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界面・結晶構造制御したITOナノ粒子の液相合成とミスト塗布による透明導電膜作製

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(1)

界面・結晶構造制御したITOナノ粒子の液相合成と

ミスト塗布による透明導電膜作製

著者

鈴木 涼子

学位授与機関

Tohoku University

(2)

士 学 位 論 文 要 約

論 文 題 目

界 面 ・結 晶 構 造 制 御 した

ITO ナノ粒 子 の液 相 合 成 と

ミスト塗 布 による透 明 導 電 膜 作 製

Doctoral Thesis Title

Liquid phase synthesis of ITO nanoparticles

controlled in their interface with crystal structure

and production of transparent conductive films

by the mist-deposition

提 出 者

東 北 大 学 大 学 院 環 境 科 学 研 究 科

先 端 環 境 創 成 学 専 攻 専 攻

学 籍 番 号

B7GD3502

氏 名 鈴 木 涼 子

(3)
(4)

指 導 教 員 村松 淳司 教授 研究指導教員 審 査 委 員 (○印は主査) ○ 村松 淳司 教授 1 長尾 大輔 教授 2 三ツ石 方也 教授 3 蟹江 澄志 教授 4 教授 5 教授 6 教授

(5)
(6)

博士学位論文

界面・結晶構造制御した

ITO ナノ粒子の液相合成と

ミスト塗布による透明導電膜作製

東北大学大学院環境科学研究科

先端環境創成学専攻

鈴木 涼子

令和

2 年度

(7)
(8)

i

目 次

1 章 序 論

1

1.1 酸 化 イ ン ジ ウ ム ス ズ (ITO) 2 1.1.1 ITO 薄 膜 の 作 製 2 1.1.2 ITO ナ ノ 粒 子 の 合 成 5 1.2 ナ ノ 粒 子 の 形 状 制 御 10 1.3 ミ ス ト 塗 布 13 1.4 本 研 究 14 1.5 引 用 文 献 15

2 章 粒 子 表 面 構 造 制 御 に よ る 水 分 散 性 ITO ナ ノ 粒 子 の 液

相 合 成

19

2.1 は じ め に 20 2.2 実 験 方 法 20 2.3 結 果 と 考 察 22 2.4 結 論 36 2.5 引 用 文 献 37

3 章 水 分 散 性 ITO ナ ノ 粒 子 を 用 い た ミ ス ト 塗 布 に よ る 透

明 導 電 膜 の 作 製

39

3.1 は じ め に 40 3.2 実 験 方 法 40 3.3 結 果 と 考 察 40 3.4 結 論 41 3.5 引 用 文 献 41

4 章 水 分 散 性 ITO ナ ノ 粒 子 の 低 抵 抗 率 化 と 結 晶 構 造 解 析

43

(9)

ii 4.1 は じ め に 44 4.2 実 験 方 法 44 4.3 結 果 と 考 察 44 4.4 結 論 46 4.5 引 用 文 献 46

5 章 総 括

47

List of Publications

51

謝 辞

53

(10)

1

1 章

序論

(11)

2

1.1 酸化インジウムスズ(ITO)

酸化インジウムスズ(ITO)は代表的な透明導電酸化物(TCO)である。その抵抗 率の低さや透明性、エッチングのしやすさなどから、主に液晶ディスプレイや 太陽電池の電極材料として広く利用されている。そのほかにも赤外吸収材やバ イオセンサーなどへも応用されている1 ITO は bixbyite 構造の In2O3のうち一部のIn3+がSn4+に置換された構造を有す る。導電性発現のメカニズムはいくつかあるが、その一つにSn のドープによっ て生じた余剰電子が導電キャリアとして機能する機構が挙げられる2,3 。よって Sn のドープ量の制御は非常に重要であり、これに関してさまざまな報告が存在 する。Shigesato らの報告では高密度プラズマアシスト EB 蒸着で作製した ITO 薄膜は、1.5 wt%から 5.3 wt %の Sn のドープによって抵抗率が下限値を示した4 また、パルスレーザーデポジション法と基板へのレーザー照射をあわせて作製 されたITO 薄膜では、Sn のドープ量 0 wt%から 10 wt%の間で条件検討したとこ ろ、Sn = 5 wt%のときに抵抗率は下限値(8.93×10-5 ·cm)を示すことが報告され

た5。スプレーCVD 法による ITO 薄膜の作製では、0 atm%-25 atm%で調査した

場合に、Sn = 3 atm%で抵抗率は下限値(2.5 ×10-5 ·cm)を示した6 これらの報告から、多くのSn をドープすることが必ずしも低抵抗率化につな がるわけではないことが分かる。これはSn のドープがキャリア密度の増加だけ でなく、散乱中心を生み出していることや、Sn が有効に結晶構造中にドープさ れないことが原因と考えられている。また多くの場合、10 wt%の Sn ドープ量で 抵抗値は下限値を示すが、その作製方法によって最適なドープ量に違いがある ことが分かる。

1.1.1 ITO 薄膜の作製

ITO を電極材料や赤外吸収材として利用するためには、基板に ITO を成膜す る技術が必要がある。成膜方法は蒸着7やスパッタといった乾式法 8-13と、スピ ンコートやディップコートなどの湿式法14-19とに大別される。 乾式法によるITO の成膜にはスパッタ法が多く用いられている。1971 年の J. L. Vossen81972 年の D. B. Fraser9らの報告では直流スパッタ法でITO 薄膜が作製

されている。彼らは基板を500°C または 400°C に加熱しており、1.8×10-4 ·cm

や2.0×10-4 ·cm といった低抵抗率の膜を得ることに成功している。その後マグ

ネトロンスパッタ法による ITO 薄膜の高速成膜の実現により、ITO 膜が工業的 に普及されるに至った10,11。このようなマグネトロンスパッタ法を用いたITO 薄 膜では、追試は成功していないが4.4×10-5 ·cm の抵抗値が記録されている12, 13

(12)

3 このようなスパッタ法を用いた ITO 成膜は、大面積に一度に成膜可能であるこ と、低抵抗率の薄膜が得られることといった利点がある。一方で、高額な成膜 装置が必要であること、成膜対象以外へのITO の付着により In のロスがあるこ とが課題である。 湿式成膜では ITO ナノ粒子を有機溶媒に分散させたインクを用いることが多 い。この成膜法は乾式法で課題となる高額な装置が不要であることやIn のロス が減らせるといった利点がある。ただし、粒子を用いているためスパッタ法の ITO 膜と比較して膜の構造が疎になること、インク化する際に用いる分散剤や有 機溶媒の残存により膜の抵抗率が高くなることが課題である。ITO の湿式成膜の 手法はスピンコーティング14-16、インクジェットコーティング17、ディップコー ティング18、ブラシ塗布19が報告されている。 Ito らはトルエン : 1-オクタノール = 1 : 20 の体積比となるよう混合した溶液 中に、ITO ナノ粒子を添加して塗布液を作製した。Si 上に ZnO のピラーがつい た基板に作製した塗布液をスピンコートした14。成膜後は有機残渣を除去するた

めに300°C で加熱しており、抵抗率は 7 × 10-3 ·cm となった。 10 nm 以下の

粒径のITO ナノ粒子は Figure 1.1 のように、ZnO ピラーの表面を隙間なく被覆す ることが可能であった。酸化物基板上での 1-オクタノールの濡れ性の高さが、 ITO ナノ粒子塗布液の良好な塗布性の要因であると考察されていた。

Figure 1.1 ZnO ナノピラー付き基板上にコーティングされた ITO ナノ粒子の (a) 低倍率、(b)ZnO ピラーの下部の高倍率、(c) ZnO ピラーの上部の高倍率の断面 SEM 像14 Lu らは低温での ITO ナノ粒子膜の作製を試みている15。メタノール中に分散 剤を用いてITO ナノ粒子を分散させることで、ITO ナノ粒子濃度 30 wt%以上の 高濃度の塗布液を作製した。この塗布液をガラス基板上にスピンコートによっ て成膜し、140°C の大気中で 10 min 乾燥させた。この塗布工程を 2 回繰り返し たのち、N2雰囲気下で140°C と 500°C で 30 min ずつ加熱処理を行った。550 nm での透過率は89 %以上となり、高透過率であった。また前者は膜厚 826 nm に成

