中 国 語 の 受 動 態(績)
エ ヌ ・ ヴ ェ ・ ソ ー ン ツ ェ ワi著
川 上 久 寿 訳
は し が き
目
次
「主語一 被一(補 語)一 述語 」公式に よる動 詞交で の 「被 」
動 詞 の 述 語
動作の主体 を意味 す る名詞(以 上34輯)
動作の客体を意味する名詞
1000く︾11414
主語 のために客体 の意 味を確実 にす るは た らきをす る 「被」 と そ の動詞 との結 合
「被」 を前 置 詞 とみ な し うるか
「被 」 を 動 詞 の プ レ ク ィ ク ス と み な し う る カ
「被 」 を 分 析 的 形 態 の 成 分 と み な し う るカ
「被 」 を 黍占着 の ア フ ィ ク ス と み な し う るか 非 限 定 主語を ともな う文 に おけ る 「被 」 主 題 文 におけ る 「被 」
む す び
4 7 9 9 3 7 6 9 5 5 5 6 7 7 8 8
動 作 の客 体 を意 味す る名 詞
三 項 の 文
これ まで三 項 の文 を分 析す るに あ た っ ては 「主 語一 被 一 補 語一 述 語 」 の 公式 と して研 究 して きた 。 た とえぽ,地 写 給 姫 姑 母 的 信 是被 大 衆 都 看 了(丁 玲 選 集,12)客 体 の名 詞 「信 」 は主 語,主 体 の 名 詞 「大衆 」 は 補 語 とみ な
して きた が,こ の分 析 は 正 しい だ ろ うか。
周知 の よ うに 「主 語一 述 語一 補 語」 の型 の文 の主 語 決 定規 準 と して,通
一45一
(90) 人 文 研 究 第36輯
常は 主 語 が 述 語 の前 に あ る と考 え られ た。 しか し,こ うい う規 準 が ま った く 正 しい とは い え ない 。
中 国語 の 能動 態 動 詞 文 に おけ る 主 語 決 定 の 規 準 は,な に よ りも 主 動 者 (動 作 の主 体)と,そ の 述 語 との関 係 に よる直接 の位 置(他 動 詞 ゐ ときは前,
く
自動 詞 の と きは 前 また は 後)と の 相互 関係 を考 え ね ば な らな い。
動 詞 の前 あ るいは 動 詞 の後 に あ る名 詞 と動 詞 との結 合 は,主 語 と述 語 と の結 合 の よ うに 補 助 詞 な しで で き る。 も し主 語 と述 語 の 間 に 名詞 が は さ まる とす れ ば,そ の前 に は 必 ず補 助 詞 が あ り,こ れ が あ るた め,そ の後 に おか れ る名詞 は主 語 となれ な い。 主語 と述 語 の間 の直 接 の 結 合 は,た とえそ の間 に 新 ら しい 名詞 を導 き入 れ るに して も補 助 詞 に よって保 た れ る。 た とえば,
我 和 他 説 話(こ の ば あ い 「和 」 とい う前 置 詞 が 「他 」 の前 に あ り,主 語' と述 語 の間 に は さ ま って い る)
我 用 石 美蓋 房 子(「 用 」 とい う補 助 詞 は 「石 芙」 とい う名 詞 の前 に あ る) 我 給 他 叉 了(名 詞 「他 」 の前 に前 置 詞 「給 」が あ る)
これ らの文 で は 主語 と述語 の間 に 各 種 の補 語 が補 助 詞 の たす け をか りて 挿 入 され て い るに もか かわ らず,主 語 と述 語 は 直接 む す びつ い て い る(こ の
ぼ あ いは 動 作 の主 体 と動 作 との結 合)。
受動 態 文 で は 述語 の前 に おか れ た動 作 の 主 体 た る名詞 の前 に 「被 」 が く る。 これ は動 作 の主 体 た る名詞 が 主 語 で は な く,動 作 の客 体 た る他 の名詞 が 主 語 だ とい うこ とで あ る。
「被 」 を文 中に 入 れ て も主 語 と述語 の直接 の結 合 は 妨 げ られ な い 。 しか し同 じ と ころへ お かれ る他 のす べ て の 補 助 詞 とち が って,「 被 」 が つ くと本 質 的 に主 語 の 内容 が か わ る。 この ぼ あ い 「被 」 は動 作 の客 体 と関連 し,主 動
く
者(動 作 の 主体)と は 関 わ りが な い。
(59)詳 細 は エ ヌ ・ ヴ ェ ・ ソ ー ソ ツ ェ ワ,中 国 語 動 詞 交 に お け る 主 語 決 定 の 規 準, 31頁 を み よ。
(60)し た が っ て,こ の 種 の 文 で は 主 語 の 規 準 の ひ とつ が 変 わ る 。 つ ま り主 語 は 動 作 の 主 動 者 と 関 連 し な くて 動 作 の 客 体 に 関 連 す る(主 語 と述 語 の 直 接 的 結 合 の 規 準 は 保 た れ て い る)。
‑46一
した が っ て三項 の 受動 態 文 を分 析す れ ぽ 「主 語 一 被一 補 語一 述 語 」 とい う公 式 に な らね ば な らな い。
主 語 と述 語 の 間 に 各種 の 補 助 詞 が 入 る能動 態 の 三 項 文 と く らべ る と,
「被 」 は これ らの補 助 詞 とお な じ く,そ の後 に おか れ る 名詞 に よ って条 件 づ け られ る とい うこ とを み とめね ば な らな い。 しか し 「被 」 は それ らの補 助 詞
ラ
と異 な り,主 語 とな る名詞 とむ す び つ く,な ぜ な ら 「被 」 のつ い た とき主 語 の 内容 が か わ るか らで あ る。 動 作 の主体 た る名詞 が ない 二項 の 受動 態 文 が あ る とい うことは,な に よ りも 「被 」 が主 語 とな る客 体 の 名詞 蓼結 合 す る こ と を しめ して い る。
二 項 の 文
呂叔 湘 ・朱 徳 煕 の 「語 法 修 辞 講 話 」 に は,「 被 」 の つ く文 を 使 用 す るに
く
は 制 限 の あ る こ と を 述 べ て い る が,そ れ と 同 時 に 最 近 で は か な り 自 由 に 用 い られ る よ うに な っ た と も い っ て い る 。 著 者 は 多 くの 例 を あ げ て,「 被 」 が な ん の 根 拠 もな く用 い られ て お り,と り去 っ て 差 支 え な い とい う意 見 を 述 べ,
と くに 二 項 の 文 で は 「被 」 を お く こ とに 反 対 して い る 。 た とえ ば, 碗 打 破 了
信 写 好 了
しか し,そ の 他 の 多 くの 二 項 の 文 で は 「被 」 は 必 要 だ と して い る 。 几 童 椚 被 組 織 起 来 了
当 他 迭 到 美 国 海 岸 吋,被 拒 絶 登 隣
著 者 は こ の ふ た つ の 文 に 「被 」 を お く必 要 が な い と し,こ れ が な い と文 の 意 味 が 反 対 に な っ て,主 語 の 客 体 が 動 作 の 主 体 に な る(「 被 」 が な い と能 動 態 に な る)と い っ て い る 。
(61)能 動態文 では 「被+名 詞(述 語 の前にあ る)」 とい う結合 は状語 とみ な され る こともあ る。 しか し 「被」 が主語 と結 合 してい るこ とはそ うい う解釈 の根拠 には な らない。
(62)呂 叔湘,朱 徳 煕,語 法修辞講 話,117‑121頁 。
‑47一
(92)人 文 研 究 第36輯
く ラ
文 裕 の 「被 に つ い て」 に は 同 じ考 えが あ る。 以 上 の人 々の意 見に よ る と
「被 」 が 不要 か,あ るい は 普 通 は お か れ る こ との な い 二 項 の文 に おい て動 作 の客 体 とな る名 詞 は 非 活動 体 で あ る。 「被 」 のつ く文 では 客 体 の名 詞 は 必ず 活 動 体 で あ る。 こ うして 「被 」 は 活動 体 名詞 の ぼ あ いに は要 る ことに な る。
(64)
