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近地津波波形解析による震源断層モデル推定

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(1)

近地津波波形解析による震源断層モデル推定

著者

久保田 達矢

学位授与機関

Tohoku University

(2)

修士論文

近地津波波形解析による震源断層モデル推定

Fault modeling based on near-field tsunami observation

東北大学大学院理学研究科

地球物理学専攻

久保田達矢

論文審査委員

日野 亮太

准教授

(指導教員・主査)

松澤 暢

教授

藤本 博己

教授

(災害科学国際研究所)

越村 俊一

教授

(災害科学国際研究所)

飯沼 卓史

助教

(災害科学国際研究所)

平成 24 年

(3)
(4)

iii

要旨

津波は沖合で発生する地震などに伴って励起される.日本近海においても津波を伴う 地震がしばしば発生しており,沿岸の潮位計や GPS 波浪計,沖合に設置された海底圧力計 などによって津波が記録されている.津波波形は,地震波形や地殻変動観測データと並ん で,地震の震源過程を解析する上で重要な情報をもたらすが,震源過程を反映した高品位 の波形データの取得できる事例は少なく,特に津波振幅が小さくなる M7 級あるいはそれ以 下の地震の震源パラメタを津波から推定した研究の例は少ない.本研究では,2011 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)の発生前後に発生した 3 つの M7 級の地震(3 月 9 日 Mw7.3,3 月 10 日 Mw6.5,7 月 10 日 Mw7.0)について,震源域近傍に展開した海底圧力 計の観測網で捉えた各地震に伴う津波の波形を用いて,各地震の震源断層モデルを推定す るとともに,これらの地震の発生と東北地方太平洋沖地震との関連について議論した. 震源モデルの解析においては,津波波源インヴァージョンにより推定された初期波高分 布の結果を踏まえて,震源モデルを推定した.3 月 9 日の地震および 3 月 10 日の地震につ いては,インヴァージョンにより断層面上のすべり分布を推定し,7 月 10 日の地震につい ては,海底圧力計の波形を最もよく再現する一様すべりの平面矩形断層モデルを求めた. 東北地方太平洋沖地震よりも前に発生した 2 つの地震(3 月 9 日 Mw7.3,3 月 10 日 Mw6.5) について津波の波源を推定したところ,どちらの地震も低角逆断層型地震による海底上下 変動と調和する昇降パターンが得られた.3 月の2つの地震については,断層面上でのすべ り分布の推定に成功した.3 月 9 日の Mw7.3 の地震の最大すべり量は 1.0 m で,大きなすべ りが破壊の開始点より北西側の 40 km × 40 km の領域に集中していたことが明らかとなった. その翌日(3 月 10 日)の早朝,Mw6.5 のプレート境界型地震が発生したが,津波解析の結 果,この地震の最大すべり量は 0.2 m と推定され,主なすべりの範囲は破壊の開始点の西側 の走向方向に 20 km,傾斜方向に 40 km であった. 10 日の地震の主すべり域は,3 月 9 日

(5)

iv の地震の余効すべりの範囲に含まれ,3 月 9 日の前震破壊域の南側に,前震と 3 月 11 日の 本震の破壊の開始点に挟まれるように位置する.このことは 3 月 9 日の地震に伴う余効す べりが,小さな余震の活発化だけでなく,3 月 10 日の中規模地震を引き起こし,その後さ らにプレート境界でのすべりが伝播し,東北地方太平洋沖地震を引き起こしたという,連 鎖的な破壊の発生を強く示唆する.また,3 月 9 日の地震は 1981 年に宮城県沖で発生した M7.0 の地震の破壊域の再破壊あるいはその破壊域を含んでいる可能性が高い. 2011 年 7 月 10 日に沈み込む太平洋スラブ内で発生した横ずれ型地震について推定された 初期波高分布は,横ずれ断層型の破壊から期待される上下変位分布及び海底地震計を用い て再決定された余震の震源分布と整合的であった.東北東‐西南西方向に走向を仮定して グリッドサーチを行った結果,地震による海底上下変動を十分再現できる矩形断層モデル が得られた.推定された断層面はプレート拡大時に発達した正断層の 1 つであると考えら れる.地震に伴う海底の水平変動量を試算した結果,東北地方太平洋沖地震後の余効変動 を推定する際にはその地震時変動は無視できない量であることが分かった.推定された断 層の下端は二重浅発地震面の応力平衡域よりも深部に及んでいる可能性があり,また,二 重浅発地震面の二重面構造の成因と共通する構造不均質がこの地震の余震活動に影響して いると考えられる. このように,震源域の海底圧力観測網で記録される高品位の津波波形データは M7 級の震 源モデルを推定し,その地震の発生場に関する理解を進める上で極めて有用であることが 本研究の成果により示すことができた.今後,沖合における津波観測網が整備されれば, 地震・地殻変動の基盤観測網とともに,海域で発生する地震発生過程の研究推進に大きく 寄与することが期待される.

(6)

v

謝辞

本研究を進めるにあたり,指導教員である日野亮太准教授には日頃より熱心なご指導と 激励,多くの貴重な議論をして頂きました.心より感謝申し上げます.海野徳仁教授,藤 本博己教授,松澤暢教授,趙大鵬教授,遠田晋次教授,西村太志教授,長谷川昭名誉教授 には多くのご教示を頂きました.深く御礼申し上げます.飯沼卓史助教には,研究や論文 執筆にあたり,多くのご指導,ご助言を頂きました.伊藤喜宏助教には,研究のみならず, 観測の際にも非常にお世話になりました.太田雄策助教には,セミナーや学会のリハーサ ル,研究に際して多くのご助言を頂きました.感謝申し上げます.東北大学地震・噴火予 知研究観測センターの卒業生である気象庁気象研究所の対馬弘晃博士や,防災科学技術研 究所の稲津大祐博士,齊藤竜彦博士には,研究の初期段階から多くのご助言を頂きました. 感謝申し上げます.東北大学地震・噴火予知研究観測センターならびに固体地球物理学講 座の皆様には,研究・日常生活において大変お世話になりました.なかでも,木戸元之准 教授,長田幸仁博士,鈴木健介氏,鈴木秀市氏をはじめとする海域総合観測研究部の皆様 には,研究および観測における貴重なご指導・ご助言を頂きました.海域総合観測研究部 の同期である長谷川和也氏には,研究のみならず日常生活において大変お世話になりまし た.その他の同期の皆さまにも,日頃より大変お世話になりました.山村卓也氏,日比野 剛大氏をはじめとする後輩の皆様には研究にあたり多くの補助を頂きました.心より感謝 申し上げます. 本研究では,東京大学地震研究所の釜石沖海底ケーブル式海底圧力計のデータを使用い

たしました.また,図の作成には Wessel and Smith (1998) による the Generic Mapping Tools

(7)

vi

目次

要旨

iii

謝辞

v

目次

vi

第 1 章 序論

1

1.1 津波記録を用いた地震解析の意義と現状

1

1.2 東北地方太平洋沖地震とそれに伴って発生した M7 級の地震

4

1.3 沖合における津波観測

7

1.4 本研究の目的

7

第 2 章 データ

19

2.1 海底圧力観測システム

19

2.1.1 自己浮上式海底圧力計

19

2.1.2 ケーブル式海底圧力計

22

2.2 観測圧力の海底または海面の変動量への換算

23

2.3 東北地方太平洋沖における水圧観測

24

2.4 波形データ処理

26

(8)

vii

第 3 章 手法

45

3.1 津波の数値計算

45

3.2 震源モデル解析

48

3.2.1 津波波源インヴァージョン

48

3.2.2 断層すべりインヴァージョン

51

3.2.3 一枚矩形断層グリッドサーチ

55

第 4 章 2011 年東北地方太平洋沖地震の前震への適用

64

4.1 津波波源インヴァージョン

64

4.2 断層すべりインヴァージョン

65

4.2.1 2011 年 3 月 9 日の前震(Mw7.3)

65

4.2.2 2011 年 3 月 10 日の地震(Mw6.5)

