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非国家主体による「規範」の形成と制度化の研究に向けて―国際法規範の重層化に関する予備的研究― 利用統計を見る

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(1)

非国家主体による「規範」の形成と制度化の研究に

向けて―国際法規範の重層化に関する予備的研究―

著者

川村 仁子

著者別名

Kawamura Satoko

雑誌名

東洋法学

56

2

ページ

237-251

発行年

2013-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00004091/

(2)

《 第十一回   東洋大学公法研究会報告 》

――国際法規範の重層化に関する予備的研究―― 川村   仁子 報告者   川村 仁子 (東洋大学) 報告題   「非国家主体による﹃規範﹄の形成と制度化の      研究に向けて       ―国際法規範の重層化に関する予備的研究―」 日   時   平成二四年四月二六日一八時~一九時半 場   所   東洋大学第二号館一四階学習指導室 参 加 者   名 雪 健 二、 齋 藤 洋、 宮 原 均 (以 上、 東 洋 大 学) 、 門 脇 邦 夫 (本 学 大 学 院 博 士 後 期 課 程) 、 始 澤 真 純 (本 学 大 学院博士後期課程) はじめに   こ れ ま で の 研 究 に お い て、 報 告 者 は、 「共 和 主 義 ( Republi -canism ) 」 が も っ ぱ ら 国 内 政 治 思 想 と し て、 あ る い は 政 治 学 一 般 に 解 消 さ れ る 形 で 研 究 さ れ て き た 経 緯 を 踏 ま え た う え で、これをグローバル政治・国際社会の分析・把握に展開さ せて、現代グローバル政治における共和主義の意義と役割と いう主題を設定した。そして、 「現実政治 ( Real Politics ) 」が 支配的な国際関係を、社会学のオートポイエーティック・シ ステム理論によって分析すること で ( 1) 、理論的・規範的な視座 としての「共和主義」が国際関係において歴史的に果たした 意 義 と 役 割 を 抽 出 し、 「共 和 主 義」 が、 現 代 グ ロ ー バ ル 社 会 における非国家主体による自主規制の作成過程において果た しうる役割と、その現実的可能性の追求を行っ た ( 2) 。   今後は、これまでの研究で扱った、非国家主体による自主 規制の研究をさらに掘り下げ、国際社会での規範の重層化に 関する基盤研究として、非国家主体による自主規制の「国際 法規範性」を理論的・制度的側面から解明する研究を行う予 定である。今回は、そのため予備研究として、非国家主体に よる自主規制が形成された背景、具体例、課題、今後の可能 性について報告する。 一   方法論としてのオートポイエーティック・システム理論   現在のグローバル社会は、国家間、地域間といった空間的 な分化の関係によって形成されていると認識される一方で、 政治、経済、法等に機能分化した各分野のグローバルな社会 の束として理解することができる。このような国境を越えた 多次元的な連関と相互作用が生み出されている現代のグロー バ ル 社 会 で は、 優 越 的 で 中 心 的 な 行 為 主 体 は 存 在 せ ず、 政 治、経済、法、学術等の機能に分化したシステムが自ら自己 再生産的な活動を行い、機能分化システム独自の活動が全体

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として多中心的な社会システムを形成している。ゆえに、多 中心的なグローバル社会は、システムの自己再生産的作動を 機能的に分析するオートポイエーティック・システム理論に よ る 分 析 に 適 し て い る と い え る ( 3) 。 ま た、 オ ー ト ポ イ エ ー ティック・システム理論は、元来は生物学の理論であり、ド イ ツ の 社 会 学 者 で あ る N. ル ー マ ン ( Niklas Luhmann ) が 「生 命 体 の 自 己 産 出 シ ス テ ム の 理 論 を、 基 本 要 素 と し て の 細 胞をコミュニケーションに置き換えて、直感的かつより一般 的に社会的な組織原理に応用したもの」であ る ( 4) 。これは、社 会をコミュニケーションから構成される一つの生命体として 捉えるため、従来のシステム理論のように現在の状況を説明 する静態的な理論にとどまるものではなく、刻々と変化する 状況に動態的に対応できる理論である。本研究では、ルーマ ンの理論を検討し、それを批判的に継承したG.トイブナー ( Gunther Teubner ) の 理 論 と 組 み 合 わ せ、 グ ロ ー バ ル 社 会 の 分析方法として適した理論枠組みを形成することにより分析 する。 二   非国家主体による自主規制の形成の背景   非国家主体による自主規制の現代的な背景としては、①国 境を越えたグローバルな領域での、国家や政府間国際組織以 外 の 非 国 家 主 体 (企 業、 N G O S な ど) の 活 動 の 活 発 化 を 踏 ま え、国家、政府間国際組織、非国家主体の協力によるグロー バル・ガバナンスが必要とされてい る ( 5) 、②高度に専門的で変 化 が 著 し い た め に 実 定 法 が 未 整 備 な 分 野 (経 済、 情 報、 先 端 科学・技術など) では、公的な法や制度の整備が追い付かず、 非国家主体による自主規制の役割が注目されてい る ( 6) 、という 二点があげられる。   本来、非国家主体、特に民間の行為主体のグローバルな活 動は、国内の法律により規制されるのが一般的であった。し かし、グローバルな非国家主体がグローバル社会において存 在感を増すなかで、グローバルな行為主体によって引き起こ される、あるいはグローバルな行為主体の活動に関係する懸 案が現れるようになった。それらを政府間の取り決めや国内 での立法によって規制することは困難な場合が多い。そのよ うな国連や政府間国際組織による公的な規制が失敗した分野 や追いつかない分野、特に新しい産業等の分野では、各機能 分化システムと機能的にカップリングしているグローバルな 民 間 国 際 組 織 が ( 7) 、 自 ら の 活 動 領 域 に お け る 秩 序 の 維 持 の た め 、 公 的 な 立 法 過 程 に 頼 ら ず に 自 主 規 制 を 行 な う よ う に な り ( 8) 、 それらがグローバルな自主規制として認識されるようになっ たのであ る ( 9) 。特に先端科学・技術は、人類にとって問題解決 の手段となる一方で、二〇一一年の大震災に伴う原発事故の ように、国境を越えて直接的に人間の安全を脅かす存在とな り 得 る た め、 そ の 管 理・ 規 制 が 早 急 に 求 め ら れ る 分 野 で あ り、非国家主体による自主規制が数多くみられる。