なぜ な らそ れ に は 主 体 と客体 の二 つ の意 味 が あ るた め であ る。 非 活動 体 名詞 の と きに は 「被 」 が な い,と い うのは,そ れ に は客 体 以外 の意 味 が な い か ら で あ る。
活 動 体 名詞 が 主 語 とな る二 項 の文 を し らべ てみ よ う。
他 被 感 幼了(巴 金,家,50)
几 介 有 名 的 医生 被 請 来 了(巴 金}家,288) 鳴 夙被 喚 到 太 太 底 面前(巴 金,家,199)
これ らの文 で 主 語 に な って い る単 語 は動 詞 の動作 の 客体 で あ る。 これ ら 主 語 に な ってい る単 語 を動 詞 の動 作 の主 体 とす るに は 「被 」 を と り去 れ ば充 分 で あ る。 実 際,あ るぽ あ い に(た とえば状 態 文(訳 注:動 詞 が他 動 詞 で動 作 の主 動 者 が欠 け てい る文,た とえぽ 迭 ケ飯 不 能吃 》で)こ れ らの単 語 は 客 体 の意 味 を もて るが,「 被 」 に よっ て のみ 主 語 の 一 定 の意 味(客 体 の意 味)
や
は つ よ く,固 定 した もの とな る。 も しも 「被 」 が な くて主 語 に お け る主 体 と 客 体 の意 味 が 語 法 的 に対 比 され ず コ ソテ クス トでわ か る もの とす れ ば,「 被 」 は この対 比 を 明 らか に す る。
「被 」 はそ の存 在 に よって 主 語 とな る名詞 あ るいは 代 名 詞 が,動 きを も つ動 作 の主 体 と して動 詞 と関 連す るの で は な く,動 きを もつ動 作 の 客 体 と し て 関連 し(あ るいは そ れ を固 定 化)す る(名 詞 あ るいは 代 名 詞 の た め語 法 的 に 客 体 的意 味 を確 実 に す る もの とな って)。
以 上 に よっ て,活 動 体 名 詞 の あ る文 で は 「被 」 を必 ず 用 いね ぽ な らない こ とがわ か る。 しか し非活 動 体 名詞 が あ り,そ れ が 主語 の はた らきを してい
(63)語 文 学 習,1951,第2号e
(64)ア ・ ア ・ シ ャ フ マ ト フ,ロ シ ヤ 語 統 辞 論 か ら,一 《現 代 ロ シ ヤ 語 に か ん す る シ ャ フ マ ト フ の 論 文 か ら 》,モ ス ク ワ,1952,95頁 。
‑48一
る文 に 「被 」 のあ る こ とは ど う説 明 した ら よい の か。 この型 の文 は 現代 中 国 語 で は 非常 に 広 く用 い られ て い る。 た とえぽ,
粉 紅 色 的 云片 被 沖升 了(霧 雨 電,12) 他 底 幻 夢 被 打 破 了(巴 金,家,27) 他1門底 秘 密 依 旧被保 守 着(巴 金,家,4) 老 婿 婿 的腿 也 被 炸 断(魏 魏,78)
上 に あげ た例 で は 非活 動 体 名 詞 が 主 語 とな って お り,そ れ は 後 に つ づ く 動 詞 の動 作 の 客体 に なれ るだ け で あ る。 これ らの文 で名 詞 が 動 詞 の 客 体 と し てむ す びつ い て い る こ とは,「 被 」 が な くて も明 らかで あ る。 した が って こ れ らの文 で は 名詞 が動 作 の客 体 で あ る こ とを 示す た め 「被 」 が 必 須 で あ る と は思 わ れ な い。
この よ うな文 章 に 「被 」 を用 い るの は,非 活 動 体 名詞 が 主 語 とな りなが ら 「被 」 のな い二 項 の文 型 が,現 代 中 国語 に は他 に もあ る こ とか らい よい よ も って理 解 しに くい 。
我 椚 底 事 情 決定 了(巴 金,家,251) 丙 頁 紙 已 経 寓 完 了(巴 金,家,194) 茶 碗 撰 芥了(巴 金,家,124)
これ らの文 の動 詞 は他 動 詞 で,そ の前 に あ る名詞 はそ の動 詞 の動 作 の客 体 で あ る。
この種 の文 は 常 に 中 国語 学 者 の注 意 を ひい て きた。
多 くの研 究 家 は この文 を意 味 上 の受 身(nO朋TH触 曲naccvaB)と み な し
く の
て い る 。 「被 」 を と も な う二 項 の 文 と,意 味 上 受 身 り 二 項 の 文 を 比 較 し て, 学 者 は 「被 」 使 用 の 任 意 性 の 結 論 に 達 し て い る 。
(65)王 力,中 国 語 法 理 論;イ ・エ ム ・ア シ ャ ー ニ ソ.中 国 語 動 詞 の 意 味 範 疇,モ ス ク ワ,1945,Nα1,44頁;エ ヌ ・エ ヌ ・ カ ロ ー トコ フ,中 国 語 に お け る文 の 発 展 段 階 性 と動 詞 区 分 の 方 法,博 士 候 補 論 文(タ イ プ ラ イ タ ー),モ ス ク ワ,1946,
15頁:エ ヌ ・エ ヌ ・ カ ロ ー ト コ フ,歴 史 的 シ ン タ ッ ク ス(タ イ プ ラ イ タ ー),モ ス ク ワ,1947,317頁 。
‑49一
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われわれは上述 の二項 の文を特殊 な動詞文 の型た る状態文 に関連 づけ よ
く の
う。 ふ つ うはそ の主 語 に な って い るの は 非活 動 体 名詞 で あ る。 活動 体 名 詞 が 主 語 と して 用 い られ る こ とは め った に な い。 た とえば,
土 匪 消 天 了
我 曾経 有 一 ケ小 兄 弟 是 三 歩上 死 的 就 葬 在 迭 多下(魯 迅,23) これ らの文 で活 動 体 名詞 は 動 作 の客 体 も主 体 も意 味 す る。
この よ うな例 は 少 な い,非 活 動 体 が 主 語 に な って い る状 態 文 が 依 然 と し て大 多 数 で あ る。 しか しこれ ら個 々の例 は,ま さに次 の こ と,つ ま り一 般 的 に い って これ らの文 の主 語 に と っては,そ れ が活 動 体 か 非活動 体 か,そ れ が 後 に つ づ く他動 詞 の動 作 の主 体 か 客 体 か は 意 味 を もた な い とい うこ とを証 明
して い る。
そ れ は状 態 文 とい うものが 主 語 を しめす 物 の状 態 表 現 を特 徴 づ け る文 で あ る以上 自明の こ とで あ る。 状 態 文 は 動作 の 主 体 も容 体 も主 語 に なれ る繋詞 文 を思 わせ る。
「被 」 を と もな う 二 項 の文 に つ い てい え ば,主 語 の容 体 的性 質 は 語 法 的 に 明 らか で あ り,「 被 」 に よ り形 態 化 され てい る。 ここに 「被 」 を と もな う 文 と状 態 文 との主 な違 いが あ る。
した が って 「被 」 を と もな う二 項 の文 で,非 活動 体 名詞 が主 語 に な って い る とき,「 被 」 は 主 語 の容 体 的意 味 を語 法 的に 確 実 に す る もの とみ なす こ
とが で きる。
二 つ の文型 間 の基 本 的差 異 と,そ れ に また相 異 な る二 つ の文 型 が あ る と い うこ と,そ れ 自体 が(そ の うち の ひ とつ に は 「被」 が 用 い られ る)「 被 」 の任 意 性 とい う問題 を と り除 くことは疑 いが な い。
上 述 の よ うに 中 国 の学 者 に は,主 語 とな る非 活動 体 名詞 の あ る二 項 の文 に 「被 」 をお くこ とに反 対 す る もの もい る。 そ の 意 見 に よ る と,「 被 」 は 最
(66)こ の 交 を くわ し く し らべ る に は エ ヌ ・ヴ ェ ・ ソー ン ツ ェ ワ の 「中 国 語 に お け る 動 詞 文 の 主 語 規 定 の 規 準 」 を 見 よ。
‑50一
初r遭 受 」 の意 味 だ か ら常 に 「不愉 快 」 な色 彩 が あ る。 非活 動 体 に は 不愉 快 の あ るわ け が な い か ら,非 活 動 体 名詞 が 主語 とな って い る文 で 「被 」 は用 い られ な い 。
