視点の観点からみた「感謝」と「詫び」一慣用表現
とともに使われる表現:日英比較―
著者
三宅 和子
著者別名
Miyake Kazuko
雑誌名
東洋大学短期大学紀要
号
25
ページ
1(214)-12(203)
発行年
1993-12
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00012205/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja東 三玉学短期大学紀要第
25号
別刷(平
成5年
12月)視点 の観点 か らみた
「 感謝」と
「 詫 び」
一慣用表現 とともに使われ る表現
:日
英比較 ―
′ F 一 一 日 日 壬 →宅
三
(1)214
視 点の観点 か らみた
「 感謝 劃と
「詫 び」
一`
貫用表現 とともに使われ る表現
:日
英比較 一
三
宅
和
子
1.
は じめ に 本稿 は 日常 的に使 われ る「感謝」 と「詫 び」の言語行動 について,
日本語 と英語 の言語 表現 の違 い を中心 に視点 の観点 か ら分析す る もので あ る。「 感謝」 と「詫 び」 と一 口に い って も,命
を救 って もらうほ どの行為 を受 けた ときの感謝 もあれば,お
茶 を出 して くれ た ときの感謝 もある。人命 に関わ る事故 を起 こ した ときの詫 び もあれば,人
の足 を うっか り踏 んだ ときの詫 び もあ る。事態の重要性 に応 じて使 われ る言語表現 に も差がでて くるこ とは当然 であろ う。事態が重要 であればあるほ ど,決
ま り文句 だけでは発話行為が遂行 で きない ことが考 え られ る。 しか し,我
々は 日常 的なさまざまな場面 で「感謝」や「詫 び」 の表現 を使 っている。 そのような場面 での表現 は,か
な りの慣用化が進んでいる といえよ う。「 あ りが とう」,「す み ませ ん」 な どは慣用化 の進 んだ表現の代表的 な ものであ り,そ
の本来的意味 を越 えて, さまざまな場面 に使 われている。 この よ うな慣用的に使われ る表 現 (慣用表現)1)の 使 い方 には,そ
の社会の構成人員が共有 してい る社会 的規範が反映 し てい る ことが多い。 日本語 の「詫 び」の言語表現 のなか には,感
謝 と して も詫 び と して も機能す る ものが あ る。 その典型的表現が「すみ ません」であるが,三
宅(1993,1994)で
は,
これ らの慣用 的詫 び表現2)が感謝の意味 で使われ る選択 のメカニズムを考察 した。 その結果,
この言語 調査 の リス トに現れた詫 び表現 は,程
度 の差 はあれ,感
謝 の意 味 と して使 われ る可能性 を もってい る ことを示 した。 また,
これ らの詫 び表現の使用 は,発
話 の相手が 自分 とある程 度関連 のあ る目上 の関係 にある とき,著
しく増加す ることが明 らかにな った。本稿 では, これ らの論考 のなかで詳 しく触れ られなか った付加表現 について考察す る。2.研
究 の 背 景 「 感謝」 と「詫 び」 の場面 で発話 され る表現 には,慣
用表現 とともにさまざまな表現が 使 われ る。本稿では これ らをま とめて「 付加表現」 と名づ ける。付加表現 とは,例
えば, 「すみません。 ほん とうに助か りま した。」 の下線部 のよ うな表現 をさす。「感謝」 と「詫213(2)
び」 の発 話 行 為 は,言
語 的 には以下 の よ うに,慣
用 表 現 のみ の発 話,慣
用 表 現 十付加 表 現 の発 話,付
加 表 現 のみ の発 話 で遂行 され る (下線 を引 い た ものが 付 加 表 現 。 用例 は1991年 にお こな った調 査 デ ー タか ら取 った。 以 下 同様)。 1.慣用表現 のみ (例)日
本語 :「 あ りが とうござい ます」「 すみ ませ ん」 英 語::“Thank yOu Very muCh・ '' ■'m SOrry・''2.慣
用表現 十付加表現(例) 日本語 :「 どうもあ りが とうございま した。助か りま
「本当に申 し訳 あ りません。 これか ら気 を付 けます_ 英 語 :“Thanks a 10t.You'vc saved my life.''
