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骨肉腫における

miRNA-1

の抗腫瘍効果の検討(要約)

日本大学大学院医学研究科博士課程 外科系整形外科学専攻

藤井 亮太 修了年

2018

年 指導教員 齋藤 修

(2)

【背景】

骨肉腫は近年の化学療法と手術療法による集学的治療により生存率は60-80%まで 改善したが、ここ約30年間では一定で変わりがない[1]。近年、他のがんでは発がん に関する原因遺伝子が同定され、それを標的とした分子標的薬が開発されている。

その効果は目を見張るものである。骨肉腫でも分子標的薬を含む様々な臨床試験が 報告されているが、その治療成績については十分でない[2]。骨肉腫には様々な遺伝 子変異が報告されているが、病因につながる統一的事象がなく腫瘍形成の原因はい まだ不明のままである[3]。そのため、さらなる生存率改善のために骨肉腫における 腫瘍形成の解明が不可欠である。

近年、がんを含む様々な疾病においてmicroRNA(miRNA)が重要な役割を果た すことが分かってきた。miRNAsは多くのがんにて発がんへの関与が報告されてお り、骨肉腫においても同様に様々なmiRNAが関与し、診断や予後因子、さらには新 規治療薬として研究されている[4-6]miRNAは一つで複数の遺伝子発現を同時に標 的とするため、破綻した生体ネットワーク全体を正常化することが期待でき、広範 囲でかつ効率的な治療効果が得られるものと考える[6]。そのため骨肉腫の腫瘍形成 ならびに転移においてもmiRNAの寄与を示す知見が増えており[5, 7-10]、そのメカ ニズムの解明、更にはmiRNAを標的とする新規治療法の開発が期待されている。

miRNA-1miR-1)は骨肉腫を含め様々ながんにおいて発現が低下している[11,

12]。腫瘍抑制因子として作用し、腫瘍細胞の増殖・浸潤・遊走やアポトーシス、細 胞周期、薬剤感受性など様々な生物学的な過程に関与し、miR-1を再発現させるこ とは骨肉腫を含むがん治療における新規治療の発展にとても重要なものと考える[12- 15]。

【目的】

miR-1は間葉系幹細胞に作用し骨格筋と心筋の発達に重要な役割をもつと報告さ

れている[16]。そのため間葉系由来である骨肉腫は、その発生機序にmiR-1が重要な 役割を示しているのではないかとの仮定で注目した。そこで本研究は骨肉腫におけ

miR-1の機能解析、またその標的遺伝子を同定・機能解析し、さらにマウス皮下

腫瘍モデルにmiR-1を導入し抗腫瘍効果を検討することで新規治療法の開発の足掛 かりを作ることを目的とした。

(3)

【材料と方法】

骨肉腫細胞株(MG63、Saos2、G292)と正常骨芽細胞株(hFOB1.19)における miR-1の発現量をQuantitative real time PCR(qRT-PCR)で検討した。miR-1またはコ ントロールとしてnegative control miRNA(NC-miRNA)導入後、腫瘍増殖は細胞増

殖能をWST8 assay、さらに細胞周期および死細胞の割合をフローサイトメトリー法

(FACS解析)にて検討した。さらに生体における抗腫瘍効果は、免疫不全マウスの 皮下に骨肉腫細胞株(MG63)を注入して皮下腫瘍を作成後、miR-1もしくはNC-

miRNAを腫瘍組織周囲に投与することで検討した。腫瘍サイズの計測に加え、Ki67

染色によって細胞増殖活性を検討した。遊走能と浸潤能はWound healing assay

Matrigel invasion assayでそれぞれ検討した。miR-1の標的遺伝子、細胞死関連遺伝子

の発現はqRT-PCRWestern blot assayにより解析し、それらの遺伝子をsiRNA ノックダウンし、上記各手法により細胞機能の変化を解析した。統計学的解析は、

Student’s t検定によって行った。

【結果】

すべての骨肉腫細胞株で正常骨芽細胞株と比べmiR-1発現が有意に低下していた

p<0.05)。そこで、骨肉腫細胞株(MG63)にmiR-1miR-1群)もしくは

NC-miRNANC-miRNA 群)を導入した。細胞増殖はmiR-1群で有意に抑制され

(p<0.01)、S期の減少(p<0.01)とG0-G1期の増加(p<0.01)を認め、G0-G1期で の細胞周期停止を誘導した。G0-G1期での細胞周期停止のメカニズムを解明するた めに細胞周期関連遺伝子の解析を行った。miR-1導入によりp53p73発現、p53 リン酸化には変化しなかったが、p21発現は有意に上昇しp53に非依存的な経路での 細胞周期停止を誘導していた。そこで、p21を制御している遺伝子の候補として

miR-1の標的遺伝子の一つであるPAX3に注目した。miR-1群において、PAX3発現

が有意に抑制され(p<0.01)、さらにPAX3-siRNA(siPAX3)で細胞増殖の有意な 抑制を確認した(p<0.01)。さらに、S期の減少(p<0.01)とG0-G1期の増加し

(p<0.01)、p21発現の上昇を認めた。マウス皮下腫瘍モデルではmiR-1群が有意に 腫瘍増大を抑制した(p<0.01)。さらに、組織のKi67染色により、miR-1群は腫瘍 増殖活性を抑制した(p<0.05)。