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  このような非国家主体による自主規制の先行研究は、国際 法分野、例えば実務家による手続き規定などの国際経済法分 野が中心となって行われている。海外では、パリ第二大学の 法学者達によるグローバル・ロー研究があ る ( 10) 。また、政治学 に お け る 国 境 を 越 え た 民 主 主 義 論、 国 際 関 係 論 に お け る グ ローバル市民社会論、グローバル・ガバナンス論、法学にお け る ソ フ ト ロ ー や Global Constitutionalism と も 関 連 性 が あ る 。 三   非国家主体による自主規制の事例   歴史的には、中世以来の世界的な商慣行や国際仲裁裁判所 の 裁 決 等 が 存 在 し た (例 え ば 商 人 法 jus mercatorum ) 。 現 在 で は、国家や公的な国際組織による規制が間に合わない分野、 特に経済、IT、医療、スポーツ、先端科学・技術の分野に みられる。   例えば、 第一次世界大戦後、 ヨーロッパの経済 ・ 産業の復興 と自由な国際通商の実現のために設立された民間企業による 世 界 ビ ジ ネ ス 機 構 で あ る 国 際 商 業 会 議 所 ( 以 下 ICC:International Chamber of Commerce ) は ( 11) 、 現 在 は、 国 際 貿 易 と 投 資 の 促 進、 自 由 か つ 公 平 な 競 争 の 原 理 に 基 づ く 経 済 シ ス テ ム の 発 展、世界経済を取り巻く諸問題への提言を行なうことを目的 とした活動を行っている非国家主体である。具体的には、① 政 府 間 国 際 組 織 ( W T O 、 U N C T A D 、 U N D P 、 U N I D O 、 U N E P 、 O E C D、 E U 等) で の 意 見 具 申 / 政 策 提 言、 ②国際取引慣習に関する共通ルールの形成推進、③国際商事 取引紛争に関する情報提供活動、④商事犯罪や海賊事件等に 関する情報提供を行っている。ICCは世界の企業、NGO S に 対 し あ る 程 度 の コ ン ト ロ ー ル を 及 ぼ す こ と が で き る 行 為 主体であり、政府間国際組織での提言を行なうとともに、組 織 内 に 自 ら 専 門 機 関 (仲 裁 裁 判 機 関、 学 術 的 研 究 所 等) を 設 け て い る。 ま た、 Social Accountability International な ど 他 の 非国家主体と提携してい る ( 12) 。   情 報 通 信 の 分 野 で は、 Internet Society の 規 範 に よ っ て、 イ ン タ ー ネ ッ ト・ プ ロ ッ ト コ ー ル (情 報 通 信 の 共 通 言 語) の 進化が管理され、ウェブページの利用に関しては各プロバイ ダ ー の 利 用 規 約 に よ っ て、 ネ ッ ト 上 で 守 ら れ る べ き 規 則 (ネ チ ケ ッ ト) が 規 定 さ れ て い る ( 13) 。 ま た、 オ ン ラ イ ン 市 場 と し て 多 く の 人 々 に ネ ッ ト 上 で の 売 買 の 場 を 提 供 し て い る eBay は 、 詳 細 で 形 式 化 さ れ た 利 用 者 規 則 の 提 示、 売 り 手 と 買 い 手 の 評 価 を 管 理 す る シ ス テ ム の 提 供 を 行 う と と も に 、 eBay で の 詳 細 な 手 続 の も と 紛 争 解 決 メ カ ニ ズ ム を 構 築 し た。 ま た、 イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の ド メ イ ン 名 と I P ア ド レ ス の 割 り 当 て は 、 ア メ リ カ の 民 間 団 体 で あ る I C A N N ( Internet Corporation for Assigned Names and Numbers ) を 基 に し た 民 間 の 非 営 利法 人 で あ る 、

Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy

( UDRP ) によって管理されてい る ( 14) 。スポーツの分野でも、具体的な試 合や練習方法や審判方法、フェアプレイやスポーツマンシッ

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プ と い っ た 理 念 が、 ス ポ ー ツ 団 体 の 自 主 的 な 決 定 や 協 約 に よ っ て 規 制 さ れ て い る。 そ の よ う な ス ポ ー ツ 法 は、 「① ス ポーツ当事者と審判また時には観衆に、特殊の権利と義務そ し て ペ ナ ル テ ィ と 制 裁 を 課 す る ス ポ ー ツ ル ー ル ( sports rules ) 、 ② ス ポ ー ツ ル ー ル を 理 念 的 に 指 導 す る ス ポ ー ツ 法 前 提 ( sports legal postulates ) 、 ③ 一 国 家 の 内 外 を 問 わ ず 、 ス ポ ー ツ 活 動 を 目 的 と す る 協 会・ 連 盟 等 を 組 織 し そ の 活 動 を 運 営 す る ス ポ ー ツ 団 体 協 約 ( sports organization agreements ) 」 の 三 つ に 分 類 さ れ る ( 15) 。 国 際 サ ッ カ ー 連 盟 (F I F A) や 国 際 オ リ ン ピ ッ ク 委 員 会 (I O C) が そ の よ う な、 規 範 形 成 主 体 と な っ ている。医療の分野では、世界医師会による医師の義務に関 するジュネーヴ宣言や、患者の権利に関するリスボン宣言、 ヒトを対象とする医学研究の倫理原則に関するヘルシンキ宣 言、ヒトゲノム計画についての宣 言 ( 16) 、国際医科学評議会によ る疫学研究の倫理審査のための国際的指針など が ( 17) 、グローバ ルな規範としての機能を果たしてい る ( 18) 。 四   非国家主体による自主規制の課題   このような政府や国家間の国際組織以外の行為主体による 自主規制、すなわち、民主主義的決定メカニズム以外からの 規範形成に対しては、それらは「法規範」としてとらえるこ と が で き る の か、 そ の 正 当 性 は ど こ に 求 め ら れ る の か、 と い っ た 課 題 が 存 在 す る ( 19) 。 特 に、 「法 は 国 家 が 作 る も の」 と い う国家と法の一体性説の揺らぎのなか、非国家主体、特に民 間の国際組織による自主規制の恣意性や作成過程の民主主義 的手続きの欠如、実効性への疑問などを理由に、非国家主体 による自主規制は「法規範」としては不完全であることが指 摘される。   このような課題を克服するためには、①それらは「国際法 規範性」を有するのか、②それらの「正当性」はどのように すれば認められるのか、③既存の国内法あるいは国際法規範 (国 際 法 な ど) と は ど の よ う な 関 係 に あ る か、 ま た は 今 後 ど の ような関係が可能であるのか、という点を理論的・制度的側 面から明らかにしなければならない。 五   「国際法規範」としての可能性   こ の よ う に、 「法 規 範」 か 否 か と い う 課 題 を 抱 え つ つ も、 非国家主体による自主規制の役割は大きくなりつつある。非 国 家 主 体 に よ る 自 主 規 制 が、 「国 際 法 規 範」 と し て そ の 正 当 性を認められる可能性は、グローバル社会における新たな理 論的・制度的な試みと関連してくるだろう。   法規範性に関しては、現在形成されている自主規制の多く が、一次規範と呼ばれる行為規範である。根本規範となる二 次規範、すなわち一次規範の承認、一次規範の導入・廃止の 権限付与、一次規範の変更手続きといったことを定める権限 規範、及び一次規範の審査・異議申立てに対応する規範が形

