佐 竹 正 夫
1
. は じ め 1年保革貿易主義が復活 した, といわれて久 しい。 しか し復活 したのは欧米の政 策担当者 の間であって(1), 経済学者の多 くは依然 として 自由貿易主義の立場を 守 っているように思われ る。 もちろん,その自由貿易主義 は昔の自由放任型 の それではな く,J.E.ミー ド
,M. W.
コ‑デ ン,H. G.
ジョンソン,Jノヾグワッテ ィら によって展開 された 「国内の歪みの理論」( t he o r yo fdo T ne S t i cdi s t or t i QnS )
に基づ く自由貿易論であるQすなわち,政策介入が是 とされるケースであって ら,関税 のような貿易政策 よりも,直接 「歪み
」
を除去す る国内政策の方が優 れているとする立場である。しか し,近年の保護貿易主義 の復活 は, い くつかの点で,伝統的な議論に新 しい展開を促 しているようにみえ る。それ らの一つは,調整過程の問蓮である。
生産要素が産業間を円滑 に移動す ると考えるのは,今日ではあまりに も素朴 な
※本稿 は昭和
6 2
年度教育研究学内特別経費による共同研究 「比較優位構造の変化 と産業 保護 に関す る実証研究」 の筆者担当分の研究の一部である。 学内の研究会では出席者 の方 々か ら有益 な コメン トを得た。 また山本賢司助教授か らは, 第2
節 と村論 に関 し て丁寧で適切 な助言を頂 いた。記 して感謝 にかえたい。もちろん残 っている誤 りが,筆 者の責任であることは言 うまで もないことである。(1) もっとも例えばアメ リカの レーガン大統領であれば,議会ではな くアメ リカ政府は 自由貿易主義 を堅持 していると言 うか もしれない。しか し, レーガン大統領 の言 う 自由貿易 は公正貿易あるいは相互主義貿易であり, これ らは伝統的な自由貿易の考 え方 とはあいいれないo伝統的な自由貿易主義 は相互主義的貿易に対 して 「一方的
( uni l at e r a
l) 自由貿易主義」 とで もいうべ きものであって,相手国がどのような政 策をとっていて も自国が一方的に自由貿易政策を採用す ることが利益につながると いう立場 である。 これ らの考え方 については,小島( 1 9 8
1)p p . 2 9‑4 0
参照。〔 2 0
1〕商 学 討 究 第
3 8
巻 第3・4
号見方であろう。この問題 はハーバ ラ‑I
( Haber l er ,1 9 5 0 )
の先駆的な議論 を うけ て,現在では要素移動 の容易 さの程度 に応 じて,短期や長期が区別 され,移動 のプ ロセスが詳細 に検討 され るよ うにな った。 さらに移動 の過程 で政策介入 を 正当化す る条件 が吟味 されている。 (2)もう一つの側面 は,貿易利益 と所得分配 に関連 している。伝統的な理論 はサ ミュエルソン
( Samuel s on ,1 9 6 2 )
が効用 フロンテ ィアを使 って一般的 に証明 したよ うに,貿易 によって損失者 がでて も,最適 な所得分配政策 によ ってそれ らの人 々を補償で きると して きた。(3) しか し実際 には補償 は完全 に行われるこ とはな く,貿易 は利害の対立 を残す ことになる。 実際の貿易政策 が, そのよう な利害 の対立か ら影響 を うけて決定 されて きた ことは,多 くの人 々が認 めると ころである。この点 に注 目して,政策決定過程 を陽表的に取 り入 れたモデルが, 保護 の政治経済学 と して,理論面 で も実証面 で も最近 さかん に研究 されて きた
。( 4
)また保護主義が採用 され るのは, 社会が特定 の社会厚生関数 を選択 して いると考 え,それに基づいた議論 の展開 もあ る。 コ‑デ ン( Cor den ,1 9 7 4 ,pp.
