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外国語活動における児童の聴解力の変容について:1年間の外国語活動が小学6年生の聴解力に及ぼす影響

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◇論 文◇

外国語活動における児童の聴解力の変容について:

1 年間の外国語活動が小学6 年生の聴解力に及ぼす影響

石演 博之

1.はじめに 2017年3月に新学習指導要領が告示されて,小学校3年生から外国語活動, 5年生から教科としての外国語(英語)が導入される。5年生から英語を「聞 くこと」,「話すこと」に加え,「読むこと」,「書くこと」が取り扱われる。 2020年度からの外国語科・外国語活動の本格的な実施に向けて,2018年度 から移行期間として,小学校中学年には“Letk 7●y! I ・2 ", 高学年には“We Can! 1・2 ”が使用されている。2017年度以前は,公立小学校の外国語活動で は教材“Hi,カlends! 1・2”が使用されていた。 2017年度における外国語活動を評価する場合,児童の自己評価や他者評 価などによって,多くは外国語活動の授業を評価していた。2017年度当時, 小学校学習指導要領第4 章外国語活動の三つの柱のーつは「外国語を通じ て,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませる」 (文部科学省,2008, p. 7)ことであった。そこで,筆者は“Hi,pien需!I ”と“Hi,戸lends! 2 ”の話題 や言語材料に関連して,実際に児童が聴く力をどのくらい身につけたかを 測定する聴解力テスト("Hi,戸iends! 1 ”と“Hi,戸ienむ!2 "の両方)を開発し た。 これらの聴解力テストを活用すれば,身についた英語力を判定するー つの評価の目安となると結論づけた(石演‘渡邉,2015b )。 また, "Hi, 戸ien山!1”と“Hi,戸ien請!2 ”を統合化した聴解力テストも開発・運用して, 中学1年生の聴解力も測定した(石演,2019). 本稿では, 2017年度における, "Hi,戸iends! 2 ”に準拠した聴解力テスト (石演・渡邉,2015b;石演,2016) を活用して,小学6年生が1年間の外国語 活動の授業を受けた後に,彼らの聴解力がどのように変容したかについて 検証することとしたo )。 2.経年に因る「聞くこと」の変容に関する先行研究 公立小学校での「聞くこと」に関連して,経年による英語活動や外国語 活動などにおける,聴解力の変容に関する研究について概観する。 石演(1999)の事前・事後調査の結果によれば, 1年間の英語クラブ活動 が児童の「聞くこと」に影響したことを明らかにした。特に,事前で英語

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学習の経験がなく, あまり英語に興味を持っていない児童の「聞くこと」 の得点が伸びたとしている。次に,石演(2004)は,英語活動を体験した 児童の「聴解力」の伸びに関しては,時間の経過と共に子どもの聴解力は 伸長する可能性があるだろうと結論づけた。そして,英語活動の授業で取 り上げた話題に関連する問題の回答は, 「誤答」・「わからない」から「正 答」になる場合もあるとした。更に,バトラー・武内 (2005)は,児童英 検を用いて小学生の聴解力を調査して,学年が上がるにつれて児童のパフ オーマンスが高まり,総授業時間数がパフオーマンスに影響を与えている ことを明らかにした。 白畑(2008)は, A小学校の教育実践との関連で, 小学生でも調査した類の「英語力」が身につくことを明らかにした。 しか しながら,すべての小学校での英語活動の取り組みが当てはまるかどうか は疑問であると結論づけた。 中学校における聴解力の経年変化については,[N 小学校で英語活動を経 験した生徒(= 35 時間の英語活動を経験した生徒)」, 「その他の英語学習 経験をした生徒(=中学校就学以前に学校外英語学習を経験した生徒)」, 「(中学校就学以前に)英語学習のない生徒」による「聴解力」に関して, 経年変化に因る聴解力の変容について検証した(石演,2008, 2010;石演ら, 2014a)。 その結果,中学校1 年次,及び2 年次には「聴解力」に関して「35 時間の英語活動を経験した生徒」及び「その他の英語学習経験をした生徒 (=中学校就学以前に学校外英語学習を経験した生徒)」は,「(中学校就 学以前に)英語学習経験のない生徒」 と比較して聴解力がよかったとして いる。しかしながら,中学校3 年次になると, 中学校就学以前の英語学習 の有無よりもむしろ,生徒の情意面が聴解力に影響を与えているかもしれ ないと結論づけた。 石演・渡邉ら(2015a, 2015b)は,外国語活動における“Hi,戸ienみ!I ”と "Hi,戸'en庸!2 ”に準拠した聴解力テストを開発して,外国語活動を終了し た時点での,5 年生と 6 年生を対象とした聴解力の程度を測定した。 "Hi, frien山!1”と“Hi,friends! 2 ”の内容は観点別に問題を構成している。その調 査結果から, "Hi,戸ien曲!1”と“Hi,戸ien爵!2 ”に準拠した聴解力テストはー つの到達度テス トとしても役割を果たすであろうとした。そして,"Hi, men む!I”と“Hi,戸zenむ!2 ”の聴解力テストを活用して,それぞれ5 年生と 6 年生を対象として1 年間の授業の効果を検証する必要があるとした。更 に,"Hi,戸ienむ!I ”と“Hi,戸ien曲!2 ”を統合化した聴解力テストを開発・運 用して, 中学1 年生の聴解力も測定した(石演, 2019)。その概要は,「年 間の中学校の英語指導をとおして,総体的に生徒の聴解力は向上するであ ろう。ただし,アルファベットの文字に関しては, 中学校入学時点でかな - 38 -