(13)

4 膜したところ、2.1×10·cm の抵抗率を示し、後者は膜厚 760 nm に成膜したと ころ、1.1×10-2 ·cm の抵抗率を示した。 Im らは市販の ITO ナノ粒子を水溶液中に分散させて、スピンコートでガラス 基板上に成膜した16。成膜後、真空中で 200°C から 400°C で 5 min の加熱処理を 行い、透明ヒーターとしての機能を調査した。成膜後の加熱温度が高いほど高 透過率を示し、可視光においては 90 %以上の透過率となった。またシート抵抗 は成膜直後および 200°C、300°C、400°C での加熱処理後にそれぞれ 186、3.6、 0.8、0.6 k/square となり、高温での熱処理によりシート抵抗が低下することが 分かった。電圧の印加後には、ITO ナノ粒子膜は温度上昇し、400°C 加熱処理の 膜では 20 V の電圧の印加により 163°C となった。 インクジェット法によるITO ナノ粒子膜も報告されている17。エタノール中 に分散媒を用いてITO ナノ粒子を分散させて塗布液を作製した。この塗布液を インクジェット印刷装置を用いて20 mm 四方のガラス基板上に成膜したあと、 マイクロ波を照射しながら大気中で加熱して ITO ナノ粒子膜を得た。この際の 加熱温度が高いほど抵抗率は低くなり、400°C の加熱処理を行うことでシート抵 抗は 517  / square となった(Figure 1.2)。

Figure 1.2 インクジェット法で成膜した ITO 薄膜の(a)30,000 倍観察、(b) 200,000 倍観察の断面FE-SEM 像17

(14)

5 Jafari らはディップコートにより ITO ナノ粒子膜を作製し、帯電防止を試みて いる18。始めにITO ナノ粒子をテトラメトキシシランで表面修飾し、3-グリシジ ルオキシプロピルトリメトキシシランおよびエチレンジアミンと混合して塗布 液とした。この塗布液でガラス基板をディップコートし、室温で36 h 乾燥した あと、150°C で 3 h 加熱処理を行った。ITO ナノ粒子を 1 wt%を含む膜では 3.9 ×109  / square となり、ITO ナノ粒子含有量が多いほどシート抵抗は低下し 10 wt%含む膜では 5.4×106  / square となった。実際には 1 wt%以上の含有量で帯 電防止膜として機能しうることが報告された。

Shin らはブラシ塗布によって ITO ナノ粒子膜を成膜している1930 wt%の ITO

ナノ粒子のエタノール分散液を、ブラシに含ませてガラス基板上に塗布し (Figure 1.3)、レーザーアニールを行った。レーザーのスキャン速度を 12 mm / s とした場合に最も良い特性が得られた(シート抵抗 : 56.8  /square、抵抗率 : 5.7 ×10-3 ·cm)。簡便な塗布方法とレーザーによる低温処理プロセスによって、導 電性薄膜を得ることに成功している。 Figure 1.3 ITO ナノ粒子を含む塗布液のガラス基板上へのブラシ塗布の概略と膜 の表面FE-SEM 像19

1.1.2 ITO ナノ粒子の作製

ITO のナノ粒子は、これまで述べてきたような薄膜作製において非常に重要な 材料である。ITO ナノ粒子の作製手法は共沈法、ゾル-ゲル法、水熱合成法、ソ ルボサーマル法などさまざま報告されている。中でも共沈法20-24の報告が多い。 この手法は、In 塩と Sn 塩からインジウムとスズの水酸化物を得て、これを高温 で加熱処理することでITO を得る方法である。最終プロセスである熱処理によ る粒子の凝集が課題として挙げられることが多い。 Kim らは共沈法により粒径 20-30 nm にサイズ制御した ITO ナノ粒子を作製し た20。原料であるInCl3·4H2O と SnCl4·5H2O とを純水中に溶解させ、そこに NH3

(15)

6 水溶液を添加し、室温で30 min 攪拌した。ここで沈殿した In と Sn の水酸化物 を150°C で加熱して水分を除去したのち、さらに空気中で 600°C、3 h 加熱して ITO を得た。続いて得られた ITO を N2 (2 % H2)下で 400°C、2 h 加熱して還元処 理を行った。反応溶液をpH = 6.75 とした場合粒径 20 nm 程度と 60 nm 程度の粒 子が混在していたが、pH = 10.13 の場合は粒径 20 nm 程度の粒子のみが存在して いた。また、還元処理後には粒子径が大きくなり、粒子形状は球形からいびつ な形状に変化した。またpH = 10.13 の高 pH の場合は立方晶の In2O3の結晶相が 得られるのに対し、pH = 6.75 では六方晶の In2O3の結晶相が得られた(Figure 1.4)。 この結果は添加するNH3の量が不十分な場合に残存するフリーなCl-イオンが生 成物に吸着し結晶構造や粒子成長に影響を与えたためだと考えられた。さらに 加熱温度やSn 濃度が粒径や結晶構造に対する影響についても述べられていたが、 この報告ではどの生成物もいびつな球形が凝集したナノ粒子が生成していた。

Figure 1.4 合成時の pH が(a) 6.75、(b) 10.13 の場合の ITO ナノ粒子と、(c) (a)の粒 子と (d) (b)の粒子の還元処理後の TEM 像20

(16)

7 Kobayashi らの報告では共沈法によって立方体形状の ITO ナノ粒子が得られて いる21InCl 3·4H2O と SnCl4·5H2O の溶液に対して NaOH 水溶液を添加し、室温 で攪拌して種となる粒子を作製した。これを水中に分散させたコロイド溶液を 作製し、尿素水溶液とともに、InCl3·4H2O と SnCl4·5H2O の水溶液に添加し室温 で8 h 攪拌した。得られた生成物を空気中で 500°C で 2 h 焼成して ITO ナノ粒子 を得た。Figure 1.5 の a はコロイド溶液中の種を加熱したもの、b は種を添加せ ずに作製したもの、c は上述の方法で作製したものである。種結晶を用いること で粒子形状の制御に成功したと報告されている。

Figure 1.5 様々な倍率で観察した (a) ITO コロイド、(b) コロイドを添加してい ない場合のITO (c) コロイドを添加した ITO ナノ粒子の SEM 像21

ゾル-ゲル法によっても ITO ナノ粒子の作製が行われている25-27Li らの報告 25では、まずIn(NO 3)3の水溶液とSn(NO3)4の水溶液とをIn2O3 : SnO2 = 90 : 10 と なるように混合し、さらにクエン酸をクエン酸 : 金属イオン = 2 : 1 となるよう に添加して金属錯体溶液を得た。ここにt-BuOH を滴下し、得られたゲルを洗浄 後100°C で 5 h 乾燥した。このゲルを 300°C -800°C で 3 h 加熱して ITO ナノ粒子 を得た。300°C で加熱したサンプルは互いに連結した 3 nm-7 nm のサイズの粒子 が得られ、700°C で加熱したサンプルは緩く連結した 20 nm のサイズの粒子が得 られた。600°C で加熱したサンプルについて、PVA バインダーとともに焼結し たところ、高温で相対密度が98.1%と非常に高い値となった。ゾル-ゲル法を用 いることで不純物の少ないITO の作製が可能となった。 Gilstrap Jr.らはソルボサーマル法を用いて単分散 ITO ナノ粒子の作製を報告し ている28。In と Sn の酢酸塩をミリスチン酸とともにオクタデセンに溶解させ、 アルゴン雰囲気下で110°C で 2 h 加熱し、脱気した。さらにオクタデシルアミン

(17)

8 のオクタデセン溶液も同様に調製した。この2 つの溶液を混合し、280°C で 1 h 加熱した。さらに240°C で 1 h 加熱後に得られた粒子を洗浄して。n-ヘキサンに 分散させた。この手法ではアミンがカルボン酸塩との縮合中に水分子を生成さ せるだけでなく、生成した粒子の安定化剤になることで粒子形状が揃った、単 分散の粒子を作製することに成功している(Figure 1.6)。