66

4.2.3 インヴァージョンの精度

67

4.3 議論

70

4.3.1 地震の位置関係と余震分布

71

4.3.2 前震に関する先行研究との比較

72

4.3.3 応力状態

73

4.3.4 過去の地震との比較

74

4.4 まとめ

76

(9)

viii

第 5 章 東北地方太平洋沖地震後に発生したスラブ内地震への適用

98

5.1 津波波源インヴァージョン

98

5.2 一枚矩形断層グリッドサーチ

99

5.2.1 グリッドサーチによる震源モデル推定

99

5.2.2 断層モデルの評価

100

5.3 議論

102

5.3.1 東北沖の地磁気異常

102

5.3.2 地震時変位と海底地殻変動量の比較

103

5.3.3 二重浅発地震面との比較

104

5.4 まとめ

105

第 6 章 議論

127

6.1 断層すべりインヴァージョンの適用限界

127

6.2 海底圧力観測の展望

128

第 7 章 結論

138

参考文献

142

補遺

A1

(10)

1

1 章 序論

1.1 津波記録を用いた地震解析の意義と現状

津波は沖合で発生する地震などよって励起され,時として人間社会に大きな被害をもた らす自然現象である.日本近海でも,有史以来津波をともなう地震が数多く発生しており, 沿岸部及び島嶼に居住する人々の生活を脅かし続けてきた.海域で発生する現象であるた め,津波の励起や伝播の過程を直接測定する方法は限られている.そうした中で,沿岸潮 位の観測は陸地に到達した津波の波形を記録するものとして,古くから津波の研究に活用 されてきた.最近では,海面変動を沖合で計測する技術が進歩し,沖合の海面に設置され たGPS 波浪計や深海底に設置された海底圧力計などにより,沿岸の複雑な地形の影響を受 けない良質な津波波形記録を得ることが可能となってきた(例えば永井,2005;加藤・他, 2005). 現在,日本全国の沿岸近くの海域には, 全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS;

Nationwide Ocean Wave information network for Ports and HArbourS ) シ ス テ ム (http://www.mlit.go.jp/kowan/nowphas/)が展開されている. NOWPHAS による沖合観測は, 港湾空港技術研究所によって行われており,2011 年 12 月現在において,75 観測地点(波高・ 周期75 地点、波向 66 地点)で観測が行われている.観測センサーには超音波を用いた波 浪計や海象計などを用いており,いずれの観測点においても沖合10 km 以内,水深が数 10 m の比較的浅い海域に設置してある.実際に津波を観測した例をあげると,1993 年 7 月 12 日 22:57 に発生した北海道南西沖地震の津波の第一波が 23:50 ~ 0:10 にかけて記録されている. これは人類が初めて観測した沖合津波の正確な波形記録である(永井,2005). より沖合での津波波高時系列の取得を目的として,GPS を用いた波浪計が東京大学地震 研究所によって開発・整備されている(加藤・他,2005),各観測点の海上に浮かべたブイ

(11)

2 の位置を,リアルタイムキネマティックGPS 測位によって求めることで海面高変動を常時 モニタリングしており,これにより津波に伴う海面高変動をいち早く捉えることができる. 実際に津波を記録した例には,2004 年 9 月 5 日に発生した東海道沖地震に伴う津波におい て,地震発生から約30 分後に波高約 10cm の押し波が観測された(加藤・他,2005). さらに沖合の深海域では,海底圧力計を用いた津波観測が行われている.圧力計の設置 手法で大別すると,自己浮上式の観測装置を用いた現地収録型のものと,海底ケーブルで 圧力計を陸上局と結ぶことでリアルタイムモニタリングを可能としたケーブル式の海底津 波観測システムとがある.自己浮上式海底圧力計は,もともとは海洋変動や海底の鉛直変

動などの時定数の長い変動の観測目的で用いられてきたが(例えばFox et al., 2001;Fujimoto et al., 2003),高速サンプリングが可能な機器が開発されたことで,津波の観測も可能となっ た.そのシステムは,海底圧力計を船上から海底に自由落下させて設置し,一定の期間観

測を行った後,船上からの音響信号により自己浮上させ,機器及びデータを回収するとい

うシステムである.ケーブル式海底津波観測システムには,例えば,海洋研究開発機構

(JAMSTEC;Japan Agency for marine-Earth Science and Technology)によって北海道十勝沖に

整備されたものがあり,2003 年十勝沖地震(M8.0)に伴う海底変動及び津波を記録するこ

とに成功している (Baba et al., 2004;2006).また,岩手県釜石市沖には東京大学地震研究所 によって設置されたケーブル式海底圧力計 (Kanazawa and Hasegawa, 1999) が,2011 年に発 生した東北地方太平洋沖地震に直後に襲来した津波によって陸上局が被災してデータを取

得できなくなるまで,観測を続けていた.さらには,東北地方太平洋沖地震を受けて整備

され始めた日本海溝地震津波観測網(防災科学技術研究所,2012)や,東南海・南海地震

の発生に向けて整備された DONET (Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis;Kaneda, 2012 ) がある.

こうした観測機器により記録された津波データは,その津波の励起源である地震につい

(12)

3

波の逆伝播解析によって波源域を推定することができる.例えば,羽鳥(1978)は 1978 年

に発生した宮城沖地震(M7.4)について,また,Hatori (1981) は 1979 年に岩手県沖で発生

したM6.5 の地震と 1981 年に宮城県沖で発生した M7.0 の地震について,津波の波源域を推

定している.さらに,津波の波形をデータとして用いて,それを再現するような地震の震

源モデルを推定することも可能である.例えば,Fujii and Satake (2008) は,2006 年に千島

列島沖で発生したMw8.3 の地震および,2007 年に千島列島沖のアウターライズで発生した

Mw8.1 の地震について,日本沿岸の潮位記録及び GPS 波浪計,海底圧力計で記録された津

波波形データを用いて震源モデルを推定した.さらに,2011 年 3 月 11 日に発生した東北地

方太平洋沖地震について,Fujii et al. (2011) は,沖合の海底圧力計に加えて GPS 波浪計やア メリカ海洋大気庁(NOAA;National Oceanic Atomospheric Administration)により太平洋上に 整備されたDART(Deep-ocean Assessment and Reporting of Tsunamis)システム (González et al., 2005) による津波記録,および沿岸の潮位計データからその震源断層モデルを推定した.こ れら以外にも,津波記録をデータとして用いて震源モデルを推定したものは多く存在して

いる(例えばFujii and Satake, 2007;Romano et al., 2010).

津波データを用いて地震の震源過程について解析することは,地震学的データや測地学 的データを用いた解析とならんで,地震の発生過程を知るうえで非常に有用なものである. 特に,津波地震 (Kanamori, 1972) のような地震観測によって求めた地震の規模に比べて異 常に大きな津波を励起する地震では,地震・測地学的データを用いた解析結果と津波のデ ータを用いた解析結果とを総合することが,その震源過程の解明に不可欠である.しかし, これまでの津波波形データに基づく解析の多くは,沿岸の潮位計のデータを用いて,200 km 以上は離れた沖合遠くで発生したM8 以上の地震について調べたものが大半である.これは, 沖合に設置された津波観測点が少ない一方で,励起される津波の規模が小さいM7 前後の地 震に対しては震源から離れた沿岸では高 S/N の津波波形記録を得ることが困難で,結果と して震源過程の推定が難しくなるためである.

