ネット上のクチコミ情報を介した消費者間の影響伝
播のメカニズム
著者
澁谷 覚
雑誌名
季刊マーケティングジャーナル
巻
26
号
4
ページ
31-51
発行年
2007
URL
http://hdl.handle.net/10097/49311
ネット上のクチコミ情報を介した消費者間の影響伝播のメカニズム
東北大学 大学院経済学研究科 澁谷覚はじめに
インターネット上のクチコミ(以下「ネット上のクチコミ」と呼ぶ)が消費者の購買意思決定 や、ブランドや製品に対する態度形成に大きな影響を及ぼしているということが、しばしば指摘 されるようになってきた。またこのことに着目して、実際に消費者によって発信された特定の製 品やサービスに関する膨大なクチコミ情報を集積し公開する Web サイトも、消費財の各分野にお いて開設されている。 このような状況に際して、筆者は過去にネット上のクチコミを介した消費者間の影響伝播プロ セスを社会的比較として捉える視点を提案し、この枠組みに基づいていくつかの理論研究および 実証研究を提出してきた(澁谷, 2003; 2004; 2006; 2007 等)。 本稿の目的は、これらの研究が依拠していた社会的比較過程理論を応用した従来の枠組みを批 判的に再検討し、さらにネット上のクチコミを介した消費者間の影響伝播プロセスを捉えるため の新たな枠組みとして、認知科学の最近の知見を応用した視点を提示することである。 そのための下準備として、第1章では本稿における「ネット上のクチコミ」の位置付けを再度 確認した上で、これを介した消費者間の影響伝播や意見形成などを捉えるための枠組みとして社 会的比較や認知科学などの知見を適用することを提案する理由や着眼点について、改めて議論を 行う。第2章では、社会的比較過程理論に依拠した従来の枠組みの有用性とともに、その問題点 や限界について議論し、続いて第3章では、認知科学の分野において得られている最近の知見を 応用した新たな枠組みを提示する。第1章 ネット上のクチコミへの社会的比較過理論の応用
1.ネット上のクチコミの位置付け インターネットには、マスメディア的なメディア特性とパーソナルメディア的メディア特性と が共存している。例えば Yahoo JAPAN のトップページのような従来のテレビの視聴率や新聞の 購読者数などに匹敵する膨大なアクセスを集める Web サイトでは、その利用形態のほとんどは一 方向の閲覧のみであり、マスメディアの利用形態に近いのに対して、電子メールやボイスチャッ ト、掲示板での投稿を通じた議論などのように、従来の電話や手紙と対照される双方向のコミュ ニケーション機能も有している。 そのようなマスメディアとパーソナルメディアの両方の特性を有するインターネット上に、「ク チコミサイト」と呼ばれる Web サイトが多数開設されており、一般消費者によって発信された特 定の製品やサービスに関する使用体験や感想といったクチコミ情報が大量に蓄積されている。こ れらのクチコミサイトの特徴の1つは、圧倒的に多くの消費者が閲覧のみによるマスメディア的な利用を行っている一方で、そこで閲覧されるコンテンツ自体は個々の消費者によって発信され たものであるという点で、パーソナルメディア的でもあるという点である。 例えば代表的なクチコミサイトである「アットコスメ」では、一日の平均ページビューが約 330 万 pv なのに対して、一日の平均投稿数は約 3,000 件であり(日経産業新聞 2005 年 8 月 11 日)、 1件あたりのクチコミ情報に対して、平均して約 1,000 のページビューがあることになる。別の 例として筆者が 1998 年に行った事例研究では、当時開設されていたある映画の公式サイトにお いて、1日の閲覧数と投稿数との比率は、当該サイトが開設されていた約 1 年半の期間中を通じ て約 1,000 対 1 であった。このようなインターネット上における閲覧数と発信数の偏りは日本だ けの特徴ではなく、例えば ATT 研究所の Whittaker らは、世界中のインターネット利用行動にお いて同様の偏りが見られ、圧倒的大多数のインターネット利用は閲覧のみである一方で、インタ ーネット上で発信される情報は限られた一部であることを報告しているi (Whittaker et al., 1998)。 以上のようなネット上のクチコミにおける発信数と閲覧数の偏りを鑑みると、ネット上のクチ コミを介した消費者間の影響伝播は、その大部分が図1の☆印を付したプロセスを通じて生起す ると考えることができる。先の数字を引用すれば、同図において「発信者」の周囲の「閲覧者」 は、ネット上に発信された個々のクチコミ情報ごとに約 1,000 名存在していることになり、発信 者がネット上に投稿したクチコミ情報を介して閲覧者に影響を及ぼすプロセスが、インターネッ ト上におけるクチコミ情報を介した消費者間の影響伝播プロセスの圧倒的大多数を占めるからで ある。そこで本稿では、以後「ネット上のクチコミ」を図1における☆印を付した部分の影響伝 播を担うプロセスとして捉えることにする。 2.社会的比較過程研究の知見をネット上のクチコミへ適用することの論拠 以上のように位置付けられるネット上のクチコミを介して、消費者間で影響伝播が生起し、そ の結果として閲覧者は特定のブランドや製品・サービスに関する意見や態度を形成・変容させる。 そのプロセスを捉えるための枠組みとして、先述のように筆者は社会心理学の1研究分野である 社会的比較過程研究において得られている知見を応用することを過去に提案してきた。その論拠 として、「比較」なら交友関係がなくとも、比較対象である他者を見るだけで行うことが可能であ るため、閲覧のみによる一方向の影響伝播であるネット上のクチコミに適用可能である、という
単純な発想がそもそもの根底にあったが、これ以外にも、次節で述べるように主として2つの理 由があった。それらは、第1に、従来の社会的比較過程の研究において用いられた実験の設計が インターネット上のクチコミ情報の特徴に近似していること、第2に、社会的比較過程理論の枠 組み自体が、インターネットのメディア特性に適合すること、であった。 なお、ここまでの記述において言及された「社会的比較」という研究分野は「自己と他者を比 較すること」全般に関するものであり、その研究領域は多岐にわたる。その中で、筆者が着目し てきた社会的比較を通じた意見形成に関する研究成果は、主として 1970 年代に集中的に提出さ れている。この社会的比較を通じた意見形成に関する理論枠組みを、この研究分野において中心 的役割を果たした George R. Goethals の名前をとり、以下では「Goethals 仮説」と呼ぶことに する。 21 Goethals らの実験設計における「他者」とネット上のクチコミにおける「他者」 211 Goethals 仮説の実験設計における「他者」 社会的比較を通じた意見形成プロセスを扱う実証研究は、一般に実験室実験の手法によって行 われてきたが、これらの実験では、被験者は(架空の)「他者」に関する情報を見せられた上で意 見形成を行うことを求められた。その際に、「他者」と自己(被験者自身)との間の属性の類似性 における操作された差異が、被験者の意見形成に及ぼす影響を測定することが、これらの実験の 目的であった。 