第 6 章 議論
6.2 海底圧力観測の展望
本研究では,東北沖で発生した津波を伴う 3 つの地震についてその震源モデルを推定し た.これらの解析には震源域の直上に設置された海底圧力計による近地津波データを用い ており,それらによって従来の沿岸の津波データでは解析の難しかった比較的規模の小さ いM7級の地震まで高精度かつ高分解能でその震源過程を知ることができるようになった.
第 1章でも簡単に述べたが,2011 年に発生した東北地方太平洋沖地震を受けて,現在東 北沖では日本海溝海底地震津波観測網が整備されている(図6.2;防災科学技術研究所,2012).
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さらには,東南海・南海地震の想定震源域には,図 6.3 に示すように海底地震津波観測網 DONET (Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis;Kaneda, 2012) が整備 されており,沖合での津波観測網は強化されつつある.これらの観測網が整備され,海底 圧力観測網がさらに稠密になれば,イベント0710のように断層すべりの分布までは推定で きなかった地震でも,観測された海底圧力データからそのすべり分布が詳細に推定できる ようになり,超巨大地震の発生過程の理解にさらにつながると期待される.
2012年12月7日,三陸沖の日本海溝付近において二つの大きい地震がほぼ同位置で続け て発生した.一つは17 時18 分22 秒に発生した逆断層型の地震,もう一つは17 時18 分 30 秒に発生した正断層型の地震である(図6.4a;気象庁,2012a;2012b).この地震によっ て津波が励起され,東北地方沿岸各所において観測された(図 6.5).石巻市鮎川において
最大で1.0 mの津波が観測された(図6.6).この地震について東京大学地震研究所が解析し
た結果(http://outreach.eri.u-tokyo.ac.jp/eqvolc/20121207sanrikueq/)によると,正断層型地震 が発生する直前の初期破壊部分は逆断層型であり,約 20 秒後に正断層型の破壊が始まり,
全体の地震モーメントは8.8×1019 Nm(Mw7.2),逆断層型(深さ56 km)と正断層型(深さ 6 km)のメカニズムの地震モーメントは,それぞれ 5.9×1019 Nm(Mw7.1),7.8×1019 Nm
(Mw7.2)であった(図 6.4b).逆断層型地震と正断層型地震とが短い時間間隔をおいて発
生しているため,後に発生した正断層型地震の地震波が,先に発生した逆断層型地震の中 に紛れてしまっていることから,地震波形から正断層型地震のすべり分布を詳細に推定す ることは難しいと思われる.しかし,ふさわしい位置に設置され,なおかつ稠密な海底圧 力計の観測網の記録を用いることができればこの問題が解決する可能性がある.
海底圧力計は津波および海底の上下変動を記録する.一方,震源が海底深くにある地震 では,地震に伴う海底の上下変動はほぼゼロとなり,津波は励起されない.したがって,
この地震のように深い場所で地震が起こりその直後に浅い場所で地震が立て続けに起こっ た場合に,海底圧力計によって観測されるのは浅い場所で起こった地震による海底の上下
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変動と津波のみである.そこで,この地震の震源域の直上に設置された海底圧力計の記録 を用いれば,後に発生した正断層型地震の震源モデルを推定できると期待される.
東北沖に限らず,沈み込み帯において,M7級の地震の震源過程を詳細に推定することに より,その直後に発生するかもしれない超巨大地震の前兆現象や,あるいは超巨大地震に よってその周辺にどのような変化があったのかを知ることができ,その結果,超巨大地震 の発生過程の理解にも役立つと考えられる.地震学的データを用いてM7級の地震を解析す る場合に,陸上観測点のみを用いた解析は,観測点分布に偏りがあることが原因で,震源 モデルの推定が難しく,また,遠地地震波を用いて解析するには規模が小さく,分解能に 限界がある.そこで,本研究で行ったような,近地における津波データを用いて高精度・
高分解能でその震源過程を解析することは今後,超巨大地震の発生過程を理解する上で非 常に重要となると思われる.
131 (a)
(b)
図6.1 イベント 0710について断層すべりインヴァージョンを適用した結果. (a) すべり 分布マップ. (b) 観測波形と計算波形の比較.黒が観測,赤が計算波形. (c) (d) すべり分 布を鉛直な断面に投影したもの. (e) 推定誤差の分布.
132 (c)
(d)
(e)
図 6.1 つづき
133
図6.2 防災科学技術研究所が現在整備している日本海溝海底地震津波観測網.防災科学技 術研究所 (2012) による.
134
図6.3 DONET (Kaneda, 2012) の観測点配置図.海洋研究開発機構ホームページ(http://www.
jamstec.go.jp/donet/j/donet/donet2.html)より引用.
135 (a)
(b)
図6.4 (a) 2012年12月7日に発生した正断層型地震の震央と発震機構解(いずれも気象庁
による).(b) 東京大学地震研究所(http://outreach.eri.u-tokyo.ac.jp/eqvolc/20121207sanrikueq/) による,発震機構解.(上段) 逆断層型,正断層型の地震を別々に求めたもの,(下段) 両方 の地震と一つとして求めたもの.
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図6.5 2012年12月7日の地震による津波.気象庁(2012b)による.
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図6.6 沿岸での津波観測状況.気象庁(2012b)による.
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