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PAC分析におけるフェイスシートの開発に向けた課題 : 日本語教材と学習者のインタラクションの解明に向けた研究のために

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(1)PAC分析におけるフェイスシートの開発に向けた課題 一日本語教材と学習者のインタラクションの解明に向けた研究のために一. 丸山 千歌・小澤 伊久美. 【キーワードI PAC分析、日本語教材、目本語学習者、        インタラクション、フェイスシート. 0.は『じめに  日本語教育において、日本語学習者の関心が日本社会・日本文化に向い ていることが多いことから、書き下ろし教材にしても生教材にしても日本 社会や文化関係の題材を用いることが多いが、ステレオタイプ的な情報の 日本語学習者への影響についての議論は教材論や授業実践論に発展するま でには至っていない。.  日本語教育の実践と日本に関する情報発信との関わりは、小川(2001). など『21世紀の日本事情』や『リテラシーズ』で事例研究を中心として活 発な議論が行われてきているが、教材論や授業実践論に立脚した日本語教 育の実現を目指すには、学習者がステレオタイプ的な極端な情報が盛り込 まれた日本語教材によってどのような影響を受けるのか、また、実際にス テレオタイプ的な日本像が描かれた教材を扱う場合、教師はどのように授 業を展開すればいいのかといった問いに対する指針作りを視野に入れた研 究が必要になる。その意味で、学習者個人と教材とのインタラクションの 解明が期待される。.  筆者らは、丸山(2007a、2007b)や丸山・小澤(2007)を通し、学習者と. 教材のインタラクションの解明のための研究手法として、信頼性の高い質 的調査の手法であるPersonal AttitUde Construct分析法(個人別態度構造、 P. AC分析法)’を用いて目本語学習者が読み教材から感じることの分析に取 り組んでいるが、その取り組みから、学習者要因の特定に向けた、フェイ スシートの改善という課題が出てきた。そこで、本稿は、これらを踏まえ、. 文化的に極端なステレオタイプが含まれる読み教材から日本語学習者が感 じることの分析に用いるフェイスシートの工夫について考察したい。. 一一. R一.

(2) 1.方法 ここでは、丸1」」(2007b)の取り組みにっいて整理する。. 1−1調査協力者  調査協力者は、オセアニア地域iiからの1年間の短期交換留学生2名(女子. 学生Aと男子学生B)である。Aの専攻は日本語と政治学である。日本語 学習歴が高校で2年間(週3時間)、大学で2年半(週6時間)あり、2001年1 月から6ヶ月闘、交換留学で高校に留学し、ホームステイの経験がある。日. 本語力は中級後半レベルで、4技能のうち、口頭運用力がやや高いe一方、 Bの専攻は日本語である。日本語学習歴は高校で2年半(週3−4時聞)、大学 で3年間(週5−6時間)あり、2000年から2002年にかけ、2週間から1ヶ月間の. 滞在で5回来日している。そのうち2000年と2002年の2回は2週間の交i換留学. での高校留学、その他は旅行やスピーチコンテストへの参加で、滞在方式. は4回がホームステイである。日本語力はAと同じ中級後半レベルで、4技 能のバランスが良い。. 1−2調査の手続き 調査は2006年1月に、丸山の研究室で丸山が実施した。調査時間はそれぞ れ約3時間である。丸山は、本学の留学生を対象とする日本語教育に従事し. ており、授業科目や交換留学プログラムの関係職務から調査協力者と日常 的な交流があり、ラポールが形成されている。.  PACの手続に従い調査協力者のイメージを分析し、調査協力者がテキス トを刺激として発想するものを明らかにするという目的で調査を進めた。 調査協力者が踏んだ手順は以下のとおりである。. (a)テキストが与えられる            ’   日本語の教科書に掲載されている読み物を読む。テキストの目本語  のレベルは中級前半で、辞書が必要かと思われるものにっいては簡単  な語彙リストが付されているので、調査協力者の日本語運用力で容易  に読むことができるiii。. 一一. S一.