(67)
王 力教 授 は この考 え を再 三 述 べ て い る。
しか し 「被 」 の使 用 に つ き,こ の よ うな解 釈 を下 す こ とに は 一再 な らず
(68)
批 判 が む け られ て い る。
「被 」 に は ど う して も 「不 愉 快 」 の 観 念 が つ き ま と っ て い る とい うこ と に な る と,非 活 動 体 名 詞 は 三 項 の 文 で も 用 い られ な い だ ろ う。 しか しな が ら,こ うい う例 が ひ ろ くみ られ る こ とは 「不 愉 快 論 」 者 さ え み と め て い る の
(69)
で あ る。
「被 」 の使 用は そ の語 法 化 の道 を 規 定 した本 来 の 意 味 に よっ て説 明 され る こ とは疑 い な いo
わ れ わ れ の 観 点 で は,「 被 」 の使 用 は 「不愉 快 」 の 観 念 とむ す びつ け る べ きで は な く,主 語 と して 用 い られ て い る名 詞 の性 質 とむす び つけ るべ き も
の で あ る。
古 い文 献 を し らべ る と しご く明 らか で あ るが,中 国 語 発 展 の全 過 程 を と お して,「 被 」 を と もな う文 で は 活 動 体 名詞 が 主 語 と して 用 い られ て きた と
(70)
い う特徴 が あ る。
(71)
補助 詞 と して の 「被 」 が 中国 語 に存 在 した第 一 期(紀 元 前4世 紀一 二 世 紀)に よっ て証 明 され るが,「 被 」 は 活動 体 名詞 とだけ しか 用 い られ なか っ た。
(67)王 力,中 国 語 法 理 論,176頁;王 力,双 語 史 稿,419‑437。
(68)劉 世 儒,被 動 式 的 起 源,32頁 。
(69)碗 被 人 打 破(呂 叔 湘,朱 徳 照,語 法 修 辞 講 話,117頁 。
(70)王 力 教 授.呂 叔 湘,朱 徳 煕 教 授 は 主 語 に た い す る 関 係 か ら い っ て,不 利 あ る い は 望 ま し くな い 行 為 が あ る ば あ い に の み 受 身 は 可 能 な り と して,間 接 に 「被 」 を と も な う文 に お け る主 語 の 特 徴 を 指 摘 し て い る(な ぜ な ら な ん らか の 不 利 あ る い は 望 ま し くな い も の を 感 じ る の は 活 動 体 に 限 る か らで あ る)。
(71)王 力,波 語 史 稿,419‑437頁 。
‑51一
(96) 人 文 研 究 第36輯
多 くの ば あ い 活 動 体 は 人 間で あ ったが,い つ もそ うだ った わ け で は な
いo
た とえぽ,国 一 日被 攻 …(戦 国策)こ のば あ い 「国 」 は活 動 体 で あ る。
なぜ か とい うと後 に くる動 作 との関 係 上,こ の言 葉 は 主 体 あ るい は 客 体 を意 味 す るふた つ の 面 を もち うるか らで あ る。 した が っ て,こ の例 文 に は 「被 」
く ラ
を おけ る。
「被 」 が補 助 成 分 と して存 在 した 第 二期(4‑5世 紀),つ ま り 「被 」 と 動 詞 との 間 に 動 作 の 主 体 を 意 味 す る言 葉 が 用 い られ は じめ た時 期 も,ま た
「被 」 を と もな う文 の 主語 に な った のは 活 動 体 名詞 だけ だ った こ とを証 明 し て い る。 た とえぽ 「世 説 新 語 」 に は 「被 」 を と もな う文 で,非 活 動 体 が 主語 に な って い る ものは ない 。 主 語 と して 用 い られ て い るの は,固 有 名詞,人 称 代 名詞,あ るいは 人 間 を あ らわ す 名 詞(主 語 省 略 の とき,「 被 」 とむ す び つ い た動 詞 は活 動 体 た る人 間 に つ い て な され た動 作 を 意 味す る)で あ る。
非 活動 体 が 主語 と して用 い られ は じめ た の は唐 の 時代(618‑907)で,
「被 」 を と もな う文 の発 展 の第 三期 に あ た る。 このば あ い 主 語 に な る非 活動 体 は,通 常 三項 の文 だけ に 用 い られ た 。 た とえ ば,
皮 袋 被 賊盗 去(朝 野 倉 載)
これ 以 後 の文 献 で は 非 活動 体 が 「被 」 を と もな う文 で 主 導 的 地位 を しめ て い る。
活動 体 あ るい は非 活 動 体 が 主 語 とな りなが ら,「 被 」 を と もな う文 を表 に して次 に か かげ てみ よ う。
この表 に よって 明 らか な こ とは,「 被 」 を と もな う文 で は(基 本 的に は 三 項 の文)し ば しぼ活 動 体 を示 す 言 葉 が 用 い られ てい る こ とで あ る。
二 項 の文 で は 非 活動 体 を示 す 言葉 はほ とん ど略 され,現 代 語 の 二項 の文
(72)受 身 の文 ではそ の他の補助 詞 とともに,ふ つ うは活動体名 詞 も用 い られ ることは興味が あ る。 た とえば 当時 の もの と して補助詞 の 「見」 「カ」が用 い られ て い る次 の例文 を見 よ。
妻子力獄(左 傳,紀 元前4世 紀);君 子何知其 将見死(孟 子,紀 元前4世 紀)
‑52一
テ キ ス ト
傳義記傳夢品
演雄三作濤志游英楼
国女代
水三西見紅現
二 項 の 文
轡 体器携璽 籍
20 41 3 2 3 166
1 5 1
1 104
三 項 の 文 活動体の 非活動体
主 語
の 主 語
101 85 87 34 46 224
28 19 19 19 20 216
総 計
150 150 110 55 70 710
に お い て のみ 主 語 と して 非活 動 体 を 示す 言 葉 が 広 く用 い られ は じめ て い る。
主 語 とな って い る名詞(活 動 体 と非 活 動 体)の 性 質 に よって 受 身 の特 徴 を規 定 しよ うとす る試 み は各 種 の 言語 にか んす る一 連 の研 究 に み られ る。
た とえ ば,日 本 語 で は活 動 体 を示 す 言 葉 が 主 語 と して用 い られ る特 徴 が あ る。
エ ヌ ・イ ・コ ソラ ッ ドは 「中 国語 と 日本 語 」 で,「 日本 語 で 非 活 動 体 が
くゆ
主 語 に な る受動 態 の述 語 構 造 が ひ ろ く発 達 した」 の は,ご く最 近 の こ とで あ る とい って い る。
ロシヤ語 で は 反 対 の現 象 が み られ る。 「非 活動 体 は人 間 よ りもず っ と 自
由 に 受動 態 の主 語 と して用 い られ る。」
ロシヤ語 で 受 動 態 文 に 非 活動 体 が多 く用 い られ る こ とは ,再 帰代 名詞 の
《ce6fi》か ら発 生 した 《‑Cfi>>とい う態 を しめす 補 助 成 分 の本 来 の意 味 に よっ て説 明 され る。 ロ シヤ 語 で は発 展 の論 理 が正 反 対 で あ る。 活動 体 の単 語 を と もな う 《‑Cfi》 は な に よ り も動 作 の再 帰性 を もつ だ け に,活 動 体 の 単語 が受 動 態 文 に あ らわ れ る とい うこ とは本 性 に合 わ ない 。 そ れ で 非活 動 体 の単 語 が,
くゆ
この ば あ い さ らに 重要 な地 位 を しめ る ことに な る。
非 活動 体 を 主 語 とす る 「被 」 を と もな う二 項 の文 が 数量 的 に増 大 した こ
(73)「 東 洋 学 研 究 所 学 術 論 叢 」,第4巻,モ ス ク ワ,1952,2(F21頁 。 (74)「 ロ シ ヤ 語 文 法 ⊥ 第1巻,416‑417頁 。
(75)ア 。 ア ・ シ ャ フ マ ー ト フ,ロ シ ヤ 語 の 統 辞 論 か ら,95頁 。