"I'm
really sorryI
don't
knowhou'it
happened."3.付
加表現 のみ(例
)日
本語 :「 お ―,い
いね」「 あ―,や
っち ゃつた一」 英: 言吾:駅COr.Yummy.Can l have some nowP''
・・()h no'1慣用表現 は
,そ
れだ けで一 つの回答 とな りえ る表現 で,出
現頻度が きわめて高 く.三
玄 語 の場合,さ
まざまなバ リエー ションが ある。英語 の場合,バ
リエー シ ョンは比較 ]:ン な い。 また,付
加 表現 とは,2.や
3.の例 の よ うに単独 で もひ とつ の回答 とな りえ るti.慣
用表現 を補助す る形 で付加 的に使われ る ことの方が多 い表現 をい う。 慣用表現 は表現が慣用化 され,さ
まざまな場面 で繰 り返 し使 われ る うちに, 、ヽわば奪耗 し,強
い感謝や詫 びの気持 ちを表す には足 りな くなってい る傾向が ある。 この よ うな場合. 何 らかの付加表現 を必要 と してい る といえ よ う。 1991年 調査 の デー タで は,話
し手が ほ と ん ど挨拶 の ようなつ もりで何か を述べ る ときは これ ら感謝や詫 びの慣用表現で足 りるケー スが多い。しか しなが ら,強
い感謝や詫 びの気持 ちを抱 くとき,慣
用表現 に付加表現がつ くことが多 い。付加表現 にはさまざまな ものが あ るが,そ
の使われ方や内容 にはある程度 のパ ター ンが あることが考 え られ るの本稿 では,
これ らの付加表現 を「視点」 とい う観点 で分類 し,
日本語 とイギ リス英語 にお ける言語使用パ ター ンを探 る。 それぞれの言語社会 には,「 どの よ うに言 えば感謝や詫 びの 目的 を達す る ことが で きるか」 に関 して異 な る社 会規範が ある と考 え るか らで ある。鈴木 (1992)は,社
会心理 と視点 の関連 を述べ た論考 のなかで,「 社会場面 にはそれ に相応 した行動 の仕方 (社会 的 に許容 された行動 の類型) が あ り,そ
う した行動 の類型 は社会経験 を通 して間身体 的 に共有 された もので ある。 同時 に,そ
れ は他者 のその場面 にお ける行動 (とその心理)を
読 み取 る「 型」 をなす もので も(3)2η
2 あるc私
達 は,「
場面」 に応 じた「身体の構 え」 と「心 の構 え」 を とることが要求 されて お り,そ
う した「構 え」 は,行
動 の型 は もちろん,場
面 に相 応 しい行動 の「仕方 」,そ
の 場面 に相応 しい気分,感
情,態
度 を,そ
して雰囲気 を生む ことになる。」 と述べ,社
会 的 に許容 された行動 の類型が ある言語社会 で共有 され,そ
れが人 と人 との コ ミュニケー ショ ンをスムーズに誤解 のない ものに していることを示唆 している。本稿 の立場 もこれに近 い もので あ る といえ る。 以下 に1991年 にお こな った調査の概要 を述べ る。 この調査では 日本語 と英語 を比較す る 方法 を とった。英 語 と比較す る ことに よ り,
日本語 の使われ方 をよ り明確 に示す ことがで きる と考 えるか らであ る。従 って,そ
の結果 は,
この領域 での 日本語 の言語使用の特徴 を 捉 え る とともに,英
語 の言語使用の特徴 を も捉 え ることがで きる ものになっている。3.調
査 方 法 この調査 は, 日・英 それぞれ122名 と101名 の青年層 にア ンケー トでお こな った ものであ る。 回答用紙 は2つ
のセ ク シ ョンに分かれ,セ
ク シ ョン1では感謝や詫 びの表現 を誘発す る と予想 され る36場 面 を設定 し,そ
れ らの場面 で どのような言語表現 を使 うか を聞いた。 セ クシ ョン2で
は同 じ36場 面 を示 し,
どの よ うな気持 ち (心理)を
もつか を聞いた。 セ クシ ョン1は自由回答,セ
クシ ョン2は以下 のA―Fの
なかか ら自分 の気持 ち にいちばん 近 い ものを選択す る形 に した。以下 にセクシ ョン1の36場 面 の要約 とセクション2の選択 肢 を示す。 表1.ア
ンケー ト36場 面 の内容要約1.指
導教官が ためにな りそ うな論文 の コ ピーを しておいて くれた。2.締
切 に間に合 いそ うもない レポー トを男 の友人 に頼 んで手伝 って もらった。3.父
親が あなたのお小遣 いが足 りな くな ってい るのを察 してまた くれた。4.指
導教官 に卒論 のテーマを変 えたい とい った ところ承知 して くれた。5.男
の友人 に借 りていた本 をな くして しま った。6.父
