グリーン・ツーリズムと農村振興に関する日韓比較研究 一農村女性と農家レストランの地域活動を通して一
2007年 10月
熊本大学大学院社会文化科学研究科 公共社会政策学専攻 張 綿珠
論文目次
第1章序論..._..__.._._...
1−1従来の研究と問題の所在 1−2研究の目的と課題
1−3研究対象の位置づけと研究の方法 1−4 本研究の構成
.........9......................嘩..1
第2章 地域資源を活かしたグリーン・ツーリズムの展開と農村地域振興...........16 2−1グリーン・ツーリズムの潮流
2−2農村伝統文化を活用したグリーン・ツーリズムの比較
2−3景観概念にもとつく農業資源と観光資源によるグリーン・ツーリズム 2畷 農業の多面的機能の形態にもとつく地域振興の比較
2−5小括
第3章 日本の農林水産省の政策における農村女性と農村地域振興....,............54
3−1生活改善普及事業の取り組み
3−2丁目ーン・ツーリズム事業の取り組み 3−3小括
第4章 韓国の農林部の政策における農村女性と農村地域振興.....................98
4−1農水省の生活改善普及事業の取り組み 4−2グリーン・ツーリズム事業の取り組み 4−3小括
第5章交流拠点を活かした農家民宿と農家レストラン.__..___.....
5−1イギリスのティールーム及び農家民宿の展開過程
5−2 日本の農家民宿の展開過程と農家レストランの現況と事例 5−3韓国の農家民宿の展開過程と農家レストランの現況と事例 5−4 小子
126
第6章熊本県人吉球磨地域における農村女性と農家レストラン______155
一ライフヒストリー手法を用いて一 6−1 人吉球磨地域の概要
6−2戦後の時代的・地域的状況と農村女性の地域活動 6−3 食品加工「市房漬け」と農村女性の地域活動 6−4 生活改善グループ活動と農村女性の地域活動
6−5農家レストラン「ひまわり亭」と農村女性の地域活動 6絡 農家民宿と農村女性の地域活動
6−7村社会の伝統と現代をつなげる農家レストランの意味づけ 6−8公的空間としての農家レストラン
6−9小罪
第7章 熊本県宇城市小川町における農村女性と農家レストラン.................205 一ライフヒストリー手法を用いて一
7−1宇城市小川町の概要
7−2戦後の時代的・地域的状況と農村女性の地域活動 7−3農家レストラン「風の館・:塩屋」と農村女性の地域活動 7−4直売所「すずめのおやど」と農村女性の地域活動
7而 村社会の伝統と現代をつなげる農家レストランの意味づけ 7−6公的空間としての農家レストラン
7−7農家レストランとグリーン・ツーリズム 7−8小括
第8章 慶尚南道南海郡南面架川里ダレンイ村における農村女性の農家レストラン
ーライフヒストリー手法を用いて一........................。...........230
8−1
8−2
8−3
8−4
8−5
8−6
8−7
南海郡南面架川里ダレンイ村の概要
戦後の時代的・地域的状況と農村女性の地域活動 農家レストランと農村女性の地域活動
農家民宿と農村女性の地域活動
村社会の伝統を現代につなげる農家レストランの意味づけ 公的空間としての農家レストラン
小括
第9章その他の地域における農村女性の農家レストラン____.__,....242 一ライフヒストリー手法を用いて一
9−1 村の概要
9−2戦後の時代的・地域的状況と農村女性の地域活動
9−3農家レストラン江原道江陵市・「鼠地草家庭」と農村女性の地域活動 9−4農家レストラン慶片下道山清郡・「イエダムチョン」と農村女性の地域活 動
9−5農家民宿と農村女性の地域活動
9−6村社会の伝統を現代につなげる農家レストランの持つ意味づけ 9−7公的空間としての農家レストラン
9−8小判
第10章結論____.__.._____._._.____._..256
〈付録〉
資料集
図表リスト
第1章
図1−1 図1−2 図1−3
序論
調査のアプローチの視点
ライフヒストリーのアプローチ視点の概念図 本研究の構成
第2章
図2−1 図2−2 図2−3 図2−4 図2−5 図2−6 図2−7 図2−8 表2−1 表2−2 表2−3 表2−4 表2−5 表2−6
地域資源を活かしたグリーン・ツーリズムの展開と農村地域振興 ヨーロッパの農村ツーリズムの4つの構成要素
京都府美山町のグリーン・ツーリズムの拠点集落の形成 観光資源の構成要素
農業資源と観光資源に基づくグリーン・ツーリズム 地域活性化と景観・環境の役割
多面的機能の形態に基づく日韓比較 農産物の結合性に基づく農村地域開発 所得の外部効果に基づく農村地域開発 都市住民との交流に取組む集落数と割合 都市農村交流施設・活動の定義
ドイツの馬飼育の民宿農家に対する支援金額 ドイツの民宿用の建築支援
浮羽町の事例における農業資源と観光資源の構成要素の分析 星野村の:事例における農業資源と観光資源の分析
第3章
図3−1 図3−2 図3−3 図3−4 図3−5
日本の農林水産省の政策における農村女性と農村地域振興 農家経済の総括
生活改善実行グループの組織と援助体制
農村滞在型余暇活動に資するための機能の整備を促進するための措置 農林漁業体験民宿業の健全な発達をはかるための措置
NPO遠野山・里・暮らしネットワークと関連組織の連携図
表3−1農業経営動向及び農家経済 表3−2農業従事者に占める女性の割合 表3−3戦後農業・農村政策の比較
表3−4熊本県生活研究グループ連絡協議会のグループ数と人数(1979年12月末現在)
表3−5熊本県生活研究グループ連絡協議会の事業計画((1977年現在)
表3−6熊本県生活改善グループ連絡協議会予算(収入の部,1979年現在)
表3−7山口県の普及組織の変遷 表3−8都道府県別グループ数と員数 表3−9岩手県生活改善グループの活動内容
