HLA−E,−F,−Gの発現と機能
一胎児/母体間免疫のブラックボックスは開きうるか{
奈良県立医科大学法医学教室 石 谷 昭 子
EXPRESSIONANDFUNCTIONOFHLA−E,−FAND−G
AKIKOISHITANI
ヱ)断面椚函化柳川如油町物融肋血が履脚砂 ReceivedFebruary18,2002
抄 録:いかなるHLAclassIIもHLA−A,−Bも発現していない胎盤トロフォブラスト上には,
多塑性の乏しいHLA−E,−F,−Gが発現している.これらの分子の相互作用がどのように妊娠の 維持に働いているかについて述べる.また最近,HLAl;がアロ反応性T細胞のアポトージス を誘導する等の免疫寛容に係わっているという報告がでて,移植免疫の分野においても脚光を 浴び始めている.これら分子の基礎と最新の知見について考察する.
Keywords:HLA−E,HLA−F,HLA−G,placenta,immunotolerance
緒 言
妊娠において胎児は,遺伝子の半分が父親由来で,母 体にとっては一種の同種移植片である.臓器移植におい ては常に拒絶反応は引き起こされ,特に移植片のHLA型 がレシピェントのそれと異なる場合は急激な拒絶反応が 開始される.妊娠においてはHLAの適合性が考慮されて いるわけではないにもかかわらず,母体は妊娠期間中,
胎児を拒絶せず生者させている.この母児の接点におけ る免疫機構の疑問は1950年代から問われ続け,未だに解 明されていない.これまで,この免疫機構を解明するひ とつの鍵として母児の接点である胎盤トロフォブラスト 上のHLAについて多くの研究がなされてきた.
HLA遺伝子は,第6染色体短腕上に存在し,これらは classIとclassIIに分類され,ClassIはさらにHLA−A,−
B,−CのclassIaとHLA−E,一F,−GのclassIbに分類され る.classIa遺伝子は非常に多型に富み,多くの(全てで はないが)体細胞の細胞表面に発現しており,機能として は,内因性抗原をT細胞に捷示し,一連の免疫反応を開 始させる機能,およびNK細胞の抑制性レセプターに結 合し,細胞傷害活性を抑制する機能が知られている.
一方,ClassIb遺伝子のHLA−E,−F,一右1−3)は1987年〜
1990年にGeraghtyらによりHLAclassI領域のgene
mappingにおいて発見されたもので,当時,これらは多 型性が著しく乏しいこと以外はその発現や機能について はほとんど知られていなかったため,偽遺伝子等と同一 視され,進化の過程で生じた遺伝子の「くず」であるとも 言われていた.しかし1990年,既知のHLAはclassI もclassIIも発現していない胎盤トロフォブラスト上に 未知のHLA分子が発現しており,それがHLA−Gであ ることが2次元電気泳動法等により明かにされ4▼5)て以 来,この遺伝子は脚光を浴びることとなった.その後,
モノクロナル抗体の作製6−8)により,HLAl;遺伝子の発 現部位が母体と胎児のまさしく接点である胎盤トロフォ ブラストに限局されていることが明らかになり9),この 多型性の乏しいHLA−Gこそが,母体の免疫学的拒絶か
ら,半移植片としての胎児を保護しているのではないか と推測され,産婦人科あるいは移植免疫領域において多 数の研究がなされてきた.またHLA−Eについては1998 年,モノクロナル抗体によりトロフォブラスト上には HLA−Eも発現していること10・11),およびこの遺伝子の特 異的な発現様式12・13)が明らかにされてから,この遺伝子 の機能に多くの研究者が惹きつけられた.HLA−Fにつ いては最近ようやくモノクロナル抗体が作製され10・14・15),
研究の緒についたところである.
最近,HLA−Gの発現が胎盤トロフォブラスト以外の
(114)
石 谷細胞,ある種の痛組織,移植片に発現しているとか,活 性化T細胞が可溶性HLA−G抗原を分泌し,それが免疫 寛容を引き起こすというように,痛免疫や移植免疫に直 接関係した報告が出されている.本稿においては,これ ら遺伝子に関する基礎的知見を解説するとともに,疾患 に関連した最新の知見についても考察したい.
