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波形データ処理

第 2 章 データ

2.4 波形データ処理

海底圧力計により記録された地震後の水圧変化時系列データには,海洋潮汐による長周 期成分や,地震動などに起因する短周期の成分が重なっている.これらは津波とは関係の ないものなので,解析にあたって取り除く必要がある.

まず,観測圧力 1 秒値データから,観測された圧力記録に含まれている海洋潮汐による 長周期成分を,理論潮汐モデルNAO.99Jb (Matsumoto et al., 2000) またはBAYTAP-G (Tamura

et al., 1991) を用いて除去する.その後,前後30秒の移動平均をとり,さらに図2.8のよう

な特性で表される 1 次のバターワース型ローパスフィルター(斎藤,1978)を施し,地震 動などに起因する短周期成分を除去する.図2.8で表されるフィルターに関するパラメタは,

イ ベ ン ト 0309 及 び イ ベ ン ト 0310 に 関 し て は ,Ap = 0.01,As = 50,Tp = 1/fp = 400 [sec],Ts = 1/fs = 150 [sec] とした.また,イベント 0710 に関してはAp = 0.5,As = 5.0,Tp = 1/fp = 100 [sec],Ts = 1/fs = 20 [sec]とした.ローパスフィルターは,位相が変 化しないように両側から施している.ただし,イベント0710に関しては,津波の継続時間 が短く,フィルター処理により津波の主振幅が小さくなってしまうおそれがあるため移動 平均を行わないこととした.実際に処理を行う前後の波形について,イベント0309につい ては図2.9に,イベント0310については図2.10に,イベント0710については図2.11に示 す.本研究での津波波形解析では,上記の処理を施した圧力波形を,各地震の発震時刻を0 秒として10秒おきにリサンプルしたものを使用した.また,波形解析には,波源から生じ た津波が各観測点を通過することによる圧力変動が含まれた圧力時系列が必要である.本 研究では,図2.9~11に示した波形記録を観察して,イベント0309及びイベント0310につ いては,発震時刻から30分後までのデータを,イベント0710については発震時刻から20 分後までのデータを用いることとした.

地震発生前には海面および海底は変動していないと考えて,発震時刻から 1 時間前まで

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の平均の圧力値をゼロとしたときの圧力変動量を津波の解析に用いる.ただし,ケーブル 式海底圧力計は,フィルター処理によって取り除くことのできなかった長周期のノイズが 大きい(例えば図2.9h,2.9i,2.10h,2.10i)ため,発震時刻から1時間前までの平均を用い ると,発震時刻の圧力値が大きくゼロから離れてしまう.そこで,イベント0310について は,発震時刻の圧力の値をそのままゼロとすることとした.イベント0309については1時 間前からの平均を取ったところ,発震時刻の圧力値がゼロに近い値になったためそのよう な補正は行わなかったが,長周期のノイズは取り除き切れていないため,解析にあたって 注意が必要である.

押し波の第一波の継続時間は,イベント0309では,すべての観測点においておよそ8分 程度,イベント0310ではおよそ5分程度であった.津波の伝播速度は重力加速度と水深の 積の1/2乗で表される(例えばSatake, 1995;Satake, 2002;首藤・他,2007)ので,継続時 間から津波の卓越波長が概算でき,卓越波長は波源における隆起域の広がりに概ね相当す る.この海域の平均の水深を2km程度とすると,イベント0309ではおおよそ60km程度,

イベント0310では40km程度の広がりを持つ隆起域によって津波が励起されたものと考え られる.同様に,イベント0710の押し波の継続時間はおよそ4分程度であり,この海域の 平均の水深を3.5kmとすると,隆起域の広がりはおおよそ40km程度と推測される.

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表2.1 海底圧力観測点の座標および観測期間.ケーブル式海底圧力計(TM1およびTM2) については,東北地方太平洋沖地震によって観測ができなくなるまで,連続的に観測を行 っていた.観測期間が2つあるものは,圧力計の入れ替えを行った観測点である.