多くの場合、これらの実験において被験者に提示される「他者」とは、実際にはその「他者」 が有する意見内容や属性情報を示す文字情報として被験者に提示された。例えば Goethals and Nelson(1973)では、一人の(架空の)他者の意見内容(刺激人物AとBのどちらをより好むか) と、属性情報(人物を判断するときに、いくつかの項目をどの程度重視するか)が、実験中に被 験者に示された。これらの情報を用いて被験者は「他者」と自己との間の意見や属性に関する類 似性の判断を行った。 「他者」についてのこのような限られた情報だけが表示される実験設計は、現実の対面状況に おける社会的比較とはかなり異なっている。現実の対面状況においては、目の前の他者が友人・ 知人である場合には、彼または彼女に対してすでに多くの情報を有していると思われるし、仮に 初対面であるとしても、その人物に関するさまざまな情報(年格好、雰囲気、服装の趣向、姿勢、 話し方、表情など)が直ちに収集される。そのような大量の属性情報によって、総合的に見てそ の他者と自己とが類似しているかどうかを判断することは容易ではなく、いくつかの限定された 情報だけによって類似性判断を行う実験中の被験者のようにはいかない。 このように、社会的比較を通じた意見形成過程の研究において用いられる実験室実験の設計は、 現実の社会的比較を通じた意見形成が行われる状況とはかなり乖離していたために、それらの実 験において得られた知見もまた、現実の意見形成プロセスに当てはめるには限界があったと考え られる。1980 年代以降の社会的比較過程研究が、意見形成に関する研究から関心を移し、病院に おける患者同士の社会的比較などの限定された研究主題へとシフトしていった背景には、このあ
たりにその1つの原因があったように思われる。 212 ネット上のクチコミにおける「他者」 このように Goethals 仮説の検証に用いられた実験設計における「他者」は、現実の対面状況 における他者とは乖離していたものの、インターネット上のクチコミ情報を閲覧する状況におけ る他者とはきわめて近似しているというのが、筆者の従来の研究における着眼点であった。 ネット上のクチコミにおいて、発信者によって投稿されたクチコミ情報を閲覧している状況を 社会的比較として捉える場合には、閲覧者が自己、発信者が他者にそれぞれ該当する。 例えば日産自動車によってインターネット上に開設されている「ユーザーボイス」のサイトで は、すでに同社の自動車を購入した消費者の感想が大量に蓄積されているが、そこでは図2に示 されるように、個々の購入者ごとに、購入した車種のグレードやカラー、ハンドルネーム、性別、 年齢、既婚・独身、子供の人数、居住形態、趣味、購入時に重視したポイント、購入後の感想(図 2では「日産ノート」を購入した感想)などの情報が表示される。このサイトを閲覧している消 費者にとって他者とはこれらの情報の発信者(投稿者)であるが、インターネットは匿名性が高 いメディアであるために、個々の発信者に関してこれ以外の情報は一切得られない。同様に「ア ットコスメ」では、投稿者の「年齢」、「肌質」、「髪質」、「お薦め情報」が表示されるが、同サイ トを閲覧する消費者にとって得られる「他者」に関する情報はこれらのみであり、他の情報は得 られない。そしてこれらの他者情報の多くは、図2の日産自動車のサイトの例に典型的に見られ るように、インターネット上では基本的には文字情報として提示されているのである。 このようなネット上のクチコミ情報の閲覧状況において得られる他者情報の態様は、現実の対 面状況における社会的比較のそれよりも、前項で見た社会的比較を通じた意見形成プロセスに関 する実証研究で用いられる実験設計にむしろ近似している。そのため、1970 年代に提出された社 会的比較を通じた意見形成に関する実験研究において用いられた理論枠組みや、そこで得られた 知見は、現実の社会的比較による意見形成プロセスよりも、インターネット上における消費者間 のクチコミ情報を介した影響伝播プロセスにこそよく当てはまるというのが、従来の筆者の着眼 点であった。 22 Goethals 仮説における「二層比較」仮説
Goethals 仮説では、一般に人が意見に関して他者と自己との比較を行う際には、(1)表明さ れた意見の内容自体についての比較と、(2)当該意見内容に関連し、かつ他者と自己とに共通す る何らかの属性(以後「関連属性」と呼ぶ)においての比較、という2つの異なるレベルにおい て比較を行うと仮定する。それぞれのレベルの呼び方は研究者によって異なるものの、社会的比 較には異なる2つ以上のレベルの比較が存在するという考え方は、意見比較に限らず広く社会的 比較過程研究全体においても基本的な前提となっており(高田, 1984)、Goethals らもまた、こ の考え方の上に意見比較に関する彼らの仮説を組み立てている。 このような Goethals 仮説における二層比較の枠組みは、基本的には匿名性が高いメディアであ るインターネット上において、ネット上のクチコミ情報を介して生起する消費者間の影響伝播プ ロセスに関して記述的適合性が高いii 。加えてマーケターによるクチコミの影響力の操作可能性を 示唆するという点において有用性が高いiii (澁谷, 2007)。 以上の諸点によって、ネット上のクチコミを介した消費者間の影響伝播プロセスを捉える枠組 みとして、Goethals らによる二層比較を通じた意見形成の理論、すなわち Goethals 仮説が有用 であると筆者は主張してきたのである。
第2章 Goethals 仮説の限界
前章で見たように、Goethals 仮説にはネット上のクチコミ・プロセスを捉える上での多くの有 用性を有するが、その一方でいくつかの問題点を伴う。本章では、同仮説の問題点や限界につい て議論を行う。 1.帰属理論の問題点と限界 11 Goethals 仮説における確信増減のメカニズム Goethals 仮説では、自己と他者との関連属性において類似性を認知した場合に、当該他者の意 見内容から影響を受けると主張するが、そのメカニズムの部分については、Kelley らによって 1970 年代に提出された帰属理論(その中でも人間が行う簡便な帰属プロセスとしての割増原理お よび割引原理)に依拠している。Goethals らは、「意見」を「客観的な事実に関する判断」と「主 観的な好き・嫌いに関する判断」とに識別し、前者を「信念」、後者を「価値」と呼び、両者にお ける確信増大のプロセスを識別した。Goethals らが述べた、それぞれについての社会的比較を介 した他者からの影響プロセスの概要は、以下のとおりである。 a.信念の確証プロセス 客観的で正解が存在するような事実に関しての判断を Goethals らは「信念」と呼んだ。例えば Goethals らの実験では、被験者は「3年前に入学した二人の大学志願者(AとB)の入学当時に 撮影された映像」と称するビデオを見せられ、3年後の現在までにそれら二人のうちのどちらが より優れた学業成績を収めたかを判断することを求められた。このような信念の確証プロセスにおいては、その内容に関連する属性において類似性を有する他者との間で意見の一致性を認知し た場合、その結果は当該他者との類似性の存在のゆえに割引かれると Goethals らは主張した。