多 型 性
classIb抗原の構造はclassIaと全く同様に,細胞膜外 のα1,α2,α3の3つのドメイン,膜貫通領域および細 胞質領域よりなる.そしてα3ドメインにおいてβ2ミク ログロブリンと非共有結合により結合し,HLAclassIの 立体構造を保っている.全体として,ClassIaとIbの相 同性は,ClassIaの−A,−B,一七間における相同性と大きく
は変わらない1−3)
ただclassIb遺伝子の重要な特性としては多型性が非 常に乏しいことがある.多塑性の有無はその遺伝子の機 能と深く関連するものと考えられ,これまでHLA−Gお よびHLA−E遺伝子の多塑性について多くの研究がなさ れてきたが,検出された多型はFig.1に示すように著し
く乏しいものであった.
HLAイ;のアミノ酸レベルの多型については,110番の アミノ酸がロイシンからイソロイシンに変異したアリル が人種により約20〜50%存在しているのみ射7)で,他は 非常に頻度の低い多型についての報告がわずかにみられ
HLA−E
Arg→Gly
50%
昭 子
る程度である16).かって,VanderVenとOberがAfrican Americanにおいて26ヶ所に蛋白レベルの変異が存在す るという,ClassIb遺伝子の常識をゆるがすような報告 を出して驚かせた18)が,我々が再検したところ,他の人 種と大差なく,そのような多型性は認められなかった19).
ただ,アフリカ系の人種にはコドン130のCが欠損し,
a2ドメインの中頃から蛋白が合成されないnullalleleが 数%の頻度で存在している19・20)
HLA−Eについては,107番目のアミノ酸がグリシンあ るいはアルギニンである2種類のアリルがほとんど全て の人種においてほぼ同率存在するのみである16・21).その 他には83番の多型がごくわずかに存在するという報告 があるが.かって157番における多型がOrientalにおい ては約50%の頻度で存在していると報告された16・22)が,
これも我々が再検したところ,この多型はまったく検出 されなかった21・23)
HLA−Fについては,これまで,2箇所の多型が報告さ れているが,まだ確認されてはいない24).
HLA−EとHLA−Gの多型についは多くの解析がなさ れてきたが,結局,ほほ2種のアリルが存在するのみで ある.すなわち,進化の過程でそれぞれ2種のアリルの みを保ってきたということは,それら遺伝子の機能上,
多型性の発生が不利に作用するものと考えられ,多種の 多塑性を保っているclassIa遺伝子とは異なった,なん
らかの重要な機能を示唆するものであろう.
HLβrG
Osynonymouschanges ◎Non−SynOnymOuSChanges
Fig・1PolymOrphismsofHLA−EandHLAイigenes
WhitecirclesshowsynonymOuSChangesandblackcirclesshownon−SynOnymOuSChangeS.
HLA−E,−F,−Gの発現と機能
遺伝子の発現と機能
遺伝子の発現についてはmRNAおよび蛋白としての 発現を調べなければならないため,多くの研究者がモノ クロナル抗体の作製を試みてきたが,多くは成功してい ない.我々はこれまでに,Tablelに示すように,HLA−
E,−F,−Gに対する7種のモノクロナル抗体8,10−11)の作製 に成功し,これらを用いて,これら遺伝子の解析を行っ てきた.
1,HLAJi
a)胎盤における発現
胎盤トロフォブラスト上に発現している未知のHLA がHLA−Gであることが明らかにされて4−5)以来,HLA−
Gの発現について多くの研究がなされてきたが,蛋白と して検出されるのは胎盤トロホブラストに限定されてい る.mRNAについては,皮膚,眼,T,B細胞,精子等 に発現しているという報告が相次いだが,我々が抗 HLA一七モノクロナル抗体8)を用いて人体組織全般につ いてHLA−G抗原の検索を行った結果,胎盤以外ではい ずれにも検出されなかった9).