(13)

4 規模の小さい地震に伴う小振幅の津波記録を用いて解析した研究には,1998 年に三陸沖 で発生したMw6.1 の地震の震源パラメタを,沖合に設置された海底圧力計で得られた津波 記録の解析から推定したHino et al. (2001) や,2005 年に発生した Mw7.1 の宮城県沖の地震 のすべり分布を,沿岸の潮位記録と沖合の海底津波計の記録のインヴァージョンにより推 定した谷岡・他(2007)がある.また,Saito et al. (2010) は,2004 年に紀伊半島沖で発生し2 つの地震(Mw7.1,Mw7.4)について,沖合に設置された津波観測点の記録に現れる津 波の分散性から断層の走向を推定した.これらの規模の比較的小さい地震について解析が できているのは,観測点数こそ少ないものの,沖合の津波観測点を用いたためであり,震 源近くでの沖合観測で得られる津波波形データが M7 級の地震の震源モデル構築に有効で あることがわかる. 今後,沖合海底圧力観測網が整備されることにより,沖合で発生する地震の震源域直上 における津波観測データは増えてゆくと予想される.もし沖合観測点の良質な津波データ が多くあれば,地震の震源像をより詳細に得られると期待される.一方,M7 級やそれ以下 の海溝型地震の震源モデルを地震学的観測から解析する場合,近地の陸上観測データを用 いた場合には,観測点分布に偏りがあることが原因で得られるモデルの推定が難しい場合 が少なくない.また,遠地地震波を用いて解析するには規模が小さく,分解能に限界があ る.このような比較的規模の小さいM7 前後の地震について,震源域直上で観測された津波 記録を用いて解析を行えば,その震源過程を明らかにすることができるようになり,その ような地震の発生過程の研究に寄与できると期待される.

1.2 東北地方太平洋沖地震とそれに伴って発生した M7 級の地震

2011 年 3 月 11 日 14:46(JST)に,東北沖を震源として,Mw9.0 の東北地方太平洋沖地震 (142.79°E,38.09°N,28.0 km;Suzuki et al., 2012;以下,本震と呼ぶ)が発生し,陸域では

(14)

5 最大震度7 を記録した(図 1.1, 1.2).本震発生後に襲来した津波によって沿岸地域には甚大 な被害がもたらされた.沿岸の潮位記録に残っている津波の最大波高は福島県相馬市の験 潮場でのもので,7.3 m 以上であったが,岩手県宮古市の検潮所や同県釜石市の験潮所など では局舎が流失あるいは損壊しており,記録は著しく不完全なものとなってしまっている (図1.3;気象庁,2011a;2011b). 本震の震源過程を津波データから解析したものとして,上で述べたFujii et al. (2011) や, 沖合の海底圧力計の記録から断層の浅い部分に巨大なすべりがあったことを指摘した Maeda et al. (2011) がある.これらのモデルは,今村・他(2012)による岩手県・宮城県・ 福島県沿岸部の津波遡上高および遡上域などの調査結果を完全に説明できない.津波の現 地調査結果を再現するために構築された今村・他(2012)による津波モデルでは,三陸沖 合の海溝軸付近に大きな津波の励起が必要とされているが,このモデルでは津波波形記録

をうまく説明することができなかった.最近になって,Satake et al. (in press) は,破壊の時 間遅れを考慮した津波波形の逆解析を行い,観測される津波波形と溯上高をともに説明す るモデルを提唱した.また,Iinuma et al. (2012) は,測地データに基づく解析結果が,津波 波形の特徴をよく説明することを示した.このように,2011 年東北地方太平洋沖地震の震 源過程の研究では,津波観測が極めて重要な役割を果たした. この地震と関連して,規模の比較的大きい,M7 クラスの地震がいくつか発生しているが, そのうち3 つの地震は沖合で発生し,津波が引き起こされた(図 1.1).これらのうち 2 つ は本震に先駆けて発生したものである.2011 年 3 月 9 日 11:45:16 (JST)(Suzuki et al., 2012) Mw7.3 (Global CMT) の地震が発生した(143.12°E,38.35°N,22.7 km;以下,イベント 0309 と呼ぶ).この地震は,東北地方太平洋沖地震の最大の前震とされている.陸上で観測 された最大震度は 5 弱である(図 1.4).沿岸の潮位計では津波が顕著に観測され,岩手県 大船渡市の検潮所で最大波高60 cm を記録した(図 1.5;気象庁,2011c).イベント 0309

(15)

6 震が発生した(143.00°E,38.16°N,22.3 km;以下,イベント 0310 と呼ぶ).この地震は東 北地方太平洋沖地震の前震のなかで2 番目に規模の大きなものであり,またイベント 0309 から本震までの間に発生した余震のなかでは最大である.陸上で観測された最大震度は 4 であり,沿岸では明瞭な津波は観測されなかった(図1.6;気象庁,2011d).これら 2 つの 地震の発震機構解は低角逆断層型であり(Global CMT),発生した場所からみても典型的なプ レート境界型地震であると考えられる.これらの 2 つの地震が発生した期間の,沿岸の潮 位記録(気象庁,2011d)を図 1.7 に示す. これらの地震は,Mw9.0 という超巨大地震の直前に発生しており,本震発生の直前過程 と関連する可能性があるため,その詳細な震源モデルの解明は重要な意味をもつ.Ohta et al. (2012) は,海陸の測地データを用いて,イベント 0309 のすべり分布,およびイベント 0309 から本震発生に至るまでの余効変動を推定した.イベント0309 の余効変動は主すべり域の 南から南東側で発生しており,その領域には海底圧力計のデータを用いて再決定された余

震 (Suzuki et al., 2012) の多くが含まれる.さらに,Kato et al. (2012) は相似地震の解析によ

り,イベント0309 の発生後,小地震の活動が南へと進展していく時間発展の様子を示した.

本震から約4 か月後の 2011 年 7 月 10 日 9:57:07(JST)(Obana et al., 2012a) には,Mw7.0 (Global CMT) の地震が,本震破壊域の直下の太平洋スラブ内で発生した(143.41°E,38.017°N, 17.5km;以下,イベント 0710 と呼ぶ).この地震は,東北東‐西南西(走向 65°)および北 北西‐南南東方向(走向 330°)に節面を持つ横ずれ型地震である.陸上での最大震度は 4 であり,大船渡では最大10cm の津波が観測された(図 1.8,1.9;気象庁資料,2011e). 本震が発生以降,3 月および 4 月中には本震震源域で多くの M7 級が発生しているが,そ れ以降ではほとんど発生しておらず,4 月 11 日以降,M7 を超える地震が起こったのはイベ ント0710 が初めてである(図 1.10;気象庁,2012a).この地震は沈み込む太平洋スラブ内 で発生した地震であり,多くの先行研究によって推定された本震のすべり分布 (例えば

(16)

7 生している.この地震に限らず,東北地方太平洋沖地震の発生後には,スラブ内の地震活 動が活発化しており,イベント0710 のような地震の震源モデルを得ることによって,超巨 大地震がスラブ内応力場に及ぼす影響の理解への寄与が期待される.

1.3 沖合における津波観測

1.2 で述べた地震の発生時には,沖合の震源域直上に東北大学により自己浮上式海底圧力 計が複数台設置されており(図1.1),それらによってイベント 0309,イベント 0310,イベ ント0710 における津波および地震に伴う海底の地殻変動が観測された.この時に設置され ていた観測点は,これまでの沖合における津波観測に比べて非常に密に展開されたもので あり,その記録を解析することにより,これらM7 級の地震の震源要素に関して新たな情報 を付け加えることが可能と期待される.これらの地震の震源像を,震源域直上で観測され た津波データから解明し,本震との関連について議論,考察を行うことは,東北地方太平 洋沖地震の発生に至る過程の全貌を理解するのに不可欠と言える.

1.4 本研究の目的

以上のことを踏まえて,本研究では,沿岸の津波記録だけでは解析が困難な,2011 年に 発生した東北地方太平洋沖地震本震に関連した津波をともなう3 つの M7 級の地震について, 震源域の直上に設置された海底圧力観測記録を用いて,震源断層モデルを推定する.そし て,本震との関連について考察を行い,本震の発生に至る過程について議論を行う. さらには,本研究で用いた海底圧力観測網によって取得された津波波形から推定された 震源モデルの推定精度・分解能を評価し,さらには得られた震源モデルを他の研究の結果 と比較・考察することにより,震源域直上の海底圧力計を用いて震源過程を解析した場合

(17)

8 に,他の解析結果,たとえば地震波を用いて解析したものや,沿岸の津波記録を用いて解 析したものと比べ、どのような点で有利かについて議論を行う. 最後に,本研究で用いた海底圧力観測網を用いてM7 級の地震の震源過程を詳細に推定す ることにより,超巨大地震の発生過程との関係を考察するとともに,こうした地震発生機 構の研究を進める上での海底圧力観測の重要性について検討を行う.

