等量線図による種苗放流が資源に与える
影響評価と表計算ソフトを用いた計算方法
亘 真吾
*Impact Assessment of Fish Stock Enhancement on Fisheries Resources Using
Isopleth Diagram and Introduction of a Computational Procedure Using
Spreadsheet
Shingo W
ATARIImpact assessment of fish stock enhancement on fisheries resources was conducted for fish
enhance-ment stocks for which estimation of stock status by cohort analysis is available. An isopleth diagram was
used to aid visual understanding. It shows the variation in biomass or catch across wide ranges of release
number and fishing mortality coefficient. The computational procedure using spreadsheet software was
ex-plained to aid the understanding of inexperienced researchers of fish stock assessment. In addition, analysis
of the sensitivity of the parameters was performed, and key points to be noted in interpretation of the
ana-lytical results were discussed.
* 独立行政法人水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所
〒 739-0452 広島県廿日市市丸石 2-17-5
National Research Institute of Fisheries and Environment of Inland Sea, FRA, 2-17-5 Maruishi, Hatsukaichi, Hiroshima 739-0452, Japan [email protected]. 2013 年 4 月 24 日受付,2013 年 10 月 29 日受理 我が国において種苗放流は 1960 年代から始まり, 1970 年代以降,急速に拡大し,その放流効果や天然資 源に与える影響など,様々な解析が行われてきた1)。近 年では,ヒラメやサワラ,トラフグなど複数の栽培対象 種の魚種系群について,我が国周辺水域資源評価等推進 委託事業のもとで資源評価が実施されている2)。天然資 源のみで構成されている魚種の資源管理においては,漁 獲係数の増減が管理方策となるが,栽培対象種では漁獲 係数に加え,放流尾数の増減も管理方策となる。同事業 のなかでは,複数の栽培対象種の魚種系群について,漁 獲と種苗放流が資源に与える影響を視覚的に示す材料と して,漁獲係数と放流尾数を同時に変化させた時の将来 の期待資源量,期待漁獲量の等量線図が報告書に掲載さ れている2)。この等量線図は,漁獲係数と放流尾数の範 囲の中から,同等の効果が得られる両者の組み合わせが 示され,かつ視覚的に理解できるものである。しかし, これらの報告書では,計算結果についての十分な検討や パラメータの感度解析も行われていない。また,表計算 ソフトを用いた,資源解析方法に関する簡便なマニュア ルも少なく,解析を初めて試みる研究者には困難を伴う こともある。本報告では,コホート解析により,年別年 齢別資源尾数および年齢別漁獲係数などが推定可能な栽 培対象種について,等量線図を用い漁獲係数および放流 尾数を変化させたとき,将来の資源動向に与える影響の 評価方法をまとめた。解析結果の判断において留意すべ き点を考察するとともに,表計算ソフトを用いた計算手 順についても紹介した。
材料と方法
本報告では 2011 年に実施したヒラメ瀬戸内海系群の 資源評価結果を使用した2)。2010 年までの情報でコホJournal of Fisheries Technology, 6(2), 129︲137, 2014 水産技術,6(2), 129︲137, 2014
した時点では漁期の途中で,得られていないため,2010 年の漁獲係数と等しいと仮定した。 (5) なお,加入年齢を 1 歳と設定する場合(1)式と(2) 式は,それぞれ (6) (a=2,…, A-1) (7) となる。 5 年後の Na,y,Ca,yにWaを乗じ,全年齢を合計した資 源量,漁獲量を求め,漁獲係数と放流尾数の変化に対応 し た 等 量 線 図 を 作 図 し た。 以 上 の 解 析 に つ い て, Microsoft®Excel®を 使 用 し, 計 算 と 作 図 す る 方 法 を Appendix に記載した。また,再生産成功率および,添 加効率の推定誤差が解析結果に及ぼす影響を評価するた め,本稿では 0.5 ~ 1.5 倍のケースについて,それぞれ 変化させ将来予測を行った。
結 果
漁獲係数と放流尾数を変化させた時の,2016 年の期 待漁獲量と期待資源量の等量線図を図 1 に示す。横軸は 漁獲係数で漁獲圧の大きさを,縦軸は放流尾数で種苗放 流量を示す。また,図中の黒丸は 2010 年の漁獲係数と 放流尾数の水準を示す。例えば,5 年後の資源量が 2,000 トンとなるのは,放流尾数が 0 尾のとき漁獲係数 は 0.5 であるが,放流尾数が 600 万尾のとき 0.75 とな る。同じ資源水準でも,漁獲係数と放流尾数の双方の組 み合わせは何通りも存在することを示しており,ヒラメ 瀬戸内海系群では,種苗放流と漁獲圧いずれもが将来の 資源水準に影響を与えている。 再生産成功率と添加効率を,それぞれ 0.5 ~ 1.5 倍に 変化させたときの資源量と漁獲量の感度解析の結果を図 2,3,表 1 に示す。感度解析の結果,添加効率が大き く,または,再生産成功率が小さくなると等量線の傾き が小さくなり,放流群が資源に与える影響を大きく推定 する傾向を示している。現状の漁獲係数と放流尾数を 5 年間継続した場合,再生産成功率が 1.25 倍の場合,漁 獲量,資源量ともに 1.17 倍,1.17 倍に,また,添加効 率が 1.25 倍の場合,それぞれ 1.15 倍,1.15 倍に増加し た。考 察
今回示した資源計算では,天然群と放流群の繁殖力が 異ならないと仮定している。このため将来資源の予測に おいては,放流群も天然群と同様に成熟し再生産に加わ ート解析を行い,2011 年を将来予測を開始する年とし, 2012 年から放流尾数と漁獲係数を変化させ,我が国周 辺水域の漁業資源調査の管理シナリオの評価で一般的に 使用されている 5 年後となる 2016 年の資源量と漁獲量 を予測し,等量線図を作成する例を紹介した。 コホート解析による資源量推定結果のうち,最近年の 年齢別資源尾数,年齢別漁獲係数を用い,POPE の近似式 に基づき,将来の資源量および漁獲量の計算を行った3,4)。 年齢構成を考慮した資源の将来予測には,加入尾数の推 定が必要で,栽培対象種では,天然資源の再生産に由来 する加入尾数と,種苗放流により添加する加入尾数の合 計より求まる。種苗放流により添加する加入尾数は,添 加効率と呼ばれる放流尾数と種苗放流時点から漁獲加入 時点までの生残率で決まる。添加効率は,自然死亡係数 が加入以降の生残過程に関するパラメータであるのに対 し,加入以前の生残過程に関わるパラメータである。 a 歳(a=1,…, A)y 年(y=1,…,Y)の資源尾数 Na,yの推 定方法を以下に記した。0 歳 y 年の加入尾数 N0,yのうち, 天然資源の再生産に由来する加入尾数は,a 歳の資源尾 数Na,y,成熟率Sa,体重Waより求まる親魚量と,再生 産成功率RPS(加入量を親魚量で除した値)の積から推 定した。ヒラメ瀬戸内海系群の例では,再生産成功率の 経年変化を考慮し,直近 5 年の平均値を使用した2)。ま た,種苗放流に由来する加入尾数は,y 年の放流尾数 Hy と添加効率T の積より求めた。N0,yは両者の和として, 以下の式で求めた。 (1) 再生産成功率と添加効率は,年により変動すると考え られるが,この予測では一定と仮定した。1 ~ A-1 歳 y 年の資源尾数Na,yは,前年に同じ年級群となるa-1 歳y-1 年の資源尾数 Na-1,y-1,漁獲尾数Ca-1,y-1,自然死亡係数