胎盤においては,HLA−Gは母体組織に侵入しつつあ るextravillouscytotrophoblast(ext.CT)には膜結合性 HLA−G抗原が非常に強く発現されており,絨毛の最外 部にあり,絨毛間腔の母体血に接しているsyncytiotr0−
phoblast(ST),そのすぐ内側にあるvillouscytotropho−
blast(vil.CT)には可溶性HLA−G抗原が発現・分泌され ている.さらに絨毛間腔の母体血中にも可溶性抗原が検 出されている9110)(Fig.2).このHLAli抗原の局在性は いずれの妊娠ステージにおいても同様の傾向を示したが,
初期において最も強く発現していた9).このように,母 体の免疫細胞と接するすべてのトロフォブラスト上に多
Tablel.Anti−HLA−E,−F,and−Gmonoclonalantibodies
慧豊㌦ped触Ⅳ r品
87G f監禁も㌫ nc
OIG HLA−Gl nc 16GI HLA−GI sol nc 3D12 HLA−E nc 4D12 HLA−E nc 3Dll HLA−F nc
4Dll HLA−F HLA−CM4&
Isoty匹
蹄 冨 帆 圃 帆 帆
(115)
塑性の乏しいHLA−Gが発現し,それらの細胞から 非自 己 と認識されないように保護していると考えられる.
また我々は,Fig.3に示すように,HLA−Gは選択的 スプライシングにより,可溶性HLA−Gおよび3種のiso−
fomのmRNAを産生することを明らかにした7・25).これ らisoformについては,全ドメインをもつものをHLA−
Gl,α2ドメインを欠くものをG2,α2α3ドメインを欠く ものをG3と命名した.これらの分子はすべて,RNase Protection法により胎盤組織内に有意の量が存在するこ
とが明らかになり,それぞれに,何らかの機能を持って いるものと推測される.我々は,GlはclassI抗原とし ての機能を果たし,またG2はそのドメイン構造の類似 から2分子でhomodimerを形成してclassII分子と類似 した構造をとっている可能性があると推測している.こ のように,HLA−Gは選択的スプライシングによりclass I,ClassIIおよび可溶性抗原等の分子を作り出し,トロ
ホブラスト上のMHCの役割をひとりで多投果たしてい るように見える.
b)胎盤以外における発現 移植において
胎盤以外における蛋白レベルの発現が,痛組織等につ いて近年報告されはじめている.
癌細胞は通常classI抗原の発現が低下しているにも かかわらずNK細胞の攻撃から免れているが,これが HLA一右の発現によるものではないかという推論に基づ いている.Paulら26)はmelanomaの組織23サンプル中 5サンプルはHLA−GmRNAおよび蛋白を発現していた と報告している.また,Pangaultら27)は肺がん組織等に 浸潤しているマクロファージや樹状細胞にHLA−Gが発 現していることを報告している.しかしRea128)らは50種 の痛組織と31種のtumorcelllineについて調べ,ほと
Imuno−
precipitation
+ weak
+
−
+ 十
+
+
+
+
+
+
+
+
AcrossreactswiththeCw*0401−3,*0405butnot*0404 nt,indicatesnottested
nc,indicatednocrossreactivitywithtestedHurA,−Band−Cspeci免cities
EuSA histology westemblot
十十++n t++
+ 十 十 十 十
+
W
血一 一
+
−
+
十
十
(116)
石 谷 昭 子Fig・2・TheexpressionofHLA−GlandHLAl;1solonplacenta a)ThecartOOnOfplacenta,b)magnificationof□regionin(a)
HLAl;1isexpressedinextravilloustrophoblast(CCC,CS,IC,IAC),HLA−GIsolisexpressedinCT,ST,
ⅠVS,andextravilloustrophoblast.
FV:fetalvein,FA:fetalartery,DB:decidualbasement,TV‥floatingvilli,AV=anChoredvi11i,MB:matemal
blood・IVS:intervillousspace,ST:SynCytiotrophoblast,CTcytotrophoblast,CCC:CytOtrOphoblastcell COlumn・CS:CytOtrOphoblasticshell,D:decidualcell,IC:interstitialcytotrophoblat,IAC:intra−arterial
CytOtrOphoblast.
GIsol臨 α1
鳥加井mrl・i。2S。1野獣==董==瀾二島遜樹
=∴∴
G1 位(勺 G3(乃 Fig・3・SummaryofthealternativesplicingofHLA−Gtranscriptsandtheencodedproteins.