1 0 7‑ 9)
の保守的社会厚生関数( Cons er vat i ve Soci alW e l f ar e Funct i on
,CSWF)は,その代表的な例である 。CSW F
は,貿易 によって社会の一部 のグル‑プが損失 を被 ることは, たとえ他 の グループが利益 を得て も,社会全体 の 厚生水準が低下 したと考え る。(5)
(2)
Ma ye r ( 1 9 7 4 )
やMus s a ( 1 9 7 4 )
が初期 の論文であ るが最近の ものでは,Bha gwa t i ( 1 9 8 3 )
に収 め られているP.Ne a r y
やM.Mus s a
の論文がある。(3) 国際経済学 の教科書では, この議論 は社会的無差別曲線 の存在を仮定 しない場合の 修正 された基本命題 と して,次のように定式化 されている。「どのような閉鎖経済の 均衡点か ら出発 して も,閉鎖経済か ら自由貿易の状態‑移行す ると同時 に, もし, 損失 を こうむ る人々を補償す るための適切 な所得分配政策 が行われ るな らば,すべ ての構成員の経済厚生 は改善 され る」 (小宮 ・天野,
・ ( 1 9 7
1)p. 1 8 7 )
(4
)
展望論文 にはBha gwa t i ( 1 9 8 3 )
の中の R.Bal dwi n
の論文,同 じBal dwi n ( 1 9 8 4 )
,Ande r s ona ndBal dwi n ( 1 9 8
1)がある。後者 は実証研究 につ いての展望である。(5)
D占 ar dor f f ( 1 9 8 6 )
は保守的社会厚生関数 を社会が短期的に選択す る社会厚生関数 だ と仮定 し,それに基づいて市場撹乱 に対す る諸貿易政策手段 ‑ 関税,輸入制限, 輸出自主規制 ‑ ‑の比較検討 を行 っている。Cor de n ( 1 9 8 6 )
も短期的な市場撹乱 に 対 して社会が保守的社会厚生関数 を選択 した として,その上で効率的 な政策 の運営近年 の保護貿易主義 に促 された動 きは, もちろん これだけではない。 しか し 本稿 はこの二つの点 を背景 において,貿易 と経済厚生 に関す る問題 について,
リカー ド・モデルを再構成 しよ うとす る試みである。 リカー ド・モデルの場合 には,生産要素 は‑種類だけなので,他 の特殊要素や‑クシャー ・オ リー ン型 のモデルと異 な って,議論 はきわめて単純 になる。 所得分配上 の問題 は,財の 相対価格が (貿易 によって)変化す ることか ら,比較優位産業 の労働者 と比較 劣位産業 の労働者 との間で発生す る。両産業 の間で所得格差が生 まれ るが,そ れ に基 づ いて産業 間の労働移動 が は じまる。以上 の過程 で,各産業 の労働者 (家計)の効用水準がどのように変化す るかを検討す ることが,本稿 の具体的な 狙 いである。
本稿 では個 々の グループの効用水準 を問題 にす るために,社会的無差別曲線 の存在 を仮定 しない。 また産業間の労働移動 には,移動費用がかか ることを明 示的 に仮定す る。(6) そ して労働 の産業間移動 が始 まる前 までの期間を短期, 労 働移動 が終了す るまでを長期 とす る。
本稿 のような単純 なモデルで, しか も静学的な枠組 の中では,新 しい ことを 主張す ることはで きない。本稿が示 しうるのは,次 の二点 である。一つ は修正
された基本命題 (注
3)
を効用 フロンテ ィアを使 わず に証明 し, その意味を明 らかにす ること,第二 は,移動費用を導入す ることによって, リカー ド・モデ ルの調整過程 と長期 の状態 を検討す ること, この二点 である。以下では, は じを論 じている。
(6) ここで移動費用 という言葉 を使 い,よ く用 い られる調整費用
( a dj us t me ntc os t )
と い う用語 を使わない理 由 は,後者 が しば しば混乱 して使われて いるか らであ る。Bal dwi n,Mut t iandRi c har ds on ( 1 9 8 0 )
は,調整費用を (1
