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ビッグデータ社会における「個人データ」保護のあり方の検討~ナッジによる規制の提案~

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(1)Vol.2013-DPS-156 No.20 Vol.2013-GN-89 No.20 Vol.2013-EIP-61 No.20 2013/9/13. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. ビッグデータ社会における「個人データ」保護のあり方の検討 ~ナッジによる規制の提案~ 石田 茂†1 近年,IT の進展の伴い,ビッグデータビジネスが注目を集めている.企業が収集した個人データの利活用については, 多くの可能性が期待されている一方,プライバシーに関する様々な懸念も指摘されている.本稿では,レッシグの規 制の 4 要素(法,規範,市場,コード)に対し,新たに「自己防衛」と「ナッジ」を加え,それらの要素の組み合わ せによって, 「個人データ」を保護する方法を提案する.また個人データ管理における企業の責任についても課題を 示す.. Six factors for protection of "personal data" in the big data society SHIGERU ISHIDA†1. Today with the progress of IT, Big data business attracts attention. Indeed, great benefits may be generated by useing the personal data properly. But at the same time, various concerns about the privacy are pointed out. In this article, we propose six factors of protection that added "Self defense" and "NUDGE" to four factors (law, norms, markets, cord) of the regulation which were defined by Lessig. We also refer to the responsibility of the company in the personal data management.. 1. はじめに. データの内容を利用者に事前に公表していなかったため, ネット上で大きな話題となり,マスコミでも取り上げられ. 今日,携帯電話やスマートフォン,IC カード,GPS(全. た.最新の報道(7 月 26 日時点)では,JR 東日本は利用. 地球測位システム),twitter や facebook などに代表される. 者からの要望があれば,日立製作所に販売するデータから. インターネット上の SNS サービスを通じて,個人の生活に. 当該利用者のデータは除外するとのことである[1].. 関する多種多量な情報(ライフログ)が取得・蓄積されて. このような混乱を避けるために,個人情報保護法の理念. いる.これらの多種多量のデータを「ビッグデータ」と呼. である「個人情報の有用性に配慮しつつ,個人の権利利益. び,事業に役立つ知見を導出するためのデータと位置付け,. を保護する」に照らし,保護法益と利益考量の両面で,個. また,それらを用いて社会・経済の問題解決や業務の付加. 人に関する情報を含むビッグデータ活用のルールを社会制. 価値向上を行う事業としての「ビッグデータビジネス」が. 度として検討する必要がある.. 注目を集めている. ビッグデータを活用したサービスの例としては,利用者. ローレンス・レッシグは,社会制度を設計し運用する場 合に, 《法》, 《規範》, 《市場》, 《コード/アーキテクチャー》. の購買履歴を分析し「おすすめ商品」を提示するものや,. の 4 つの要素があり,その組み合わせで実現されるとした. 利用者の Web サイトの閲覧状況(行動履歴)を分析し,顧. [2].本稿では、レッシグの規制の 4 要素(法、規範、市場、. 客の関心に応じた広告を表示するもの等があげられる.こ. コード)に,新たな規制要素として, 《自己防衛》と《ナッ. れらのサービスの提供は,事業者にとっては収益向上に寄. ジ・デザイン》を加え,それらの要素の組み合わせによっ. 与し,また利用者にとっては利便性の向上というメリット. て,「個人データ」を保護する方法を提案する.. がある.利用者にとって,利便性向上のメリットがある反. 個人データを保護する方法に,唯一絶対のものは存在し. 面,このようなビッグデータには,個人に関する情報が含. ない.上記各要素の組み合わせによる解決策を模索すべき. まれるため,本人の知らない間にプライバシーが侵害され. である.社会的に保護すべき利益は複雑に絡み合っている. ているのではないかとの懸念が持たれている.. ため,私的/公的な利益でバランスを取った制度設計が行. プライバシー侵害に関する懸念の最近の事案として,JR. われるべきである.技術革新のスピードが速く,多様な価. 東日本の Suica データ販売問題がある.JR 東日本は Suica. 値観を持つ人々が複雑に関係する現代社会においては,ハ. の乗降記録データを匿名化した上で日立製作所に販売して. ードな定型的な方法より,ソフトな柔軟な方法に期待が高. いたが,JR 東日本が Suica データの販売の事実や販売した. まるものと思われる.本稿で提案するナッジ・デザインは, 柔軟性のある解決策の一つであると考える.. †1 情報セキュリティ大学院大学 Institute of Information Security. ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. 1.