Left,SChematicdrawlngSOfthealternativeformsoftheHLAl;mRNA.Right,drawlngSOfknownand
hypotheticalHLA−tproteins・Thelowerc訂tOOnSindicatethesurface−boundproteinwhereasthose aboverepresentthesolubleforms・Glisthefu11−1engthHLAl;proteinandG2andG3representproteins encodedbytheG2andG3mRNAs(left).ThesolubleformsofGlandG2areindicatedabovewiththe unlque21aminoacidcarboxylterminusindicatedasahatchedline.
*indicatesthepositionofastopcodonendingtheopenreadingframeineachofthemRNAs.
HLA−E,−F,JGの発現と機能 んどの場合に mRNAはRT−PCRで検出されたが,3
種のモノクロナル抗体(87G,01G,G223)を用いて調べた 蛋白としての発現は,いずれの場合も検出されなかった と報告している.このように痛組織におけるHLA一七の 発現については多くの相矛盾した報告がなされている.
今,HLAJこの蛋白の正確な検出法の確立が求められて いる.
一方,Lilaら叫は心臓移植後それが生者している患者 の血清や生検組織にHLA−Gが発現しており,この HLAJGを産生している細胞がCD4+T細胞であること を報告した.リンパ球混合培養試験を行い,ある種のre−
sponder/stimulatorの組み合わせにおいて,reSpOnder のallo−SpeCificCD4+T細胞が可溶性HLAl;を分泌す ること,そして,その可溶性HLA−GはT細胞のアロ反 応を抑制することを報告している.
産婦人科領域の由床において
体外受精において,Fuzziら30)はinvitroで受精させた 卵の培養液中に可溶性HLA−Gが分泌されていることを 報告した.そしてこの受精卵を可溶性HLAイ;を分泌し ているものと,していないものとにグループ分けしたと ころ,分泌していないグループの受精卵は体内に戻され ても妊娠には至らず,分泌しているグループの受精卵の 24%が妊娠に成功したと報告している.すなわち,可溶 性HLA−Gを分泌することは,受精卵が母体内で妊娠期 間生着するための必須条件であって,十分条件ではない ようである.
また,妊娠中毒症の胎盤においては脱落膜中に侵入し ているトロフォブラストのHLA−Gの発現が消失してい るという報告31,32)がいくつかある.しかし,これについ て我々氾・鋸)が調べたところ,HLA一七を消失しているトロ フォブラストはすべてネクローシスを起こしていて,ほ とんど死細胞に近い状態にあって,他の酵素活性等も無 くなっていた.すなわち,HLA−Gを消失しているのは それが妊娠中毒症の原因というよりは,結果でしかない
ように見られた.
C)抗原提示能について
HLA−Gが抗原提示を行っているかどうかについての 直接的証明はまだみあたらないが,これを支持する傍証 はいくつか報告されている.まずこの分子が内因性抗原 のペプチドと結合するかどうかについて,我々8)が,
HLA」;遺伝子を導入した細胞を用いて調べたところ,
その結合ペプチドはclassIaと同様に,細胞質内蛋白由 来のペプチドで,しかもHLAl;の発現もTAP依存性
であった.すなわち,HLA−Gは細胞質内蛋白由来のペ プチドを結合することができると考えられる.そこで次
(117)
に,invivoでも同様のペプチドを結合しているかどうか を知るために,胎盤からHLAl;を抽出し,それの結合 ペプチドを分析したところ,驚いたことに,invitroと 全く異なって,ほぼサイトカインレセプター由来ペプチ
ド一種類のみであった(未発表).このことから,抗原捷 示はHLA−Gの主たる役目ではないのではないかと推測
される.
一方,HLAl;トランスジェニックマウスを用いた実 験において,ⅠmA一石がMHC拘束分子として機能し,
細胞傷害性T細胞(CTL)の反応を惹起することを示し た報告お)がある.しかしこのトランスジェニックマウス の場合は,HLA−Gはマウス組織全体に発現しており,
ヒトの場合とは異なり,おそらくclassIa分子として機 能しているのではないかと考えられる.また,HLAイ;
が抗原提示を行っているもうひとつの傍証として,
HLA−GはCD8を認識して結合するという報告36)や,さ らに近年,そのCD8とHLA−Gの親和性がかなり高いと いう報告37)が出されている.しかしこれらの報告に対し て,CD8と可溶性HLA一七のこの反応はFas/Fas−ligand を介したもので,Tcellreceotor(TCR)非依存性である ことを示し,HLA−Gが活性化CD8T細胞のアポトージ スを誘導するという報告刃)が出された.すなわちこれら の結果も,我々の仮説,「HLA−Gは抗原提示をしていな い」を支持しているように考えられる.
d)NK傷害活性抑制能について
HLAl;のNK傷害活性抑制能に関しては,抑制能があ ることについては一致していたのであるが,いかなるレ セプターと結合するのかについて長期間混沌としていた.