(98)
人 文 研 究 第36輯
とは,次 の こ とを証 明 して い る。 つ ま り中 国 語 に お け る受 身 の使 用 範 囲が ひ ろが った こ とで,そ れ は 部 分 的に は ア ナ ロジー の法 則 の 影 響 を うけ,ま た 部 分 的に(若 干 の中 国 の 言語 学 者 が これ をみ とめ て い る)受 動 態 文 の主 語 に 非 活 動 体 の単 語 が 非 常 に ひ ろ く用 い られ て い る外 国 語 の 翻 訳 の影響 を うけ て い
るた めで あ る。
主 語 の た め に 客 体 の 意 味 を 確 実 にす る は た ら きを す る 「被 」 とそ の 動 詞 と の 結 合
す で に み た よ うに 「被 」 は 主語 の後 に あ っ て一 種 の客 体 の意 味 を確 実 に す る もの とな るが,こ の ことは 主語 とな る事 物 が 客 体 とみ な され る こ とを前 提 とす る もので,客 体 は動 作 が あ るぽ あ いに のみ 存 在 で き る し,ま た な ん ら
か の動 作 に 関 連 して のみ 存 在 し うる もので あ る。 主 語 とな って い る事 物 の も つ客 体 の意 味 は,述 語動 詞 に た いす る関係 に あ らわ れ る。 した が っ て主語 に 客体 の意 味 の あ る こ とは,動 詞 の動作 が 主 語 に 向 って い る とい うこ とで あ る。
した が って 「被 」 は 主 語 のた め に,客 体 の意 味 を確 実 に す る方 法 で あ る と同 時 に,動 詞 の動 作 を規 制 整 頓 す る方 法 で もあ る。
「被 」 に よって動 詞 は 主語 とな る名 詞(動 作 の客 体 に も)に 関係 す る し, また 「被 」 の後 に おか れ る(動 作 の 主 体)名 詞(こ の ば あ いは そ れ が 人 称 の と き)に も関係 す る。
動 詞 は 「被 」に よって 名詞 と一 定 の関 係 に 入 る。 した が って 「被 」 は 名 詞 に た いす る動 詞 の語 法 関 係 の附 加成 分 とみ な し うる。
動 詞 と名詞 との シ ソタ ックス結 合 を示 す 「被 」 は,こ の点 で ロシヤ語 の
《‑cfl》に 似 て い る とい うの は,こ れ また主 体 と客 体 を意味 す る名詞 と動 詞 の シ ソタ ックス関 係 を規 制 して い るか らで あ る。
「被 」 を と もな う文 に 相 応 す る もの と して は,ま るで反 対 の関 係 に あ る
「被 」 な しの文 が あ る。 こ うい う対 応 は 三 項 の文 に も二項 の文 に もあ る。 受 動 態 文 の補 語 は 能動 態 文 で は主 語 とな り,主 語 は補 語 とな る。
‑54一
ロシヤ語 で は 動 詞 の語 法 関 係 の変 形 に よ って動 詞 自体 の 補 足 的 な語 法 的 意 味 の変 形 が お こる。 この 観 点 か らす れ ば 「被 」 は 中 国 語 の動 詞 の補 足 的 な 語 法 的意 味 の形 式 的 しる しに な る と もい え る。 した が っ て 「被 」 を入 れ る こ とに よ り(能 動 態 を受動 態 に か え るば あ い)単 語 間 の 関 係 は変 わ り,「 被 」 自体 は語 法 関係 を しめす ば か りで な く,こ の 関係 を変 え る とい うこ とが で き
く の
る。 わ れ わ れ は態 の研 究 に 用 い られ て い る 「関係 の変 化 」 とい う術 語 を使 う こ とに す る。 これ は 「被 」 が 実 際 上,す で に変 化 した関 係 を 固定 させ るだ け で あ る こ とを忘 れず に 「被 」の この は た らきを補 足 して い る。 この点 で 「被 」 は類 推 的に動 詞形 式 に用 い られ る とい って よい。 この動 詞 形 式 は 「動 作 の主
くの
動 者 と動 作 の客 体 間 の 関係 を変 え なが ら同 時 に態 も表 現 して い る」。
しか し 「動 作 の主 体 と客 体 間 の関 係 が,す べ て態 の関係 を も って い るわ
(78)
け で は な い 。 動 詞 に 語 法 形 態 が あ る も の に か ぎ る 」。 「被 」 は 《‑Cfi》の よ う な 語 法 形 態 の 方 法 とみ な し うる だ ろ うか 。
「被 」 は 《℃E》 の よ うに 語 法 的 意 味 の 形 式 的 な し る しで あ る が,本 質 的 に は 《‑ca》 と は 異 な る。 《‑efl》と い う助 詞 は 多 義 的 で,受 動 態 と再 帰 ・中 性 態 の 意 味 を あ らわ す 方 法 と な っ て い る。 した が っ て,よ くあ る こ とだ が,
どん な 意 味 と 関 係 を もつ か に よ っ て,主 語 と な る名 詞 が 客 体 か,そ れ と も 主 体 か を 区 別 した り決 定 した りす る こ と が 非 常 に む ず か しい 。
《‑Cfi》の つ い て い る動 詞 の 受 動 の 意 味 は,造 格 形 式 に お い て 主 動 者 た る 名 詞 が あ る ぽ あ い は,と くに 明 らか で あ る。 ア ・エ ム ・ペ シ コ フ ス キ イ は こ れ に 関 連 し て 述 べ て い る 。 「特 別 な 態 の 意 味 は こ こで は 動 詞 自 身 の 形 式(つ
ま り 《一Cfi》.筆者)に よ る と い う よ りは,む し ろ そ れ を 含 む 単 語 の 結 合 の 形
(76)態 関 係 の 分 析 に は,こ の 術 語 が 用 い られ て い る 。 と くに 動 詞 が 各 種 の 態 形 式 を あ ら わ す 同 一 の 動 詞 か らで き た 一・連 の 文 を 比 較 す る と き は,と りわ け そ うで あ る 。 態 の 形 式 が 単 語 間 の 語 法 関 係 を 変 え ず,な お さ ら主 体 と 客 体 の 間 の 現 実 の 関 係 を 変 え な い こ と は 明 らか で あ る 。
(77)「 ロ シ ヤ 語 文 法 」,第 一 巻,414頁 。 (78)同 上 。
‑55一
(100)人 文 研 究 第36輯
く の
式 に よる もので あ る。 す べ ては"主 動 者"の 造 格 に あ る」。
中 国 語 の 「被 」 も多義 的 で あ るが,主 語 との関 係 に つ い て は そ うで ない 。
「被 」 は 客 体 が 主語 に な る こ と,つ ま り文 中に 受 動 の意 味 の存 す る こと を しご くは っき りと証 明 してい る。 したが って受 動 態 文 に 「主動 者 」 が存 す
る こ とは,一 般 的に い えぽ 必 須 で は ない 。 しか し 主 動 者 が あ るば あ い に は
「被 」 の助 け をか りるが,こ の とき 「被 」 は主 体 とな る 名詞 との 関 係 上,前 置 詞 の は た らき を してい る よ うに み え る。
た とえば,英 語 で は 客体 の意 味 が動 詞 の特 殊 形 式(助 動 詞+動 詞 の形 動 詞 形 式)に よっ て 主語 自体 を 固定 し,主 体 の意 味 が 名詞 の特 殊 な前 置 詞by に よっ て 固 定 され る とす れ ば,中 国 語 の ば あ い は 「被 」が 英 語 の前 置 詞by の はた らき も動 詞 の形 式 も兼 ね て い る し,客 体 の 名詞 に も動 作 の主 体 の 名詞 に もつ か え る とい う二 重 性 が あ る。
再 三 指 摘 した よ うに 「被 」 の基 本 的は た らきは 主 語 とな る名詞,つ ま り 客 体 との 関 係 に あ らわ れ て い る。