な ぜならその意見一致は、関連属性における類似性を有する、すなわち似た者同士の間でしか通用 しない客観性を欠いた意見であるかもしれないからである、というのがその理由であった。した がってこの場合には、当該信念に対する確信は低下するとした。一方この逆に、関連属性におい て非類似な他者との間に意見内容の一致性を認知した場合には、その結果は当該他者との間の類 似性の欠如のゆえに、より広い一般的な意味での妥当性を推測できるため、割増して考えること ができるとした。したがってこの場合には、確信は増大すると Goethals らは主張したのである。 b.価値の確証プロセス これに対して好き・嫌いに関する意見を Goethals らは「価値」と呼んだが、この価値の確証 においては、信念とは対照的なプロセスをとるとした。Goethals らは、2つの小説(AとB)の うちどちらを休暇旅行にもっていくかを考えている人の例をあげた。彼は小説Aの方がより楽し めるだろうという価値をもっているとする。その場合、もし彼と感性や関心が似ている(小説の 選好に関する関連属性において類似性を有する)他者が、やはり小説Aを選ぶ(意見一致者であ る)ことを知れば、彼は自分の価値についての確信を強める。つまり価値の評価においては、そ の価値内容の関連属性において類似性を有する他者と意見一致した場合、当該価値に対する確信 度は類似性の存在ゆえに割増しされるとした。その逆に、当該価値内容の関連属性において非類 似な他者との意見一致を認知した場合には、非類似性のゆえに確信は低下すると主張した。 12 帰属理論に依拠した Goethals 仮説の限界と問題点 Goethals らが帰属理論に依拠して、以上のような社会的比較を通じた意見形成の枠組みを提示 した際の主たる目的は、「似ていない」他者との比較によっても意見確信が増大する場合があるこ
とを示すことにあった(Goethals and Nelson, 1973; Goethals and Darley, 1977)。それまでの
説得研究においては、人は類似した他者によってよりよく説得されるという知見と、(類似してい
ないが)専門知識を有する他者によってよりよく説得されるという知見との2つが長らく対立し ており(Simons et al., 1970)、Goethals らはこの両者を統合的に説明するための枠組みとして 社会的比較に着目した。そして、判断主題の内容によっては、すなわち判断内容が好き・嫌いで はなく、客観的で正解が存在するような事実に関しての判断である場合には、似ていない他者と の比較を行うことによっても自己の意見確信が強まる場合があることを実験によって示そうとし たのである。 このような目的を有していたために、前項の a.で見た信念の確証プロセス(属性において類似 していない他者の意見から影響を受けるプロセス)が検証されたことが、Goethals らによる実験 の最大の成果であった。しかし一方で、前項の b.において示されているように、属性において類 似した他者の意見内容から影響を受けるというプロセスに関しては、そのようなプロセスが当て はまるのは意見内容が「好き・嫌い」(価値)である場合に限定されることは述べられているもの の、そのメカニズムについては実は何も述べていない。先述のように Goethals 仮説は帰属理論に 依拠しているが、それは専ら「信念の確証プロセス」を説明するために用いられており、前項 b.
で見た価値の確証プロセスにおいては、「似ている」他者から影響を受けるプロセスは自明のこと として扱われているように読める。つまりそのメカニズムに関しては、何ら新しい知見は追加さ れていないのである。この点は、Goethals 仮説の1つの限界である。 同時に、帰属理論を用いることによって説明されたとされている信念の検証プロセスについて も、問題が残る(澁谷, 2007)。それは、前項 a.で見たように、このプロセスはかなり論理的なプ ロセスであることである。その背景には、当時の帰属理論が提示した人間の思考プロセスそのも のが、きわめて論理的なプロセスとして捉えられていたことがある。実際に ANOVA モデルに代 表される Kelley の帰属理論は、人間が現実に行う帰属のモデルというよりは、合理的・論理的な 推論はこのようになるはずだという規範的理論としての性格が強いものであった(外山, 1989)。 このような帰属理論による判断プロセスをメカニズムの部分に採用したために、Goethals らによ る社会的比較を通じた意見形成(信念の確信増大)の過程もまた、同理論と同様にきわめて論理 的なプロセスとして説明されているのである。 しかし帰属理論に関しては、その後さまざまな実証研究が蓄積される中で、現実の帰属プロセ スにはさまざまな錯誤や矛盾が含まれ、必ずしも Kelley が描いたように論理的・分析的には進め られない場合も多いことが明らかになっている(外山, 1989)。したがって、Goethals らが提示 した他者比較を通じた意見形成の枠組みもまた、そのメカニズムの中核を帰属理論が担っている ために、同理論が有する限界や問題点をそのまま継承しているのであるiv 。 2.「関連属性」の問題点 先に見たように、Goethals 仮説においては他者と自己との社会的比較を「意見」層における比 較と「関連属性」層における比較とに識別する二層比較の枠組みを採用している。このうち、後 者の「関連属性」について、Goethals らは「意見内容に密接に関連した属性」と定義している (Festinger, 1954; Goethals and Darley, 1972; Goethals and Nelson, 1973)が、関連すると はどういうことなのかについては、それ以上は何も述べられていない。 この枠組みをネット上のクチコミを介した消費者間の影響伝播プロセスに応用する場合、われ われが知りたいのは、どのような属性における類似性の認知が、もっとも意見内容の影響力を高 めるのか、という点である。先述の日産自動車のサイト内の「ユーザーボイス」を例にとれば、 すでに購入したユーザーについて表示される年齢、性別、結婚の有無、子供の人数、居住形態、 趣味などの関連属性の中で、どの属性が自動車の選択という意見形成において最も密接な関連が あるのか、換言すれば、閲覧者から見てどの属性において発信者と自己とが類似している場合に、 発信者(購入済みユーザー)から、現在日産自動車の当該車種の購入を検討しているネット上の 閲覧者への影響力がもっとも高まるのか、ということに関心があるのである。 このようなわれわれの問題意識に鑑みれば、「意見内容に密接に関連した属性」という Goethals 仮説における関連属性の定義は、その「密接な関連性」とはどういうことかを明らかにしていな い点において、限界を伴っていると言わざるを得ない。