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り認知されていた。また,生徒には単語の認知のような問題は容易であり, 比較的弁別しやすく聴解力は向上しやすい。基本的な会話(対話)形式に も聴解力は向上しやすいと考えられる。しかしながら,聴きながら類推を することは難しい」(p. 38)ことであると結論づけた。 以上,英語活動や外国語活動などの経年期間をとおした,授業などが聴 解力の変容に及ぼす影響について概観した。中学校での論考(石演,2019) と同様に,"Hi,戸ien酪!2 ”の聴解力テスト(石演,2016)を活用して,小学6 年生を対象として1 年間の授業の影響(効果)を明らかにすると共に,児 童が「聞くこと」をとおしてどのような言語項目を修得したか, また,修 得していないかを検証することは意義がある。それが,2020 年度以降の外 国語科・外国語活動の指導に参考になるであろうと考えたからである(2)。 3 ‘教材“Hi,piends! 2”に準拠した聴解力テストの概要 開発した“Hi,戸iends! 2 ”の聴解力テスト(3)は6 種類の問題で構成されて おり,問題ごとに具体的な評価の観点を定めた(石演・渡邉,2015b) (表1)~ 表1 問題別観点 問題 数 観点 問題1 10 アルファベットの名前を聞いて, その文字を理解しているか。 問題2 10 "Hi,戸len山!2 ”で出現した単語について発音を聴いて理解している か。 問題3 10 授業で学習した基本的な表現の内容を理解しているか。 問題4 4 将来の夢の英語表現を理解しているか。 ・花子,太郎,二郎の会話を聞いて,話の内容を正しく理解してい るか。 ・(自分の)将来の夢の内容を理解して,適切に応答しているか。 問題5 4 一日の生活の表現を理解しているか。 ・―日の生活を聞いて,話の内容を正しく理解しているか。 ・(自分の)就寝の時刻の内容を理解して,適切に応答しているか。 問題6 5 誕生日の表現を理解しているか。アメリカ人と日本人の児童のやや 長い対話を聞いて,ニ人についての情報を正しく理解しているか。

即ち,聴解力に関しての到達度テスト(achievement test) (Alderson, Clapham, & Wall, 1995 ; Brown, & Abeywickrama, 2010)を意図している。児