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成されることで、自主規制の恣意性が制限されるであろう。 実 際 に 、 環 境 や 人 権 、 グ ロ ー バ ル 経 済 法 ( jus mercatorum ) 、 コ ン ピ ュ ー タ 通 信 法 ( lex electronica ) 、 国 際 生 命 倫 理 法 、 国 際 ス ポーツ法などの分野では、すでに根本規範や異議申立て機関 と し て の 裁 判 所 が 設 立 さ れ つ つ あ る ( 20) 。 例 え ば、 先 に 挙 げ た コ ン ピ ュ ー タ 通 信 に 関 す る 、 I C A N N や eBay の よ う な 機 関 に よ る 共 通 の 規 則 や 、 環 境 マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る I S O 1 4 0 0 0 基 ( 21) 準 、 tha Coalition for Environmentally Responsi -ble E co no m ies, the Forest Stewardship Council による環境 基 準、 人 権 に 関 し て は Social Accountabiluity Standard8000 と い っ た 二 次 規 範 と な る よ う な グ ロ ー バ ル 法 の 形 成 が 試 み ら れ て い る ( 22) 。 ス ポ ー ツ 法 の 分 野 で は、 オ リ ン ピ ッ ク 憲 章 が 二 次 規 範 的 役 割 を 果 た し、 国 際 オ リ ン ピ ッ ク 委 員 会 (I O C) か ら 独 立 し て い る ス ポ ー ツ 仲 裁 裁 判 所 (C A S) が 異 議 申 し 立 てを審査してい る ( 23) 。生命倫理法の分野でも、ニュルンベルク 綱領や先に例として挙げた世界医師会宣言が、医療システム 内において二次規範的機能を持ってい る ( 24) 。またこの二次規範 は、社会的憲法論やトランスナショナルな憲法論とも密接に 関係してく る ( 25) 。   正当性に関しては、国境を越えた民主主義的決定メカニズ ムの新たな形の議論として、A.参加型民主主義:情報技術 の発展にともない能動的市民の参加の最大化を目指す、B. 審 議 型 民 主 主 義: 「審 議」 を 集 団 的 意 思 決 定 に 正 当 性 を 付 与 する必要条件とする、C.機能的民主主義:情報公開、説明 責 任、 異 議 申 し 立 て の 制 度 を 確 保 す る こ と で 正 当 性 を 与 え る、といったものが模索されてい る ( 26) 。もちろん、グローバル な領域では、国内政治システムのような民主主義的決定メカ ニズムを設定することは困難であると指摘されてい る ( 27) 。間接 的な民主主義的決定メカニズムを基盤とする国家間政治や、 制度化された政府間国際組織においても、そこでの民主主義 的 手 続 の 欠 如 が 問 題 と さ れ て い る (例 え ば、 E U に お け る 民 主 主 義 の 赤 字 の 問 題) 。 そ こ で、 a. 恣 意 的 な 支 配 か ら の 自 由、 b.共通項としての有徳な市民概念、c.共通善の実現のた めの共同体の形成、といった共和主義的原則を適用すること によって、正当性を確保する理論を補完する可能性が期待さ れる。 おわりに   最後に、非国家主体の自主規制を研究をするうえで重要に なってくるのが、既存の「国際法規範」との関係である。E Uの先端科学・技術分野では、公的な行為主体と民間の行為 主 体 の 協 力 に よ る、 官 民 混 合 パ ー ト ナ ー シ ッ プ (P P P) に よ る 管 理 が 行 わ れ て い る。 例 え ば、 欧 州 宇 宙 機 関 が 中 心 と なって進められているガリレオ測位衛星計画は、従来の政府 間国際組織と民間行為主体の連携によるグローバル・ガバナ ンスのモデルとして捉えられる。先端科学・技術である宇宙

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開 発 技 術 の 管 理・ 運 営 構 造 が、 欧 州 宇 宙 機 関 (E S A) と 欧 州連合の代表からなる機関、そして国際入札によって選ばれ た企業からなる構造に託されている点が、今までにない多層 的な規範構造の事例となると予想される。   また、非国家主体による自主規制が、国家間の公的な法規 範に吸い上げられることで、法規範としての正当性を確保す るような動きも見られる。このように、非国家主体の自主規 制の研究は、国際社会における規範の重層構造の研究をさら に発展させ、今後期待される民間を含むグローバル・ガバナ ンスのモデルの構築の足がかりとなると期待できる。 〔質疑応答 (敬称略) 〕   本報告終了後、質疑応答がなされた。 A「報告に対して何か質問はありますか?」 報告者「本研究は法学プロパーではなく、国際法と国際関係 論の狭間のような分野に位置しますので、用語等もなじみが 無いとは思いますが、法学をご専門とされる立場からご示唆 いただければありがたいです。 」 B「方向性は、すごく面白いと思います。私などはどちらか というと法学を専門としていますので、発想としては私とよ く似ていますが、どうしても法学の分野から見ると、国際関 係論はどちらかと言うと社会学的な傾向が強くて、事実をき ちんと整合的に説明するために、オートポイエーティック・ システム理論やゲーム理論といった色々な理論を使って説明 をしていくと言う意味では、規範と言うものを一つの事実、 あるいは要素として捉えて、それに関係するところを研究す るのは確かにその通りだと思います。ただ、法学の方からし ま す と、 や は り、 ﹃ 当 為 ﹄ と い う 問 題 が あ り ま す。 報 告 の 中 で も、 ﹃ 規 範 性 の 検 討 ﹄ と 言 う こ と で 指 摘 さ れ て い る の で す が、どうしても ﹃ 自主規制 ﹄ と言うものと ﹃ 規範 ﹄ と言うも の を 同 じ も の と し て 捉 え て よ い の か、 疑 問 で す。 ﹃ 自 主 規 制 ﹄ は分かりますが、報告者が考える ﹃ 規範 ﹄ というものは ど う い う も の か 。 現 段 階 で か ま い ま せ ん の で 、 教 え て 下 さ い 。」 報 告 者「あ り が と う ご ざ い ま す。 私 が 想 定 す る ﹃ 規 範 ﹄ と は、ある一定の規則的な行為を導くものです。つまり、ある 一定の義務的な行為を規則的に導くようなものです。ルール と呼ばれるものを一番大きなくくりとすれば、その中で義務 的な行為を規則的に導くものとして捉えています。一般的な ﹃ 規 範 ﹄ と ﹃ 法 規 範 ﹄ は 区 別 さ れ る と 思 い ま す。 現 段 階 で は、 ﹃ 法 ﹄ とみなされることによって、 ﹃ 義務的 ﹄ というとこ ろがさらに強い意味を持つと捉えています。でもそれは、単 なる規則や原理といった、今までの国際社会論や国際政治学 や国際関係論においてよく使われる ﹃ 規範 ﹄ とは区別されま す。これまでは、先ほど先生がおっしゃった ﹃ 当為 ﹄ として の ﹃ 規範 ﹄ と言うよりも、ある目的や必要があって、その必 要な行為を促すようなものが中心でした。必要のために規律

