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研究,健康,医療を支えるデータベース

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Academic year: 2021

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78 生物工学 第96巻 第2号(2018) 著者紹介 国立遺伝学研究所 DDBJセンター(コーディネータ) E-mail: [email protected] 山中らが2007年にヒトの皮膚細胞に4つの遺伝子を 導入することで,さまざまな細胞に分化できるiPS細胞 (人工多能性幹細胞)を作製できることを世界で初めて 示し1),この発見が後のノーベル賞受賞につながった. この頃にはヒトゲノムの解読が完了し2万個以上の遺伝 子が存在することが明らかとなっていたが,いったいど うやってこの中からiPS細胞作製に必要な4つの遺伝子 を突き止めることができたのであろうか?鍵となったの は,誰でも自由に使うことができる公共データベースの 活用である.その当時,理化学研究所の林崎グループが 主催するFANTOMプロジェクトによって,マウスのさ まざまな細胞中で発現している遺伝子の転写産物量が網 羅的に高い精度で測定され,それらの結果が公共データ ベースから公開されていた2).山中らは解析ツールを駆 使しながら分化多能性を持つES細胞で発現している24 遺伝子に狙いを絞り,実験を重ねることでこれらの中か らiPS細胞作製に必要な4遺伝子を特定することに成功 したのである2).データベースを上手く活用したことが, 後の成功につながったのである.それから10年以上が 経ち,ゲノムを構成する塩基配列の解読技術が飛躍的に 向上したことで,生命科学研究は大量データの収集・解 析が中心となるような時代を迎え,膨大な量のデータが データベースに登録されるようになった.十年前はヒト 一人分の全ゲノムを解読するのに10億円の費用が必要 であったが,今やそれが15万円を下回るまでになって いる3). こうした状況の中,健康や医療に直結する我々ヒトを 対象とした研究分野の変革が著しい.世界中の公共デー タベースにすでに健常人,がん,生活習慣病や希少疾患 の患者など百万人を超えるゲノムデータが10ペタバイ ト以上蓄積されている(人権を保護するため大部分のヒ トデータは所定の条件を満たした人しか利用できないよ うになっている).この途方もない量のヒトデータはど のように利用されているのであろうか?まずは疾患の原 因解明である.健康な人と疾患を持つ人のゲノムを比較 することで疾患の原因となる「変異」(ゲノム中の塩基 配列の違い)候補が多数特定され,いくつかのケースで は治療薬の開発にまで至っている.大部分のがんはゲノ ムに変異が蓄積することで引き起こされるが,同じがん でもゲノム中の変異を調べるといくつかの種類に分類で きることが分かってきた.今では変異パターンに基づい て,以前よりも有効な治療法を選択できるようになって いる.また,世界で数人しかいないような稀な疾患に関 するデータベースが相互に接続された国際的なネット ワークもつくられている.医師が珍しい患者の症状で データベースをまとめて検索し,同じような症状の患者 を見つけ,サンプル数を増やして解析することで疾患の 原因究明に成功したケースが多数報告されている4).こ れまで,ある遺伝子の機能を調べたいときに,倫理的に 遺伝子機能を欠損させることができないヒトの代わりに マウスが用いられてきたが,データベースを活用するこ とで倫理的な問題を回避しながら直接ヒト個体で機能を 調べることができるようになりつつある.数十万人規模 のヒトゲノムが解析されると,健常な人でも,中には生 存に必須と思われていたものを含め数個の遺伝子機能が 欠損していることが分かってきた5).今では調べたい遺 伝子が生来欠損している人を解析済みの集団から選び出 し,生理学的な測定をすることでその機能が調べられた 例が報告されるようになっている5).現在では多数の因 子が関与する高次の生命現象を解明し,人々の健康福祉 を向上させる目的で数十万人規模の研究プロジェクトが 日米欧をはじめとする各国で進行中である6). データベースというと地味なイメージがあるかもしれ ないが,今や異分野が融合した最先端の研究分野であり, 研究,健康や医療を支える必須のインフラになっている のである.

1) Takahashi, K. et al.: Cell, 131, 861 (2007).

2) 理化学研究所FANTOM: http://www.osc.riken.jp/contents/ fantom/ (2017/11/27)

3) NHGRI The Cost of Sequencing a Human Genome: https://www.genome.gov/27565109/the-cost-of- sequencing-a-human-genome/ (2017/11/27)

4) Kym, B. et al. (Eds.): Human Mutation, 36, 915 (2015). 5) Saleheen, D. et al.: Nature, 544, 235 (2017).

6) 山本雅之・荻島創一 編:実験医学増刊 Vol. 35 No. 17  ヒト疾患のデータベースとバイオバンク∼情報をどう 使い,どう活かすか?ゲノム医療をどう実現するか?, 羊土社 (2017).

研究,健康,医療を支えるデータベース

児玉 悠一

参照

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