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童に容易に回答してもらうために,ステップ・バイ・ステップで「易しさ」 から「難しさ」になるように仕組んだ。具体的に,聴解力テストの観点別 ねらいは, アルファベットの認知,単語,基本的な表現の内容,長い対話 を聴きその内容を理解することとした(表1)。ただし, 「聴解力」とは子 どもが「聞いたこと ・聞き取ったこと」を即座に弁別できること(力)と定 義づけた(石演,2004 ) 。 「弁別できること」 とは,英語の単語,対話, 及び文を聴いて,即座にそれに該当する絵ないし単語や文を認知できるこ ととする。本稿では, 「聞くこと」 と 「聴解」を同義語として扱う。 "Hi,戸lends! 1 ”と“Hi,戸len赤!2 ”を統合化した聴解力テストを活用して, 1 年間の授業が中学1 年生の聴解力に影響を及ぼしたかについて測定した (石演,2019)。中学校入学時(事前)と中学1 年生の終了時(事後)にお ける1 年間の聴解力の変容を検証したことと同様に,本稿では,小学6 年 生を対象として聴解力の調査も同様な方法で実施した調査研究である(3)。 4.児童の聴解力変容に関する調査 4.1 調査の目的 調査の目的は, 開発した聴解力テスト(石演,2016)を活用して, 1年間児 童が教材“Hi,戸lends! 2 ”の内容を学習した後に,「聞くこと」をとおして学 習した言語項目を理解しているかどうかを検証することにある。 4.2 調査の概要 1)児童に対して「聞くこと」 と情意面に関する調査を実施した。 2)時期は,事前で2016 年4 月に実施して,事後で約1 年後の2017 年3 月に実施した。ただし,約1 年間の実施期間の隔たりがあるために, 練習効果はないと捉えて同一聴解力テストで実施した。 3)実施校は,新潟県J 市のK 小学校とM 小学校であった。 4)参加者は,高学年(6 年生)で39 名であった。ただし,1 名が事後に参 加しなかったために,参加者は38 名となる。 5)外国語活動の指導は,主に2 つの小学校とも学級担任と ALT のティ ーム・ティーチングで指導されていた。そして,教材“Hi,戸len山!2 " が使用されていた。 6)聴解力テストと情意面を測定する調査用紙を使用した(石演,2016)。 "Hi, friends! 2 ”に準拠した聴解力テストを使用する際, スクリプトを CD に録音した。すべての設問は計43 問である。 1 問1 点として合計 43 点となる。各々の設間を原則2 回流した。児童が「当て推量」に回 - 40 -

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答をずでにどを避コ丁るーだ面4と二-「」うふちなli\j二という項目を設けた。注 意事項として,「外国語活動の授業で学んだ英語をどのくらい聴けるか について調べるものであり, テストではありませんから正直にわから なければ,『わからない』 という欄に〇をつけてください」という説明 を加えた。 7) 「聞くこと」の処理・分析方法は,対応のあるt 検定を用いた。情意 面に関しては,「英語の好き嫌い」,「授業の楽しさ」,「積極性」,「聞く こと」,「話すこと」,「興味」,「難度」,「学校外での英語学習の有無」, 及び「自由記述(聞くこと・授業の感想)」の項目などで構成されてい る。ただし,本稿では,事前・事後における 「聞くこと」の問題に関 する自由記述の感想のみを取り上げた。 自由記述の分析はテキストマ イニングで実施したが,情意面,及び「聞くこと」と情意面との関連 性は分析の対象外とした。 5.結果と考察 5.1 聴解力テストの結果と考察 5.1.l 聴解力テストの結果 "Hi」尹ien需!2 ”の聴解力テストの信頼性を検証するために,事前と事後 におけるクロンバック α係数を算出した。その結果について,事前は α = .784 であり,事後はα= .846 であった。次に, 問題(問題1 から問題6 まで)に関しては,「おおよそ,それぞれの問題はそれぞれ独立しており 表2 事前・事後の記述統計量とt 検定の結果 事前 事後

問題 N Mean S.D. Mean S.D. t-value ガ p Cohen 's d 問題1 38 8.18 1.52 8.71 1.14 -2.48 37 .018 .39 問題2 38 3.37 2.11 6.26 2.60 -7.20 37 .000 1.24 問題3 38 5.24 1.67 5.89 1.37 -3.07 37 .004 .44 問題4 38 2.53 .95 3.08 .88 -3.96 37 .000 .61 問題5 38 1.32 .93 2.45 1.27 -7.04 37 .000 1.03 問題6 38 2.34 1.26 2.68 1.04 -1.84 37 .074 .30 全体 38 22.97 5.62 29.08 6.36 -9.37 37 .000 1.03

