アメリカの国語科における読みの学習指導 : ある教師の「基礎読本中心の指導」から「文学を核にした指導」への転換の取り組み
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(2) 90. 書き出しが面白ければ,あなたはその物語を好きになるに違いありません。 例文:夏にマリーは自分の部屋の掃除をしました。彼女はバレンタイン・カi ドを見つけました。でも,そのカードの封筒は見つかりません。 例文:マイクとジョアンは網で猟をしています。カラスが降りてきて,その網 の輪の上にとまりました。カラスは動こうとしません。 上の書き出しはどちらもある事件を描いています。どちらが興味をひきます か?どうしてそう感じるか言えますか? 事件が重要であればあるほど,読み手の興味をひきます。そして,それはす ぐに解決される必要があります。上の書き出しのどちらが重要な事件ですか。 どうしてそう感じるか言えますか? 課題:次の3つの書き出しを読みなさい。どれが一番興味をひきますか。選ん だら,下の質問に対する答えを自分で考えなさい。 ・事件が示されてありますか? ・その事件は本当に重要ですか? 1.ジェーン・ウインは子供たちを連れて,野球を観に行きました。彼らはソッ クスの試合を観ましたOソックスはレッド・イーグルスに負けてしまいまし た。 (以下,省略). このように「基礎読本」においては,あることがら(この例では「読み手の興味 をひく物語の冒頭部分」)をとりたて,説明・定義一例文一解説一課題というような 構成によって,そのことがらに焦点を当てた練習的指導がおこなわれる。 「基礎読本」を使う限り,教師は読本に示された系統的な知識の枠組みを守って 順に指導をおこなうだけでいい。何を教えているのか,何を学んでいるのか,その 部分の見出しを見るだけでわかるという利点がある。 しかし,「基礎読本」に示された系統は子どもの内から兄い出されたものではなく, 外から子どもに与えられるものであり,ある程度の妥当性はあるものの,子どもの 実態に合っているとは限らないo 「基礎読本」そのものがワークブックのような性格 を帯びており,そこで学んだものを自由に応用する場がどうしても少なくなってし まう。 「基礎読本」にはこうした問題点があり,教師たちの中から,これでいいのだろ うかという疑問が出され続けている。 そうした疑問を解決するためのひとつの方法として,従来もある程度はおこなわ れてきていた「文学を核にした指導」が浮かび上がってきた。 2. 「文学を核にした指導」における読みの指導の例 「文学を核にした指導」においては,教師はく支援者)の役割を演じ,主役はあ くまで子どもであり,子どもが「自分で読む活動」が重視される。 「自分で読む活動」 を支える活動・工夫として,次のようなものがおこなわれる6)0.
(3) 91. 黙読活動(SSR-Sustained Silent Reading) 教師を含むクラス全体で,それぞれが自分の読みたい本を選び,黙読する。 父兄や校長,養護教諭などに参加してもらってもよい。たくさんの人が,読むこ とを大切なことだと思っているというモデルを子どもに示すことになるからであ る。. 小グループ活動(Literature Group) ・本を読んで感じたことなどを,クラス全体ではなく,小グループの中で気楽に話 し合う。 ・異なった本に共通するテーマ,シリーズになっている作品,同じジャンルの作品, 同じ作者の作品などによって,グループを分けることが可能である。 面談(Conference) 教師と1対1,または教師を含む小グループでの話し合い。教師が設定する。 ア)自分が読んでいることを他の人と分かち合うことによって,面談が始まる。子 どもが「読書記録」をつけていれば,そこに書いてあることを話させる。 イ)教師は,子どもの話すことを聞き,作品について質問を投げかける。小グルー プでの面談の場合は,子どもどうLで互いに質問させる。 ウ)面談の中で,質問への応答や好きな部分などを,声に出して読ませる活動をお こなわせる。後に使えるように,教師は子どものその音読の様子を記録しておく。 エ)子どもと教師は読みの計画について話し合う。子どもが次に読んでみたいもの を示し,教師はそれに合った作品や本を示す。こうした面談の結果,子どもは次 の数日間の読みの活動についての計画を得ることができる。 読みの個別化指導(Individualized Reading Instruction) ア)図書館や学校の図書室と同じくらいの良質の書籍をクラスに用意する0 イ)教師があるテーマや課題を与えるが,読む本は子どもが自分で選択する。 ウ)教師と1対1,または小グループでの面談をおこなう。子どもは本を読んで考 えたことを話す。教師は,どのくらい理解しているかをチェックしたり,どのく らい読むのが難しい様子であるかを判別したり,作文を書くように励ましたり, さらに読み進めるように指示を与えたりする。 エ)読んだことを分かち合う活動をおこなう。 オ) (下のような) 「読書記録」をつける。 (書名) (著者) (ページ数) (開始日) (読了日). 読みの研究会(Readers'Workshop) 自分で読む活動をおこなった後,例えば「対話ノート(dialoguejournals)」に, 登場人物や他の人に話しかけるような感じで,本を読んで感じたことを記録する。 そして,それをもとに,子どもどうし,または教師と話し合いをおこなう。.