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されたものが多かったのですが、そう言ったものではなく、 もっと義務的、規則的という点に重点を置いている点が、こ れまでの ﹃ 規範 ﹄ とは異なります。 」 B「そうすると、法律学の一般的な、法学概論的な発想から すると、一つの行動をすると言う事実の繰り返しに、義務的 という性質が加わってくると、慣習法になる。慣習法の成立 要件ですね。法的確信と反復性と言う。ということは、ここ で報告者が言う ﹃ 規範 ﹄ とは、成文法化されているかは別と し て、 一 種 の 慣 習 法 と し て の ﹃ 規 範 ﹄ と い う よ う な 形 を イ メージしているのでしょうか。 」 報告者「慣習法に近い概念ですが、やはりこれまでの国際法 に お い て は、 慣 習 法 の 形 成 主 体 は 国 家 が 中 心 で し た。 し か し、本報告における ﹃ 規範 ﹄ は、国家ではなく非国家主体、 これまで国際的な領域では規範形成主体とは考えられてこな かったような行為者によって形成されたものです。その規範 性をみるという点がこれまでの議論との違いになります。 」 B「そうなると、今までも業界の自主規制、業界の申し合わ せ事項というのがあった訳ですよね。 」 報告者「はい。 」 B「それも、報告者がおっしゃったような、一定の行動の方 向性を決めるものではありますが、すでに自主規制にも義務 と言う感覚は備わっているのではないでしょうか。義務と言 う感覚が付随すると、その規範に違反した場合には、何らか の処罰と言うか制裁が科せられます。もちろんそれは、国家 に よ る 制 裁 の 場 合 と、 社 会 的 な 制 裁 の 場 合 と 色 々 あ り ま す が、とにかく、何らかの制裁が加えられると言うことがあり ますよね。非国家主体の自主規制の中にも制裁が含まれてい るのか。その制裁の裏側が、実効性の担保と言うことにもつ ながってくると思うのですが、そのあたりはどうなんでしょ う。 」 報告者「その点を、今後、非国家主体による自主規制の ﹃ 法 規 範 性 ﹄ の な か で 検 討 し て い き た い と 考 え て い ま す。 や は り、自主規制に対する制裁は、社会的な制裁と言うことにな ると思うのですが、ただ、やはり実効性の担保=違反した時 の制裁ではありません。むしろ、実効性とは、その ﹃ 規範 ﹄ に則った行為が行われるということだと思います。そう言う 意 味 で、 ﹃ 規 範 ﹄ に 違 反 し た と き に 制 裁 が あ る と 言 う の で は なく、その ﹃ 規範 ﹄ に従うように促すような ﹃ 保証 ﹄ に重点 を置いてみていきたいと思っています。実効性と制裁を考え るうえでは、国家による制裁と言うよりは社会的な制裁の方 になると言うのは確かです。だからこそ、分野ごと、例えば 経済界の分野のなかでこそICCのような組織の重要性が認 識されるのであって、だからこそ、その分野内のアクターに とっては自主規制と言えども違反することに対する社会的制 裁 が 強 く な る の で す。 I C C か ら 追 い 出 さ れ る よ う な 状 況 は、経済界では、場合によっては、既存の法規範の制裁より

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も、強い実効性を持たせる場合があると思います。そのよう な点から、制裁と言うよりは規範の保証がどのように確保で きるのかという点から考えたいと思います。 」 B「そうすると、今あまり良い例が浮かばないのですが、業 界団体で一定の世界的なことが決まる。いわゆる自主規制で すよね。それは国家が作ったものではないですよね。でも、 国家にしてみれば、自分の国にいる個人や民間企業が世界的 な自主規制に従わなければ、当然経済活動ができなくなって きて、経済界の中でいわゆる村八分のようなことになって、 流通の中に乗って行けないということになるので、そうする と自国の国力や産業力、経済力も落ちるし、税金も取れなく なるということなので、自国の法律ではないけれども、世界 的な業界団体が作った自主規制をあえて国内法化すると言う ことも起こり得ますよね。それはスポーツなんかの世界も同 じで、例えば柔道とかバスケットとか、なぜ身長制を導入し なければいけないのかとかですね、そういう形でどんどんど んどん国内法化する。そうすると、義務だとか、実効性の確 保だとか、行動の方向性の確保と言うものも、業界団体の自 主規制の段階から、国家がそれを国内法として取り入れた段 階と、さらにそれが、国家間の国際法として取り入れられる 段階になって、段階があがればあがるほど基本的には強い担 保力が出てくるということが言える訳ですよね。そして、国 家が作ったものを法律学では法律と言って、国家間のものを 条約と言っている訳ですよね。そうすると、今報告者がおっ しゃっているのは、国家が法律としてとりあげる前の段階の コードと言いましょうか、規範と言うものを念頭に置いてい ると言うことでしょうか。 」 報告者「そうですね。今先生がおっしゃったように、今はま だ ﹃ 法規範 ﹄ ではない規範が、どのように公的な枠組みに吸 い上げられて行くのかと言うのを、公的な規範との関係でみ ていきたいと思っています。トランスナショナル・ローと言 われるものが、その辺りを強く意識して議論されています。 ジェサップとかルイス・ヘンキンあたりは、そのような過程 がトランスナショナル・ローの理想の形であると捉えていま す。実際国内法化されたものもいくつかあります。例えば、 制限的な商慣行の原則がそれに当たります。通常、市場は自 由でなければならず、独占的であったり制限的であることは よしとされない訳ですが、産業が未発達な分野においては、 ある程度、制限的な取引を行うということが実際に企業間で は行われていました。それをアメリカなどは自国の法律や制 作の中に吸い上げ、例えば、ロケット分野でバイ・アメリカ ン政策をとったりしています。EUの先端科学・技術分野の 例ですと、欧州宇宙機関のプロジェクトに各国が参加する場 合、出資金や参加のエフォートが違ってきます。その国のエ フォートに従って、その国の企業が参加できるというような ルールが自主規制としてあったのですが、欧州宇宙研究機構