3.第1章、第2章のまとめと本稿における検討課題の設定 以上をまとめると、ネット上のクチコミ情報を介した消費者間の影響伝播プロセスを捉える上 で、Goethals 仮説には有用性と限界が伴う。第1章で見たように、発信者によって投稿されたネ ット上のクチコミ情報を閲覧者が閲覧している場面を、社会的比較として捉えるという着眼点、 およびそこにおいて、意見層と属性層という2つの層において比較が行われるとする二層比較の 枠組みは、きわめて有用性が高いと思われる。 しかしその一方で、本章において検討したように、二層比較を通じて、属性における類同性を 認知した他者の意見内容に影響を受けるというプロセスのメカニズムを担う理論枠組みとしての 帰属理論、および二層比較における関連属性の定義には限界がある。 そこで次章では、以上の検討を踏まえた上で、影響伝播のメカニズムの部分については、この プロセスを帰納推論として捉えることによって、また関連属性の定義に関する限界については、 ここにアナロジー研究における構造整列仮説を導入することによって、それぞれ理論的な改善を 試みたい。
第3章 認知科学におけるアナロジー研究からの知見
本章では、近年の認知科学において発展を見せている類似性認知に関するさまざまな知見を概 観し、これらの中で特にネット上のクチコミを介した影響伝播や意見形成のプロセスを扱う上で 有用と思われるいくつかの枠組みについて議論と検討を行う。前章までに見てきた社会的比較過 程理論における Goethals 仮説の枠組みが伴っているいくつかの限界や問題点に関して、本章では 2つの論点を設定する。 第1の論点は、なぜ関連属性において類似性を認知した他者の意見内容から影響を受けるのか という、より根源的な問いである。本章ではまずこの点に関しての議論と考察を行う。次に第2 の論点として、どのような属性における類似性の認知が、より意見の影響力を高めるのかという 点について検討する。 1.ネット上のクチコミ情報とアナロジーによる帰納推論 11 認知科学研究の動向 近年の認知科学では、アナロジー研究およびその一環としての類似性認知のプロセスに関する 研究が、1つの主要な研究領域として設定されている。これより先、初期の認知科学では、内容 とは独立した人間の一般的な思考ルールに関する研究が盛んに行われた。その典型例としては、 Newell and Simon(1972)の手段目的分析、あるいは弱いヒューリスティクスのルールなどを あげることができるが、このような領域に依存しない一般的思考方略は、背景知識が必要とされ ない記号論理学やパズルのような課題においてはうまく機能するものの、豊富な背景知識が関連 するような課題においては有効ではなく、意味のないルールの適用を十分に制限できないことが、さまざまに指摘されるようになった(Cheng and Holyoak, 1985; 安西, 1987)。 認知科学において、次に着目されたのは領域固有な知識による思考プロセスであった。1980 年代の認知科学においては、領域固有知識が思考を説明することの証拠が、記憶、発達、文章理 解、学習、人工知能などの諸分野において広く提出された(鈴木, 1996)。 しかし、その後この領域固有知識によるアプローチにもまた問題があることが示されるように なった。最大の問題は、領域固有知識に依存する場合には、認知活動が当該固有領域から抜け出 すことが困難である点である。実際には人間は、新しい領域の課題に直面しても柔軟に対処する ことができる。このような人間の認知を捉えるための、領域固有性から抜け出すことを可能にす るアプローチとして、1980 年代以降の認知科学ではアナロジー(類推)の研究が盛んに行われる ようになっている(大西・鈴木, 2001)。すなわち、人間は過去の類似した経験を現在の直面して いる場面に適用するために、アナロジーを用いる(Holyoak and Thagard, 1995)と考えること によって、1970 年代までの一般的思考ルールを用いることなしに、人間の思考が領域固有性から 抜け出すことを説明しようとするのである。 このようなアナロジーのプロセスにおいては、次項において検討するように、カテゴリー間の 類似性の認知が重要な役割を果たす。このため 1980 年代から盛んになったアナロジー研究は、 さらに 1990 年代以降において、アナロジーの根底にあるカテゴリー間の類似性認知のプロセス に関する研究に大きな進展をもたらした(大西・鈴木, 2001)。 前章までに見てきた社会的比較過程理論の Goethals 仮説の枠組みでは、比較される自己と他 者との間の関連属性における類似性の認知が、意見の影響伝播に影響を及ぼすとされた。つまり この枠組みにおいては、関連属性間の類似性の認知が大きな役割を果たしていたのであるが、こ の類似性認知の部分へ、上記の 1990 年代以降に進展を見せているカテゴリー間の類似性認知に 関する研究の成果を応用することができるのではないかというのが、本稿の1つのアイデアであ る。 12 アナロジー
アナロジー(類推)とは、ある状況を別の状況に置き換えて理解すること(Holyoak and Thagard, 1995)であり、知りたいことやよく知らないことを、よく知っていることにたとえて考えること を指す(鈴木, 1996)。したがってアナロジーによる問題解決とは、現在直面しているよく知らな い状況における問題を解決するために、その問題に直接焦点を当てるのではなく、その問題以外 の情報を用いて解決しようとする試みである(Holland et al., 1986)。一般にアナロジーでは、 解決しようとする問題が存在している状況を「ターゲット・カテゴリー」とし、一方でターゲッ ト・カテゴリーの問題を考えるために当てはめられる既知の状況を「ベース・カテゴリー」とす る。すなわちアナロジーによる問題解決とは、ベース・カテゴリーに関する知識や経験をターゲ ット・カテゴリーに当てはめることによって、ターゲット・カテゴリーにおける問題を理解・検 討し、解決するプロセスである。 ネット上のクチコミ情報を参照することによって、現在関心をもっている製品やサービスに関
する情報収集をしている消費者が置かれている状況は、一面では一種の問題解決の状況である。 その問題解決状況においては、現在情報収集中のその製品やサービスは「よく知らない状況」に 該当する。すなわち、その製品やサービスをまだ購入していない消費者にとって、「当該製品・サ ービスを購入した自分」がターゲット・カテゴリーであり、当該製品やサービスを購入した自分 がどのようになるのか(どんな感想をもつのか、満足するのか、快適なのか、等)が、この問題 解決状況において知りたい事柄である。そして、このターゲット・カテゴリーにおける問題を解 決するために参照する、すでに当該製品・サービスを購入している他者の意見や感想がベース・ カテゴリーに該当する。つまり消費者は、ネット上において購入者によって発信されたクチコミ 情報を参照し、購入者の購買後の意見や感想を自己へ投射することによって、自己の購買後の状 況をアナロジーによって推論すると本稿では捉える。 ここで、アナロジーにおいては、ベース・カテゴリーとターゲット・カテゴリーの間の類似性 の認知が重要な役割を果たす(Gentner, 1983; Goldstone, 1994; Goldstone and Medin, 1994; 鈴木, 1996)とされている。上に述べたように、ベース・カテゴリーとは購入者(発信者)であ り、ターゲット・カテゴリーとは自己(閲覧者)であるから、この両者間の類似性の認知とは、 前章までに見た Goethals 仮説の二層比較の枠組みで捉えた発信者と閲覧者との間の関連属性に おける類似性の認知と関連があると思われる。そこで次にこの点に関して検討を行う。 13 アナロジーによる推論 先述のように、本稿では新たな製品やサービスについて情報収集中の消費者が置かれた状況を 問題解決状況として捉え、そこにおいて当該消費者がアナロジーによる推論を行うと捉えると述 べたが、このようなアナロジーによる推論の有用さは、そのアナロジーにおける写像の「完全さ」 と関連がある。すなわち、ターゲット・カテゴリーに関する情報が、ベース・カテゴリーに関す る情報より少ないとき(写像が不完全であるとき)に、後者から前者への投射が新たな推論を生 み出す(Holyoak and Thagard, 1995)のである。