(3) (b)連想刺激文が与えられる.   調査協力者が与えられた連想刺激文ivは「これは外国人のための日  本語の教科書です。あなたはこの文章に書かれている日本について、  どう感じましたか。あなたの感じたことを、言葉やイメージで表して.  ください。書く時には思いついた順に、順位の番号をつけてくださ  い。」である。この連想刺激文は、紙面に書いた形で渡されると同時  に、調査実施者(丸山)により口頭でも与えられる。 (c)思いつくままに連想したことばを1語ずつ1枚のカードに書く.   用意されたカード10枚に、思いついた順に1枚に1語ずつ書く。 (d)カードを重要な順に並べる.   想起順になっている(c)のカードを、重要度1憤に1から10までに並  べ替える。. (e)カードの組み合わせのイメージの近さを直感的に7段階で評価する.   カードを2枚ずつ選び、直感的なイメージで、各ペアがどの程度類  似しているかについて、「非常に近い(1)」から「非常に遠い(7)」  までの7段階で評価を行う。 (f)休憩に入る.   調査協力者は休憩に入るeその間、調査実施者は(e)の情報(連想  項目間の類似度距離行列)をコンピューターに入力し、デンドログラ  ムVを作成する。. (g)デンドログラムに基づいたインタビューを受ける.   休憩中に作成されたデンドログラム見ながら、インタビューを受け  るvi。具体的には、まとまりを持っクラスターとして解釈できそうな  グループを調査協力者が提示し、まとまりだと思う理由やクラスター  間の関係、各項目のイメージなどを質問に答える形で説明する。 (h)各連想項目のイメージ(プラスかマイナスか)を評価する   各連想項目の単独のイメージが直感的にプラス(+)、マイナス(一)、.  どちらともいえない(O)のいずれに該当するかを答える。. 一5一.

(4)  なお、調査は調査協力者の許可を得て、テープレコーダーに録音した。. 使用言語は、本来は調査協力者が思っていることが自由に表現できるよう 母語で行うことが適切であるとされているS’iiが、今回は本人の希望により. 目本語で行うことになり、表現が不十分であると調査協力者が判断したと きに適宜母語(英語)を使用するという形式をとったviii。. 1−3フェイスシート  筆者らは、丸山(2007a、2007b)、丸山・小澤(2007)を計画するにあ たり、日本語学習者が読み教材から感じることは、学習者要因、特に学習 者個人が重ねた日本社会や日本人との関わりによって傾向が異なるのでは ないかという仮説を持っていたので、氏名、国籍、年齢、性別、母語、漢. 字圏か非漢宇圏か、専攻、H本語のレベルの他に以下の点をフェイスシー トに盛り込んだix。. ・日本滞在歴の有無とその詳細 ・日本語学習歴の詳細. 2.フェイスシートの課題  1章2節の手続きの中で析出されたデンドログラムと結果及び総合的解 釈の詳細は丸山(2007b)を参照されたいが、ここから得られたことの一つ に、 「調査協力者自身のH本との様々な出会いや経験が、調査協力者の読. みに影響を与えているのではないか、つまり学習者と読み教材とのインタ ラクションは学習者の「個」の経験に支えられているのではないか」とい う感触がある。これは、1章3節で述べた仮説が正しいことを示唆し、同’ 時に「個」の経験をある程度類型化できるようなフェイスシートを開発す ることが、日本語教材と学習者のインタラクションの傾向と学習者要因と の関係を解明する手がかりになるという可能性をも示唆する。そこで、本. 稿は、丸山(2007b)で示したPAC分析の結果の中から調査協力者の経験 に基づく記述を拾い出し、フェイスシート開発のための指針を整理してみ たい。. 一6一.

