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可能自己の筆記が精神的健康とレジリエンスに及ぼす影響

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Academic year: 2021

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(1)平成24年度 学位論文 可能自己の筆記が精神的健康とレジリエンスに及ぼす影響. 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 人間発達教育専攻 臨床心理学コース. MllO69E  山内 大輔.

(2) 目次. 1.心身の健康に対する筆記の効果 2.筆記によるネガティブな感情の必要性 3.自己制御に基づく筆記 4.自己制御と可能自己 5.筆記とレジリエンス. 6.目的 7.仮説. 1.対象者 2.調査時期 3.実験場所・実験場面・環境設定 4.質問紙の構成 5.実験条件 6.筆記課題 7.手続き 8.筆記用紙の取り扱いについて. 第3章結果 1.分析対象者 2.筆記前の主観的Well−being・精神的健康度・レジリエンスの合計得点及び下位尺度得点 3.筆記条件と時期が主観的Well−being・精神的健康度・レジリエンスに及ぼす影響 4.筆記条件とうつ傾向と時期が主観的Well−being・精神的健康度・レジリエンスに及ぼす影響 5.筆記条件の即時的な影響 6,筆記1回目の筆記条件と時期による感情の変化 7.筆記2回目の筆記条件と時期による感情の変化 8.筆記3回目の筆記条件と時期による感情の変化 9.筆記条件とうつ傾向と時期による感情の変化 10.筆記体験や筆記内容に対する評価. 第4章考察 1.可能自己の筆記が精神的健康に及ぼす影響 2.可能自己の筆記が主観的WeH−beingに及ぼす影響 3.可能自己の筆記が精神的健康度に及ぼす影響 4.可能自己の筆記がレジリエンスに及ぼす影響 5.可能自己の筆記における即時的な影響 6.筆記体験や筆記内容に対する評価 7.本研究の課題 8.今後の展望. 第5章引用文献 添付資料 謝辞. 7 7 8 8 3 4 5 777799 22 24 26 20 32 33 34 3 10 12 16 18 18 10 2 2 2 2. 第2章方法. −1∩∠ハ∠ハ﹂40000. 第1章問題と目的. 35.

(3) 第1章 問題と目的 1.心身の健康に対する筆記の効果  現在,筆記が心身の健康にもたらす影響について,調査した研究. が数多くみられる。例えばPennebaker&Beall(1986)は,トラ ウマに関する出来事を筆記することが短期的・長期的に健康に及ぼ す影響を検討している。その結果,トラウマに関する感情と事実を 筆記した群では,トラウマに関する感情を筆記する群・トラウマに 関する事実を筆記する群・些細な話題を筆記する群と比べて,実験 前と実験終了6カ月後で,病気による学生健康相談センターの訪問 回数が有意に低下していたことを報告している。またSmyth(1999) は喘息患者やリウマチ患者において,ストレスの強い体験について 筆記することが症状に影響を及ぼすかについて検討した結果,筆記 4カ月後において,ストレスの強い体験について筆記した喘息患者 は一日のスケジュールを筆記した喘息患者と比べて,心肺機能が筆 記前よりも改善したことを報告している。またストレスの強い体験 を筆記したリウマチ患者も,一日のスケジュールを筆記したリウマ チ患者と比較して,症状が筆記前よりも改善したことを明らかにし ている。.  このような筆記の研究は,欧米だけでなく日本でも行われている。 塚原・矢野・新山・太田(2010)はトラウマの感情と事実を筆記す. ることで,GHQの得点およびIES−Rの得点が有意に低減したこと を報告している。また遠藤(2009)は怒り体験の感情と内容につい て筆記した群では,実験前と比べて実験1カ月後において状態怒り が有意に減少したこと,また不安や不眠も減少したことを示してい る。このように,筆記は身体症状や精神の状態に影響を及ぼすこと が明らかにされている。.  その一方で,Pennebaker&Beall(1986)では,トラウマについ て筆記した参加者は筆記直前よりも筆記直後において不安,疲労感, 悲しみなどのネガティブな感情が高くなることを報告している。遠 藤(2009)においても怒り体験の筆記によって,筆記課題実施直後 に状態怒りや敵意が有意に高くなることを示している。Pennebaker (1997)も動揺した体験について筆記することは苦痛をもたらすが 長期的には気分とWell−beingの改善が生じることを示唆している。.

(4) 2.筆記によるネガティブな気分の必要性  筆記によって一時的に生じるネガティブな感情は,精神的健康と 関連しているのだろうか。Frattaroli(2006)によると,筆記研究 の初期において,筆記の効果はカタルシスの効果で説明される。つ まり,ネガティブな感情を表出することで,精神的健康が改善する と考えられる。しかしSmyth(1998)は筆記による情動表出と持続 的な健康の関係を調べるために,筆記による情動表出に関する文献 のメタ分析を行っている。その結果,筆記作業が有意に健康改善と 関連していることを明らかにしている。また筆記直前よりも筆記直 後に有意な苦痛の上昇があるが,この苦痛は健康に関連していない ことが示されている。さらにPennebaker(1997)は,ポジティブ な情動語の使用がのちの継続的な健康の改善につながること,適切 なネガティブな情動語は健康を予測すること,そして「何故なら」 「その理由は」「理解した」「気づいた」などの因果関係と洞察を示 す語の増加は健康の改善と関係していることという,3つの言語的 要因が身体的健康を予測すると述べている。つまり,ネガティブな 感情が生じなくとも,精神的健康の改善が予想される。 3.自己制御に基づく筆記  先行研究において,筆記の題材に取り上げられた内容は,トラウ マ体験や怒り体験といったネガティブで個人的な内容である。この ような内容の筆記によって,ネガティブな感情が生じるのは当然に 思える。Greenberg&Stone(1996)は学生を対象に想像上のトラ ウマの筆記によって健康の改善が生じるかを検討している。想像上 のトラウマを筆記した参加者は筆記直後,実際のトラウマを筆記し た参加者よりも有意に気分の落ち込みが少なかったが,実際のトラ ウマを筆記した参加者と同様に怒りや恐怖を感じていたことを報告 している。さらに想像上のトラウマを筆記した参加者と実際のトラ ウマを筆記した参加者は,感情を伴わない些細な話題を筆記した統 制群と比較して,有意に医療機関訪問数が少ないことを明らかにし ている。これは想像上のトラウマの筆記によって感情調整を強化し ていると考えられる。この考えは,自己制御の考えに基づいている。  自己制御(Self・regulation)とは,「自分の考えや感情,行動を 制御する意識的・意図的努力」を指す(1.eary,Adams,&Tate,2006)。. 宇佐美・田上(2012)は,自らの欲求に基づく行動を抑えるという 0白.

(5) 自己制御が拐うつ低減に結びつくと述べている。このことから,自 己制御は精神的健康を促進すると考えられ,筆記によって生じた感 情を自分自身で制御できたことが,精神的健康の改善につながると いえるだろう。King&Miner(2000)はトラウマティックな出来事の 肯定的な側面の筆記が,トラウマの筆記と同じように健康的な恩恵 をもたらす可能性を検討した結果,トラウマのみを筆記した群とト ラウマの肯定的側面のみを筆記した群では,靴を筆記した統制群と 比較して,筆記3カ月後と筆記5カ月後で医療機関の訪問数が有意 に低かったことを示している。そしてネガティブな出来事の肯定的 な側面の筆記は,個人が経験によって生じた感情を能率的に処理す. る自己制御過程を促進するかもしれないと考察されている。 Cameron&Nicholls(1998)はストレスの強い体験に関する考えや 感情を探索させるだけでなく,それらの問題に対する特定の方法に 対する選択・実行・評価するのに役立つ自己制御課題(大学入学で の問題に関する考えや感情,そして,それに関する対処プラン)の 筆記の効果を検討した結果,自己制御課題の筆記によって医療機関 訪問数が低下したことを示している。また実験の前後で統制群や開 示群ではネガティブな気分が上昇したが,自己制御課題群ではネガ ティブな気分の上昇が見られなかったと述べている。  このように,自己制御に焦点を当てた筆記は,従来のトラウマ体験 のようなネガティブな内容の筆記に比べて,ネガティブな感情や気 分の上昇が少ないか,もしくは生じにくいと考えられる。さらにネ ガティブな内容の筆記と同等の精神的健康の促進が得られると思わ れる。. 4.自己制御と可能自己  個人が抱く目標は,自己制御処理のきっかけであると言われてい る(Austin&Vancouver,1996)。 King(2001)はネガティブな感 情を伴わない自己制御課題として可能自己を取り上げている。可能 自己とは,「なりたい自分・なれそうな自分・なりたくない自分のこ と」であり,人生の目標である(Markus&Nurius,1986)。 King (2001)は大学生を対象にトラウマ,最高可能自己,トラウマと最. 高可能自己の両方,無感情統制話題の4つの内の1つを筆記する実 験を行っている。そして 3週間後に,対象者の主観的 Well・being を測定した結果,最高可能自己を筆記した対象者はトラウマを筆記 3.