(18)

9

1.1 2011 年東北地方太平洋沖地震と,それに関連して発生した 3 つの地震の震央および

(19)

10

1.2 東北地方太平洋沖地震本震における震度分布.気象庁(2011a)による.×印は震央

(20)

11

図1.3 東北地方太平洋沖地震本震に伴って励起された津波の,沿岸の観測点における観測

(21)

12

図1.4 2011 年 3 月 9 日に発生した地震(イベント 0309)における震度分布.気象庁(2011c) による.

(22)

13

図1.5 2011 年 3 月 9 日に発生した地震(イベント 0309)に伴って励起された津波の,沿岸

(23)

14

図1.6 2011 年 3 月 10 日に発生した地震(イベント 0310)における震度分布.気象庁(2011d) による.

(24)

15

図1.7 2011 年 3 月 9 日の地震(イベント 0710)および 3 月 10 日(イベント 0310)の前後

(25)

16

図1.8 2011 年 7 月 10 日の地震(イベント 0710)における,陸上観測点での震度分布.気 象庁(2011e)による.

(26)

17

図1.9 2011 年 7 月 10 日の地震(イベント 0710)に伴って沿岸の観測点において観測され

(27)

18

(28)

19

2 章 データ

本章では,本研究で用いた海底水圧変動時系列データについて,その取得および一次的 データ処理に関して詳述する.

2.1 海底圧力観測システム

本研究では二通りの海底圧力観測システムで得られたデータを使用した.一つは,東北 大学によって設置された自己浮上式海底圧力計であり,もう一つは東京大学地震研究所に

よって設置されたケーブル式海底圧力計 (Kanazawa and Hasegawa, 1999) である.両者に搭 載されている水圧センサーはどちらも高精度水晶振動子を使用している.水晶振動子の発 振周波数は,加えられた圧力によってほぼ線形に変化するので,その発振周波数を一定の 時間間隔ごとに記録し,圧力に換算する.ただし,この水晶式圧力センサーは温度変化に 敏感に応答するため,水温データによる温度較正を必要とする.このため,圧力計測用と は独立に,温度計測用の水晶振動子を用意し,その発振周波数も同時に計測する.こうし て計測される 2 つの発振周波数を圧力に換算する.以下では,自己浮上式およびケーブル 式,それぞれの海底圧力計について述べる.

2.1.1 自己浮上式海底圧力計

本研究で用いた自己浮上式海底圧力計は,大きく分けて,圧力センサー,計測装置,そ してアンカーおよび音響式切り離し装置に分けられる.海底圧力計の外観を図2.1 に示す. オレンジ色のプラスチック製ハードハットの中には耐圧・耐水の17 インチガラス球があり, その中に計測装置および電池が封入されている.海底圧力計の寸法図を図2.2 に示すが,ハ

(29)

20

ードハットの直径は約50 cm,アンカーの 1 辺の長さは約 1 m である.計測期間は内蔵する

電池の量に依存するが,半年から 1 年の連続観測が可能である.アンカーや音響式切り離

し装置を含めた海底圧力計の総重量は100 kg 程度であり,それらを含まないハードハット

部分のみの重量は40 kg 程度である.また,自己浮上式海底圧力計に搭載された圧力センサ

ーはParoscientific 社製 Digiquartz Series 8B のタイプ(図 2.3)であり 7000 m までの水深に おいて圧力測定が可能である.

このセンサーに搭載された水晶振動子により圧力に応じた周波数の波が出力される.圧

力センサーの発振周波数は,センサーが受けている圧力とともに温度にも依存するため, Paroscientific 社製 Digiquartz Series 8B のタイプのセンサーでは,圧力センサーのそばに圧力 変化を受けない水晶振動子を温度センサーとして取り付け,温度変化を独立に計測して, これを用いて圧力センサー出力の温度依存性を補償している.2 つのセンサーの出力から得 られたそれぞれの発振周期から圧力,温度を求めるためには,以下のモデル式を用いる. ここで, 𝑈 = 𝑋 − 𝑈0 (2.1) Temperature = 𝑌1𝑈 + 𝑌2𝑈2+ 𝑌3𝑈3 [℃] (2.2) 𝐶 = 𝐶1+ 𝐶2𝑈 + 𝐶3𝑈2 (2.3) 𝐷 = 𝐷1+ 𝐷2𝑈 (2.4) 𝑇0= 𝑇1+ 𝑇2𝑈 + 𝑇3𝑈2+ 𝑇4𝑈3+ 𝑇5𝑈4 (2.5) Pressure = 𝐶 �1 −𝑇𝑇022� �1 − 𝐷 �1 −𝑇𝑇022�� [psi] (2.6)

(30)

21 である.各定数は,製造メーカーが実施した検定により決定されたもので,センサーごと に異なる.また,圧力単位 [psi] とは,重量ポンド毎平方インチのことであり,1 平方イン チの面積につき1 重量ポンドの力がかかる圧力と定義され,本研究では 1 psi を 6894.76 hPa として単位変換を行った. 本研究で用いた海底圧力計システムの圧力・温度センサーの発振周波数を計測する方法 を図2.4 に示す.圧力センサーの水晶振動子の発振周波数は約 30 kHz であり,この水晶振 動子の出力を4096 分周してパルスを生成し,このパルスの時間幅を正確に計測することに より,温度センサーの発振周波数を計測する.時間幅の計測は,分周パルスをゲートパル スとして,ガラス球内にある30 MHz の基準クロック(周波数安定度 0.5 ppm の温度補償型 水晶発振子)のパルス数をカウントすることによる.したがって,4096 パルス/約 30 kHz ≈ 約 0.14 秒ごとに 30 MHz 基準クロックのパルス数がデータとして記録される.このカウント値 から,約 0.14 秒間の水晶振動子の発振周期の平均値が得られる.同様に,温度用の水晶振 動子の発振周波数は約172 kHz であり,これを 8192 分周したパルスの幅を同様に計測する ことにより,温度センサーの発振周期も計測して,圧力センサーの発振周期と独立・平行 して記録する.温度センサーに関しては,約0.05 秒(8192 パルス/約 172 kHz)毎にその間 の発振周期の平均値が記録されることとなる.本研究の解析では,こうして得られた生デ ータをもとに,圧力・温度センサーのパルスカウント値を1 秒ごとに積算しなおして,1 Hz サンプリングの観測データとして用いた. 𝑋:温度計測用水晶発振子の振動周期 [𝜇sec] 𝑇:圧力計測用水晶発振子の振動周期 [𝜇sec] 𝑈0,𝑌1,𝑌2,𝑌3:温度に関する定数 𝐶1,𝐶2,𝐶3,𝐷1,𝐷2,𝑇1,𝑇2,𝑇3,𝑇4,𝑇5:圧力に関する定数

(31)