Figure 1.6 右図:ITO ナノ粒子の TEM 像。左上図:一粒子の STEM 像。左下図: 粒子300 個のサイズ分布28 近年はマイクロ波を利用したITO ナノ粒子の合成も報告されている29,30。マイ クロ波加熱は分子レベルでの均一な加熱による反応時間の短縮の効果があるこ とが知られており、ナノ粒子合成に応用されている31 Oliveira らはマイクロ波を用いたソルボサーマル法で ITO ナノ粒子を作製した 29InCl 3·4H2O と SnCl4·5H2O と N(CH3)4OH·5H2O をエチレングリコールに溶解 させた前駆体溶液を調製した。この溶液に N(CH3)4OH·5H2O 水溶液を滴下して pH を 5.2-12.2 となるように調整した。この溶液を、マイクロ波を照射しながら 50°C / min で 200°C まで加熱後、30 min 反応させた。ITO は pH = 11.5-11.9 の限 られた範囲で生成し、粒径10 nm 以下の凝集したいびつな球状粒子が得られた。 400 nm -700 nm では 85%-95%の高い透過率を示した。このことからマイクロ波 加熱を用いることで、小粒子径の ITO ナノ粒子が短時間で合成可能であること が分かった。 超臨界流体を用いたITO ナノ粒子の水熱合成32やソルボサーマル法33による 合成も行われている。Lu らによる報告はフロー型マイクロ波合成装置を用いた 水熱合成によって工業的に利用可能な ITO ナノ粒子合成プロセスを示した。 In(NO3)3とSnO2ゾルの水溶液に KOH 水溶液を添加し前駆体を得る。装置は 30

(18)

9 MPa に維持しておく。装置内でははじめにギ酸水溶液と純水を混合し、さらに この混合液を前駆体溶液と混合させる。続いて反応液を急速に加熱し反応させ る。反応は350°C で 22 s、400°C で 12 s または 450°C で 7 s 行った。450°C の加 熱ではIn2O3の単一相となったが、低温の条件ではInOOH と In2O3の混相となっ た。450°C の加熱では水の密度の急激な低下により、In(OH)3からInOOH や In2O3 への脱水が急速に進行したと考えられた。一方400°C 以下では InOOH から In2O3 への脱水は効率的に進行しなかったと考えられた。さらに前駆体溶液にヘキサ ン酸を添加すると、ITO ナノ粒子の表面修飾が進行し、凝集が抑制されることが わかった(Figure 1.7)。 Figure 1.7 (a) ヘキサン酸なしおよび(b) ヘキサン酸ありの場合のサンプルの TEM 像33 粒子形状およびサイズの均一な単分散ITO ナノ粒子の合成が Sasaki らによっ て報告されている34InCl 3·4H2O と SnCl4·5H2O をエチレングリコール等の溶媒 に溶解させた。さらにNaOH のエチレングリコール溶液も調整し、0°C で金属塩 溶液に添加し15 min 攪拌した。作製した溶液を 250°C で加熱して ITO ナノ粒子 を得た。XRD より、反応初期にはアモルファスの生成物がみられるが、3 h 以降 では In2O3の結晶相が得られることが分かった。TEM 観察を行ったところ反応 時間96 h では一辺が 20 nm 程度の立方体形状の ITO ナノ粒子が生成しているこ とが分かった(Figure 1.8)。この立方体形状の ITO ナノ粒子は単結晶であった。こ のことから高結晶性ITO ナノ粒子をワンポットで得る方法としてゲル-ゾル法の 利用が有効であることが分かった(Figure 1.9)。

(19)

10

Figure 1.8 エチレングリコール系で 250°C での加熱時間が(a)0 h、(b)1 h、(c)3 h、 (d)24 h、(e)96 h の場合の TEM 像34

Figure 1.9 (a) 立方体形状の ITO ナノ粒子の HRTEM 像と(b)(a)の高倍率像と ED パターン35

1.2 ナノ粒子の形状制御

酸化物ナノ粒子の触媒活性 36や光学特性 37はその形状に影響を受けることが 知られている。そのため酸化物ナノ粒子の形状制御は非常に重要な技術である。 その多くは界面活性剤等の吸着によるナノ粒子成長面の制御によって行われて いる。 Sugimoto らは無機アニオンを用いた-Fe2O3 のナノ粒子の形態制御について

報告している38。FeCl3を金属ソースとし、Fe(OH)3ゲルを経て-Fe2O3を得る過

程において、C1-、OH-、SO 42-、PO43-の吸着によって、粒子形状や内部構造に変 化が見られた。PO43-や SO42-は粒子形態に影響を与え、生成する-Fe2O3 は楕円 形粒子となった(Figure 1.10)。また PO43-の方が SO42-よりもより低濃度で高アス ペクト比の粒子が得られる。これは PO43-の方が SO42-のアニオン中の O-O 間距 離の差異が影響していると考えられた。一方、Cl-は生成する粒子の内部構造に 影響を与え、Cl-イオンが多いほど結晶子サイズの小さい粒子が得られる。

(20)

11

Figure 1.10 NaH2PO4の添加量を(a) 0、(b) 1.0 × 10-3、(c) 3.0 × 10-3 mol / dm-3とした

場合の-Fe2O3粒子のTEM 像38 さらに Sugimoto らはアミンおよびカルボン酸塩を用いたアナターゼ型 TiO2 ナノ粒子の形態制御についても報告している39。チタン(IV)テトライソプロポキ シドをTi ソースとして TiO2を合成する際に、トリエタノールアミンが少ない場 合にはpseudocubes 形状に、多い場合には楕円形状になった(Figure 1.11)。これは トリエタノールアミン が c 軸に平行な面に吸着したためだと考えられる。さら にpH = 9.6-11.5 の範囲で変化させた場合、高 pH の方がアスペクト比の高い楕円 形状になった。このような粒子形状の変化は、高pH 領域ではプロトン化されて いないトリエタノールアミンが多く存在することによって、粒子表面へのトリ エタノールアミンの吸着量が増加することが要因であると考えられる。第二級 アミンであるジエチレントリアミンや第一級アミンであるエチレンジアミンな どのアミンでも同様に、楕円形状の粒子が得られた。一方、オレイン酸ナトリ ウムやステアリン酸ナトリウムなどのカルボン酸塩の添加では立方体型 TiO2ナ

ノ粒子が得られた。van der Waals 力による脂肪族基と TiO2表面との相互作用に

より、オレイン酸ナトリウムやステアリン酸ナトリウムが{001} 面と{100}面と に吸着し立方体型の粒子が生成したと考えられる。

(21)

12

Figure 1.11 pH = 11.5 の場合に[TEOA]/[TIPO]比がアナターゼ型 TiO2ナノ粒子の

形状に与える影響39 Ho らは還元剤である NH2OH·HCl の系への添加量を変化させることで、生成 す る Cu2O の形状を変化させ、その光学特性の変化を調査している 40。 NH2OH·HCl の増加による(111)面の成長抑制の効果から、得られる Cu2O の形状 は立方体から八面体へと変化する。さらに条件を変更することで hexapods 形状 の Cu2O も得られた(Figure 1.12)。これらを触媒として用いてメチルオレンジの 光分解を行ったところ、立方体型粒子では触媒活性を示さなかったのに対し、 八面体等の形状の粒子では触媒活性が見られた。これは{111}表面が触媒活性を 示したためだと考えられる。立方体型粒子では{111}面が粒子表面に露出してお らず、八面体型粒子等ではNH2OH·HCl の効果により(111)面の成長が抑制されて おり粒子表面に(111)面が露出している。 Figure 1.12 各 Cu2O のナノ構造に対する時間とメチルオレンジの光劣化の度合い の関係40 Bao らは Na2Ti3O7のナノチューブまたはナノワイヤーと Ba(OH)2とを原料と して水熱合成によってBaTiO3を得た41。この際、単純に原料濃度と反応温度を 変更することによって形状の異なる粒子を得ていた。原料となる Na2Ti3O7のナ ノチューブまたはナノワイヤーの水熱条件下での安定性が得られる粒子形状に 変化を与えたと考えられた。Na2Ti3O7のナノチューブおよびナノワイヤーはどち らも層状チタン酸塩のロールアップにより得られるが、ナノチューブよりもナ

(22)

