ユビキチン分解による細胞周期制御とその破綻がもたらす癌化
工藤 保誠
キーワード:細胞周期,ユビキチン分解,プロテアソーム,癌
Regulation of Cell Cycle by Ubiquitin-mediated Proteolysis
and Carcinogenesis Induced by Its Dysregulation
Yasusei KUDO
Abstract:In the process of carcinogenesis, abnormal regulation of cell cycle regulators is essential. Cell cycle is driven by the activity of Cyclin/Cyclin-dependent kinase (Cdk) complex. The activity of Cyclin/Cdk1 is regulated by the ubiquitin-proteasome pathway via controlling protein level of Cyclins. In addition to Cyclins, the protein level of various cell cycle regulators is strictly and precisely regulated by the ubiquitin-proteasome pathway. In particular, SCF (Skp1-Cullin-F-box) and anaphase-promoting complex/cyclosome (APC/C) ubiquitin ligase complex are involved in ubiquitylation of cell cycle regulators. It recently has been shown that overexpression of oncogenic cell cycle regulators and reduced expression of tumor suppressive cell cycle regulators are caused by abnormal regulation of ubiquitin-mediated proteolysis in cancer. In this review, we introduce abnormal regulation of cell cycle regulators in cancer.
徳島大学大学院医歯薬学研究部口腔分子病態学分野
Department of Oral Molecualr Pathology, Tokushima University Graduate School of Biomedical Sciences 受付:平成 25 年 12 月5日/受理:平成 26 年1月 10 日
Ⅰ.はじめに
癌の発生において細胞周期制御の異常は必須のイベン トであることがよく知られている。細胞の増殖過程にお いて,細胞周期調節因子の多くがユビキチン分解によっ て,タンパク質の量的・質的制御を受け,細胞周期の円 滑な進行に重要な役割を果たしていることが明らかにな りつつある。しかしながら,それら細胞周期制御因子の ユビキチン分解における異常が癌化や癌の進展に関わっ ているかについては未だ不明な点が多い。ユビキチンー プロテアソーム経路によるタンパク分解は,生命活動の 場で広範な役割を担っており,その制御異常は,癌,神 経変性疾患などの様々な疾病に関与することが明らかに されつつある。そのため,ユビキチンに関する研究は飛 躍的に発展しており,タンパク質にユビキチンを連結さ せる酵素(ユビキチンリガーゼ)の分子的実体が明確に なってきている。 細胞周期制御には,複合体型ユビキチンリガーゼ で あ るSCF(Skp1/Cullin-1/F-Box タ ン パ ク ) や APC/C (anaphase-promoting complex/cyclosome)が深く関わるこ とが知られている(図1)。細胞増殖停止に深く関わる p27Kip1は,癌においてSCFSkp2複合体によりユビキチン 分解され,その発現が低下する。一方,細胞分裂に関わ るタンパクであるCyclin A,Cyclin B,Aurora-A,Skp2 などは,APC/C 複合体によるユビキチン分解されるが, これら基質タンパクは,しばしば癌細胞で過剰発現する ことが報告されている。この様に,癌細胞で認められるJournal of Oral Health and Biosciences Vol.30, No.1 2017 細胞周期制御の異常に,ユビキチン分解異常が関与する ことが明らかになりつつある。本総説では,ユビキチン 分解異常による細胞周期制御の破綻がもたらす癌化メカ ニズムに関して,我々の最近の知見を含めて紹介する。
Ⅱ.細胞周期制御機構