22

2.1.2 ケーブル式海底圧力計

本研究では,東京大学地震研究所が岩手県釜石市沖に設置しているケーブル式海底圧力

計(図2.5;Kanazawa and Hasegawa, 1999)において得られたデータも使用した.この観測

システムは1996 年に東京大学地震研究所により開発・整備された.自己浮上式海底圧力計 と同様の,水晶振動子による圧力センサー(Hewlett Packard 社製)が使用されており,光ケ ーブルを介して供給される陸上局装置の原子時計からの時計信号に同期して,水晶振動子 の発振周波数が1/10 秒間隔で計測される.図 2.5a にセンサーの外観を示す. 観測される発振周波数の水圧への換算にはセンサー固有に定義された定数を用いる.圧 力観測装置の設置環境下の圧力𝑃 [psi] は,周波数𝑓 [Hz] と温度𝑇 𝐹 [℉]をパラメタとする 次式で表される. ここで,𝑓∗は圧力センサーの発振周波数𝑓を 72 倍したものである.また,(2.7) 式中の係数 𝐺(𝑇𝐹),𝐻(𝑇𝐹),𝐼(𝑇𝐹),𝐽(𝑇𝐹)は次式で表される. ここで,𝐺𝑖𝐻𝑖𝐼𝑖𝐽𝑖 (i=1, ..., 3) はセンサーごとに異なる定数である. 温度𝑇𝐹は,温度圧力センサーの発振周波数𝑓𝑇𝐸𝑀𝑃[Hz]を用いて次式のように求められる摂 氏温度𝑇𝐶 [℃]を華氏に単位変換して得られる. 𝑃(𝑓∗, 𝑇 𝐹) = 𝐺(𝑇𝐹) + 𝑓∗[𝐻(𝑇𝐹) + 𝑓∗{𝐼(𝑇𝐹) + 𝑓∗𝐽(𝑇F)}] (2.7) 𝐺(𝑇𝐹) = 𝐺0+ 𝑇𝐹[𝐺1+ 𝑇𝐹(𝐺2+ 𝑇𝐹∙ 𝐺3)] (2.8) 𝐻(𝑇𝐹) = 𝐻0+ 𝑇𝐹[𝐻1+ 𝑇𝐹(𝐻2+ 𝑇𝐹∙ 𝐻3)] (2.9) 𝐼(𝑇𝐹) = 𝐼0+ 𝑇𝐹[𝐼1+ 𝑇𝐹(𝐼2+ 𝑇𝐹∙ 𝐼3)] (2.10) 𝐽(𝑇𝐹) = 𝐽0+ 𝑇𝐹[𝐽1+ 𝑇𝐹(𝐽2+ 𝑇𝐹∙ 𝐽3)] (2.11)

(32)

23 定数A,B はセンサーごとに異なる定数である.

2.2 観測圧力の海底または海面の変動量への換算

前節で述べた海底圧力観測システムで取得された圧力時系列データから,海底または海 面の地震時および津波到来時の鉛直変動量を求める.地震が発生する前に海底および海面 は変動しないとすると,海底圧力計で観測される圧力は次式で表される. ここで, である.一方,地震発生後,地震による海底変動および津波による海面変動が生じた場合 の圧力は,次式で表される. ここで, 𝑇C=𝑓𝑇𝐸𝑀𝑃𝐴− 𝐵+ 2 (2.12) 𝑇𝐹 = 1.8𝑇𝐶+ 32 (2.13) 𝑃0(𝑥, 𝑦) = 𝑃𝑎𝑡𝑚+ 𝜌𝑔ℎ(𝑥, 𝑦) (2.14) 𝑃0(𝑥, 𝑦):点(𝑥, 𝑦)において地震前に観測される圧力 𝑃𝑎𝑡𝑚:大気圧(一定とする) 𝜌:海水の密度 𝑔:重力加速度 ℎ(𝑥, 𝑦):点(𝑥, 𝑦)における水深 𝑃(𝑥, 𝑦, 𝑡) = 𝑃𝑎𝑡𝑚+ 𝜌𝑔{𝜂(𝑥, 𝑦, 𝑡) + ℎ(𝑥, 𝑦) − 𝑑(𝑥, 𝑦)} (2.15) 𝜂(𝑥, 𝑦, 𝑡):点(𝑥, 𝑦)における時刻 t での海面高(平均海面を 0 とする)

(33)

24 である.𝜂 および 𝑑 は,上向きを正とする.地震前の圧力との差を取ることで,水圧変化の 時系列を得る. 水圧の変化を,次式のように密度と重力加速度の積𝜌𝑔で割ることによって,海面から海底 までの水柱の高さAq に換算する. ここで,海水の密度𝜌 ≈ 1.03 g/cm3,重力加速度𝑔 = 9.8 m/s2とすると,1 hPa Δ𝑃 ≈ 1 cm ℎ𝐴𝑞 となる.すなわち,1 hPa の圧力増加は「1 cm の海面の隆起あるいは海底の沈降」,1 hPa の 圧力減少は 「1 cm の海面の沈降あるいは海底の隆起」と読み替えることができる.以上よ り,今後本研究では,海底または海面の変動による圧力変化の値は,その [cm] で表される 変動量の単位を,そのまま [hPa] に置き換えたものとする.

2.3 東北地方太平洋沖における水圧観測

本研究において解析に使用した海底圧力計の座標及び観測期間を表2.1 に示す.また,海 底圧力計の観測点配置図を図 2.6 に示す.自己浮上式の海底圧力計については,2011 年 311 日の東北地方太平洋沖地震以前には観測点 P02,P03,P06,P07,P08,P09,および GJT3 の 7 点が,東北地方太平洋沖地震後,イベント 0710 の発生時には P02,P06,P07,P08, P09,および GJT3 の 6 点が設置されていた.また,TM1,TM2 は沿岸から沖合約 120km ま で海底ケーブルが敷設され(図2.5b),光ケーブル伝送方式により沿岸の陸上局においてデ 𝑑(𝑥, 𝑦, 𝑡):点(𝑥, 𝑦)における時刻 t での海底の上下変動(ℎ(𝑥, 𝑦)からのずれ) Δ𝑃(𝑥, 𝑦, 𝑡) = 𝑃(𝑥, 𝑦, 𝑡) − 𝑃0(𝑥, 𝑦) = 𝜌𝑔{𝜂(𝑥, 𝑦, 𝑡) − 𝑑(𝑥, 𝑦)} (2.16) ℎ𝐴𝑞(𝑥, 𝑦, 𝑡) =𝜌𝑔 Δ𝑃1 (𝑥, 𝑦, 𝑡) = 𝜂(𝑥, 𝑦, 𝑡) − 𝑑(𝑥, 𝑦) (2.17)

(34)

25 ータが取得されていた.しかしながら,東北地方太平洋沖地震後に襲来した津波によって, 陸上局が被災してデータを取得できなくなり,現時点(2013 年 1 月)では,未だにこのケ ーブル式海底圧力計は復旧していない.そのため,東北地方太平洋沖地震の前に発生した イベント 0309 およびイベント 0310 では,地震に伴う津波が観測されているが,イベント 0710 では津波が観測できなかった.本研究において釜石沖ケーブル式海底圧力計のデータ を用いるのは,東北地方太平洋沖地震以前に発生した2 つの地震のみである. 東北地方太平洋沖地震の直後の2011 年 5 月および 7 月の 2 回の航海において,観測点 P03 に設置された海底圧力計は船上からの音響切り離しによって回収することができなかった.

そのため,同年9 月に海底遠隔操作無人探査機(ROV;Remotely Operated Vehicle)を用い

て回収した.また,観測点P07,P08,および P09 は,船上からの音響切り離しはせずに, ROV を用いて回収を行った.ROV によって撮影された,観測点 P03 に設置されていた海底 圧力計の回収時の様子を図2.7a に,P08 に設置されていた海底圧力計の様子を図 2.7b に示 す.P03 に設置された海底圧力計は,アンカーがハードハット部分に覆いかぶさるように海 底に横向きに転がっていた.東北地方太平洋沖地震に伴う乱泥流または津波により,海底 圧力計が持ち上げられて転がってしまったために船上からの音響切り離しを受け付けなか ったと思われるが,横転した原因は特定できていない.また,観測点 P08 に設置されてい た海底圧力計は,海底にハードハット部分の 3 分の 1 ほどが沈み込んでおり,アンカーと の切り離し部分が完全に海底の泥の中に埋まってしまっていた.これは,東北地方太平洋 沖地震発生時の地震動により,軟らかい泥に埋まってしまったためと思われる.回収され た海底圧力計を解体したところ,ハードハットの内側のガラス球とハードハットの隙間の 部分に大量の泥が流れ込んでいた.海底圧力計が本来持っている浮力を泥が相殺してしま っており,船上からの音響切り離しは試行していないものの,観測点 P08 の海底圧力計も P03 と同様に,ROV を用いなければ回収できなかった可能性が高い.