)比較劣位産業 の労 .働者が他産業で再雇用 され るために必要 となる直接的な費用 (職探 しの コス ト,技 術習得,移動費用等) と (2)要素価格 (賃金)が硬直的であるために要素の不完 全雇用 (失業)が生 じることによる費用,の二つを含んで使 っている。 そ して前者 は経済的な歪みを もた らさないので,社会的な厚生損失 にな らないが,後者 は社会 的損失 を招 くと している。両者 を厳密 な意味で区別で きるかどうか は検討 の余地が あるが,二つを区別す ることは有益,であるように思われる。本稿 の移動費用 は前者 の直接的な費用 とい う意味で使 っている。3 8 3・4
めに閉鎖経済のモデルを提示す る。次 に貿易を導入 し,短期 と長期 とに分 けて 論 じる。ー最後 に若干の政策的含意を述べる。
2. 閉 鎖 経 済
通常の リカー ド・モデルと同様,本稿で も
2
財 1要素 (労働),規模 に関 して 収穫不変,外部経済 ・不経済 な し,完全雇用,完全醜争を仮定す るO これ らに 加えて,労働者 はどち らか一方の産業 にのみ労働を嘘供 し,所得 はその産業で 生産す る財で受 けとるという仮定を設 ける。労働供給 は非弾力的で,亘とえば 一人の労働者 は一単位の労働を供給す る。 また既 に述べたように,産業間の労 働移動 には費用がかかる。消費面では,各産業内の労働者 の選好 は等 しく,その無差別曲線 は同次 (ホ モセティック)であることを仮定す る. この仮定 は,社会全体 について一つの 社会的無差別曲線が存在することを保証 しないが,各産業 について一つの集団 的無差別曲線
( c ommuni t y i ndi f f e r e nc e c ur ve )
が存在す ることを保証す る。( 7
)さらに労働者 は他産業へ移 って も, 消費パ ターンを変えない ものと考え るOこれ らの仮定 は強い仮定であるが,説明の便宜のために置 くだけであって,以上の仮定の下では,・閉鎖経済の均衡 は第
1
図で次のように示 され る。MN は生産 フロンティアで,その傾 きは労働投入係数の比率 になる。.まt=貿易前 に 紘,それは第 1財の相対価格 ♪Oに等 しい。消費 に関する仮定か ら,各産業 には‑つ、の集団的無差別曲線が存在 し, それ らはそれぞれ
U
lとU
!で表わされる。選好 については,第 1財産業 は第
1
財の相対的な支出比率が第2
財産業よりも 高 いと仮定 している。 しか しこの仮定 も社会全体の消費パ ター ン, したが って 貿易量 に影響 を与えるが,主要 な結論を変えるものではない。(7) 社会的無差別曲線 は同一 の選好,同一 の所得,同次の (ホモセテ ィックな)無差別 曲線 とい う三 条件 の うち任意 の二 つ が同時 に満 た されれ ば決定 され る。 ヘ ラ‑
( He l l e r ,1 9 6 8 )
訳書,p.7 9 .
第 2財
QI K
M
第
1
図付論 で示す よ うに,閉鎖経済 の均衡 はQ点 のよ うに
1
個 しか存在 しない。均 衡 では第 1財産業 の生産量 はOQ l
,第2
財 のそれ はOQ2
であ る. 第1
財産業 の 所得線 はQl
か ら傾 きpoを持 っ直線 になるか ら, 消費 は C畠で行われ る。 この と きの効用水準 はU
aである。 同様 に第2
財産業 の貿易前 の消費点 と効用水準 は,‑‑
‑ ‑ I →
C
岩とU
Sで表わされ る。 均衡が成 り立 っているか ら,QI c
も‑C吉 ¢2
である。との経済では,各産業の労働者 は自分で生産す る財の一部 を自己消費 し,残 りを他財 と交換 している。 そ こで第
2
図のよ うなオ ッファー ・カーブを措 くこ とがで きる.第2
図 のQ
IFlは,第1
図のQl
を基点 とす る第1
財産業 のオ ッ ファー ・カーブである。他方第2
財産筆の無差別曲線 の原点 を第1
図のQ
とす ることによって, 第2
財産業 のオ ッファー ・カーブQ I F
2を措 くことがで きるIo交点で両者 の無差別曲線が接 していることは,改 めて述べ るまで もない。
3. 開放経済 :短期