親か ら借 りていた車 を傷つ けて しま った。7.指
導教官 に レポー トの締切 を延 ば して もらった。8.コ
ー ヒーを男 の友人 の新間 に こぼ して しま った。9.父
親 に頼 まれていた買物 を忘れて しま った。 10.指導教官 の卒論 の指導 に10分遅 れた。 11.パーテ ィーで男 の友人が ビールを注 いて くれ た。 12.食事 中,父
親 に塩 を取 って もらった。 13.エ レベー ターで指導教官が行 きたい階の ボ タ ンを押 して くれた。 14.男の友人が帰省 か ら帰 っておみやげを くれた。 15.父親が あなたの好物 を買 って きて くれた。211(4)
16.指導教官がお茶 /コ ー ヒーをいれて くれた。 17.男の友人が あなたの病欠 の間の ノー トを貸す とい って くれた。 18.父親が高価 な時計 を誕生 日のプ レゼ ン トに くれた。 19.カメ ラ店 で店員 がいろいろな情報 を くれた。 20.締切 に間に合 い そ うもない レポー トを女 の友人 に頼 んで手伝 って もらった。 21.母親が あなたのお小遣 いが足 りな くな ってい るの を察 してまた くれた。 22.電車 で棚 の荷物 を落 と して下 にいた人 に当た った。 23.女の友人 に借 りていた本 をな くして しまった。 24.母親か ら借 りていた車 を傷つ けて しまった。 25.人混 みのなかで人 の足 を踏 んだ。 26.コー ヒーを女 の友人 の新聞 に こぼ して しま った。 27.母親 に頼 まれていた買物 を忘れ て しまった。 28.ウ ェー トレスが注文 の料理 を運んで きた。 29.パーテ ィーで女 の友人が ビールを注 いで くれた。 30.食事 中,母
親 に塩 を取 って もらった。 31.見知 らぬ街 の小 さな店 で道 を聞いた。 32.女の友人が帰省 か ら帰 っておみやげを くれた。 33.母親が あなたの好物 を買 って きて くれた。 34.う っか リバ ラバ ラに落 ちたお金 を通行 人が拾 って くれた。 35.女の友人が あなたの病欠の間の ノー トを貸す とい って くれた。 36.母親が高価 な時計 を誕生 日のプ レゼ ン トに くれた。 セクション2の 選択肢A=強
い感謝の気持 ちB=や
や感謝の気持 ちC=と
くに感謝や詫 びの気持 ちはないが,挨
拶 と してなにか表 したい D二 やや詫 びの気持 ちE=強
い詫 びの気持 ちF=そ
の他4.分
析 日本語の「感謝」 と「詫 び」の心理的つ なが りについては,言
語学,心
理学,文
化人類 学 な どの分 野 か らの分 析 が み られ るが3),coulmas(1981)は
,「 感謝」 と「詫 び」 は ヽndebtedness'と い う概念 でつ なが ってい る と論 じた。筆者 は このtindebtedness'を「借 り」 と訳す。「借 り」 は相手 か ら何 かの恩恵 を受 けて感謝 の気持 ち を もつ とき も,話
し手 の何 らかの過失 で聞 き手 に負担 を もたせ て しま う場合 に も感 じえる ものである。「 借 り」 は話 し手 が事 態 を どう捉 え るか とい うきわ めて主観 的判 断 に支 え られ た概 念 で あ る。COulmas(1981)の
「借 り」 の概念 と,従
来か らの研究 の論考 と考 え合 わせ る とき,以
下 の4つ
の視点 を変 えた心理 的判断が深 く関連 してい る とい うことがで きよう。(5)210
1.聞
き手 の負担4)2.聞
き手の好意3.話
し手の過失4.話
し手 の利益 この調査 のデー タをなが める と,回
答者 はそれぞれの場面 で,基
本的 には この4つ
の概 念 の どれか に比重 をおいた表現 を使 っている ことが多 い ことが わか る。 自分 の過失 は相手 の負担 を生み出す こととなるが,自
分 の利益 は相手 の好意か らもた らされた もの といえる。 また,相
手 の負担が 自分 の利益 を もた らす こともあ り,話
し手 の意識的 ・無意識的働 きか けが聞 き手 の行動 を うなが し,そ
れが最終的に話 し手 の利益 につ なが る場合,話
し手 は相 手 に負担 をか けた と感 じる場 合 もあ る。 日本語 の「すみ ませ ん」 の感謝 と しての機能 は, この心理的視点 の違いをめ ぐって以下 の ように説明す る ことが可能 であろ う。1)聞
き手 の好意一:舌 _手_〕■1_奎 「 あ りが とうこて、・ます_
感謝)2)話
し手 の過失一 蓄`手
_3負担 「す み ませ ι_
■1`3)1話
し手 ‐う言 `■ ― 聞 き手の好意/聞
き手の負担→話 し手 の利益 十 共 までr__
惑=
1)は
聞 き手 の好意 の結果,話