(35)

26

2.4 波形データ処理

海底圧力計により記録された地震後の水圧変化時系列データには,海洋潮汐による長周 期成分や,地震動などに起因する短周期の成分が重なっている.これらは津波とは関係の ないものなので,解析にあたって取り除く必要がある. まず,観測圧力 1 秒値データから,観測された圧力記録に含まれている海洋潮汐による

長周期成分を,理論潮汐モデルNAO.99Jb (Matsumoto et al., 2000) または BAYTAP-G (Tamura et al., 1991) を用いて除去する.その後,前後 30 秒の移動平均をとり,さらに図 2.8 のよう

な特性で表される 1 次のバターワース型ローパスフィルター(斎藤,1978)を施し,地震

動などに起因する短周期成分を除去する.図2.8 で表されるフィルターに関するパラメタは,

イ ベ ン ト 0309 及 び イ ベ ン ト 0310 に 関 し て は , Ap = 0.01,As = 50,Tp = 1/fp = 400 [sec],Ts = 1/fs = 150 [sec] とした.また,イベント 0710 に関してはAp = 0.5,As = 5.0,Tp = 1/fp = 100 [sec],Ts = 1/fs = 20 [sec]とした.ローパスフィルターは,位相が変 化しないように両側から施している.ただし,イベント0710 に関しては,津波の継続時間 が短く,フィルター処理により津波の主振幅が小さくなってしまうおそれがあるため移動 平均を行わないこととした.実際に処理を行う前後の波形について,イベント0309 につい ては図2.9 に,イベント 0310 については図 2.10 に,イベント 0710 については図 2.11 に示 す.本研究での津波波形解析では,上記の処理を施した圧力波形を,各地震の発震時刻を0 秒として10 秒おきにリサンプルしたものを使用した.また,波形解析には,波源から生じ た津波が各観測点を通過することによる圧力変動が含まれた圧力時系列が必要である.本 研究では,図2.9~11 に示した波形記録を観察して,イベント 0309 及びイベント 0310 につ いては,発震時刻から30 分後までのデータを,イベント 0710 については発震時刻から 20 分後までのデータを用いることとした. 地震発生前には海面および海底は変動していないと考えて,発震時刻から 1 時間前まで

(36)

27 の平均の圧力値をゼロとしたときの圧力変動量を津波の解析に用いる.ただし,ケーブル 式海底圧力計は,フィルター処理によって取り除くことのできなかった長周期のノイズが 大きい(例えば図2.9h,2.9i,2.10h,2.10i)ため,発震時刻から 1 時間前までの平均を用い ると,発震時刻の圧力値が大きくゼロから離れてしまう.そこで,イベント0310 について は,発震時刻の圧力の値をそのままゼロとすることとした.イベント0309 については 1 時 間前からの平均を取ったところ,発震時刻の圧力値がゼロに近い値になったためそのよう な補正は行わなかったが,長周期のノイズは取り除き切れていないため,解析にあたって 注意が必要である. 押し波の第一波の継続時間は,イベント0309 では,すべての観測点においておよそ 8 分 程度,イベント0310 ではおよそ 5 分程度であった.津波の伝播速度は重力加速度と水深の 積の1/2 乗で表される(例えば Satake, 1995;Satake, 2002;首藤・他,2007)ので,継続時 間から津波の卓越波長が概算でき,卓越波長は波源における隆起域の広がりに概ね相当す る.この海域の平均の水深を2km 程度とすると,イベント 0309 ではおおよそ 60km 程度, イベント0310 では 40km 程度の広がりを持つ隆起域によって津波が励起されたものと考え られる.同様に,イベント0710 の押し波の継続時間はおよそ 4 分程度であり,この海域の 平均の水深を3.5km とすると,隆起域の広がりはおおよそ 40km 程度と推測される.

(37)

28 表2.1 海底圧力観測点の座標および観測期間.ケーブル式海底圧力計(TM1 および TM2) については,東北地方太平洋沖地震によって観測ができなくなるまで,連続的に観測を行 っていた.観測期間が2 つあるものは,圧力計の入れ替えを行った観測点である. 観測点名 経度 [°E] 緯度 [°N] 水深 [m] 観測期間 GJT3 143.4814 38.2945 3,293 2010/11 ~ 2011/5 2011/5 ~ 2011/11 P02 142.5016 38.5002 1,104 2010/6 ~ 2011/5 2011/5 ~ 2012/5 P03 142.3998 38.1834 1,052 2010/6 ~ 2011/9 2011/5 ~ 2012/5 P06 142.5838 38.6340 1,254 2010/6 ~ 2011/5 2011/5 ~ 2012/5 P07 142.4488 38.0003 1,059 2010/9 ~ 2011/9 P08 142.8330 38.2835 1,418 2010/9 ~ 2011/9 P09 143.0006 38.2659 1,556 2010/9 ~ 2011/9 TM1 142.7830 39.2330 1,564 連続観測 ( ~ 2011/3/11) TM2 142.4500 39.2528 954 連続観測 ( ~ 2011/3/11)

(38)

29 図2.1 東北大学自己浮上式海底圧力計の外観.圧力センサーは手前にあり,灰色の保護キ ャップが被せられ,黄色の保護テープが巻かれている.その左側の銀色の金属装置は音響 送受波装置である.圧力計下の濃赤色のアンカーは浮上回収時には切り離される.オレン ジ色のハードハットの中に17 インチガラス球があり,その中に記録装置や電池が収納され ている.

(39)

30

(40)

31

図2.3 海底圧力センサー(Paroscientific 社製).右下の黒い部分は筐体内部のセンサーに周 囲の圧力を伝える受圧ポートの入り口部分になっている.実際の使用時には,センサーに

海水が直接触れて腐食することのないように,清水を満たした細い筒状の袋の中に入れ,

(41)

32

2.4 自己浮上式圧力計における圧力・温度センサーの発振周波数の計測方法.各センサ

ーの水晶振動子の発振信号を分周して得られるパルスの周期を,基準クロックのパルス数

(42)

33 (a) (b) 図2.5 釜石沖ケーブル式圧力計の (a) 圧力センサー外観および (b) 観測点位置.東京大学 地 震 研 究 所 の 三 陸 沖 光 ケ ー ブ ル 式 海 底 地 震 ・ 津 波 観 測 シ ス テ ム の ホ ー ム ペ ー ジ (http://eoc.eri.u-tokyo.ac.jp/eisei_system/sanrikupanf.html)より.

(43)

34

2.6 本研究で使用する観測点および解析を行う地震の震央.地震の震央は Suzuki et al.

(2012) および Obana et al. (2012a) による.宮城沖に設置された GJT3,P02,P03,P06,P07, P08,P09 の 7 台が東北大学の自己浮上式海底圧力計観測点,釜石沖に設置された TM1,TM2

の2 台が東京大学の釜石沖ケーブル式海底圧力計の観測点である.観測点 P03,TM1,TM2

(44)

35 (a)

(b)

図2.7 ROV によって撮影された海底圧力計の回収時の様子.(a) 観測点 P03,(b) 観測点 P08 の様子.

(45)

36

2.8 ローパスフィルターの特性曲線(斎藤,1978).fp [Hz],fs [Hz] および ApAsはフ ィルターの特性を決めるパラメタである.fp [Hz],fs [Hz]の逆数をそれぞれ Tp [Hz],Ts [Hz] とする.

(46)

37 (a) GJT3 (b) P02 (c) P03 (d) P06 図2.9 イベント 0309 の波形処理前後の波形.灰色は 1Hz サンプルの圧力時系列から潮汐 成分を取り除いた物,青はそれに前後30 秒間の移動平均を施した物,赤はさらにローパス フィルターを施した物である.緑色の線は地震の発生時刻である.観測点P06 では 14 時頃 にデータの欠落があるが,本研究の津波波形解析に影響はないと判断し補正はしていない.

(47)

38 (e) P07 (f) P08

(g) P09

(48)

39 (h) TM1 (i) TM2

(49)

40 (a) GJT3 (b) P02 (c) P03 (d) P06 図2.10 イベント 0310 の波形処理前後の波形.灰色は潮汐を除去した後の圧力時系列(1Hz サンプル),青はその移動平均,赤はローパスフィルターを施した物.緑色の線は,地震の 発生時刻である.TM1,TM2 については地震前のオフセットが一定ではないので,発震時 刻の値をゼロとなるよう補正する.

(50)

41 (e) P07 (f) P08

(g) P09

(51)

42 (h) TM1 (i) TM2

(52)

43 (a) GJT3 (b) P03

(c) P06 (d) P07

図2.11 イベント 0710 の波形処理前後の波形.青は潮汐成分を取り除いた物,赤はローパ

(53)

44 (e) P08 (f) P09

(54)

45

3 章 手法

本章では,本研究で解析のために用いた津波の数値計算の手法および震源モデル解析の 手法について述べる.