(2) Vol.2013-DPS-156 No.20 Vol.2013-GN-89 No.20 Vol.2013-EIP-61 No.20 2013/9/13. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 2. プライバシー保護の手段としての「個人デー タ」保護 2.1 プライバシーと個人情報,個人データの相違 「プライバシー」と「個人情報」の両者の違いについては, 必ずしも明確に区別されずに議論されることが多く,その ことにより,両者の概念が混同されていると言える. プライバシーとは,辞書(小学館「大辞泉」)によると, 「個人や家庭内の私事・私生活.個人の秘密.また,それ が他人から干渉・侵害を受けない権利」とある. 個人情報保護法において,個人情報とは,「生存する個 人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年 月日その他の記述等により特定の個人を識別することがで きるもの(他の情報と容易に照合することができ,それに. 図 1 個人情報,個人データ,プライバシーの関係. より特定の個人を識別することができることとなるものを 含む)」 (2 条 1 項)のことであり,個人データとは, 「個人 情報データベース等を構成する個人情報」 (2 条 4 項)であ る.ここで「個人情報データベース等」とは, 「個人情報を 含む情報の集合物であって,特定の個人情報を電子計算機 を用いて検索することができるように体系的に構成したも の,およびそれに準じるもの」をいう. 個人情報保護法は,個人情報の適正な取扱と保護につい て定めた法律であり, 「個人情報の有用性に配慮しつつ,個 人の権利利益を保護することを目的とする」 (1 条)として おり, 「プライバシーの権利の保護」を目的としてはおらず, 法律の条文においても, 「プライバシー」という用語は用い られていない.. 日本においては,プライバシーの権利は,憲法の幸福追 求権(憲法 13 条)を根拠とする学説が通説となっている[3]. 1964 年の「宴のあと事件」[b]によって,プライバシー権 は「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし 権利」として承認された.本判決は,プライバシーの侵害 による不法行為の成立要件として,以下の 3 つの要件をあ げている. ①公開された内容が私生活の事実又はそれらしく受け とられるおそれのある事柄であること ②一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立っ た場合,公開を欲しないであろうと認められること ③一般の人々に未だ知られない事柄であること. 本稿において,「個人データ」[ a]とは,個人情報保護法 の定義より広い範囲で, 「ライフログを含む個人に関する多 種多様なデータ」という意味で使用する.図 1 に, 「個人情 報」,「個人データ」と「プライバシー」の関係を示す.. 本判決を契機として,プライバシー権は「私生活をみだ りに公開されないという法的保障ないし権利」として発展 していった. さて,例えば,事業が保管している個人情報が漏洩した. 2.2 個人データ保護とプライバシー侵害の関係. 場合,単に漏洩が生じたという事実をもって,プライバシ. プライバシーの権利は,米国において 1890 年にウォーレ. ーが侵害されたと言えるだろうか.プライバシーが侵害さ. ンとブランダイスが著した「プライバシーの権利」にて,「一. れたか否かは,専ら当該個人の感受性に依存している.そ. 人にしておいてもらう権利(right to be let alone)」としてのプ. れは時(time)と場所. ライバシーの権利が主張されたのを端緒とし,不法行為法. 況(context)よって,同一人に対しても変動し得る概念で. 上の権利として,また,合衆国憲法上の権利として確立し. ある.プライバシー侵害は,事後的な評価と救済で対応せ. ていった[4].. ざるを得ない.. (place)と態様(manner)など状. 一方個人データ保護は,漏洩によるプライバシー侵害を 生じるリスクを低減する手段と位置付けられる.事業者の 故意・過失による個人情報の漏洩や不適切な利用を未然に 防止するため,事前に必要な対策を実施することが求めら れる. プライバシー侵害と個人データ保護は,事後と事前の関 a 経済産業省および総務省では,同様の概念を「パーソナルデータ」と定 義している.本稿では, 「個人データ」という用語を用いたが,不要な概念 の混乱を避けるため,今後は「パーソナルデータ」に改めたい. 経済産業省:IT 融合フォーラム パーソナルデータワーキンググループ報 告書(平成 25 年 5 月) 総務省:パーソナルデータの利用・流通に関する研究会報告書(平成 25 年 6 月). ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. 係であり,区別して扱う必要がある.本稿では,個人デー タ保護のための事前の対策に焦点を当てる.. b東京地判昭和 39 年 9 月 28 日判時 385 号 12 頁. 2.