(4) 92. リーディング・センター(Reading Center). 教室の中にリーディング・センター,つまり図書コーナーを設けるOリーディン グ・センターでは,子どもが自分で選択したテーマや作家の本を展示するO チェックリスト(Checklists). 例えば, 「音読」 「作品を読んでの話し合い」 「詩を読んで意見を言う」 「作品を映 画と比較する」 「あるトピックについて意見を言う」 「自分が読んでいる本について 意見を言う」などの,項目を持ったチェックリストを教師は事前に用意しておく。 教師は子どもの学習活動を観察しながら,そこに記号や数字でチェックしていく。 活動の記録(Anecdotal Records) どのような活動をおこなったか,子ども個々について,またグループやクラス全 体について,エピソードなどを交えながら,記録していく。 子どもが興味を持っていることがらの一覧表(Interview and Interest Inventories). 子どもとの面談内容や,子どもが興味を持っていると話したことがらを記録して おく。個人ファイルにとじておき必要な時にそれを参考にしながら,指示を与える。 個人ファイル(Reading Portfolios) ひとりひとりが学習した作品,作文,読書記録などを個別にファイルして活用す. る。 自己評価(Children's Evaluation). 自分で自分の読みの学習を評価する。 3. 「文学を核にした指導」への移行をめざす教肺がかかえる問題と不安 本論において取り上げる実践をおこなった小学校教師ディアナは,「基礎読本を中 心とした指導」にものたりなさを感じ, 「文学を核にした指導」を展開しようとした。 「文学を核にした指導」をおこなおうとした時,教師ディアナは次のような問題と 不安をかかえることになった。. 問題点①指導内容と方法の問題:何をどうやって身につけさせるのか。 問題点②スキルの指導の問題:作品を読み味わう中で読みのスキルをどの程度 扱えばよいのか。 問題点③学習遅滞児の問題:学習がうまくいっていない子どもをどう扱うか。 問題点④評価の問題:読みの評価をどのようにおこなうのか。 問題点⑤教師自信の問題1 :ワークシートに頼ってしまう自分の自信のなさ。 問題点⑥教師自身の問題2 :基礎読本なしに読みの指導をどうおこなえばいい のかが分からない。 教師ディアナはこうした6つの問題をかかえていたのであるが,のちに示すよう に, 「文学を核にした指導」を実践する中で,こうした問題や不安を解消していく。 問題点(彰指導内容と方法の問題:何をどうやって身につけさせるのか。.