3.1 津波の数値計算

ここではグリーン関数の計算や波形の合成に用いた津波の数値計算について述べる. 本研究では,線形長波理論に基づいた支配方程式を,差分法を用いて数値的に解くこと で,津波の伝播を計算し,単位津波波源もしくは地震断層面上の単位すべりによる各観測 点での津波波形グリーン関数を求める.このグリーン関数を重ね合わせることで,各観測 点における津波波形の合成を行う.差分計算にはスタッガード格子を用いた. 線形長波理論式とは,非圧縮・非回転の流体を仮定したときに,水深に比べ波の振幅が 小さく,水粒子の運動の鉛直加速度が重力加速度に比べ十分小さいときに質量保存則(連 続の式)と質量保存則(運動方程式)を基礎式として導かれる波動方程式である(例えば Satake, 1995;Satake, 2002;首藤・他,2007).津波の計算に際しては,太平洋やインド洋な ど広領域を長距離伝播するような津波を扱う場合はコリオリ力に対応する項が必要となり, また,津波が浅海域(水深およそ50m 以浅)や陸域に進入すると,海底摩擦による抵抗が 無視できなくなる(例えば,首藤・他,2007).本研究では近地の観測点のデータのみを使 用しており,太平洋全域を広領域で伝搬するような津波は扱わない.また,解析に使用す る津波は深海域を伝搬するもののみである.したがって,コリオリ力および海底摩擦の影 響はほとんどないと考えられる.さらに,津波の振幅に対して水深が十分に大きくない場 合には波数分散性を考慮する必要があるが,本研究で考慮する津波の発生源である海底地 殻変動場は数10 km に及ぶのに対して発生する津波の波高のオーダーは大きくとも数 10 cm

(55)

46 であり,分散性の影響もほとんど見られないと考えられる.以上のことより,コリオリ力 と海底摩擦および分散性の影響を無視し,線形長波理論に基づいて津波の計算を行うこと とした. 本研究ではデカルト座標系において数値計算を行う.津波計算の支配方程式は,次式で 表される. 𝜕𝜂 𝜕𝑡 = − 𝜕𝑀 𝜕𝑥 − 𝜕𝑁 𝜕𝑦 (3.1) 𝜕𝑀 𝜕𝑡 = −𝑔ℎ 𝜕𝜂 𝜕𝑥 (3.2) 𝜕𝑁 𝜕𝑡 = −𝑔ℎ 𝜕𝜂 𝜕𝑦 (3.3) (3.1)式は連続の式を,(3.2),(3.3) 式は線形長波に基づいた流体の運動方程式を表す.ここ で, 𝑀 = � 𝑢 𝑑𝑧𝜂 −ℎ (3.4) 𝑁 = � 𝑣 𝑑𝑧𝜂 −ℎ (3.5) であり, 𝜂:静水面からの水位上昇 h:静水面から海底面までの水深 g:重力加速度 t:時間 𝑀:x 方向の線流量 𝑁:y 方向の線流量 𝑢:x 方向の流速 𝑣:y 方向の流速

(56)

47 である.変数の定義を図3.1 に示す.なお,水深のデータには海底地形データ etopo1 (Amante and Eakins, 2009) を用いた.津波の計算対象領域の海底地形図を図 3.2 に示す. これらの式を図3.3 に示したスタッガード格子点上に差分化すると,次式のようになる. 𝜂𝑖,𝑗𝑛+1= 𝜂𝑖,𝑗𝑛 − ⎩ ⎪ ⎨ ⎪ ⎧�𝑀𝑖+1 2,𝑗 𝑛+12 − 𝑀𝑖,𝑗𝑛+12 ∆𝑥 + �𝑁𝑖,𝑗+1 2 𝑛+12 − 𝑁𝑖,𝑗𝑛+12 ∆𝑦 ⎭ ⎪ ⎬ ⎪ ⎫ ∆𝑡 (3.6) 𝑀𝑖+1 2,𝑗 𝑛+12 = 𝑀𝑖+1 2,𝑗 𝑛−12 − 𝑔ℎ𝑖+1 2,𝑗 �𝜂𝑖+1,𝑗𝑛 − 𝜂𝑖,𝑗𝑛� ∆𝑥 ∆𝑡 (3.7) 𝑁𝑖,𝑗+1 2 𝑛+12 = 𝑁𝑖,𝑗+1 2 𝑛−12 − 𝑔ℎ𝑖,𝑗+1 2 �𝜂𝑖,𝑗+1𝑛 − 𝜂𝑖,𝑗𝑛 � ∆𝑦 ∆𝑡 (3.8) ここで, 𝑛:時間ステップ番号 𝑖:x 方向の格子点番号 𝑗:y 方向の格子点番号 ∆𝑥,∆𝑦:格子間隔 ∆𝑡:時間ステップ間隔 である. 数値計算の条件は, 格子点間隔:2 km 時間ステップ:1 秒 境界条件:陸側では完全反射,沖側では自由透過 計算対象領域:1024 km × 1024 km (およそ 138.5°E~150°E,33.5°N~42.5°N) グリッド数:512 個 × 512 個 とした.

(57)

48

津波波源インヴァージョンおよび一枚矩形断層グリッドサーチの際には,海底の上下変

動分布をそのまま初期の海面の波高分布として津波計算を行う.また,断層すべりインヴ

ァージョンの際には,海底面の上下変動場に対して,水深フィルター (Saito and Furumura, 2009) を適用し,それを初期海面波高分布として津波計算を行った. 詳細は次節において 述べる.

3.2 震源モデル解析

震源モデルの解析においては,まず予備解析として,インヴァージョンによる津波の波 源の推定,すなわち初期波高分布の推定(以下,津波波源インヴァージョンと呼ぶ)を行 う.その後,インヴァージョンによる断層のすべり分布の推定(以下,断層すべりインヴ ァージョンと呼ぶ),あるいはグリッドサーチを用いた一枚矩形断層モデルの推定(以下, 一枚矩形断層グリッドサーチと呼ぶ)を行って震源モデルを求める.

3.2.1 津波波源インヴァージョン

本節では,津波の初期波高分布を推定する津波波源インヴァージョンについて述べる. なお,インヴァージョンの手法は中川・小柳(1982)を参考にした.津波波源インヴァー ジョンではグリーン関数を計算するための単位要素として,断層のすべりではなく海底面 の上下変位を用いる.そのようにすることで,震源モデルを推定する断層すべりインヴァ ージョンや一枚矩形断層グリッドサーチとは異なり,断層の位置や震源パラメタなどの仮 定が不要となる.そのため,津波波源インヴァージョンにより初期波高分布を推定し,地 震学的データから推定された発震機構解などの既知の情報と比較することにより,海底圧 力データから震源モデルが推定可能かどうかを検証できる.具体的には,インヴァージョ

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49 ンにより推定される初期波高分布が,既知の発震機構解から期待される分布になるか比較 することにより,分岐断層の破壊や海底地すべりなど,断層すべりでは説明できないよう な海底変動が起こっていないか検証できる,そこで,予備解析の一種として津波波源イン ヴァージョンを行い,その結果を踏まえて震源モデルの推定を行う. インヴァージョンには,津波波形がグリーン関数の線形結合によって表現されることを 利用する.図3.4 に示すように,観測される津波波形は,波形計算の単位要素,すなわち津 波波源インヴァージョンの場合には解析領域を小さく区分けした小波源が変動することに よって発生する津波の重ね合わせで表現される.このことは次式で表される観測方程式で 表現できる. 𝑑𝑗(𝑡) = � 𝐺𝑖𝑗(𝑡)𝑎𝑖 M 𝑖=1 (3.9) ここで, 𝑑𝑗(𝑡):j 番目の観測点における津波波形時系列データ 𝐺𝑖𝑗(𝑡):i 番目の小波源による,j 番目の観測点における津波波形時系列(グリーン 関数) 𝑎𝑖:i 番目の小波源における変動量 M:小波源の総数 である.これを行列表示で書くと,次式で表される. 𝐝 = 𝐆𝐚 (3.10) ここで, N = �時間ステップ数� × �観測点数� とすると