(6) した対象者よりも有意に動揺が少なく,統制群と比較して主観的 Well・beingが有意に高かったことを報告している。  このように,トラウマのようなネガティブな内容以外の筆記によ っても精神的健康が促進されることが報告されている。我が国では トラウマや怒り体験といった,ネガティブな感情を引き起こす内容 の筆記や認知的再評価を促進するような構造化された筆記開示の効 果(伊藤・佐藤・鈴木,2009)に焦点を当てた研究がみられる。し かし,ネガティブな感情を引き起こさない内容の筆記の効果を検討 した研究は少ない。例えば,織田・堀毛・松岡(2009)では,クラ イエントに自身の問題の記載を求める気がかり日記と,肯定的な側 面を記載させる課題を与える良いこと日記という日記筆記の効果が. 性格特性の違いによって異なるかを検討している。その結果,日記 筆記課題は神経症傾向の高い人よりも低い人の方が適うつ・不安を 弱めることを明らかにしている。織田(2010)は,日記筆記が感情 に及ぼす効果を検討しており,筆記中において気がかり日記よりも 良いこと日記の方が,肯定的感情が高いことを報告している。これ らの研究以外に,ネガティブな感情を引き起こさない筆記の内容に 焦点を当てた研究は今のところ見当たらない。そこで我が国におい ても,ネガティブな感情を引き起こさない筆記について検討するこ とは,筆記の知見を深める上で,また臨床場面における支援につな がる有意義な研究だと考えられる。.  そこで本研究では,King(2001)にならい,ネガティブな感情を 引き起こさない内容として可能自己を取り上げ,また精神的健康の 指標として主観的Well・beingを取り上げる。そして,可能自己につ いて筆記する可能自己群と,筆記終了後の予定について筆記する予 定群を設定し,可能自己の筆記が精神的健康に及ぼす影響について, 実験的に検証することを第一の目的とする。 5.筆記とレジリエンス  精神的健康を促進することも重要であるが,困難な状況に直面し た時に,上手く適応することまたは回復することも必要である。困 難な状況に直面した時に上手く適応することを説明する概念として レジリエンス(Resilience)が注目されている。  レジリエンスとは「困難で驚異的な状況にもかかわらず,上手く 適応する過程・能力・結果」のことである(小塩・中谷・金子・長 4.

(7) 峰,2002)。American Psychological Assosiation(2012)によると,. レジリエンスは構築できると述べている。American Psychological. Assosiation(2012)は,レジリエンスを構築する方法の1つとし て,「希望的な展望を維持すること」を挙げている。具体的には,や りたい事を視覚化することだと述べている。やりたい事とは,目標 に通ずるものであり,可能自己は人生の目標であることから,可能 自己を筆記することはレジリエンスの構築につながると思われる。  レジリエンスを捉える尺度をみると,精神的回復力尺度(小塩・ 中谷・金子・長峰,2002),レジリエンス尺度(森・清水・石田・ 富永・Chok,2002),二次元レジリエンス要因尺度(平野,2010) が作成されている。これらの尺度には,「肯定的な未来志向(小塩ら,. 2002)」「IWILL(森ら,2002)」「楽観性(平野,2010)」という因. 子が含まれており,これらの因子に共通することは,未来への志向 性を含んでいることである。つまり未来への志向性を持つことがレ ジリエンスを高めることにつながると考えられる。Markus&Nurius (1986)によれば,可能自己はその人が自身の可能性や未来に対す る考えであると述べていることから,未来に対する志向性を含んで いると考えられる。これらのことから,可能自己を筆記し視覚化す ることは,レジリエンスを高めることが予想される。  では,筆記は「視覚化」としての機能を持つのだろうか。Pham& Taylor(1999)は心理シミュレーションが思考と行動の結びつきを 強めるとし,目標達成プロセスの心理シミュレーションと目標達成 の結果のシミュレーションを比較している。心理シミュレーション の手段として,筆記による視覚化を行っている。筆記が視覚化の方 法として用いられていることから,筆記は視覚化としての機能を有 すると考えられる。したがって,可能自己の筆記によって,未来へ の志向性を視覚化することでレジリエンスが高まると予測される。  そこで本研究では第二の目的として,可能自己の筆記がレジリエ ンスに及ぼす影響について検討する。.  レジリエンスは上記の様に捉えられるが,小塩ら(2002)はレジ リエンスを適応の過程,能力,結果のどの部分に焦点を当てるかは 研究者によって異なっており,統一的な見解は見られないと指摘し ている。レジリエンスを適応の過程や結果と考えた場合,レジリエ ンスの測定・評価は困難だと思われる。しかし,レジリエンスを能 力と捉えた場合,レジリエンスを高めることや構築することが可能.

(8) になると考えられる。そこで,本研究では,レジリエンスを「困難 な状況にもかかわらず、上手く適応するための能力」と操作的に定 義し,研究を進める。. 6.目的  本研究では,可能自己の筆記が主観的Well・being,精神的健康に. 及ぼす影響ついて,実験を用いて検討する。また具体的には,可能 自己を筆記する群(以下,可能自己群)と対照群(実験終了後の予 定について筆記する群。以下,予定群)を設定し,可能自己の筆記 がレジリエンスに及ぼす影響についても検討する。 7.仮説 仮説①.  可能自己群は予定群よりも主観的We11・beingが高くなるだろう。 仮説②.  可能自己群は予定群よりも精神的健康が高くなるだろう。 仮説③.  可能自己群は予定群よりもレジリエンスが高まるだろう。. 6.

(9) 第2章 方法 1.対象者.  A県内のB大学の大学生及び大学院生34人が実験に参加した。 2.調査時期  2012年8月中旬∼11.月上旬にかけて実験を実施した。. 3.実験場所・環境設定.  実験はB大学内にあるB大学心理臨床発達研究センターのセミナ ー室で行われた。セミナー室の窓はブラインドを下ろし,室温は25 度に設定した。実験を短期間で終わらせるために,実験は2人で行 われ,対象者には席を離れて座ってもらった。1人しか実験に協力 できなかった場合,実験者がサクラを配置し,2人で実験を行うよ うに統制した。. 4.質問紙の構成 ①主観的Well・beingの測定と得点化について  主観的Well−beingを測定するために,寺崎・綱島・西村(1999) の作成した人生に対する満足感尺度を用いた。この尺度は24項目4 件法で,「現在満足」「過去満足」「未来希望」の3因子から構成さ れ,各因子は8項目ずつである。「全く一致しない」を1点,「一致 しない」を2点,「一致する」を3点,「完全に一致する」を4点と して評定した。.  得点化の際には,「全く一致しない」を1点,「一致しない」を2 点,「一致する」を3点,「完全に一致する」を4点として得点化し た。逆転項目では,「完全に一致する」を1点,「一致する」を2コ口 「一致しない」を3点,「全く一致しない」を4点とした。そして, 24項目の合計点,下位尺度「現在満足」「過去満足」「未来希望」の 得点を算出した。. ②精神的健康度の測定と得点化について  精神的健康度を測定するために,Goldberg(1972)により作成され たGeneral Health Questionnaireの日本語短縮版(中川・大坊,1985). を用いた(以下,GH:Q28と記す)。「身体的症状」7項目,「不安と 不眠」7項目,「社会的活動障害」7項目,「うつ傾向」7項目に関す 7.