(5) 93. 基礎読本 を用いれば, スキル は細か くくだかれ, コース . オブ . スタディに 合 うもの になる0 しか し, 文学 を用いた場合 は, そうした何 を教 えるのか とい う細 か くくだかれたパ ッケージを得 ることができない0 基礎読本 を用いれば, スキルを教 えるのは容易である0 それに対 して, 文学の場合 は, 次の第 7 学年 に進むために必要 なものをどうやって子 どもに身 につけさせるのだろう?. 「説明・定義一例文一解説一課題」といったワークブックのような構成になって いる基礎読本を使う限り,教師は読本に示されたく系統的な知識)の枠組みを守っ て順に指導をおこなうだけでいい。何を教えているのか,何を学んでいるのか,読 本の見出しを見るだけでわかる。 一方, 「文学を核にした指導」においては,そのようなく系統的な知識)の枠組み は存在しない。 「文学を核にした指導」においては,指導内容があらかじめ用意され ているのではなく,子どもたちが自分で読み進める学習を展開しながら,その中に おいて子どもと教師とが一緒になって,ひとりひとりに適した学習内容を見つけ出 していくことになる。 問題点②スキルの指導の問題:作品を読み味わう中で読みのスキルをどの程度扱え ばよいのか。 接 頭 辞 , 接 尾 辞 な ど に 関 す る 指 導 を, さ ら に どれ く ら い追 加 す れ ば い い の だ ろ う ? プ ロ ッ ト, 登 場 人 物 , 比 職 な ど の 用 語 を ど の く ら い 指 導 す れ ば い い の だ ろ う ? 私 は, 読 む こ と を 経 験 さ せ る中 で , つ ま り, 文 学 を用 い た ク ラ ス の話 し 合 い の 中 で そ う し た こ と を取 り上 げ る こ と に よ っ て , そ う した こ とが ら を 指 導 し て い く必 要 性 を 感 じ て い た 0 し か し , 作 者 の 意 図 と か け 離 れ た り, そ の 作 品 を あ ま り に 細 か く分 析 し て し ま う こ と に よ っ て , 子 ど も が い や に な り は し な い か と い う こ と を心 配 し て い た 0. ここには「文学を核にした指導」をおこなおうとした場合, 「読みのスキル」をど のように扱えばよいのか,という悩みが示されている。 「基礎読本」を用いたくスキ ル)やく知識〉の注入を重視した学習指導をおこなってきた教師であればあるほど, こうした悩みが湧き出てくるに違いない。 問題点③学習遅滞児の問題:学習がうまくいっていない子どもをどう扱うか。 子どもの中には基礎読本を用いた指導が必要な者もいるのではないか,と心 配している。彼らは,他の子どもが持っているような,自分で読むという力を 持っていない。 「文学を核とした指導」は,自分で読み進むことのできる子ども には,とてもいい指導法である。彼らは指導を必要としない。しかし,読むこ.
(6) 94. とにもがき苦しんでいる子どももいるのである。. どの子どもも同じく知識)やくスキル)を身につけることを求める「基礎読本中 心の指導」においては,く知識)やくスキル)を容易に比べることができ,常に「で きる子」と「できない子」の判別がおこなわれる。く知識)やくスキル)という観点 からしか子どもを見ない教師は, 「文学を核にした指導」は読む力をすでに豊かに身 につけた子どもにしか有効ではないのではという不安をいだいてしまう。 問題点④評価の問題:読みの評価をどのようにおこなうのか。 どのように子どもの進歩を成績表のA, B, Cに合わせるか,スタディ・ス キルや語嚢の面の進歩をどのように評価すればよいのだろうか?そうしたもの は, 「文学を核とした指導」とは相い入れないものである。さて,読みの評価を どうすればいいのだろう?到達度テストからは,子どもの読解力などの細かく くだかれた力を兄いだしているにすぎないのではないだろうか?われわれが, 明確にできない何かもやもやとしたものがそこにあるのだろうか? 私はこれまでも音読や面談によって評価をおこなおうと考えてきたが,それ はそうできればいいなというものに過ぎなかった。子どもにテープt/コーダー に録音させてみては?ある文章を声に出して読ませることによって,その子ど もが理解していることを知ることができないだろうか?そうした思いが,いつ も私の脳裏にはあった。そうしたものを,どのようにして点数化すればいいの だろうか?もしある親が子どもの成績表を昔ながらに読んで, 「何だ,平均的な 点をとっているのに,うちの子はなぜCなんだ?」と,怒り狂ってしまったら どうしよう?. 基礎読本を使う限り,教師は読本に示された系統的な知識の枠組みに適応したテ ストも用意されており,評価もおこないやすい。 「もしある親が子どもの成績表を昔ながらに読んで,怒り狂ってしまったらどう しよう?」と述べているように,く新しい)学習指導をおこなおうとする時に大きな 障害になるのは,く古い)学習指導によって育った親である。 問題点⑤教師自信の問題1 :ワークシートに頼ってしまう自分の自信のなさ。 デイアナは,自分の子ども文学についての知識が十分なものではないと感じ ており,国語科の指導を考える力にも自信が持てなかった。時間が限られてお り,今読まれている本についての知識も不足していたので,彼女は,他の教師 が注文していた2冊のchapterbook (堀江注:教科書ではなく図書であるが, 子どものレベルに合わせて編集されてあるもの)を用いることにした。 「サバイ.