これをネット上のクチコミ情報を閲覧している問題解決状況にある消費者に当てはめると、そ の消費者が閲覧している購入者の投稿は、すでに購入済みの製品・サービスについての意見や感 想を述べている。一方で閲覧者は当該製品・サービスを未購入であるとすれば、当然ながら購入 後の意見や感想は有していない。つまりそこには、購入後の意見や感想という点において、ベー ス・カテゴリー(購入・発信者)とターゲット・カテゴリー(自己・閲覧者)との間に情報差が ある。この差がアナロジーの不完全さに該当し、この差分に関する情報がベースからターゲット へ投射されることによって推論が行われるというのである。その推論とは、先述のように、自分 が当該製品・サービスを購入したらどのような感想をもつのか、満足するのか、快適なのか、等 を予測することである。 カテゴリー間の写像が完全であれば、2つのカテゴリー間にはまったく情報差がなく、一方か ら他方へ投射されるべき情報も存在しないため、アナロジーは行われない。しかし一方では、こ のようなカテゴリー間の情報量の差による写像の不完全さは、それが大きくなるほど、両カテゴ リー間の類似性の認知を弱めるため、そのアナロジー自体に対する確信を弱める。つまり写像の
完全さと推論の有用さとは、トレードオフの関係にある(Holyoak and Thagard, 1995)。この点 に関して Wisniewski and Bassok は、2つのカテゴリー間の類似性の認知には、両カテゴリー間 に共通する属性に関する認知と、片方に含まれるがもう片方には含まれない属性に関する認知と が関係する(Wisniewski and Bassok, 1999)と述べており、また Lassaline は、カテゴリー間の 重複部分が類似性比較に、重複しない部分が推論(帰納推論)に、それぞれ寄与する(Lassaline, 1996)としている。 この点をネット上のクチコミ情報を閲覧している消費者の状況に当てはめれば、当該閲覧者に とって、購入者と自己との間の情報量の差が推論に結びつく一方で、情報量の差が大きすぎれば、 行われる写像自体の確信が弱まるというトレードオフの関係が存在するということである。ここ において、このようなトレードオフが最もよく解決される1つのケースは、購入・発信者である 他者と未購入・閲覧者である自己との間に、当該製品・サービスについての消費体験情報におい てのみ差がある(発信者に存在し閲覧者に存在しない)一方で、その他の属性に関しては両者間 において共通する(関連属性において類似性が存在する)という認知が得られる場合であろう。 この場合には、関連属性における類似性の故に閲覧者は発信者と自己との間の類似性を認知する ため両者間の写像が行われるが、発信者から自己との間には消費体験情報において差があるため、 これを自己へ投射することによって購入後の自己の状況をよりよく推論することができると思わ れるv 。 以上の視角から、前章で検討した Goethals 仮説の枠組みにおいて未解決であった、なぜ関連 属性が類似している他者の意見に影響を受けるのかというメカニズムの問題に関して、1つの示 唆を得る。すなわち、閲覧者が発信者と自己との間にアナロジーによる推論を行うため、他者と 自己が関連属性において類似しているほど、当該他者から自己への写像の確信が強まり、その結 果として他者が有している意見がより確信をもって自己へ投影されると考えることができる。 14 アナロジーによる推論と帰納推論 前項で見た2つのカテゴリー間における情報量の差によって生成されるアナロジーによる推論 は、厳密には帰納推論と捉えることができる。Holland らは、帰納はアナロジー写像を行ったこ とによる重要な副産物であると述べているが、その帰納とは、不確実さに直面して知識を拡張す るあらゆる推論のプロセスである(Holland et al., 1986)。より具体的には帰納とは、前提にお かれたカテゴリーの特徴を、それらを包含する上位カテゴリーや、前提カテゴリーと同じ基礎レ ベルのカテゴリーへと敷衍する推論である(大西・岩男, 2001)。先に引用したように Lassaline (1996)は、2つのカテゴリー間において、片方には存在するがもう片方には存在しない属性に 関する認知が帰納推論に関連すると述べていたが、この場合にはその属性を含むカテゴリーが前 提カテゴリー、その属性を含まないカテゴリーが結論カテゴリーに、それぞれ対応する。 このような帰納推論は、ベース・カテゴリーの知識をターゲット・カテゴリーに写像すること によって行われるアナロジーによる推論と密接に関連する。実際に、後で見るように、Lassaline (1996)は従来のアナロジー研究において得られている知見を帰納推論に適用することを提案し、 その適用の適否を実証実験によって検証している。
Osherson et al.(1990)は、この帰納推論を包括的に整理・分類した。Osherson らによれば、 帰納推論は(1)一般帰納、(2)特殊帰納、(3)混合帰納、(4)その他の帰納、の4種類に分 類することができるとしたが、これらのうち特殊帰納とは、特徴を同じ階層にあるカテゴリーに 投射する帰納であると定義した。またこの特殊帰納においては、前提カテゴリーと結論カテゴリ ーが類似しているほど、帰納推論の確証度が高いと述べた。本稿では、Osherson らによって規定 されたこの特殊帰納に着目する。 Osherson らによる特殊帰納の特徴は、先に見たアナロジーによる推論と同じ構造をもつ。ア ナロジーの不完全さによる推論、すなわち両カテゴリー間の情報量の差に基づくアナロジーの推 論とは、あくまでも両カテゴリー間の類似性の認知という前提の上に成り立っていたが、ここに Osherson らによる特殊帰納の定義を援用すれば、アナロジーによる推論とは前提カテゴリから結 論カテゴリーへのアナロジーによる帰納推論(特殊帰納)であり、その確証度は前提カテゴリー と結論カテゴリーの類似性認知が強いほど高い、と理解することができる。 さらにこれをネット上のクチコミによる消費者間の影響伝播プロセスに当てはめて考えれば、 図3に示すように、ネット上で発信者によって投稿された感想や意見を閲覧している消費者は、 発信者と自己との間でアナロジーによる帰納推論を行うことによって、当該製品・サービスを購 入した際の自己の感想や意見を予想し、このことを通じてその製品やサービスについての態度形 成や購買意思決定を行おうとしていると考えることができる。 15 影響伝播のメカニズム Goethals 仮説の限界の1つであった、なぜ関連属性において類似性を認知した他者から、その 意見内容に関して影響を受けるのか、という本章冒頭にあげた第1の問題については、以上に検 討してきたように、他者から自己へアナロジーによる帰納推論が行われると理解することによっ て、幾分か解決に接近することができたように思われる。すなわちアナロジーによる帰納推論の 視点では、ネット上のクチコミを介した発信者から閲覧者への「意見内容の影響伝播」とは、す なわちアナロジーを介した発信者(他者)から閲覧者(自己)への意見の帰納であり、そこにお いて他者と自己との間の属性における類似性認知が高いほど、その帰納による推論結果に対する 確証度が高いと理解することができるのである。 このようなアナロジーによる帰納推論においても、Goethals 仮説の枠組みと同様に、類似性の