(10) る28項目からなり,「できた/たびたびあった(1点)」「いつもと変 わらなかった/あった」「いつもよりできなかった/あまりなかった」. 「まったくできなかった/まったくなかった」の4段階で評定を求 めた。.  得点化の際には,「まったくなかった/できた」と「あまりなかっ た/いつもと変わらなかった」を「1」点,「あった/できなかった」. と「たびたびあった/まったくできなかった」を「0」点と点数化 し,得点が高くなるほど,精神的健康度が高くなるように,得点化 した。そして,合計得点および下位尺度「身体的症状」「不安と不眠」 「社会的活動障害」「うっ傾向」の得点を算出した。. ③レジリエンスの測定と得点化について  レジリエンスを測定するために,精神的回復力尺度(小塩・中谷・ 金子・長峰,2002)を用いた。この尺度は24項目で構成され,「新 奇性追求」「感情調整」「肯定的な未来志向」の3因子からなる。「は い」を5点,「どちらかというとはい」を4点,「どちらでもない」 を3点,「どちらかというといいえ」を2点,「いいえ」を1点とし て評定を求めた。.  得点化の際には,「はい」を5点,「どちらかというとはい」を4 点,「どちらでもない」を3点,「どちらかというといいえ」を2点, 「いいえ」を1点として得点化した。逆転項目では,得点を反転さ せて得点化した。そして,精神的回復力尺度の合計得点及び下位因 子「新奇性追求」「感情調整」「肯定的な未来志向」の得点を算出し た。. ④感情の測定と得点化について  筆記の即時的な影響を調べるために,筆記直前・直後の感情の変. 化を測定した。その際,佐藤・安田(2001)の作成したPANAS日 本語版を用いた。この尺度はポジティブな感情(以下,PA)8項目,. ネガティブな感情(以下,NA)8項目,合計16項目からなる。「全 く当てはまらない」を1とし,「非常によく当てはまる」を6とす る6件法で評定を求めた。  得点化の際には,「全く当てはまらない」を1点とし,「非常によ. く当てはまる」を6点して得点化した。そしてPA得点とNA得点 を求めた。 ︵0.

(11) ⑤振り返りの測定と得点化について  実験協力者が筆記の内容や体験をどのように捉えたかを知るため に,振り返りの質問を行った。質問は「3回の筆記で書いた内容は, あなたにとってどれくらい重要でしたか」「3回の筆記は,あなたに とってどれくらい有意義でしたか」「3回の筆記で,あなたはどれく らい気づきがありましたか」「3回の筆記は,あなたにとってどれく らい難しかったですか」「3回の筆記で,あなたはどれくらい詳細に 書けましたか」の5項目であった。回答は「全く重要でなかった/ 全く有意義でなかった/全くなかった/全く難しくなかった/全く 書けなかった」を1点とし,「非常に重要だった/非常に有意義だ った/非常にあった/非常に難しかった/非常に書けた」を7点と した7段階で求めた。  得点化の際には,「全く重要でなかった/全く有意義でなかった/ 全くなかった/全く難しくなかった/全く書けなかった」を1点と し,「非常に重要だった/非常に有意義だった/非常にあった/非常 に難しかった/非常に書けた」を7点として得点化した。 5.実験条件  実験では,可能自己群と予定群を設定し,実施した。可能自己群 では,可能自己について筆記してもらい,予定群では,実験後の予 定について客観的に筆記してもらった。 6.筆記課題  筆記は1回15分,週1回のペースで3回行った。筆者はKing(2001). とPennebaker(1997)を参考にし,可能自己群と予定群の教示文 を作成した。筆者は可能自己群には可能自己についての筆記を求め, 予定群では実験終了後の予定についての筆記を求めた。  可能自己群では,対象者に対して「これから,未来のあなたの生 活について考えてください。全てが可能な限り上手くいっているこ とを,できる限り詳細に想像してください。あなたは一生懸命働き, 人生の目標を達成しています。あなたの夢がすべて実現するものと して考えてください。今,あなたが想像したことを書いてください。 誤字脱字や句読点,文法を気にせずに,ただ書いてください。時間. は15分間です。15分間書き続けてください。書くスペースが無く なったら,裏に書いてください。」という教示文が書かれた筆記用紙 9.

(12) を渡した。そして,実験者が「プリントに書かれているテーマにつ いて文章を書いて下さい」と対象者に口頭で教示し,15分間筆記し てもらった。可能自己群では,筆記1回目から筆記3回目まで同じ 教示文を用いた。.  予定群に対しては「これから,今日,この実験が終了してから 就寝までに,あなたがどのように行動するであろうかについて,で きる限り正確かつ客観的に書いてください。誤字脱字や句読点,文 法を気にせずに,ただ書いてください。時間は15分間です。15分 間書き続けてください。書くスペースが無くなったら,裏に書いて ください。」という教示文が記された筆記用紙を渡した。そして,実 験者が「プリントに書かれているテーマについて文章を書いて下さ い」と対象者に口頭で教示し,15分間,筆記してもらった。 7.手続き.  実験協力依頼の広告を作成し,講義中に配布もしくは学内に掲示 して,対象者を募集した。そして対象者を無作為に可能自己群と予 定群に振り分けた。.  実験は週1回行われ,4週間続けられた。実験1回目から3回目 では筆記を行い,そして実験4回目で効果測定を実施した。  実験1回目では,協力可能な対象者に対して,研究における注意 事項を説明し,それに同意した方に同意書の記入と実験の参加を依. 頼した。実験1回目では,対象者は筆記前にPANAS日本語版・人 生に対する満足度尺度・G:HQ28・精神的回復力尺度を記入した。そ. の後,15分間の筆記を行った。筆記後,PANAS日本語版に記入し た。.  実験2回目では,筆記前に,対象者はPANAS日本語版を記入し た。その後,15分間の筆記を行い,筆記後,PANAS日本語版に記 入した。.  実験3回目では,対象者は筆記前にPANAS日本語版を記入し, その後15分間,筆記を行った。筆記後,PANAS日本語版を記入し た。.  実験4回目に効果測定として,対象者は人生に対する満足度尺 度・GHQ28・精神的回復力尺度・振り返りに記入した。記入後に, 実験:者は対象者がこれまで3回の実験で筆記した用紙を返却し,謝 礼を渡した。 10.

(13)     実験1癒疑〈以下,Pre> 筆詑前:入生に対する満星度尺度・GHQ28・.     綾禅的園丁力尺?sPANAS.  筆認後:PANAS. 畢 実験2翻蟹:実験1回自から1函南後.    筆記前:PANAS    筆記後;PANAS. 畢 実験3園自:実験2圃員から1週間後.    筆記前:PA翼AS.    筆記後:PANAS. 畢  効果三三(以下,P◎s⇔   :実験3嗣昌から1週間後 効果測定:人生に対する満足尺度.   G猛Q28・精神的翻復力尺度 Figure 1 実験の流れ. 11.

(14) 8.筆記用紙の取り扱いについて  筆記の利点は,一人で実施可能なことである。その際,筆記した 内容は他者に見られないことを前提としている。したがって,本研 究においても,実験者が筆記した内容を見ないように筆記内容を取 り扱った。.  実験1回目から3回目まで,対象者が15分間の筆記を終えた後, 実験者は対象者に封筒を渡し,その封筒に実験の回数と調査IDを 書いてもらった。その封筒に,筆記した用紙を入れてもらった。実 験者は対象者の前で封筒に厳重に封を閉じ,封筒を預かった。そし て次回の実験で,実験開始前に,実験者の閉じた封筒が開封されて いないかを対象者に確認してもらった。.  実験1回目から3回目で預かった封筒は4回目に対象者に返却し た。. 12.