し手が利益 を得 た場合で,感
謝 の気持 ちを慣用的感謝表 現 で表 してい る。2)│ま話 し手 の過失 の結果が聞 き手 に負担 をか けた場合 で,話
し手 は詫 びの気持 ちを慣用的詫 び表現で表 してい る。3)の
括弧付 きの部分 は話 し手が無意識 また は意識 的に聞 き手 に 何か を してあげたい」「何か を してあげなければ な らない」 と思 う よ うな働 きか けを した場合 をさ し,聞
き手が好意 または負担 の ともなった行動 を起 こす こ とで話 し手 は最終的 には利益 を得た と解釈す る場合 である。聞 き手 の行動 を好意 と取 るか 負担 と取 るか も,話
し手 の解 釈 の違 い に よ るが,負
担 と とった とき,「 す み ませ ん」や 「 もう しわけあ りませ ん」な どの表現が感謝 の場面 で使われ る現象が多 く現れ る と考 え ら れ る。 日本語 で感謝 の気持 ちの時に も「すみ ません」のよ うな詫 び表現が多 く使われ るこ とを考 える と,付
加表現 に も,聞
き手 の負担 に注 目 した表現,聞
き手 の行動 を自分が促 し て しまった と解釈す る表現が多い ことが予想 された。 これ は英語 のように感謝 の気持 ちに は慣用的感謝表現 を圧倒的に多 く使 う言語 とどのように違 うであろ うか。 表2は 日・英 の付加表現 を上記の4つ
の異 なる視点か ら分類 ・コー ド化 し分類番号順 に209 ( 6 ) 示 した もので あ る。10番 台 は聞 き手 の負担 に関す る言 明
,20番
台 は聞 き手 の好意 に関す る 言 明,30番
台 は話 し手 の過失 に関す る言明,40番
台 は話 し手 の利益 に関す る言 明 とな って い る。50番 は この4分 類 には入れ られ ない「恩」 の言 明を取 り上 げた。60,61は
日本語 回 答 に多 く現れた「 無言」「 会釈」に当てた。70番 はその他,呼
称,感
嘆詞,確
認 の表現, 拒否 な ど,本
稿 の検討 内容か ら外 した ものに当てた。 表2
付加表現 の分類:(右
側 は 日英 の回答例) 付加 表 現 と して分類 された表現 の数 は,
日本語2621件 (男950,女
1671),英
語 3320件 (男844,女
2474)で
,英
語 の方が被験者が少 ない (日本人122名 vsイ ギ リス人101名) に もかかわ らず付加表現使用数 は圧 倒的 に多 い (p<0.001)。 また,
日英 ともに,女
性 の 方が付加表現 を多 く使 ってい る ことが分か った (p<0.001)。 <聞き手 の負担>
10.聞き手の負担認識 ll.聞き手の負担への配慮 12.聞き手の負担の解消 13.聞き手の負担の不再発 約束 <聞き手の好意>
20.聞き手の好意へのお返し 21.聞き手の好意を生かす 約束 22.聞き手の好意行動認識 25.聞き手の好意の産物の 高評価 26.聞き手の高評価 27.聞き手の好意が期待以上 わざわざとってくださって…for ali thc trouble you've gone to
だい じょうぶですか
Are you()Kp
2-3日中には必ず出します
I'll pay you back.
これからは必ず締切を守 ります It won't happen again.
お礼 に食 事 で もお ごる よ
WOuld yOu fancy a beerp
だ い じに します
I'll t■tO make surc it's wOrth reading
ご理解いただ きま して……
for being sO helpful and understanding
ほん とうに もらっていいの Are you sureP
これ欲 しか った の よ
ThiS iS iuSt What l wanted.
これお い しそ う
It's bcautiful.
さす が にお 母 さん だ ね 、rou are an angel.
こんなに気をつかってもらわなくても…
You shouldn't havc bOthcrcd
<話 し手 の過失
>
30.話し手の勝手 31.自己批判 32.話し手の過失表明 33.聞き手の好意/負担へ の影響 34.話し手の過失の理由 35.話し手の過失の軽視 36.話し手の過失の故意性 否定 37.話し手の過失や不幸を 嘆く 38.話し手の過失に対する 評価 無理 をい って…… (英国答にはな し) ばか だ な I'nl SO CluFnSy. コーヒーこぼしちゃったI'vc ruincd your papcr,haven'tI
ご迷惑 をおか け して……
tO havc incOnvcniencced you
電 車 が遅 れ ま して …… I was hcld up on the、vay.