(5) 2−−1丸山(2007b)の結果再考 丸1⊥1(2007b)のPAC分析の結果で、調査協力者が経験に基づいて発話 したと確実に認めることのできる箇所は、以下のとおりであるN。. <調査協力者A>  (1) 留学生はお金持ちじゃないし、あとブランド品も大切じゃな    い、ふつうの留学生は(日本人と)ちょっと違う。ルイ・ヴィ    トンは、毎日、何人も、みんな持ってる(のを見る)。 (クラ.    スター2についての発話から:調査協力者の実体験に基づく) (2) (このイメージは)XXX(国名戸にいるときから、 H本人は   ブランドが好きだと思っていた。そのイメージはテレビと映画   である。旅行番組で東京に行く(取材する)とき、銀座とかそ   んなへんに行くと、店ばっかりある。 (クラスター2について   の発話から:調査協力者のメディアを通した体験に基づく). (3) 日本に来た後でそのイメージがすごく強くなった。どこでも.   ブランドの店がある。デパートでもどこでも、ちっちゃい町で   も。 (それでブランドがあるイメージが)強くなった。 (クラ.   スター2についての発話から:調査協力者の実体験に基づく) (4〕 留学生はお金が大変なので、手作りのものを買った方がいい。.   (クラスター−2と3の関係についての発話から:調査協力者の   実体験に基づく). (5) 日本に来て電車に乗るとき、 (何人ブランドの物を持ってい.   るか)数える。ほんとに、若い人から年寄りまでみんな、いろ   いろな人が持っている。一つのタイプだけじゃない。買い物行.   くときおばあちゃん、公園、駅、高島屋のおばあちゃんe高校   生も(リュック)サックの中にルイ・ヴィトン、あとおじいち   ゃんもそういう人がいる。女性の方が見て分かるけど男性も持   っている。(補足質問「日本人にとうてブランドのものが大切」   についての発話から:調査協力者の実体験に基づく). 一7−一.

(6) <調査協力者B>  (6) 僕の場合では来る前に留学して、ホストファミリーのところ    に泊まったりする場合、最後の夜とかはホストファミリーのみ    んなにプレゼントをあげて、お世話になったということをちょ    っと表したい。 (クラスター1についての発話から:調査協力    者の実体験に基づく).  (7) 日本の中で、特に東京とか横浜とか大阪とかのすごく大きい.    都市は、特に東京では、ファッションはすごく人の生活に影響    がある。普通に東京とかではみなはブランド志向のものがやっ    ぱり好きだと思う。 (クラスター−2についての発話から:調査    協力者の実体験に基づく).  (8) 特に最近の4年間ぐらいは、東京のファッションはすごく、原.    宿系からアキバ系にすごく変わってきた。東京行けぱ、自分で    すごく簡単にわかるんですけど、違うファッションがほんとに    いっぱいあって、すごく差(幅)があるしすごく変化してきて    いて、みんな同じであって、みんな違うっていう風に思う。(ク    ラスター2についての発話から:調査協力者の実体験に基づく)  (9) 僕もどこかの外国に行ったら、絶対「びっくりさせること」.    があると思う。私の場合、靴をぬいだりはいたりすることは、    そのびっくりすることと各国の違うことの一つの例。それで(こ.    の2項目は)共通している。「各国の違うこと」というなら、靴.    を履いて脱ぐことより、もっとすごく(スケールが)大きい違    うこともある。 (クラスター3についての発話から:調査協力    者の実体験に基づく)  (10)東京のファッションの変化とかは僕にとって(刺激がある)、.    何回東京に行っても必ず、渋谷とかですごく目立っ、びっくり.    させる人が必ずいる。 (クラスター2と3の関係についての発    話から1調査協力者の実体験に基づく)  (工1)夕べマレーシアに住んでいる友達(調査協力者の大学に留学.    していたマレーシア人)によると、最近そこ(マレーシア)で    東京の原宿系がむこうにも、だんだん入ってきたって言った。     (クラスター2と3の関係についての発話から:調i査協力者の. 一8−一.