(15) 第3章 結果 1.分析対象者について.  本研究の実験には,大学生及び大学院生34人が参加した。その 内,効果測定の分析には,途中実験に参加できなくなった協力者の デ・一一・タや欠損値のあったデータを除いた26人(男性16人・女性10. 人)のデータを用いた。条件の内訳は,可能自己群12人(男性6 人・女性6人),予定群14人(男性10人・女性4人)であった。 平均年齢は20.00歳(SD=1.36)であった。  即時的な影響の分析には,途中実験に参加できなくなった協力者. のデータや欠損値のあった協力者のデータを除いた32人のデータ を用いた。その内訳は,可能自己群15人,予定群17人であった。. 13.

(16) 2.筆記前の主観的We11・being・精神的健康度・レジリエンスの合  計得点及び下位尺度得点  Preにおいて,可能自己群と予定群で主観的Well−beingを測定す る人生に対する満足感尺度・精神的健康度を測定するGHQ28・レジ リエンスを測定する精神的回復力尺度の合計得点及びそれぞれの下 位尺度得点に差がないかを調べるために,対応のないt検定を行っ た(Table1)。その結果,筆記前において精神的回復力尺度の下位 尺度である「感情調整」で有意差が見られた(t=・2.55,df…・24,p<.05)。. この結果から,予定群の方が可能自己群よりも「感情調整」が高い と読み取れる。本研究では,可能自己群において,Postにレジリエ ンスが高まると考えているため,このまま分析を続けた。  感情調整以外に,有意差は見られなかったため,本研究では人生 に対する満足度尺度・GHQ28・精神的回復力尺度の合計点及び下位 尺度得点を分析に用いた。 Table 1実験前の各尺度の合計点及び下位尺度得点の平均点と標準偏差 可能自己(N=12). M. SD. 予定群(N=14). M. SD. t値. 人生に対する満足度. 70.25. 3.65 68.00.   現在満足   過去満足   未来希望. 23.33. 2.06 21 .43. 22.83. 2.85 一〇.33. 24.08. 1.70 23.14 1.78 23.43. 20.67. 5.38 22.57. 4.42. 一〇.99. 4.33. 1.83 4.86 1.86 5.29 1.78 6.07 0.83 6.36. 1.99. −O.69. 1.44. −O.83. 1.21. −1.11. 1 .34. −O.43. GHQ28合計  身体症状  不安・不眠 社会的活動障害. 4.75.   うつ. 6.17. 精神的回復力. 5.42. 6.67 1.04 2.31 2.20 2.53 O.75. 72.08. 8.08. 78.29. 8.32. 一1.92.  新奇性追求. 25.83. 4.32. 27.00. 4.06. −O.71.  感情調整. 26.17. 5.81. 30.86. 3.42. −2.55’. 肯定的な未来志向. 20.08. 2.84. 20.43. 3.01. 一〇.30. *p〈.05. 14.

(17) 3.筆記条件と時期が主観的Well・being・精神的健康度・レジリエ ンスに及ぼす影響  筆記条件の違いが主観的WeIl・being・精神的健康度・レジリエン スの変化に及ぼす影響を調べるために,独立変数を筆記条件(可能 自己群・予定群)と時期(Pre・Post)とした,二要因の分散分析 を行った (Table2)。その結果,主観的Well・beingを測定する人生 に対する満足度尺度の下位尺度である,「現在満足」(F(1,24)=4.18, .ρ<.10)と「過去満足」(F(1,24)=3.47,p<.10)で時期の主効果に有. 意傾向が見られた。また「未来希望」において,有意な時期の主効 果が見られた(ア(1,24)=4.80,p〈.05)。下位尺度において,時期の. 主効果が見られたことから,「過去満足」と「未来希望」において,. 筆記内容にかかわらずPostの方がPreよりも高いだろうと解釈で きる。「現在満足」については,PostがPreよりも低いと言える。.  レジリエンスにおいては,精神的回復力尺度の合計点 (F(1,24)ニ4.53, 、ρ<.05) と  「感f青調整」 (F(1,24=7.99,p<.05)) に. おいて5%水準で有意な条件の主効果が見られた。これらのことか ら,精神的回復力尺度の合計点と「感情調整」において,予定群が 可能自己群よりも高いと読み取れる。 Table 2筆記条件と時期に関する分散分析の結果.  予定群   条件. 可能自己 Pre. Post. Pre    Post   F値. 人生に対する満足度. 70.25(3.65) 70.08(5.55) 68.36(7.13) 69.14(8.82). 時期  交互作用. F値  F値. O.31. O.20. 現在満足. 23.33(2.06) 21.92(3.03) 21.64(2.50) 21.21(3.68). 1.30. 4.1 st. 1.20. 過去満足. 20.83(1.70) 23.92(2.19) 23.12(2.94) 23.29(3.75). 0.Ol. 3.Ost. 2.34. 未来希望. 24.08(1.78) 24.25(2.83) 23.50(2.62) 24.64(2.50). O.O1. 4.80“. 2.67. GHQ28合計. O.46. 20.67(5.38) 21.67(4.79) 22.57(4.42) 23.36(5.71). 1 .04. O.87. O.Ol. 身体症状. 4.33(1.83) 4.58(2.02) 4.79(1.83) 5.64(1.50). 1.47. 3.96. O.73. 不安・不眠. 4.75(1.86) 4.25(2.42) 5.36(1.50) 5.00(1.75). 0.99. 2.03. 0.06. 社会的活動障害. 5.42(1.78) 6.42(1.00) 6.07(1.21) 6.14(1.70). 0.18. 226. 1.69. うつ. 6.17(O.83) 6.42(O.90) 6.36(1.34) 6.57(1.34). 0.19. 1.26. 0.Ol. 4.53零. 1.15. O.42. 精神的回復力尺度. 72.08(8.08) 72.67(7.96) 77.64(7.85) 80.00(9.66). 新奇性. 25.83(4.32) 26.42(2.50) 26.50(3.67) 27.07(3.91). O.28. 0.65. 0.oo. 感情調整. 26.16(5.81) 26.08(6.01) 30.64(3.43) 31.64(4.11). 7.99.  糟. 0.40. O.56. 肯定的未来志向. 20.08(2.84) 20.17(3.79) 20.50(3.08) 21.29(3.22). 0.40. 1.37. 0.90. t〈.10 *p〈.05 **p〈.O1. 15.

(18) 4.筆記条件とうつ傾向の程度と時期が主観的Well・beingと精神的  健康とレジリエンスに及ぼす影響  Pennebaker&Seagal(1999)は,比較的重度の這うつ傾向にあ. るものは筆記の恩恵を得にくいと述べている。そこで,Preの GHQ28の下位尺度である「うっ傾向」の得点の平均点を基準にして, 高群と低群に分けた(以下,うつ傾向の程度)。そして,条件(可能 自己群と予定群)と時期(PreとPost),うっ傾向の程度を独立変 数とし,人生に対する満足度と精神的回復力尺度の合計点及び下位 尺度得点を従属変数とした,三要因分散分析を行った(Table3)。 各条件の内訳は,可能自己を筆記し,うっ傾向が低かった群が5人・ 可能自己を筆記し,うっ傾向が高かった群が7人・実験後の予定を 筆記し,うつ傾向が低かった群が11人・実験後の予定を筆記し,. うつ傾向が高かった群が3人となった。Preの時点での,GHQ28の 下位尺度得点である「うつ傾向」を独立変数としたため,GHQ28 については従属変数に加えなかった。.  その結果,人生に対する満足度の下位尺度である「現在満足」 (F(1,24)=3.07,.ip<.10)・「過去満足」(F(1,24)=3.51, p〈.10)・. 「未来希望」(F(1,24)=3.38,p<.10)において時期の主効果に有. 意傾向が見られ,「現在満足」ではPostの方がPreよりも低いとい える。また「過去満足」と「未来希望」では,Postの方がPreより も高いと解釈できる。.  精神的回復力尺度の下位尺度である「感情調整」において条件の 主効果(F(1,24)=5.96,p<.05)が見られており,予定群の方が可. 能自己群よりも高いといえる。「肯定的な未来志向」において,うつ 傾向の程度の主効果(F(1,24)=3.82,p<.10)に有意傾向が認めら. れ,うっ傾向低群の方がうっ傾向高群よりも高い。  交互作用については,精神的回復力尺度である「新奇性追求」に おいて,うつ傾向の程度と時期の交互作用に有意傾向(F(1,24)= 3.09,p<.10),条件とうつ傾向の程度と時期の交互作用(F(1,24). =4。60,p<.05)が確認された。条件とうつ傾向の程度と時期の交 互作用が見られたため,うっ傾向の程度と時期の交互作用よりも, こちらを分析した。条件とうっ傾向の程度と時期の交互作用が見ら れたため,単純主効果の検定を行った結果,可能自己群において, うつ傾向の程度と時期の交互作用が見られた。単純主効果の検定を 行った結果,うつ傾向低群において,時期の単純主効果が認められ 16.