(7) 95. バル・ストーリー(堀江注:厳しい環境の中で生きることを措いた本)」である "Island of the Blue Dolphins'つO'Dell, 1960) "My Side of the Mountain (George, 1959)を子どもに読ませることにした。その時の,ディアナの指導 は,基礎読本のマニュアルに示されたことがらにかなり影響されたものであり, 各章でワークシートを用いた。その本を黙読し,ワークシートを自分で完成さ せる時間が子どもに与えられた。そのワークシートが提出されると,ディアナ は点数をつけ,それをその子どもの得点として記録した。彼女は,自分のクラ スでのこうした文学の扱いに,不満を感じていた。 「基礎読本」を中心に授業をおこなってきた教師にとっては, 「基礎読本」が示す くスキル)を教えることが指導の目的となってしまう。そのくスキル)に焦点を当 てたものがワークシートであるQワークシートを使い続けると,今度はワークシー トがないと不安になってしまう。教師にとって麻薬のようなものであると言えよう。 問題点⑥教師自身の問題2 :基礎読本なしに読みの指導をどうおこなえ【乱、いのか が分からない。 私 は, 子 ど もを うま く補 助 で きる のだ ろ うか ? 文 学 に読 み 浸 らせ る こ と に よ って, 子 ど もは 自分 で学 ん でい け るのだ ろ うか ? 語嚢 表 やテ ス トが添 え られ た基礎 読本 を用 い る こ とな しに, そ う した指導 を総 合的 にやっ てい けるの だ ろ うか ?. 課題の明示された基礎読本,ワークシート,準拠テストなどがあれば,教師はそ れを子どもにこなさせるだけで,指導をおこなったことになる。そうした教材・教 具に頼っていた教師にとって,子どもに読む本を選択させるというような自由な学 習指導をおこなった場合,自分がどのようにふるまえばいいのかわからず,不安に なってしまうことであろう。 4. 「文学を核にした指導」への挑戦-く新しい)学習指導の展開と問題の解消 教師ディアナは,さまざまな問題と不安をかかえながらも,次のように「文学を 核にした指導」を展開した。 その年度の途中,ディアナは伝記について学ばせようと考え,どのように指 導を構成すればいいかをじっくり考えた。クラス全体に読ませるための1, 2 冊の本を選んで,それについてワークシートをこしらえるのではなく,デイア ナは地域の図書館からたくさんの伝記を借り出し,それらの面白いところを簡 単にまとめた。子どもは自分で本を選び,その有名な人になったつもりで日記. を書いたり,その人にとっての重要な出来事をまとめた年譜を作ったりする活 動をおこなった。そうした国語の時間の間,子どもはどの伝記を読むかを選択.