細胞増殖は,すべての生命にとって最も根源的な事 象であり,細胞が増殖するためには,「DNA の複製」と 「細胞分裂」が必須で,それらが交互に繰り返し,細胞 周期に従って進行する。細胞周期は,G1,S,G2,M の4期で構成されており,S 期において DNA を複製し, M 期で細胞が分裂する(図1)。G1及び G2期は,その 間期である。哺乳細胞では,8∼ 30 時間くらいで細胞 周期を1周するが,この時間は主にG1期と G2期の長 さによって決まっており,S 期や M 期の長さはほとん ど変わらない。胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES 細 胞)は,G1期や G2期が短いことが知られている。 細 胞 周 期 の 進 行 は,Cyclin/Cyclin dependent kinase (CDK) 複合体による Rb タンパクなどの標的タンパクのリン酸化によって制御されており1, 2),高等動物の場
合,10 種類を越えるCyclin と8種類の CDK が同定され ている。なかでも細胞周期のG1 期で働く Cyclin/CDK 複合体であるCyclin D/CDK4 および Cyclin E/CDK2 は,
増殖シグナルの標的としてS 期への進行に重要な役割
を果たすことが知られている1, 2)。このようなCyclin/ CDK 複合体は,CDK-activating kinase (CAK) によるリ ン酸化とCDC25による脱リン酸化により活性化される が,CDK inhibitor により不活化されることが知られて いる3-12)。CDK inhibitor は,構造や機能的特徴から Ink4 family と Cip1/Kip1 family の2つの family に大別され, アンキリンリピート構造を共有する前者にはp16Ink4a,
p15Ink4b,p18Ink4c,p19Ink4dが, 後 者 に はCDK 阻 害 領 域
と 呼 ば れ る 相 同 性 の 高 い 領 域 を 共 有 す るp21Waf1/Cip1, p27Kip1,p57Kip2が属している。細胞周期の調節には,上 記因子以外にも多くの因子が関与しており,複雑に制御 されている。細胞周期がスムーズに回転するためには, いくつかのチェックポイントがあり,常に進行状態を監 視している。細胞周期の回転は,しばしばCDK がエン ジン,Cyclin がアクセル,CDK 阻害因子がブレーキに 例えられる。 最近,Cyclin/CDK の活性が,Cyclin の周期的な発現, すなわち周期的なタンパク分解によるタンパク量の調節 により制御され,タンパク分解にユビキチン化が重要 な役割を果たすことが明らかとなった。Cyclin のみなら ず,Cyclin/CDK の活性化・不活性化に関与する CDC25 やCDK inhibitor も含めた多くの細胞周期制御因子がユ ビキチン分解により制御されている。細胞周期制御の異 常は,様々な病気に関わるが,なかでも「癌」は,細胞 周期の暴走の結果によると考えられている。これまでの 研究から,「細胞増殖速度の異常」と「チェックポイン トの破綻」が重要で,癌化には細胞周期の異常が必須で あることは周知の事実である。
Ⅲ.ユビキチン分解制御機構
上述の様に,細胞周期制御には,様々なタンパクが時 期特異的に厳密にその役割を果たしており,それには周 期的なタンパクのユビキチン分解による量的・質的調節 が重要である。細胞周期調節因子のみならず,多くのタ ンパクがユビキチン分解制御を受けていることが明らか になっている。タンパク質のユビキチン化は,ユビキチ ン活性化酵素(E1),ユビキチン結合酵素(E2),ユビ キチンリガーゼ(E3)により,ユビキチンが ATP 依存 性に標的タンパクのリジン残基にイソペプチド結合さ れる(図2)。このE1-E2-E3のカスケード反応が繰り返 されることにより,多数のユビキチンが結合し,ポリユ ビキチン鎖が形成される(図2)。ユビキチンは,76 ア ミノ酸からなる小さなタンパクで,ポリユビキチン化さ れたタンパクは 26S プロテアソームにより分解される13) (図2)。このユビキチン化機構では,特にE3ユビキチ ンリガーゼが標的タンパクの認識に重要な役割を果たし 図1 SCF 及び APC/C ユビキチンリガーゼ複合体によ る細胞周期制御機構ており,哺乳類ではE1が3種類,E2が65種類あるのに 対して,E3は1000種類を超えると言われている。 E3ユビキチンリガーゼは,HECT 型および RING フィ ンガー型の2種類に大別され,さらにRING 型には,単 体で働くものと複合体を形成して働くものに分けられ る。HECT 型 E3 としては,DNA 損傷をモニターする 転写因子であり,ゲートキーパーとして知られている p53 のユビキチンリガーゼである E6-AP(E6-associated protein)タンパクが知られている。