(7)   友人を経由した体験に基づく). (12)人によって違うものだけど、日本のことっていうのは、むこ   う(調i査協力者の国)は寿司とか相撲とかお寺とか日の丸の国   旗とか考えて、ファッションの違うことは最初にliiてこない。   (クラスター一 2と3の関係についての発話から:調査協力者の   実体験に基づく). (13)留学とかホストファミリーのとこに泊まれば、すごくそうい.   う寿司とか相撲とか寺、すごく大きい違うことだけではなく生   活の中でもどういうところが違うかを見えて、すごいちっちゃ   いこともあるから。それが音姫・xitとか残業とかそういうもっと.   ちっちゃい違うこともある(ことに気づく)。それはすごくち   っちゃいことだけど、 (小さいことなのは、それが)生活のこ.   とだから。ホストファミリーのところに泊まるまでそういうち.   っちゃいことは気がつくことができないと思う。すごく接触性   (があるので)、すごく大きい国の違い方もあるんですけど、.   ホストファミリーとか新聞とか、もっと詳しくここの国は僕の   国と、どうやって違うかは感じられるから。 (クラスター3と.   1の関係についての発話から1調査協力者の実体験に基づく) (14)外国の違うことだけではなく、友達とか(もある)。 (調査   協力者が所属する短期留学プログラムの)友達の中で、あまり   にも違うことを聞いたから、違う関係も違う体験もすごくいっ.   ぱいあったので、その人にとってすごく普通なことを僕はすご   いと思う。 (補足質問の「びっくりさせること」についての発.   話から1調査協力者の実体験に基づく)  これらから、気づくのは以下の3点である。まず、調査協力者の発話に直 接または間接的な体験に基づくものが多いという点である。丸山(2007b). のPAC分析で析出されたデンドログラムのクラスターKiiiは、調査協力者. A、Bとも3つであった。したがって、2名のデンドログラムに基づくイン. タビューは、クラスター1、2、3についてと、各クラスターの関係(1 と2、2と3、3と1)、そしてクラスター全体、補足質問についての8つ のまとまりがある。補足質問を除くとインタビューの各まとまりのトピッ. 一9一.

(8) クはだいたい1つである。その中で調査協力者Aには少なくとも5っ、調査 協力者Bには9つ、調査協力者自身の経験に基づく発話がある。っまり、テ キストを読んで内容にっいて考える際に、読み手がそれに関連した経験を 過去にしている場合、それと関連づけて読み物についての判断がなされて いるということになる。.  次に、調査協力者の経験は調査協力者自身の実体験という直接的な体験 と、メディアや友人を経由した聞接的な体験とがある。調査協力者Aの(2) と調査協力者Bの(11)がこれにあたる。.  この2つのことから、フェイスシートには、テキストの読み手である学習 者に来日体験があるかどうかだけではなく、来日前であってもメディアや 友人などを介した間接的な日本との接触があるか、あるとすればどのよう な事物とのどの程度の接触であるかということを盛り込む必要があると言 えるだろう。.  また、調査協力者の発話には、1回の経験による発話と、調査協力者Aの (D (2)(3)(5)、調査協力者Bの(8)(9) (10)(11)(12)(13). (14)に見られるように、複数回にわたる経験の積み重ねによる発話とが. ある。調査協力者A,B両者とも、後者のタイプの発話のほうが分量として 多いことは、繰返し経験したことのほうがより強く学:習者の発想に影響を. 与えているという、直感的に多くの教師も実感していることが、正しいこ とを示しているだろう。より多くの経験をするためには、日本との接触が 様々なチャンネルを介した広範なものであること、複数回あるいは長期に 渡るものであること、といった量の問題だけでなく、どの程度濃い経験で あるかということも当然関わってくるはずである。従って、フェイスシー トには、学習者の日本との接触が、どのようなチャンネルを介した、どの 程度の頻度や期間に渡るものかということだけなく、その接触が学習者に とってどの程度のインパクトを与えるものであったかにっいても明らかに できる項目を盛り込む必要があると言えるだろう。.  調査協力者AとBは日本語学習歴に共通する部分が多く、日本語のレベ’ ルもほぼ同じである。しかし、丸山(2007b)で指摘したように両者がテキス. トからイメージする内容には、例えば、調査協力者Aは自分の経験を基に してお母さんの態度は失礼であり、ベティに共感するという判断へと結び. ついていったのに対し、調査協力者Bはホームステイというものは細かな. 一10一.