(19) た。可能自己を筆記したうっ傾向低群はPostの方がPreよりも高 くなっていたが,可能自己を筆記したうつ傾向高群ではPostとPre に差は見られなかった。予定群では,うっ傾向の程度や時期によっ て差は見られなかった。.  精神的回復力尺度である「感情調整」についても,うつ傾向の程 度と時期の交互作用に有意傾向(F(1,24)=3.60,p〈.10)が見られ. た。単純主効果の検定を行った結果,単純主効果は認められなかっ た。. Table 3筆記条件とうつ傾向の程度と時期に関する分散分析の結果 Well合計  現在満足  過去満足  未来希望  Resili合計 新奇性   感情調整  肯定的未来志向. 可能自己高. 低. Pre. 69.86(2.73) 22,86(1.21) 23,00(1.15) 24.00(IJ5) 72.29(8,58) 26.86(3,44) 26.14(7,29) 19.29(3,55). Post. 69,14(6,67) 2157(3,41) 23.86(2,61) 23Jl(3D9) 69.43(8,96) 25.14(1,95) 25,57(7,63) 18Jl(4,23) 70.80(4.97) 24.00(2.92) 22.60(2,40 24.20(2,28) 71.80(8,31) 24,40(5.41) 2620(3.63) 21,20(O.84). 予定群高. 低. Post. 71,40(3,78) 22,40(2,70) 24.00(1,73) 25,00(2,55) 77,20(3.11) 28,20(2,17) 26,80(3.27) 22.20(1,92). Pre. 65.00(9.54) 2133(4」6) 21.00(3.61) 22.67(2,08) フ5,6ア(10.26)24,00(5,5フ) 32,67(2.08) 19.00(3」)0). Post. 66,00(16.00)2100(7.00) 21,67(6,51) 23.33(2,52) 74,00(10.58)25,00(5.29) 30,00(2,65) 19.00(3,00). Pre. 6925(6,60) 21J3(2.15) 23.82(2.60) 23,73(2,80) 78.18(7,59) 27.18(2,99) 30,09(3,59) 20,91(3.08). Post. 70,00(6.80) 21,27(2.80) 23,73(2,97) 25.00(2.55) 81,67(9.23) 27,64(3.59) 32.09(4.41) 21.90(3,11). うつ塒期 時期. 条件. 条件x時期 条件xうつ. 条件xうつx時期. 3. り一■$. うつ. 8n. 検定結果. n,s, n,s. n,s, n,s.. n.s. n.s.. n,s.. n.s,. n,s, 3.09t. 3.60t. n,s. n,s,. n.s,. n,s..  掌 5.96. n.s,. n,s, n.s, n.s. n.s, n,s, n.s,. n.s.. n.s.. n.s. n,s. n,s, n,s.. n.s. n,s.. n,s,. n,s.. n.s, n,s. n,s. n.s,. n,s, 4,60    ホ. n,s.. n,s,. n,s.. n,s.. n.s,. 3,07t. 3,51t. 3.3st. n,s,. n.s,. n,s.. n,s,. n.s,. n.s, n.s,. †〈_10 *pく」D5. 17.

(20) 5.筆記条件の即時的な影響について  筆記による即時的な影響を調べるために,セッションごとに筆記 条件と時期を独立変数とし,PAとNAを従属変数とした二要因分散 分析を行った。. 6.筆記1回目の筆記条件と時期による感情の変化.  筆記1回目では,PAにおいては,条件の主効果に有意傾向 (F(1,30)=3.70,p<.10),1%水準で有意な時;期の主効果(F(1,30). =8.12,p<.01)と交互作用(F(1,30)=9.56, p<.01)が認められた. (:Figure2)。交互作用が認められたことから単純主効果の検定を行. った結果,可能自己群において,筆記直後の方が筆記直前よりもPA が高かった。予定群においては,筆記直前と筆記直後に差は見られ なかった。.  NAにおいては,条件の主効果や時期の主効果,交互作用は確認 されなかった(Figure3)。. 3・・◎◎. **. l:1::1. 多 25.◎◎!. な  i.    ま 羅 23・o◎1 一tW予定群ミ Ln.t−ttttt v一一ttttttt−Lwttttt”t−t. 一“ttvtt“. 21・◎・ **. 吹q,Ol.    裂  0.00.  筆記直麟    筆記直後 Figure 2筆記1國日の筆詑条件によるPAの変化. 18.

(21) 18.00. 16.00  0           0.  1占          −占.  0      0.  な     2. ネガティブな 感 情.        ,灘      dp dP   d一 一 纒P’. 一癖一可能自己. 一W予定群. 。.oo.     筆記直前       筆記直後. Figure 3筆記1回目における筆記前後のNAの変化. 19.

(22) 7.筆記2回目の筆記条件と時期による感情の変化  筆記2回目において, PAでは(Figure4),条件の主効果につい て有意傾向が見られた(F(1,30)=3.08,p<.10)。この結果から,可. 能自己群の方が予定群よりもPAが高いと読み取れる。 NAについ ては,条件,時期,交互作用に有意差は認められなかった(Figure5)。. 23.00. 孝 ポ 姦.  21.00. 壬・9…. 墾卜噛■D●r.. 情.      ●●閣. 一←一可能自己. 一W予定群.  17.00. 15.00.   筆記直前       筆記直後. Figure 4筆記2回目における筆記前後のPAの変化. 20.

(23) 16.00.                り. 1ゐ             −占. 0        ゆ 亀        2. ネガティブな感情. ■■Pt一可能自己. 一繊レ予定群. 10.00.   筆記直前       筆記直後. Figure 5筆記2回目における筆記前後のNAの変化. 21.

(24) 8.筆記3回目の筆記条件と時期による感情の変化  筆記3回目において, PAでは,筆記条件の有意傾向(F(1,30) =3.65,p<.10),時期の主効果(F(1,30)=8.42, p<.01),筆記条件. と時期の交互作用(F(1,30)=8.06,p<.01)が認められた(Figure6)。. 交互作用が認められたことから単純主効果の検定を行った結果,可 能自己群において,筆記直前よりも筆記直後の方が,PAが高いと解 釈できる。予定群については,筆記直前と筆記直後で有意な差は見 られなかった。NAについては,筆記条件と時期の交互作用に有意 傾向(F(1,30)=3.27,p<.10)が認められ,単純主効果の検定を行っ. た結果,可能自己群において,筆記直前よりも筆記直後の方が,NA が低いと読み取ることができる(Figure7)。予定群については,筆 記直前と筆記直後に有意な差は認められなかった。 25.00. **.  23.00 ポ ジ21・00 テ 多・9…. な. 一噸一可能自己. 情. 感17.00. 一雛レ予定群  15.00. 灘トー一一一一一灘 **. 13.00.    筆記直前      筆記直後. Figuro 6筆記3回目の筆記条件によるPAの変化. 22. oく.01.

(25) 17.00. t. ハU          ∩U. ハU          O. ︻﹂           ﹁5. 1占            −占. ネガティブな感情. 一◎國・可能自己.    一一一・一一襲. 一M一予定群. 灘卜一. tp〈.10. 11.00.      筆記直前       筆記直後. Figuro 7筆記3回目の筆記条件によるNAの変化. ?Q.