表3−10農業・農村における男女平等の実現にむけた取組みの状況 表3−11農村女性による企業活動内容
表3−12高齢者活動グループの数(60歳以上)
第4章韓国の農林部の政策における農村女性と農村地域振興 図4ヨ 農村生活改善事業機構の組織図
図4−2韓国の農家レストランの取組み 表4ヨ 専業・兼業農家数の推移
表4−2農業所得と農外所得の推移 表4−3農村生活改善事業の変遷 表4−4 生活改善事業の発展プロセス 表4−5生活指導職の部員構成の変遷 表4−6韓国の生活改善普及事業の取組み 表4−7農村婦人の所得増大活動の報告会の結果 表4−8年度別の生活改善クラブの育成状況
表4−9農村休養資源開発事業の状況(2002年現在)
表4−10観光農園経営状況(2002年現在)
表4−ll観光農園・ファームスティーの平均所得 表4−12観光農園の自己資金の割合
表4−13政府支援の農村観光集落(マウル)(2005年現在)
表4−14 政府機i関のムラ単位観光事業推進状況(2002年現在)
表4−15韓国の2002・2003年の緑色農村体験村造成事業 表4−16韓国の2002・2003年の緑色農村体験村造成事業費
第5章交流拠点を活かしたグリーン・ツーリズム
図5−ldegree centrality、 betweenness centralityの比較 図5−2農家民宿経営者の社会関係のネットワーク分析
図5−3 表5−1 表5−2
表5弓 表5−4 表5−5 表5−6 表5−7
韓国の農村振興庁の政策支援農家レストランの位置図
日本の農林漁業体験民宿経営10選(2003年,2004年)に紹介された農家民宿現況
都市農村交流施設・活動の定義と総数(2002年3月現在)
都市農村交流施設・活動の運営形態(2002年3月現在)
農家レヌトラン施設の所有者及び運営者 農家レストランの経営状況
農家民宿経営者の現況および住民共同体ネットワーグの分析結果 韓国の郷土料理資源化事業の農家レストランの状況(2007年現在)
第6章熊本県人吉球磨地域における農村女性と農家レストラン ーライフヒストリー手法を用いて一
図6−1 人吉球磨地域の調査の視点 図6−2九州地方の地図
図6−3 人吉球磨地域の地図
図6−4 農事組合法人「下村婦人会玉房漬」の組織図 図6−5下村婦人会の活動の経路
図6−6 グループ活動による政策と個人のかかわり 図6−7人吉市農家レストランの「ひまわり亭」の位置図 図6−8農家レストラン「ひまわり亭」の組織図
図6−9農村女性による農家レストランの展開経路
図6−10第二次世界大戦後の人吉・球磨地域の農村女性グループの変化 図6−11立地による農家レストラン3つの分類
図6−12立地による農家民宿・直売所・食品加工の3つの分類
表6−1「下村婦人会龍灯漬」代表者のYSaさんのうイフストリーによる個人年代記 表6−2農家レストラン「ひまわり亭」のメンバーの現況
表6−3 人吉球磨地域の農村女性の組織活動による地域振興の流れ 写真6−1熊本県の国防婦人会
第7章 熊本県宇木市小川町における農村女性と農家レストラン ーライフヒストリー手法を用いて一
図7−1 小川町の調査の視点
図7−2農家レストラン「風の館・塩屋」の組織図 図7−3直売所「すずめのおやど」の組織体制 表7−1直売所「すずめのおやど」の年間売り上げ 表7−2直売所「すずめのおやど」の販売高 表7−3女性グループによる自主的活動
第8章
図8−1 図8−2 表8−1 表8−2 表8−3 表8−4 表8−5
慶尚南道南海郡南面架川里ダレンイ村における農村女性の農家レストラン ーライフヒストリー手法を用いて一
ダレンイ村の調査の視点
慶尚南道南海郡南面架川里ダレンイ村の位置図 村の人口及び農業の現況
村組織の状況
村の政策事業の支援現況
事業推進現況および村における行政からの支援内容 農家民宿経営者の現況および住民ネットワークの分析結果
第9章その他の地域における農村女性の農家レストラン ーライフヒストリー手法を用いて一
図9−1政策支援農家レストランの調査の視点 図9−2農家レストランと食品加工事例の位置図
表9−1韓国の郷土料理資源化事業の農家レストランの状況(2007年)
表9−2農家レストラン「寒地草家庭」の運営状況 表9−3慶尚南道山清郡の人口現況
表9−4農家レストラン「イェダムチョン」の運営状況
表9−5伝統継承の「村共同経営型」農家レストランの展開過程 表9−6伝統茅葺き継承の「村共同経営型」農家レストランの展開過程
第10章 結論
図10−1農村女性の組織原理
図10−2農村女性の時代による交流段階一波動効果
図10−3 女性組織の展開を通したグリーン・ツーリズムと農村振興の展開過程
第1章 序論
H 従来の研究と問題の所在
農村女性による食品加工、直売所、農家レストラン、農家民宿を中心としたグリーン・
ッーリズムと農村振興に関する研究は、政策と生活の両面からのアプローチが可能である。
岡部守(2000)は、「戦前の農村女性の置かれた地位は低く、重労働に明け暮れ、忍従の日々 を送っていた人が多い。戦後の農地改革による、農村の民主化、その後の高度経済成長を 経て、農村は大きく変わった。特に、平成の時代に入って、今、農村で女性の起業は著し い。農産物加工・販売や直売が行われ、地域社会の活性化にも貢献している。」と指摘して いる。しかし、岡部が指摘するように、現在の農村女性の旺盛な活動は1990年代からであ り、第二次世界大戦前後にはなかったのであろうか。戦前・戦後にはどのような時代的状 況の申で、どのような活動をしたのか。その活動は、現在の農村女性の農産物加工や直売 所、農家レストランなどの地域活動と互に関係性を持っているのか。