この理由についてはHLA−Eの項で述べる.1998年に入 り,HLA一石の結合するNKレセプターはimmunoglobu−
lin−liketranSCript(ILT)2およびILT439・40)であることが 明かにされた.さらに,killerimmunoglobulin−likere−
ceptor(KIR)2DL441)もHLA一石と結合することが報告さ れ,1999年にはこのKIR2DL4は全てのNK細胞に発現 し,HLA−Gにのみ特異的に結合し,他のclassI分子と は反応しないと報告42)された.すなわち,HLAイ;はほ とんど全てのNK細胞に発現するILT2およびILT4や KIR2DL4のリガンドとなってNK傷害活性の抑制に働 いていると考えられる.
2,HLA−E a)発現
HLA−E蛋白はclassIaと同様に多くの組織に発現し ており,しかもclassIaとは異なって胎盤トロフォブラ ストにも発現している10).
近年,HLA−Eが急激に注目を浴び始めた.それはこ
(118)
石 谷の遺伝子が他のHLAと非常に異なった特性を持ってい ることが明らかにされたためである.すなわち,他の classI抗原が全く発現していない細胞においてはHLA−
Eは膜上には発現され得ないのである.通常HLAclass Ia蛋白は,細胞内蛋白由来のペプチドをそのHLA分子内 に結合し,そのことで分子が安定化し,細胞膜上に輸送 され,そこでこのペプチドをT細胞に提示するという機 能を持っている.ところがHLA−Eは,細胞内蛋白由来 のペプチドとはほとんど結合することができず,細胞内 の他のHLAclassIのシグナル・ペプチドのみを結合し,
始めて膜表面に発現できるのである.そして,このシグ ナル・ペプチドも全てのclassI由来のものが結合できる わけではなく,HLA−B27やB51のシグナル・ペプチド は結合しない.一方,ClassIbのHLA−G由来のものは 結合できるということが明かになった11).このような HLA−Eの結合ペプチドに対する強い選択性は結晶解析 により得られたHLA−E蛋白分子のペプチド結合溝の構 造43)からも十分理解されるものである.
b)抗原捷示能について
このような特殊な発現様式やペプチド結合における特 性は,このHLAの機能を現しているものであろうことは 容易に推定される.内在する他のHLAclassI分子をT 細胞あるいはNK細胞に提示することがこの分子の機能 なのではないであろうか.HLA−E遺伝子のマウスにお けるホモログと考えられるQaq144)が,マウスのclassIa 遺伝子H−2Dのシグナルペプチドと結合して,アロ反応 性T細胞にこれを提示することが報告されている.ヒト のHLA−Eも同様に,細胞内に存在するHLA−E以外の HLAのシグナル・ペプチドをT細胞に提示する機能を持 っている可能性も考えられる.しかし,これまでHLA−
EがTcellreceptorと結合するという報告はされていな い.一方,influenzaviruSおよびEpstein−BarrviruSの 2種のvims蛋白をHLA−Eが結合しうるという報告45)
が最近出されたが,HLA−Eの抗原提示能についてはま だ多くは解明されていない.
C)NK傷害活性抑制能について
HLA−Eは,Cタイプレクチン・スーパーファミリー に属する抑制性NKレセプター,CD94/NKG2Aと結合し てNK傷害活性を抑制するすることが1997年Geraghty ら12)およびMcMichelら13)により報告されて以来,同様の 結果が多数報告され,今や定説となった.CD94/NKG2A レセプターは非常に幅広い種類のNK細胞がもっている ことが知られているが,この分子が,人体中ほとんどの 組織に発現しているHLA−Eに対するレセプターとして 機能しているということは理にかなうものと考えられる.
昭 子
ちなみに,胎盤脱落膜中のNK細胞の多くもこのレセプ ターをもっている.