(9) 文化の違いを檸験できる場であるということ、刺激とLて与えられた読み 教材はそれが事前iに留学生に伝えられるテキストとしてはいいという評価 をするなどの、大きな握入差が見られ,る。従ってその薩者の発想の違いを. 生む要因の特定にぱ,さら1こ細かい記述のフェイスシートが必要だという ことを示しているe.  筆者らが作蕊したフェイスシートは揖本語学習者が読み教鞍から態eる ことは、学習者要因、特に学習者掴止が重ねたH本$±会や目本人との欝わ. りによって傾向が異なるということを予想Lつつ作成したが、以上の観点 から見ると、調査協力者の日本社会・日本人に関する経験に関する項溺を. さらに充実させたほうが、H本語教特と学習麿とのインタラタションの解 明に近づくのではないかということがわかる。 2−2フエイスシー一トの開発1こ向iナて.  ここまで調査協力者の日本社会・N本人に関する経験が分析可能な墳目 の作成、すなわち指標作リカ9丸山(2⑪e7 b)h・ら出てきた課題の一っである ことを述べた。.  昨今、日本語教育でも、心理学や教菅学と詞撞に文化歴史学派・挫会歴史 的アプローチ・活動理論・状況論等の影響を受けて、 [学習」が個人の頭. の中に知識が蓄積されることとしてではなく、学習者が置か為た環境との ’相互作用のうちに論じられるようになってきた(薦口、斑髄など)。それ. はつまb、教室内に生起することを考察するにしても従来のように単に教 師によるインプットと学生のアウトプットのみを闇連づけるので隷なく、. 教室内の人的資源は元より物や制度といった入工物を含めた全体性の中で  f学び」がどのように起こっているかを考察しようという動きである。園 時に、それは、考察を教室内に限定せずに、学習春が教室舞においてもど のような資源との相亙↑乍用の中にいるかを視野に入れた研究とLて展開iさ れている(文野、20fi4)。.  2章1節で見たように、本研究において日本に鐘する事犠・人物との接触 の有無や接触のチャンネルの多様性などを調べる際には、TV番組やガイド ゴックなどのメディア、友だち・知人(日本人に醗らず日本に興廉がある 人も含めて日本につながる人物はみな)も入託る必要がある。その際、本. ・−. t一.

(10) 研究の目的を考えればH本語教材・日本語の教師などは別に分けて尋ねる ことも必要であろう。そのような観点を十分反映させるために、フェイス. シートの開発は、筆者らがこれまでに実施したPAC分析調査の結果わか ったことだけではなく、日本在住の日本語学習者と彼らの置かれている環 境との相互作用を明らかにした文野(2004)なども参考にしっっ進めてい きたいと考えている。.  また,フェイスシートの開発の一っの工夫として、例えば社会言語学の ネットワーク理論の応用も考えられよう。Milroy(1980)は、北アイルランド. のベルファストの3つの労働者階級の地区での調査から、言語と社会ネット. ワークとの関連の強さを説明した研究である。そこで開発されたのは、社. 会ネットワークへの参加度を表す以下の5つの指標である(Milroy 1980:141−142) 。. 1.Member曲ip of a high−density, territorially based clusteL. 2.}{aving substantial ties of kinship in血e neighborhood.(More than one   household, in addition to his’own nuclear family.) 3.Working at the same place as at least A伊o others from the same area.. 4. The same place of work as at least two others of the sarne sex fそom the.   area. 5. Volunta巧y associatlen with werkmates in leisure hours. This applies in   practice only when conditions three a皿d fbur satisfied、.  研究の目的や結果は本研究とは直接関連しないが、この指標は、当該コ ミ=ニテif・・一にどのような形で、どの程度深く関わっているかを測ろうと. しており、2章1節で指摘したように本研究でも調査協力者の目本社会・ 目本人に欝する経験を広さだけではなく関わりの深さという点でも見て行 く必要があることから、この指標が参考になると思われる。つまり、調査 協力者が日本社会・β本人に関して持っている個々のチャンネルごとの接 鍾の頻度や深さといった社会ネットワークを闘くことで、協力者本人に自 翼されていない蟹係の濃さについて研究者側が判断する材料を得ることが できると考えられるのである。.  そ瞬挺に、自分が接している情報咋の態度や信念(Beiief)を聞く項目を設. 一12一.