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全体の得点と相関があるために,それぞれの問題の観点を評価していると みなしてもよい」(p. 406)と結論づけた(石演・渡邉,2015b). 表2 は聴解力テストの記述統計量と対応のあるt 検定の結果である。表 3 は,各々の問題,及び全体の事前・事後による相関係数である。表4 は, 各々の設問の事前・事後における正答数と正答率である。図1 は事前調査 の聴解力のヒストグラムであり,図2 は事後調査の聴解力のヒストグラム である。図3 は,全体の事前・事後の箱ひげ図である。事前と事後による 結果を比較すると,全体(総計)の平均値の差を,対応のあるt 検定で検 証した。その結果,全体(総計)(1(37) = -9.37, p < .01, Cohen 's d = 1.03) で有意差があり,事前に比べて事後の方がテストの得点が有意に伸びたこ とがわかった(表2, 図3 )~ 表3 事前‘事後における相関係数 事前一事後 問題 N r p 問題1 38 .55 .000 問題2 38 .46 .004 問題3 38 .64 .000 問題4 38 .56 .000 問題5 38 .63 .000 問題6 38 .52 .001 全体 38 .78 .000 環 」 … 「 【 蒲鵬欝

贈 、 」 老 口 , 巨 1ロ 15 25 35 ,0 図1 事前調査の聴解力のヒストグラム 6一 2一 ロ 事前 事後 図2 事後調査の聴解力のヒストグラム 図3 事前・事後の箱ひげ図 - 42 -

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表4 問題別事前・事後の正答数・正答率(N=3 8) 事前 事後 事前 事後 問題 正答数(正答率) (1) 35(92.1) 34(89.5) (2) 37(97.4) 38(100) 問 (3) 31(81.6) 33(86.8) (4) 38(100) 38(100) 題 (5) 37(97.4) 38(100) (6) 20(52.6) 27(71.1) 1 (7) 37(97.4) 35(92.1) (8) 19(50.0) 25(65 .8) (9) 20(52.6) 26(68.4) (10) 37(97.4 ) 37(97.4) 比較 問題 正答数(正答率) > < 題 (1)-2 25(65.8) 34(89.5) < 4 (1)-3 33(86.8) 36(94.7) < = (2) 4(10.5 ) 12(31.6) < 比較 < P (1)-i 14(36.8 ) 21(55 .3 ) < 題 (1)-2 15(39.5) 22(57.9) < 5 (1)-3 13(34.2) 24(63 .2) < (2) 8(21.1) 26(68.4) < く (1) 30(78.9) 30(78.9) (1) (2) 10(26.3 ) 問 (4) 19(50.0) 題 (5) 14(36.8) (6) 18(47.4) 2 (7) 17(44.7) (8) 12(31.6) (9) 9(23.7) (10) 11(28.9) 17(44.7) < 17(44.7) < 12(31.6) < 32(84.2) < 26(68.4) < 32(84.2) < 12(31.6) > 30(78.9) < 35(92.1) < 25 (65 .8) く < (1) 4(10.5 ) (2) 13(34.2) r (3) 7(18.4) (4) 34(89.5 ) 題 (5) 29(76.3 ) (6) 34(89.5) 3 (7) 29(76.3 ) (8) 10(26.3 ) (9) 11(28.9) (10) 28(73.7) 8(2 1.1) 17(44.7) 12(3 1. 6) 36(94・7) < p < .01, Cohen 's d = .1.24), 問題 30(78.9) < 3(t(37)= -3 .07, p < .01, Cohen 's d 3 5 (92. 1) 34(8 9・5 ) < Cohen 's d = .61),及び問題5(t(37) = 12(31.6) < -7.04,p <.01 , Cohen 's d = 1.03)は全 11(28.9) 29(76.3 ) < 問 (2) 5(13 .2) 8(21.1) < 題 (3) 19(50.0) 27(71.1) < 6 (4) 20(52.6) 19(50.0) > (5) 15(39.5) 18(47.4) < 事前の正答数より事後の正答数が上がる:< 事前の正答数より事後の正答数が下がる;> 事前の正答数と事後の正答数が同じ:= また,Cohen の効果量を算出した結 果,Cohen 'sd = 1.03 となり,効果が 大きいことがわかった。また,表 2 によれば,各々の問題の結果を見て みると,問題1(t(37) = -2.48, p < .05, Cohen 's d = .39, 問題 2(t(37) = -7.20, 体(総計) とほぼ同様の結果で有意 差があった。 しかしながら, 問題 6 は,事前と事後の平均値の差で有意