本研究では、戦前・戦後からの農村女性の活動と、1990年代以降の現代農村女性の地域 活動について、「農村女性の農家副業」の視点から研究を進める。まず、1つは戦前・戦後 から現在に至る農村女性が置かれた時代的状況と、生活と政策事業の関係性を一貫して捉 える視点として、生活改善活動に注目する。戦前の生活改善運動から戦後の農林水産省(以 下農水省と称す)主導による生活改善普及事業の活動、さらには1990年代からのグリー ン・ツーリズムの展開など、農村女性の自主的な活動と国の政策事業との関わりについて 注目する。次に、1990年代以降の現代の農村振興に関する研究として、農業の多面的機能、
グリーン・ツーリズム、農村女性の起業化の取組みとビジネス展開との関りについて把握
していく。
まず、農村女性の副業に関する研究は、戦前の生活改善運動まで遡る。今和次郎(1942)
は、「生活改良普及員の登場で、大正時代の生活改善運動、いわゆるあの当時の文化生活の 提唱は、はやりものとして、一時表面的には一応の伝播を呼起こしましたけれど、一軒の 農家のなかにはどうしても2人から3人の働き手が必要とされているし、またその人たち は共同的に一つの経済の枠のなかで働かなければならない関係にあるのだから、個人の自 立ということはむずかしい」と指摘している。
天野寛子(1995)は、戦後の農家の生活改善運動について、「そもそも生活改善ということ は大正の初期からいわれている。生活改善そのものの理解の仕方によっては、あるいは明 治時代、ないしはそれ以前に遡ることすらできるかもしれない」と述べている。
和田町(1942)は、「1929年の新生活運動は、これを指導する上局側の努力もあるが、農 村の内部からの必須な新しい生活建設の運動で、これを一貫している精神は、いうまでも
なく日本の古来の協同主義精神であり、この精神の上に立つ協同体としての部落建設こそ がその目標である。また、草の陰に埋れて黙々と堅忍持久、理想部落建設のために努力し ているが、かつてわれらの農村がさうであったやうな、地域協同体としての家族部落を、
この新しい時代の国家基礎として、揺らぎないものに創建しなければならない」と述べてい
る。
丸岡秀子(1945)は、農村婦人団体の活動は、1930年に始まる経済の恐慌以降、農水省の 経済更生運動の開始により活発となったと指摘している。
市田知子(1995)は戦後、とりわけ1948年からの生活改善普及事業に対して「かまどの改 善に代表される生活技術は、当時の日本の農家の実状に合わせて開発された実際的技術で あったとし、生活改善グループもまた、女性が外に出にくいという、的確な意識から考え 出されたものであった」としている。また、「農家の女性に対して実践的な課題を提示し、
組織化していったからこそ、高度経済成長期に入って農家の女性は健康対策や生活環境整 備という、新たな問題に対処できた」と指摘している。また、日本の生活改善実行グループ の経験は農村振興に1つのモデルになり得ると考えられ、その参加のあり方を議論するた めには1975年代(昭和50年代)以降の時代背景やそれに伴う同事業のさらなる展開を分析 する必要がある」と指摘している。
次に、1990年代に入ってから日本ではじめてグリーン・ツーリズムという言葉が登場 し、農水省がグリーン・ツーリズムを政策課題として取り上げたのは、1992年6月に 公表した「新しい食料・農業・農村政策の方向」(新政策)であった。新政策は、地球 規模での貿易自由化、規制緩和をめざすガット・ウルグァイ・ラウンドの決着を目前 に控え、その後のラウンドにおける農業合意、今日のWTO体制を想定しながら、それ から先の農政の方向を提示したものであった(井上・中村・宮崎・山崎,1999)。
また、農産物輸入の全面的自由化を原則とし、農産物の国際的な市場競争に国内農業を 委ねるといった体系の下では、生産条件の劣る地域の農業、農業経営は切り捨てられ、中 山問地域などの条件不利地域では、耕作放棄地の増大、過疎化の進行、農村の荒廃といっ た事態を、より一層拡大させる傾向を強めるものとなる。
このような問題を解決するために農水省で取り上げられているのが、食料安保・国土環境 保全・景観維持・地域社会維持といった農業の多面的機能とグリーン・ツーリズム政策である。
農業・農村の多面的機i能とグリーン・ツーリズムの関係については、千賀裕太郎(2001)
は、「農村で生産された農産物等が都市に送られ、都市に立地する市場で売買関係が成立し て、販売額相当の貨幣が農村に送られている。この場合、農村と都市の間を移動するのは 基本的に農産物の貨幣である。また農産物などと貨幣との交換の場は、都市である。また、
都市農村交流を生産と消費、農産物を交換する市場、貨幣として捉えて、その焦点が消費 者や都市にある」と指摘している。
宮崎猛(2006)は、美しい景観、豊かな自然生態、伝統的文化といった農業・農村の多面
的機能は、グリーン・ツーリズムの資源で・あり、地元農村の住民集団としてのライフスタ イルにより形づくられるとしている。また、農業・農村の多面的機能は地域的広がりのな かで発揮され、それが維持されていくためには、農村住民の集団としての価値観や生き方 が重要であり、農村住民の集団としてのライフスタイルが、多面的機能である水質や環境 を保全することを指摘している。
グリーン・ツーリズム(イギリスではRural Tourism)の概念について、バーナード・レ ーンは1)、「カントリーサイド(country side)を舞台として展開されるツーリズムである」
としている。山崎(2005)は、カントリーサイド(country)とはシティ(city)の対比概念で、
日本でいえば、田園空間と表現するのがふさわしい、つまり、「日常的な生活空間から離れ て、緑や自然に恵まれた伝統的な田園空間において心を癒す、一時的かつ短期的なさまざ まな活動」と表現している。小山善彦は、「イギリスでグリーンといえば、それは単なる緑 や自然という意味ではない。伝統的な生活空間の中での暮らし方や、長い間に培われた人 間の持っている美徳や道徳観、農業の基本となっている自然と人間の共存の農村空間や人 間活動などが高く評価されている」としている(山崎,2005)。