国際貿易が始 まり,国際価格が
pl
で与え られ るもの としよう。小国を仮定す るので,国際価格 は♪1
のままで変化 しない 。pl >
♪0であるため,第1
財が比較 優位財 になる。 労働が産業間を移動 しない短期 には,‑‑バ ラー( 1 9 5 0 )
がかって指摘 したように,生産 フロンテ ィアは
02 QQ
lになる.第1
財の相対価格 の 上昇 によって,第1
財産業の第2
財で測 った所得 は増加す る。 第1
図 におい七所得線 は時計回 りに動 くので,消費点 は
C
圭に移 り,効用水準 は机
に上昇す る。他方第
2
財産業の第1
財で測 った所得 は減少す るので, 消費点 はC
封こ変わ り,‑ → . → →
効用 は
U
iに低下す る。(
8)経済全体 の消費 はOC圭 +OC巨 OC
を満 たすC
点 にな る。第 1財が輸 出 され,第2
財が輸入 され る。次 に効用水準 の低下 した第
2
財産業の労働者 を所得分配政策 によって補償す ることが可能が どうか とい う問題 を検討 してみよ う。 この問題 は経済厚生 の変 化 を測 る貨幣 的尺度 によ って接近 す る ことがで きる。 それ にはCV ( c om‑
pe ns at i ng var i at i on
, 補整的変化 あるいは補償変分) とEY ( e qui val e nt var i a t i on
,等価的変化 あるいは等価変分)があるが,ここでは貿易後 の補償が 問題 になるので,CVが適切 である。( 8 )
このよ うな経済厚生の変化が もた らされるのは,労働者 がどちらか一方 の産業だけ に労働を提供 しているか らで,二つの産業 に労働を提供 し,当初 自給 自足を してい れば,効用 は必ず高 まる。CV
は 「経済的変化 の後 に,消費者 を彼が変化前 に得 ていた 「効用」水準 にひ き戻すために,彼か ら取 り去 るべ き貨幣額」 ( 9 )
である。この定義 に従えば,第2
図において,第
1
財産業 の労働者 の効用水準 を貿易前 のそれに戻すためには Ql yの所得を取 り去 らなければな らない。他方第2
財産業 の労働者 が貿易前の状 態 に戻 るためには,QIx の所得が与 え られればよい。明 らかに QIx<QIYであ るので,第 1財産業 の労働者 に課税 を してQ
lx の所得 を とりあげ,それを第 2財産業 の労働者 に補助金 と して与えれば,第2財産業労働者 を完全に補償す る ことがで き,その上でなおgyの所得が第
1
財産業 の労働者の手許 に残 ること にな る。(10)●●●
図か ら明 らかなよ うに, この政策 が成立す るためには,貿易前の両者 の無差 別曲線 が原点 に対 して凸で あ りさえすれば よ く, ホモセテ ィックであ ること
も, また貿易後 の消費点 がどこに くるのか も問題 にはされない。 したが って, 閉鎖経済の均衡が存在す る限 り,一貿易が最適 な所得分配政策 を伴 うことによっ て,すべて の人 の経済厚生 を改善 で きるとい う定理 は,無差別曲線 が ホモセ ティックでない場合で も必ず成立す る。(ll)
ところで
EV
はこの場合 には, どのよ うに考 えた らよいのだろ うか。EV
は「それだけの貨幣額 を経済的変化 の前 に消費者 に与 えておけば, その もとで消 費者 が得 る 「効用」水準 が,経済的変化後 に消費者が実際 に得 る 「効用」.水準 とち ょうど等 しくなるよ うな貨幣額」(12)と定義 され る。 これに従えば,第
2
図において, 第 1財産業 の労働者 の
EV
は QIw で, 第2
財産業のそれは‑QIz で ある。 明 らかに ∑EV‑QIw ‑QIz‑zw> 0
である。( 9 )
奥野 ・鈴村( 1 9 8 4 ) p. 2 1 7
(10) もちろん このよ うな政策 が
XY
以上 の資源の損失 を生 む ことは許 されず,一括移転( l ump‑s um t r a ns f e r )
が期待 され る。(ll) この定理 は第 1図 を使 って も簡単 に証明で きる。 オ ッファー ・カーブを用 いて この 定理 を説明 した ものに,ヴ ァネ ック