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が欧州宇宙機関になる段階で、設立条約の中にそのルールを 取り入れたということが実際おこっています。そのなかで、 自主規制がどのように扱われているのかと言うことは、今後 各事例を分析することにより検討する予定です。 」 B「今の話だと、オートポイエーティック・システム理論を 使うと言うことから出てくるのかもしれませんが、国家によ る法規範のレベルと、いわゆる条約のレベルと、さらに国家 による法規範にならないレベルと、連続するものとして捉え ているように感じるのですが。 」 報告者「トランスナショナル・ローを論じているジェサップ やヘンキンあたりは、そのように考えているのですが、私は そのように、法規範ではない自主規制が段階を経て法規範に なっていくような状況だけであるとは捉えていません。そこ まではいかないまでも、社会の中で影響力を持っている規範 があって、その性質がどのようなものかとか、その規範のあ り方について考えていきたいと思います。 」 B「それはよくわかります。国際関係論からであればそのよ うな味方になるのは当然だと思いますが、法律学の方から見 ると、ある世界的な業界団体が自主規制なり、かなり義務性 の強い規範を作ったりすると、当然その成立規定に色々と問 題が出てきます。今、国家と非国家主体と言う分け方をして いますよね。それで非国家主体の方を重点的に見ていくと言 うことですが、現段階の話だと、そこに主体としての国家が 外 せ な い と 思 い ま す。 ど う い う 意 味 で 外 せ な い の か と 言 う と、業界団体で色々な規範を作る場合、技術的な規範なら良 いのですが、例えばビスの大きさとか、でも、もっと広がっ て、例えば人権問題とかに広がっていった場合に、やはりそ れを規制したり制限したりするのは、ある程度の力を持った 存在が無ければならない。個人ではとても無理だと。そうす ると、国家というものが現段階では一番力を持っていますか ら、出てくる。そうすると、実は今のお話ですと、国家の作 る規範対非国家主体が作る規範という対立構造が出てくるの ではないかと思うのですが、そのようなことはどうでしょう か。 」 報告者「可能性としてはもちろんあると思います。その点は まだフォローしきれておりませんが、それとは逆に、むしろ 国家の方が規制が甘い部分を自主規制によって強化すると言 うこともできるという理論になります。常に国家に従うとい わけではないですし、常に国家と対立すると言うようなもの でもない。なんと言いますか、いわゆる国家が作るような規 範とは異なる性格の規範として出てきたことによって、既存 の規範とどのような関わりができるのか。それが国際的な社 会秩序においてどのような役割を果たすのか、また、公的な 法規範のみで統治されていたのとは異なる、新たな統治の形 が見えてくるのではないかと考えています。 」 B「だから、やはり研究を遂行するために、そこで使われる

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用語として規範と言う言葉は適切かどうか。もちろんそれが 分 か っ て い る か ら こ そ、 タ イ ト ル の と こ ろ で 鍵 括 弧 付 き の ﹃ 規 範 ﹄ と し た の だ と 思 い ま す が、 た だ、 今 後 の 研 究 を ス ムーズに行えるように、鍵括弧付きの ﹃ 規範 ﹄ を表すような 用語を作る必要があるのではないかなと言う気がします。 」 報 告 者「そ う で す ね。 確 か に、 龍 澤 邦 彦 先 生 (立 命 館 大 学 教 授) な ど は ト ラ ン ス ナ シ ョ ナ ル・ ロ ー の 日 本 語 訳 と し て ﹃ 民 際 的 な 法 ﹄ と い う 用 語 を 使 わ れ て い ま す。 単 に 国 家 権 力 に よって形成される法とは区別することができますね。民のな かには、企業とか特定の主体が入る訳ではなく、多様な主体 をイメージしやすいと言う意味では良いと思います。それを 使っても良いのですが。ただ、トランスナショナル・ローや グローバル・ローと言った用語が、定義されないまま議論だ けが進んでしまっていると言うことがあるので、類似概念と の区別や分類をしていかなければならないと思います。その 過程で新しい言葉を作って説明できれば一番良いのかもしれ ませんが、まだそこまで研究が進んでおりません。 」 B「大沼保昭先生は ﹃ 文際 ﹄ という用語を使用されています ね。 」 報告者「文際ですか。それも面白いですね。 」 B「でも、報告者の試みようとしていることはよくわかりま す。私も国際法学の方から、だいたい同じようなことを考え ています。私が大学院生の時に指導教授にちょっと言ったこ とがあったのですが、全く理解されませんでした。そんなこ とやったらクビだといわれたことがあったので。オートポイ エーティック・システム理論を使うには、それを動かすため の言葉が必要かもしれないですね。 」 報告者「そうですね。ただ、オートポイエーティク・システ ム理論自体もすでに用語がたくさんあって、その中でまた新 しい言葉を使って説明するとなると、混乱を招く恐れがあり ます。ただ、オートポイエーティック・システム理論の中で は、規範は形式として捉えられて、いわゆる規範未満のもの は意味として捉えられると思います。オートポイエーティッ ク・システム理論では、社会はコミュニケーションによって 形成されると考えます。ただ、そのコミュニケーションと言 うのは三つの選択過程として捉えられます。一つは何を伝え るのかという情報の内容の選択、次に伝える手段の選択、そ し て 相 手 側 (コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 受 け 手) の 理 解 の 選 択 と い う三つの選択過程として捉えます。形式と言うのは、そこに ある規則的なパターンというものを生み出すものであって、 それは規範として捉えることができると思うのですが、その ような情報が加工される基準の段階にあるというもの、いわ ゆる規範の段階にはまだないようなものを、システム理論で は意味として捉えられると思います。 」 B「なるほど。オートポイエーティック・システムは重層的 なシステムですよね。 」