グリーン・ツーリズムの構成要素に関しては、山崎(2005)は、ヨーロッパでの農村ツー リズムの構成要素を農家民宿、農家レストラン、バカンス施設の整備、農産物加工品直売 の4つに分類している。また、ヨーロッパ諸国においての農村ツーリズムへの主な支援制 度や農家民宿経営者の共通の特徴は、農家副業としての農家民宿の開業と運営に対するも のであるとしている。ドイツの場合、農家民宿の開業の理由として、徹底的に目的が副業 収入の確保にあることで、農家収入への貢献が第1目標であると指摘している。
山中進(2005)は、村おこしや町おこしなどの地域振興は単なる産業振興の視点ではなく、
農家副業を中心とする農村の余剰労働力や低廉な都市部の家庭労働力等を利用して成立す る労働力集約型の中小零細な工業振興にかかわっていることを指摘し、地域に根ざした独 自の特産品を生産する「小さな産業づくり」の重要性を強調している。
井上・中村・宮崎・山崎(1999)は、グリーン・ツーリズム活動など農業経営多角化にと もなう効果としての参加農家の社会的効果について、農家の自立化に貢献する農家主婦の 社会活動促進と、農家からの情報発信としての都市生活者との直接情報交換であるという。
また、地域社会への波及効果としては周辺農家への社会的影響、緩やかな連帯の始まりと してグリーン・ツーリズム・ビジネスが広がると指摘している。
農水省は、農村女性起業を「農村在住の女性が中心となって行う、農村における農業・農 産物に関して起業されたもの」と定義し、①使用素材・商品は主に地元産であり、②女性が 主たる経営を担い、③女性の収入に繋がる経済活動を対象に調査を行っている。農村女性 起業の動向についてみると、2002年度には7,735件の活動があり、活動数は増加傾向にあ る。農村女性起業は、公的な支援と、女性の主体的な活動が、複合的に作用し合いながら、
発展したものといえる2)。
また、農水省の調査によると農村女性の起業グループは1993年には1,255グループであ ったのが、2002年には7,327グループとなっている(中川雄一郎,2002)。この調査は全国 農業改良普及センターによるもので、これらグループの母体は主として生活改善グループ
と考えられる。
以上、戦前・戦後の時代から近年における農村女性の副業という視点から生活改善運動 とグリーン・ツーリズムについて述べたが、グリーン・ッーリズムは1990年代に入ってか らさらに盛んとなっているものの、両者の関連性を明確にした研究は、これまで行われて いない。言い換えれば、戦前からの生活改善運動を通した農村女性の活動が、どのように 現代の農村女性の起業活動に影響を及ぼしているかという、政策と実際の生活や活動など
との関連は明らかとはなっていない。
いずれにしても、これまでのグリーン・ツーリズムに関する研究は、ヨーロッパ諸国の 事例を基礎とし、マクロ的なグローバリゼーションという現代的視点の中での農産物貿易
の影響下による条件不利地域における農業の多面的機能との関連を主とした立場から捉え ている。しかし、戦前・戦後からの農村女性による生活改善普及事業や生活改善グループ の活動を時代的背景として踏まえて、このような活動が現在の女性の起業化やグリーン・
ツーリズムと関っているとのローカリゼーションの視点は乏しい。
このような生活改善普及事業とグリーン・ッーリズムの回り、言い換えれば生活改善グ ループと農家レストランや直売所、食品加工など農村女性の起業化との関係は、実際に現 地に入り調査しなければ把握できない。これらミクロでローカルなアプローチによる研究
は、日本でも韓国でも多くはない。
筆者は、かつて韓国の農村経済研究院という国(農林部)の政策研究機関に勤務し、政 策研究、特に農村振興施策やグリーン・ツーリズム施策の研究に携わった。このなかで、
韓国の農村部の現地における観光農園事業に関する研究を2年程度行った頃、自分が行っ ている政策研究が、果たして農村振興や村おこし(当時、韓国ではグリーン・ツーリズムと 呼ばれていた)や地域住民にとってどれだけ役立っているかについて疑問が生じてきた。
その後、日本に留学し、九州大学農学部では農業の多面的機能とグリーン・ツーリズムと の研究を行う中で、植田和弘(1996))がアメニティについて、「自然や歴史的文化財自体 がアメニティではなく、人間の居住環境として、人間の存在や活動との相互作用の中で、
自然や歴史的文化財が保存されている時にアメニティになる」ということを知り、人間の 存在や活動との相互作用とは何かを把握するためには、農村や農家の現地を通してグリー
ン・ツーリズムや農村振興を研究する必要があると思うようになってきた。言い換えれば、
国が政策的に推進しているグリーン・ッーリズムを現地から見つめ、現地の実態であるロ ーカルな視点をグリーン・ッーリズム政策のなかに反映できないかと、疑問が浮かんでく
るようになった3)。
1.2研究の目的と課題
(1)研究の一目的・
「農家レストラン」を中心とする農村女性の地域活動
以上の先行研究を踏まえ、1948年からの生活改善普及事業と、1992年のグリーン・ツー リズム事業の間の約40年の間に、現地の農村女性の生活や活動は絶えることなく、継続し ていることを把握するためには、現地調査が必要である。
このため、「農家レストラン」という交流拠点の「場」を中心とした農村女性の地域活動を 通して、生活改善普及事業とグリーン・ッーリズム事業の問の約40年間の実態を明らかに
する。
農家レストランを通してみる農村女性の地域活動の実態と、グリーン・ツーリズムや地 域振興の時代的流れが明らかになる。同時に、農家レストランという場を通じて、そのな かに存在する無形の伝統や有形の活動等の実態を明らかにすることができる。