(26) 9.筆記条件とうつと時期が感情の変化に及ぼす影響について  Pennebaker&Seagal(1999)の指摘から,効果測定において, 筆記条件とうつ傾向の程度と時期を独立変数とした三要因分散分析 を行った。同様に,即時的な影響においても,筆記条件とうつ傾向 の程度と時期を独立変数とした三要因分散分析を行った(Tal)le7)。.  まず各セッションのPAについて,筆記条件とうっ傾向の程度と 時期を独立変数とし,PAを従属変数とした三要因分散分析を行った (Table7)。その結果,筆記1回目において,筆記条件と時期の有 意な交互作用(F(1,27)=12.35,p<.01)が見られた。筆記条件と. 時期の交互作用が認められたため単純主効果の検定を行った結果, 可能自己群において,筆記直後の方が筆記直前よりもPAが高いと いえる。予定群においては,筆記直前と筆記直後に差は認められな かった。.  筆記2回目では,主効果及び交互作用は見られなかった。  筆記3回目では,時期の主効果に有意傾向(7(1,27)=3.34,p<.10). と筆記条件と時期の有意な交互作用(F(1,27)=7.21,p<.05)が認. められた。交互作用が見られたために単純主効果の検定を行った結 果,可能自己群では,筆記直後の方が筆記直前よりもPAが高いと 解釈できる。予定群では,筆記直前と筆記直後に差はなかった。  Table 4 PAにおける筆記条件とうつ傾向の程度と時期による三要因分散分析の結果 筆記2回目 筆記1回目 筆記3回目 15.00(6.81) 22.00(11.05) Pre 18.83(3.97) 可能自己うつ低群 1 9.83 (4.1 7) 18.67(11.98) Post 28.50(5.00) 21.12(7.66) 18.63(5.93) うつ高群 Pre 23.50(6.00) 24.25(9.90) 26.00(6.06) Post 30.25(5.04) 17.87(8.02) 15.27(7.15) 予定群  うつ低群 Pre 21.13(7.23) 17.53(8.66) 15.67(8.16) Post 21.53(8.74) 16.00(5.66) 14.00(7,e7) うつ高群 Pre 24.00(5.66) 1 1 .50 (4.95) 1 3.50 (4.95) Post 18.50(O.70). 検定結果.    条件    うつ. 1.74. 2.56. 2.75. 0.27. 0.03. 0.18.   条件×うつ. 0.30. 0.46. 1 .55. 0.07. 3.34t. 1 2.35. 0.28. 7.21’. 2,07. 0.19. O.03. 0.24. 1.10. 1,82.    時期.  条件×時期   うつ×時期 条件×うつ×時期. 3.42.  pt. t〈.10 *p〈.05 **p〈.O1. 24.

(27)  次に各セッションのNAについて,筆記条件とうっ傾向の程度と 時期を独立変数とし,NAを従属変数とした三要因分散分析を行っ た(Table8)。その結果,筆記1回目において,うつ傾向の程度の 主効果が見られた(F(1,27)=6.36,p<.05)。この結果から,うつ傾. 向高群の方がうつ傾向低群よりもNAが高いといえる。  筆記2回目においては,筆記条件とうつ傾向の程度と時期の交互 作用が見られた(F(1,27)=4.35,p<.05)。交互作用が見られたた. め,単純主効果の検定を行った結果,可能自己群において,うつ傾 向の程度と時期の交互作用が認められたため,単純主効果の検定を 行った。その結果筆記直前では,可能自己を筆記したうつ傾向低群 と,可能自己を筆記したうつ傾向高群にNAに差は見られなかった。 しかし,筆記直後において,可能自己を筆記したうつ傾向低所の方 が,可能自己を筆記したうつ傾向高群よりもNAが低いことが示さ れた。予定群においては,筆記直前と筆記直後において差は見られ なかった。.  筆記3回目では,時期の主効果に有意傾向が見られた (F(1,27)=3.53,p<.10)。この結果から,筆記直後の方が筆記直前. よりもNAが低いといえる。   Table 5 NAにおける筆記条件とうつ傾向の程度と時期による三要因分散分析 記1回目 記2回目 記3回目 11.67(7.12) 13.33(10.69) 可能自己うつ低群 Pre 13.67(4.32) 11.50(5.39) 9.00(1.55) Post 12.00(4.15) 16.13(10.16) 18.13(10.66) うつ高群 Pre 17.50(7.73) 18.13(9.69) 1525(8.58) Post 16.86(7.14) 11.60(5.07) 11.27(326) 予定群  うつ低群 Pre 11.73(4.40) 1 2.67 (5.1 8) 12.33(4.37) Post 13.40(3.96) 15.50(7.78) 15.50(10.60) うつ高群 Pre 20.50(3.54) 11.00(4.24) 12.00(2.83) Post 17.50(O.71). 検定結果.    条件    うつ. O.13. O.36. O.13. 6.36’. 1.37. 1.53.   条件×うつ. O.24. 0.53. 0.40.    時期  条件×時期. 0.62. 0.11. 3.53t. 0.04. 1.63. O.70.   うつ×時期 条件×うつ×時期. 0.62. 0.93. 0.27. 1.53. 4.35  *. 1.15. t〈.10 *p〈.05. 25.

(28) 10.筆記内容や筆記経験に対する評価  筆記内容や筆記経験に関する評価について,筆記条件によって違 いがあるかを検討するために,対応のないt検定を行った(Table9)。 その結果,重要度(t=2.25,p〈.05)と有意義度(t=2.19,p〈.05),. 困難度(t=3.01,p〈.01)に有意差が認められた。この結果から, 可能自己群の方が,予定群よりも重要度・有意義度・困難度が高い ことを示された。. Table 6筆記内容や筆記経験に対する評価(平均値と標準偏差) t値 可能自己群 予定群 5.00 (1 .21) 4.00 (1 .03)   * 重要度 2.25. 有意義度. 5.33 (1 .07). 4.29 (1 .33). 2.1 9   *. 気づき度 困難度. 4.92 (1 .38). 4.64 (1 .28). 0.53. 3.50 (1 .68). 1 .93 (O.73).   ** 3.01. 詳細度. 4.67 (1 .30). 4.93(1.14). −O.54. *p〈.05 **pく.01. 26.

(29) 第4章 考察  本研究では,可能自己の筆記が精神的健康に及ぼす影響を検証す ることを第一の目的し,可能自己の筆記がレジリエンスに及ぼす影 響について検討することを第二の目的とした。 1.可能自己の筆記が精神的健康に及ぼす影響について  可能自己の筆記が精神的健康に及ぼす影響を検討するために,精 神的健康の指標として主観的Well・beingを測定する「人生に対する 満足度」と精神的健康度を測定するrGHQ28」を用いた。したがっ て,主観的We11・beingと精神的健康度について,それぞれ考察を述 べていく。. 2.可能自己の筆記が主観的We11・beingに及ぼす影響について  可能自己の筆記が主観的Well・beingに及ぼす影響を検討するた めに,主観的Well−beingを測定する「人生に対する満足度」を用い て,筆記条件と時期を独立変数とした,二要因分散分析を行った。 その結果,「人生に対する満足」の下位尺度である「現在満足」「過 去満足」「未来希望」で時期の主効果が見られた。これらの結果から 「現在満足」はPreがPostよりも高かった。「過去満足」と「未来 希望」では,Postの方がPreよりも高い。この結果から,可能自己 の筆記によって,主観的Well−beingは変化しなかったと思われる。  Pennebaker&Seagal(1999)は,比較的重度の患うつ傾向にあ るものは筆記の恩恵を得にくいと述べている。また寺崎ら(1999) は,現在満足は「抑うつ・不安」と負の相関を示し,未来希望も「抑 うつ・不安」と有意な負の相関を報告していることから,Preのう つ傾向が筆記の効果に影響した可能性が推測される。したがって, 筆記条件と時期に,Preのうつ傾向の程度を独立変数に加え,三要 因混合計画による分散分析を行った。その結果,「人生に対する満足 度」の下位尺度において,「現在満足」「過去満足」「未来希望」で時. 期の主効果に有意傾向が確認された。「現在満足」では,PostはPre よりも低く,「過去満足」と「未来希望」では,Postの方がPreよ りも高いことが明らかになった。これらの結果は筆記条件と時期の 二要因分散分析と同じ結果である。このことから,筆記条件やうつ 傾向の程度は「現在満足」「過去満足」「未来希望」に影響していな いと推測される。したがって,仮説①は支持されなかった。 27.