E6-AP タンパクは, 子宮頚癌の発症に関与することが知られているヒトパピ ローマウイルスHPV16/18の遺伝子にコードされた E6タ ンパクに結合する分子で,その触媒部位はHECT ドメイ ン(homologous to E6-associate protein carboxyl terminus) と呼ばれ,このHECT ドメインをもつタンパクがユビキ チンリガーゼとして機能するファミリーを形成している ことが明らかになった。HECT 型ユビキチンリガーゼに は,Nedd4,Smuf など多数の分子群が知られており,哺 乳類で約 60 種類あると考えられている。一方,RING 型 E3には,単体で働くものとして,哺乳類で約500種類く らいあることが知られており,MDM2,c-Cbl,BRCA1, Parkin なども含まれている。これらは,いずれも RING フィンガードメインを有している。特に,BRCA1は乳 癌,Parkin はパーキンソン病に深く関わっていること がよく知られている。複合体を形成して働くものには, APC/C や SCF が知られており,哺乳類では数百はある と考えられている。特に,細胞周期制御において,複合 体型ユビキチンリガーゼであるAPC/C や SCF が重要な 役割を果たすことが知られている。細胞周期調節因子の ユビキチン分解は,基質タンパクに特異的でかつ時期特 異的で,細胞周期を適切に制御するうえで重要なシステ ムであり,細胞周期の様々なイベントにユビキチン分解 が関与している。 APC/C は,APC1,APC2,Cdc27/APC3,APC4, APC5,Cdc16/APC6,APC7,Cdc23/APC8,Doc1/ APC10,APC11,CDC26,APC13 を含めた数十個のサ ブユニットからなる大きな複合体で,時期特異的なユビ キチン化に関わるアダプター因子であるCdc20や Cdh1 の可逆的な結合や構成サブユニットのリン酸化によっ てその活性が調節されている(図1)。Cdc20 や Cdh1 は,C-box や IR-tail と呼ばれる領域を介して APC/C 複 合体に結合する14-16)。Cdc20 や Cdh1 は C 末端に WD40 ドメインを有しており,このドメインを介して,基質 タンパクに存在するD-box (RxxL) あるいは KEN-box (KEN) と呼ばれる配列を認識して結合する17-19)。さら
に,Cdc20 や Cdh1 は,D-box や KEN-box 以 外 に A-box (RxLxPSN),CRY-box (CRYxPS),GxEN-box (GxEN),
Spo13 D-box (LxExxN),O-box (unknown sequence)といっ た配列も認識することが報告されている20-25)。つまり, Cdc20や Cdh1は,APC/C と基質タンパクの結合を仲介 するアダプターの役割を果たしている。APC/CCdh1複合 体は,G0/G1 期において,CDK 活性を低い状態に保つ のに重要な役割を果たし,APC/CCdc20複合体は,分裂期 の進行とCDK1の活性低下による分裂期から G1期への 進行に重要な役割を果たす26, 27)。つまり,APC/CCdc20複 合体は分裂期に活性を示し,APC/CCdh1はM 期後期か らG1期にかけて活性を示し,異なった基質タンパクを 標的とする(図1)。興味深いことに,哺乳類細胞の細 胞周期にはCdc20は必須であるが,Cdh1は必ずしも必 図2 ユビキチンープロテアソーム経路によるタンパク分解機構
Journal of Oral Health and Biosciences Vol.30, No.1 2017 要ではない。Cdh1の機能が損なわれると,G1期が短縮
し,S 期が遅延し,様々な DNA 異常が生じる。Cdh1は Cyclin A,Cyclin B の分解を介して分裂期から G1 期へ の進行に寄与しているものと考えられるが,必須ではな い。また,Cdh1 は,Cyclin A,Cyclin B や Cdc25A の分 解を介してCDK の活性を抑制したり,Skp2を分解して CDK inhibitor である p21,p27,p57の蓄積を促すことな どにより,細胞の静止を維持する役割があると考えられ る27)。他に,複製前複合体 (pre-replication complex/pre-RC)の構成因子で,MCM 複合体のローディングに関わ るCDT1 を抑制する Geminin タンパクも APC/CCdh1の基 質である27, 28)。G1/S 移行期に Cdh1は E2F ターゲットで あるEmi1の結合と Cdk1/2によるリン酸化により不活性 化される。Emi1 は分裂期初期に SCFβTrCPによるユビキ チン分解され,APC/CCdc20が活性化する27, 29)。Emi1以外 に もMad2,BubR1,Bub1,Emi2 などにより APC/C の 活性が調節されている27)。