農家レストランのなかで、戦前・戦後の生活改善普及事業と1990年代のグリーン・ツ ーリズム政策が断絶ではなく、継続していることを明らかにすることにより、政策事業と 生活実態の両面が把握でき、今後の農村振興政策のあり方を提示することも期待できる。
これらの関連性を明らかにするため、40年以上の時代等差がある生活改善普及事業とグ リーン・ツーリズムのかかわりを、ローカルな現地からみつけ検証していくことが大切で、
この結果は今後のグリーン・ツーリズム等の地域振興のための政策を提示するうえで重要 なことといえよう。
つまり、農村女性による活動は、どのような時代的背景やプロセスを持って現在に至っ ているのかを、「農家レストラン」という場を通して明らかにし、その実態を検討・分析す ることによって、政策に反映していくことが期待される。また、日韓の農村女性活動を比 較しつつ、今後、日韓とも、農家レストランに一定の役割を付与することで農村振興策の 方向性を明らかにしていく。さらに、日本及び韓国の農村女性による食に関する様々な活 動を通じた国際交流と相互理解促進の可能性について言及する。
(2)研究課題
本研究の全体を通じた課題は、以下のとおりである。
①農家レストランは、時代的によりどのような組織原理を持って生まれてきたのか ②農家レストランは、生活改善普及事業及びグリーン・ツーリズム事業と、どのような 関係性を持っているのか
④農家レストランは、どのような形態でビジネス化してきたのか
⑤農家レストランには、過去と現代をつなぐ存在であろうか
⑥農家レストランは、地域住民や国民に開いた空間といえるか
⑦農家レストランから、グリーン・ツーリズムや農村振興策のどのような方向性が見つ かるのか
⑧日韓の農家レストランの現地事例の類似点・差異を明らかにすることから、これから の両国の国際交流と農村振興の提案ができるのか
以上の課題を中心に研究を進め、論じていくことにする。
1.3研究対象の位置づけと研究の方法
(1)本研究のアプローチの視点
本研究では、国家と個人を媒介する中間集団としての農家レストランへのアプローチ視 点を重視する。農村は、現在、都市部への人口移動により高齢化しつつある。人々がいな
くなった村の精神は、現在どこでその文脈を維持・継続しているのだろうか。村の精神が、
農家レストランという空間のなかで生きて、継続しており、あるいは今後も断続していく のかについて考えていく。
以上の視点を含めて、日韓の「農家レストラン」という場のなかの無形・有形の価値を、
人と人とのつながりを、食品加工と人々の知恵や技による伝統と現代のつながりを、過去 と未来へのつながりといった観点からアプローチしていく。また、調査に当たってはライ フヒストリーの理論を援用して行う。
(2)研究対象の地域選定とその意味づけ 対象地域の選定
まず、農家レストランの場を通した本研究のアプローチのため、日本の熊本県人吉球磨 地域を選定した。理由は次の7つである。
1つは、生活改善普及事業とグリーン・ッーリズム事業の2つの事業が証明できる場で あることである。2つ目は、生活改善グループから農村女性の自主的・自立的取組みの歴 史がある場であることである。3つ目は(都)市のレストランに村の農村女性高齢者による 食品加工の漬物や手作りの醤油などが展示・販売されていることである。4周目は、年間 訪問客が5万人、売上5,000万円という経済的側面である。5つ目は、レストランの代表 者は、現在、地域グリーン・ツーリズム推進会の会長を務めており、国土交通省のアドバ イザーとして、政策と回りながら農家レストランを経営していることである。6つ目は、
地域の60歳以上の高齢の女性が従業員として働いていることである。最後は、地域の農家 民宿との連携があることである。
次の熊本県小川町の選定理由は、以下の6つである。1つは生活改善普及事業とグリー ン・ツーリズム事業の2つの事業が証明できる場所であることである。2つ目は、活動の 拠点が農村女性による共同出資により自発的に作られたということである。3つ目は、地 域の直売所の運営とかかわりながら農家レストランが運営されていることである。4日目 は食品加工所とも連携していることである。5つ目はビジネスによる収益より町のコミュ ニティを大事にしていることである。6つ目は、元県生活改善研究グループの会長の認識 や考えに影響を受けていることである。
韓国の事例である慶尚南学南海郡ダレンイ村の選定理由は、次の4つである。1つは2002 年から国のグリーン・ッーリズム政策が生活改善普及事業を担当してきた農水省農村振興 庁で行われていることである。2つ目は、村レベルで農家民宿、農家レストラン、体験プ
ログラムなど、グリーン・ツーリズムに取り組んでいることである。3つ目は、農村振興 庁の支援のほか、他の行政機関からも政策支援をうけていることである。4つ目は、グリ ーン・ツーリズム事業が男性主導で行われていることである。
韓国の農家レストランの現地事例については、2007年から始まった政策の支援対象にな っている2ヵ所の農家レストランを選定した。その理由は5つである。1つは生活改善普 及事業とグリーン・ツーリズム事業の2つの事業が証明できる場所であること、次は、農 村振興庁という生活改善普及事業を担当してきた機関により農家レストラン事業が開始さ れていること、3つは村農耕共同体の精神が込められていること、4つ目は家族や先祖の伝 統文化をストーリー化して商品化していること、5つ目は生活改善研究グループの活動に 取り組まれてきたことである。
筆者は2006年12月26日から2007年1月29日の35日間、人吉市の農家レストラン「ひ まわり亭」経営者のHSさんの自宅に住み込んで働きながら、毎日の出来事について詳細 に実地記録しつつ、聞き取り調査を実施した(資料①、資料②、資料③)。