(3) Vol.2013-DPS-156 No.20 Vol.2013-GN-89 No.20 Vol.2013-EIP-61 No.20 2013/9/13. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 3. 個人データ保護のための規制要素 3.1 レッシグの四規制要素 レッシグは,人のふるまいに影響を及ぼすすべてのこと を「規制」と定義づけており,規制要素として、 「法律(law)」, 「規範(norms)」,「市場(markets)」,「コード(code)/アーキ テクチャー(architecture)」をあげている[2]. 「法律」の規制は,制裁の脅しに裏付けられた命令によ る規制である. 「規範」の規制は,社会やコミュニティの不 文律による規制である. 「市場」の規制は,価格や企業の評 価を通しての規制である. 「コード」の規制とは,ハードウ ェアとソフトウェアがサイバー空間を規制・制御する際の 規律による規制である,例えば,パスワードがないとアク セスできないサイトや実名でないと登録できないサイトな どである. プライバシーについて,レッシグは次のように言及して いる. 「技術の向上により,人々のふるまいの永続的で安上 がりな監視が可能となった.個人が適切なコントロール水 準の回復のために, 「法律」と「技術」をいかにミックスす るかを検討しなければならず,また,その水準は私的/公 的な利益でバランスを取らなければならない」としている [2]. 3.2 個人データ保護のための規制要素 レッシグは前述のとおり 4 つの規制要素を示した.林は これらが個人データ保護にも応用可能であるとし, 6 つの 規制要素に拡張した.6 つの規制要素とは, 《法律》, 《組織 規律》, 《市場価値》, 《自己防衛》, 《ナッジ・デザイン》, 《技 術》である[5]. 以下,林の案を踏襲し,補足的に説明する.ここで,レ ッシグの《規範》は,個人情報の利用者側と情報の帰属者 側に分解されると考えたことより, 《組織規律》と《自己防 衛》に分け, 《コード/アーキテクチャー》は実現手段とし ての《技術》と,設計思想としての《ナッジ・デザイン》 に分けている.. 間接的な「抑止」の効果がある.一方,個人データ保護の 場合,個人情報保護法では,事前に,データ提供者の権利 利益の侵害を阻止し,事後に公的介入をおこなう構造とな っている. (2) 組織規律 企業は社会から企業倫理としての組織規律が期待され る.個人データを大量に保有している企業のなかには,法 令遵守の一環として,個人情報保護法を遵守するために個 人情報保護の取り組みをおこなうだけなく,「個人データ」 に関するより高い水準での保護を達成するため,自主規制 として,プライバシーマークなどの第三者認証の取得・維 持に取り組むものもある. (3) 市場価値 競争原理に基づく市場の機能である.経済学者のフリー ドマンは以下のように述べている. 