この様にAPC/C は,多くの 細胞周期調節に関わるタンパクのユビキチン分解に関わ るが,それら基質タンパクの分解は同時にはおこらな い。ユビキチン分解のタイミングの調節は未だ明らかに されていないが,1)リン酸化やアセチル化などのタン パク修飾によるユビキチン化の制御30-32),2)基質タン パクのユビキチン化プロセスの速度の違い33),3)基質 タンパクのユビキチン化に影響を与える結合タンパクに よる制御34)が考えられる。 一方,SCF は,主に G1 から S 期への進行に関わる タンパクの分解に関与しており,Cyclin D,Cyclin E, CDK inhibitor である p27 や p21 のユビキチン分解に関 与している。SCF ユビキチンリガーゼ複合体は,Skp1, Cul1,F-box タンパク,Roc1が複合体を形成して働き, なかでもF-Box タンパクは,哺乳類では,69種類が存 在し,標的タンパクへの基質特異性を決定する因子であ る(図1)。F-Box タンパクは,共通して持つ F-Box ド メインがSkp1への結合部位として働き,残りの部分で 標的タンパクを認識・結合する。その基質結合ドメイ ンは,WD40 ドメインを有する FBXW ファミリー,ロ イシンに富むリピートを有するFBXL ファミリー,そ のどちらにも属さないFBXO ファミリーに分けられる。 最近,APC/C とともに,細胞周期調節に関わる多くの タンパクのユビキチン分解に,SCF ユビキチンリガーゼ 複合体が関与していることが明らかとなったが,細胞周 期の制御以外にも多くのタンパク質の分解に関与し,細 胞増殖や分化の調節に関わっている。また,基質特異性 に最も重要であるF-Box タンパクは,それ自体が癌原 性をもったタンパクであったり,癌原性タンパクあるい は癌抑制タンパクの分解異常に関わることにより,癌化 に関与することが示されている。しかしながら,F-Box タンパクは一般に発現量が低いことに加えて,標的タン パクとの結合が弱い。また,多彩な分子が関わってい るため,in vitro におけるユビキチン化活性の再構築が 非常に困難であり,これらの理由がSCF ユビキチンリ ガーゼの研究を複雑にしている。そのため,現在,ク ローニングされているF-Box タンパクの多くは,その 基質タンパクが未だ見つかっておらず,Skp2(FBXL1), β-Trcp1(FBXW1),β-Trcp2(FBXW11),Cdc4(FBXW7), Cyclin F(FBXO1)などの F-Box タンパクにおいて,標 的タンパクが発見されているにすぎない。我々も,Skp2 によるp27Kip1の分解異常35-39),β-Trcp1による Emi1の分
解制御28),β-Trcp1による IκBα の分解異常を介した
NF-κB の活性化40),β-Trcp1による CDC25B の分解制御41),
Cyclin F による Ribonucleotide Reductase M2 の分解によ るゲノムの恒常性やDNA 複製における役割42),Fbxo15 によるKBP の分解を介したミトコンドリアダイナミッ クス制御43)について明らかにした。上述のAPC/C の活 性を抑制する因子であるEmi1も F-box タンパクの一つ (FBXO5)であり,SCF によって APC/C が制御されて いる。また,APC/C も F-box タンパクである Skp2を分 解するなど,APC/C により SCF も制御されている。こ のように,細胞周期制御では,非常に複雑にユビキチン 分解によるネットワークが認められる。
Ⅳ.ユビキチン分解による細胞周期制御と
その破綻がもたらすがん化
細胞周期制御の異常は,癌で必須のイベントであり, 種々の癌において,これまでに多くの細胞周期調節因 子の異常が報告されている。p53の変異,CDK inhibitor で あ るp21,p27 の発現低下,Cylin D や Cyclin E の過 剰発現など,細胞周期の進行を促進する因子の遺伝子 増幅やmRNA あるいはタンパクの過剰発現,細胞周期 の進行を止める因子の遺伝子欠失,変異による機能不 全,mRNA あるいはタンパクの発現低下が報告されて いる。このように,癌でこれらの異常が報告されている が,遺伝子レベルでの異常以外は,その原因は明らかに なっていないものが多い。DNA 損傷をモニターする転 写因子であり,ゲートキーパーとして知られているp53 は,子宮頚癌の発症に関与することが知られているヒ トパピローマウイルスHPV16/18の遺伝子にコードされ たE6タンパクによりユビキチン分解されることや癌原 遺伝子として知られるC-Myc の分解に関わる FBXW7 が発現低下することによりC-Myc の過剰発現が引き起 こされること,細胞周期のG1期停止に重要な p27タン パクがSkp2の過剰発現により過剰にユビキチン分解さ せることが明らかとなり,癌で認められる細胞周期の 制御異常にユビキチン分解制御異常が関わることが報 告された。