13 ノワイヤーの方が層間の相互作用が強い。Na2Ti3O7のナノチューブを用いた場合 は、剥離によるナノシート形状のBaTiO3の生成や、さらにこれらの凝集、溶解、 再析出によって粒子が生成したと考えられた。一方、Na2Ti3O7のナノワイヤーの 場合は破壊によって小さなナノワイヤーが生成する。この小さなナノワイヤー のフラグメントが溶解し長いナノワイヤー上で再析出することでBaTiO3粒子が 生成したと考えられた(Figure 1.13)。 Figure 1.13 (a) Na2Ti3O7ナノチューブと(b) Na2Ti3O7ナノワイヤーから作製した BaTiO3の形態と結晶構造に関する、Ba(OH)2濃度と水熱反応温度の影響。41

1.3 ミスト塗布

ミスト塗布は超音波振動子によって作製したミストを基板上に吹き付ける成 膜方法である。ミスト塗布を用いた大面積基板に効率的に成膜する手法の開発 がKawaharamura らによって行われている。42, 43ミスト塗布はスプレー法と似て いるが用いる液滴がスプレーよりも小さく空中で滞留可能であることから、キ ャリアガスによって液滴を搬送可能であることや整流によって均質膜が作製可 能であることといった利点がある。特にミストCVD では原料を霧化することに より反応の高効率化が期待されている。前駆体を原料中に混合させ、ミストが 基板に到達する前、あるいは加熱した基板上で化学反応を起こし、目的の化合 物を得る。ミスト CVD で透明導電膜を作製した例としてガリウムドープ ZnO やホウ素ドープZnO の作製例が挙げられる。これらはそれぞれ 2.7 × 10-3 ·cm、 1.5 × 10-3 ·cm の抵抗率を示した。また可視光での透過率はそれぞれ 300°C 加熱

(23)

14 で90 %以上、200°C 加熱で 90%以上となった44 一方、ナノ粒子分散液を用いたミスト塗布の報告は限られている。Qin らは TiO2ナノ粒子をHNO3でpH 調整した水中に分散させた分散液を用いてミスト塗 布による成膜を行った 45。Si ウエハを基板とし、比較的低温である 150°C で加 熱しながら成膜した。成膜後の基板には TiO2ナノ粒子の堆積による特徴的なリ ング状の模様が見られた。この模様は液滴が基板上に到達したのちに、水が蒸 発する過程で TiO2ナノ粒子が液滴の端に移動したために生じたと考察されてい る。模様は基板中の位置によって異なる形状となっていた。基板の端の模様は ミストの形状を反映したリング状であり、中央に近づくほどリングの重なり合 いが多く TiO2の堆積量が多くなった。これらの結果からミスト塗布でナノ粒子 膜を作製する場合、低温での成膜が可能であること、溶媒の蒸発条件の制御に より表面状態の制御が可能であることが分かった(Figure 1.14)。 Figure 1.14 基板上の異なる位置で観察されたミスト塗布による TiO2薄膜の表面 と3 次元画像45

1.4 本研究

本研究は ITO ナノ粒子を用いた湿式成膜における課題に着目した。従来の手 法では塗布液作製のために有機溶媒中に分散剤等を用いて ITO ナノ粒子を均一 に分散させる必要があった。この有機溶媒や分散剤が抵抗率を上げる要因とな り、またこれらを除去するためには高温処理が必要となり適用できる基板が限 定される要因となっている。そこで、有機溶媒や分散剤を用いないミスト塗布 に着目した。先に述べた通り、この手法では ITO ナノ粒子が水中で安定に分散 状態を維持している必要がある。そのために ITO ナノ粒子の形状を制御するこ ととした。つまり、水中での分散性を高めるために、突起を設けて比表面積を 増加させることで、一つの粒子の吸着水の量を増加させて親水性を高めること

(24)

15 とした。一方で、粒界抵抗を抑制するためには突起を持ちながらも、微粒子の 凝集体ではなく、一粒子内で結晶方位が揃った単結晶的な構造を有する必要が ある。そのために、核生成、粒子成長プロセスを制御し、生成した ITO ナノ粒 子の上でさらに不均一核生成させることにより、突起を有する ITO ナノ粒子を 生成させることとした。 第1 章では ITO の基礎的な構造や物性について述べ、これまでの ITO ナノ粒 子を用いた湿式成膜の課題を挙げた。さらに粒子形状制御方法やミスト塗布に ついて述べ、これらの技術によって湿式成膜法による ITO ナノ粒子膜の性能向 上の可能性を示した。 第2 章では実際に高水分散性を有する ITO ナノ粒子の作製を行った。金属塩 濃度の変更により、従来の立方体型ナノ粒子とは異なる形状の、突起を有する ITO ナノ粒子を作製した。この各種合成条件での粒子作製の結果をもとに粒子の 生成過程を考察するとともに、1H-NMR の緩和時間測定から粒子の水分散性の高 さを考察した。 第3 章では第 2 章で作製した高水分散性 ITO ナノ粒子を用いて、ミスト塗布 による薄膜作製を行った。透明導電膜として基本的な物性である透明性や伝導 率を評価した。さらに膜断面観察などから高水分散性 ITO ナノ粒子を用いるこ とによる膜性能向上の要因を考察した。 第4 章では第 2 章で作製した ITO 粒子の Sn ドープ量の調整を行った。また得 られた ITO ナノ粒子の粉末とミスト塗布後の膜に関して、電子状態の評価を行 い、低抵抗率化の要因を考察した。 第5 章では、第 2, 3, 4 章の結果を総括するとともに、本学位論文の学術的意 義および応用研究の可能性について述べた。

1.5 引用文献

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(27)
(28)

19

2 章

粒子表面構造制御による

(29)

20 2.1 はじめに ITO ナノ粒子の水中における分散性向上のために、その形状に着目した。つま り表面積の増加により、粒子表面の吸着水を増加させて粒子全体の親水性向上 を図ることとした。表面積の増加のために粒子表面への突起形状の形成を行う こととした。粒界抵抗を抑制するために、突起を有するナノ粒子の内部構造は 結晶方位が揃っている必要がある。そこで、立方体型ITO ナノ粒子(立方体 ITO) 合成の報告1を参考に、金属塩濃度や反応時間等を変更し突起を有するITO ナノ 粒子(突起 ITO)の合成を試みた。 2.2 実験方法 2.2.1 試薬 用いた試薬をTable 2.1 に示す。 Table 2.1 用いた試薬 試薬 化学式 製造会社 塩化インジウム(III)無水 InCl3 キシダ化学(株) 塩化スズ(IV)無水 SnCl4 富士フィルム和光純薬(株) メタノール(超脱水) CH3OH 富士フィルム和光純薬(株) テトラメチルアンモニウム ヒドロキシド(10%メタノール溶液) (TMAH) (CH3)4NOH 東京化成工業 (株) エチレングリコール HOCH2CH2OH 富士フィルム和光純薬(株) テトラメチルアンモニウム クロリド (CH3)4NCl 東京化成工業 (株) 2.2.2 合成手順

標準的な突起 ITO の合成手順を述べる。InCl30.796 g (3.60 × 10-3 mol) と

SnCl452 L (4.44 × 10-4 mol)とをメタノール(10 mL)に溶解させた。このとき[InCl3] = 0.36 M と[SnCl4] = 0.040 M となるように調整した。この溶液を 1.6 M の TMAH のメタノール溶液(10 mL)に添加し、室温で 10 min 攪拌した。さらにこの溶液を、 テフロン内筒を有するオートクレーブ (容量 : 23 mL)に入れ、190ºC で 24 h 加熱 した。その後オートクレーブを室温付近まで急冷し、得られた生成物を遠心分 離して回収した。エタノールで2 回、純水で 2 回洗浄した後、空気中 50 °C で乾 燥させた。 粒子生成メカニズムの調査のために、初期の[InCl3]を 0.18 M から 1.8 M に変 化させた。この際、[SnCl4]は全金属イオンの 10 mol% となるように調整した。 また加熱時間は6 h-168 h の間で変化させた。ITO ナノ粒子の合成における反応 溶媒の影響を調査するために溶媒をエチレングリコールに変更した合成も行っ

(30)