「われわれの世界はけっ して完全ではない.そこにはつねに貧弱な商品があり,ニ セ医者や詐欺師がいることだろう.しかし概していえば, 市場競争がその働きにまかせてもらえれば,今日ますます 市場に対して上から押し付けられてきている政府による規 制やその他の活動よりも,消費者をはるかによく保護して くれる」としている[7]. つまり,消費者から信頼を得られない企業は,やがては 淘汰されるということである.しかし,個人データを提供 する側と利用する企業の間には,情報の非対称性が存在す るため,粗悪なサービスしか提供されなくなると,その市 場は成立しなくなる[c].よって,企業側にも,個人データ 保護に対する自己の取り組みの自主的な公開や第三者認証 の取得等による,情報の非対称解消への誘因(インセンデ ィブ)が働く理由がある. (4) 自己防衛 個人データが帰属する個人の側には,「自己防衛」という 責任も期待される. 日本の消費者,特に若年層は,自衛手 段による個人情報保護対策の実施率が低く,企業や社会の 保護対策に委ねる傾向が強い[8]. ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で,. (1) 法律 国家が強制力をもって,人(自然人及び法人)を規制し, 違反した場合にはサンクション(制裁)が課せられる.人 の行動を規制する法的手段のあり方としては,以下の 3 つ の要素がある[6]. ①介入のタイミング(行為の前/行為の後) ②介入の形式(阻止/サンクションの賦課). 青少年が自分の情報を安易に晒したり,他人の情報を公開 し,プライバシー侵害にまで発展するなど問題になってい るが,情報リテラシーを育むことが現代の規範とも言える. (5) ナッジ・デザイン 辞書(研究社 新英和中辞典)によると、ナッジ(nudge) とは「(注意を引くためひじで) 〈人を〉そっと突く, 〈…す るように〉 〈人を〉そっと突く[押す]」とある. セイラー. ③私的介入/公的介入(民事訴訟,刑事訴訟・行政行為) プライバシー侵害は,事後に不法行為法(民法 709 条) に基づき,民事訴訟を経て,損害賠償請求により,被害の 救済が行われる.わが国では,懲罰的損害賠償は認められ ず,介入の形式は,不法行為による損害賠償責任を通じた. ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. c いわゆる「レモン市場」の原理である.レモンとは,食物のレモンでは なく,中古車のことを指している.中古車を売る側は故障個所といった情 報を把握しているが,その情報は中古車を買う側には分からない.また, 買う側にとっては,中古車を買う前にその品質を見極めることは困難であ るため、買う側はなかなか中古車を買わないか,もしくは適切な価格より も大幅に安くなければ買わなくなる.したがって,売る側にとっては,適 正な価格を維持するために,情報の非対称解消への誘因(インセンディブ) がある.. 3.