前 置詞 と体 詞 との結 合 に も似 た 「被 」 と動 作 の主 体 との結 合 は,一 単位 と して も動 詞 の語 法 的意 味 の形 式 的 しる しと して も,見 られ なか った こ とに 注 目せ ね ば な らな い。 これ に 関連 して研 究 者 は 動 詞 の前 の 「被 」 と名 詞 の 前 に おか れ る 「被 」 を 区別 して,前 者 は動 詞 の形 態 的 しる しで あ り,後 者 は 名 詞 の シ ソタ ックス的 機 能 の しる しとみ な して い る。
(80)(81)
した が っ て動 詞 の 前 の 「被 」は プ レ フ ィク ス,あ る い は 補 助 詞 と よぼ れ,
(82)
名詞 の前 に おか れ る 「被 」 は 前 置 詞 とい われ る。
(83)
動 詞 の 前 の 「被 」 は 最 近 で は ま す ま す 受 身(受 動)の 意 味,あ る い は 受
(79)ア ・エ ム ・ペ シ コ フ ス キ イ,科 学 的 に 究 明 し た ロ シ ヤ 語 統 辞 論,モ ス ク ワ, 1986,118頁 。
(80)余 健 捧,詞 美"被"和 詞 尾"了",中 国 語 文,1956,第9号,30頁 。 (81)双 語,人 民 教 育 出 版 社,第 三 冊,北 京,1956;章 寿 康,略 論 双 語 構i詞法,1‑
8頁 。
(82)黎 錦 煕,新 著 国 語 文 法,44頁;王 逐,把 字 句 和 被 字 句,28頁 。 (83)章 寿 康,略 論 双 語 構 詞 法,7頁;双 語,第 三 冊,123頁 。
‑56一
く
身 関 係 を つ た え る方 法 とみ な さ れ る よ うに な った 。 も っ と も こ の ば あ い,こ れ が ど ん な 方 法 で,そ れ の 性 質 が 何 か を 明 確 に は して い な い 。
動 詞 の 前 の 「被 」 に か ん す る議 論 で い ち ぽ ん 広 く行 な わ れ て い るの は, 中 国 の 文 献 で 常 に 形 態 構 成 の ア フ ィク ス とみ な して い る 「了 」,・「辻 」,「着 」 の よ うな補 助 詞 とす る見 解 で あ る 。
「被 」 が しば しば モ ル フ ェー ム(字)と も い わ れ る の は,そ の 語 法 的 は た ら き に 注 意 しな い で,単 音 節 の 性 質 か らい っ て い る か らで あ り,こ の ば あ い
く の
は全 体 と して受 身 の構 造(被 動 式)を い って い る。
「被 」 を 前 置 詞 とみ な し うる か
す で に み た よ うに,三 項 の文 で 「被 」 の 後 に動 作 の主 体 た る名 詞 が お か れ る と きは,通 常 「被」 を前 置詞 的は た らきをす る もの と した 。 二項 の 文 で
「被 」 が動 詞 の前 に 直接 お かれ る と きは 前 置 詞 とみ な され な い。
実 際 このぼ あ い で は 「被 」 を 前 置 詞 と み なす べ きで な い よ うに 思 われ る。 な ぜ な ら一 般 に 理 解 す る と ころで は,支 配 され る体 詞 な しに前 置 詞 を用 い るの は本筋 で な いか らで あ る。 しか し中 国語 で は 「給 」,「替 」 の よ うな若 干 の前 置 詞 を動 詞 の前 に 直接 用 い る こ とが で き る。 た とえ ば,
刻 四 苓回 来 替 問 声好(老 舎,酪 駝 祥 子,66)
これ は 中 国 語 が イ ン ドヨー ロ ッパ語 とち が って い る と ころで,原 則 と し て前 置 詞 を動 詞 に 直接 む す びつ け て も よい とい うこ とで あ る。 古 代 中 国語 に お い て,こ うい うは た らきは標 準 的で あ った 。 した が って 「被 」 を 名 詞 な し で動 詞 の前 に 直接 お くこ とが で き る とい うこ とは,そ れ を前 置 詞 とみ なす こ
とに反 対 す る根 拠 に は な らない 。
しか し問題 は 「被 」 の位 置 に あ るので は な く,そ の語 法 的 は た らきに あ る。 それ に よっ て根 本 的 に前 置 詞 と区別 され る ので あ る。
(84)張 志 公,双 語 語 法 常 識,新 知 識 出 版 社,上 海,1956,87‑97頁 。 (85)呂 叔 湘,朱 徳 煕,語 法 修 辞 講 話,115頁 。
(102) 人 文 研 究 第36輯
上 述 の よ うに 「被 」 は,前 置詞 のば あい普 通 そ うで あ る よ うに,主 と し てそ の後 に つ づ く名 詞 を 支 配 しな いで,そ の 前 に あ る名詞 を 支配 し主 語 の は た らきをす る。 「被 」 を お か ねば な らな い のは,ほ か で もな くこれ らの名 詞 の主 語 のた め で あ って,そ の 後 に おか れ る名 詞 の た め で は な い。 「被 」 は 後 に つ づ く名 詞 と関 係 を もつ にす ぎず,そ してそ の 後 に くる単 語 た る動 作 の現 実 の主 体 を しめす だ け で あ る。
前 置 詞 に は 本 質 と して こ うい うは た らきが な い。 した が って 「被 」 は前 置詞 で は な い。
「被 」 の 主 だ った は た らきは 動 詞 の 語法 的意 味 を 形 式 的 に表 現 す る とい うこ とで あ る。 つ ま り 「被 」 は動 詞 に 補足 的意 味 を さず け る。 この点 で も
「被 」 は前 置詞 とはち が う。
そ のほ か 「被 」 は発 生 上 か らも前 置 詞 とは み なせ ない 。歴 史 的 に 「被 」 は名 詞 と む す びつ い て いた 。 つ ま り主 語 の は た らきをす る 容 体 とむ す びつ き,動 詞 の 前 に 直接 お かれ た。
動 作 の 主 体 を あ らわす 単 語 は 「被 」 の あ る文 の最初 の発 展段 階 では 「動 詞 の 後 に お かれ た,と い うのは この ぼ あ いそれ は 特 殊 な前 置詞 「於 」 に よっ て導 入 され た か らで あ る。 「被 」 と動 詞 の間 に動 作 の主 体 とな る単 語 が 入 る よ うに な った の はず っ と後(5‑一 一6世 紀)の こ とで あ り,そ のほ か 類 推 の た め で もあ る。 た とえ ぽ 「史記 」 か ら 例 を とっ てみ る と,動 作 の 主 体 とな る
「悪 言」 とい う単 語 の 結 合 は 「汀 」 とい う動 詞 の 直接 後 に あ る。
湯 力 天 子 大 臣被 汗 悪 言 而 死(史 記,酷 吏 列 傳)
oo
同 じ 「史 記 」 か ら例 を とる と,次 の文 では 越 とい う動 作 の 主 体 を あ らわ す 名詞 が,動 詞 の後 に おか れ る干 とい う前 置 詞 の助 け を か りて 入 って い る。
… 以万 乗 之 国被 園 子 越(史 記 ,魯 仲 連 傳)
oo
王 力教 授 は 「被 」 と 「干 」 が 同時 に 用 い られ る よ うに な った のは,動 詞 の前 に直接 お かれ る 「見 」 を と もな う受動 態 構 文 の影 響 を うけ た もの とみ て
一58一
く の
い る。 「漢 の時 代 に は そ の機 能 上 か らい っ て多 くの 点で 見 と一 致 して い た 」。
周知 の とお り,「 見 」 の ば あい は 動作 の主 体 を あ らわ す 単 語 が い つ で も 動 詞 の後 に あ っ て 「干」 でみ ち びか れ る。
吾 常 見 笑 干 大方 之 家(庄 子,秋 水)
ooooo
さ らに もっ と 後 代 の作 品 「三 国 志演 義 」(8世 紀)か ら 例 を とっ てみ よ う。
不 意 呂布寛 被 縛 干 二 人(三 国 志演 義,第 四 分 冊,17頁)
oo9
これ らの文 中 の 「被 」 は前 置詞 とみ な せ ない。