たいしたことねえよ
l's only a rratch,don't worry about it (日回答 に は な し)
I didn't lllcan it
(日回答 に は な し)
C)h my god.
(日回答 に は な し)
It、vas so stupid Of nle
23.聞き手の好意への配慮
24.聞き手の好意行動の高評価
28.聞き手の好意受理表明 遠慮 な くお借 りします
I.ll put it On right a、 vay
29.聞き手の好意持続要請 来月 もよろ しく
(英国答 にはな し)
<話 し手の利益>
40.話し手の受益認識
助か った
It wOuld bc vcry uJul br mc
41.話し手の喜び
うれ しい
Grcati
42.話し手の感謝の気持ち
(日
回答 にはな し)I'nl gratcful for your hclp.
50,好意/負担に対する恩 恩、に きる よ
I owe you one.
(英国答 にはな し) 他 言 釈 の 無 会 そ
( 7 )208
感 謝 や詫 びの気 持 ち を もった とき,
日本 人 とイ ギ リス人 が どの よ うな付 加 表 現 を どの程 度使 って い るか を比 較 した のが 表 3で あ る。 感 謝 の気 持 ちか詫 びの気 持 ちか を判 断す るた め,セ
ク シ ョ ン2で
被 験 者 が選 択肢 のAか Bを
選 ん だ 回答 を取 り出 し,そ
れ を感 謝 心 理 を もつ場 面 と した。 同様 にDか Eを
選 ん だ 回答 は詫 び心 理 を もつ場 面 と した。 表3
心理選択 と付加表現:日英比較 付加表現 感謝心理 (2148件 :1709件) 日本語 英語 詫 び心理 (1374件 :906件) 日本語 英語 聞 き 手 負 担 No.10 No ll NO.12 No.1317
≒0 <
16 <
3
≒ 8 11 52 4 p<0.001) p<0.001) 1 187 141 13= 1
> 81
< 238 ≒9
(p<0.001) (p<0.001) 言十36<75(p<0.001)
343 < 329 ( p<0.001)
聞 き 手 好 意 NO.20 NO.21 No.22 NO.23 NO.24 NO.25 No.26 NO.27 NO.28 NO_2954 > 23
13 :≒; 10 74‐ く〔 127 57 > 21 99 <〔 44224 < %
16 く〔 47 5 く〔 4288 > 5
13 > 0(p<0.05)
02
圭2 =
8
≡ 0 0 0 017 >
7 >
(p<0.05)
(p<0.05)
0 0 1 10 0 0 0 0 3 0 計443 < 816 (p<0.001)
36 ==‐ 14 話 し 手 過 失N030
N。 31 NO.32 No 33 NO.34 NO.35 NO.36 No 37N038
9 > 00 < 4
5 < 26
24 )> 4 1 く( 11 0 0 0 三= 2 0 0 0 く〔 7(p<0.01)
(p<0.05)
(p<0.001)(p<0.01)
(p<0.001)(p<0.01)
(p<0.01)
(p<0.001) (p<0.001) (p<0.001) (p<0.001)(p<0.05)
(p<0.001) (p<0.001) (p<0.001) 14 5 180 23 7 2 0 0 0> 0
< 26
く〔 183> 2
< 34
< 8
く〔 26 く〔 152< 22
言十30<54(p<0.001)
231 < 453 (p<0.001)
話 し 手 利 益 No 40 No.41 NO.42 (p<0.001) (p<0.001) (p<0.001) 213 187 0 > 40 く 212 く〔 98(p<0.01)
3 1 0 < 1 3 5 言十 400 == 3514 < 9 (p<0.05)
そ の 他 No 50 No 60 No 70(p<0.05)
(p<0.001) 9 5 421 く17
圭5
く〔 479 (p<0.001)1 = 0
11 ≒3
301 < 261 計435 < 501 (p<0.001)
313 < 264 (p<0.001)
総 計1344 <1797 (p<0.001)
926 <1069 (p<0.001)
(p<0.001)(p<0.01)