(30) 3.可能自己の筆記が精神的健康に及ぼす影響  可能自己の筆記が精神的健康に及ぼす影響を検討するために,精. 神的健康度を測定するGHQ28を用いて,筆記条件と時期を独立変 数とした,二要因分散分析を行った。その結果,合計得点及び4つ の下位尺度において筆記条件の主効果,時期の主効果,交互作用の いずれにおいても有意差は認められなかった。この結果から,仮説 ①は支持されなかった。平井・佐藤・大沢・坂野(2001)において, 外傷体験の開示と中性話題開示群における筆記開示が精神的健康に 及ぼす効果を,GHQ28を用いて精神的健康を測定した結果,有意差 は認められなかった。本研究の結果は,この結果に沿うものとなっ. た。平井ら(2001)の研究以外に,精神的健康度の測定にGHQを 用いた研究には,塚原ら(2010)がある。塚原ら(2010)で用いら. れたのはGHQ60であるが,筆記前と比較して筆記1カ月後に有意 なGHQ60の得点の低下を報告している。効果測定にGHQを用いて 筆記条件の影響が出なかった平井ら(2001)と本研究に対して,筆 記の影響が確認された塚原ら(2010)の違いは,効果測定の時期で ある。平井ら(2001)では筆記実験終了後1週間後と2週間後に効 果測定を行い,本研究でも筆記実験終了1週間後に効果測定を行っ た。一方で,塚原ら(2010)は筆記実験終了後1カ月後に効果測定 を行っていた。このことから,GH:Qを尺度として用いた場合,筆記 終了後1カ月内の変化を測定することができないのではないかと推 測する。したがって,筆記終了1カ月内の変化を測定する場合,別 の尺度を用いて精神的健康度を測定する必要があるだろう。 4.可能自己の筆記がレジリエンスに及ぼす影響について  可能自己の筆記がレジリエンスに及ぼす影響を検討するために, レジリエンスの指標として,精神的回復力尺度を用いた。そして, 筆記条件と時期を独立変数とし,精神的回復力尺度の合計点及び下 位尺度得点を従属変数とした二要因分散分析を行った。その結果, 精神的回復力尺度合計点で5%水準の有意な条件の主効果と,下位 尺度である「感情調整」において1%水準で有意な筆記条件の主効 果が確認された。これらの結果から多重比較を行った結果,予定群 の方が可能自己群よりも精神的回復力尺度の合計点と「感情調整」 の得点が高いことが伺える。合計得点と「感情調整」の得点はPre の時点で予定群の方が高かった。筆記を行ったPostの時点におい 29.

(31) ても予定群の方が,それらの得点が高かったことから,可能自己の 筆記によってレジリエンスが高まらなかったと推察できる。.  Pennebaker&Seagal(1999)は,比較的重度の抑うつ傾向にあ るものは筆記の恩恵を得にくいと述べていたことから,筆記条件と うつ傾向の程度,時期の三要因分散分析を行った。その結果,精神 的回復力尺度の下位尺度である「新奇性追求」において,うつ傾向 の程度と時期の交互作用,筆記条件とうっ傾向の程度と時期の交互 作用が見られた。それぞれの結果について,単純主効果の検定を行 った結果,まずうつ傾向の程度と時期の交互作用から,うつ傾向低 群において,Postの方がPreよりも高いといえる。うつ傾向高群に おいては,PreとPostで差は見られなかった。次に,筆記条件とう つ傾向の程度と時期の交互作用について単純主効果の検定を行った. 結果,可能自己群において,うっ傾向低群はPostの方がPreより も高くなっていたが,うつ傾向高群ではPreとPostに差は見られ なかった。この結果は,本研究の仮説③を一部支持するものである。.  「新奇性追求」において,うつ傾向の程度と時期の交互作用,筆 記条件とうつ傾向と時期の交互作用が確認された。うつ傾向の程度 と時期の交互作用は,筆記条件とうっ傾向の時期の交互作用に含ま れていると思われるため,筆記条件とうつ傾向と時期の交互作用に ついて考察する。「新奇性追求」は,「色々なことにチャレンジする のが好きだ」「新しいことや珍しいことが好きだ」「ものごとに対す る興味や関心が強い方だ」などの項目から構成されている(小塩ら,. 2002)。これらの項目は,興味や関心について評価しているともい える。高橋・大野・染矢(2003)によれば,大うつ病エピソードの 一つに興味・喜びの著しい減退があると述べている。King(2001) は,最高可能自己の筆記内容はトラウマと比べてポジティブだった と述べている。このことから,うつ傾向の弱い人はポジティブな内 容の可能自己について筆記することで,興味や関心が高くなり,「新 奇性追求」が高まったではないかと考察される。一方で,うつ傾向 が強い人ではネガティブな気分や感情が強いために,ポジティブな 内容の可能自己を筆記しても,興味や関心が高まらなかったために 「新奇性追求」が高まらなかったのだろうと推測される。予定群で は,実験終了後の予定について客観的に筆記することを求めている。 そのため,可能自己に比べて,ポジティブな内容ではなかったと考 えられ,うつ傾向の程度の高低に関わらず,興味や関心が高まらず 29.

(32) 「新奇性追求」に有意な差が生じなかったと思われる。.  精神的回復力尺度の下位尺度である「感情調整」では,筆記条件 の主効果と,うつ傾向の程度と時期の交互作用に有意傾向が認めら れた。まず筆記条件の主効果について,単純主効果の検定を行った 結果,予定群の方が可能自己群よりも高かった。Preの時点で,感 情調整は予定群の方が可能自己群よりも高い状態であった。本研究 では,可能自己の筆記がレジリエンスを高めると予測したため,そ のまま分析を行った。この結果は,PreにおいてもPostにおいても, 予定群が可能自己群よりも「感情調整」が高いことを示しており, 可能自己の筆記が「感情調整」に影響しなかったと考えられる。「感 情調整」は「自分の感情をコントロールできるほうだ」「動揺しても,. 自分を落ち着かせることができる」「怒りを感じるとおさえられなく. なる」などの項目から成っている。これらは,自分の感情を制御す ることを捉えていることから,自己制御における感情側面の制御を 捉えていると思われる。本研究では,可能自己がネガティブな感情 を生じさせずに,また自己制御を促進することを予想し,筆記課題 として取り上げた。しかし,可能自己の筆記は,自己制御の一側面 である感情の制御には影響しないのかもしれない。自己制御には思 考や感情,行動の制御も含まれていることから,可能自己の筆記は 思考の制御や行動の制御に影響を与えている可能性もありうるだろ う。.  続いて,うつ傾向の程度と時期の交互作用が見られたために単純 主効果の検定を行ったが,有意差は見られなかった。 5.可能自己の筆記における即時的な影響について  筆記の即時的な影響を調べるために,筆記直前と筆記直後の感情 を測定し,筆記条件と時期を独立変数とし,PA及びNAを従属変数. とした二要因分散分析を行った。その結果,PAにおいて,筆記1 回目と筆記3回目で,筆記条件と時期と交互作用が見られ単純主効 果の検定の結果から,可能自己群では筆記直前に比べて筆記直後に PAが高かった。.  NAでは,筆記1回目と筆記2回目に筆記条件や時期の主効果お よび交互作用は確認されなかった。しかし筆記3回目において,筆 記条件と時期の交互作用に有意傾向が確認されたため,単純主効果 の検定を行った結果,可能自己群において,筆記直後の方が筆記直 30.