(8) 96. し,活動をおこなった。彼女は,ひとりひとりの子どもが自分が読んだことに ついて謡をし,活動を一生懸命におこなっていることに気がついた。 ディアナには,子どもたちの,自分が読んだ本に対する反応が変わっていく のがわかった。. 教師ディアナは,地域の図書館からたくさんの伝記を借り出し,それらの面白い ところを簡単にまとめる,というく支援)をおこなった。そのく支援)のもと,千 どもたちは, 「自分で本を選び,その有名な人になったつもりで日記を書いたり,そ の人にとっての重要な出来事をまとめた年譜を作ったりする活動」をおこなった。 ここには, 「基礎読本」が示すような共通に覚えるべきく知識)は存在しない。 こうした実践を積み重ねることにより,教師ディアナは,先に示した問題や不安 を次のように解消していった。 【問題点①指導内容と方法の問題:何をどうやって身につけさせるのか】の解消 子 ど もた ち は 読 む こ とに 入 り込 ん で い き , 時 間 を う ま く使 っ て い た 0 私 は 彼 ら を監 視 して , ム チ を ふ る う 必 要 も な か っ た 0. これ は す ば ら し い こ と で あ る 0. 今 , 人 生 は こ ん な に容 易 な もの に な っ た 0 子 ど も は全 身 を読 む こ とに 投 入 さ せ て い る0 彼 ら は さ ら に読 み 続 けた い と願 っ て い る 0. 「基礎読本中心の指導」の場合,子どもの状態に合わせるのではなく,子どもの 外にある系統性を重視せざるを得ない。そして「ムチをふるう」,つまり,強制的に 課題に向かわせることになっていく。 「文学を核にした指導」においては,く自分が選択した本)をく自分のペース)で く全身で)読むことが許される。これは大きな違いである。 【問題点②スキルの指導の問題:作品を読み味わう中で読みのスキルをどの程度扱 えばよいのか】の解消.
(9) 97. うしたことを,私は子どもたちから教わった。. 「基礎読本」に頼った授業をおこなっていると,教師はついつい「このスキルを 身につけていなければ読むことができないに違いない」と思い込んでしまう。豊か に読むためのスキルであるはずなのに,スキルだけが一人歩きしてしまうのである。 教師ディアナは,子どもたちとの面談を通して,そうした自分の思い込みに気が ついた。読むことこそが,スキルよりも先にあるべきということに。 【問題点③学習遅滞児の問題:学習がうまくいっていない子どもの問題】 子 ど もた ち は, 自 分 で 本 を選 ぶ こ とを 非 常 に面 白 が り, そ し て , 本 を読 む こ と, そ して 活 動 を す る こ との 両 方 に熱 中 し た 0 第 6 学 年 の テ ス トで は あ ま り点 数 の よ くな か っ た あ る 子 ど も が , S tep h en D ou g las の伝 記 に 勇 気 づ け られ , 奴 隷 制 度 に つ い て の 本 を も つ と読 ん で み た い と言 い 出 した 0. 子 ど もた ち は , そ の 文 章 を読 み た い と思 っ た た め に , そ れ まで に は読 め な か つ た 単 語 を 読 み 始 め た 0 読 む こ と を 楽 し ん で い た の で , 子 ど も は そ の文 章 を 理 解 し た 0 内 容 が コ ン トロ ー ル さ れ た 単 元 を学 習 し て い る 時 は , 退 屈 そ う に して い た 児 童 も, 読 む こ と に 熱 中 し 始 め た 0 子 ど も は読 む こ とが 好 き で あ り, 読 ん で み た い と思 っ て い る の で あ る 。. 「文学を核にした指導」においては, 「できない子ども」が置き去りになるのでは ないかという不安を抱くこと自体,実はその子どもをく知識)やくスキル)といっ た枠組みによってとらえようとしていることを示している。 「テストではあまり点数のよくなかったある子どもが,本をもっと読んでみたい と言い出した」という教師ディアナの感想は, 「く知識)やくスキル)という枠組み から見るとできのよくない子どもであるが,文学を核にした指導のもとではもとも と持っている力を発揮し始めた」と読み替えられよう。 【問題点④評価の問題:読みの評価をどのようにおこなうのか】の解消 その 年度 の終 わ りまで に, 「数字 に頼 らない」とい う評価 に関 す る新 しい信条 旦 奉埋 立を0 親 は, 教 師 との 面談 の間 , 完壁 に ま とめ られた 自分 の子 どもの作 品 に よっ て, 感銘 を受 けた よ うで あ る0 これ に よって, 子 どもた ちの読 んだ り, 書 いた りす る力 を, 数 字 に頼 らず に評 価 す る とい うこ とを, 親 た ちが受 け入 れ ヱ l建 を と, デ イア ナ は確 信 した0. 「基礎読本を中心にした指導」の場合,すべての学習者に同じものを覚えさせる 指導が中心となり,どうしてもく点数評価)を重視せざるを得なくなる。.