その後、熊本県の宇城市小川町には、農水省生活・女性協会に紹介された元生活改善グ ループのリーダーであるEEさんの紹介により町に入り、3回のインタビュー調査を行っ
た(資料②小川町)。
韓国の慶尚南道南海郡下川ダレンイ村には、2005年8月15日からの1週間と、2006年 2月25日から3月2日の1週間の住み込み調査を行った。また、農村振興庁農家レストラ ン担当者からの紹介により、江資道江陸市及び慶雲南道山清郡の農家レストラン調査を2 回にかけて行った(資料①、資料②慶尚予予南海郡、江資道江牛市、慶尚南道山清郡、資
料③)。
農家レストランの意味づけ
本研究において「農家レストラン」という場は、農水省の生活改善普及事業とグリーン・
ツーリズム事業のかかわりを証明する実態の場である。また、村の協同精神を展示・ビジ ネス化することにより、伝統文化、有無形の文化を過去から現在に繋がる超空間的・可視 的な存在として意味づけられる。
時代のながれの中で、農村女性の婦人会活動など自主的グループ形成からビジネス展開 へのプロセスが、農家レストランのなかに実現していることが明らかになる場所であり、
様々なグループ活動による自立した取組みが存在する場所でもある。
これらのグループ活動は、農家レストランの背景となっており、農家レストラン、農家 民宿、直売所、食加加工所など、食をテーマとする新たな有形無形の村のコミュニティを 生み出す空間として位置づけられる。また、自主的なものか、政策に依存しているかによ って、農家レストランは自主的コミュニティ空間か政策的コミュニティ空間かに分けられ る。また、家族・村の精神が強く残っているのか、または希薄化しているのか、それによ って、農家経営の形態としても区分される。
つまり、農家レストランは国家と個人をつなげる媒介グループとして位置づけられると ともに、戦前からの農村女性の食と関わる地域活動の時代的な流れが過去から未来へとつ ながり、なかでも、食の伝統的文化や地域の精神が継続していている社会的・歴史的・経 済的複合空間であるといえる。このような視点から、「農家レストラン」という空間は非常
に重要な意味を持つ場として位置づけることができる。
以上のような選定理由と意味づけを、熊本県人吉市の農家レストラン現地調査の事例で 図示したのが、図の1・1である。
七三漬けの食品加工とかかわ っていることに気づく。
農家レストランのなかで展
・示・販売
ひまわりグループと いう独居老人の弁当 などのボランティア グループが前身
人吉市
農家レストランに 1ヶ月の生活 ライフヒストリーの 調査
元生活改善グループ会 長であり、醤油名人。
農家レストランで展 示・販売
農家民宿とかかわっているこ とに気づく。
イベントなどのとき、遠くから くるお客さんに紹介
図1−1調査のアプローチの視点
(2)研究の方法
効果的な農村振興政策の立案のためには、農村の実情を十分踏まえ、支援の方策を立案す る必要があり、そのためには、政策を個人の生活と切り離さずに検討していくことが重要である。
本研究の特徴の第1は、現場を重視したことである。そのため、方法論的には、研究者
(筆者)が農村地域に身を置き、農村の女性達とともに働き、生活しながら行った参与観 察とインタビュー調査による研究法が本研究の中心となっている。インタビューに当たっ ては、女性達の個人の生活史や家族史を語ってもらう「ライフヒストリー」という手法を 用いた。生い立ちや家族、現在の人間関係等について聞き取るためには、ともに働き、生 活することで、調査対象者の信頼を得ていくことが不可欠である(Giddens,A(1993),
Holstein, J.A &J.F.Gubrium(1995)。
ライフヒストリーのナラティブ・インタビュー4)のなかでインフォマントに求められる のは、自分が関つた対象領域の歴史を即興的に語ることである6このときのインタビュア ーの役割は、関連するすべての出来事について、最初から最後まで一貫したストーリーと なるようにインフォマントに語ってもらうことである(Hermanns 1995;ウウェ・ブリッ
ク,2002)。
また、有賀喜左衛門は、福武直『世界農村の旅』の書評の中で、筆者が農村の問題を多 面的に取り上げていることはもちろんとしても、政治学者や経済学者も取り上げそうな農 村報告のほかに、各国の農村における、個々の農民のライフヒストリーをかなり多く取り 上げていることに注目している。それは、「一人一人の農民がどんな生活をしてきたとして
も大勢には何の影響もないようにみえるが、これらの人々は各時代の政治的、経済的、社 会的条件に対応して生きてきたのであって、その積み重ねが全体として生活の発展に地味
に貢献していることを感ずることができる」と指摘している。
筆者は、韓国から留学してきた外国人の立場から日本の農村社会を見るため、ライフヒ ストリー手法がより重要になってくる。一般に実証研究では、仮説の検証を繰り返して法 則を導き出していく。はじめに仮説がないと、研究は一歩も進まないのである。研究とい う作業を始めるきっかけとなる「作業仮説」を、先行研究を踏まえて設定し研究を始めるわ けであるから、すでに一応証明されている命題を作業仮説とする。しかし、仮説そのもの をあらたに見つけ出すことから始めなくてはならい研究もありうるし、複数の仮説の関連 づけを「仮説」的に確定しておかなくてはならない場合もあろう。仮説設定までのこれら過 程を「仮説索出」という。ライフヒストリー手法のようなインテンシブな調査が強みを発揮 するのは、調査のこの段階である。しかも、研究テーマが未知の分野に属するものほど、
これらの手続きが必要かっ不可』欠の前提条件となる(谷富夫,1996)。
筆者は、日本の農村と同時に韓国の農村の両方に滞在し、女性たちに対するインタビュ ー調査を重ねてきた。現場で伺った彼女たちの話は生き生きとしたものであった。村起こ