観測点名 経度 [°E] 緯度 [°N] 水深 [m] 観測期間

GJT3 143.4814 38.2945 3,293 2010/11 ~ 2011/5

2011/5 ~ 2011/11

P02 142.5016 38.5002 1,104 2010/6 ~ 2011/5

2011/5 ~ 2012/5

P03 142.3998 38.1834 1,052 2010/6 ~ 2011/9

2011/5 ~ 2012/5

P06 142.5838 38.6340 1,254 2010/6 ~ 2011/5

2011/5 ~ 2012/5

P07 142.4488 38.0003 1,059 2010/9 ~ 2011/9

P08 142.8330 38.2835 1,418 2010/9 ~ 2011/9

P09 143.0006 38.2659 1,556 2010/9 ~ 2011/9

TM1 142.7830 39.2330 1,564 連続観測 ( ~ 2011/3/11)

TM2 142.4500 39.2528 954 連続観測 ( ~ 2011/3/11)

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図2.1 東北大学自己浮上式海底圧力計の外観.圧力センサーは手前にあり,灰色の保護キ ャップが被せられ,黄色の保護テープが巻かれている.その左側の銀色の金属装置は音響 送受波装置である.圧力計下の濃赤色のアンカーは浮上回収時には切り離される.オレン ジ色のハードハットの中に17インチガラス球があり,その中に記録装置や電池が収納され ている.

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図2.2 圧力計寸法図.海底圧力計仕様書(海洋電子株式会社)による.

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図2.3 海底圧力センサー(Paroscientific社製).右下の黒い部分は筐体内部のセンサーに周 囲の圧力を伝える受圧ポートの入り口部分になっている.実際の使用時には,センサーに 海水が直接触れて腐食することのないように,清水を満たした細い筒状の袋の中に入れ,

図2.1のように保護キャップを被せ保護テープを巻いたものを使用する.

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図2.4 自己浮上式圧力計における圧力・温度センサーの発振周波数の計測方法.各センサ ーの水晶振動子の発振信号を分周して得られるパルスの周期を,基準クロックのパルス数 をカウントすることにより計測・記録する.

33 (a)

(b)

図2.5 釜石沖ケーブル式圧力計の (a) 圧力センサー外観および (b) 観測点位置.東京大学 地 震 研 究 所 の 三 陸 沖 光 ケ ー ブ ル 式 海 底 地 震 ・ 津 波 観 測 シ ス テ ム の ホ ー ム ペ ー ジ

(http://eoc.eri.u-tokyo.ac.jp/eisei_system/sanrikupanf.html)より.

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図 2.6 本研究で使用する観測点および解析を行う地震の震央.地震の震央は Suzuki et al.

(2012) およびObana et al. (2012a) による.宮城沖に設置されたGJT3,P02,P03,P06,P07, P08,P09の7台が東北大学の自己浮上式海底圧力計観測点,釜石沖に設置されたTM1,TM2 の2台が東京大学の釜石沖ケーブル式海底圧力計の観測点である.観測点P03,TM1,TM2 は,イベント0710では観測を行っていない.

35 (a)

(b)

図2.7 ROVによって撮影された海底圧力計の回収時の様子.(a) 観測点P03,(b) 観測点

P08の様子.

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図2.8 ローパスフィルターの特性曲線(斎藤,1978).fp [Hz],fs [Hz] およびAp,Asはフ ィルターの特性を決めるパラメタである.fp [Hz],fs [Hz]の逆数をそれぞれTp [Hz],Ts [Hz]

とする.

37 (a) GJT3 (b) P02

(c) P03 (d) P06

図2.9 イベント0309の波形処理前後の波形.灰色は1Hzサンプルの圧力時系列から潮汐 成分を取り除いた物,青はそれに前後30秒間の移動平均を施した物,赤はさらにローパス フィルターを施した物である.緑色の線は地震の発生時刻である.観測点P06では14時頃 にデータの欠落があるが,本研究の津波波形解析に影響はないと判断し補正はしていない.

38 (e) P07 (f) P08

(g) P09

図2.9 つづき

39 (h) TM1 (i) TM2

図2.9 つづき

40 (a) GJT3 (b) P02

(c) P03 (d) P06

図2.10 イベント0310の波形処理前後の波形.灰色は潮汐を除去した後の圧力時系列(1Hz サンプル),青はその移動平均,赤はローパスフィルターを施した物.緑色の線は,地震の 発生時刻である.TM1,TM2については地震前のオフセットが一定ではないので,発震時 刻の値をゼロとなるよう補正する.

41 (e) P07 (f) P08

(g) P09

図2.10 つづき

42 (h) TM1 (i) TM2

図2.10 つづき

43 (a) GJT3 (b) P03

(c) P06 (d) P07

図2.11 イベント0710の波形処理前後の波形.青は潮汐成分を取り除いた物,赤はローパ スフィルターを施した物である.緑色の線は,地震の発生時刻である.

44 (e) P08 (f) P09

図2.11 つづき

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