Ma-1を用い,以下の式で推定した。 (a=1,…, A-1) (2) コホート解析における最高年齢A 歳は,プラスグル ープ(コホート解析において,ある年齢以上をまとめた 年齢群)とした。NA,yは以下の式で推定した。 (3) また,漁獲尾数Ca,yは以下の式で推定した。 (4) 2012 年以降の年齢別漁獲係数 Fa,yは,選択率が 1.0 と なる漁獲係数Fyに,将来予測を開始する年(2011 年) の最大となる年齢の漁獲係数に対するa 歳の漁獲係数の 割合αaを乗じて求めた。ヒラメ瀬戸内海系群の例では, 将来予測を開始する 2011 年の漁獲係数が,解析を実施
の範囲の中から,同等の効果が得られる漁獲係数と放流 尾数の組み合わせが示され,かつ視覚的に理解できる。 放流尾数の増減にかかる費用や漁獲係数の調整に必要な 費用などを総合的に判断して,目標とする資源量や漁獲 量の水準を達成できる組み合わせを決めることが可能と り,両者の再生産に寄与する能力は異ならないとの仮定 に基づいている。天然群と放流群で,成熟率や産卵量に ついて異なる場合には,両群を分離して計算するなどの 工夫が必要となる。 漁獲係数と放流尾数を変化させた等量線図では,両者 図 1.漁獲係数,放流尾数を変化させた時の 5 年後の資源量と漁獲量の等量線図 黒丸は現状の漁獲係数と放流尾数を示す 図 2.再生産成功率と添加効率を 0.5 倍,1.0 倍,1.5 倍にそれぞれ変化させたときの資源量の等量線図 図中の数値は資源量,単位はトン
感度解析の結果は,再生産成功率と添加効率により解 析結果が大きく異なることを示している。特に将来予測 に必要な,前段階の資源量推定で,再生産成功率を低 く,また,添加効率を高く推定した場合,放流による資 源添加の効果を過大に見積もることが示唆された。この ため,両パラメータの妥当性は,解析に先立ち十分に検 討する必要がある。また,本報告では図 1 のように,縦 軸の放流尾数は 0 ~ 600 万尾の範囲,漁獲係数は 0.5 ~ なる。また,種苗放流の水準のみを引き下げた場合の影 響を,視覚的に判断することも可能である。図 1 はヒラ メ瀬戸内海系群が 100 万尾単位での放流尾数の減少によ っても,将来の資源量,漁獲量に影響を及ぼす状況であ ることを示唆している。瀬戸内海での過去の放流尾数の 推移では,1 ~ 2 年で 100 万尾以上増減することが実際 に起きており,資源管理において,漁獲と種苗放流双方 の影響を同時に考慮する必要があると考えられる2)。 図 3.再生産成功率と添加効率を 0.5 倍,1.0 倍,1.5 倍にそれぞれ変化させたときの漁獲量の等量線図 図中の数値は漁獲量,単位はトン 表 1.資源解析で得られた再生産成功率(RPS)と添加効率を用いた将来予測に対する, 両推定値をそれぞれ 0.5 ~ 1.5 倍に変化させたときの将来予測での,5 年後の資源 量と漁獲量の変化率 添加効率の変化率 RPS の変化率 0.50 0.75 1.00 1.25 1.50 資源量 0.50 0.45 0.59 0.73 0.86 1.00 0.75 0.56 0.71 0.85 1.00 1.14 1.00 0.69 0.85 1.00 1.15 1.31 1.25 0.84 1.01 1.17 1.33 1.50 1.50 1.02 1.19 1.37 1.54 1.71 漁獲量 0.50 0.45 0.59 0.72 0.86 0.99 0.75 0.56 0.71 0.85 0.99 1.14 1.00 0.70 0.85 1.00 1.15 1.30 1.25 0.85 1.01 1.17 1.33 1.49 1.50 1.02 1.19 1.36 1.53 1.70
ると,その組み合わせでの,5 年後の資源量と漁獲量の 推定結果が,E1,E2 にそれぞれ表示される。なお,将 来予測を開始する 2011 年の漁獲係数と放流尾数は,計 算時点では値が得られないことから,2010 年と同じ値 と仮定している。 太枠で囲んだ計算式のリンクがある①~⑭,(1)~ (12)のセルは,それぞれの左上の丸数字に計算式を入 力し,そのセルをコピーし,両括弧で示す同じ番号にセ ルに貼り付ける。例えば①の場合は,計算式「=$B$2」 を D15 に入力し,D15 をコピーし,(1)で示す E15:H15 に貼り付ける。同様に②~⑫のセルに計算式を入力し, そのセルをコピーし,(2)~(12)の太枠内のセルにそ れぞれ貼り付ける。図 4 の①~⑭に対応する計算式は, それぞれ以下の通りである。 ① =$B$2 ② =E5 ③ =SUM(C52:C57)*$B$16*1000+C$15*$B$17 ④ =H21*$B5/1000000 ⑤ =B21*EXP(-$D5)-B31*EXP(-$D5/2) ⑥ =B26*EXP(-$D$10)-B36*EXP(-$D$10/2)+B27*EXP(-$D$11)-B37*EXP(-$D$11/2) ⑦ =B21*(1-EXP(-B41)) *EXP(-$D5/2) ⑧ =H31*$B5/1000000 ⑨ =F5 ⑩ =B41 ⑪ =$B$1*$B41/MAX($B$41:$B$47) ⑫ =B22*$B6/1000000*$C6 ⑬ =SUM(I21:I27) ⑭ =SUM(I31:I37) この例では,2010 年までのデータで資源量推定を行 い,2010 年の資源尾数や漁獲係数を用い,2012 年から 管理を開始するケースを想定している。2010 年までの データで資源量推定を行い,2011 年から管理を開始す る 場 合 は, ⑩ が ⑪ と 同 じ 計 算 式 で,「=$B$1 *$B41/ MAX($B$41:$B$47)」となり,C15 が①と同じ計算式で, 「=$B$2」となる。 等量線図の作成には,縦軸に漁獲係数,横軸を放流尾 数とした図 5 の 60 ~ 78 行目で示すような表が必要とな る。ヒラメ瀬戸内海系群の例では,現状の漁獲係数が 1.10,放流尾数が 386 万尾であることから,漁獲係数の 範囲を 0.5 ~ 1.3,放流尾数の範囲を 0 ~ 600 万尾とし, 漁獲係数は 0.1 刻み,放流尾数は 100 万尾刻みとした。 B1,B2 に入力した漁獲係数と放流尾数のときの E1, E2 に計算される資源量と漁獲量を C62:I70,C70:I78 の 対応するセルに順次入力し,全てのセルに資源量と漁獲 量を入力できたら,ツールバーから「グラフ挿入」の 「等高線図」を選択することで,図 1 のような等量線図 を作成することが出来る。なお年齢区分が 10 以上ある 場合は資源尾数と漁獲尾数の行が重なってしまうので, 適宜行を挿入する必要がある。 1.3 の範囲で変化させた場合の期待資源量と漁獲量を示 した。放流尾数,漁獲係数の範囲を変化させるだけでも 等量線図の視覚的な印象は変化することから,判断の際 には,表示する軸の範囲についても考慮する必要があ る。 表計算ソフトでワークシートのみを用いた作成方法を 提示した。等量線図の作成には複数の漁獲係数と放流尾 数を,組み合わせ計算する必要がある。今回は,最小限 の計算プロセスとして,1 度に 1 つの組み合わせの資源 量と漁獲量を求める方法のみを紹介した。実際に等量線 図を作成するには,数十回の繰り返しの作業が必要とな る。このような連続した計算については,マクロの自動 記録機能の使用や,VBA によるプログラム5,6)を作成す ることがより効率的と考えられる。
謝 辞
本論文の作成にあたり有益な助言を頂いた,水産総合 研究センター石田行正博士,栗田豊博士,上原伸二博士 に深謝いたします。また,2 名の査読者から非常に有意 義なご助言を頂き深く感謝いたします。本研究の一部は 水産庁の委託による「我が国周辺水域資源評価等推進委 託事業」により実施しました。文 献
1) 北田修一(2001)栽培漁業と統計モデル分析.共立出版, 東京,335 pp. 2) 水産庁・水産総合研究センター(2012)平成 23 年度我が 国周辺水域の漁業資源評価,1743 pp. 3) 平松一彦(2001)平成 12 年度資源評価体制確立推進事業 報告書-資源解析手法教科書-.水産資源保護協会,104-127.4) POPE, J.G.(1972)An investigation of the accuracy of virtual
population analysis using cohort analysis. ICNAF Res. Bull., 9, 65-74. 5) 小舘由典・できるシリーズ編集部(2011)できるExcel マ クロ&VBA 編 2010/2007/2003/2002 対応.インプレスジャ パン,東京,270 pp. 6) 谷尻かおり(2000)Excel/Office VBA を使ったはじめての プログラミングレッスン 1.技術評論社,東京,302 pp.