認知が重要な役割を果たしていた。先に見たように Osherson らは、前提カテゴリーと結論カテ ゴリーが類似しているほど帰納推論の確証度が高いと述べていたし(Osherson et al., 1990)、ま た Lepez らは、アナロジーの帰納推論における確証度は前提カテゴリーと結論カテゴリーの間の 類似度の関数であると述べている(Lepez et al., 1992)。 したがって次の問題は、前提カテゴリー(他者)と結論カテゴリー(自己)との間の属性間の 類似性は、どのような場合により高いと認知されるのかという論点である。この点は、Goethals 仮説における「関連属性」の概念規定の曖昧さの問題、すなわち本章冒頭であげた第2の論点に 関連する。この点について、次に検討を行う。 2.構造整列仮説とシステム性原理 21 比較プロセスにおける構造整列 認知科学では、一般に世界や知識を記述する際に、対象における属性(attribute)と関係 (relation)を識別する(鈴木, 1996)。ここで属性とは対象の性質であり、典型的には形、色、 重さ、大きさなどである。またこの属性は、種や個体ごとに特定の値(value)をもっている。関 係とは、こうした対象同士または属性同士を結びつける役割をもっている。例えば「犬がりんご を踏んだ」という文においては、犬という対象とりんごという対象が「踏む」という関係によっ て結びつけられていると考える。 このような属性と関係との識別は、アナロジーにおける類似性認知のプロセスでも行われる (Gentner and Markman, 1997)。それらは(1)「対象レベルの類似性」(object-level similarity) と、(2)「関係レベルの類似性」(relational similarity)とに識別される(Wisniewski and Bassok, 1999)。さらにこのような類似性認知に含まれる相互に関係づけられた属性間、すなわち構造化
された属性間の関係に関する認知には、それらの属性間の整列(Alignment)、すなわち構造整列
(Structural Alignment)のプロセスが関わっている(Markman, 1997; Bassok and Medin, 1997; Gentner, 1989; Goldstone, 1994; Markman and Gentner, 1997)とされる。
構造整列とは、構造化された属性によって構成される複数のカテゴリー間における共通性や差 異を決定するための相互比較・対照のプロセスであり、これは Gentner らが提示した構造写像理 論から派生した仮説である(Holland et al., 1986)。すなわち、Gentner らによる構造写像理論 をきっかけにして、カテゴリー間の類似性認知に関する近年の多くの研究では、類似性判断を比 較プロセスとして捉え、そのプロセスにおいて属性間の整列や対応づけが試みられると考える (Wisniewski and Bassok, 1999)。
前章に見た Goethals 仮説を用いる枠組みでは、ネット上のクチコミを参照することによって 行われる意見形成や態度変容のプロセスを社会的比較、すなわち自己と他者との比較のプロセス として捉え、その中において自己と他者との属性間における類似性の判断が行われるとしていた が、この構造整列仮説では、その類似性判断のプロセス自体が比較のプロセスであると述べてい る。すなわち、自己と他者との間の比較プロセスにおいては、両者の属性もまた比較され、属性 間の類似性の判断が行われるのである。つまりこの属性間の比較プロセスは、Goethals 仮説にお
ける二層比較のうちの属性における比較に、まさに該当すると思われる。
22 システム性原理
Gentner らは、アナロジー写像における1つの重要な原理として、システム性(systematicity) 原理を提示した。システム性原理とは、カテゴリー間の写像において属性間の1次の対応よりも、 関係レベル、特に高次の関係レベルの対応が優先されるというものである(Gentner, 1983; Gentner, 1989; Gentner and Toupin, 1989)。Gentner によれば、高次の関係とは、関係で結ば れる項目(スロット)の片方または両方に、さらに属性間の関係を含んでいるような関係構造を いうvi
。
Gentner が写像の原理の1つとして提示したこのシステム性原理が、実際の類似性比較のプロ セスにおいても成り立つことが、いくつかの実証実験によって示されている(Markman, 1996; Markman and Gentner, 1993; Gentner et al., 1993; Clement and Gentner, 1991)。Goldstone ら多くの研究者は、このような関係レベルの類似性認知が属性レベルの類似性認知を凌駕すると いうメカニズムは、類似性判断自体に内在するメカニズムであると考える(Goldstone et al., 1991; Medin et al., 1993; Markman and Gentner, 1993)。すなわち類似性判断のプロセスにお いて、比較される2つのカテゴリー間に関係レベルの類似性が認知される場合には、両カテゴリ ー間の類似性はより高く認知される(Goldstone et al., 1991; Lassaline, 1996; 大西, 2001)の である。 23 システム性原理とネット上のクチコミ このように人間が行う類似性判断のプロセスにはシステム性原理が内在し、属性間の関係が共 有される場合にはより高い類似性が認知されるのであるとすれば、それはネット上のクチコミ情 報の閲覧状況における社会的比較の類似性認知においても成り立つと考えることができる。 いま、ケース1として、日産キューブの購入を検討している消費者Aが、すでにキューブを購 入した消費者Bが投稿したネット上のクチコミ情報を閲覧しているとしよう。つまり消費者Aは 閲覧者(自己)であり、消費者Bが発信者(他者)である。この場合、先に述べたように、B(他 者)がベース・カテゴリー(または前提カテゴリー)であり、A(自己)がターゲット・カテゴ リー(または結論カテゴリー)である。ケース1では、Bは30歳、女性、既婚、子供が2人、 東京在住、趣味はアウトドアであると投稿内容に記載しており、これを閲覧しているAは、32 歳、女性、既婚、子供が2人、岡山在住、趣味はアウトドアであるとしよう。この場合、ベース・ カテゴリーとターゲット・カテゴリーには、いくつかの属性レベルの類似性が存在するため、閲 覧者であるAは、発信者Bと自己との間にいくらかの類似性を認知するであろう。 次にケース2として、同様にキューブの購入を検討中の消費者Aと、すでに同車を購入済みの 発信者Bを想定する。両者の属性もケース1と同様である。ただしケース2では、Bは「2人の 子供たちを連れて、家族で出かけるアウトドアがとても楽しい」と投稿内容に記載しており、こ