( Va ne k ,1 9 6 4 )
訳書p. 2 2 2‑7
があ る。 ヴァネ ックにはCVとい う考 え はないが,証明方法 はほとん ど同 じであ る。
(12)奥野 ・鈴村
( 1 9 8 4 )
p.2 1 7
EVはかつての新厚生経済学 における補 償原理 に関す るシ トフスキー基準 を 思 い出させ る。(13) 何故 な ら
Q I w
は第1
財産業の労働者 が貿易がなければ, 捕 償 して もらいたいと考 え る所得 である.それに対 して QIzは第2
財産業の労働 者が,貿易がなければ払 って も良 い と考え る所得 である。前者 は後者 よ りも大 であるか ら,後者 による前者への買収 は成立 しない。∑EV>0
が シ トフスキー 基準であるとすれば,第2
図 はそれを満 た している。 そ してその条件 は,均衡 が安定的であることであ る。財市場が不安定であれば,∑EV<
0にな る。(14)財 市場 が不安定なケースでは,貿易後 の消費点 は,第1
図のQ
よ りも南東 のQK
上 に くる。これは生産 フロンティアの内側 であ る。 しか しこの場合で も∑CV>
0になる。
4. 開放経済 :調整過程 と長期
貿易 は産業間の所得格差 を生むので,第
2
財産業労働者 は第 1財産業‑移動 す る誘因を持っ 。 しか し移動す るか どうか は,所得格差だけで はな く,移動 に 要す る費用 に も依存す る。移動 が開始 され る条件 は,二産業間の所得格差が移 動費用を上回 ることである。 あるいは輸 出産業 の所得が輸入競争産業 の所得 と 移動費用を加えた ものを越 え ることである。 (15).産業間の所得格差 は,第1
図で(13) シ トフスキー基準 は, ある状態 か ら他 の状態‑の 「移行 が改善 であ るためには, そ れよ り不利 にな る人 々にとって,有利 にな る人 を買収 して移行 を阻止す ることが有 利であ ってはな らない」基準 であ る。今井 ・宇沢 ・小宮 ・根岸 ・村上
( 1 9 7 1 )
p.2 2 7
(14) 右図 のよ うに,第1財産業 の
EV
は QlW,第2
財産業 のそれは‑QI
zあ る。∑EV‑QI w‑Ql zニ ーwz< 0
とな るため に,第
2
財産 業 はQIW の所得 を補償 と して第2
財産業 へ与 え ることによ って貿易 を阻止す るこ とがで きる。QI
W Z
第 1財は
KM
に等 しい。 何故 な ら国際価格p
lの下で002の第2
財 は,QI K
の第1
財 と交換 され る。ところがOQ2の生産を全部止 め,第1
財を作れば,QIM
を生産 で きるのでQI M‑QI K‑KM
が所得格差 になるのである。移動費用 は労働者 の年齢,技術,能力,居住地域等様 々な条件 に依存す る。
しか し通常のモデルのように生産要素が同質であるという仮定を,移動費用 も 含 めて考 え ると,すべての労働者 の移動費用 は等 し∵いと考え なければな らな い。 それゆえ このような場合所得格差が移動費用を上回 る限 り,第
2
財産業の すべての労働者 は第1
財産業‑移動 して しまい経済 は完全特化の状態 たなる。 第3図は経済全体の移動費用がAM
であるケースである。KM>AM
なので, 労働者 はすべて第 1財産業 に移動する。 第1
財産業で (旧)第2
財産業の労働 者 はO I( ‑QI M)
の所得を生みだす ことがで きるが,移動費用が〝 ( ‑AM)
なのでネ ッ トの所得 は
O J
になる。 移動後 も消費パ ターンは変わ らないので, 消費点 はC
銅こ位置するであろう。 新 しい効用水準沼
は,貿易前のそれU
Bよ.りも高 い。第
1
財産業 に前か らいる労働者の効用水準 は机
で変わ らない。両産業 のー労働者全部 の消費点 はC
2点である。図か らわか るよ うに移動費用が大 きく なれば,
(旧)第2
財産業の労働者の効用水準が貿易前のそれに達 しない場合 は お こりうる。 しか しその場合で も短期的な効用水準 沼を下回 ることはない。第2