(4) Vol.2013-DPS-156 No.20 Vol.2013-GN-89 No.20 Vol.2013-EIP-61 No.20 2013/9/13. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report &サンスティーンは, 「人々を強制させることなく望ましい. ④ゼロサムではなくポジティブサム. 行動に誘導するようなシグナル,または仕組みのこと」を. ⑤エンドツーエンドのライフサイクルで実施する. ナッジ(nudge)と呼んでいる[9].彼らは,人間は必ずしも,. ⑥可視化と透明性. 合理的に判断し最適な選択を行ってはおらず,ナッジを適. ⑦ユーザーのプライバシーを尊重する. 切に組み込むことによって,人々がより良い生活が送れる よう自発的に取り込むことができるとし,人々の選択をナ. PbD の実践として,個人データを推定されてもプライバ. ッジにより支援する仕組みを「選択アーキテクチャー」と. シー侵害につながらないように匿名化などの処理を施すこ. 呼んでいる.そして,良い選択アーキテクチャーをつくる. とがあげられる.ナッジ・デザインの例としては,個人デ. 6 原則として,以下をあげている.. ータの利活用を想定する際に,サービス提供者に対し,PdD. ・インセンティブ(iNcentives). のソリューションを提示し,サービス利用者に対しては,. ・マッピングを理解する(Understand mapping). サービス提供者が個人データに対する匿名化処理の組み込. ・デフォルト(Defaults). みをおこない,プロセスの透明性を確保する仕組みを構築. ・フィードバックを与える(Give feedback). していることをガイドするなどが考えられる.. ・エラーを予期する(Expect error) ・複雑な選択を体系化する(Structure complex choices) ナッジ・デザインとは,ナッジの考え方を「デザイン(設 計)」に取り込む概念であり,後述するプライバシー・バイ・ デザインに通じるものである. (6) 技術. 4.2 防犯環境設計のアナロジーとしてのナッジ・デザイン ナッジ・デザインの実践を,防犯環境設計のアナロジー として考察する. 防犯環境設計とは,犯罪が発生する物的な環境や状況に 着目した犯罪予防の手法であり,CPTED(Crime Prevention. ここでは個人データ保護に資するための技術の総称であ. Through Environmental Design)とも呼ばれている[11].物的. る,プライバシー強化技術(Privacy-Enhancing Technologies ,. な環境を適切に整備・管理し,効果的に利用すれば,犯罪. 以下 PET と記述)が相当する.PET とは,不必要又は違法. の機会を減らすだけでなく,犯罪不安を軽くし,人や社会. な処理を防ぐことにより,個人データに関するコントロー. の生活の質を向上させることができるという考え方に基づ. ルを強化するためのツール,あるいは,データ提供者にコ. いている.防犯環境施設計には,直接的な手法として, 「①. ントロールを提供することにより,情報システムにおける. 被害対象の強化・回避」と「②接近の制御」,間接的な手法. 個人データ保護を強化する情報通信技術のことである.. として,「③監視性の確保」と「④領域性の強化」があり, これらを組み合わせて行う.. 個人データ保護について,上記のような要素を組み合わ せ,私的/公的な利益でバランスを取った制度設計が行わ れるべきである.社会的に保護すべき利益は複雑に絡み合 っているため,どれかを絶対視するのではなく,相対化して 見ることが求められる.. ①被害対象の強化 犯罪の被害対象になることを回避するため,犯罪の誘発 要因を除去したり,対象物の強化を図ることである. ・出入口や窓の鍵を強化する ・警報装置や防犯カメラなど設置する. 4. ナッジ・デザインの実践に向けて 4.1 プライバシー・バイ・デザイン プライバシー・バイ・デザイン(Privacy by Design,以下 PbD と記述)[10]は,カナダオンタリオ州情報&プライバ シーコミッショナーのアン・カヴォキアンが 1990 年代に提 唱したものである.PbD とは,「プライバシー侵害のリス クを低減するために,システムの開発においてプロアクテ ィブ(事前)にプライバシー対策を考慮するというコンセ プトであり,企画から保守段階までのシステムライフサイ クルで一貫した取り組みを行うこと」である. PbD は,以下の 7 つの基本原則によって構成される. ①事後ではなく事前に. ②接近の制御 犯罪者が被害対象に近づきにくくすることにより犯罪 を未然に防ぐことである. ・庭の周囲を塀で囲う ・上方への足場を少なくする ③監視性の確保 多くの人の目が自然に届く見通しを確保することであ る. ・外部照明の改善 ・街路や窓からの見通しの確保 ④領域の強化 共用のエリアに対する住民のコントロールを強めること である.. ②プライバシー保護をデフォルト設定とする. ・不法投棄や放置自転車を撤去したり,掃除や落書きを. ③プライバシー対策は設計時に組み込む. 消すなど,住宅やその周辺の維持管理状態を向上させる. ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. 4.