しやグリーン・ツーリズムなど、活発な活動に取り組んでいる地域の女性たちの話を聞き ながら、女性たちの専門領域の1つである「食」を通じた交流は、文化や伝統、歴史を学 習、経験しながら相互理解につなげていく重要な国際外交の一つの鍵になるのではないか
と思っている。
インタビュー調査は、インタビュー活動がインタビュアーと回答者の問の相互行為とし て、両者がインタビューによってもたらされたナラティブ(物語)の共同制作者であるとみ なされる。インタビュー活動によって、回答者の内面にあると思われがちな「意味」それ自 体を作り上げることに調査者が深く関与していることが強調される。インタビュアーと回 答者による、インタビューを相互行為としてとらえるという考え方の背景には、「解釈それ 自体をひとつの社会的構築物として」(Holstein&Gubrium,2007)とらえなおす構築主義 的な想定がある。
また、インタビューの回答者は有用な情報を構築していくものであり、インタビュアー と回答者が協同で知識を構築することに貢献していることを認め、意欲的にインタビュ
ー・ fータの分析に導入していくことによって、ギデンズ同様、解釈という実践を「現実を 理解し、組み立て、表象するために使われるリソース」(Holstein&Gubrium,2007)として 取り扱うことが可能になるととらえられていることを参考にする4)。
ギデンズは、「二重の解釈学という言葉で研究者と日常生活者の解釈の二重性を指摘す る。調査者は社会現象が生起している現場である日常生活世界に関与せざるを得ないので あるが、ただ社会現象を「外部」から見つめ続けているだけではその場の意味を理解するこ とはできない。当事者とともに、日常生活者の状況に参加し、言葉を交わし、相互に行為
を行うことなくては、現場の意味の理解はあり得ない」と指摘している(玉置佑
介,2007,p.165)。
筆者は、地域に入ってライフヒストリー調査するなかで、現在の農村で女性が最も活躍 しているのは「食」と関わる分野であり、同時に農村女性にアプローチしゃすい分野が「食」
であることに気づいた。醤油、味噌、漬物等の農産加工、直販所、農家民宿、農家レスト ランなどがその例である。農家レストランでは、醤油、味噌、漬物などを使った伝統料理 を出すとともに、新たなメニューも開発している。農家民宿では、農家の主婦個人の独特 の味付けやメニューにより、自分の畑でとれた野菜や自家製の漬物等で料理を作って家族、
夫婦、友達など客に出している。また、農家民宿や家庭で使って余った野菜等は直売所に 出している。このような現場での興味深いインタビュー内容を検討しながら、地域で輝く 農村女性たちの活動が、日本と韓国の交流まで広げていけるのではないかと考えている。
ホルスタインとグブリアム(Holsteln&Gubrium,2007)は、「他のすべてのインタビュー のデータと同じように、ライフストリーがただ単に発見されるのを待っていたり、表現さ れるのを待っているわけではない。そうではなく、ずっと昔からあるリソースと、当該状 況で意味をもつリソースとを両方使って、インタビューという相互行為の文脈において(ラ イフヒストリーが)構築されるのである」としている(玉置佑介,2007,p.165)。ここで言わ れている「リソース」とは、インタビューの参加者がアクセス可能な「知識のストック」のこ
とを指し示している。
このことを、ガーデンの社会構成主義の考え方を取り入れながら、研究者と当事者の関 係性を「グループ・ダイナミックス」という立場でとらえる杉万(2006)は、「人間科学の知識 は、基本的に、限定された時期と場所における限定された人々による協同的実践、つまり、
ローカル(局所的な場から生まれ、そのローカリティの特色を色濃く反映する…人間科学の 知識は、その知識を使うということは、その知識の発信者と目的や価値を共有していくこ
とを意味する」とし、研究者と当事者の協同的関係性を積極的に展開していると指摘してい
る。
インタビューの回答を、語られた「内容(what)」からだけではなく、それがいかにして 語られたかという「方法(how)」から考察することも重要との主張は、非常に示唆に富んでい る。ホルスタインとグブリアム((HoIstein&Gubrium,2007)によれば、「分析の目標は、そ こで産出された意味と、意味構築の過程を条件づける全ての状況を見失うことなく、イン タビュアーと回答者との間の相互作用において、どのようにしてインタビューの回答が産 出されたかを示すことである」とされている(玉置佑介,2007,p.166)、。つまり、回答者によ って答えられた発話や語りのなかに「生きられた経験」を見つけ出すのは、やはり調査者、
研究者ではないのかということである。語られた「内容」とともに、「方法」も見つめるとい う視座によって、「生きられた経験」を把握することはいかにして可能なのか。語られた「内 容」とともに「方法」に対しても注意を払い、研究者の記述に反映させることは、協同構築さ
れる「意味」や「知識」と同義なのかということに視点を置いたアプローチである。
ちなみに政策をマクロ、生活をミクロと整理すると、ともすればマクロの政策は、統計 データに基づく経済分析に基づくものに偏りがちである。しかし、社会は1人ひとりの個 人が集まって構成されていることから、その地域における個人の価値観、思想などが非常 に重要になる。このため、大きなまとまりである地域振興のためにも、個人のライフヒス トリーに着目し、根本的な問題点を明らかにして地域振興政策に反映させていくことが重
要なのである(図1−2)。
[譲霊}1]
専門家的視点 瓢
認識志向
アカデミズ ム型 研究と運動
の緊張型
隠繋識
政策提言型
運動一体型
生活者的視点
実践志向
縦:研究の視点 横:研究の意味
図1−2 ライフヒストリーのアプローチ視点の概念図
注) 谷富夫 1996寄せ場研究(者)の類型p.137の図を参考に、筆者が加筆・修正した.