財産業の労働者 も今 は第 1財産業の労働者 と同一の所得 を得 るが,移動費用 の分だけ実質的な所得水準 は低 い。個 正確 にいうと労働者が移動す るのは,産業間の所得格差ではな く,一人当 りの所得, あるいは賃金率の格差である。 i産業 の賃金率を
wt '
,労働投入係数を at'とす ると, 完全競争から
W1 ‑ ‑告 ( i
‑ 1,2)
が成 り立‑ opi
ci
i財価格であるo賃金率碩 業間の比率 は霊 室 零 となるo 貿易前 には90‑ 告 諸 だか ら・ 窓 ‑1,貿易後 はpl,Poだか ら,霊
,1
となる。第2
財産業 の畑 の移動質用をC,と す ると,用 の移動 の条件 は,wl ‑W2
,C,・bるいは嘉
,掌 である。第
2
財商 学 討 究 第
3 8
巻 第3・4
号o I QII K A M
第
3
図次 に労働者 が移動費用について同質的であるとい う仮定をはず し,移動費用 が労働者 によって異 なるケースを検討 してみよ う。 この場合 には移動費用が所 得格差 を上回 る労働者 は,第
1
財産業 に移動せず第2
財産業 にとどまるので, 完全特化 はお こらない。第4
図 は移動 しない労働者 が第2
財 をOD
だけ生産 し ているケースである。 それ らの労働者の第1
財で測 った所得 はOF
で,消費 は Eで行われ,効用水準 は0
書である。
0 2D、
の第2
財 は生産 されず,代 りに第1
財が
DI
だけ生産 され る。移動費用が〝 ( ‑HG)
であ るとすれば,移動 した (旧) 第2
財産業の労働者 の所得 はDj( ‑FL)
になる。それゆえ現在移動 した労働者と現在 も第
2
財産業 に従事 して いる労働者 の合計 の所得 はOL
であ る。 した が って効用水準は U
紅 なる。第 1財産業 に も辛か らいる労働者 の効用水準 はこ の場合沼
で変 わ らない。実質的な所得 に関 して は,第 1財産業 に前か らいる労 働者が最 も高 く,次 に移動 した労働者 で,最 も低 いのは移動 しない,第2
財産 業の労働者である。●●●
以上の議論 は,‑しか しなが ら,長期的な分析 としては不十分である。何故 な ら第
2
財産業 の労働者 は,現在 の所得格差だけではな く,将来の所得格差 も考第
2
財0
F L Ql〟
第
4
図慮 に入れて,移動 を決定す るか らである。将来の所得格差を割引いた現在価値 と移動費用 とが,掛酌の対象 となる。将来の所得格差 は交易条件の変化や技術 進歩のような外的条件の外 に,個々の労働者 の技術水準や将来の就業可能年限 等 に依存す るであろう。将来の所得 は不確実であるが,所得 は毎期毎期入 って くると期待 され る。それに対 して移動費用 は一回限 りの ものである。 それゆえ 長期的な計算 をすれば,所得格差の現在価値が移動費用を上回 る可能性 は高 く
なり,労働移動 の誘因 は強まる。 移動費用がほとん ど無視できる時,所得 は第
3
図のOM
で与え られ,消費点 は Cよに くる。5. お わ り に
第
5
図は各産業の労働者の効用水準の動 きを示 したものである。 横軸 は第1
財産業の労働者の効用水準Ul
, 縦軸 は第2
財産業の労働者 の効用水準U
2を表 わ している。 後者 は移動 した労働者 の効用 も含めている。¢
点 は貿易前の両者 の効用水準を示 し,貿易前の効用 フロンティアUO UO
上 にある。貿易開始後,短 期の効用水準 はC点である。第
1財産業の労働者の効用 は上昇す るが,第2財商 学 討 究 第
3 8
巻 第3・4
号産業 のそれ は低下 している。 しか し第3節で議論 したよ うに,所得 の一括移転 によ って,第
2
財産業 の労働者 の効用水準 を貿易前 に戻す ことは可能 である。つま り貿易後の効用 フロンテ ィア
UI U
lに沿 って,Q
点 の東北上 に位置す るこ とができるよ うになる。U 2
第 5 図
調整過程 は
C
か らC
叫への動 きで示 され る。 この過程では,第1
財産業 の効 用水準 は変化せず,第2