「被 」 の主 なは た らきは,主 語 の後 に あ っ て 客 体 の意 味 を た しか に し, 動 詞 の語 法 関 係 を変 え,動 詞 の補 足 的 な語 法 的意 味 を あ らわす こ とで あ るか
ら,む ろん動 詞 の な ん らか の形 式 と して 「被 」 を み るべ きで あ る。
「被 」 を 動 詞 の プ レ ク ィ ク ス と み な し う る か
「被 」 は動 詞 の 語法 的意 味 の 形 態 的 しる しで あ るだけ に,ま た 語 法 的 意 味 の形 態 的 しる しと単 語 の形 態 の概 念 とは 同 一視 され るのが 常 で あ るか ら, 動 詞 の形 態 を構 成 す る方 法 の ひ とつ に 「被 」 を 入れ られ るか も しれ な い。 そ
して動 詞 の前 に お かれ る こ とか ら,そ の プ レフ ィクス とい え るか も しれ な い。
しか し 「被 」 を動 詞 の プ レフ ィクスに 関 係 づけ るた め に は,普 遍 化 され た 語 法 的意 味 を つ た え る と い うは た らきの ひ とつ だ け で は 不 充 分 で あ る。
「被 」 が プ レフ ィクス と してあ るた め に は 実 質 的 意 味 が 失 なわれ ね ば な らな い だ ろ うし,ま た あ らゆ る種 類 の動 詞 を 含 まね ば な らな い。
「被 」 に はわ りと語 彙 的 意 味 が あ るの で,い ろ い ろ な見 方 が 存す る。
ゆ
多 くの研 究 者 は 「被 」 に は実 詞 的 な意 味 が ない とみ な して い る。 王 力教
(86)王 力,双 語 被 劫 式 的 笈 展,語 言 学 論 巫,第 一 輯,上 海,新 知 識 出 版 社,1957, 6頁 。
(87)劉 世 儒,被 劫 式 的 起 源,32,33頁 。 一 刻 世 儒 の 考 え に よ る と,「 被 」 は 動 詞 の 意 味 を 失 な っ て し ま い,「 虚 詞 的 」 な 単 語 に 変 化 し た,六 朝 時 代 の 言 葉 で は
も う受 動 態 を 表 わ す 方 法 に な っ て い る(六 朝 は229‑589)。
‑59一
(104) 人 文 研 究 第36輯
授 は 「被 」 を補 助 詞 の成 分 と して い るが,こ れ は 「虚詞 」 よ りも実 詞 に近 い
(88)
とな し,そ の前 提 と して 「被 」 の実 詞 的 意 味 が動 詞 との結 合 に影 響 して い る とい う。
高 銘凱 教 授 に よ る と 「被 」 は 現代 語 で も動 詞 で あ り,実 詞 的意 味 は 失 な わ れ て お らず,こ れ は 受動 態 の意 味 の形 態 的 し る しに は な らな い と考 え て い
ラ
る(実 詞 的意 味 を保 って い る こ とに 関 係 づけ て)。 後 者 の議 論 は 根拠 を失 な って い な い。
も しも 「被 」 に 実詞 的意 味 が あ り,後 に つ づ く動 詞 とむ す んで 受 動 態 の 意 味 をつ た え る とす れ ぽ,高 銘凱 の言 葉 の よ うに 記 述 的方 法 にす ぎな いか も しれ な い。 明 らか な こ とは,「 被 」が実 詞 的意 味 を もち,独 立 した単 語 で あ り なが ら,語 法 的意 味 をつ た え る方 法 で は な い こ とで あ る。 なぜ な ら 「一 定 の 概 念 を つ た え る語 彙 的方 法 に は,語 法 の 特徴 とな る個 別 的 な もの や具 体 的 な
く の
ものか らの抽 象 化 や 抽象 性 は な い」 か らで あ る。
も しも高 銘凱 のい うよ うに 「被 」 が 「受 け る」 とい う実 詞 的意 味 を もっ て い る こ とを認 め るな ら,「 被 」 を動 詞 とみ な さない わ け に ゆ か な い だ ろ う。
しか し 「被 」 は 統辞 論 的に も形 態 論 的 に も動 詞 の特 徴 を もって い な い 。 周 知 の よ うに 「被 」 は 独 立 した 述 語 に は な らな い し,補 語(名 詞)を と らな い。 現代 語 に は 「被 」 が 述 語 とな る 《主 語一 述語 》 の文 も 《主語 一 述 語 一 補 語 》 の型 もな い。 「被 」 が用 い られ るた め に は,ど うして も文 中 に他 動 詞 が なけれ ぽ な らない。r被 」が 用 い られ るのは 他動 詞 とむ す び つ い た と
きにか ぎ られ る。
したが って 「被 」 は動 詞 の統 辞 論 的特 徴 を もた ない とい うこ とに な る。
また 「被 」 に は 動 詞 の 形 態 論 的 特 徴 もな い。 被 了他 騙 了 とい う 型 の例
(88)王 力,中 国 語 法 理 論,176頁 。 (89)高 銘 凱,双 語 語 法 論,40頁 。
(90)ヴ ェ ・ エ ヌ ・ ヤ ー ル ツ ェ ワ,‑r‑一 ル 「理 論 」 に お け る 語 彙 と 語 法 の 混 同 一
《言 語 学 に お け る マ ル ク ス 主 義 の 俗 流 化 と 曲 解 に 反 対 す る 》 第2巻,モ ス ク ワ, 1952,364頁 。
‑60一
くカリ
(こ の例 の変 体一 被 了他 的騙 了),被 了他 的害 で は 一 回完 了体 の サ フ ィクス
く ラ
「了 」 がつ い て い る。 この よ うな例 が あ るか ら こそ 高 銘 凱 は 「被 」 の 「動 詞 性 」 を 証 明 し ょ うとす る。
「被 」が 文 章 語 で な く 口語 に固 有 の多 少 と も 固定 化 した単 語 の結 合 の成 分 に な ってい る よ うな文 は 単 一 で あ る こ とか ら判 断 し,ま た この種 の単 語 の 結 合 で は 「被 」 にか わ って 「受 」 とい う動 詞 が ず っ と多 く用 い られ る こ とを 考 慮 に いれ て,わ れ わ れ は この ぼ あ い 同義 語 の動 詞 「受 」が あ る もの と考 え る。 こ こで 「被 」 は 実 際 の と ころ,お そ ら く 現 在用 い られ な い 古 代 の動 詞
「被 」(現 代 の 祖 先)に さか の ぼ る動 詞で あ る。 わ れ われ の研 究 してい る 「被 」 の 同 音異 義 語 で,一 つ 乃至 二 つ の 固定 化 した 単 語 の結 合 の な か で 見 あ た る動 詞 で あ る。
そ の うえ(以 下 で しめす が)「 被 」 は 二,三 の 他 動 詞 と と もに用 い られ るので は な く,あ らゆ る他 動 詞 と と もに用 い られ る。 この点 で 「被 」 は成 語 に 入 る語 彙単 位 とは異 な る。 語 彙単 位 は一 定 の意 味 を つ た え るた め の叙 述 方 法 とな る もの で あ る。
した が って 「被 」 が 完 全 に 実 体 的意 味 を もち動 詞 で あ る とみ な しては な
らな い。 ・
王 力教 授 は 中 国語 で は 受動 態 文 の使 用 が制 限 され て い る こ とに ふれ て,
「被 」 の語 義 に そ うい う制 限 の理 由を み よ うと して い る。 「被 」 に は 「遭 受」
の意 味 が あ る。 した が っ て受動 型 の文 で あ らわ され る動 詞 の動 作 は,主 語 に
く ヨラ
た いす る関 係 上 不愉 快 か希 望 しな い こ とで なけれ ぽ な らない 」。
一 般 的に い え ば ,動 詞 の動 作 の 「愉 快 」 と 「不 愉 快 」 に よって動 詞 を 区 分 す る こ と自体 が 語法 的 区分 で は な い。 同 じ動 作 が い ろ い ろ な観点 か ら,い
(91)J.Mullie,Thestructuralprinciplesofthechineselanguage,v・II, Peiking,1937,p.45.