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でなかった(問題6 (に37)=ー1.84,p =.074,Cohen 'sd =.30),, 5.1.2 聴解力に関する考察 "Hi,戸iends! 2 ” を学習した児童は, 1 年後に実施した事後の結果が事前 の結果よりも上がった。即ち,1 年間の指導を実施した結果,聴解力は向 上したといえよう。 問題1 から問題6 までの結果から,各々の問題の中の設問について考察 する。 問題1(アルフアベットの名前を聞いて,その文字を理解しているか) は,事後でほとんどの文字の認知はできている。ただし,正答率から判断 すると,調査した範囲内で大文字が小文字よりも認知されていると判断し てもよいだろう。 問題2 ("Hi,戸iends! 2 ”で出現した単語について発音を聴いて理解してい るか),問題 3(基本的な表現の内容を理解しているか),問題 4(将来の 夢の英語表現を理解しているか),問題5 (-日の生活の表現を理解してい るか),及び問題6(誕生日の内容を扱いながら,二人についての情報を正 しく理解しているか)に関しては,事前と事後で比較して事後で伸張した にもかかわらず事後の正答率が50%以下の設問について考察をしたい。 問題2 の中で,(1) 2 月,(2) 7 月,及び(3) 9 月 がそれぞれ正答である。 これらの設問から考察すると,すべての月がわかることは難しいかもしれ ない。1 月から12 月まで, 日付や誕生日を意識しながら月の英語を繰り返 し練習させる必要があるだろう。(7)の正答は一輪車(unicycle) であるが, 教材“Hi,戸jen庸!2 ”の本文にも出現している。しかしながら,一輪車を,「わ からない」 と回答した児童は36.8 % (14 名)であった。実際の授業で一輪車 が扱われなかったか, あるいは一輪車は児童にとって身近な単語でないか もしれない。 問題3 は,基本的な会話をとおして回答する問題である。(1)は健康観察 のイメージで作成した問題であり,腹痛が正答である。児童の 36.8 % (14 名)が頭痛と回答していた。 28 .9 %(11 名)の児童が「わからない」 と回答し た。授業で英語による健康観察をしなければこの表現はやや難しいかもし れない。(2)は日付を尋ねる設問である。誤答した児童は月(May)と日(序 数(6nh))の両方とも混同していた。問題2 の(1), (2), (3)と同様に,「月」 を弁別するのは容易でないかもしれない。(3)は曜日を尋ねる設問(正答: 木曜日)である。児童は水曜日を正答とみなして,正答(12 名,3 1.6%)を上 回る34.2 % (13 名)の誤答であった。(8)は建物「郵便局(the post office)」の 場所を尋ねる設問である。 しかしながら,44.7 % (17 名)の児童が, この

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設問に対して「わからない」とした。(9)は序数を扱う設問であるが,回答 がばらつき 「マラソンは何位であったか一3 位であった」 という場面がわ からなかったと考えられる。誕生日を表現する日付で序数を扱っているが, マラソンのような場面では教材“Hi,βiends! 2 ”で扱っていないので, でき ないかもしれない。 問題4 の中の,(2)は児童自身に将来の夢(職業)を尋ねる設問であるが, 67.6 % (25 名)が「わからない」 とした。問いの意味がわからないのか, ま だ将来については決めておらず回答できなかったのか, あるいは時間内に 回答することは難しかったかもしれない。 問題 5 は,事前で正答率が 40%未満であったが,事後で 50%以上から 70%まで上昇した。一日の生活で時刻を理解するには指導を要するかもし れない。 問題6 に関しては,得点の有意な上昇は確認できなった。やや長い対話 を聞いて,二人についての情報を正しく理解しながら類推する活動は,児 童にとって負荷が高く難しかったのではないかと考えられる。 要約すると,問題全体で事後の結果が事前の結果よりよかった。即ち, 1 年間の授業が学習した言語項目の聴解力の向上に影響を及ぼしたと考え られる。児童は,アルファベットの認知や単語を扱った問題,簡単な対話 などの問題に対しては容易に回答できる。ただし,指導していると考えら れる「月」や「序数」の英語や,指導していない単語はやや難しいだろう と考えられる。また,長い対話を聞いて回答する問題は児童には難しい。 児童にとって,一問一答形式の‘'bottom-up listening” は回答しやすいが, 概要を捉えた‘'top-down listening”に取り組むのは容易でない(石演,2019). 5.2 自由記述の結果と考察 5.2.1 自由記述の結果 聴解力に関する調査と共に,児童が「聞くこと」の問題をどのように感 じたかについての感想を考察したいために,事前・事後調査でそれぞれの 自由記述欄を設けた。事前・事後のそれぞれの自由記述をテキストマイニ ング(IBM SPSS Text Analytics 釦r Surveys Ver. 4.0.1 を使用)によってカテ ゴリーの関連性を検証した。 3 回以上の出現頻度があることばをカテゴリ ー化した。また,3 回未満の出現頻度のことばについては,3 回以上の出 現頻度のことばと関連していれば,該当する3 回以上のことばのカテゴリ ー内に組み込んだ。各々のカテゴリーがどのように関連しているかについ ては,最終的にサークルレイアウトを用いて示した。図4 は,事前の「聞 くこと」の問題についての感想,及び図5 は事後の「聞くこと」の問題に