21 た。

Scheme 2.1 ITO ナノ粒子の合成方法概略図

2.2.3 分析

X 線回折測定 (XRD)は Ultima-IV (リガク)を用いて行った。検出器には D/teX Ultra を用い、CuKα 線の照射 (40 kV, 40 mA) にて行った。透過電子顕微鏡 (TEM) 像はH7650(日立)を用い、加速電圧を 100 kV として取得した。高分解能透過電 子顕微鏡 (HR-TEM)像と、制限視野電子線回折 (SAED)パターンは、走査電子顕 微 鏡 (SEM)像と高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡 (HAADF-STEM)像は JEM-2100F (日本電子)を用いて取得した。得られた粉末中の Sn / In は Optima 3300XL( パ ー キ ン エ ル マ ー ) を 用 い た 誘 導 結 合 プ ラ ズ マ 発 光 分 光 分 析 法 (ICP-AES)による測定の結果から算出した。N2の吸着等温線はBELSORP-mini (マ イクロトラックベル)を用いて測定した。ITO ナノ粒子粉末の圧粉体の抵抗率測 定は、Loresta-GP と MCP-PD51 を組み合わせた粉体の抵抗測定機(三菱ケミカル アナリテック)を用い、20 kN の荷重をかけながら四単針法にて行った。圧粉体 の形状は直径20 mm の円形で、おおよそ 1 mm の厚みとした。抵抗率の測定は 未処理の粉末と、空気中で300 °C30 min 加熱処理したのち、1% H2/N2雰囲気で 300 °C30 min 加熱した粉末とのそれぞれにおいて 5 回ずつ行い、その平均値を算 出した。ITO ナノ粒子のゼータ電位測定は DT-1202 (Dispersion Technology, Inc.) を用いて行った。測定時はイオン強度を0.010 M に揃えるために 1.0 × 10-2 M

のNaOH 水溶液と HClO4水溶液とを用いてpH を 3 と 12 に調整した。プロトン

核磁気共鳴(1H-NMR)の緩和時間(T

(31)

22

行 っ た 。 プ ロ ト ン に 対 し て 13 MHz の 共 鳴 周 波 数 を 用 い , Carr-Purcell-Meiboom-Gill pulse sequence を用いて測定した。90°および 180°パル ス照射時間はそれおぞれ7 および 14 ms であった。スキャン回数、測定時間(τ) および測定間隔はそれぞれ4、0.5 および 11000 ms とした。測定中のサンプルは 外部の温度制御ユニットを用い25 °C に保持された。 2.3 結果と考察 2.3.1 金属塩濃度と粒子形状 Figure 2.1 に生成物の XRD パターンを示す。仕込み時の各サンプルの In3+ 度は(a) 0.18 M、(b) 0.27 M、(c) 0.36 M、(d) 0.54 M、(e) 0.90 M、(f) 1.8 M に調整 した。Figure 2.1a-e のすべての回折線が In2O3に帰属可能であった。一方で、[In3+]

= 1.8 M で合成したサンプル(Figure 2.1f)においては、すべての回折線が InOOH に帰属可能であった。Table 2.1 に生成物中の Sn/In を ICP-AES 測定から算出した 結果を示す。仕込み時の[In3+] = 0.18 M-0.36 M で合成したサンプル中の Sn/In は おおよそ10%であり、加熱前の溶液における Sn/In = 11.1%と近い値であった。 この結果はSn4+In 2O3結晶構造内に適切にドープされていることを示している。 一方で、 仕込み時に[In3+] = 0.54 M、 0.90 M および 1.8 M として合成した場合、 生成物中の Sn/In はそれぞれ 6.1%、 5.3%および 3.8%であり、加熱前の溶液の Sn/In よりも減少していた。この現象は InOOH が副生成物として生成したことを 示唆している可能性がある。Figure 2.1e の XRD パターンでは InOOH 相の生成 は確認されなかったが、次に示すTEM 像(Figure 2.2e)では副生成物の存在が観察 された。

(32)

23

Figure 2.1 仕込み時の[In3+] = (a) 0.18 M、(b) 0.27 M、(c) 0.36 M、(d) 0.54 M、(e) 0.90

M、(f) 1.8 M で加熱時間 24 h として合成した生成物の XRD パターン Table 2.1 各[In3+]、[Sn4+]、および [OH⁻] / [In3+]で合成した生成物中の Sn/In の組

成比

* : TMAH 溶液と混合前の金属塩溶液の濃度

Figure 2.2 に生成物の TEM 像を示す。[In3+] = 0.18 M のとき、平滑な表面を有

する立方体ITO が観察された(Figure 2.2 a)。粒子の平均サイズと分布は 39±12 nm であった(Figure 2.3a)。この結果は既報の立方体 ITO 合成の報告1と一致してい

る。一方、 仕込み時の[In3+] = 0.27 M-0.54 M のとき、得られた ITO ナノ粒子は

立方体形状ではなく突起ITO であった(Figure 2.2 b-d)。粒子の平均サイズと分布 はFigures 2.2b、2.2c および 2.2d においてそれぞれ 39±9 nm(Figure 2.3a)、 38±10 nm(Figure 2.3b)および 42±10 nm であった。このような形状の違いは、後述する

[In3+]* / M [Sn4+]* / M [OH-] / [In3+] / molar ratio Sn / In / mol%

0.18 0.02 8.9 10.3 0.27 0.03 5.9 12.3 0.36 0.04 4.4 11.6 0.54 0.06 3.0 6.1 0.90 0.10 1.8 5.3 1.8 0.28 0.9 3.8

(33)

24

粒子生成メカニズムの違いに起因すると考えられる。また[In3+] = 0.90 M の場合、

突起ITO とその周囲に小さな副生成物が観察された(Figure 2.2e)。最も濃度が高 い[In3+] = 1.8 M の場合には、生成物の形態として主にナノロッドが観察された

(Figure 2.2f)。XRD 結果より、この生成物は In2O3ではなくInOOH であることが

分かった。よって、このようなナノロッドはInOOH に帰属可能であるといえる。 突起ITO に対してさらに詳細な構造調査を HR-TEM 観察などによって行った。

Figure 2.2 仕込み時の[In3+] = (a) 0.18 M、(b) 0.27 M、(c) 0.36 M、(d) 0.54 M、(e) 0.90

M、(f) 1.8 M で加熱時間 24 h として合成した生成物の TEM 像

Figure 2.3 (a)立方体 ITO と(b)突起 ITO の粒子サイズヒストグラム。各粒子はそれ ぞれFigure 2.2a と Figure 2.2c に対応。

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25

Figures 2.4a と 2.4b とにそれぞれ、[In3+] = 0.36 M で作製した ITO ナノ粒子の

SEM 像と HR-TEM 像を示す。Figure 2.4a において、表面に凹凸がある略立方体 形状のナノ粒子が観察された。表面の小さな突起は数 nm のサイズであった。 Figure 2.1b の XRD パターンから、この粒子の結晶子サイズは Scherrer 式を用い て 33 nm と 算 出 さ れ 、 Figure 2.3b と 一 致 し て い た 。 Figure 2.4c に 示 す HAADF-STEM 像において粒子表面の格子間隔は 0.26 nm であり、In2O3の(400)

に帰属可能であった。 Figure 2.4d に Figure 2.4b の粒子の SAED パターンを示す。 SAED パターンではスポットパターンが観察され、HR-TEM で単一に配向した 縞模様が観察されたことと合わせて、一つの粒子内で結晶方位が揃っているこ とが確認された。以上より、突起 ITO は小さな粒子の凝集体ではなく、単結晶 と同様の結晶方位が揃った構造を有することが分かった。また SAED パターン において、酸素欠陥に由来するストリークが観察された。

Figure 2.4 仕込み[In3+] = 0.36 M で合成した突起 ITO の(a) SEM 像、(b) HR-TEM

像、(c) HAADF-STEM 像と(d) (b)に観察された粒子の SAED パターン 2.3.2 ITO ナノ粒子合成における反応時間の影響 続いて加熱時間の影響を調査した。Figure 2.5 に仕込み時[In3+] = 0.36 M として 加熱時間を3h-168h まで変化させて合成した生成物の XRD パターンを示す。3 h においてはブロードな回折線が得られ、この回折線はIn 系の化合物には帰属で きなかった。しかしながら、反応時間6 h 以降に In2O3の結晶相が得られるよう になると、この帰属不明な回折線の強度が減少したことから、この回折線はITO ナノ粒子の前駆体に相当するのではないかと考えられた。Figure 2.6 に Figure 2.5 のサンプルのTEM 像を示す。加熱時間 3 h の Figure 2.6a ではアモルファス状の

