12
首都大学東京大学院
システムデザイン研究科 博士前期課程 機械システム工学域
学修番号 18862640
前園 健
指導教授 下村芳樹 教授
2020 年 2 月
企業固有の状況を考慮した
サービス化戦略目標策定手法
I
目次
序論 ... 1
研究背景 ... 2
サービス経済の進展 ... 2
製造業における現状 ... 6
サービス化による効果 ... 7
本研究の目的 ... 9
本論文の構成 ... 10
先行研究と本研究の位置づけ ... 13
はじめに ... 14
サービス化に関する知識 ... 15
サービス化の方向性や種類に関する研究 ... 15
戦略的マネジメント視点でのサービス化支援 ... 19
サービス化へのプロセス ... 19
サービス化のための戦略マップ ... 20
PSS
ビジネスの実装を成功させるための
5つの運用戦略検討 ... 21
本研究の位置づけ ... 24
本研究が解決すべき課題 ... 24
本研究の位置づけ ... 24
本章のまとめ ... 25
企業固有の状況を考慮した サービス化戦略目標策定手法 ... 27
はじめに ... 28
提案手法構築のアプローチ ... 29
提案手法構築のための構成要素 ... 30
企業状況の構成要素 ... 30
サービス化に係る戦略目標のカテゴリ ... 39
サービス化に関わる戦略目標策定手法 ... 42
Step1:企業情報の調査... 42
Step2:企業状況の分析... 43
Step3:戦略目標の策定... 44
本章のまとめ ... 45
II
事例適用 ... 47
はじめに ... 48
検証の概要 ... 49
適用結果 ... 50
Step 1:企業情報の調査の適用結果 ... 50
Step 2:企業状況の分析の適用結果 ... 50
Step 3:戦略目標の策定の適用結果 ... 53
本章のまとめ ... 55
考察 ... 57
はじめに ... 58
提案手法の有効性 ... 59
企業状況の分析支援の有用性 ... 59
戦略目標策定支援の有用性 ... 60
提案手法の課題と解決策に関する考察 ... 61
企業情報の調査に関する課題点とその解決策に関する考察 ... 61
戦略目標カテゴリに関する課題点とその解決策に関する考察 ... 62
戦略目標策定に関する課題点とその解決策に関する考察 ... 62
提案手法の応用性に関する考察 ... 64
本章のまとめ ... 65
結論と展望 ... 67
結論 ... 68
展望 ... 70
参考文献 71 審査会での質疑に対する回答 ... 79 研究業績 83
謝辞
85III
図目次
Figure 1-1 4
か国製造業の輸出額シェアの推移[経済産業省 2019] ... 3
Figure 1-2 WEF
国際競争力ランキング(総合)[経済産業省
2017] ... 3Figure 1-3 消費者の価値観の変化[経済産業省 2017] ... 4
Figure 1-4
新事業展開のスタンス[経済産業省 2019] ... 6
Figure 1-5
本論文の構成 ... 11
Figure 2-1
サービスの方向性[Zeithaml 2014] ... 16
Figure 2-2 PSS
において提供されうるサービスの種類[Tan2010b] ... 17
Figure 2-3 2
軸によって分かれるサービス化の分類[Oliva 2003] ... 18
Figure 2-4
サービス化のプロセス ... 19
Figure 2-5
サービス化戦略目標マップ[Rabetino 2017] ... 20
Figure 3-1
提案手法構築のアプローチ ... 29
Figure 3-2
ビジネスモデル環境[Osterwalder 2010] ... 34
Figure 3-3 5
つの競争要因の影響関係 ... 35
Figure 3-4
提案手法の概要 ... 42
Figure 3-5
企業状況分析ツール ... 43
Figure 3-6 SWOT matrix ... 44
Figure 4-1
企業状況の分析結果 ... 51
Figure 4-2
分析結果のまとめ(表とレーダーチャート) ... 52
Figure 4-3
適用結果(SWOT matrix) ... 54
Figure 5-1
戦略におけるリスク管理(例) ... 62
IV
表目次
Table 2-1
サービスの種類と特徴[Zeithaml 2014] ... 15
Table 2-2 PSS
ビジネスの実装を成功させるための
5つの運用戦略①[Reim 2015]
... 22Table 2-3 PSS
ビジネスの実装を成功させるための
5つの運用戦略②[Reim 2015]
... 23Table 3-1
サービス化に影響を及ぼす内部能力 ... 31
Table 3-2 PEST
分析の観点と例[根本 2015] ... 36
Table 3-3
外部環境分析の調査結果 ... 37
Table 3-4
サービス化に影響を与える外部環境 ... 38
Table 3-5
サービス化戦略目標の観点調査のまとめ ... 39
Table 3-6
サービス化戦略目標の観点調査のまとめ ... 41
Table 4-1
策定された戦略目標 ... 53
1
序論
研究背景 ... 2
サービス経済の進展 ... 2
製造業における現状 ... 6
サービス化による効果 ... 7
本研究の目的 ... 9
本論文の構成 ... 10
2
研究背景
サービス経済の進展
戦後,我が国は製造業が高度成長を牽引し,モノづくり大国として世界有数の経済大 国に押し上げてきた.しかしながら,昨今では,我が国を含む工業先進国の製造業は,
原材料価格や人件費の高騰,新興国の技術台頭に伴う激しい市場競争,地球環境問題の 深刻化,製品のコモディティ化等,様々な問題に直面しており,従来の「高品質の製品 を低価格で」という事業構成思想では,国際市場において競争優位性を再獲得・維持し ていくことは困難になりつつある.