(p<0.001) (p<0.001) (p<0.001) (p<0.001) (p<0.001)(p<0.01)
207 ( 8 ) この表 を も とに
,感
謝 心 理 の とき と詫 び心 理 の ときに分 け,
日・英 で どの よ うな付 加 表 現 が 使 われ て い るか を具体 的 にみ て い く。<感
謝心理>
1)聞
き手 の負担 感謝の気持 ちを表現す るのが基本 であるため,聞
き手 の負担 に注 目 した付加表現 は当然 なが ら日・英 ともに少 ないが,比
較 的英語 に多 く現れた。 具体 的 には,No.11の
聞 き手 の 負担へ の配慮お よび,No.12の
聞 き手 の負担 の解消 であ る。 これ は,英
語 では感謝 の気持 が強い ときで も「借 り」の要素がある場合,慣
用 的感謝表現 とともに付加表現 でその気持 ち を表す ことが あることを示 してい るといえる。2)聞
き手 の好意 日本語では以下 の項 目の付加表現が英語 よ り多 くみ られたが,全
体 の数 と してはそれ ほ ど多 くない。NO.20聞
き手 の好意へ のお返 しNO.23聞
き手 の好意へ の配慮NO.28聞
き手 の好意 の受理表現NO.29聞
き手 の好意 の持続要求 い っぽ う英語 では以下 の項 目の付加表現が 日本語 よ り圧倒的 に多 くみ られた。NO.22聞
き手 の好意行動認識NO.24聞
き手 の好意行動 の高評価No.25聞
き手 の好意行動 の産物 の高評価 N。 26聞 き手 の高評価NO.27聞
き手 の行動が期待 を上回 る 日英 ともに,好
意行動 を認識 した旨の表現が多 い といえるが,英
語が聞 き手 の好意 を高 く評価す る表現が 中心 で あるのに対 して,
日本語 では聞 き手へ の配慮や好意 を受理す る表 現が中心 で,話
し手の受益へ とつなが る ものが 目だつ。全体的には英語 に圧倒的 に多 い視 点 であ る。3)話
し手 の過失 感謝の気持 ちを表現す るのが基本であるため,話
し手 の過失 に注 目 した ものは当然 なが ら少 ないが,比
較 的英語 に多 く現 れた。特 にNO.32の
話 し手 の過失表 明が多 いが,
これはQ4(指
導教官 に卒論 の テーマを変 えたい と申 し出て承知 して もらう)と
Q7(指
導教官 に レポー トの締切 を延ば して もらう)の
場面 に圧倒 的 に多 い。Q4と
Q7は
,実
際 には心理 選択肢 でA,Bと D,Eを
選 んだ回答 が混 じって いた場面 で,そ
れ を反 映 して言語 表現 に 1 ヽ ま ■ ■ ︲ 1 ■ 1 ■ ミ ー ー ■ ■ 1 1 1 ■ ﹁ ■ 1 ■ 1 1 1 選 ■ ■ ヨ 彗 ュ ー マ ー ■や ﹁ 1 1 1 1 ・ 11 ・ I , ︰ ・ ・ ︱ ヽ 二 ヽ 1 1 ︰︲ ︲ ︱ ︲ 、 1 1爛 ¶ 、 ( 9 ) 2()6 も慣用的感謝表現だけではな く
,自
己の責任 の表明 もす るものが多 くなった と考 え られ る。 日本語 ではNO.30の
話 し手 の勝手,NO.33の
聞 き手 の好意/負
担へ の話 し手 の影響 で多 く 英語 との有意差がみ られた。4)話
し手 の利益 日本語 ではN。.40の 話 し手 の受益認識が圧倒的 に多い。英語 ではNO.41の
話 し手 の喜 び,No.42話
し手 の感謝 の気持 ちが圧倒的に多い。全体的 に有意差 はみ られなか ったが,
日本 語 では,聞
き手の好意 の項 で,話
し手 の受益 につ なが るよ うな表現が多 い ことか ら,全
体 的 に話 し手 の利益 に焦点 を当てた付加表現は 日本語 に多 い とい うことがで きる。<詫
び心理>
1)聞
き手 の負担 日本語 ではNo.11の
「 聞 き手 の負担へ の配慮」が多 い。英語 ではNo.12の
「 聞 き手 の負 担 の解消」が多い。全体 的 には英語がか な り多 い。2)聞
き手 の好意 詫 びの気持ちを表現す るのが基本であるため,聞
き手の好意 に注 目 した ものは当然 なが ら少 ないが,比
較 的 日本語 の方 に多 く現れ る。3)話
し手 の過失 日本語 では以下 の項 目に比較的多 く現れた。NO.30話
し手 の勝手NO.33聞
き手 の好意/負
担へ の話 し手の影響 英語 では以下 の項 目に比較的多 く現れた。 No.31自 己批判No.32話