(5) Vol.2013-DPS-156 No.20 Vol.2013-GN-89 No.20 Vol.2013-EIP-61 No.20 2013/9/13. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report ・住民の屋外交流を促して,部外者が侵入しくにくい環. 法的な表現は一般の利用者には,わかりくにいものである.. 境をつくる. それらを,平易で簡潔な表示したり,ラベル(アイコンや マーク)で表示するなど,利用者に理解しやすいよう工夫 することがあげられる.また,利用者が提供するデータは 選択可能とし,その際,利用可能なサービス機能や制限に ついて,利用者に理解しやすいよう工夫する必要がある.. 5. 法人の責任の課題 5.1 法人の責任 プライバシー侵害などの民事の事案においては,故意や 過失で他人の権利を侵害すると,その損害を賠償する責任 が生ずる(民法 709 条)が,その主体は行為者すなわち個 人である.当該個人を雇っている法人は,事業執行上のこ とであれば「使用者責任」を負うが(715 条 1 項),「相当 図 2 防犯環境設計の概念. の注意を払っていれば免責される(同条但し書き). しかし,公害や製造物責任のように事業者の労働者の行. 次に,ナッジ・デザインによる個人データ保護に資する 環境(つまりシステム)設計を検討する. ナッジ・デザインは,ナッジの 6 原則を組み合わせ,利. 為というよりも,企業活動そのものが他人の権利を侵害し ていると解するのが自然である. 個人データが一度漏洩し,インターネット上で拡散する. 用者の選択を支援する仕組みを設計する.. と,拡散したデータの回収や現状回復は,事実上不可能で. ①インセンティブ. ある.企業の個人データ保護を企業の自主的な取り組みに. サービスを利用することに対するメリットが必要であ. 依存させる以上,責任の主体は法人とするべきではないだ. る.例えば,利用者の期待に対する充足度や満足度などが. ろうか.そのため,行為者は罰せられずに法人だけが責任. ある.なお,サービスを利用するにあたっては,自由な選. を負う制度の検討が必要である.. 択が保障されなければならず,オプトイン/オプトアウト が保障されなければならない. ②マッピングを理解する 利便性とリスクはトレードオフの関係にある.サービス. 5.2 コミットメント責任論 林と鈴木は,コミットメント責任という,情報管理に関 する法人の責任に関する新しい考え方を提案している[12].. 利用に伴うリスクを,利用者に正しく認識させる必要があ. 「コミットメント責任」とは, 「事業者が,情報管理. る.また,どの局面でリスクが高いか,その対策について. の取扱いに関する約束事を消費者に対して表示し,または. も例示が必要である.例えば,パスワードの設定や管理は. 社会に対して宣言したにもかかわらず,それに違反するこ. 利用者の責任に委ねられることなどがあげられる.. とによって生じる責任(法的責任を中心としながらも,よ. ③デフォルトを設定する. り広い概念としての責任,免責を含む)」である.. 取得や公開の範囲はデフォルトで設定する. ④フィードバックを与える. コミットメント責任を組み込んだ制度として,米国のプ ライバシー保護に関する第三者評価制度である TRUSTe が. 利用者の個人データがどのように使われているか,わか. ある.TRUSTe は,事業者がプライバシーステートメント. るようにする.例えば,アクセス履歴が閲覧できるように. やポリシーをウェブサイト上に表示することで,消費者と. するなどがあげられる.透明性を確保するため,中立的な. の間で一定のコミットをするよう制度要請されている.つ. 第三者機関による評価や関与についても検討するべきであ. まり,自己宣言を基調とする制度となっており,消費者に. る.. 対して表示と異なる欺瞞的な行為をした場合は,FTC(連. ⑤エラーを予期する. 邦取引委員会)の調査権の発動を招く.民間の第三者認証. 人間は間違いを犯すものである.例えば,重要な処理の 前に確認ダイアログを表示したりするなど注意を引くなど. 制度が,法律との補完関係によって一定程度の消費者保護 の実効性を確保できる例として参考になる[13].. あげられる.また,データ管理上のミスの対策として,デ ータ保護のための暗号化や匿名化の処理を検討する. ⑥複雑な選択を体系化する 利用規約やプライバシーステートメントは冗長であり,. ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. 6. おわりに 本稿では, 「個人データ」保護のための,レッシグの規. 5.