1−4 本研究の構成
第1章は、従来の研究と問題の所在、研究の目的と課題、研究の方法と対象地域の位置 づけ、及び本論文の構成を示し、第2章では、地域資源を活かしたグリーン・ツーリズム 展開と農村地域振興について、グリーン・ツーリズムの潮流、景観概念にもとつく農業資 源と観光資源によるグリーン・ッーリズム、農業の多面的機能の形態にもとつく地域振興 の比較、農村伝統文化を活用したグリーン・ツーリズムの比較を行う。
第3章では、日本の農水省政策における農村女性と農村地域振興として、生活改善普及 事業の取組み、生活改善グループと農村女性の地域活動、インタビュー調査による普及員 の証言及びグリーン・ツーリズム事業の取り組みから構成されている。第4章では、韓国 の農林部政策における農村女性と農村地域振興として、農林部農村振興庁の生活改善普及 事業の取組み、インタビュー調査による普及員の証言及びグリーン・ツーリズム事業の取
り組みから構成されている。
第5章では交流拠点を活かしたグリーン・ツーリズムについて、イギリスのティールー ム及び農家民宿の展開過程、日本の農家民宿と農家レストラン、韓国の農家民宿と農家レ ストランについて、事例を中心に述べていく。
第6章から第9章までは現地調査で構成されている。このうち、第6章は、日本の熊本 県人吉球磨地域における農村女性と農家レストラン活動を取り上げ、人吉球磨地域の概要
、戦後の時代的・地域的状況と農村女性の地域活動、農家レストラン「ひまわり亭」と農村 女性の地域活動、食品加工「市房漬」と農村女性の地域活動、生活改善グループ活動と農村 女性の地域活動、農家民宿と農村女性の地域活動から構成され、村社会の伝統をつなげる 農家レストランの意味づけ、公的空間としての農家レストランについて考察する。第7章 は熊本県宇城市小川町における農村女性と農家レストランを取り上げ、宇城市小川町の概 要、戦後の時代的・地域的状況と農村女性の地域活動、直売所「すずめのおやど」と農村女 性の地域活動を紹介し、村社会の伝統と現代をつなげる農家レストランの意味づけ、公的 空間としての農家レストラン、農家レストランとグリーン・ツーリズムについて考察する。
第8章では、韓国慶尚南道南海郡南面架川里ダレンイ村における農村女性による農家レス トランを取り上げ、南海郡南面架川里ダレンイ村の概要、戦後の時代的・地域的状況と農村 女性の地域活動、農家レストランと農村女性の地域活動、農家民宿と農村女性の地域活動、
村社会の伝統を現代につながる村にある農家レストランの意味づけ、公的空間としての農 家レストランで構成される。第9章は、その他の地域における農村女性の農家レストラン で、村の概要、戦後の時代的・地域的状況と農村女性の地域活動、農家レストラン「江源道 江陸市・ソジチョガツール」と農村女性の地域活動、農家レストラン「慶甲南道山清郡・イ エダムチョン」と農村女性の地域活動、農家民宿と農村女性の地域活動、村社会の伝統を現 代につながる村にある「農家レストラン」の持つ意味、公的空間としての農家レストランで 構成されている。
第10章は結論として、日韓現地調査による結果分析及びまとめで構成されている。
以上、本研究の構成を図示すると、以下のとおりである(図1−3)。
グリーン・ツーリズム 関連研究
⑤{ヨ
・交流拠点→
k∋
現地調査(農家レストラン) 農村女性と政策
日本 6,7章 検証 韓国:8,9章
c…i .. ・ ● … ●・・、
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C一一㌶二誉鴛2メ・一一
@ Lifehistory analysis
関
D■ ・.匿・・
生活改善普及事業
m⇒ グリーン・ツーリズム: 第3、4章 結論
第10章
図1−3 本研究の構成
注
1)イギリスをはじめ、ヨーロッパ諸国ではグリーン・ツーリズムという用語は使わず、農村ツーリズ ム(Rural Tourism)や農業ツーリズム(Agro Tourism)で通用している。
2)農政調査委員会,2004p22,24
3)1999年から2005年まで研究を時期別にわけて説明すると、次のとおりである。
第一期:韓国農村経済研究所(1999.7−2003.4) 農村振興やグリーン・ツーリズムの政策研究 農業者や国民を満足させるために一般化された研究の取り分けである。研究の背景として、韓国では 1984年から国の農林部(韓国農水省)政策事業によって農村観光開発が始まった。それ以降、「農村 地域活性化」のスローガンの下に、370の観光農園、9の休養団地、266の民宿村を建設し、総額i60 億円の支援を行った。しかしながら、この事業は農村地域開発に寄与した側面もあったが、参加者の 75%が休業や廃業する結果となっている。その原因は、レストランやホテルのような大規模施設中心 の開発であって、補助金を目当てにした観光開発業者に分別なく投資したからである。
このような問題を克服するためには、画一的な大規模施設中心型グ・リーン・ツーリズムではなく、農 村独自の文化や歴史、自然資源を観光資源として活用し、地域の身の丈に応じた開発が重要であると、
申請者が所属していた韓国農村経済研究上の「農村地域開発」チームは考えた。特に、観光資源管理 学を修士で専攻した申請者は、農村自然資源活用と農家経営による小規模グリーン・ツーリズムの視 点から研究してきた。具体的には、農家による農産物の加工と販売、民宿や農業体験など、地域資源 を最大限に活用した小規模施設型グリーン・ッーリズムの支援方策を解明することであり、そのため
には農業の多面的機能を生かす多様な観光開発というコンセプトから研究を実施してきた。
第二期:九州大学農学部から熊本大学社会文化科学研究科へ: 機能としての農業の多面的機能とグ ーン・ツーリズムの研究である。正つは、景観やアメニティの概念的アプローチに関する研究、2つは、
韓国の新たなグリーン・ツーリズムの政策新展開に対する研究、3つは、農業の多面的機能による農村 地域開発に対する研究である。
4)ナラティブ・インタビューは主としてライフヒストリー研究の枠内で使われる方法である。この方法 は地域社会に見られる権力構造と決定プロセスに関する研究プロジェクトのなかで開発された。
文献
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