(10) 98. 「文学を核にした指導」においては,く点数評価〉もある程度はおこなうが,それ に頼る必要はない。子どもたちが生み出した読書記録や作文などの学習成果を保存 していくことにより,ひとりひとりに応じた評価が可能となるのである7)0 【問題点⑤教師自信の問題1 :ワ-クシートに頼ってしまう自分の自信のなさ】の 解消 デ イ ア ナ は も う 各 章 の 理 解 度 を チ ェ ッ ク す るた め の ワ ー ク シ ー トの よ う な 教 材 は使 わ な か っ た 0 そ して , 子 ど もた ち は互 い に 話 し 合 い , 教 師 と も話 し合 つ た0. ク ラ ス全 体 に 配 るた め に ,. 1 冊 1 冊 の 伝 記 に つ い て 質 問 シ ー トを用 意 す る必. 要 が な くな っ た こ と は, 私 に と っ て ず い ぶ ん あ りが た い こ とで あ っ た 。 私 は 子 ど も と話 し合 い を お こ な い , 時 間 に応 じ て , 子 ど も ひ と り ひ と り と面 談 を お こ な っ た 0 そ れ は , 子 ど もた ち ひ と りひ と り を見 つ め る こ とで あ っ た 0. く知識)やくスキル)をとりたてたものであるワークシートを使わなくなった時, 教師は自由になる。精神的にも,時間的にも。そして,余った時間を子どもたちと の話し合いや面談に当てることができるようになる。 【問題点⑥教師自身の問題2 :基礎読本なしに読みの指導をどうおこなえばいいの かが分からない】の解消 子 ど もた ち が お こ な っ た 活 動 の 成 果 を 発 表 し合 っ た 時 も, 同 じ よ う に み ん な 熱 中 した 0 へ t/ ン . ケ ラ ー の 伝 記 を 読 ん だ 子 ど も は , ヘ レ ン . ケ ラ ー の 生 活 に 基 づ い た 日記 を こ し ら え た 0 彼 女 が そ れ を み ん な に 発 表 し た 後 , ヘ レ ン . ケ ラ ー に つ い て の 他 の本 を読 ん だ 子 ど もた ち と一 緒 に, 同 じ人 の伝 記 で も本 に よ っ て ど う ち が う か な ど を話 し合 っ た0 子 ど もた ち は 自 分 た ち の発 表 を互 い に 比 較 し た り, 対 照 し た り し な が ら, 自 分 の 読 ん だ 本 の こ と を話 し 合 っ た 。 デ イア ナ は, そ う した 発 表 の活 動 が , ク ラ ス の 子 ど も に次 の よ う な こ と を分 か らせ る 機 会 に な っ た と指 摘 し て い る 0 さ ま ざ ま な 意 見 や 表 現 の 方 法 が あ る こ と を 学 ん だ 0 彼 ら は , 最 も高 度 な読 み の 方 法 で あ る , 批 判 的 に 読 む こ と (rea d critic a lly ) を 学 ん だ 。 自分 が 読 ん だ こ との す べ て が 正 しい こ と で は な く, そ れ は あ る人 の 観 点 か らだ け 書 か れ て い る こ と を 学 ん だ 0 子 ど もた ち は, 読 み と っ た こ とに つ い て 考 え な け れ ば な ら な い ことを学ん だ0. 「基礎読本」を用いた指導においては,教師がく君臨〉しく注入)する授業を展 開することになる。 「基礎読本」には,何をく注入)すればよいかが明示されており,.