Appendix
加入年齢が 0 歳で 2012 年から 2016 年まで 5 年間,漁 獲係数と放流尾数を変化させたときの 2016 年の資源量 と漁獲量の計算方法を示す。図 4 は入力するシートの構 成を示し,1 ~ 17 行目までの灰色で示すセルは,パラ メータを入力し,太枠で囲んだ丸数字と両括弧の数字の セルには,計算式を入力する。図 5 はヒラメ瀬戸内海系 群のデータを使用した数値例を示す。2012 ~ 2016 年ま での漁獲係数と放流尾数を B1 と B2 にそれぞれ入力す飼料の違いがカタクチイワシの親魚養成と産卵成績,
仔魚に及ぼす影響
松田圭史
*1a・橋本 博
*1b・木村拓人
*2・伏島一平
*2・
増田賢嗣
*1・神保忠雄
*1・今泉 均
*1Effect of Different Types of Feed on Brood Stock Culture, Egg Production
and Quality of Larvae of Japanese Anchovy Engraulis japonicus
Keishi M
ATSUDA, Hiroshi H
ASHIMOTO, Takuto K
IMURA, Ippei F
USEJIMA, Yoshitsugu M
ASUDA,
Tadao J
INBOand Hitoshi I
MAIZUMIWe compared the effect of three types of formula feed, with different prices and nutritional value (New
Altech K-4; diet A, Mojako EP0; diet B and Iwashi Tairyo A; diet C: price and nutritional value become
higher in this order), on brood stock culture, egg production and quality of larvae of Japanese anchovy
En-graulis japonicas. The diet C was inferior in the growth and the condition factor of adult anchovy
compar-ing with the other diets. Although egg volume was not different among three types of diets, total egg
pro-duction was greater in diet A than in diet C. There was no difference in larval quality (total length, wet
weight, dry weight and survival activity index; SAI) among three types of diets. These results suggested
that the diet B, which was superior in cost performance, was suitable for brood stock culture.
*1 独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所(志布志庁舎)
〒 899-7101 鹿児島県志布志市志布志町夏井 205
Shibushi Station, National Research Institute of Aquaculture, FRA, 205 Natsui, Shibushi, Kagoshima 899-7101, Japan
[email protected] *2 独立行政法人水産総合研究センター開発調査センター *a 現所属:独立行政法人 水産総合研究センター増養殖研究所(日光庁舎) *b 現所属:独立行政法人 水産総合研究センター西海区水産研究所(八重山庁舎) 2013 年 5 月 13 日受付,2013 年 10 月 29 日受理 カツオKatsuwonus pelamis を対象とした一本釣漁業で は,魚群を発見すると先頭魚の前方に出て投餌を行い, 魚群が船側に近付くと多量の活餌を撒くと同時に撒水 し,一斉に釣獲を始める1)。このように本漁業では活餌 は必要不可欠なものであり,カツオ釣漁業を含む漁業向 け活餌販売量 5,007 トンのうちカタクチイワシ Engraulis japonicas は 2010 年には 98% を占めていた2)。本種の分 布域は全国の沿岸域であり,活餌を供給するための餌場 と呼ばれる基地が東北太平洋岸から九州西岸にかけて点 在している3,4)。 一般的に活餌となるカタクチイワシは餌場周辺水域で まき網漁業や定置網漁業により漁獲され,海上生簀で餌 付け等の馴致のため数日間畜養された後,漁船に引き渡 される4,5)。しかし,まき網漁業や定置網漁業の操業は 漁海況等の影響を受けるため,活餌を安定して供給する ことが難しい。また東北太平洋岸の餌場は,2011 年 3 月 11 日の三陸沖を震源とした M9.0 の地震により壊滅 的な被害を受け,2013 年に至っても原状回復はしてい ない。活餌供給不足は,カツオ釣船への供給制限や複数 の餌場での積み込み等による操業効率の低下,販売価格 Journal of Fisheries Technology, 6(2), 139︲146, 2014 水産技術,6(2), 139︲146, 2014
区,およびいわし大漁 A(290 円 /kg[小売価格],日清 丸紅)を給餌する C 区の 3 区を設定した。各区で使用 した餌料を写真 1 に,成分量割合と原材料割合を表 1 に 示した。各餌料は 1 日 3 回与え,1 日の給餌量が体重の 3% 以上の飽食量となるようにした。使用したすべての 水槽の水面照度は照度計(コニカミノルタオプティクス 株式会社製,T-10Ws)を用いて測定し,LED 照明の点 灯時は 120-395 lx とした。カタクチイワシは 15℃以下 の水温条件では,排卵及び産卵を行わないため7),本試 験では飼育水温はすべて 20℃とした。 供試魚 供試魚はカツオ釣り漁業の餌用として捕獲され,海上 生簀で数日飼育された長崎県西海市大村湾産とした。 2011 年 11 月 10 日に長崎県西海市から活魚車で搬送し, 水産総合研究センター増養殖研究所志布志庁舎の 100kL 水槽(八角形水槽:直径 7.67m ×水深 2.05m)2 面に約 5,000 尾ずつ収容した。供試魚(平均値±標準誤差)の 肥満度は 1.00 ± 0.01(n=30),生殖腺指数は雄:0.25± 0.03(n=17),雌:0.39 ± 0.04(n=13)であった。2011 年 9 月 13 日から自然日長は 12.5 時間以下(各地の暦, 国立天文台天文情報センター暦計算室)のため,入手し た供試魚は成熟の短日臨界日長である 12-12.5 時間の明 環境7)以下の状態となっていた。 馴致方法 供試魚には,入手先で使用されていたイワシ EC(伊 藤忠飼料)を 1 日当たり総体重の 0.8% 与え,日長 10 時間照明(06:00-16:00 まで点灯)で 5 日間馴致を行っ た。 親魚養成初期の親魚への餌料効果 試験期間は 2011 年 11 月 15 日から 2012 年 1 月 2 日 の上昇による経費増等,漁業経営に悪影響を及ぼす要因 の一つとなっている。よって天然カタクチイワシの漁獲 量の変動に関わらず,安定的に活餌用カタクチイワシを 供給可能とする,人工種苗による本種の大量養殖技術の 開発が求められている。 本研究では活餌用カタクチイワシの大量生産に必要な 親魚について,価格と栄養価の異なる市販の餌料 3 種を 用いて飼育を行い,親魚養成と産卵成績,仔魚への影響 について比較した。一般的に魚類養殖における餌代の漁 業支出全体に占める割合は約 6 割から 7 割に達すること から6),生産コストに見合う活餌用カタクチイワシを供 給するためにも,親魚用餌料費の削減は重要な課題と考 えられる。
材料と方法
