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1.5 引用文献

2.3.4 Particle growth mechanism

Figure 2.10 に凝集体構造、立方体型あるいは突起を有するITO ナノ粒子の最

も妥当と考えられる粒子生成メカニズムを示す。Figure 2.8に示すように、エチ レングリコールを溶媒とし、加熱温度を250ºCとすると、平均粒径が29±8 nm 程 度の二次粒子が凝集した構造を有する多結晶が生成した。詳細な分析により、

核生成と生成した一次粒子が成長を抑制されて凝集することでFigure 2.8c のよ うな多結晶構造を有する ITO ナノ粒子が得られたと考えられる(Figure 2.10a)。 このとき[Cl-]/[OH-]のモル比が立方体型 ITOナノ粒子作製の既報 1よりも2倍程 度高くなっている。このことはCl-イオンがITOナノ粒子表面に吸着することに より粒子成長(単結晶化)を抑制している可能性があることを示唆している。さら に、系中での均一核生成の発生数がメタノールの系よりもエチレングリコール の系の方が多いことも凝集構造の ITO ナノ粒子を得る際に重要な要素であると 考えられる。エチレングリコール中での ITO 前駆体の溶解度積が低いことで、

メタノールの系よりも均一核生成が促進されると考えられる。

一方、立方体型ITOナノ粒子はメタノールを溶媒として用いた場合には [In3+]

= 0.18 Mにて生成し、単純な核生成および粒子成長によって形成されたと考え

られる(Figure 2.10b)1。この条件からさらに[In3+]の濃度を増加させると、一般的 には核生成が促進されより小さな ITO ナノ粒子が生成する。しかしながら、こ のような挙動は[In3+] = 0.18 M-0.54 Mの範囲においては観察されず、どの条件で もおおよそ40 nm程度の粒子サイズであった (Figures 2.2a-Figure2.2d)。この結果 はITOナノ粒子生成における初期の均一核生成は[OH-]に依存している可能性が あることを示唆している。実際、系中の [OH-]は常に0.80 Mに固定されている

(Table 2.1)。核生成後、突起を有するITOナノ粒子は立方体型ITOナノ粒子とは

31

異なる挙動29,30で生成したと考えられる。[In3+] = 0.36 Mと0.54 Mのとき、粒子 形状は立方体形状とは明確に異なっていた。この現象は反応溶液内で過剰なCl -が成長過程のITOナノ粒子表面に吸着し、均一な粒子成長(単結晶化)を抑制した 結果であると考えられる(Figure 2.10c)。これまでに、Clイオンが粒子成長を阻害 することが報告されている。大過剰のCl-存在下での合成によって、多結晶性の 楕円形-Fe2O3粒子 2の合成や、ナノキューブが階層的に組み上げられた構造を 有する疑単結晶性の八面体形状のNaxK1-xNbO3粒子3の合成が報告されている。

合成時のCl-イオンの影響を調査するために、Figures 2.11と Figure 2.12 とに

TMACl存在下で合成した生成物のXRDパターンとTEM像を示す。Cl-イオンの

添加により ITO ナノ粒子表面の突起が増加する傾向が確認された。この結果を もとにすると、結晶方位が揃った単結晶と同様の構造を持つ突起 ITO の妥当な 生成メカニズムは、均一な粒子成長(単結晶化)の抑制による、成長中の粒子上で の二次元的なエピタキシャル性を持った不均一核生成によって説明可能である と考えられる(Figure 2.10c)。その他に、粒子同士が結晶方位を揃えて凝集する

oriented attachment growth4による粒子生成メカニズムも検討した。しかしながら

Figures 2.6aおよび Figure 2.6bにおいて、 突起部分に相当するような10 nm程 度の小さな粒子の存在は観察できなかった。この結果により、突起ITOのoriented

attachment growthによる生成の可能性は否定された。このように、突起ITOは過

剰な Cl-イオンの存在による均一な粒子成長(単結晶化)が抑制された状態での、

粒子上でのエピタキシャルな不均一核生成により生成したと考えられる。さら に溶媒が生成物の形状に与える効果を調査するためにエタノール、1-プロパノー ル、1-ブタノールを溶媒として合成を行った。その他の合成条件は Figure 2.2c と同様である。Figures 2.13のXRDパターンにおいて、全ての回折線がIn2O3に 帰属可能であった。また、ICP 測定の結果から算出された Sn/In は、 エタノー ル、1-プロパノール、1-ブタノールの系の生成物中でそれぞれ12.5 %、12.8 %、