れを閲覧しているAもまた、2人の子供を連れてアウトドアに出かけるのが趣味であるとしよう。 このケース2の場合には、Bの投稿内容には、「子供が2人いること」と「趣味がアウトドア」と いう2つの属性間に、前者を原因、後者を結果とする一種の因果関係を読み取ることができる。 そしてこれを閲覧しているAの内心においても、同様の因果関係が存在する。 ケース2では、構造整列仮説に従えば、閲覧者Aは発信者Bと自己との間に、単なる属性間の 類似性のみならず、関係の類似性を認知することになる。一方でケース1では、閲覧者Aが発信 者Bと自己との間に認知するのは、属性レベルの類似性のみである。したがって、ここでシステ ム性原理が成り立つとすれば、A がBに対して認知する類似性は、ケース2の方がケース1より 高いと予測することができる。 24 関連属性の内実 Goethals 仮説が伴っているさまざまな限界や問題点のうち、本章の冒頭で提示した第2の論点 は、Goethals らがいう「関連属性」の具体的中身が明らかでないこと、すなわち、他者のどのよ うな属性において類似性を見出したときに、より当該他者の意見から強い影響を受けるのか、と いう論点であった。この論点について、本節における検討を通じて、一定の接近をすることがで きたように思われる。それは、他者と自己との間の単なる属性間の類似性ではなく、それらの属 性間に何らかの関係が存在しており、かつその関係において他者と自己との類似性を認知したと きに、当該他者に対して認知する類似性がより大きいというものである。 ただしこの帰結は、第2の論点に対してその半分しか解答していない。すなわち、「どのような 属性間において類似性を見出したときに、より意見の影響力が大きいか」という問題のうち、前 段の部分に対して、「属性間の関係に関して類似性を見出したときにより高い類似性認知が得られ る」という形で、やや論点をずらして解答を与えているものの、後段の「どのようなときに意見 の影響力が大きいか」に対しては、未だ解答を提示していない。 この後段の問題を検討するためには、本章の第1節で検討したアナロジーによる帰納推論と、 第2節で検討した構造整列仮説とシステム性原理の知見とを統合する枠組みが必要となる。すな
わちこの両者を統合し、「属性間の関係に関してカテゴリー間で類似性を認知したときに、前提カ テゴリーから結論カテゴリーへの帰納推論に対する確証度がより高まる」という仮説を設定し、 これを検証することによって、はじめて第2の論点に対する解答を得ることができる。 そこで次節では、このような両者を統合した枠組みにおいて仮説を提示し、実証実験を行って いる Lassaline(1996)の研究を検討する。 3. アナロジーによる帰納推論とシステム性原理 31 Lassaline(1996)の実験と結合関係 本章では、まず第1節でネット上のクチコミを介した消費者間の影響伝播のプロセスを、アナ ロジーによる帰納推論のプロセスとして捉える視点を提案し、続いて第2節では帰納推論におい て重要な役割を果たす類似性認知において、そこに内在される構造整列のプロセスとシステム性 原理について検討した。Lassaline(1996)は、この帰納推論と構造整列の論点を統合し、類似性 判断やアナロジーにおいて属性と関係を識別して扱うのであれば、帰納推論においても属性と関 係を識別して扱うべきであると述べた。 Lassaline(1996)は、このような問題意識に基づいて以下の2つの仮説を設定した。仮説1 は、「カテゴリー間における共有属性と共有関係の数が多いほど、類似性評価は高くなる」という ものであり、仮説2は「前提カテゴリーにおいて結合関係が存在する場合には、帰納推論の確証 度が高くなる」というものであった。ここで Lassaline が提示した結合関係という概念は、比較さ れる2つのカテゴリー間で共有された属性の1つと、帰納推論の対象となる属性(Lassaline はこ れを「ターゲット属性」と呼んだ)とを結ぶ関係のことである。 Lassaline があげている例では、いま目の前にいるネコを前提カテゴリー、目の前にいるイヌを 結論カテゴリーとするときに、両者ともに老齢であるために視力が衰えているとすれば、これは 因果関係が両カテゴリー間で共有されていることになり、「共有関係」である。一方ネコがしきり に体を掻いているので調べてみたらノミがいたとする。そしてイヌもまたしきりに体を掻いてい るとしよう。この場合、イヌにもノミがいるかどうかは、まだ調べていないのでわからない。し かし前提カテゴリーであるネコから帰納推論を行えば、イヌにもノミが湧いている可能性がある。 この場合に、「ノミがいる」がターゲット属性であり、「体を掻く」と「ノミがいる」を結びつけ ている関係が「結合関係」である。したがって、結合関係は前提カテゴリーにしか存在しない。 実験の結果、仮説1に関しては、共有属性が多いほど類似性評価が高くなったが、共有関係に ついては、これが存在しない場合と1つ存在する場合とで、類似性評価に差は見られなかった。 また仮説2に関しては、結合関係が1つ存在すると、有意に帰納推論の確証度が高かった。 この Lassaline(1996)の実験結果は、前述の第2の論点に対して、1つの解答を提示してい る。それは、結合関係が存在するときには帰納推論の確証度が高いというものである。これをネ ット上のクチコミ情報のケースに当てはめて検討すると、以下のように解釈することができる。 消費者Aはいま日産キューブに関心をもっており、このクルマに関するネット上のクチコミ情