これまでHLAのNK細胞に対する作用を調べるに当 たっては,いかなるHLAclassIも細胞表面に発現して いない721.221hunanlymphoblastoidcellline(.221),
およびその細胞に各種classI遺伝子を導入した細胞を 標的細胞として各種NK細胞の傷害活性が調べられてき た.この.221細胞はHLA−E以外のclassI遺伝子は欠 損しており,しかもHLA−Eも細胞質内にはその蛋白が 合成されているが,細胞膜上には発現されていない.と ころが,この.221に他のclassI遺伝子を導入すると,
導入されたHLA分子のみならず,そのHLAのシグナル ペプチドを結合してHLA−E分子も膜上に発現されるの である11).そのため,これまでHLA−A2とかCw4等class Ia分子がリガンドであるとされていたNKレセプターの うちCD94/NKG2Aレセプターのすべて,あるいはほと んどの場合がclassIaではなく,HLA−Eがリガンドであ ったことが明らかにされた.HLA−Gも一時期は CD94/NKG2Aレセプターのリガンドと考えられていた が,同様の理由で,すべてHLA−Eがリガンドとして機 能していたのであった.
このHLA−EとCD94/NKG2レセプターの反応につい てはさらに興味のある結果がGeraghtyとI.opes−Botet のグループから報告された46).HLA−Eは結合するペプチ ドの種類によりその作用が異なってくるというものであ った.HLA−EはclassIa由来のペプチドを結合している 場合はCD94/NKG2Aと結合してNK活性を抑制するが,
活性化レセプターのCD94/NKG2Cとはほとんど結合し ない.一方HLAVV‖ペG由来のペプチドを結合している場合 はNKG2Aとも結合するが,他のペプチドを結合してい る場合よりもその抑制能は低く,むしろ,NKG2Cとよ り結合しやすく,NK活性を活性化させると報告亜)して いる(Fig.4).HLAliの発現する胎盤において,NKG2A とNKG2Cの存在する比率はまだ調べられていないが,
このことは,HLA−Eが複雑なNK活性の調節に携わって いることを示唆しているようである.
3,HLATF
HLA−Fの発現について我々10)はモノクロナル抗体を
用いて検索したところ,これまで調べたcelllineすべて
において,細胞表面には発現しておらず,細胞の種類に
よっては細胞質内にその蛋白が発現していた.胎盤にお
いてはトロフォブラストの細胞内に発現していたが,満
期胎盤の脱落膜中に侵入しているトロフォブラストのみ
においては細胞膜上に強く発現していた.これは抗
HLA−Gと抗HLA−F抗体の二重染色をし,共焦点顕微鏡
HLATE,−F,LGの発現と機能
b)
tar酢ttell
peptide(tla$SIaderiYed)
NKG2A/B
Inhibition
peptide(ELA・GderiYed)
NXG2C DAP12
Activation
(119)
Fig.4.InteractionofHLA−Eandl;withNKreceptors,CD94/NKG2
a)NKG2A/BformShetero−dimerwithCD94byS−Sbond・Thisc?mplexrecognizesHLA ̄Eassociating
withpeptidederivedfromHLAclassIaandsendstheinhibitoryslgnaltoinhibitthecytotoxitythrough theITIM.
b)NKG2Cformshetero−dimerwithCD94.NKG2Cassociateswiththehomo−dimerofDAP12byS−S bond.ThiscomplexrecogTlizesHLA−EassociatingwithpeptidederivedfromHLA−Gandsendsthe activatedsignalthroughtheITAMofDAP12・
により解析したもので,さらにこれらの細胞を分離し,
FACSで表面抗原の確認をする必要があるであろう.
機能についてもHLA−Fの4量体を用いて,これが ILT2とILT4NKレセプターと結合しうることを報告47)
したものが出されたところで,まだほとんど報告は無い.
しかし,多型の乏しき,発現が限局されていること,そ して母体内に侵入しているトロフォブラストのみにおい て細胞表面に発現していること等から,この遺伝子に何 らかの特殊な機能がうかがえる.