(35)

26 生成物が観察された。加熱時間6 h の Figure 2.5b では複数の固体粒子がアモルフ ァス状の生成物の中に観察された。9h 加熱後には Figure 2.5c の XRD パターンに おいて帰属不可能な回折線が消失し、In2O3の単一相が観察された。しかしTEM 像(Figure 2.6c)においてはアモルファス状の生成物が残存し、同時に突起 ITO が 観察された。副生成物の無いITO ナノ粒子は加熱時間 12 h 以降に観察された。 Figures 2.6e と Figure 2.6f を比較すると、粒子表面の突起は加熱時間の長い(Figure 2.6f)方が少なくなっていた。この現象は加熱時間の延長によるオストワルド熟成 の進行を示唆していると考えられる。ICP 測定より、加熱時間 9h と 12 h におい てSn/In が、加熱前の溶液と同様の値であることが分かった(Table 2.2)。これよ り、Sn が In2O3結晶構造中に反応前の溶液組成を保ちながらドープされたこと を示している。しかしながら、更なる加熱によりSn/In は減少した。このような 挙動はオストワルド熟成が進行している際の典型的な挙動である。オストワル ド熟成の溶解-再析出による、純粋な結晶相を形成する過程で結晶構造中にドー プされたイオンが取り除かれる。以上より、突起 ITO は加熱時間の延長により オストワルド熟成が進行し、その表面の突起が消失し平滑な表面を持つ立方体 型ナノ粒子形状に変化することが分かった。

Figure 2.5 仕込み時[In3+] = 0.36 M、加熱時間を(a) 3 h、(b) 6 h、(c) 9 h、(d) 12 h、

(36)

27

Figure 2.6 仕込み時[In3+] = 0.36 M、加熱時間を(a) 3 h、(b) 6 h、(c) 9 h、(d) 12 h、

(e) 48 h、(f) 168 h として合成した生成物の TEM 像

Table 2.2 仕込み時[In3+] = 0.36 M、加熱時間を(a) 3 h、(b) 6 h、(c) 9 h、(d) 12 h、 (e)

48 h、(f) 168 h として合成した生成物の Sn/In の組成比 Aging time / h Sn/In / mol%

3 12.7 6 12.7 9 12.0 12 12.1 48 9.3 168 8.4 2.3.3 粒子生成における溶媒の影響 一般的にナノ粒子合成において、溶解度積は核生成の促進あるいは抑制に関 わる重要な要素である。これまで示してきた系とは異なる溶解度積となるよう に、エチレングリコールを溶媒として ITO ナノ粒子の合成を行った。エチレン グリコールは立方体型 ITO ナノ粒子合成の報告 1において用いられている溶媒

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28

である。ITO ナノ粒子の合成は[In3+] = 0.36 M とし、190ºC、220 ºC または 250 ºC

で24 h 加熱した。Figure 2.7 に得られた生成物の XRD パターンを示す。190 ºC で 加熱したサンプル(Figure 2.7a)において、一部の回折線が In(OH)3に帰属可能であ

った。またこのサンプルのTEM 像 (Figure 2.8a)には、わずかな数の粒子とアモ ルファス状の物質が観察された。よってエチレングリコールを溶媒として用い た場合、190ºC の加熱では ITO が生成しないことが分かった。一方、220 ºC あ るいは250 ºC で加熱したサンプルにおいて、すべての回折線が In2O3に帰属可能 であった(Figure 2.7b、c)。また結晶子サイズはそれぞれ 11 nm と 16 nm であった。 この結晶子サイズは溶媒にメタノールを用いて合成した立方体型 ITO ナノ粒子 および突起を有するITO ナノ粒子よりも小さかった。また 220 ºC あるいは 250 ºC で加熱したサンプルのTEM 像(Figures 2.8b および Figure 2.8c)では、小さなナノ 粒子の凝集体が観察され、その平均粒径は31±6 nm および 29±8 nm(Figure 2.9) であった。既報1の立方体型ITO ナノ粒子合成時の[In3+] = 0.18 M を 0.36 M に変

更することで、立方体型 ITO ナノ粒子が得られなくなった。溶媒の違いが粒子 形状に与える影響を調査するために、より詳細な分析を行った。Figures 2.7d と 2.7e に 250 ºC で加熱した ITO ナノ粒子の HAADF-STEM 像と SAED パターンを 示す。Figure 2.4c と Figure 2.8c とを比較すると、両者とも約 6 nm 程度の小さな 突起が粒子表面に観察されている。しかしながら、Figure 2.8d に見られる格子縞 はFigure 2.4c とは異なっており、一つの方向に配向していない。前述のとおり、 Figure 2.4c の ITO ナノ粒子は単結晶と同様の結晶方位が揃った構造を持ってい る。一方、Figure 2.8d の HR-TEM 像からエチレングリコールを用いて合成した ITO ナノ粒子は複数の粒子が凝集した多結晶であることが示唆された。さらに Figure 2.8e の SAED パターンでは、同心円状に様々な角度で複数のスポットが点 在している様子が観察され、生成した粒子が多結晶であることが明確に示され た。さらにFigure 2.8f の SEM 像では小さな粒子が凝集した構造が明確に観察さ れた。これまで述べてきた粒子の内部構造の差異は、次のセクションで示すナ ノ粒子形成のメカニズムの違いに起因すると考えられる。

(38)

29

Figure 2.7 エチレングリコールを溶媒とし、加熱温度(a) 190 ºC、(b) 220 ºC、(c) 250 ºC で合成した生成物の XRD パターン

Figure 2.8 エチレングリコールを溶媒とし、加熱温度(a) 190 ºC、(b) 220 ºC、(c) 250 ºC で合成した生成物の TEM 像。(c)で観察した粒子の(d) HAADF-STEM 像、 (e)

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30

Figure 2.9 Figure 2.8 (c)の粒子サイズヒストグラム

2.3.4 Particle growth mechanism

Figure 2.10 に凝集体構造、立方体型あるいは突起を有する ITO ナノ粒子の最 も妥当と考えられる粒子生成メカニズムを示す。Figure 2.8 に示すように、エチ レングリコールを溶媒とし、加熱温度を250ºC とすると、平均粒径が 29±8 nm 程 度の二次粒子が凝集した構造を有する多結晶が生成した。詳細な分析により、 核生成と生成した一次粒子が成長を抑制されて凝集することでFigure 2.8c のよ うな多結晶構造を有する ITO ナノ粒子が得られたと考えられる(Figure 2.10a)。 このとき[Cl-]/[OH-]のモル比が立方体型 ITO ナノ粒子作製の既報 1よりも2 倍程 度高くなっている。このことはCl-イオンがITO ナノ粒子表面に吸着することに より粒子成長(単結晶化)を抑制している可能性があることを示唆している。さら に、系中での均一核生成の発生数がメタノールの系よりもエチレングリコール の系の方が多いことも凝集構造の ITO ナノ粒子を得る際に重要な要素であると 考えられる。エチレングリコール中での ITO 前駆体の溶解度積が低いことで、 メタノールの系よりも均一核生成が促進されると考えられる。 一方、立方体型ITO ナノ粒子はメタノールを溶媒として用いた場合には [In3+] = 0.18 M にて生成し、単純な核生成および粒子成長によって形成されたと考え られる(Figure 2.10b)1。この条件からさらに[In3+]の濃度を増加させると、一般的 には核生成が促進されより小さな ITO ナノ粒子が生成する。しかしながら、こ のような挙動は[In3+] = 0.18 M-0.54 M の範囲においては観察されず、どの条件で もおおよそ40 nm 程度の粒子サイズであった (Figures 2.2a-Figure2.2d)。この結果 はITO ナノ粒子生成における初期の均一核生成は[OH-]に依存している可能性が あることを示唆している。実際、系中の [OH-]は常に 0.80 M に固定されている