財の効用水準だけが上昇す る。どこまで高 くなるか は, 移動費用 に依存す る。貿易前の水準 を越 え るかどうか はわか らない。 しか し長 期 的 には,移動費用 が所得格差 の現在価値 に比 べ ると相対 的 に小 さ くな るの で,移動が促 されて両産業の労働者 の効用が ともに貿易前 よりも改善す る可能 性 は高 くなる。最後 に以上の分析を踏 まえて,政策問題 に若干触串てみたいO この経済では▲ 短期的には,産業間の所得分配 は悪化す るが,一括 トランスファーによる補償 が可能 とい う意味では,国民所得 は貿易前 よ り増加す る。 したが って,伝統的 な立場 に立 てば,政府 の介入 は所得分配 の観点か らだけ しか正当化 されな い。
短期的な政策で重要 な点 は,交易条件 の変化が一時的な も.のか,永続的な もの かを判断す ることである。 所得分配上 の理 由で何 らかの政策が採用 されれば,
二産業間 の所得格差 は縮小す るので,仮 に交易条件 の変化 が永続的 な ものであ れば, そのよ うな政策 は,産業間の労働移動 を阻害す る可能性 が強 い。
以上 は完全雇用 が保 たれ ることが前提 であ ったが,比較劣位産業 で何 らかの 理 由によ って失業 が生 じれば, 状況 は変化す る。 短期的な貿易利益 (それが
∑CV> 0
,あるいは∑EV> 0
によ って測 られ るもの とすれば)は小 さいので, 僅かの第2
財産業 の失業 と所得 の減少 によ って,国民所得 は貿易前 よ りも低下 す る可能性 は高 くなる。 このよ うな場合 には,伝統的 な議論 で政策 が正 当化 さ れ るケースであ った。 しか しこの場合 の政策 で も所得格差 を縮小す るので,労 働移動 を阻害す る効果 は持 つのである。調整過程 で市場 に不完全性 ‑ 資本市場 の不完全性,情報 の不足等 ‑ がな ければ,労働移動 に補助金 を与 えて移動 を促進す る政策 は,社会的損失 を生 む ものであ る。市場 が不完全 な場合 には,何 らかの直接的な政策が正 当化 され る\ か もしれない。 しか しこの問題 は動学的 な枠組 を必要 と し,今後 の課題 と した
い。
付論 閉鎖経済の均衡
本稿 のよ うに各産業内の労働者 の選好 が同一 でホモセティ ックであるよ うな リカー ド・モデルで は,閉鎖経済 の均衡 は第 1図 の
Q
点 のよ うた必ず 1個存在 、 す るが, それ は直接図の中で均衡点 を求 め ることによ って証明 され る。A‑ 1
図 にお いて価格 poに対す る第 1財産業 の所得 ・消費線 がOR, 第2ー →財産業 のそれが
OSであ る。仮 に消費点 が C
はC
柁 あれば全体 の消費点 は,OCa+OC睦‑ ‑
i0(
∂なる ¢点 であ る。 この Qが同時 に生産点 で もあれば,(
‖ま均衡点 になる。Qが均衡であれば,
Qか ら下 した垂線 とC
畠か らMN に平行 に引いた直線 との 交点 が,横軸上 で必 ず交 わ る。以下 このよ うな ¢点 を求 めてみよ う。均衡 は
M
か らの垂線 とRか らOSに平行 に引いた補助線 との交点 T
を通 る 原点 か らの直線 OTが MN と交わ る点 にな る。証明 は以下 の通 り。C
古か らMN に平行 に引 いた線 とQか らの垂線 が交わ る点 を V とす 冬と, Qが均衡 であれ ばQV‑QQlにな る. AQC押‑
ATRM か ら第 2財
商 学 討 究 ■第
3 8
巻 第3・4
号QV ̲ QC去 TM TR
他方,AOQQl
‑
AOTM か ら, また,AOQC去‑
AOTR か ら,QOI QC古
TM TR(1)
( 2 )
(1
) と(2)
か ら,QV‑QQlが得 られ る。 (証明終 り)なお第
1
財産業 の所得 ・消費直線 がOS,
第2
財産業 のそれがOR やあれば, 均衡 はS
か らOR に平行 に引 いた線 とM
か らの垂線 との交点 を通 る原点 か ら 直線 と〟
Ⅳ との交点 になる。参考文献
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