実験Ⅰ 実験Ⅰでは親魚養成餌料について検討するために,養 成初期から与えた成分の異なる餌料がその後の成長,成 熟および産卵に及ぼす影響について調べた。 試験区 試験区は市販のニューアルテック K-4(1,230 円 /kg [小売価格],日清丸紅)を給餌する A 区,モジャコ EP0(653 円 /kg[小売価格],日清丸紅)を給餌する B 写真 1.試験に使用した各餌料 左からニューアルテック K-4,モジャコ EP0,いわし 大漁 A 表 1.各配合餌料の成分量と原材料の割合 *その他にはそうこう類,植物性油かす類を含めた供試魚と馴致方法 供試魚は 100kL 水槽(実験Ⅰで収容した片面)で 2011 年 11 月 10 日から 2012 年 1 月 15 日(67 日間)ま で日長は 14 時間照明(06:00-20:00 まで点灯)で飼育し, 餌料はモジャコ EP0 を用いて総体重の 3% 以上となるよ う給餌した。 産卵数,卵質と仔魚への餌料効果 試験期間は 2012 年 1 月 16 日 -3 月 29 日までの 74 日 間とした。供試魚を各区 0.5kL 水槽 3 面ずつに収容し, 日 長 14 時 間 照 明(06:00-20:00 ま で 点 灯 ), 換 水 量 は 300L/ 時間として,試験区は実験Ⅰと同様に設定した。 試験開始時,測定開始時,試験終了時の供試魚数を表 2 に示した。試験終了時に解剖して供試魚の雌雄の判別を 行った。各餌料で養成を始める前の 2012 年 1 月 16 日の 供試魚(雄:n=15,雌:n=15)と試験終了時 2012 年 3 月 29 日の各供試魚について体長,生殖腺除去体重,肥 満度,GSI を測定し比較した。 卵体積は 2012 年 3 月 15 日 -29 日の 15 日間に渡って 卵を各水槽で一日当たり最大 15 粒について長径と短径 を測定し,回転楕円体とみなして(3)式から体積を求 め各試験区間で比較した。産卵数[粒]は実験 I と同様 に容積法で算出した。合計産卵数は各水槽で 15 日間の [産卵数 / 尾 / 日]を合計して比較した。 孵化率は上記の 15 日間の内で 5 日間(1 回 / 日)測 定を行い,卵を攪拌してそれぞれ 30 粒採取して各区で 合計 90 粒となるように 500mL 容器に収容し,通気した 20℃の水槽に浮かべ 48 時間後に測定した。孵化率は以 下の式から求めた。 HR= HL /E × 100 (4) ここでHR:孵化率(%),HL:孵化仔魚数,E:供試 卵数(n=90)とする。 孵化仔魚は上記の 15 日間の内で 5 回測定を行い,各 区で 1 日当たり 15 尾を測定した。浮上卵をそれぞれ最 大約 150 粒採取して各区で合計約 450 粒となるように 500mL 容器に収容した。容器はクールインキュベータ (三菱電機エンジニアリング株式会社製,CN-25C)で 17℃に保ち,正常発生卵の孵化率が約 60% に達した 48 (49 日間)として 0.5kL 水槽(ポリエチレン製丸型容器) を各区 3 面ずつ使用して約 45 尾ずつ収容した。供試魚 は A 区に 130 尾,B 区に 130 尾,C 区に 135 尾収容し た。なお,雌雄の尾数はそれぞれ A 区で雄 78 尾,雌 52 尾,B 区で雄 85 尾,雌 45 尾,C 区で雄 76 尾,雌 59 尾 であった。本種の成熟短日臨界日長は 12-12.5 時間との 報告7)があることから,本試験では成熟を促すために日 長を 14 時間(06:00-20:00 まで点灯)として飼育を行っ た。また砂濾過海水を紫外線殺菌して掛け流し,換水量 は 300L/ 時間とした。 7 日毎に各区より一部の供試魚を取り揚げ,体長 (mm),体重(g),生殖腺重量(g),卵巣卵の長径(mm) と短径(mm)を測定し,肥満度や生殖腺指数,卵巣卵 体積(mm3)を以下の式から算出した。卵巣卵は回転楕 円体とみなして計算した。卵巣卵体積は卵巣卵を持つ供 試魚 1 尾当たり 20 粒ずつ無作為に選び求めた。 CF= GAW / BL3 × 105 (1) GSI= GW / W × 102 (2) V= 4/3πab2 (3) こ こ でCF: 肥 満 度,GAW: 生 殖 腺 除 去 体 重(g), BL:体長(mm),GSI:生殖腺指数,GW:生殖腺重量 (g),W:体重(g),V:回転楕円体体積(mm3),a= 長 径(mm)/2,b= 短径(mm)/2 とする。 また各区において産卵日と産卵数について調べた。産 卵を確認した場合,09:00 に水槽からネットで回収した 卵を 2L 容器内で攪拌し,卵密度を一定として 2mL をピ ペットで採取して卵数を計測し,容積倍として卵数を推 計した。産卵数[粒]は試験区毎に 1 日当たりに得られ た卵数を雌の尾数で除して,各区の[産卵数 / 尾 / 日] として示した。合計産卵数は各区で 49 日間の[産卵数 / 尾 / 日]を合計して比較した。 実験Ⅱ 実験Ⅱでは親魚養成初期にモジャコ EP0 を給餌して 一定期間の飼育を行い,その後与えた成分の異なる餌料 が産卵数,卵質,仔魚に及ぼす影響について調べた。 表 2.各餌料区の供試魚数 *測定開始時とは産卵数と卵体積の測定を始めた日
は A 区と C 区より有意に重く(p<0.05),49 日目の A 区と B 区は C 区に比べて有意に重かった(p<0.05)。 肥満度は 14 日目までは各区に有意な差は認められな かったが,21 日目に B 区は C 区に比べて有意に高く (p<0.05),28 日目と 35 日目の A 区と B 区は C 区に比 べて有意に高く(p<0.05),42 日目と 49 日目の B 区は A 区と C 区より有意に高かった(p<0.05)。 雄の GSI は 28 日目に A 区は C 区に比べて有意に高く (p<0.05),35 日目の B 区は A 区と C 区に比べて有意に 高く(p<0.05),49 日目の B 区は A 区に比べて有意に高 かった(p<0.05)。雌の GSI は 35 日目のみ B 区は A 区 に比べて有意に高かった(p<0.05)。 卵巣卵体積は 14 日目に大きな順に B 区,A 区,C 区, 21 日目は B 区,C 区,A 区となり有意な差が認められ た(p<0.05)。28 日目の A 区は C 区より,35 日目の B 区は A 区より卵巣卵体積は有意に大きかった(p<0.05)。 42 日目の卵巣卵体積は大きな順に C 区,B 区,A 区, 49 日目は C 区,B 区,A 区となり有意な差が認められ た(p<0.05)。 A 区では 40 日目に初回産卵(294 粒)し,41 日目 (135 粒),49 日目(866 粒)にも産卵した。B 区では 19 日目に初回産卵(31 粒)し,24 日目(113 粒),28 日目 (179 粒),45 日目(718 粒),46 日目(333 粒)にも産 卵した。C 区では 41 日目に初回産卵(100 粒)し,47 日目(144 粒),49 日目(182 粒)にも産卵した。49 日 間で産卵回数は A 区 3 回,B 区 5 回,C 区 3 回であり, 合計産卵数は A 区で 1,295 粒,B 区で 1,374 粒,C 区で 426 粒となった。 実験Ⅱ:産卵数,卵質と仔魚への餌料効果 各餌料で養成を始める前と試験終了時の各区について 供試魚の体長,生殖腺除去体重,肥満度,GSI を表 4 に 示した。体長はいずれも有意な差は認められなかった。 生 殖 腺 除 去 体 重 は B 区 は 養 成 前 よ り 有 意 に 重 く (p<0.05),A 区 と B 区 は C 区 よ り 有 意 に 重 か っ た (p<0.05)。肥満度は C 区のみ養成前より有意に低く (p<0.05),A 区 と B 区 は 有 意 に C 区 よ り 高 か っ た (p<0.05)。雄の GSI は C 区のみ養成前より有意に低か ったが(p<0.05),各試験区間に有意な差は認められな かった。雌の GSI は B 区と C 区は養成前より有意に低 かったが(p<0.05),各試験区間に有意な差は認められ なかった。 15 日間で各水槽の産卵回数は A 区(① 15 回,② 14 回,③ 14 回),B 区(④ 11 回,⑤ 15 回,⑥ 14 回),C 区(⑦ 8 回,⑧ 8 回,⑨ 13 回)であった。15 日間で各 区とも 1 日当たりの産卵数と卵体積に有意な差は認めら れなかった。各区の合計産卵数を表 4 に示した。A 区は C 区に比べて有意に合計産卵数が多かったが(p<0.05), A 区と B 区および B 区と C 区には有意な差は認められ なかった。また各区の卵体積はすべて平均 0.29mm3,孵 時間後に供試体を測定した。万能投影機(株式会社ニコ ン製,V-12B)とデジタルノギス(株式会社ミツトヨ製, CD-S20C)を用いて,20 倍率で供試体の全長と卵黄の 長径と短径を測定し,卵黄は回転楕円体とみなして(3) 式から体積を計算した。 孵化仔魚重量は各区で 1 日当たり 30 尾をまとめて 1 群として 5 回測定を行った。湿重量は良く水を切った状 態, 乾 燥 重 量 は 湿 重 量 の 測 定 後 に 定 温 乾 燥 器 (ADVANTEC 製,FS-620)で 100℃,24 時間乾燥させて から 0.1mg 単位まで測定した。無給餌生残指数8)(SAI) は 5 回測定を行い,各水槽の浮上卵をそれぞれ最大 90 粒採取して各区で合計 270 粒となるように 500mL 容器 に収容し,通気した 20℃の水槽に浮かべた。次に 48 時 間 後 に 孵 化 仔 魚 を 30 尾ピペットで取り出し,別の 500mL 容器に収容し毎日 13:30 に死亡魚をピペットで取 り除き計数して以下の式から求めた。SAI の試験中は蛍 光灯を使用して,常時 200 lx 以上の光環境下に 500mL 容器を安置し,室温は 20℃として水温を維持した。 (5) ここでN:試験開始時の孵化仔魚数,hi:i 日目の累 積死亡尾数,k:生残尾数が 0 となるまでの日数とする。 統計処理 多群データは Levene の方法で分散の均一性を検定し た後,等分散がみなせた場合は分散分析の後,Scheffe の方法で多重比較を行った。等分散がみなせない場合は Kruskal Wallis の検定の後,Scheffe の方法で多重比較を 行い,有意水準 5% で検定した。ただし比率データにつ いては,逆正弦変換した値を用いて,上記の統計解析を 行った。
結 果