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報告者「そうですね。 」 B「重層的と言う点から考えると、さっきのトランスナショ ナル・ローというのは当てはまりやすいのですか。 」 報告者「そうですね。当てはまりやすいですね。分析しやす いと思います。何か一つのしっかりした構造があるのではな く、例えば、国家間による規制と言うコミュニケーションの システムがあって、それとは別に、政府間国際組織も含めた よ う な 規 制 に 関 す る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン・ シ ス テ ム が あ っ て、またそれとは別に国家ではない、今まで国際的な規範形 成主体としては考えられてこなかったような主体による規制 作りのコミュニケーションがあって、その 3つのシステムが どういう形で連携しながら、ネットワークを形成し、秩序を 維 持 し よ う と し て 動 い て い る の か と い う よ う に 説 明 で き ま す 。」 B「わかります。 」 報告者「だから、やはりこのテーマの方法論としてはオート ポイエーティック・システム理論は利用しやすいですね。 」 B「現段階では、報告者が言うように、部品がたくさんあっ て、それを上手く組み合わせて上手くモノ作りに行く前の、 部 品 を 集 め た り、 合 う か ど う か 検 討 す る 段 階 で す よ ね。 で も、良い部品が集まれば、良い研究になると思います。長期 的な研究になるとは思いますし、色々な分野のものを入れな ければならないと思いますが、非常に面白い、賛成できる研 究になると思います。 」 報告者「ありがとうございます。 」 B「すいません。私ばかり話して。 」 報告者「国際法が民間に適用されるという事例は多くありま すか。 」 B「あまり無いですね。 」 報告者「確か、テキサコ事件の仲裁裁判所が作られた時に、 テキサコに対して国際法に則った判決が出たと言うのをどこ かで読んだと思うのですが。 」 B「一般的な話で言うと、国際法が民間企業を含む個人を対 象にしている場合には、法規範として適用されますが、そう で は な い 一 般 的 な 場 合 は、 た い て い 国 家 を 対 象 に し て い ま す。国際法が国内の問題で直接適用されるのは、一つは自動 執行条約ですよね。国内法化しなくてもダイレクトに使える もの、例えば、外交関係、領事関係に関するウィーン条約と かがそれに当たりますが、たいていは、国内法化する。もち ろん、そうじゃない国もあります。憲法と条約の関係にもよ りますよね。 」 A「そうですね。 」 B「ただ、ヨーロッパ地域とアジア地域では違うし、経済分 野と違う分野ではまた違ってくるだろうと思うので、おそら く伝統的な言い方ですと、個人はあくまでも国際法の客体で あって、主体ではないと言うことになりますが、今はそれが 混沌としている状況として考えても良いのではないかと思い

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ます。そこで個人とは言わずに、報告者が言ったような業界 の団体ですとか、国際オリンピック委員会ですとか、という ようになると、国家が構成するいわゆる国際社会と言う世界 と、国際オリンピック委員会が支配する国際スポーツ世界と いう世界、というように、色々な世界が重なって、現在の世 界があるという。非常にSF的になりますが。そういうよう な状況があると言うように言っている人もいますからね。そ ういった過渡期にこのような研究が出てくるというのは、必 然かもしれないですね。 」 報告者「国際関係学でも、国際社会を一つの社会として捉え るよりは、色々な国際社会の束があって、それをまとめた総 称として ﹃ 国際社会 ﹄ と使っているだけであって、国際政治 社会もあれば、国際経済社会もあるし、国際教育社会もある と言うように捉えるような議論も出てきています。コンスト ラクティビズムもその流れにありますね。 」 B「そ の 考 え 方 と 言 う の は、 昔、 龍 澤 先 生 (前 出) が ち ょ っ とおっしゃっていた、国家を説明するにあたって色々な説明 がありますよね。社会契約説といった。そのなかの政治契約 説と同じような発想なのですかね。 」 報告者「政治的契約説に近いとは思いますが、完全に同じで はありません。理論上は似た構成をとっていますよね。 」 B「なるほどね。 」 報告者「やはり、ある一つの目的があって、それに対する契 約と言うか協力があって、そこでネットワークが生まれ、そ れを一つの社会と呼んでいる。 」 B「と言うことは、国際社会はいくつかの束というような発 想自体は、新しいものではない。 」 報告者「そうですね。昔からありました。ただ、国際関係論 に お い て、 い わ ゆ る リ ア ル・ ポ リ テ ィ ク ス と 呼 ば れ る よ う な、国家間には社会なんて存在しなくて、あるのは国家のパ ワーバランスだけだと考える説も未だに根強いです。リアリ ストのなかには、国際社会など存在しなくて、そこにあるの は国家のパワーバランスによる関係のみだと考える立場をと る学者がいます。冷戦期などはそういった立場の方が主流派 でした。いわゆるバイ・ポーラーシステムでは、二つの勢力 の均衡による国際秩序という状況があり、それを実際に見て きたということもあって、今でもかなり根強い考え方です。 そうではない考え方も古くからありましたが、でも、最近は そういった主流派が、 ﹃ 国際社会 ﹄ に注目しています。 」 B「今までの理論では、説明できないような状況になってき たのでしょうね。おもしろいですね。 」 A「こういう質問が整合性があるのか分からないのですが、 はっきりしないのですが、私たちは規範と言うと法規範、行 為規範や組織規範、裁判規範を考えちゃうんですね。それは 国家が当然、行為規範として○○しなさいとか、 ~ してはい けませんとか、それを破った場合は、裁判権によって強制さ