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31 異なる挙動29,30で生成したと考えられる。[In3+] = 0.36 M と 0.54 M のとき、粒子 形状は立方体形状とは明確に異なっていた。この現象は反応溶液内で過剰なCl -が成長過程のITO ナノ粒子表面に吸着し、均一な粒子成長(単結晶化)を抑制した 結果であると考えられる(Figure 2.10c)。これまでに、Cl⁻イオンが粒子成長を阻害 することが報告されている。大過剰のCl-存在下での合成によって、多結晶性の 楕円形-Fe2O3粒子 2の合成や、ナノキューブが階層的に組み上げられた構造を 有する疑単結晶性の八面体形状のNaxK1-xNbO3粒子3の合成が報告されている。 合成時のCl-イオンの影響を調査するために、Figures 2.11 と Figure 2.12 とに TMACl 存在下で合成した生成物の XRD パターンと TEM 像を示す。Cl-イオンの 添加により ITO ナノ粒子表面の突起が増加する傾向が確認された。この結果を もとにすると、結晶方位が揃った単結晶と同様の構造を持つ突起 ITO の妥当な 生成メカニズムは、均一な粒子成長(単結晶化)の抑制による、成長中の粒子上で の二次元的なエピタキシャル性を持った不均一核生成によって説明可能である と考えられる(Figure 2.10c)。その他に、粒子同士が結晶方位を揃えて凝集する oriented attachment growth4による粒子生成メカニズムも検討した。しかしながら

Figures 2.6a および Figure 2.6b において、 突起部分に相当するような 10 nm 程 度の小さな粒子の存在は観察できなかった。この結果により、突起ITO の oriented attachment growth による生成の可能性は否定された。このように、突起 ITO は過 剰な Cl-イオンの存在による均一な粒子成長(単結晶化)が抑制された状態での、 粒子上でのエピタキシャルな不均一核生成により生成したと考えられる。さら に溶媒が生成物の形状に与える効果を調査するためにエタノール、1-プロパノー ル、1-ブタノールを溶媒として合成を行った。その他の合成条件は Figure 2.2c と同様である。Figures 2.13 の XRD パターンにおいて、全ての回折線が In2O3に 帰属可能であった。また、ICP 測定の結果から算出された Sn/In は、 エタノー ル、1-プロパノール、1-ブタノールの系の生成物中でそれぞれ 12.5 %、12.8 %、 12.9 %であった。Figure 2.14 の TEM 像において、全てのサンプルでナノ粒子表 面に突起が観察され、平均粒径は約30 nm であった。以上より、突起 ITO はメ タノール以外にも短鎖アルコールを溶媒として用いた場合にも作製が可能であ ることが分かった。

(41)

32

Figure 2.10 (a)凝集構造の ITO ナノ粒子、(b)立方体 ITO および(c)突起 ITO の推定 される粒子生成メカニズム

Figure 2.11 立方体 ITO(Figure 2.2a)の合成条件において、系中に TMACl-を(a) 0.18

M、(b) 0.27 M、(c) 0.36 M、(d) 0.54 M となるように添加して合成した生成物の XRD パターン

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Figure 2.12 立方体 ITO(Figure 2.2a)の合成条件において、系中に TMACl-(a) 0.18

M、(b) 0.27 M、(c) 0.36 M、(d) 0.54 M となるように添加して合成した生成物の TEM 像

Figure 2.13 溶媒として(a)エタノール、(b)1-プロパノール、(d)1-ブタノールを用 いて合成した生成物のXRD パターン

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Figure 2.14 溶媒として(a)エタノール、(b)1-プロパノール、(d)1-ブタノールを用 いて合成した生成物のTEM 像

2.3.5 突起を有する ITO ナノ粒子の評価

粒子上の突起がその粒子の性能に与える影響を調査するために、Figure 2.2a の立方体ITO と Figure 2.2c の突起 ITO とに各種評価を行った。立方体 ITO の吸 着等温線はわずかなヒステリシスを示し、比表面積(S)は 26.3 m2 / g と算出され た。一辺が40 nm の立方体型ナノ粒子の S の理論値は 21.0 m2 / g と算出される。 よって立方体ITO は平滑な表面を有していると考えられる。一方、突起 ITO の 吸着等温線はヒステリシスループを示し、ナノ粒子表面に凹凸があることが示 唆された。またこの吸着等温線から平均細孔径は1.6 nm であること、比表面積 が37.0 m2 / g であることが算出された。 またITO ナノ粒子粉末に 20 kN の荷重を与えた際の圧粉体の電気抵抗率は、 立方体ITO と突起 ITO それぞれにおいて 9.93 × 10⁻1 Ω·cm と 1.02 Ω·cm であり、 大きな差異は見られなかった。一方、空気中および1% H2 / N2雰囲気でぞれぞれ 300°C 加熱した後、抵抗率はそれぞれ 3.50 ×10⁻2 Ω·cm と 1.98×10⁻2 Ω·cm とに減少 し、突起ITO の抵抗率は立方体 ITO の抵抗率の半分程度であった。これは、導 電キャリア生み出すためにドープされたSn4+イオンのIn 2O3結晶構造内での状態 の違いに起因している可能性がある。XRD や XAFS を用いた詳細な結晶構造解 析は第4 章に記載した。 立方体ITO と比較して、最も特徴的な突起 ITO の性質は高い水分散性であっ た(Figure 2.15)。立方体 ITO および突起 ITO を、分散剤を添加せずに超音波処理 (40 kHz、3 min)によってイオン交換水中に分散させた。分散液中のナノ粒子濃度 はどちらも0.89 wt%に調整した。2 週間後、立方体 ITO は沈降したが、突起 ITO は分散状態を維持していた。この差異の要因を調査するために、イオン強度を 1.0 × 10-2 M に調整して、2 種の粒子分散液のゼータ電位測定を行った。立方 体ITO のゼータ電位は pH = 3.0 と pH = 9.0 においてそれぞれ+49.8 mV と-46.7 mV であった。また突起 ITO のゼータ電位は pH = 3.0 と pH = 9.0 においてそれ ぞれ+38.0 mV と-44.6 mV であった。この結果から 2 種の粒子間のゼータ電位に 明確な差異は見られなかった。つまり粒子間の静電反発は、突起 ITO の高い水

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35

分散性の主な要因ではないことを示している。そこで、各ナノ粒子の水分散液 に対して1H-NMR の T

2緩和時間測定を行った。近年NMR を用いた、溶媒とナ

ノ粒子の界面の相互作用の評価が行われている5。ナノ粒子上での水の溶媒和状

態の効果を評価するためにSpecific relaxation rate enhancement (Rsp)という指標を

用いた。比表面積とRsp値とは比例関係にあることから、立方体ITO と突起 ITO のRsp値は比表面積S で規格化して比較した。算出した Rsp/S 値は ITO ナノ粒子 の溶媒和状態の評価のために用いた。高いRsp/S 値は水分子がより強くナノ粒子 表面に吸着されていることを示している。つまり、高いRsp/S 値を持つナノ粒子 の親水性は、低い Rsp値を持つナノ粒子の親水性よりも高いということである。 以下の(1)式を用いて Rsp値を算出した。 Rsp = Rav/Rf – 1 (1) ここでRav = 1/T2dでありRf = 1/T2fである。RavとRfはそれぞれナノ粒子分散液 の溶媒の緩和時間(T2d)と、ナノ粒子を含まない純粋な溶媒緩和時間(T2f)である。 この実験では、ナノ粒子同士の凝集を防ぐために1.0 × 10-2 M の NaOH と HClO 4 とを用いて分散液のpH = 3.0 に調整しており、その際のイオン強度は 1.0 × 10-2 M

となっている。Figure 2.16 に立方体 ITO および突起 ITO 分散液における Rsp /S

と分散液濃度の関係をまとめた。立方体ITO および突起 ITO のどちらの場合に おいてもRsp /S と分散液濃度との間には線形的な関係が見られた。また、すべて の濃度において突起ITO の Rsp/S 値は立方体 ITO の Rsp/S 値よりも大きかった。 この結果は、突起ITO が立方体 ITO よりも高い水に対する親和性を有しており、 その親水性の向上によって多くの水分子が凹凸のある表面に吸着されているこ とを示している。 さらに安定な分散状態を維持可能な突起 ITO 水分散液を用い、ガラスあるい は親水化したフレキシブル樹脂基板上にスピンコートによって ITO 薄膜を作製 した。150ºC の低温での加熱処理でを行ったところ、薄膜の抵抗率は 4.0×10⁻2 Ω·cm を示した。