HUトE,−F,−G分子の胎盤における相互作用 HLAclassIaやclassIIが発現していない(HLA一七が 弱く発現しているという報告はあるが)胎盤トロフォブ ラスト上には,HLA−E,−F,一七が共に発現していること が明かにされてきた.HLA−Fについては今後の研究を得 たざるをえないが,HLA−GとHLA−Eは密接な相互作用 を行っているようである.
一つのNK細胞上に同時に発現するILT2と CD94/NKG2AレセプターはそれぞれHLA−GとHLA−E を認識することは確かめられている49).一方,HLA−E はHLAl;由来ペプチドを結合した場合のみは CD94/NKG2Cなどの活性化レセプターと結合し,NK細
胞を抑制よりは活性化する方に作用する.胎盤において は存在するHLA分子は主としてHLA一右であって,わ ずかにHLArCも存在するかもしれない.従って,胎盤 においてHLA−EはHLAl;由来ペプチドを結合し,NK 細胞を活性化させる方向に働き,同じNK細胞をHLA−
GはILT2を介して傷害抑制に働く.すなわち,HLA−E と一七は共にNK細胞に働きかけ,一方は傷害性を抑制し,
他方は活性化することにより各種のサイトカインを分泌 させるという,妊娠維持にむけて複雑な働きをしている と考えられる.
また,サイトカインの一つINFγがHLAl;の産生を 誘導するという報告が見られる.HLAl;を導入したマ ウス線維芽細胞celllineをINFγで刺激するとHLA−Gの mRNA量および蛋白量を増加するという報告叫や,急性 白血病細胞をINFγで刺激することにより,それまで発現 していないHLAliの発現が誘導されるという報告51)が ある.
一方,HLA−Gの発現が,サイトカインの分泌を誘導 するという報告も出されている.健常者の末梢血単核球 をHLAliを発現していない.221細胞と,あるいは HLA一石を導入した.221−G細胞と共培養し,単核球から
のサイトカインの分泌量を測定したところ,.221−Gの場
(120)
石 谷合は,妊娠維持にはたらくとされているIL−3とIL−1β の分泌量が増加し,流産の方向にはたらくTNF−αは低下 したと報告52)している.ところが,同様の実験を習慣性 流産患者の単核球について行った場合53)は,単核球によ るIL−3の分泌量は.2211;と.221との間に差がなかった
と報告鎚)し,習慣性流産患者の単核球はHLAl;に反応 してIL−3を分泌する機能が低下しているのではないか と推測している.すなわちHLAliは妊娠維持に有利に はたらくサイトカインの分泌を促進し,不利なものを減 少させるとしている.しかし,この分野についてもまだ,
確定されたものは無く,さらなる報告が待たれる.
ここでひとつ,興味ある報告が出されている.Ober ら48)がHLA−Gのnull遺伝子HLAイ㌢0105N遺伝子をホ モで持っている成人女性で,無事子供を出産した例を報 告している.このことはHLA−Gは妊娠の維持に必須で はないのかという疑問を引き起こす.この遺伝子の場合,
すべてのドメインを持つHLA−Gは全く産生されないが,
G2,G3のisoform7)は産生される(Fig.3参照).Oberは,
Glがなくても,G2isofomの分子が,HLA−Gとして 機能しているのではないかと推測している.しかし,α2 ドメインのないG2isoformがclassIb分子としてはたら きうるのかは,疑問がある.あるいはHLAliのシグナ ルペプチドは産生されるため,これを結合したHLA−E がclassIとしての機能を代行するのであろうか.すなわ ち,HLA一石の役割は,HLA−Eにペプチドを提供するこ とにあるとも考えられる.しかしこの事例において,そ の同胞のうち3名は流産で出産されていないことから,
null遺伝子のホモの女性が子供を無事出産できたのは,
HLA−EあるいはHLATtによる代替機能が特にうまく 働いた幸運な1例であったかもしれない.とにかく現時
点では推測の域をでない.
以上述べてきたように,HLA−GとHLA−Eとの巧妙な 相互作用やHLAイ;のアロ反応抑制機能等がようやく明 かにされはじめて,母児免疫のブラックボックスが少し 覗き見できるような状態になってきた.HLA−Fについて も,脱落膜に深く侵入したトロフォブラストにのみ細胞 表面に強く発現するということから,特異な機能がうか がわれ,HLA−GとHLA−Eと共に今後の研究が待たれる
ところである.
文 献
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