実験Ⅰ:親魚養成初期の親魚への餌料効果 実験開始日の供試魚 30 尾(雄:n=17,雌:n=13)と 各餌料区の 7 日毎の 49 日目までの体長,生殖腺除去体 重,肥満度,GSI,卵巣卵体積を表 3 に示した。実験期 間に死亡した供試魚数は A 区が 1 尾(生残率 99.2%), B 区 が 2 尾( 生 残 率 98.5%),C 区 が 2 尾( 生 残 率 98.5%)であった。49 日目にすべての供試魚を解剖して 性別を確認し,標本は可能な限り雌雄比が同じになるよ う選別した。体長は 21 日目までは各区に有意な差は認 められなかったが,28 日目の A 区と B 区は C 区に比べ て有意に大きかった(p<0.05)。また 35 日目と 49 日目 は各区に有意な差は認められなかったが,42 日目の B 区は C 区に比べて有意に大きかった(p<0.05)。 生殖腺除去体重は 21 日目までは各区に有意な差は認 められなかったが,28 日目と 35 日目の A 区と B 区は C 区に比べて有意に重かった(p<0.05)。42 日目の B 区表 3.各餌料区の体長,生殖腺除去体重,肥満度,GSI,卵巣卵体積の変化 数値は平均値±標準誤差を示す 各日数で異なるアルファベット間に有意差が認められることを示す(p<0.05) GSI GSI GSI GSI GSI GSI GSI GSI GSI GSI GSI GSI GSI GSI GSI GSI
が[114%/49 日間]に達しているのに対して,実験Ⅱで は[103%/74 日間]の低成長率であり,開始時に十分成 長していたため顕著な差が出なかったと考えられる。 生殖腺除去体重については実験Ⅰでは飼育 28 日目以 降に試験区間に差がみられ,42 日目以外のすべてで A 区と B 区は C 区に比べ有意に高くなっており,さらに A 区と B 区に差は無かった。実験Ⅱでは生殖腺除去体 重は B 区が養成前より重く,A 区と B 区は C 区に比べ 有意に重かった。これらから餌料の質は,生殖腺除去体 重に影響すると言える。 肥満度については実験Ⅰでは体長と生殖腺除去体重の 変化を反映しており,飼育 21 日目以降に試験区間に差 がみられた。実験Ⅱでは C 区は他の区に対して有意に 肥満度が低かった。原因として,いわし大漁 A(C 区) が他の 2 飼料に比べて粗たん白質含量が低いためと推察 される。ただしいわし大漁 A は安価であり,実験Ⅰの 結果から生残率に影響しないため,生産した活餌用カタ 化率は 1.56-5.11% となり,各区で有意差は認められな かった(表 4)。なお,孵化率の低かった原因について は後述する。 各区で養成された親魚由来の仔魚は,卵黄体積につい て,A 区と B 区,B 区と C 区で有意差が認められたが (p<0.05),A 区と C 区には有意な差が認められず,全 長,湿重量と乾燥重量,SAI に有意な差は認められなか った(表 5)。
考 察
親魚の体長については実験Ⅰでは飼育 28 日目以降に 試験区間に成長差がみられ,28 日目は C 区に比べて A と B 区で,42 日目は C 区に比べて B 区で優れた成長が 認められた。実験Ⅱでは 74 日間各餌料で養成したが, 養成前や各区と比較して成長に差はみられなかった。こ の原因として実験Ⅰの A 区では開始から終了時で体長 表 4.各餌料での養成前と試験終了時の各区の体長 表 5.各餌料で養成した親魚由来の仔魚の全長,卵黄体積,湿重量,乾燥重量,SAI 生殖腺除去体重,肥満度,GSI,および 15 日間の合計産卵数,卵体積,孵化率.数値は平均値 ± 標準誤差を示す 異なるアルファベット間に有意差が認められることを示す(p<0.05) 数値は平均値±標準偏差を示す 異なるアルファベット間に有意差が認められることを示す(p<0.05)GSI
GSI
GSI
GSI
SAI
合でも,卵の重量や親魚の体重当たりの産卵数,孵化仔 魚の全長と卵黄径等に有意な差は認められないとされて いる11)。各区で得られた孵化仔魚について卵黄体積は A 区と C 区は B 区に比べ有意に大きかったが,全長, 湿重量,乾燥重量,SAI については有意な差が認められ なかったため,本試験で用いた各餌料は孵化仔魚の質に はほとんど影響が無いと考えられる。カタクチイワシは 餌料の栄養価によっては卵黄蓄積が遅れ,産卵量に影響 することが示唆された。実験Ⅱで 67 日間モジャコ EP0 を与えた,各餌料での養成前の供試魚と,その供試魚を その後 74 日間いわし大漁 A で養成した供試魚では,後 者は平均肥満度が有意に低下しており,これ以上長期に 渡っていわし大漁 A を給餌する場合,孵化仔魚の質に 影響が出る可能性は考えられる。以上の試験結果から親 魚への影響と産卵成績,仔魚への影響を考えた場合,粗 たん白質 50% 以上,粗脂肪 11% 以上,カルシウム 2% 以上,リン 1.5% 以上であり,原材料が 76% 以上の動物 質性飼料を含む安価なモジャコ EP0 がカタクチイワシ の親魚養成に適当であると考えられる。 今後,大きな水槽での同様な試験の実施と,餌料費削 減のためどの程度まで含有する動物質性飼料等の削減を 行えるかについて試験を行う必要があると考える。
謝 辞
本研究を実施するに際して,多くの有益な助言を頂い た與世田兼三博士(現 西海区水産研究所),増養殖研 究所の濱田和久博士,山本剛史博士,瀬戸内海区水産研 究所の米田道夫博士,高橋誠氏に感謝致します。文 献
1) 金田禎之(2005)日本漁具・漁法図説.成山堂書店,東京, 475-476 pp. 2) 農林水産省(2010)漁業・養殖業生産統計,2-4pp. 3) 小長谷輝夫(1975)Ⅱ.餌料問題 3. 活魚餌の供給と輸送. [南方カツオ漁業-その資源と技術](日本水産学会編), 恒星社厚生閣,東京,46-62pp. 4) 秋本 徹(2004)餌屋の世界.[カツオとかつお節の同時 代史](藤森 泰・宮内泰介編),コモンズ,東京,215-231pp. 5) 若林良和(2004)カツオの産業と文化.成山堂書店,東京, 21-58pp. 6) 神原 淳・田畑満生・秋山敏男・山本剛史・浮 永久 (2008)次世代型魚類養殖給餌システム開発の現状と展望. 日水誌,74,897. 7) 靏田義成(1992)カタクチイワシの成熟・産卵と再生産力 の調節に関する研究.水工研報,13,129-168. 8) 社団法人日本栽培漁業協会企画調査室(1999)栽培漁業技 術シリーズ No.5 ブリの親魚養成技術開発.社団法人日 本栽培漁業協会,東京,49-50pp.9) HISLOP, J.R.G., A.P. ROBB, and J.A. GAULD(1978)
クチイワシの出荷までの飼育用餌料に適すると考えられ る。 雌のカタクチイワシの GSI は 5 月 -9 月までは 2.5-4.5 の間を変動し,雄は 4 月中旬に 4.8 となり,産卵期間中 は雌より高い値を示すことが多いとされている7)。GSI は実験Ⅰでは 28 日目に雄で A 区は C 区より高く,35 日目に雄で B 区は A 区と C 区より高く,雌で B 区は A 区より高く,49 日目に雄で B 区は A 区より高かった。 また実験Ⅱでは雌雄ともに各試験区間に差は無かった。 これらの結果からは餌料と GSI の明確な関連は推測で きず,相対的に供試魚の少ない実験Ⅰでは上記の GSI の変動に影響されたと考えられる。 卵巣卵体積は 14 日目以降の試験区間に有意な差が認 められたが,試験期間の間で各区の順位が入れ替わって いるため個体間の影響が大きいと考えられた。35 日目 以降はすべての区で産卵が始まったため,卵巣卵体積の 値がばらついたと考えられる。 実験Ⅰから短日条件下で生殖腺が退縮した状態で,肥 満度が平均 1.00 であるカタクチイワシを,長日処理と 3% 以上の飽食給餌を行い親魚養成した場合,最短で 19 日目から産卵する個体が存在することが分かった。ま た、実験Ⅱでは測定を行った 15 日間では A 区と B 区に おいてほぼ毎日産卵が確認できた。この期間は卵体積に 各区で有意差は認められなかったが,各餌料区の合計産 卵数は A 区が有意に C 区より多かったため,いわし大 漁 A は親魚から大量の卵を得るうえで不適であると言 える。A 区と B 区では合計産卵数に有意な差は認めら れなかった。カタクチイワシの給餌量の減少に対する反 応は,まず産卵間隔が長くなり,ついで 1 回当たりの産 卵量が減少し,給餌量が体重維持以下になると卵の大き さが変わることが報告されている7)。C 区では給餌量を 減少させた場合と似た影響が出たが,生殖腺除去体重は 維持していたため卵の体積に有意な差が認められなかっ たと考えられる。また孵化率は各試験区間に有意な差は 認められず,各試験区において正常発生卵が少なく,孵 化率は 1.6-5.1% と低かった。100kL 水槽では整然とした 群れの形成が確認でき,3,000-5,000 尾の親魚から採卵し た例では 2 日間で合わせて 61.5 万粒の卵が得られ,孵 化率は 72.4% であった(松田ら未発表)。しかし,本試 験に使用した 0.5kL 水槽では群れは形成されなかったた め,何らかのストレスが産卵に影響した可能性がある。 今後はより大きな水槽を使用することでストレスを減じ て孵化率の改善は見込めると考えられる。 ハドックMelanogrammus aeglefinus では親魚への給餌 量が体重維持以下の時には卵の乾燥重量が低下すること 9)やマダイPagrus major では親魚の餌料が低たん白やリ ン無添加,必須脂肪酸欠乏であった場合,浮上卵率が著 しく劣ること10)が報告されている。一方,ナマズの一 種であるRhamdia quelen では 90 日間親魚の餌料に含ま れる粗たん白質の割合を 40% から 28% に低下させた場
11) COLDEBELLA,I.J., J.R. NETO,C.A. MALLMANN, C.A.