し手 の過失表明NO.34話
し手の過失理 由/説
明 N。.35話 し手の過失軽視 (冗談 と して)NO.36話
し手の過失の故意性否定NO.37話
し手 の過失や不運 を嘆 くNo.38話
し手 の過失 に対す る評価No.36,No.37,NO.38は
英語特有 で,日
本語 には現 れ なか った。全体的 には,英
語が 圧倒的に多 い。4)話
し手 の利益 詫 びの気持 ちを表現す るのが基本 であるため,話
し手 の利益 に注 目 した ものは当然 なが らご く少 ない。英語 ではQ4(指
導教官 に卒論 のテーマを変 えたい と申 し出て承知 して も205 ( 10 ) らう
)と
Q7(指
導教官 に レポー トの締切 を延ば して もらう)に
のみ現れた。 以上 の よ うに,感
謝心理 の ときの話 し手利益 に視点 をおいた表現以外 は,英
語 の方が多 い結果 となった。 これは英語 における付加表現 の使われ方が圧倒的 に多い ことを反映 した もの とみ る ことが で きよ う。 しか しなが ら,
日本語,英
語 を別 々に同言語 内で どの視点 か らみた付加表現が多 く使 わ れ るか を比較す る と,
日・英 でそれ ぞれ違 うパ ター ンが現れ る。表4は
,表
3で
みた聞 き 手負担,聞
き手好意,話
し手過失,話
し手利益 の視点 の付加表現 の総数 をそれぞれの言語 内で比較 した ものである。感謝心理 にお ける聞 き手負担,話
し手過失,詫
び心理 にお ける 聞 き手好意,話
し手利益 は,総
数が少 ないため,比
較 の対象 に してい ない。 表4
視点か らみた付加表現の使われ方:日英比較 〈感謝心理〉 聞 き手 の好意話 し手 の利益 日本語 443件 三 400件 英 語
8l6f+
351{+(p
0.001) 〈詫び心理〉 聞 き手 の負担話 し手 の過失 日本語 343件 >231件 (p<0.001) 英 語 329件 <453件 (p<0.001) これ をみ る と
,英
語 にお いては,感
謝心理 の ときに聞 き手 の好意 に注 目 した表現 を,詫
び心理 の ときに話 し手 の過失 に注 目 した表現 を使 うことが多 い ことがわか る。 い っぽ う日 本語 では ,詫 び心理 の ときに聞 き手 の負担 に注 目 した表現 を多 く使 うが,感
謝心理 の とき は同等 とい う数値 となった。 しか し,表
3の説 明の ところで も述べ た よ うに (206ペ ー ジ), 聞 き手 の好意 の表現 のなか には,話
し手 の受益 の表現 ともとれ る ものの数が多 く,全
体 と しては,話
し手 の利益 に注 目 した表現が多い と考 え るのが妥 当 といえよう。 以上 の結果 をま とめ る と,次
のよ うな ことがいえる。1)イ
ギ リス人 の方が慣用表現のほかに,よ
り多 くの付加表現 を使 う2)「
感謝」の気持 ちを もつ とき,
日本人 は自分が恩恵 を受 けた ことに焦点 を合 わせた 付加表現 を多 く使 うが,イ
ギ リス人 は相手 の好意 に焦点 を合 わせた付加表現 を多 く 使 う3)「
詫 び」 の気持 ちを もつ とき,
日本人が相手 の負担 に焦点 を合 わせた付加表現 を多(11)204
く使 うの に比 べ,イ
ギ リス人 は 自分 の過失 に焦点 を合 わせ た付加 表現 を多 く使 う 換言すれ ば,英
語 で は行為 また は行為者 に関す る発言 を (直接 的 に)す
る こ とが「感 謝」 と「詫 び」の発話行為 として有効であるのに対 し,
日本語 では,そ
の行為の影響 を受 けた者や ことに関す る発言 を (間接 的 に)す
る ことが「 感謝」 と「詫 び」 の発話行為 とし て有効 である といえよ う。 この ような 日・英 の言語表現パ ター ンを具体的 な例 としてあげ る と,次
の よ うな表現が,「感謝_と
詫び」の場面 で多 く現れ るといえよ う。 く感謝場面>
日本語 :「 どうもすみません。本当に助か りま した」 英: 語::
て'Thank you so much.You've saved iny life." く詫 び場面>
日本語 :「どうも申 し訳 あ りません。大丈夫 で したか」
英 語 : ttI'm SO SOFy.It WaS SO Stupid Of me.''