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れると、当然強制するための組織としては、組織規範がなけ ればならない。それを、国家と同じように非国家的主体が、 そういう行為規範とか裁判規範、組織規範を持っている。そ のように思うのですが。 」 報告者「もちろん、まったく同じではありませんが、非国家 主体も似たようなシステムを持っています。非国家主体が、 自分たちが作った自主規制をいかに担保するのかと言うとこ ろで、やはり国家のシステム、既存のシステムをまねるとい うことはあります。鍵括弧付きですが ﹃ 裁判所 ﹄ のようなも のを作るといった状況は、確かに、国家というシステムをま ねている部分が大きいですね。 」 A「それと、規範性のところの社会的憲法論、先ほど報告者 は ﹃ 憲法 ﹄ と使ってよいのかどうかとおっしゃっていました が、具体的にどのような議論なのでしょうか。 」 報告者「この理論は、グローバル・コンスティテューショナ リ ズ ム と も つ な が り ま す。 グ ロ ー バ ル・ コ ン ス テ ィ テ ュ ー ショナリズムは、いわゆる ﹃ 万民の法 ﹄ と呼ばれるような、 理想主義的な発想なのですが、人類が共通に持つような一つ の憲法、人類全体の憲法というのがあるのではないかと言う 議論です。その考えを補完するのが、シューリの社会的憲法 論というものです。これは、成文憲法であれ、不文憲法であ れ、まだ憲法と呼ばれる前の段階の、憲法原則に成りうるよ うな、社会的なある一定の共通認識を、社会的憲法として捉 えるものです。おそらくシューリが参考にしているのは、フ ランスの憲法学者であるデュギイやオリウの理論で、憲法は 段階的に発展していくものであるという考えだと思います。 憲法の一番初期の段階、憲法と呼べるか呼べないか分からな い よ う な 段 階 の 原 則、 で も、 皆 が そ の 原 則 を 自 分 の 生 存 に とって重要であると考えるような一つの原則であるとして捉 えるような概念ですね。まだそれが明確にはなっていないの で す が 、そ の よ う な 一 定 の 認 識 が 初 期 の 憲 法 概 念 に な り ま す 。」 A「それは、根本法や基礎法といったものですか。 」 報告者「そうですね。基礎法に近いですね。ただ、基礎法と 言うほどしっかりとした原則ではない。その段階にはいきた いが、まだそこまではいっていない、ただ、基礎法に成りう るようなものという捉え方をしています。 」 B「それは憲法になるのですか。日本国憲法とか合衆国憲法 とか。 」 報告者「いえ。国内社会で憲法と言うと、日本国憲法のよう なものですが、国際社会とか、いわゆるナショナリティに拘 束されない社会において、憲法のような役割をする規範、原 則があって、それをソーシャル・コンスティテューションと 呼んでいるんですよね。それを日本語に訳すと社会的憲法と な る の で す が。 た だ、 法 学 を 専 門 と さ れ る 先 生 方 は、 ﹃ 憲 法 ﹄ という用語を使うのには違和感があると思います。まだ 憲法とは呼べないような原則ですから。 」

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B「言葉を使い分けないといけませんんね。今のような ﹃ 共 通の認識 ﹄ や ﹃ 基本原則的な認識 ﹄ という感じではなく、例 えば、田中耕太郎先生の世界法の理論だとか、ミルコヴィッ チの憲法の国際化、国際憲法のような。ただあれは国家を前 提とした考え方ですからね。そうではない場合ですから。 」 報告者「そうですね。トランスナショナル・ローも国家を前 提としたイメージが強いですね。トランスナショナル・ロー と、 先 ほ ど の 大 沼 先 生 の 文 際 法 と か 龍 澤 先 生 の 民 際 法 も イ コールではないので、それをどのように説明するかが今後の 課題です。 」 A「どうも憲法と言う言葉に引っかかりますよね。 」 B「法 (のり) 、掟とか。 」 A「根本立法とかね。 」 B「おもしろかったです。 」 A「ありがとうございました。 」 報告者「ありがとうございました。 」 注 ( 1 )  川 村 仁 子「グ ロ ー バ ル な 政 治 に お け る 政 治 思 想 の 位 置 と 機 能: オ ー ト ポ イ エ ー テ ィ ッ ク・ シ ス テ ム 理 論 分 析 の 適 用 可 能 性 に 関 す る 考 察」 、﹃ 立 命 館 国 際 研 究 ﹄ 二 一 巻 二 号(二 〇 〇 八 年 十 月) 、 一 四 一 ― 一 六 三 頁、 「グ ロ ー バ ル 社 会 に お け る 共 和 主 義 の 機 能 と 可 能 性: シ ス テ ム 分 析 に よ る 理 論 モ デ ル の 提 示」 、﹃ 立 命 館 国 際 研 究 ﹄ 二 二 巻 二 号 (二〇〇九年十月) 、二〇一―二一九頁。 ( 2 )  川 村 仁 子「グ ロ ー バ ル 政 治 に お け る 共 和 主 義 の 機 能: オ ー ト ポ イ エ ー テ ィ ッ ク・ シ ス テ ム 理 論 か ら の 考 察」 、﹃ 憲 法 研 究 ﹄ 四 二 号 (二〇一〇年六月) 、七一―一〇三頁。 ( 3 )  ニ ク ラ ス・ ル ー マ ン ﹃ 社 会 シ ス テ ム 理 論(上) ﹄(恒 星 社 厚 生 閣、 一九九三年) 、二四―二九頁。 ( 4 )  龍 澤 邦 彦「グ ロ ー バ ル 法 と ト ラ ン ス ナ シ ョ ナ ル(民 際 的 な) 憲 法 主 義」 、﹃ 憲 法 研 究 ﹄ 第 四 一 号(二 〇 〇 九 年 六 月) 、 一 二 七 頁、 注( 6) 参照。 ( 5 )  Hall, R.B., Biersteker, T.J., eds. 2004. The Emergence of Private

Authority in Global Governance. Cambridge University Press.

) 

Koppell, J.G.S. 2010. World Rule. University of Chicago Press.

( 7 )  カ ッ プ リ ン グ と は、 閉 鎖 的 な シ ス テ ム 間 の 相 互 依 存 関 係 で あ る 。 カ ッ プ リ ン グ は 作 動 上 の カ ッ プ リ ン グ と 、 構 造 的 カ ッ プ リ ン グ に 分 け ら れ る。 一 つ の 作 動 が 複 数 の シ ス テ ム に お い て 同 時 に シ ス テ ム の 作 動 と な る 場 合、 こ れ を 作 動 上 の カ ッ プ リ ン グ と 呼 ぶ。 構 造 上 の カ ッ プ リ ングとは、 あるシステムがそ の 構 造 の 一 部 を 継 続 的 に 他 の シ ス テ ム ( そ の シ ス テ ム に と っ て は 環 境) に 依 存 す る 状 態 を 言 う(ル ー マ ン(土 方 透 監 訳) ﹃ シ ス テ ム 理 論 入 門 ― ニ ク ラ ス・ ル ー マ ン 講 義 録[ 1 ]﹄ (新 泉社、二〇〇七年) 、一三〇―一五七頁) 。 ( 8)   ウルリッヒ・ベック( Ulrich Beck )は、政治学の視点からのオー ト ポ イ エ ー テ ィ ッ ク・ シ ス テ ム 分 析 に よ っ て、 公 的 権 限 を 越 え た と こ ろ に 表 れ た 政 治 的 な も の が 表 れ、 「政 治 的 空 洞 化 が、 他 方 で、 政 治 的 な も の の、 制 度 に 依 存 し な い 復 活 が 進 行 し は じ め て い る。 個 人 が 社 会 の 諸 制 度 に 戻 っ て き た」 状 況 を「サ ブ 政 治」 か ら の 政 治 的 な も の の 自 己 組 織 化 と 捉 え る(ウ ル リ ッ ヒ・ ベ ッ ク「政 治 の 再 創 造 ― 再 帰 的 近 代 化 理 論 に 向 け て」 、 ウ ル リ ッ ヒ・ ベ ッ ク / ア ン ソ ニ ー・ ギ デ ン ズ / ス コ ッ ト・ ラ ッ シ ュ、 松 尾 精 文 / 小 幡 正 敏 / 叶 堂 隆 三 訳 ﹃ 再 帰 的 近 代 化:近現代における政治、伝統、美的原理 ﹄、而立書房、一九九七年、 三六頁) 。 ( 9 )  龍 澤 邦 彦「グ ロ ー バ ル 法 と ト ラ ン ス ナ シ ョ ナ ル(民 際 的 な) 憲 法