(33) 前よりもNAが低くなったことが明らかになった。  Pennebaker&Seagal(1999)の指摘から,効果測定では,筆記 条件とうつ傾向の程度と時期を独立変数とした三要因分散分析によ って,筆記の影響を検討した。同様に,筆記の即時的な影響につい ても,各セッションにおいて筆記条件とうっ傾向の程度と時期を独. 立変数とした三要因分散分析を行った。PAでは,筆記1回目と筆 記3回目に筆記条件と時期の交互作用が確認され,単純主効果の検 定の結果,可能自己群において筆記直後の方が筆記直前よりもPA が高いと解釈できる。続いて,NAでは,筆記1回目では,うつ傾 向の程度による主効果が確認され,うっ傾向高群の方がうつ傾向低 群よりもNAが高いといえる。筆記2回目では,筆記条件とうつ傾 向の程度と時期の交互作用が確認されたため,単純主効果を行った。 その結果,可能自己群において,筆記直前では,うつ傾向低群とう. つ傾向高群にNAに差は見られない。しかし,筆記直後において, うつ傾向低群の方がうっ傾向高群よりもNAが低いことが示された。 予定群では,うつ傾向の高低に関わらず筆記直前と筆記直後におい て差は見られなかった。筆記3回目では,時期の主効果に有意傾向 が見られ,筆記直後の方が筆記直前よりも低いと読み取れる。  以上の結果から,筆記による即時的な影響について考察を述べる。 PAについては,筆記条件と時期を独立変数とした二要因分散分析に おいても,筆記条件とうつ傾向の程度と時期を独立変数とした三要 因分散分析においても,筆記条件と時期の交互作用が見られており,. 可能自己群で筆記直後に筆記直前よりもPAが高くなっている。こ の結果は仮説③を支持する結果である。King(2001)において,最 高可能自己の筆記によってPAが有意に上昇していたことを示して いる。また織田(2010)においても,肯定的な経験を筆記する「よ いこと日記」群は否定的な経験を筆記する「気がかり日記」群より も肯定的な感情が高いことを示している。本研究の結果は,それら の結果を支持している。これは,可能自己群で筆記した内容が予定 群の筆記した内容よりもポジティブな内容であったために,予定群 よりもポジティブな感情が高まったと考察する。.  NAについては,筆記条件と時期を独立変数とした二要因分散分 析と,筆記条件とうっ傾向の程度と時期を独立変数とした三要因分 散分析で異なる結果が出ている。したがって,別々に推測を述べる。. 筆記条件と時期を独立変数とした二要因分散分析では,筆記1回目 31.

(34) と筆記2回目において,筆記条件の主効果や時期の主効果,交互作 用は見られなかった。しかし,筆記3回目において,交互作用に有 意傾向が見られている。筆記条件とうっ傾向の程度と時期を独立変 数とした三要因分散分析では,筆記1回目において,うつ傾向の程 度の主効果が見られており,うっ傾向高群の方がうっ傾向車群より もNAが高いことが示されている。うっ病の奮うつ病エピソードに は,担うつ気分や興味喜びの減退,無価値感,希死念慮などが含ま れている(高橋ら,2003)ことから,それらはネガティブな気分や ネガティブな認知を含んだものであると考えられる。したがって, うつ傾向の高い人では,ネガティブな気分の高さやネガティブな認 知によってネガティブな感情が高まったと考えられる。筆記2回目 では,筆記条件とうっ傾向の程度と時期の交互作用が確認された。 可能自己群において,筆記直前では,うっ傾向低位とうつ傾向高群 にネガティブな感情に差は見られない。しかし,筆記直後では,う つ傾向低群の方がうっ傾向高群よりもネガティブな感情が低いこと が示された。この結果は,うっ傾向の低い人は,可能自己の筆記に よってネガティブな感情が緩和されたのではないかと推測する。筆 記3回目では時期の主効果が見られたことから筆記直後の方が筆記 直前よりも低いと読み取れる。この結果から,筆記直後は筆記直前 よりもネガティブな感情が弱まっているといえる。  ネガティブな感情については,分析方法や結果の生じたセッショ ンも異なっていることから,推測の域を出ることはないが,筆記条 件と時期の交互作用,筆記条件とうっ傾向と時期の交互作用という ように,筆記条件と時期の交互作用を含む結果が得られている。こ のことから可能自己の筆記が,ネガティブな感情を緩和する機能を 有することが示唆される。. 6,筆記体験や筆記内容に対する評価について  筆記の内容や経験に関する評価について,重要度と有意義度,困 難度に有意差が認められ,可能自己群の方が予定群よりも重要度・ 有意義度・困難度が有意に高いことが示された。この結果から,可 能自己群の方が予定群よりも筆記内容を重要だと捉え,筆記体験を 有意義だと捉えていたことが明らかになった。また可能自己群の方 が予定群よりも難しかったことも読み取れる。これは,予定の筆記 が日常的な内容であることに対して,可能自己の筆記は自分の将来 32.

(35) の目標を明確にするために,重要で,有意義だと捉えられたのだろ う。可能自己の筆記が予定群よりも難しいと評価されたのは,予定 の筆記は,日々の生活の流れから想像しやすいと思われる。それに 対して,可能自己の筆記は日頃ほとんど考えない内容であること, また実験終雨後の予定に比べて曖昧であるために困難だと感じたと 推測される。. 7.本研究の課題  本研究には,いくつかの限界と課題がある。一つ目は,可能自己 の筆記の長期的な影響の検討である。本研究では,可能自己の筆記 による短期的な影響を検討することができたが,長期的な影響につ いて検討できていない。King(2001)では,筆記終了3カ月間の医. 療機関訪問数から,Pennebaker&Beall(1986)では,筆記後6 カ月間の医療機関訪問数から長期的な影響を検討している。伊藤ら (2009)においても,実験終了3カ月後にフォローアップを行い, 筆記による長期的な影響を調査している。したがって,今後,可能 自己の筆記による長期的な影響についても検討する必要がある。  二つ目に,自己制御に基づく変数がある。可能自己の筆記が精神 的健康に影響を及ぼすという考えは自己制御の考えに基づいている。 本研究では,精神的回復力尺度の下位尺度に「感情調整」があり, この下位尺度は自己制御の一部を測定していると考えることができ る。本研究では,可能自己の筆記によって,「感情調整」が高まるこ とはなかった。しかし,自己制御には,感情だけでなく行動や思考 の制御も含まれていることから,今後の研究で可能自己の筆記が, 行動や思考の制御にどのように影響しているのかを調査することが 求められるだろう。.  三つ目に,実験条件の設定である。本研究は,King(2001)の研 究を参考にしている。King(2001)では,可能自己の筆記群とトラ ウマの筆記群の比較を行っているが,本研究では可能自己の筆記群 とトラウマの筆記群の比較は行われていない。したがって,今後の 研究で,可能自己の筆記とトラウマの筆記で,短期的・長期的な影 響に違いがあるのかについて検討することが望まれる。  四つ目に,実験場面の設定である。Pennebaker&Beall(1986) を始め多くの筆記研究では,協力者一人で筆記を行いその効果を検 証している。King(2001)も同様である。小松(2010)によると, 33.

(36) 周囲に他者がいるという環境は,自分自身の感情,思考と向き合い にくいと述べており,周囲が静かで,集中しやすく,より参加者自 身の感情や思考と向き合える環境が必要と指摘している。本研究で は,短期間で実験を行うために二人同時に実験を実施するように実 験場面を設定した。このような設定のために,対象者が自分の思考 や感情と向き合える環境設定でなかったことが考えられ,そのため に可能自己の筆記の影響が,弱まった可能性が推測される。したが って,今後,対象者が自分の思考や感情と向き合いやすい環境を設 定し,可能自己の筆記の影響を調べることが課題となるだろう。 8.今後の展望  本研究では,可能自己の筆記は,筆記直後において,ネガティブ な感情の著しい上昇は見られなかったが,ポジティブな感情が高ま ることが明らかになった。このことから,トラウマ体験や怒り体験 といったネガティブな内容の筆記と比較して,筆記者の負担も少な いと思われる。また可能自己の筆記によって,レジリエンスの一部 が高まることが示唆されている。  以上のことから,臨床場面において,うつの傾向が低い人や,う つ傾向が回復してきた人に対して,ホームワークで可能自己の筆記 を行うことで,レジリエンスを促進させる手段として用いることが できるのではないかと思われる。  今後,可能自己の筆記の長期的な影響について知見を重ねること で,レジリエンス構築の一手段へとつながるのではないかと考えら れる。. 34.

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