VEIVERBERG, G.T. BERGAMIN, F.A. PEDRON, D.
FERREIRA, and L.J.G. BARCELLOS (2011) The effects of
different protein levels in the diet on reproductive indexes of
Rhamdia quelen females. Aquaculture, 312, 137-144.
Observations on effects of feeding level on growth and reproduction in haddock, Melanogrammus aeglefinus(L.)in captivity. J. Fish Biol., 13, 85-98.
10) 渡邉 武(2009)8.親魚の栄養.[改訂 魚類の栄養と餌 料](渡邉武編),恒星社厚生閣,東京,229-250 pp.
小型水槽を使用したアカアマダイの種苗生産
清川智之
*1・堀 玲子
*2・佐藤利夫
*3Seed Production of Red Tilefish Branchiostegus japonicus
in a Small Culturing Tank
Tomoyuki K
IYOKAWA, Reiko H
ORIand Toshio S
ATOShimane Prefectural Fisheries Technology Center has been conducting seed production trials of red
tilefish Branchiostegus japonicus with small culturing tanks (3-5 kL). In 2011, the survival rate was
im-proved from 2-3% to 10% by reconsidering rearing conditions, including feed and methods of water change
and aeration, although the proportion of morphological deformities was the highest ever, 75% on average.
In 2012, improvement of methods of aeration and of oil film removal led to success in swim bladder
infla-tion at an early point of time of the early larval stage and resulted in not only improvement of the survival
rate to 20% but also lowering of the proportion of morphological deformities to 2%, which was the lowest
ever. However, death and debility probably caused by bacterial diseases were observed in the cultured fish
in the latter half of the seed production trials in both years. Control of such bacterial infections is a future
challenge in improving the survival rate further.
*1 島根県水産技術センター内水面浅海部浅海科
〒 690-0322 島根県松江市鹿島町恵曇 530-10
Senkai Branch, Shimane Prefectural Fisheries Technology Center, 530-10 Emoto, Kashima, Matsue, Shimane 690-0322, Japan [email protected] *2 島根県松江水産事務所 *3 島根大学生物資源科学部 2013 年 7 月 9 日受付,2013 年 10 月 29 日受理 アカアマダイBranchiostegus japonicas は漁獲量,生産 金額の面から島根県内沿岸漁業における位置付けが高 く,特に県東部の出雲市小伊津で水揚げされる「小伊津 のアマダイ」は高鮮度なブランド魚として京阪神を中心 に高い評価を受けている1)。しかし近年,本種の漁獲量 は年々減少し,それに伴い生産金額も減少している。こ うした状況から,本種の栽培漁業に対する強い要望が地 元から県に寄せられ,島根県では第 5 次栽培漁業基本計 画において新規栽培漁業対象種に選定した。2006 年か らは水産技術センター内水面浅海部浅海科において,将 来の量産化を目指して,小型水槽(3 ~ 5kL)を使用し た種苗生産技術開発事業を開始した。種苗生産開始当初 はエピテリオシスチス類症,ウイルス性神経壊死症(以 下 VNN)など重篤な疾病の発生がみられたが,市販の 紫外線殺菌装置(フロンライザー,千代田工販)(2011 年からは,島根大学と東芝ライテック㈱が共同開発した 高出力低圧ランプ搭載殺菌装置(GLQ)を使用,未市 販)による飼育水の殺菌により,2008 年以降は重篤な 疾病の発生はみられなくなった。しかし,2010 年まで, ふ化から種苗生産終了までの約 2 か月間の生残率は平均 2 ~ 3% と低迷した。また種苗生産終了時の形態異常魚 の割合も 2009 年が 3 ~ 96%,2010 年が 7 ~ 45% と安 定せず,比較的高く推移していた。 本種の種苗生産技術開発に関して(独)水産総合研究 センター日本海区水産研究所資源生産部(旧日本栽培漁 業協会宮津事業場)を中心に積極的な情報交換が行われ ており,種苗生産の基本的な部分は本藤ら2)によりとり まとめがなされている。しかしながら,現在でもふ化仔 魚から取り上げまでの生残率が 10% に満たないことが あり,また形態異常についても,数十パーセントにもお Journal of Fisheries Technology, 6(2), 147︲159, 2014 水産技術,6(2), 147︲159, 2014
材料及び方法
採卵とふ化 種苗生産試験には,2011 年 9 月 27 ~ 28 日,2012 年 10 月 4 ~ 5 日に JF しまね平田支所管内の 延縄と一本釣りの漁業者が釣獲した漁獲物の中から,肛 門からの内臓の飛び出しや眼球突出のない 300 ~ 600g の生きた雌親魚を約 30 尾と 1kg を超える高鮮度な雄死 亡魚 5 尾を入手し,水産技術センター内水面浅海部浅海 科に搬入し,人工授精によって得た卵を用いた。採卵及 び人工授精については本藤ら2)の方法に従った。得られ た受精卵は,0.2kL ポリカーボネート製アルテミアふ化 槽(SBF-200,田中三次郎商店)に収容し,紫外線処理 海水をかけ流しながら,微通気で一晩管理した。翌日胚 体形成に達した卵をオキシダント海水(HSE-100,㈱東 和電機製作所)で生成)と紫外線処理海水を混合し,オ キシダント濃度 0.5ppm に調整した海水で 30 秒間消毒 した後,容量 3 または 5kL の飼育水槽に収容した。た だし,2012 年は試験に十分な受精卵が確保できなかっ たので,不足分は山口県外海栽培漁業センターで採卵 し,胚体形成後にオキシダント海水で消毒した受精卵 を,酸素封入したビニール袋に入れ,当施設まで輸送し て種苗生産試験に供した。 なお水槽に収容する受精卵数は,0.2kL アルテミアふ 化槽に収容した卵のうち,飼育水槽収容直前に浮上して いた受精卵をネットですくい取って 10L の容器に移し, その中の 5 ~ 10mL を 3 回取り出して卵の個数を計測し, よぶこともあり,本藤らの報告以後,技術が大きくは改 善されていないのが現状である。このことは,種苗生産 期間中に発生する大量死の要因や形態異常の防止に有効 な鰾への空気の取り込み(開鰾)に必要な諸条件が明確 にされてないことに起因すると考えられる。