12.9 %であった。Figure 2.14のTEM像において、全てのサンプルでナノ粒子表

面に突起が観察され、平均粒径は約30 nmであった。以上より、突起ITOはメ タノール以外にも短鎖アルコールを溶媒として用いた場合にも作製が可能であ ることが分かった。

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Figure 2.10 (a)凝集構造のITOナノ粒子、(b)立方体ITOおよび(c)突起ITOの推定 される粒子生成メカニズム

Figure 2.11立方体ITO(Figure 2.2a)の合成条件において、系中にTMACl-を(a) 0.18

M、(b) 0.27 M、(c) 0.36 M、(d) 0.54 Mとなるように添加して合成した生成物の

XRDパターン

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Figure 2.12 立方体ITO(Figure 2.2a)の合成条件において、系中にTMACl-を(a) 0.18 M、(b) 0.27 M、(c) 0.36 M、(d) 0.54 Mとなるように添加して合成した生成物の TEM像

Figure 2.13 溶媒として(a)エタノール、(b)1-プロパノール、(d)1-ブタノールを用

いて合成した生成物のXRDパターン

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Figure 2.14 溶媒として(a)エタノール、(b)1-プロパノール、(d)1-ブタノールを用 いて合成した生成物のTEM像

2.3.5 突起を有するITOナノ粒子の評価

粒子上の突起がその粒子の性能に与える影響を調査するために、Figure 2.2a

の立方体ITOとFigure 2.2cの突起ITOとに各種評価を行った。立方体ITOの吸

着等温線はわずかなヒステリシスを示し、比表面積(S)は26.3 m2 / gと算出され た。一辺が40 nmの立方体型ナノ粒子のSの理論値は21.0 m2 / gと算出される。

よって立方体ITOは平滑な表面を有していると考えられる。一方、突起 ITOの 吸着等温線はヒステリシスループを示し、ナノ粒子表面に凹凸があることが示 唆された。またこの吸着等温線から平均細孔径は1.6 nmであること、比表面積 が37.0 m2 / gであることが算出された。

またITOナノ粒子粉末に20 kNの荷重を与えた際の圧粉体の電気抵抗率は、

立方体ITOと突起ITOそれぞれにおいて9.93 × 10⁻1 Ω·cmと1.02 Ω·cmであり、

大きな差異は見られなかった。一方、空気中および1% H2 / N2雰囲気でぞれぞれ 300°C加熱した後、抵抗率はそれぞれ3.50 ×10⁻2 Ω·cmと1.98×10⁻2 Ω·cmとに減少 し、突起ITOの抵抗率は立方体 ITOの抵抗率の半分程度であった。これは、導 電キャリア生み出すためにドープされたSn4+イオンのIn2O3結晶構造内での状態 の違いに起因している可能性がある。XRDやXAFSを用いた詳細な結晶構造解 析は第4章に記載した。

立方体ITOと比較して、最も特徴的な突起 ITOの性質は高い水分散性であっ た(Figure 2.15)。立方体ITOおよび突起ITOを、分散剤を添加せずに超音波処理

(40 kHz、3 min)によってイオン交換水中に分散させた。分散液中のナノ粒子濃度

はどちらも0.89 wt%に調整した。2週間後、立方体ITOは沈降したが、突起ITO は分散状態を維持していた。この差異の要因を調査するために、イオン強度を 1.0 × 10-2 M に調整して、2 種の粒子分散液のゼータ電位測定を行った。立方 体ITOのゼータ電位はpH = 3.0とpH = 9.0においてそれぞれ+49.8 mVと-46.7 mVであった。また突起ITOのゼータ電位はpH = 3.0とpH = 9.0においてそれ ぞれ+38.0 mVと-44.6 mVであった。この結果から2種の粒子間のゼータ電位に 明確な差異は見られなかった。つまり粒子間の静電反発は、突起 ITO の高い水