(6) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2013-DPS-156 No.20 Vol.2013-GN-89 No.20 Vol.2013-EIP-61 No.20 2013/9/13. 制の 4 要素(法,規範,市場,コード)に,新たに追加す る規制要素の「ナッジ」を中心に解説した. 防犯環境設計は,物的な環境を適切に整備・管理し,効 果的に利用すれば,犯罪の機会を減らすだけでなく,犯罪 不安を軽くし,人や社会の生活の質を向上させることがで きるという考え方であるが,ナッジ・デザインも,防犯環 境設計のように,個人データ保護に資するシステム設計の 思想となりうると考える. 個人データを保護する方法に,唯一絶対のものは存在し ない. 《法律》, 《組織規律》, 《市場価値》, 《自己防衛》, 《ナ ッジ・デザイン》,《技術》の各要素の組み合わせによる解 決策を模索すべきである. 社会的に保護すべき利益は複雑に絡み合っているため, 私的/公的な利益でバランスを取った制度設計が行われる べきである.技術革新のスピードが速く,多様な価値観を 持つ人々が複雑に関係する現代社会においては,ハードな 定型的な方法より,ソフトな柔軟な方法に期待が高まるも のと思われる.本稿で提案したナッジ・デザインは,柔軟 性のある解決策の一つであると考える. 今後,システム構築の要件定義やユーザー・インターフ ェース設計の分野で,ナッジ・デザインの実践を調査する 予定である.. 参考文献 1) JR 東日本が Suica データの外部提供について説明、オプトアウ ト受付も開始 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20130726/494266/ 2) ローレンス・レッシグ,山形浩生(訳) :CODE VERSION 2.0, 翔泳社(2007). http://office.microsoft.com/ja-jp/word-help/CL010072933.aspx 3) 芦部信喜,高橋和之:憲法 第五版,岩波書店(2011). 4) 石井夏生利:個人情報保護の理念と現代的課題 プライバシー 権の歴史と国際的視点,勁草書房(2008). 5) 林紘一郎:多様な利益の比較考量を,日本経済新聞経済教室 (2013 年 7 月 19 日). 6) スティーブン・シャベル:田中亘,飯田高(訳) :法と経済学, 日本経済新聞社(2010). 7) ミルトン・フリードマン,ローズ・フリードマン,西山千明 (訳):選択の自由―自由への挑戦,日本経済新聞社(2012). 8) 小林慎太郎,八代拓,伊藤智久,奥見紗和子:ビックデータ社 会におけるプライバシー「個人情報」から「プライバシー」の保 護へ,知的資産創造,2012 年 9 月号,pp.36-55,野村総合研究所(2012). 9) リチャード・セイラー,キャス・サスティーン,遠藤真美(訳) : 実践行動経済学-健康,富,幸福への聡明な選択,日経 BP 社(2009). 10) 高坂定,瀬戸洋一:エンジニアのためのセキュリティ入門 プ ライバシー・バイ・デザイン,月刊自動認識 2011 年 10 月号,pp.57-64, 日本工業出版社(2011). 11) 子ども安全まちづくりパートナーズ / 防犯環境設計 (CPTED) http://kodomo-anzen.org/manual/p051/tishiki-16/ 12) 林紘一郎・鈴木正朝:情報漏洩リスクと責任-個人情報を例 として-,法社会学,第 69 号(2008). 13) 林紘一郎:第7章 法学的アプローチ,松浦幹太(編),セキ ュリティマネジメント学-理論と事例-,共立出版(2011). ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. 6.

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参照

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