またアカア マダイの場合,成熟魚であっても雌親魚の生殖腺熟度指 数(GSI:GSI = GW(生殖腺重量)/BW(魚体重)× 100)の平均値が最大でも 2.31(8 月)と小さいため3), 得られる卵数が少ない。さらに大型水槽を用いて種苗生 産を行う場合,2 ~ 3 日分の受精卵を同じ水槽に収容す る必要が生じるが,成長差が生じ共食いの原因になるこ とが考えられることから,容量の小さい水槽による種苗 生産技術の開発が必要である。しかし,小型水槽を用い た種苗生産試験で高い生残率が得られた報告はみあたら ない。 本研究では 2010 年までの種苗生産試験状況を踏まえ, 2011 年に基本的な飼育方法の見直しを,2012 年に形態 異常魚の割合を低下させる種苗生産を行い,2011 年に は 5kL 以下の小型水槽では初めて 1,000 尾 /kL 以上のア カアマダイ稚魚を生産,さらに 2012 年には 1,500 尾 /kL 以上のアカアマダイ稚魚を生産し,さらに形態異常魚の 割合を平均 2.2%,最低 0.5% まで低下させることに成功 した。そこで本稿では小型水槽を用いた種苗生産におけ る飼育方法の概要と飼育技術上の要点を報告し,さらに 生残率を向上させる効率的な飼育条件を確立するために 解決すべき課題について考察した。 表 1.2010 年以前,2011 年,2012 年の基本的な飼育管理 , , , , , , , , 4 2,000Luxになるように点灯 , ,稼働時間 30 分に 8 ~ 10 分(2010 年までは日齢 3 ~ 25, 稼働時間 30 分に 5 分)の間,小型バスポンプ(minipondy KP-103,㈱工進)による飼育水の撹拌を十分に行う, その際の飼育水の放出位置をそれまでの表層から中層に 変更(図 1),④水位を落とした後,元の水位まで注水 する換水方法から流水による連続換水(注水量を安定さ せる目的で,一旦容量 1 トンのタンクに入れてから,落 差により注水)に変更,⑤飼育水の殺菌を,フィルター 等によるろ過が推奨されている,これまでの紫外線殺菌 装置(フロンライザー,千代田工販)から,フィルター 等による前処理なしでも殺菌が可能とされる高出力低圧 ランプ搭載殺菌装置(GLQ)に変更(2011 年は一部の 試験区で使用),⑥薄暮時の低照度,斜光による蝟集, 狂奔行動を抑制する目的で日没時(16 ~ 19 時),日出 時(5 ~ 8 時)に 5 ~ 20Lx 程度の光が水面全体を照ら す よ う よ う 電 球 型 蛍 光 灯 も し く は LED ラ ン プ (LDA9N-H20 ほか,OHM 電機)を点灯,⑦飼育水に添 その平均値を全体の容量で引き延ばした数とした。また ふ化仔魚数は日齢 3 ~ 5 の夜間に分布が均一化した時点 で,水槽全体を反映するような塩ビ製の筒により飼育水 2L を取り出してその中の仔魚を計数し,全体の容量で 引き延ばした個体数とした。 基本的な飼育管理 2010 年以前,及び 2011 年,2012 年 における基本的な飼育管理方法を表 1 に,飼育資材の配 置を図 1 に示した。仔稚魚の飼育管理のうち,2011 年 の主な変更点は,①単位容積当たりの収容受精卵数を増 加,②通気方法を直径 10mm のユニホース(フレキス トン,大和実業㈱)による中央部からの供給から直径 23mm(長さ 70mm)の棒状か,直径 50mm の焼成エア ストーン(AS-5 または AS-1,田中三次郎商店)による 四方からの供給に変更し,2010 年に発生した酸欠によ る減耗を防止するために通気と同じエアストーンによる 酸素供給(微通気)も併用(図 1),③日齢 0 ~ 30 の間, 図 1.3kL 及び 5kL 円形 FRP 水槽を用いた種苗生産における資材の配置 上:2010 年,下:2011 年と 2012 年,網掛けの部分は仔稚魚が通過しない目合いのネット
図 2.2011,2012 年におけるアカアマダイの種苗生産試験時の餌料系列 図表内の数字は日齢
ないとされるナンノ,2012 年はナンノのみとし,1 日に 1 ~ 2 回,開口直後の日齢 3 以降,10 個体 /mL を目安 に給餌した。アルテミアArtemia sp. については,高度 不飽和脂肪酸強化餌料(スーパーカプセル A-1,クロレ ラ工業)で栄養強化を行ったものを,1 日に 1 回,残餌 が出ない程度に給餌した。配合飼料については日齢 20 ~ 27 以降,残餌を確認しながら 1 日数回の頻度で適当 量給餌した。 飼育試験 2011 年,2012 年の飼育試験方法の概要を表 3 に示した。2011 年は飼育水の殺菌と加温,給餌するワ ムシの栄養強化,飼育水に添加する微細藻類の種類を変 化させた,試験区①~⑥を設定した。すなわち高出力低 圧ランプ搭載殺菌装置(以下 GLQ)の効果を確認する ため,本装置を用いた試験区と既存の紫外線殺菌装置を 用いた試験区を設け,重篤な疾病の発生の有無等その効 果を確認した。また 2010 年の試験で水温の急低下が起 きた水槽で成長速度の低下や形態異常率の上昇がみられ たことから加温の有無と,飼育水に添加する微細藻類の 種類をこれまでの SV12 からナンノに変更した試験区を 設けた。 2012 年は 2011 年の試験結果を基に,UV 殺菌装置は GLQ,ワムシの栄養強化,飼育水への添加微細藻類に はナンノを用いて加温飼育を行った。また,2011 年に 問題となった形態異常魚の出現の防止を目的とした試験 加する微細藻類を高度不飽和脂肪酸が強化された淡水ク ロレラ(スーパー生クロレラ V12,クロレラ工業,以下 SV12)から濃縮ナンノクロロプシス Nannochloropsis oculata(商品名:マリンフレッシュ,マリンテック㈱, 以下ナンノ)に変更,の7点である。 また 2012 年の主な変更点は,仔魚の鰾形成に必要な 水面からの空気取り込みに重要な油膜除去装置(図 1) の設置期間の短縮(2011 年:日齢 7 以降も開鰾率が低 かったため日齢 20 まで使用),2012 年:日齢 3 ~ 10) と装置に供給する通気量を増加(約 4 倍)させた点,エ アストーンによる通気量をおよそ 0.5L/ 分(以下,弱通 気とする)から 0.1 ~ 0.2L/ 分(以下,微通気とする, ただし後述の間欠通気区(30 分につき 15 分間の通気停 止を日齢 4 ~ 12 の間,24 時間継続)については 2012 年も弱通気とする)に変更した点である。 餌料系列と餌料生物への栄養強化方法 2011 年と 2012 年における餌料系列を図 2 に,また飼育に用いた生物餌 料の栄養強化方法を表 2 に示した。シオミズツボワムシ
Brachionus plicatilis sp. complex(クロレラ工業㈱,以下
ワムシ)の培養には粗放式連続培養法4)を用い,ワムシ の通常の飼育には,淡水クロレラ(生クロレラ V12,ク ロレラ工業,以下 V12)を残餌が出ない程度に連続給餌 した。また仔魚に給餌前のワムシの栄養強化には,2010 年以前は SV12,2011 年は SV12 または油膜の発生が少 表 3.2011 年と 2012 年の飼育試験の概要 ※4 ※3 ※2 :30 分につき 15 分間の通気停止を日齢 4 ~ 12 の間 24 時間継続 ※1 ※ 4 ※ 3 ※ 3 ※ 3 ※ 3 20% /日流水
で,二つの試験を組み合わせた。一つは水面の油膜の除 去,すなわち全試験区とも前項で示した給餌前のワムシ の栄養強化をナンノのみで培養し,かつ油膜除去を徹底 するため,油膜除去装置の通気量を増大させたが,さら に日齢 3 または 4 ~ 6 の間,1 日 20% の飼育水をオー バーフロー(写真 1)により換水し水面の油膜除去を行 う試験区(オーバーフロー換水区)を設けた。もう一つ 区①~⑤を設定した。すなわち,2011 年の試験におい て日齢 15 で半数程度,日齢 25 で大半の仔魚に鰾が形成 されたにもかかわらず,種苗生産終了時の形態異常魚の 割合が平均 75% にも達したことから(表 4),形態異常 魚の発現は仔魚前期の早い時期に鰾に空気を取り込み開 鰾できるかどうかで決定すると考えられた。そこで,開 口後の仔魚の開鰾に効果的な飼育方法を検討する目的 表 4.アカアマダイ種苗生産結果の概要 写真 1.オーバーフローによる換水