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分散性の主な要因ではないことを示している。そこで、各ナノ粒子の水分散液

に対して1H-NMRのT2緩和時間測定を行った。近年NMRを用いた、溶媒とナ

ノ粒子の界面の相互作用の評価が行われている5。ナノ粒子上での水の溶媒和状 態の効果を評価するためにSpecific relaxation rate enhancement (Rsp)という指標を 用いた。比表面積とRsp値とは比例関係にあることから、立方体ITOと突起ITO のRsp値は比表面積Sで規格化して比較した。算出したRsp/S値はITOナノ粒子 の溶媒和状態の評価のために用いた。高いRsp/S値は水分子がより強くナノ粒子 表面に吸着されていることを示している。つまり、高いRsp/S値を持つナノ粒子 の親水性は、低い Rsp値を持つナノ粒子の親水性よりも高いということである。

以下の(1)式を用いてRsp値を算出した。

Rsp = Rav/Rf – 1 (1)

ここでRav = 1/T2dでありRf = 1/T2fである。RavRfはそれぞれナノ粒子分散液 の溶媒の緩和時間(T2d)と、ナノ粒子を含まない純粋な溶媒緩和時間(T2f)である。

この実験では、ナノ粒子同士の凝集を防ぐために1.0 × 10-2 MのNaOHとHClO4

とを用いて分散液のpH = 3.0に調整しており、その際のイオン強度は1.0 × 10-2 M となっている。Figure 2.16に立方体 ITOおよび突起 ITO分散液におけるRsp /S と分散液濃度の関係をまとめた。立方体ITOおよび突起ITOのどちらの場合に おいてもRsp /Sと分散液濃度との間には線形的な関係が見られた。また、すべて の濃度において突起ITOのRsp/S値は立方体 ITO のRsp/S値よりも大きかった。

この結果は、突起ITOが立方体ITOよりも高い水に対する親和性を有しており、

その親水性の向上によって多くの水分子が凹凸のある表面に吸着されているこ とを示している。

さらに安定な分散状態を維持可能な突起 ITO 水分散液を用い、ガラスあるい は親水化したフレキシブル樹脂基板上にスピンコートによって ITO 薄膜を作製 した。150ºC の低温での加熱処理でを行ったところ、薄膜の抵抗率は 4.0×10⁻2 Ω·cmを示した。

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Figure 2.15 (a)分散直後と(b)2週間後の立方体ITOおよび突起ITO水分散液の外 観

Figure 2.16 分散液中の粒子濃度を変更して測定した立方体 ITO と突起 ITO の

Rsp/S値(● : 突起ITO、● : 立方体ITO)

2.4 結論

メタノール中で高濃度の金属ソースを反応させることにより、突起 ITO を作 製することに成功した。HR-TEM観察より、突起 ITOは多結晶ではなく方位が 揃った結晶構造を有することがわかった。さらに、様々な条件での粒子合成の 結果から、この特徴的な形状は粒子表面におけるエピタキシャルな不均一核生 成によって形成されていると考えられた。このナノ粒子表面での不均一核生成 は系中に過剰に存在するCl-イオンが粒子表面に吸着し均一な粒子成長を阻害す ることで形成されたと考えられる。この突起ITOは立方体ITOよりも高い比表 面積を持ち、これらを加熱した粉末は低い抵抗率を示した。さらに、突起 ITO は非常に高い水分散性を示した。1H- NMRのT2緩和時間測定から、突起ITOの

8

6

4

2

0

Rsp/ S x 103

3.0 2.5 2.0 1.5 1.0

Concentration / wt%

: 突起ITO :突起ITO

:立方体ITO

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非常に高い水分散性はその突起形状に起因するナノ粒子表面の親水性の向上に よるものであることが示唆された。この高い水分散性によって分散剤を用いず に ITO ナノインクの作製が可能であり、低温および大気圧下のプロセスで低抵 抗率のITO薄膜の作製に適しているといえる。よって突起 ITOは耐熱性に乏し いフレキシブル基板を用いたデバイス作製への応用が期待される。

2.5 引用文献

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