(92)現 代 中 国 語 に は 「被 」 が 独 立 し た 動 詞 と して あ ら わ れ る 例 が あ る 。 大 家 接 着 就 預 測 他 將 被 扱 刑(萢 愛 衣,0064)
(93)王 力,中 国 語 法 理 論,181頁;呂 淑 湘,朱 徳 煕,語 法 修 辞 講 話,117‑121頁 。
‑61一
(106) 人 文 研 究 第36輯
ろ い う な コ ソテ ク ス トで 「愉 快 」 に な っ た り 「不 愉 快 」 に な っ た りす る。
「不 愉 快 」 の 意 味 は 動 詞 そ の も の に あ る の で は な く,一 定 の コ ンテ ク ス トで 単 語 が 結 合 す る ぽ あ い に の み あ らわ れ る も の で あ る。
も し中 国 語 の 受 動 態 文(「 被 」そ の 他 の 補 助 詞 を と も な う)が 実 際 多 くの ば あ い に 客 体 た る主 語 に と り 「常 に 蒙 る 」,「不 愉 快 な 」 特 殊 な 語 義 の 色 彩 を
もつ とす れ ば,こ の 色 彩 は 動 詞 の 語 義 に よ る も の で は な く,文 の 構 造 全 体, 受 動 ・被 動 の 意 味 に よ る も の で あ る(ロ シ ヤ 語 の 術 語 《CTpalLaTe」[LHblti>>一一一
《CTpallaHvae》(苦 しみ)の 語 源 と 比 較 せ よ)。 した が っ て 受 動 態 文 に あ る 色 彩 が あ る と い う こ とは,な に か 不 愉 快 な こ と を あ らわ す 特 殊 な 動 詞 グル ー プ
と と もに 「被 」 を 用 い る の を 制 限 す るた め と は い え な い 。
実 際,「 被 」 を と も な う文 で,そ の 語 彙 内 容 が 「被 」 の 語 彙 内 容 と符 合 しな い 動 詞 が,し ご く自 由 に 用 い られ て い る 。 つ ま り,そ の 動 詞 の 動 作 が 主 語 に た い す る 関 係 上 な ん ら希 望 しな か っ た り不 愉 快 だ っ た りす る こ とを あ ら わ して い な い 。 そ れ は 次 の よ うな 他 動 詞 で あ る。
解 放jiefang看 見kanjian
迭 挙xuanju知 道zhidao
創 造chuangzbo説 明shOoming
上 の動 詞 は動 詞 の 「不愉 快 」 を あ らわ す ば か りで な く,ま た 反 対 に しば しば動 作 の 「愉 快 」 を あ らわ す に もか か わ らず,「 被 」 と と もに 用 い る こ と が で き る。
王 力 教 授,呂 叔 湘教 授 と朱 徳 煕 は,「 被 」 の使 用 に か ん し 昔 の規 準 に く らべ て 現代 中 国語 で は著 しい変 化 の あ る こ とを み とめ,そ れ を 外 国語 に よ る
影 響 と解 釈 して い る。
しか し外 国語 の影 響 を うけ て い な い文 学 の古 典 作 品 に 「被 」 が用 い られ て い る こ とは,「 被 」 が 「不愉 快 」 とは な ん の 関 係 もな い動 詞 と と もに,と
(94)王 力,汲 語 史 稿,435頁 。
一62一
(95)
うか ら用 い られ て い る こ と を 示 して い る 。
14世 紀 の 「水 潜 」 で は 「被 」 が 次 の よ うな 動 詞 と用 い られ て い る。
算 住kaozhu 説 升s涌okai 推 升tuikai
救jiu 幼quan 吹chui
illEli出tOochu
差chai
祉che
引yln
留 捲
liu
Juan 吃chi 看 見kanjian
轄zhuan
把 磁 な ど
「被 」 が14世 紀 の 言語 で,は や くも語 法 化 され た要 素 とな ってい る こ と は 明 らか で あ り,単 語 の も との意 味 か らは抽 象 化 され て い る。
これ に つ い て は も うひ とつ の 作 品 「三 国 志 演 義 」 に よ っ て も い え る こ と で あ る 。 これ は 「水 濤 伝 」 よ り も若 干 お くれ て 書 か れ た も の で あ る。 これ に
(96)
は 次 の よ うな 動 詞 が 「被 」 と と もに 用 い られ て い る 。
ン
請qlng 猜 破(AiPδ
躾duo
拉k:ing 圃w6i
動 詞 の意 味 と 「被 」 の 意 味 の 間に 関 係 の ない ことは,18世 紀 の 「紅 楼 夢」 が 証 明 して い る。 語 義 上 で は 「不愉 快 」 とな ん ら関 係 の ない 次 の動 詞 を
(95)呂 叔 湘,被 劫 式 的 起 源,32頁 。
(96)戦 斗 記 事 に み ち て い る 「三 国 志 演 義 」 で は,主 語 と な る 人 物 あ る い は 事 物 と の 関 係 か らみ て 「不 愉 快 」 とみ な さ れ る 動 作 を あ らわ す 動 詞 が 非 常 に 多 く,そ れ ら は 「被 」 とむ す び つ い て い る。 そ の 動 詞 は,「 殺 す 」,「負 傷 さ せ る 」,「捕 え る」,
「しば る 」,「 しめ 殺 す 」,「射 殺 す 」,「刺 す ⊥ 「馬 か ら ひ き ず り お ろ す 」 な どで あ る 。 しか し これ ら の 動 詞 の 大 多 数 は 「被 」 の 語 義 に よ っ て で は な く,全 作 品 の 文 体,性 質 に よ っ て 説 明 され る こ とは ま っ た く 明 らか で あ る 。
(108)
み て み よ う。
看 見kanjian 挾xia 掘 住 さzhu 美mai
人 文 研 究 第36輯
剋 制kezhi
譲 ぬng
参ciin 知 道zhidao
「不 愉 決 」 の 色 彩 は 「被 」 の 語 彙 の 意 味 とは 関 係 な し とい わ ね ば な らな い 。 な お ま た 「被 」 の ほ か に 話 言 葉 で は 「給 」,「譲 」,「叫」 の 補 助 詞(こ れ も また 受 身 の意 味 を つ た え る 方 法 と な る)も 用 い る こ とが で き るか らで あ る。 これ らは 語 法 化 され る ま で 「蒙 る」 の 意 味 を もた な か っ た 。
王 力 教 授 の み と め る よ うに,古 代 語 で は 「カ 」 を と も な う受 身 と 「)勺… 所 」 を と も な う受 身 は,「 被 」 の つ く構 造 と 同 じ く,な ん ら 「不 愉 快 」 を 表 わ さ な か っ た 。 しか し 「カ 」 に も 「カ …所 」 に も 「受 け る」 と い う語 彙 の 意
く わ
味 はで て こなか った 。
「被」 を用 い るぽ あ い 「不愉 快」 あ るいは 「不 本 意 」 を 表 わ す 動 詞 と結 びつ くとは 限 らない な らば,そ して 「不愉 快」 の色彩 自体 が,事 実 上 「被」
の意 味 か ら独 立 して い るな らば,部 分 的に もせ よ 「被 」 に語 彙 の意 味 のあ る こ とをみ とめ る根 拠 は な い。
「被 」 に語 彙 の意 味 が あ る と い わ れ るの は,受 身 の文 で は 「被」 のほ か に 他 の補 助詞(譲,叫,給,カ な ど)が 用 い られ る こ とに 関 連 して の こ とか も しれ な い 。 これ は ち ょっ とみ る と前 置詞 との類 似 を 思 わ せ る。 しか し前 置 詞 は 一 一定 の 現実 的関 係 のみ,た とえ ば ひ とつ の事 物 の他 の ものへ の 関 係 だけ を 意味 す る と ころに 違 い が あ る。前 置詞 は 相 互 の入 れ か え が きか な い。 そ の いず れ もが 異 な った 現実 関係 を あ らわ す か らで あ る。 した が って互 いに 異 な
る前 置 詞 の語 彙 の意 味 が いわ れ る。
現 代 中国 語 の受 身 の文 で 用 い られ る補 助 詞 は ど うか といえ ば,い ず れ も
(97)王 力,汲 語 史 稿,435頁 。
一64一
同 じ現 実 の関 係 を 意 味 して い る。 した が っ て,こ の面 で の語 彙 の意 味 はす で に い え な いわ け で あ る。 中 国語 に おけ る この補 助 詞 の多 様 性 そ の もの は 各 種 の文 体や 各 種 の方 言 に よる もので あ る。 た とえ ぽ 「叫」 と 「給」 は北 京 口語 の土 語 に,「 被 」 は文 章 語 に 用 い られ るの が普 通 で あ る。 評 論,学 問,芸 術 上 の作 品で は圧 倒 的 に 「被 」 が 用 い られ る。 た とえ ぽ 巴金 の作 品 で は多 くの ばあ い 「被」 が用 い られ て い る(100頁 の うち 「被」 が35回,「 カ」 は3回,
く ラ
「給」 と 「叫」 は な い)。 魯 迅 の作 品 で は ほ とん ど 「被」 しか用 い られ て い な い。 南 方 方 言 の 受 身 で は 「被 」 が 用 い られ,山 東 で は 「着」 が用 い られ る。