はその他の要因の除去,すなわち常時通気では水流によ り仔魚が流されてしまい水面に接触できにくく,またバ スポンプの水流は横方向の流れしかないため,仔魚が水 面付近へ移動し空気を取り込み開鰾する助けにはならな いと考え,間欠的に通気を行う区(間欠通気区,30 分 につき 15 分間の通気停止を日齢 4 ~ 12 の間,24 時間 継続)を設けた。 鰾の観察と形態異常の確認 2011 年は日齢 6 ~ 27 の間 の 2 ~ 3 日おきに,2012 年は日齢 4 ~ 8 までは毎日, それ以降はふ化から 1 ヶ月経過まで数回,各試験区から 午前中に約 10 尾を抽出し,実体顕微鏡下で全長測定後, 鰾内のガスの有無を観察した。形態異常の確認は,種苗 生産終了時に全ての個体の数を計数しながら一尾ずつビ ーカーに入れて肉眼で観察し,脊椎骨に屈曲がみられる 個体を形態異常魚とした。なお,鰓蓋に異常のある稚魚 がわずかに確認されたが,今回の解析では形態異常魚に 含めなかった。 GLQ 装置の殺菌能力の確認 高出力低圧ランプ搭載殺 菌装置(GLQ)の殺菌能力について,装置内をクエン 酸で十分に洗浄,重曹で中和した後,マリンアガー 2216 培地(Marine Agar 2216,Difco)を用いて,処理前 後の砂ろ過海水中の生菌数,及び過去に発生がみられた VNN やエピテリオシスチス症などの重篤な疾病等の発 生の有無について確認した。
結 果
種苗生産結果 2011 年及び 2012 年における種苗生産結 果を表 4 に示した。2011 年は 5kL 水槽 2 面,3kL 水槽 4 面の計 6 面に受精卵 354,000 粒を収容し,得られたふ化 仔魚 304,000 尾(ふ化仔魚時の飼育密度:平均 13,818 尾 /kL)を用いて種苗生産を行い,約 2 ヶ月後に 28,340 尾(平均 1,491 尾 /kL)を取り上げた。ふ化から取り上 げまでの生残率は平均で 10.8%(うち一面は日齢 52 に 廃棄したため,生残率の算出には用いなかった),形態 異常率は平均で 75.6% であった。2012 年は 5kL 水槽 2 面,3kL 水槽 3 面の計 5 面に受精卵 340,980 粒を収容し, 得られたふ化仔魚 195,500 尾(ふ化仔魚時の飼育密度: 平均 10,289 尾 /kL)を用いて種苗生産を行い,約 2 ヶ月 後に 32,623 尾(平均 2,330 尾 /kL)を取り上げた。ふ化 から取り上げまでの生残率は平均で 22.0%(うち一面は 原因不明の斃死で日齢 16 に全て斃死したため,生残率 の算出には用いなかった),形態異常率は平均で 2.2% であった。2011 年と 2012 年の結果を比較すると,生残 率で 2 倍,形態異常率では 1/35 まで低下した。また 2012 年の試験区のうち,間欠通気とオーバーフロー換 水を併用した飼育では,形態異常率が 0.5% まで低下し た。 飼育試験結果 2011 年,2012 年の飼育試験とも,飼育 水の加温についてはヒーターの能力が低く,飼育水を 1 ℃程度上昇させる程度の能力しか得られなかったため (図 3),加温,無加温飼育水槽間において成長,生残及 び形態異常率に違いは確認できなかった。ワムシの栄養 強化については,ナンノを使用した試験区④の生残率が 最も高く(16.3%),かつ形態異常率が低かった(65.2%)。 しかし,形態異常率は平均の 75.6% よりは低いものの, 過去の種苗生産結果と比較すると高かった。生残率につ いては平均で 10.8(6.0-16.3)% であり,試験区により 差がみられたが,これは種苗生産後半に発生した滑走細 菌症及びそれに伴う沈降死が主な原因と推察され,種苗 生産前半は各試験区間に差はみられなかった。 2012 年の飼育試験では,オーバーフロー換水や間欠 通気の有無で試験区を設け形態異常率の推移を調べた が,両方を行わなかった試験区②では 2.6%(12,884 尾 中 335 尾),両方行った試験区③では 0.5%(5,857 尾中 28 尾),間欠通気のみ行った試験区④では 2.4%(6,869 尾中 162 尾),オーバーフローのみ行った試験区⑤では 2.5%(7,013 尾中 178 尾)であった。両方行わなかった 試験区②と両方行った試験区③の間でχ2検定(有意水 準 1%)を行った結果,試験区②は 5kL 水槽,試験区③ は 3kL 水槽を用いているため単純には比較できないも のの有意差があると判断された。また同じ 3kL 水槽を 用いた試験区③と,オーバーフロー換水または間欠通気 のどちらか一方のみを行った試験区④及び⑤との間でも 有意水準 1% で有意差があった。しかし両方行わなかっ た試験区②と試験区④及び⑤の間には,有意差はなかっ た。 生残率については平均で 22.0(範囲:16.3-27.1)% で あり,試験区による差は比較的小さかったが,2011 年 と同様に種苗生産前半よりも後半に多く斃死がみられ た。図 4 に試験区②~⑤における日齢 30 から取り上げ までの生残率の推移を示した(生残率 100% は日齢 3 の 計測値,それ以外は取り上げ尾数から死亡尾数を減じた 数値)。疾病については,2011 年及び 2012 年とも種苗 生産後期に滑走細菌症様の斃死及び蝟集,狂奔行動に関 係すると思われる斃死が発生した。いずれの試験区にお いても日齢 30 以降は毎日少量の斃死が継続し,日齢 30 から取り上げまでに 2/3 程度の稚魚が斃死した。斃死魚 を観察すると尾鰭等にただれや欠損がみられ,その付近 を顕微鏡で観察すると滑走細菌様のコロニーや運動性の ある細菌が認められた。また斃死の多い水槽では尾が白 くなり衰弱した仔稚魚がふらふらと遊泳する様子が観察 されることもあった。しかし 2011 年に回収された衰弱 魚及び斃死魚には形態異常がみられたが,2012 年に回 収されたそれらには形態異常がほとんど確認されなかっ た(写真 2)。 薄暮時の点灯については,水面全体を弱い光で照らす ことで狂奔行動が抑制された。また消灯,点灯時に発生図 3.各水槽の水温変化
2011 年の①~⑥,2012 年の①~⑤は表 3,4 の試験区に対応 2011 年:③は日齢 55,④は日齢 27 から加温,⑥は日齢 52 で廃棄 2012 年:①は日齢 16 で廃棄
図 4.2012 年の試験区②~⑤(表 3,4 の試験区に対応)における日齢 30 から取り上げまでのアカアマダイ生残 率の推移 生残率 100%は日齢 3 の計測値,それ以外は取り上げ尾数から死亡尾数を減じた数値 2011 年に回収された稚魚 (ほとんどが形態異常魚) 写真 2.底掃除時に回収される衰弱・斃死魚 2012 年に回収された稚魚 (形態異常魚はほとんどみられない)
する狂奔行動ついては比較的短時間で終息し,斃死との 関係は認められなかった。さらに昼間の蝟集は,ナンノ を添加することにより抑制された。 開鰾率と成長 図 5 に 2011 年の各水槽及び 2012 年の各 試験区におけるアカアマダイ仔魚の開鰾率の推移を示し た。2011 年では日齢 25 ~ 30 には開鰾率がほぼ 100% に達したものの,それまではおよそ 50% で推移してい た。それに対し 2012 年ではすべての試験区で,日齢 4 以降急激に開鰾が進行し,日齢 7 から遅くとも日齢 10 には観察したすべての仔魚が開鰾していた。図 6 に 2011 年及び 2012 年の各試験区における仔魚の成長を示 したが,2012 年では日齢 40 から 55 の成長速度はすべ ての試験区でほぼ同等(12 ~ 13mm)であった。 GLQ 装置の殺菌能力 2011 年に試験的に用いた高出力 低圧ランプ搭載殺菌装置(GLQ)と既存の紫外線殺菌 装置を用いた試験区を設けたが,過去に発生がみられた VNN やエピテリオシスチス症などの重篤な疾病は,い ずれの試験区においても発生しなかった。なお, GLQ の殺菌能力については,処理前の海水では 1mL 当たり 102/mL オーダーの細菌が検出されたが,処理後の海水 からは検出されなかった。