報を閲覧している。一方消費者Bはすでに同車を購入しており、その感想などをネット上に投稿 している。ここで図5に示されるように、両者ともに30歳、既婚、子供が2人、であるとしよ う。つまりこれらの属性はA、B間における共有属性である。ここで発信者であるBは、「自分は 子供が2人いるので日産キューブはとても使いやすい」という、そこに一種の因果関係を読み取 ることができるような形で感想を投稿しているとする。この場合、子供が2人いることはA、B 間の共有属性である。また閲覧者Aにとっては、もし自分も日産キューブを購入したときに、(B と同様に)使いやすいと感じるだろうか、ということを知りたいのであるから、この帰納推論に おいては、「日産キューブは使いやすい」という意見がターゲット属性となる。Lassaline の定義 によれば、この場合「子供2人」という共有属性から「日産キューブは使いやすい」というター ゲット属性へ結ぶ関係が結合関係であり、この関係が前提カテゴリーである発信者の投稿内容に 存在するときには、帰納推論の確証度が高いということが実験の結果として示されている。 すなわち、ネット上のクチコミ情報を閲覧している消費者は、当該クチコミ情報の発信者と自 己との間において、属性間の関係に類似性を見出したときに、より強い類似性を認知し、また発 信者において結合関係を見出したときに、当該発信者の意見からより強い影響を受ける(帰納推 論の確証度が高い)のである。 32 大西(2001)による追試 Lassaline(1996)の実験では、共有関係については、これが存在しない群と1つ存在する群 とに被験者を割り当てることによって操作されたが、この実験設計では共有関係の有無は類似性 評定に影響を与えなかった。大西(2001)では、Lassaline の実験設計に改良を加え、共有関係 の数を0個から4個まで操作した結果、帰納推論の確証度に対する共有関係数の主効果が有意で あった。したがって大西による実験設計においては、共有関係数についても、これが増えるほど 帰納推論の確証度が高まったのであり、本章で設定した第2の論点に関して一定の解答を提示し ていると考えることができるだろう。
終わりに
本稿では、ネット上のクチコミ情報を介した消費者間の影響伝播のプロセスに関して、従来筆者が提案してきた社会的比較過程理論による意見形成の枠組み(Goethals 仮説)の有用性と問題 点を再点検し、その有用な点を活かした上で問題点を克服するための新たな視点を提示した。 アカデミックな意味では、ネット上のクチコミ情報を介した消費者間の影響伝播プロセスに対 して、近年の認知科学において進展を見せている類似性認知やアナロジーによる帰納推論、そし て構造整列仮説やシステム性原理といった新しい枠組みを導入することを提案した点が、本稿の 1つの独自性であると考える。 またマーケティング実務へのインプリケーションとしては、序章で述べたように、最近のネッ ト上のクチコミサイトにおいては、クチコミ情報だけでなく、それらを投稿した発信者の属性情 報をも提示しようとする動きが見られるものの、本稿の検討結果を踏まえれば、今後は単に属性 情報を並べて提示するだけでなく、その属性間の関係に関する認知がさらに重要であること、特 に第3章の最後で検討した結合関係を閲覧者が読み取った場合には、そのクチコミ情報を閲覧し ている消費者が当該製品・サービスを購入した結果に関する帰納推論の確証度が有意に高まるこ と、が示唆された。 最後に、本稿で提示した枠組みを再度まとめると、ネット上のクチコミ情報を介した消費者間 の影響伝播プロセスは、閲覧者と発信者との間で行われる二層の社会的比較であり、そこでは属 性間の類似性認知に基づいて、意見内容に関して発信者から閲覧者への投射という形でのアナロ ジーによる帰納推論が行われる。そして、この帰納推論の結果に対する確証度は、属性間の類似 性判断のプロセスにおいて、共有関係が多いほど、あるいは結合関係が認知された場合に、有意 に高まるのである。 以上
i なお、このことは総務省が発表しているインターネット利用動向調査や日経産業消費研究所による「日経 消費マイニング」の調査結果などが提示している「ブログ利用における書き手の比率が約2割」(日経流通新 聞 2005 年 8 月 10 日)などのデータとは、視点が異なる。これらの調査では1週間に1回以上自らのブログ を更新している者を「書き手」として定義しているが、本稿でいう発信者・閲覧者とは、ネット上に発信さ れたクチコミ情報ごとに、その利用形態によって判定している。例えば毎日数千のアクセスを集める有名ブ ログなどでも、実際にコメントやトラックバックがつくのは1つのエントリ(記事)に対してわずかに数件 である場合が多く、その場合、当該ブログの1件のエントリと投稿された数件のコメントが、そのエントリ に関しての発信者、一方で当該エントリやコメントを閲覧している数千の利用者が閲覧者である。このとき、 それらの閲覧者が、他で自らのブログにおいて例えば週に1回以上日記を更新しているか否かは、本稿の視 点における発信者・閲覧者の定義には関わりがない。本稿ではこのような態様を捉えて、ネット上の個々の クチコミ情報においては、利用形態の圧倒的大部分は閲覧のみであると理解している。 ii 先に見た日産の「ユーザーボイス」や「アットコスメ」などの例は、ネット上のクチコミ情報において、 発信者の属性情報を積極的に提示しようと試みる事例であるが、一方で多くのネット上のクチコミ情報にお いては、発信者の「意見」が投稿されている一方で、それぞれの発信者の属性情報については不明な場合が 多い。このようなネット上のクチコミ情報を捉える上で、「意見」層と「属性」層とを識別する Goethals 仮説 の二層比較の枠組みは、当てはまりがよい。この点に関しては、詳しくは澁谷(2007)を参照されたい。 iii 従来のマーケティング研究において、消費者間のクチコミが重要であることは繰り返し指摘されているも のの、基本的にはパーソナルなコミュニケーションプロセスであるクチコミに関して、マーケターがその伝 達内容に介入することは困難であった。このことはネット上のクチコミにおいても同様である。しかしネッ ト上のクチコミにおいては、すでに述べたように、それぞれのクチコミ情報の発信者に関する属性情報が基 本的には不足しているため、属性情報の表示のされ方を操作するという形で、従来困難であったクチコミに
よる影響力にマーケターが多少なりとも介入できる可能性が示唆される。 iv さらに言えば、Goethals らがいう「信念」(客観的で正解が存在するような事実に関しての判断)とは、い ま目の前にはないものの、調べれば正解がわかるような事実に関する判断ということである。これをサービ スの属性を探索属性、経験属性、信頼属性に分類した Zaithmal の枠組みに布置すれば、探索属性に関する判 断に近いものと捉えることができるように思われる。しかしネット上で他者のクチコミ情報を参照する必要 があるのは、どちらかと言えば探索属性ではなく、経験属性についての判断なのである(澁谷, 2007)。 v このような伝達される意見内容においてのみ情報差が存在し、その他の属性については類似しているとい う状況は、普及研究において Rogers が述べた「普及に関する理想的なオピニオンリーダーとフォロワーとの 間の関係」の状況と近似している。Rogers(1995)は、オピニオンリーダーとフォロワーとは、「イノベーシ ョンに関して異類的である一方で、その他のすべての変数(例えば教育、社会的地位など)に関しては同類 的であることが理想的である」[p. 19]と述べている。 vi 例えば「刑事が主人公を追う」は「刑事」および「主人公」という対象同士が「追う」という関係で結び つけられるため、一次の関係である。しかし「刑事が主人公を追うため、主人公が逃げる」という関係は、「刑 事が主人公を追う」という関係と、「主人公が刑事から逃げる」という関係とが、さらに因果関係によって結
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