補 助 詞 の多 様 性 は 中 国語 に お け る受 身 自体 の起 源 の異 質 性 に よ る もので
く
あ る。 そ れ は各 種 の体 の動 詞 と と もに そ の作 用 に 影 響 を あ た え た。
これ らの事 実 に よ り,「 被 」 は実 詞 の実 体 的意 味 の 上 で も 前 置詞 の よ う な補 助詞 の語 彙 的意 味 の上 で も,語 彙 の意 味 を もた ない とい え る。 した が っ て 「被 」 に は プ レフ ィクス のば あ い と 同 じよ うに,「 あ る種 類 の単 語 との結
く
合,個 別 的 な語 彙 内容 の欠 除 と普遍 的 な語 法 概 念 の表 現」 が 特徴 とな る。
これ らの 特徴 は 「被」 に もプ レフ ィクス に も共 通 の もの で あ る。 しか し
「被 」 で は プ レフ ィクス とは 異 な った 語根 に多 くの特 徴 が あ る。
「被」 を 屈 折 語型 の プ レフ ィクス とみ な せ な い こ とは疑 い もない 。 なぜ な らそ れ は 単 語 の構 造 を 変 え な い し,動 詞 な しに 用 い られ るか らで あ る。
「被 」 は それ と と もに 用 い られ る 動 詞 に た いす る 関係 上 で は,一 定 の独 立 性 と統辞 論 上 の独 立 を あ らわ して い る。
単 語 と して の 「被 」 の統 辞 論 的独 立性 と個 別 性 は ど こに あ らわ れ るか
(98)た と え ば,次 の 本 を 見 よ 。 魯 迅,故 事 新 編,人 民 文 学 出 版 社,北 京.1954。
(99)エ ヌ ・エ ヌ ・ カ ロ ー ト コ フ.歴 史 的 シ ン タ ッ ク ス,145頁 。
(100)ヴ ェ ・エ ヌ ・ ヤ ル ツ ェ ワ,「 理 論 」 に お け る 語 彙 と 文 法 の 混 同,エ ヌ ・ ヤ ・ マ ラ ー ,362頁 。
一65一
(110) 人 文 研 究 第36輯
「被 」 は動 作 の主 体 を あ らわ す 名詞 に よ って動 詞 と 区 別 され る とい うこ との ほか に,単 語 と して の 「被」 の個 別 性 は次 の ぼ あ いに あ らわ れ る。
a)「 被」 は動 詞 と区別 で き る。 「被」 は 各種 の状 語 用 法 の副 詞 の 助 け をか りて動 詞 と結 合す る。 そ してつ いに は動 作 の 主 体 た る名 詞 が 取 り去 られ て い るぽ あ いに は文 全 体 と さえ結 合 す る。 た とえ ぽ,
四 川 方 言有 些 字 已 被 涯使 用(光 明 日報,26・M・1950),(「 被 」 は 〔 乏
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とい う副詞 に よ って動 詞 と区別 され て い る)。
同時 梅女 士 感 得 自己 的手 被 用 力地 握 着(虹,187),(「 被 」 は 副詞 の用 力
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地 に よって動 詞 と区別 され て い る)。
迭 ケ計 剣 正 被板 其 順 利 地 完成 着(「 被 」 は 順 利 地 とい う副 詞 で 動 詞 と区
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別 されてい るが,な おお まけに扱其がついてい る)。
芳朕的青年 一一代 是被 以元序階級国除主叉 的精神和各国人民兄弟友愛的精
OOOOOOOOOOQOOgOOOOOgOQO
神 教 育 着(「 被」 と動 詞 の間 に動 作 の 方 法 の状 況 と して 以 …精 神 が 入 って い
oる)。
b)「 被」 の 後 に は二 つ 以上 の動 詞 を 同時 に お くこ と もで き る。
据 合 衆 社説,那 一 次被 打 死 打 傷 的 哉 俘共 有 九 人(「 被 」 は 打 死 と 打 傷 の
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二 つ の動 詞 に 同 時 に 関連 して い る)。
有 一 天 傍 晩,一 介学 生在 南 門被 三 四 介兵 士 園 着 痛 打(巴 金,家,53),
0009
(こ の文 で は 「被 」 が 園着 と痛打 に関 連 してい る)。
今 天就 被 人 家 活 生 生 捉 住 系 了 …(越 樹理,李 家 荘 的変 迂),(こ のば あ い
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は 「被 」 が 同時 に 二 つ の動 詞 に 関連 して お り,し か も活生 生 とい う副詞 で動 詞 と区別 され てい る)。
も しもイ ソ ド ・ヨ ー ロ ッパ 語(屈 折 語)の 材 料 で 評価 した り規 準 を も う け る一 般 言語 学 の立 場 か ら 「 被 」 の 性質 に か んす る問題 を検 討す るな らば,
「被 」 は 語 形変 化 の プ レフ ィクス とは み なせ な い。 なぜ な らそ の根 拠 は 「被 」
‑66一
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が 語 形 変 化 の ア フ ィクス とは ちが い,他 の単 語 や 短 語 の方 法 で単 語 と区別 で きる し,ま た 同時 に二 つ の動 詞 と一 緒 に 自由に 用 い られ るか らで あ る。 そ の うえ 「被」 が この よ うな プ レフ ィクスに変 化 す る傾 向を 語 る こ とは妥 当 で な
(102) いo
い ろい ろな時 代 の作 品 を分 析 してみ る と 「被 」 は いつ で も一定 の独 立 性 を もっ てい る こ とがわ か る。 つ ま り,他 の単 語 を用 い る こ とに よって動 詞 と
コ
区 別 で き る ことで あ る。 た とえぽ,「 漢 書 」 で は 「被 」 が 副 詞 に よって動 詞 と区 別 され て い る,な か んず く,こ の 時代 の漢 語 では 大 体 に お い て 「被 」 と 動 詞 の間 に,動 作 の 主 体が おか れ てい な か った。 た とえば,
身 被 重 劾(「 被 」 は 副詞 の 重 に よって区 別 され て い る)。
も しも現代 中 国語 の あ る文 章 を 現 代 語 の規 範 とな って い る14世 紀 の あ る種 の作 品 と 比 較す るな らぽ,14世 紀 で は 「被 」 が 著 し く統 辞 論 的 な独 自 性 を もち,現 在 な らば 死 んで い るか,あ るい は ほ とん どお 目に か か らな い よ
うな構 文 で 至極 自由 に用 い られ て いた ことが 明 らか に な る。
〔弥 〕…我 不在 家,恐 伯=被外 人 来 欺 負(水 濡,第24回,274頁)。
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林 沖 当 夜 酔倒 …被 衆 庄 客 向前 綿 縛 了,解
OOOOQ送 来 一 全庄 院(水 濤,第2回,
125頁)。こ の 二 つ の 例 で は 「被 」 と動 詞 の 間 に 文 が 挿 入 され て い る 。 そ の 述 語 は 自動 詞 で 「来 」(第 一 の 文)と 「向前 」(第 二 の 文)で あ り,し た が っ て 主 文
く
の主 体 「像」(第 一 の文)と 「林 沖」(第 二 の文)と はむ す び つか な い。
(101)こ の 点 に か ん し ゲ ェ ・ ワ ソ ド リ エ ス のjeに か ん す る 意 見 は お も し ろ い 。 代 名 詞 と 動 詞 の 間 に 一 つJま た は そ れ 以 上 の 語 法 成 分(jedisdis,jeledis,jene
ledispas)を お け る 乏 い う こ と に よ っ て の みjeBjedisを ラ テ ン語 の 語 尾 oBdic‑o(わ た く し は 話 す)と 同 一 視 し た り,jedis,tudis,ilditを 語 根 前 の 屈 折 を と も な う 動 詞 の 変 化 と み な し て は い け な い 。(ヂ ェ ・ ワ ン ド リ エ ス,言 語,
モ ス ク ワ,1937,89頁)。
(102)ア ・ ア ・ ド ラ グ ノ ブ は 「現 代 語 で は 給 と 被 と い う動 詞 を 用 い る 傾 向 が あ る … 態 の 意 味 を も つ 動 詞 の プ レ フ ィ ク ス の は た ら き を す る も の と し て 」 と 書 い て い る (ア ・ ア ・ ド ラ グ ノ フ,現 代 中 国 語 文 法 研 究,127頁)。
(103)許 紹 早,水 濡 中 的 被 字 句,東 北 師 範 大 学,人 文 科 学 学 振,長 春,1956,21‑
34頁 。.