編),セキ ュリティマネジメント学-理論と事例-,共立出版(2011). ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. 6.
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