(16)

主 義」 、 一 一 五 ― 一 一 九 頁。 但 し、 グ ロ ー バ ル な 民 間 の 自 主 規 制 と し て の グ ロ ー バ ル 法 の 形 成 は、 現 代 だ け に 限 ら れ た も の で は な い。 例 え ば、 中 世 以 来、 教 会 法 や イ ス ラ ム 法、 ユ ダ ヤ 法 と い っ た 宗 教 法 や、 職 業 的 慣 習 制 度 と し て の 商 人 法( jus mercatorum ) が、 国 家 法 と 同 じ 程 度 に 厳 密 に 遵 守 さ れ た(ア ン リ・ レ ヴ ィ ― ブ リ ュ ー ル、 杉 剛 / 高 瀬 暢 彦訳 ﹃ 法社会学 ﹄、白水社、一九七二年、三三―三四頁) 。 ( 10)  

Vogel, L., dir. L. 2001. Droit Globa. L.G.D.J.

( 11)   一 九 二 〇 年 創 設、 本 部: パ リ、 会 員: 世 界 一 三 〇 カ 国 七 四 〇 〇 社、一九四六年より国連のA級諮問機関である。 ( 12)   国 際 商 業 会 議 所 ホ ー ム ペ ー ジ 《 http://www.iccjapan.org 》(二〇一二 年十月十日検索) 。 ( 13)   龍 澤 「 グ ロ ー バ ル 法 と ト ラ ン ス ナ シ ョ ナ ル ( 民 際 的 な ) 憲 法主義」 、 一二四頁。 ( 14)   ICANN 及 び eBay に 関 し て は、 Schultz, Thomas. 2007. Private legal systems: What cyberspace might teach legal th eo ris ts. In 10 Y ale Journal of Law & Technology 151:157-163. を参照。また、情報通信分野 に 関 す る グ ロ ー バ ル 法 に 関 し て は 、 Schultz, Thomas. Le critère de la m ora lité in ter ne d u d ro it comme kréponse aux enjeux éthico-politiques du r èg lem en t des différends hors de lʼEtat. 《 http://www.thomass -ch ult z.o rg /do cum en ts /S ch ult z-Et at -de -d ro it. pd f 》 O ct ob er 10 , 20 20 . Accessed. ) : 1-19. を参照。 ( 15)   千 葉 正 士「ス ポ ー ツ 法 の 国 家 生 徒 自 主 性・ 世 界 性」 、﹃ 日 本 ス ポ ー ツ法学会年報 ﹄ 第一号(一九九四年) 、六頁。 ( 16)   生命倫理と法編集委員会編 ﹃ 資料集   生命倫理と法 ﹄(太陽出版、 二〇〇四年) 、十三―二二頁、二四―二七頁。 ( 17)   同、七三―八六頁。 ( 18)   龍 澤「グ ロ ー バ ル 法 と ト ラ ン ス ナ シ ョ ナ ル(民 際 的 な) 憲 法 主 義」 、一一五頁。 ( 19)   Nölke, Andreas. 2006. Private Norms in the Global Political Econ -omy. In Global Norms in the Twenty-First Century, eds. Klaus-Gerd

Giesen and Kees van der Pijl, 139. Cambridge Scholars Press.

( 20)   龍 澤「グ ロ ー バ ル 法 と ト ラ ン ス ナ シ ョ ナ ル(民 際 的 な) 憲 法 主 義」 、 一 二 五 頁 及 び、 Teubner, Gunther. 2004. Societal Constitutional -ism: Alternatives to State-Centred Constitutional Theory? In Trans -national Governance and Constitutionalism, eds. Christian Jorges , In

-ger-Johanne Sand and Gunther Teubner, 28. Haet Publishing.

( 21)   山 口 光 恒 ﹃ 環 境 マ ネ ジ メ ン ト ﹄(放 送 大 学 教 育 振 興 会、 二 〇 〇 六 年) 、四一―五九頁を参照。 ( 22)   Nölke. 2006. Private Norms in the Global Political Economy. 137., Haufler, H. 2002. Public and Private Authority in International Gov -ernance: Historical Continuity and Change. In paper prepared for the conference on New Technologies and International Governance, Washington DC: 6-9. ( 23)   ス ポ ー ツ 仲 裁 裁 判 所 に 関 し て は Court of Arbitration for Sp or ts 《 http://www.tas-cas.org/news 》( 二 〇 一 二 年 十 月 十 日 検索)を参照。 ( 24)   世 界 医 師 会 宣 言 な ど グ ロ ー バ ル 及 び 国 内 の 医 療 シ ス テ ム 内 の 自 主 規制に関しては、 生命倫理と法編集委員会編 ﹃ 生命倫理と法 ﹄ を参照。 ( 25)   Sciulli, David. 1992. Theory of Social Constitutionalism: Fo un da -tions of a Non-Marxist Critical Theory.Cambridge Univers ity P re ss. , J org -es, C. and Teubner, G. eds. 2004. Transnational G ov ern an ce an d C on

sti-tutionalism. Hart Pub.

( 26)   フ ラ ン ク ・ カ ニ ン ガ ム ( 中 谷 義 和 / 松 井 暁 訳 )﹃ 民 主 政 の 諸 理 論 ― 政 治 哲 学 的 考 察 ― ﹄(御 茶 の 水 書 房、 二 〇 〇 四 年) 、 一 八 三 ― 二 一 〇 頁、二一一―二四〇頁、二四三―二七一頁を参照。 ( 27)   Dahl, Robert A. 1999. Can international organizations be de m o-cratic? : A skepticʼs view. In Democracyʼs Edges, eds. C as ian o H ac ke

r-Cordon and Ian Shapiro, 17-40. Cambridge University Press.

(かわむら・さとこ

 

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