(45)

36

Figure 2.15 (a)分散直後と(b)2 週間後の立方体 ITO および突起 ITO 水分散液の外 観

Figure 2.16 分散液中の粒子濃度を変更して測定した立方体 ITO と突起 ITO の Rsp/S 値(● : 突起 ITO、● : 立方体 ITO) 2.4 結論 メタノール中で高濃度の金属ソースを反応させることにより、突起 ITO を作 製することに成功した。HR-TEM 観察より、突起 ITO は多結晶ではなく方位が 揃った結晶構造を有することがわかった。さらに、様々な条件での粒子合成の 結果から、この特徴的な形状は粒子表面におけるエピタキシャルな不均一核生 成によって形成されていると考えられた。このナノ粒子表面での不均一核生成 は系中に過剰に存在するCl-イオンが粒子表面に吸着し均一な粒子成長を阻害す ることで形成されたと考えられる。この突起ITO は立方体 ITO よりも高い比表 面積を持ち、これらを加熱した粉末は低い抵抗率を示した。さらに、突起 ITO は非常に高い水分散性を示した。1H- NMR の T2緩和時間測定から、突起ITO の 8 6 4 2 0 Rsp / S x 10 3 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 Concentration / wt% : 突起ITO :突起ITO :立方体ITO

(46)

37 非常に高い水分散性はその突起形状に起因するナノ粒子表面の親水性の向上に よるものであることが示唆された。この高い水分散性によって分散剤を用いず に ITO ナノインクの作製が可能であり、低温および大気圧下のプロセスで低抵 抗率のITO 薄膜の作製に適しているといえる。よって突起 ITO は耐熱性に乏し いフレキシブル基板を用いたデバイス作製への応用が期待される。 2.5 引用文献

1. (a) K. Kanie, T. Sasaki, M. Nakaya, A. Muramatsu, Chem. Lett., 2013, 42, 738. (b) T. Sasaki, Y. Endo, M. Nakaya, K. Kanie, A. Nagatomi, K. Tanoue, R. Nakamura, A. Muramatsu, J. Mater. Chem., 2010, 20, 8153.

2. (a) T. Sugimoto, Y. Wang, H. Itoh, A. Muramatsu, Colloid. Surf. A: Physicochem. Eng. Aspects., 1998, 134, 265. (b) T. Sugimoto, M. M. Khan, A. Muramatsu, Colloid. Surf. A: Physicochem. Eng. Aspects., 1993, 70, 167.

3. K. Kanie, H. Mizutani, A. Terabe, Y. Numamoto, S. Tsukamoto, H. Takahashi, M. Nakaya, J. Tani, A. Muramatsu, Jpn. J. Appl. Phys., 2011, 50, 09ND09-1.

4. (a) J. J. De Yoreo, P. U. P. A.Gilbert, N. A. J. M. Sommerdijk, R. Lee Penn, S. Whitelam, D. Joester, H. Zhang, J. D. Rimer, A. Navrotsky, J. F. Banfield, A. F. Wallace, F. Marc Michel, F. C. Meldrum, H. Cölfen, P. M. Dove, Science, 2015, 349, aaa6760. (b) Y. Liu, H. Geng, X. Qin, Y. Yang, Z. Zeng, S. Chen, Y. Lin, H. Xin, C. Song, X. Zhu, D. Li, J. Zhang, L. Song, Z. Dai, Y. Kawazoe, Matter, 2019, 1, 1. (c) J. Zhou, C. Zhou, Z. Shi, Z. Xu, S. Yan, Z. Zou, J. Mater. Chem. A, 2018, 6, 7706. (d) D. Li, M. H. Nielsen, J. R. I. Lee, C. Frandsen, J. F. Banfield, J. J. D. Yoreo, Science, 2012, 336, 1014. (e) N. Bao, L. Shen, Y. H. A. Wang, J. Ma, D. Mazumdar, A. Gupta, J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 12900. (f) R. Zhang, Q. Wang, J. Zhang, L. Yin, Y. Li, S. Yin, W. Cao, Cryst. Eng. Comm., 2018, 20, 4651.

5. (a) D. Fairhurst, T. Cosgrove, S. W. Prescottc, Magn. Reson. Chem., 2016, 54, 521. (b) C. L. Cooper, T. Cosgrove, J. S. van Duijneveldt, M. Murray, S. W. Prescott, Soft Matter., 2013, 9, 7211. (c) M. Tawfilas, M. Mauri, L. De Trizio, R. Lorenzi, R. Simonutti, Langmuir, 2018, 34, 9460. (d) L. Yuan, L. Chen, X. Chen, R. Liu, G. Ge, Langmuir, 2017, 33, 8724.

(47)
(48)

39

3 章

水分散性

ITO ナノ粒子を用いたミスト

(49)

40 3.1 はじめに 近年、フレキシブルデバイス 1,2の発展により、耐熱性の乏しい樹脂基板上に 低温プロセスで電気配線を形成する技術が注目されている。本章では第 2 章で 作製した水分散性の高い突起を有するITO ナノ粒子3(突起 ITO)水分散液を、低 温かつ大気圧プロセスで成膜するミスト塗布 4-6によってフレキシブル基板上に 成膜することを試みた。本章では他の成膜法や、他の ITO ナノ粒子を用いた成 膜もあわせて行い、突起 ITO とミスト塗布との組み合わせによる薄膜作製技術 の有用性を示す。 3.2 実験方法

ITO ナノ粒子の合成方法は第 2 章と同様である。突起 ITO と立方体型 ITO ナ ノ粒子(立方体 ITO)については、[InCl3] =0.36 M と 0.18 M の条件で作製した。作 製したナノ粒子粉末を純水中に分散させて、ITO ナノ粒子水分散液を得た。 ナノ粒子分散液のミスト塗布は、ナノ粒子を含んだミストの液滴が基板に接 触して濡れ広がり、溶媒が蒸発することでナノ粒子のみが堆積されるというプ ロセスで進行する。成膜は、各ITO ナノ粒子水分散液を超音波振動子で霧化し、 発生したミストをキャリアガスを用いて搬送し基板に吹き付けて行った。 3.3 結果と考察 3.3.1 立方体 ITO 水分散液を用いた各成膜法の比較 まず立方体 ITO 水分散液を用いてミスト塗布とドロップキャストとで作製し た膜の比較を行った。同様の膜厚および成膜後処理を行った膜の場合、ミスト 塗布によって作製した膜はドロップキャストで作製した膜よりも低抵抗率を示 した。また膜の表面SEM 観察を行ったところ、ミスト塗布による膜の方がドロ ップキャストによる膜よりも平滑な表面が観察された。以上より、ミスト塗布 はドロップキャストよりも低抵抗率かつ表面が平滑な膜が作製可能であること が分かった。 3.3.2 各 ITO ナノ粒子をミスト塗布して得られる薄膜の性能の比較 次にミスト塗布により突起 ITO、立方体 ITO の水分散液を基板上に塗布し、 その性能を比較した。成膜後の膜の表面SEM 像から、突起 ITO 薄膜では大きな 空隙が見られないが、立方体ITO 薄膜は隙間が多い構造であることが分かった。 また、この2 種の薄膜の Haze 測定結果では、可視光領域において突起 ITO 薄膜 の方が立方体ITO 薄膜よりも小さい Haze 値を示した。 これらの膜の抵抗率を調査したところ、突起ITO 薄膜の方が立方体 ITO 薄膜 よりも低抵抗率であった。PET フィルム上に成膜した突起 ITO と立方体 ITO の

Figure  1.1  ZnO ナノピラー付き基板上にコーティングされた ITO ナノ粒子の  (a)
Figure 1.2  インクジェット法で成膜した ITO 薄膜の(a)30,000 倍観察、(b) 200,000 倍観察の断面 FE-SEM 像 17
Figure 1.4 合成時の pH が(a) 6.75、 (b) 10.13 の場合の ITO ナノ粒子と、 (c) (a)の粒 子と  (d) (b)の粒子の還元処理後の TEM 像 20
Figure 1.5  様々な倍率で観察した   (a) ITO コロイド、 (b)  コロイドを添加してい ない場合の ITO (c)  コロイドを添加した ITO ナノ粒子の SEM 像 21
+7

参照

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