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50 𝒅:𝑑𝑗(𝑡)を成分とする N 行 1 列の列ベクトル 𝐆:𝐺𝑖𝑗(𝑡)を要素とする N 行 M 列の行列 𝐚:𝑎𝑖を要素とするM 行 1 列の列ベクトル である.インヴァージョンを安定化させるために,空間的な平滑化の拘束を与える.具体 的には,隣り合う海底面要素の上下変位量のラプラシアンがゼロになるような拘束であり, 次式の形で表現される. 0 = 𝑎𝑙+1,𝑚+ 𝑎𝑙−1,𝑚+ 𝑎𝑙,𝑚+1+ 𝑎𝑙,𝑚−1− 4𝑎𝑙,𝑚 (3.11) ここで, 𝑎𝑙,𝑚:x 方向に l 番目.y 方向に m 番目の海底面要素における上下変動量 である.行列表示で書くと,次式で表される. 𝟎 = 𝐒𝐚 (3.12) ここで,S は(3.11)式の各係数を要素とする N 行 N 列の行列である. 平滑化の拘束条件を考慮した津波波源インヴァージョンの目的関数𝑠(𝐚)は,次式で表され る. 𝑠(𝐚) = ‖𝐝 − 𝐆𝐚‖2+ 𝛼2‖𝐒𝐚‖2 (3.13) ここで,𝛼は平滑化の拘束条件の重みを表す.この目的関数𝑠(𝐚)が最小の値をとるような最 適解𝐚∗を推定する.正規方程式は次式で表される. (𝐆T𝐆 + 𝛼2𝐒T𝐒)𝐚 = 𝐆T𝐝 (3.14) この式から,解a*を,特異値分解法により求める.𝛼の値は,本研究で解析を行う 3 つの地 震すべてについて経験的に求めた 𝛼 = 1 を用いた.具体的には,𝛼の値を 0.1,1,10,… と変化させてインヴァージョンを行い,3 つの地震すべてで解析領域の端にインヴァージョ

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51 ン上の虚像が現れない値として,経験的に得た 𝛼 = 1 を採用した. 続いて,津波波源インヴァージョンに用いたグリーン関数の計算の手法について述べる. グリーン関数計算の元となる,単位源としての小波源には,図3.5 に示した,隣り合う小断 層どうしがその大きさの半分ずつ重なるピラミッドのような形を用いた.すなわち,海底 面要素を20km 四方の正方形とし,単位変位量には中心を 1m,中心から離れるにつれて, 次式で表される変位量を与えた. 𝜂0(𝑥, 𝑦) = �1 − �10�� �1 − �𝑥 10�� 𝑦 ただし− 10 < 𝑥 < 10, −10 < 𝑦 < 10 (3.15) 実際の津波の波源としての海底上下変動場は,上下変動量が水平方向になめらかに変化 するものと考えて,単純な直方体ではなくこのような形とした.この小波源を初期条件と して津波の数値計算を行う. 地震が発生した際,震源域の直上に設置された海底圧力計では,断層運動に伴う海底上 下変位が,津波による海面高変動と共に記録されることになり,図3.6 のように地震前後で 水圧オフセットが変化する.本研究におけるグリーン関数の計算では,Tsushima et al. (2012) の手法に基づき,地震時の海底の上下変動に対応する圧力変化を,計算された津波から差 し引くようにしている.これにより,水圧オフセットの変化分を別途推定することなく, 津波波源インヴァージョンを行うことができる. グリーン関数を計算する領域は地震によって異なるが,震源およびその周囲の観測点を 含む十分広い領域を対象とすることとした. 3.2.2 断層すべりインヴァージョン 本節では,断層のすべり分布を推定する断層すべりインヴァージョンについて述べる. 断層すべりインヴァージョンも初期波源インヴァージョンと同様に,津波波形がグリー

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52 ン関数の線形結合によって表現されることを利用する.図3.4 に示すように,観測される津 波波形は,波形計算の単位要素,断層すべりインヴァージョンの場合には断層面を小さく 区分けした小断層が変動することによって発生する津波の重ね合わせで表現される.断層 すべりインヴァージョンにおける観測方程式は,(3.9)式と同様の形で表される. 𝑑𝑘(𝑡) = � 𝐺𝑖𝑘(𝑡)𝑎𝑖 M 𝑖=1 (3.16) ここで, 𝑑𝑘(𝑡):k 番目の観測点における津波波形データ 𝐺𝑖𝑘(𝑡):i 番目の小断層による,k 番目の観測点における津波波形時系列 (グリーン 関数) 𝑎𝑖:i 番目の小断層におけるすべり量 M:小断層の総数 である.これを行列表示で書くと,次式で表される. 𝐝 = 𝐆𝐚 (3.17) ここで, N = �時間ステップ数� × �観測点数� とすると 𝐝:𝑑𝑘(𝑡)を成分とする N 行 1 列の列ベクトル 𝐆:𝐺𝑖𝑗(𝑡)を要素とする N 行 M 列の行列 𝐚:𝑎𝑖を要素とするM 行 1 列の列ベクトル である. 断層すべりインヴァージョンにおいても,津波波源インヴァージョンと同様に空 間的な平滑化の拘束を与える.その与え方は(3.11)式と同様である. 以上より,正規方程式 は,(3.14)式と同様に次式で表される.

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53 (𝐆T𝐆 + 𝛼2𝐒T𝐒)𝐚 = 𝐆T𝐝 (3.18) この式から,解 a*を,特異値分解法により求める.なお,断層すべりインヴァージョンで は,スムージングの重み𝛼は経験的に決めるのではなく,𝛼および計算波形と観測波形の残 差のトレードオフ曲線を描くことにより決定した.詳細は第4 章で述べる. 断層のすべり分布やその広がりについて議論を行うために,断層すべりインヴァージョ ンにより求まる断層すべり量の推定誤差を評価する必要がある.i 番目の小断層におけるす べり量𝑎𝑖の推定誤差σ𝑖𝐚は,観測データベクトル𝐝が,真の値からなるベクトル𝐝0と,期待値 0,分散共分散行列Σの正規分布に従う観測誤差ベクトル𝛜を用いて, 𝐝 = 𝐝𝟎+ 𝛜 (3.19) と表されるとき, 𝜎𝑖𝐚= {[(𝐆T𝚺−𝟏𝐆 + 𝛼2𝐒T𝐒)−1]𝑖𝑖} 1 2 (3.20) と求められる.本研究では分散共分散行列Σの非対角成分を 0,すなわち,すべての観測誤 差が独立であるものとして, 𝚺 = Cov[𝛜𝛜T] = ⎣ ⎢ ⎢ ⎡𝜎12 𝐎 𝜎22 ⋱ 𝐎 𝜎N2⎦ ⎥ ⎥ ⎤ (3.21) とした.ここで,𝜎𝑚2はm 番目の観測データの持つ誤差の分散である.さらに,すべての観 測点,すべての時刻において観測誤差の分散が等しい,すなわち, 𝜎1= 𝜎2= ⋯ = 𝜎N= 𝜎0 (3.22) と仮定し,𝜎0= 1 hPa ≅ 1 cmとした. 続いて,断層すべりインヴァージョンにおける,グリーン関数の計算について述べる. 断層のすべりインヴァージョンのグリーン関数の計算は,図3.4 で表すように,津波波源イ ンヴァージョンの場合と異なり,断層運動による津波を考える必要がある.そこで,小断

図 1.3 東北地方太平洋沖地震本震に伴って励起された津波の,沿岸の観測点における観測 値.主な観測点での第一波および最大波の振幅が記載されている.気象庁( 2011b )による.
図 1.4 2011 年 3 月 9 日に発生した地震(イベント 0309 )における震度分布.気象庁( 2011c ) による.
図 1.5 2011 年 3 月 9 日に発生した地震(イベント 0309 )に伴って励起された津波の,沿岸 の観測点における観測値.気象庁( 2011c )による.
図 1.6 2011 年 3 月 10 日に発生した地震 (イベント 0310 ) における震度分布. 気象庁 ( 2011d ) による.
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