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まえがき
大学の初年次における学びの目的はさまざまである.したがって教科書も多種多様である.諸科
学の最も基礎的な位置にある物理学においても学生の志向・能力に応じて国内外を問わず数多くの
教科書がすでに出版されている.学びの多様性は大切であるが,一方で1つの規範となるものを示
すことも教育の機会を提供する際には重要である.
工科系の学生諸君がこれから学ぶ専門科目の諸学では,個別にいろいろな,しかも詳細な事柄が
現れるであろう.その学びの際には多くの事柄を俯瞰的に系統立てて学問の流れを見定めること,
学びに対して応用志向というはっきりとした姿勢を保つことが必要である.物理学の基礎を学ぶと
きにもそのような学びの意識をもつことは重要である.本書は物理学の中で基礎的な分野を題材に
して,工科系の学生にとって必要な内容の選択と記述を重視して著したものである.
物理学の学びを力学から始めることの理由は,力学が工学を含めて諸科学を学ぶ際に必須な考え
方を教えてくれるもの,さまざまな分野への応用力を養ってくれるものだからである.そのために
適した学び方は,古典力学として完成した体系を能率よく記憶し演習を器用にこなすといったこと
ではない.まず,ガリレイやニュートンが自然から学んで法則を得たようにして基本的なことを学
び,次いで,力学として次第に系統化されてきたようにして段階的にいろいろな概念の理解へと進
むことである.本書ではこれを意識して学びの流れを構成した.
基本的なこととは,ニュートンの3つの法則を中心とする,「力」に関することと「時間変化」に
関することである.次いで学ぶこととは,保存する量,つまり運動量,エネルギー,そして角運動
量の存在である.これらの意義を知るにはいろいろな現象を例として法則の内容を理解することが
必要である.そのために本書では,法則の対象を1つの質点からいくつかの質点へそして剛体へと
だんだんに広げて行き,変形する体系における力の概念,そのごく小さな変形の時間発展としての
波,さらには流体に作用する力と運動,という順に学び進められるようにした.
本書では,質点と質点系および剛体の力学を第I部とし,連続体の力学と波動を第II部とした.
詳しい説明は各部の冒頭にそれぞれ述べるが,取り上げられる現象は物体の運動,弾性体の変形,波
動の現象,流体の運動である.
ここで,本書を著すにあたって念頭に置いた,本書の読者に期待する初年次における物理学の学
びの目的に触れておく.基本的知識を獲得すること,物理学的なものの見方に慣れること,さらに
は物理学とは何かを理解することがまず,学びの目的と言えよう.物理学において基本的知識は,
ものの名前や現象の数々やその分類でなく,基本的な原理や法則である.その数はそう多くはない.
法則の重要なものは,方程式の形で表される.微分方程式は必須である.
法則を真に知るためには単に理解するだけではなく,表現する力を身につけなくてはならない.
問題に直面したときに,法則の意味するところを数式で表現できれば,解くことができる.表現す
るためには,論理的な思考力が必要になる.解くために数学的な基礎力が必要になる.得られた結
果を理解し伝えるためにグラフや言葉を使いこなす力が必要である.物理学を学んで得られるもの
は知識というよりは知力ともいうべき知識と能力であろう.
目的に向かうため指針をもつことは重要である. 授業による学びあるいは個人での学びの指針と
なるように,巻頭に「物理学で学ぶこと」と「物理学の学び方」という付録を設けている.本書が
読者の学びにおいて大きな助けになることを切に願っている.
本書の刊行を企画推進し実現に尽力された東北大学大学院工学研究科・工学部工学教育院の安藤
晃教授と須藤祐子准教授に心から謝意を表したい.
2021年1月 著者一同
工科系の物理学基礎―質点・剛体・連続体の力学―
佐々木 一夫・長谷川 晃・海老澤 丕道・鈴木 誠・末光 眞希著
https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320036130