遊走・浸潤能はmiR-1群で有意に抑制した(遊走能:p<0.01、浸潤能:p<0.01)。

(4)

さらに遊走・浸潤能を制御している遺伝子を検討し、miR-1の標的遺伝子の一つで あり、かつ上皮間葉系転換(EMT)の制御に関与するSlugに注目した。miR-1群は 有意にSlug発現を抑制した(p<0.01)。Slug-siRNA(siSlug)にて遊走・浸潤能の有 意な抑制を確認した(遊走能:p<0.05、浸潤能:p<0.01)。Slugは様々な細胞接着因 子の作用に関与するため検討した。miR-1群ではE-cadherinおよびOB-cadherin発現 は上昇し、N-cadherin発現は低下していた。siSlug群ではOB-cadherinのみ発現が上 昇し、E-cadherinおよびN-cadherin発現に変化はなかった。そこで骨肉腫の遊走・浸

潤能にはOB-cadherinが中心的な役割をすると考え機能解析を行った。OB-cadherin-

siRNAsiOBcad)では遊走・浸潤能ともに促進した(遊走能:p<0.01、浸潤能

p<0.01)。

【考察】

miR-1は間葉系幹細胞に作用し骨格筋と心筋の発達に重要な役割を持ち多くのがん

で低発現しているが、その詳細な作用は分かっていない[11, 12, 16]。本研究では骨肉

腫のmiR-1発現は低下し、過剰発現により増殖、遊走、浸潤能を抑制した。さらにマ

ウス皮下腫瘍モデルにおいても miR-1 投与により有意に生体内での抗腫瘍効果を示 した。

多くのがんでmiR-1過剰発現は細胞増殖を抑制すると報告され、本研究でも細胞増 殖を有意に抑制し、G0/G1期停止の誘導を認めた[11, 12, 15]。そこで、さらなるメカ ニズムを解明するために細胞周期関連遺伝子の解析を行った。p53G0/G1期停止を 誘導するために重要な遺伝子であり[17]、p53 pathwayによりp21発現は上昇する[18]。

しかし、本研究ではmiR-1過剰発現はp53非依存的経路でp21発現を上昇させ細胞周 期停止を誘導した。p21 もまた多くの miRNAで制御されるが miR-1 の標的遺伝子で はないため、p21を制御している遺伝子の候補としてPAX3に注目した[15]。PAX3 胎生期における細胞増殖、浸潤や生存または細胞系統分化に携わる PAX 遺伝子ファ ミリーの一つであり、p21 を介して細胞周期を調節すると報告されている[19]。本研

究でmiR-1過剰発現によりPAX3発現は抑制され、PAX3のノックダウンでも同様に

細胞増殖を抑制し、p21発現の上昇を認めG0/G1期停止も誘導した。miR-1過剰発現 PAX3発現の抑制を介してp53 familyに非依存的な経路でp21発現を上昇させるこ とを明らかにした。

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多くのがんでmiR-1は遊走・浸潤能の関与が報告されているが[12-14]、そのメカニ ズムの詳細は分かっていない。腫瘍の浸潤・転移には初期の段階で EMT が関与し、

骨肉腫においても EMT が腫瘍形成に関与すると報告されている[20, 21]。EMT には Slugを含めた様々な遺伝子が関与し[20, 22-25]、骨肉腫ではSlugの高発現が悪性度と 相関することが報告されている[25]。Slug E-cadherin 発現の低下、N-cadherin 発現 の上昇を生じる。その結果、細胞接着機能を失い遊走能や浸潤能を得ることで間葉系 様の細胞へ変化させ進展・転移に重要である[23, 24]。しかし、骨肉腫におけるmiR-1 Slugへの機能は分かっていない。本研究にてmiR-1Slugを介して遊走・浸潤能 を制御し、E-N-cadherinの制御することも明らかにした。しかし、Slugをノックダ ウンするだけでは E-、N-cadherinとも発現に変化がなかった。この E、N-cadherin 現の差異は、miR-1過剰発現がSlugだけでなく複数の遺伝子を標的とするため他の経 路を介してこれら接着因子に作用している可能性を示唆する。また、本データは骨肉 腫においてSlugEN-cadherinの発現制御にほとんど関わっていない可能性を示し た。Slug E-N-cadherin だけでなく OB-cadherin にも作用すると報告されている [25]。そこで我々はOB-cadherinに注目した。OB-cadherinは骨芽細胞を含む間葉系細 胞に発現し、その発現低下は予後不良であり、骨肉腫の遊走・浸潤に重要な働きをも ち浸潤・転移の機序に関与すると報告されている[26, 27]miR-1 過剰発現と Slug ノックダウンの両方でOB-cadherin発現が上昇した。そこで、本研究はOB-cadherin ノックダウンにより遊走・浸潤能が促進されることを確認した。骨肉腫においてmiR- 1過剰発現はSlug発現の抑制を介してOB-cadherin発現を上昇させ、遊走・浸潤能を 抑制していることを示した。

【まとめ】

骨肉腫においてmiR-1過剰発現はPAX3発現を抑制することでp53に非依存的な 経路でp21発現を上昇させ、細胞増殖を抑制した。miR-1は生体内においても抗腫 瘍効果を示し、加えてmiR-1過剰発現はSlug発現の抑制を介してOB-cadherin発現 を制御することで遊走・浸潤能を調節した。そのためmiR-1導入は骨肉腫の新規治 療法として期待できると考える。

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