(11) 99. 「基礎読本」に頼り続けた教師は, 「基礎読本」がないと授業ができなくなってしま うであろう。 「文学を核にした指導」においては,子どもどうしのく分かち合い・高め合い〉 がおこなわれていく。 「基礎読本」を用いてみんな同じものを覚える学習ではなく, ひとりひとりが違ったものを学び,その成果をく分かち合い),そしてく高め合って〉 いく授業が展開されるのである。 5.教師の立場の変化-く知の伝達者)からく支援者)へ. 私は変わった0 日分が子 どもたちをコントロールしているという思いはな く 旦且 , その反対に, 自分が 自分 自身 をよりコントロー}t/できるようになったと 感 じている0 日分 のやったことに対 して, 肯定的に感 じるようになった0 教師 の役割 は, これ まではずつと, 「 知の伝達者」と見なされており, 教師たち もそ う思ってきた0 今, 私はそのようには考 えておらず, 子 どもたちが必要 とする 時 に, そばにいて助 けてあげた り, 示唆 した りす るコーチであると, 教師を見 なしている0 私は子 どもたちからた くさんのことを学んだのである0 子 どもたちが読 んでいる本のすべてを教師が読めるわけではない0 それなら 「 子 どもたちを補助す る仲間 として, 多少 とも役に立 とう」 と考え始めた0 面 談の中で, 分か らない単語のあるあた りを子 どもと教師が一緒 に読み, その文 章の意味 を理解するのにその単語が役立つか どうか をはっきりさせ るために, その本 について読 んで分かったことを発表し合 うのである0 デイアナは, もう 自分のことを「 質問を投げかけた り, 理解度をチェックした りする知の伝達者」 と見 なしてお らず, 子 どもたちを支 え, 子どもたちの必要 とす るものを知 るた めに彼 らを見つめ, 必要があれば小グループでの学習を構成 し, 本 に対する子 どもの反応 を引き出す 「 支援者 (facilitator)」 として自分 をとらえている0. ここには,教師ディアナが自分の立場を大きく変えたことが述べられている。こ れまでは,く知識)やくスキル)に関する質問を投げかけたり,理解度をチェックし たりするく知の伝達者)としての立場をとっていた。しかし今は,子どもたちが必 要とするものを知り,それをもとに学習活動を構成し,子どもたちの反応を引き出 そうとするく支援者〉としての立場に立つようになった。 教師ディアナは,こうした自分の変化に自信を持ち,やがて次のように, 「文学を 核にした指導」を他教科の頒域にまで広げていく。. 伝記を読む指導がうまくいったことによって,ディアナは他の教科領域でも 文学を使うことを増やした。子どもに理科や社会に関する本を読ませた。 「子ど もが本当にやってみたいことや,もし子どもがたくさんの参考文献を読めば, 自分で理解し,探索しようとすることを,教科書は反対に抑制してしまう」と.
(12) 100. ディアナは考えていた。 社会科の授業の時,ディアナは子どものためにたくさんの歴史小説を用意し た。子どもたちは喜んでそれらを読み,それは彼女に次のような信念を与えた。 子どもの知らない出来事や日時や場所について,本を読むことによって学習 するかわりに,歴史小説を読むことは歴史を生き生きとしたものにしてくれる。 児童たちは,突然,その時代の人々になり,話したり,行ったり,冒険をした りする。子どもたちは,何度でもそうする。そこには,当時の生活様式や人々 の受けていた圧迫,人々の考えが示されている。そうしたことにより,単に1 冊の本を読んで知ったこと,出来事について学習したりしたことではなく,千 どもの頭の中に当時のことが生き生きと存在するのである。. 教師ディアナは, 「文学を核にした指導」をおこなうことにより, 「基礎読本」の 呪縛から解き放たれ,自分の東で考えて授業を構成できる教師として生まれ変わっ たのである。 6.おわりに一洋の東西を問わない総合的な学習指導をおこなう際の問題このようにして,ディアナは, 「文学を核にした指導」を実践する中で,次のよう な問題をひとつひとつ解決していった。 ①指導内容と方法の問題点:何をどうやってみにつけさせればいいのか。 ②スキルの指導の問題点:作品を読み味わう中で読みのスキルをどの程度扱えばい いのか。 ③学習遅滞児の問題:学習がうまくいっていない子どもをどう扱うか。 ④評価の問題:読みの評価をどのようにおこなうのか。 (参教師自身の問題1 :ワークシートに頼ってしまう自分の自信のなさ。 ⑥教師自身の問題2 :基礎読本なしに読みの指導をどのようにおこなえばいいのか が分からない。 指導内容,指導方法,学習遅滞児のこと,評価方法,そして自分自身の鍛練,こ うした問題をひとつひとつ解決していくことにより,デイアナは教師として大きな 成長をとげた。その時代にふさわしい学習指導の方法を求めていくこと,それは単 なる小手先の教育技術を身につけるということではなく,教師が全人的に成長する ことにつながっているのである。 く知識)中心のとりたて指導ばかりの授業から,ひとりひとりが豊かに読むこと を重視した授業へと変えていく,つまり,より総合的な学習指導を展開しようとし た時に,教師がかかえる問題や不安は洋の東西を問わず共通しているところも多い であろう。言語・文化・制度すべてが異なった国の事例ではあるが,そうした意味 において,本論においてとりあげた教師ディアナの実践例は,さまざまな示唆を得 ることのできる実践であるに違いない。.
(13) 101. 注 1) 80年代後半より,全米にわたって展開されている「ホール・ランゲージ(whole language)」運動も, 「文学を核にした指導」の一種であるO 「ホール・ランゲージ」 は,この「文学を核にした指導」を,教室ですぐに実践できるようにパッケージ 化したものということができよう。 2 ) literature-based approach (approach based on literature)に「文学を核と した(指導)」という訳語を当てた例としては,松山雅子「イギリスの文学教育一文 字を核としたGCSE国語科カリキュラム(第4・5学年)-」 (大阪教育大学紀要, 第40巻,第2号第Ⅴ部門, 1992年,副題の英訳はA study of GCSE English Curriculumbased on literary works)がある。本論では, 「文学を核にした指導」 と訳すことにした。なお, 「文学を核にした指導」については,拙論「アメリカに おける文学を核にした国語科指導」 (『兵庫教育大学研究紀要』第14巻,第2分冊 (39-52) 1994年2月)にまとめた。 3 ) 1996年に公示されたNational Standards for English Language Arts (「国語 科のためのスタンダード」)においても, 「文学を核にした指導」などの総合的な 指導が求められている。 4 ) Donnna L. Wiseman. (1992) Learning to Read with Literature. Ally and Bacon.においては, 「文学を核にした指導」の中で取り上げる児童文学作品のジャ ンルを次のように分類している。 (彰伝統的文学:昔話,伝説,伝承歌など長い間 伝えられて,読み継がれてきたもの。 ②ファンタジーとサイエンス・フィクショ ン③歴史小説④ノンフイ?ション(日本で言う「ノンフィクション文学」とは異 なっている) 「情報を与えてくれる書物(informationalbooks)」という意味であ り,いわゆる「説明的文章」もこの中に含まれる。 ⑤詩⑥現代のリアリスティッ クな作品 5 ) Language (1983) Vol.3, Ginn and Company.より。. 6)前掲したDonnna L.Wiseman. (1992)に示された活動例を堀江が整理した。 7)ひとりひとりを生かすための評価の方法のひとつとして, 「ポートフォリオ評 価」が提唱されている。 「ポートフォリオ評価」については,拙論「アメリカにお けるく新しい)国語科学力評価の方法一学習者の学びの過程と成果を蓄積するポー トフォリオ評価-」全国大学国語教育学会紀要『国語科教育』第44集, 1997年3 月にまとめた。 参考文献 Standards for the English Language Arts. (1996) IRA and NCTE. Sierra-Perry. (1996) Standards in Practice Grades 3-5. NCTE. Blose, J. (1992) Moving toward a Literature-Based Reading Program, in Ohio-Reading-Teacher. vol.26 No.3 pp.3-5.. (はりえゆうじ・兵庫教育大学).
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