(11) ける可能性も考えたい。それはつまり、直接にせよ間接的にせよ自分が接 した日本についての情報はどの程度信頼しているかという類の質問であるxiΨ。. また、同種の問題として、学習者の日本語教材への接し方や日本語の先生 の言説への接し方、日本語のクラスにおける読解教材に基づいたディスカ ッション作業などは読み物の内容に対する学習者のどのような反応を引き 出そうとしていたものだと学習者自身は感じていたかといったことも関連 があるだろう。フェイスシートにそれらについての質問項目があると、学 習者の中でそれまでに歴史的・文化的に形成された「日本語教科書(の読 解教材)への接し方」 (批半1」的に読む、内容を理解する、それに関連した. 個々の経験を述べ合う、内容についての共感・違和感を提示し合う、など) が明らかになる可能性があると思われるxv。. 3.おわりに  本稿は、丸山(2007b)を学習者の経験に基づく発話という観点から見直. すことによって、フェイスシートの課題を明らかにするとともに、その方 向性を探った。学習者と教材のインタラクションを解明し、教材論へと発 展させるには、学習者が日本語教材からどのようなことを感じているかを 明らかにするとともに、これと学習者要因との関係を探ることが不可欠で ある。本研究が考える「学習者要因」の解明は、フェイスシートの完成を 意味することになるであろう。今後、フェイスシー一トの修正を行いながら、. 異なる学習者に対するPAC分析を実施していきたい。 *本稿は、平成19−21年度科学研究費補助金(基盤研究(C)) 「PAC分析. 法を活用した学習者が日本語教材から受ける影響と学習者要因の解明」(研 究代表者:丸山千歌、課題番号:19520449)の取り組みの一部である。. 一13一.

(12) 〈参考文献〉 安龍深・渡辺文夫・才田いずみ(1995)「韓国人日本語学習者の授業観の.   分析一授業に対する認知的変容についての事例的研究一」東北大学文   学部編『東北大学文学部日本語学科論集』5,1−12. 安龍深・渡辺文夫・内藤i哲雄(2004)「日本語学習者と日本人日本語教師.   の授業の比較一個人別態度構造分析法(PAC)による事例研究一」   茨城大学『茨城大学留学生センター紀要』3、49−59.. 小川貴士(2001)「日本語学習者の日本文化把握の変化と日本事情教育へ   の試論」『21世紀の日本事情』3、くろしお出版、4−14.. 河野理恵(2003)「大学院での「日本事情」教育一「日本人論」を通して1   『21世紀の日本事情』5、くろしお出版、96−−109.. 末田清子(2001) 「留学体験の意味付け一大学生の留学前及び帰国後の滞.   在国に対するイメージ分析を通して一」、シーター・ジャパン『異文   化間コミュニケーション』 4、57−74,. 館岡洋子・牛窪隆太・丸山伊津紀・金孝卿・池田玲子(2005) 「協働学習.   における教師の役割と教室デザイン」『2005年度日本語教育学会春季   大会 予稿集』 259−270.. 内藤哲雄(1991)「同性・異性への好意と嫌悪」『日本社会心理学会第32   回大会論文集』.. 内藤哲雄(2000) 「留学生.の孤独感のPAC分析」信州大学『人文科学論   集 人間情報学科編』34、15−25.. 内藤哲雄(2002)『PAC分析実施法入門[改訂版]「個1を科学する新   技法への招待』ナカニシヤ出版. 内藤哲雄・金娼鏡(2005)「発達障害のある幼児をもつ韓国人栂親の障害受容に関.   するPAC分析一社会的支援体制と育児ネットワーク機能の視点から一」信   州大学『人文科学論集 人間情報科学編』39、 11−25.. 西口光一(2005)『文化と歴史の中の学習と学習蕃日本語教育における社会文化的.   パースペクティブ』凡人社. 藤田裕子・佐藤友則(1996)「日本語教育実習は教育観をどのように変え.   るカLPAC分析を用いた実習生と学習者に対する事例的研究一」日   本語教育学会『目本語教育』89、13−24.. 一14一.