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ついての感想である。 しい , h叫い ” 叫 『 「 i i T T し‘ 曲伽《《「” 踊外略 【 ! - 【 一 - 図4 事前の「聞くこと」の感想 図5 事後の「聞くこと」の感想 5.2.2 自由記述の考察 事前(図4)・事後(図5)の両方とも「聞くこと」の問題に関することば は,「問題」,「難しい」,「わからない」,「聞きづらい」が主に抽出された。 事前・事後の両方において,「問題が難しくてわからない。その結果,聞 きづらい」 と児童が反応した。また,事後において, 「会話が速くて聞き づらい」 と反応している。類推させること求める問題5 や問題6 を指して いると考えられる。児童にとっては,概要を捉える「聞くこと」に関する 活動は慣れていなければ難しいと感じるであろうと考えられる。 6.まとめ(教育的示唆) と今後の課題 6.1 まとめ(教育的示唆) :1-年間の外国語活動をとおして児童の聴解力は向上するであろうこと が示唆された。特に,授業で学習した言語項目は理解されやすいことが予 想される。問題1 や問題2 のような,アルファベットや単語の認知のよう な問題(基本的な言語材料)は,比較的理解しやすい。その中で,一連の 月,序数,及び曜日などの単語は,やや難しい単語と捉えているかもしれ ない。そのような言語材料を取り扱う指導は工夫する必要がある。会話形 式で類推を伴う問題は児童にとって困難を感じるであろう。 "bottom-up listening”は 易しく効果はあらわれやすいが,"top-down listening”は児童に

はやや難しいかもしれない。

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6.2 今後の課題

基本的な言語材料の中の,身近な単語(月,序数,曜日)などをどのよ うに指導していくかを検討する余地がある。 また,類推を促すような "top-down listening”は児童にとって難しい。例えば,本時のねらいのモデ ルを提示する際, "small talk”を活用して“top-down listening”を促すような 長期的な指導をする手立てを検討する必要があるであろう。 児童の聴解力のメカニズムと情意面の関係性について検証されている が(石演ら,2014b ;石演,20 14 c), 今後,教科としての外国語科の「聞くこ と」(聴解力)と情意面との関係性を検証していく研究が求められている。 それは,児童の聴解力を向上させことが児童の英語学習を促す第一歩と考 えるからである。そして,2020 年度からの外国語科・外国語活動に備えた, 聴解力テストの作成をして児童の「聞くこと」を測定しながら,児童の聴 解力向上を含めた授業の枠組みの検討も求められていることであろう。 謝辞:新潟県J 市の公立小学校2 校で調査の場を提供していただきました。 協力していただいた学校関係者に感謝したい。 本研究は,平成 26 年度から平成 29 年度科学研究補助金(課題番号 26370724 基盤研究(C)「小中連携を意図した 『Hi, friends!』 に準拠した聴 解力テストの開発と運用」(研究代表者:石演博之))の補助を受けた。 注 L 第29 回四国英語教育学会徳島研究大会(2017 年6 月27 日)において,「小 学校外国語活動における児童の聴解力の変容について:1 年間の外国語 活動が聴解力に及ぼす影響」 という題目で自由研究発表した。調査を実 施した当時は,小学校では“Hi,戸iends! 2 "を使用していた。 2.実際に,この調査研究は中学校における1 年間の調査研究より以前に実 施した。 口頭発表は2017 年6 月 27 日 (注(1))であり, 中学校での聴 解力に関する論文(石演,2019) よりも以前に発表した。 3. 『 rHi, friends! 1・2」聴解力テスト』(石演,2016)で実施した。

4. "Hi,戸iends! I ”と“Hi,戸ienむ!2 ”の聴解力調査用紙を含め 『IHi, friends! 1・ 2」聴解力テスト』(石演,2016) として冊子にした。

引用文献

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参照

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