我々も,口腔癌,胃癌および唾液腺癌にお いてp27タンパクの発現低下が高頻度にみられ,その発 現低下にはユビキチンを介したプロテアソームによる 異常な分解が関与することを明らかにしている35-37)。さ らに,口腔癌におけるp27タンパクの発現低下に p27の ユビキチン分解に関わるF-box タンパクである Skp2の過剰発現やSkp2と p27の結合を補強するアダプタータ ンパクであるCks1の過剰発現が関与していることも明 らかにした38, 39)。Cyclin A,Cyclin B,Skp2,Aurora-A, Aurora-B,Geminin,CDC6など癌で過剰発現しているタ ンパクがAPC/C によりユビキチン分解されることから, 癌でAPC/C の機能不全が疑われたが,今のところ APC/ C の異常はほとんど報告されていない。我々も APC/C 構成因子の異常を調べたが,癌で特に異常は認められな かった。しかしながら,APC/C の活性を抑制する因子 であるEmi1の過剰発現は癌で高頻度に認められること が明らかとなった44)。Emi1 は,M 期初期に SCFβTrcpに より分解され,APC/CCdc20が活性化するが28),Emi1 を ノックダウンするとAPC/CCdh1がS 期で活性化してしま うことにより,DNA 複製を1回の細胞周期の回転で1 度に規定する因子である(別名DNA ライセンス化因子 という)Gaminin タンパクが分解されてしまい,DNA 複製を終えることができない。我々は,癌細胞でEmi1 をノックダウンすることで,DNA 複製を続けたまま細 胞増殖が停止することに着目し,Emi1 siRNA の導入と ともに,従来のDNA 複製を標的にした抗がん剤を投与 したところ,抗がん剤の感受性が増強されることを見出 した44)。 上 述 のGeminin タンパクは,G1 期において,APC/ CCdh1により分解され,その間にクロマチンに結合し たORC 複合体が CDC6と CDT1タンパク質をリクルー トし,さらにMCM へリカーゼ複合体のローディング を促進して,複製起点に複製前複合体(pre-replication complex:pre-RC)とよばれる複合体が形成されること でライセンス化される。pre-RC 形成は,S 期において, DNA の複製起点となり,S 期では新たに pre-RC が形成 されないようにGeminin が CDT1をトラップする。我々 は,Geminin が M 期において,分裂期キナーゼである Aurora-A によりリン酸化されることで,APC/CCdh1から の分解を免れ,CDT1 を安定化させることにより,G1 期でのpre-RC 形成に重要な役割を果たすことを見出し た29)。DNA の複製異常は,癌で高頻度に認められる異 常であることから,現在,Geminin も含めた pre-RC 形 成機構の異常がないかを検討中である。また,分裂期 において,様々なタンパクのリン酸化制御に関与する Aurora-A キナーゼもまた,APC/C によりユビキチン分 解制御を受けている。Aurora-A キナーゼは,S 期から 発現し,G1期でユビキチン分解される。興味深いこと に,M 期ではユビキチン化に必要な A-box ドメイン内 のSer51がリン酸化されることにより,APC/C による分 解から免れ,G1期で脱リン酸化されることにより,ユ ビキチン分解されることを明らかにした45)。Aurora-A キナーゼは,癌でしばしば過剰発現がみられることが知 られているが,遺伝子増幅によって引き起こされるだけ はなく,Ser51の恒常的なリン酸化によるユビキチン分 解抑制により過剰発現が引き起こされることが明らかに なった45)。 このように,癌では,癌の増殖促進や癌化に関わる因 子のユビキチン分解抑制による過剰発現や逆に癌の細胞 増殖や癌化を抑制する因子の過剰なユビキチン分解によ るタンパク量の異常により,細胞周期調節の異常が起こ り,癌化や癌の進展に関わることが明らかになりつつあ る。
Ⅴ.終わりに
ユビキチン分解は,細胞周期,炎症,癌化などに関わ る様々なタンパクの分解に重要な役割を果たしているこ とが次第に明らかになりつつある。特に,細胞周期制御 においては,時期特異的で正確なユビキチン分解が重要 な役割を果たしており,その異常が癌化などの病態につ ながることが明らかになりつつある。しかしながら,細 胞周期におけるユビキチン分解制御は未だ多くのことが 明らかにされておらず,癌化への関与も含めて,今後の さらなる研究が望まれるところである。謝 辞
本稿の準備にあたっては,徳島大学大学院医歯薬学研 究部口腔分子病態学分野の石丸直澄教授を始めとする教 室員の方々及び疾患病理学分野の常松貴明博士にご協力 いただきました。深謝いたします。参 考 文 献
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