5.結
語 本稿 は「感謝」 と 詫び_の
場面 で,慣
用表現 とともに使 われ る表現 に注 目 し,そ
れ ら を付加表現 と名づけて分析 したこ分析 には「借 り」 とい う概念 をめ ぐって,4つ
の心理的 視点か らの分類 を使 い,
日・英語 を比較 した。 その結果,
日本語 では,感
謝 の気持 ち を も つ とき,
自分 の利益 に注 目 した表現 を用 い,詫
びの気持ちを もつ ときは相手 の負担 に注 目 した表現 を使 う傾向のある ことが明 らかになった。 い っぽ う,英
語 では,感
謝 の気持 ちを もつ とき,相
手 の好意 に注 目 した表現 を用 い,詫
びの気持 ちを もつ ときは自分 の過失 に注 目 した表現 を使 う傾 向のある こ とが明 らかにな った。姫野 (1991)は,
日本語の依頼 の発 話行為 において,依
頼者が相手 に負担 をか けてい る こ と,す
なわ ち 自分が受益者であるこ とを明示す る表現が使われ ることを指摘 してい る。 日本語 では,感
謝や詫 び,依
頼 のほか に も,聞
き手 の負担 と話 し手 の利益 の認識が鍵 となる発話行為が存在す ることが考 え られ るが,今
後 の課題 として取 り組 みたい。 本稿 で示 した よ うな結果 は, これまで社会言語学 の分野 で も指摘 されて こなか った。 あ る言語 の母語話者や きわめて少数の上級学習者 は,
この よ うな社会規範 に支 え られたルー ル を無意識 の うちに適用 して,適
切 な言語 コ ミュニケー シ ョンをお こな ってい る もの と思 われ る。言語 の研究,
と りわけ対照研究 には,
どの よ うな状況 の ときには どの ような言語 行動が要求 されてい るか とい った綿密 な研究 も求 め られてい るのではないか と考 える。203 ( 12 )
<注
>
1)慣
用表現 (慣用的感謝 表現,慣
用 的詫 び表現)の
条件 は本稿の調査 において以下 の よ うに, 1.構成要素の語彙的 な意 味か ら離れ てひ とつの表現 と して定着 してい る 2.一回答 に独立 して出現 しうる 3.出現率が高 い の3つを満 た してい る もの とす る。2)「
す み ませ ん」 な どを「詫 び表現」 と定義す る こ とには異論 もあろ う。 しか し,従
来 か ら「 す み ません」 の さまざまな論議 で は「 もともと詫 びの意 味 で使 われ ていた ものが感謝 の意 味 も示 す よ うにな った もの」 とい う前提が あ り,本
稿 も, この立場 を とる。3)佐
久 間 (1983),熊取谷 (1990),土居 (1975),柳田 (1969),Benedict(1985)などが代表 と し てあげ られ る。4)こ
こで使 う「負担 」,「 好意」,「過失」,「利益」 とい う用語 は,一
般 に使 われ る もの よ り広 い意味で使 って い る。英語 ではそれ ぞれ`(bcnefit",'マburden",tTavour'',町ault/miStake'' とい う
語が 当て られ よ う。熊取谷 (1990)では本研究でい う「 負担 」 を不快状況,「 利益 」 を快適状況 とい う用語 で表 してい る。 <参考文 献
>
熊取谷哲夫 (1990)「 日本語 の<感謝>の表現交替現象 とその社会言語学 的モデル」『 表現研究』 第52号 表現学会 佐久 間勝彦 (1983)「感謝 と詫 び」『 話 しことばの表現』講座 日本語 の表現3
水谷修編 筑摩書房 鈴木 情一 (1992)「視点 の心理」『 日本語学』第11巻第9号 明治書 院 土居 健男 (1975)『「甘 え」 の構造』 姫野 伴子 (1991)「依頼 と勧誘 :受益 者表 現 の 日英対照 を中心 に」『 日本語教育論 集 世界 の 日本 語教育』第1号 国際交流基金 日本語国際セ ンター 三宅 和子 (1993)「感謝 の意 味 で使 われ る詫 び表現 の選択 メカニズ ム」『 筑 波大学留学生 セ ンター 日本語教育論集』第8号 筑波大学 三宅 和子 (1994)「「詫 び」以外 で使 われ る詫 び表現 :そ の多用化 の実 態 とウチ・ ソ ト・ ヨソの概 念」『 日本語教育』82号 日本語教 育学会 柳 田 国男 (1969)「毎 日の言葉」『 定本柳 田国男集』19
筑摩書房 Bcncdict,Ruth(1985)T力ιC力rysα″ `力′′ηzπ α″グ′みι Sωα″グ,Thc first edition by American Library, 1946. TOkyo: Tuttle.
COulmas, FlOrian (1981)'"POisOn tO YOur SOul' ′I`hanks and Apologies Contrastively Vicwcd.''
Cο″υι″sα
`Jο
″αι RIο z′j″ι. Ed.FlOrian COullnas. ′rhe Hague:Mouton.
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