(13) 藤i田裕子(2007)「インターネットを利用した作文授業の効果一日本語で.  書くことに対する留学生の態度構造の変容」『桜美林言語教育論叢』  3、 17−31.. 文野峯子(2004)『平成13年度一.一一平成15年度 科学研究費補助金 基盤研究.  (CX2)課題番号13680365 研究成果報告書 日本語学:習者と環境と  の相互作用に関する研究』. 丸山千歌(2007a) 「目本語学習者が目本語読解教材から受ける影響一読.   解内容を知る上でのPAC分析法の有効性一」横浜国立大学留学生セ   ンター『横浜国立大学留学生センター一教育研究論集』14、145−158.. 丸山千歌(2007b) 「日本語教材の文化トピックからの学習者の発想一学.   習者とのインタラクションの解明に向けたPAC分析の可能性一」   『日本語教育のフロンティア』くろしお出版、161−184.. 丸山千歌・小澤伊久美(2007)「PAC分析データを基に実践研究を考え   る一読解教材を刺激とした留学生への質的調査から一」『実践研究と.   は何か一私にとっての実践研究 教育現場からの日本語教育実践研   究フォーラム〔予稿集〕日本語教育学会2007年度研究集会一第6回一   【実践研究フォーラム】』日本語i教育学会、141−144.. 三原祥子・景山陽子・澤田尚美・矢部まゆみ(2002)「教師の自己研.   修における協働アクション・リサーチの可能性一PAC分析による   検証一」日本語教育学会『2002年度日本語教育学会春季大会予稿集』、   185−192. Lesley Milrey(1980)Language and Sqcial A「etrvoヱ”lts・Oxford:Blackwell・. 一15−一.

(14) 注 ’ PAC分析法は社会心理学と臨床心理学の両方の知見を持つ内藤(1991)に   よって開発された研究手法で、「当該テーマに関する自由連想(アクセス)、   連想項目聞の類似度評定、類{繊距離行列によるクラスター分析、被験者に.   よるクラスター‡縫のイメージや解釈の報告、実験者による総合的解釈を通   じて、個人ごとに態度やイメージの構造を分析する方法」(内藤、2002:1).   で、その特徴はPAC分析の特徴は、調査協力者の感覚的で自由な発想への   糊限を可能なかぎり外した、調査協力者が主体となる手法であると同時に、   客観性・再現性が高い質的研究の手法である点にある(丸U」、2007b)。. ii 今回のPAC分析に採用した読み教材が英語圏の学習者対象の日本語中級教   科書であったので、英語圏の日本学習者に調査協力を依頼した。 iii. eキ3トの選定は筆者ら2名で、日本語のレベル、内容、教材の普及度など   の観点から行った。本調査で採用したのは、三浦・マグロイン(1994)痂   lnt・gr・t・dAppr・a・h t・fnt・・m・diate Japanese, Th・J・p・・Ti。。、.のeg・8.   課の速読の文章である。「プラン桔志向」という題で、日本人の家庭にホーム.   ステイをした留学生ベティーの体験が綴られる。来目前にホストファミリー   の家族それぞれにおみやげを準備し、お母さんに手作りのバックをあげたと   ころ、あまり喜ばれずがっかりする。その後、そのお母さんがトイレのスリ   ッパまでブランド晶を使うほどのブランド志向であったことに気づくという   内容である。本稿は、読解教材が学習者に与える影響を観察することが目的   なので、観察しやすさを優先しステレオタイフ牲の高い内容のものを採用し i“. @刺激文は、筆者ら2名で検討した。. V (e)に基づいて作成された類似度距醐テ列に基づき、ウォード法でクラスタ   ー・・…一分析を行った結果、析出されたデンドログラム(樹形図)である。丸山.   (2007b)に詳しい口 ”i. イ査実施者からの質問は、調査協力者の中のイメージや感覚、感情を自由に   感じさせ、自由な回答を可能にするオ・一プンクエスチョンを原則とする。ま   た調査実施者は質閥することよりも、調査協力者にとってのイメージを共に   感じ、イメージの流れに寄り添う同行者として、傾聴する姿勢を保つことが   肝要である(内藤、2002:48−51)。 vii. @20e5年5月 27日異文化間教育学会プレセミナーでの講義(講師:井上孝代・   末田清子・傍藤武彦)に基づく。 。田(2007)でも同じ方式が採用されている。 iX 別添の資料を参照のこと。 v」ii. x 丸山(2007b}からの抜粋も調査琉力者Bの記述は一部読みやすく修正した。   宋揖伽賠.内藤・金(2905)と同様に、調査協力者の発話内容を可能なか. 一16一.

(15)   ぎりそのまま掲載した。PAC分析法において調査協力者の語り口が、心の   内面を探索し、明確化するプロセスをたどる唯一の客観的資料となるからで   ある(内藤・金、2005:14)。 si. @国名の清報である。調査協力者を限定できないようにするため、)㎝とした。. xit. @トイレの消音装置の商品名 ?レのまとまり. xiii. xiv. アれは、日本に関する情報に対する態度だけでなく一般的な1青報に対する態   度として尋ねる必要があるかもしれないe xv. ロ山(2007b)のPAC分析では、調査協力者Bのように留学前のガイドブッ.   ク的な要素を教材に求めているというコメントがあった。教科書にこのよう.   な役割を期待する傾向は来日前の学習者にある程度あるのではないかと思わ   れるが、それが授業でも強化されてきた可能性や、教科書に書いてあること   が日本の「事実」であるというような読み活動をしてきた可能性等が浮き彫   りになると、学習者と日本語教材とのインタラクションがより明確に把握で   きるであろう。ただ、学生自身がどこまで自覚しているかわからない上、学   習者がいろいろな学習段階で出会う教師の影響が想定できるので、質問の仕   方には工夫が必要である。. 一17一.

(16) (資料). Questionnaire Name:. ID Ne, 〔Last). (First). Nationality:. Sex:M∫F. Age:. Native Language:. *Kaitii Background:YES∫NO (S・ti5’.6 −」とこイ5ぱ南アら薔ガコなぐて一e)’ψ‘でプづ1. Major:. Japanese elasses you are tak:/ng in this semester:. 1・ Previoロs Stay in Japan: Yes∫No       In case ofYES, state‘Wheピ,‘How Iong,’‘Wh¢re,’&毛For what purpose.’ Puropose。f        .. When e・9・. How long.                   .. Q003July−2003August. 1month. Where. @  sta. Tbkyo. Travel. Type ofaccomodation. Homestay. 1. 2 3. 4. *tota1. IL AII Prior Japanese Language Studies: Instit凹tion e・9・. Univ. ofLondon. 1. 2 3. *total. State!Countσ. Period. hrs!wk. 丘xtbook. London!UK. 5months. 15hrs. 」向日α’才召ぷe/br加壁γ」peqワ∫已.

(17) For the lmprovement of the face−sheet. for PAC−Analysis MARUYAMA Chika, OZAWA Ikumi. Key words:. PersonaI A廿itUde Const皿ct Analysis, Japanese textbook, Japanese learners, Interaction, Face−slleet.   This paper reports the p ossibility of the improvement of the face−sheet fbr the. research about the effect the Japanese learner receives丘om the Japanese texts by. Maruyama(2007b)and Mamyama and Ozawa(2007).   It reports the reconsideration of Maruyama(2007b)from the vieWpoint of the experiences of the Japanese learners, and suggests the po§sibility of the use of the. various theories(e.g. Network theory(L. Mirloy,1980))fbr the improvement of the face−sheet for Maruyama(2007b).. 一143一.

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参照

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