この状況を打破するために,特に工業先進国において,「製造業のサービス 化
(Servitization of manufacturing)」と呼ばれる概念が注目を集めている.製造業のサービ ス化とは,製造業企業における事業の中心が,製品の製造・販売を主軸としたものから,
製品を介したサービス提供を主軸としたものに移行することを意味する([Vandermerwe
1989; Neely 2008;
藤川 2012a] ) .このような製造業の転身を,次なる産業革命と呼ぶ者
もいる[Tien 2012] .この背景を,以下に示す
3つの要因から説明する.
(1) 先進国の製造業における国際的な市場競争力の低下
近年,経済が急速に国際化しており,企業は世界規模での市場競争に巻き込まれてい
る.特に,東アジアを中心とする新興国の技術発展が目覚ましく,先端的な製品開発技
術の取り込み等による製品の機能・品質向上に加え,新興国における安価な労働力を起
因とする製品の価格優位性を武器とし,新興国における製造業の世界シェアは年々上昇
傾向にある.これに伴い,我が国をはじめとする先進国における製造業の世界シェアは
下降傾向にある(Figure 1-1).また,各国の競争力を測る指標の1つとして知られてい
る世界経済フォーラム(WEF:WorldEconomic Forum)が発表する「国際競争力レポー
ト」により,日本の市場競争力は,近年下降傾向であることが分かる(Figure 1-2).こ
のような状況に対し,日本における製造業が再び市場競争力を獲得するためには,これ
までに成功をおさめてきたビジネスモデルから脱却し,新たな市場競争力源を手に入れ
る必要がある.
3
Figure 1-1 4
か国製造業の輸出額シェアの推移[経済産業省 2019]
Figure 1-2 WEF
国際競争力ランキング(総合) [経済産業省
2017]1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
2013-14 2014-15 2015-16 2016-17 2017-18
スイス 米国 シンガポール オランダ
ドイツ 香港 スウェーデン 英国
日本 フィンランド
4
(2) 国内市場の頭打ち
近年の新興国における製造業の技術進展に伴い,市場には類似した機能・品質・デザ インの製品が溢れる「製品のコモディティ化」が進行している.このような状況におい て,先進国の消費者が求める価値は多様化しつつある.Figure 1-3 から分かるように,
商品を選ぶ際の価値観は「安さを重視」する人が大幅に減少していることに対し、「自 分のライフスタイルに合うかを重視」, 「自分が好きかどうかを重視」や「自分が気に入 るかどうかを重視」する人が増加傾向にある。[経済産業省 2017].このような多様化 する消費者のニーズに対応するためには,製造業は製品の機能・品質・デザインを含む 他社製品との差別化のために,消費者と共創し,各消費者に合わせた付加価値を創造し ていくことが求められている.
Figure 1-3 消費者の価値観の変化[経済産業省 2017]
5
(3) 情報通信技術の高度化
近年,
IoT(Internet of Things)や
M2M(Machine-to-Machine Communication)といった概念が急速な広がり,Society5.0 の実現に向けあらゆる産業において新たなデジタル技 術を使ってこれまでにないビジネスモデルが誕生している.これらの社会的な動きに対 して製造業でも
IoTを活用した新サービス展開や業種間連携により、シェアリングエコ ノミーをはじめとする産業構造の抜本的変化が求められる.例えば,機械設備の故障予 測やウェアラブル端末を用いた健康管理等のサービスにおける活用例が増加している
[経済産業省 2019].また国際的にも,これら情報技術を駆使した製造業の戦略的改革 は注目を集めており,ドイツでは
Industrie4.0と呼ばれる製造業の革新プロジェクトが 始動している.同様に,米国では,
Industrial Internet Consortium(IIC)と呼ばれる
IoTの 産業実装を目的とした団体が発足している[MONOist].
このように,従来製品を製造,販売しその対価として利益を上げていた製造業も,近
年著しい発展を見せる情報技術を用いて戦略的にビジネスモデルを再検討していく必
要があるといえる.また, このことは製造業の新たなビジネスモデルの検討において
IoT技術の導入が深く関わっている事を表す.
6
製造業における現状
前節では,我が国をはじめとする先進国製造業が抱える諸問題について,
(1)先進国の製造業における国際的な市場競争力の低下,(2)国内市場の頭打ち,(3)情報通信技術の 高度化,の
3つの観点から述べた.このような状況から,顧客のそれぞれのニーズに応 えるために,IoT 技術を活用し,自社製品の付加価値を高めるサービス化を推し進める 製造業企業は国内において増加傾向にある.Figurre 1-4 は,経済産業省による調査結果 の一部であり,国内の製造業における新事業展開のスタンスを示したものである.この 図から,製造業において、 「お客様(顧客や消費者)のニーズに応える」が
49.4%、「現 在の技術力、製品開発力を活かす」が
45.2%となっており、現在の技術力からの想定ではなく,顧客視点におけるビジネスの展開に力を注ぐ企業が多くいることが分かる.
また,これらの活動は国際的にも広がっており,例えば,米国における代表的な製造 業企業である
General Electrics(GE)社[GE]は,その売上や利益の大半をサービス事業によって実現している[藤川 2012a] .同社では,2001 年から
Service 2.0の旗印のも と,独自のセンサ技術や計測技術の開発,データ分析技術への大規模な投資等を経て,
サービスを主軸としたビジネスへと移行してきた.現在では,インダストリアル・イン ターネットと呼ばれる基本構想を打ち出し,ネットワークにつないだ自社製品(航空機 エンジンや発電設備等)から,センサを介して膨大なデータを収集し,これを分析する ことで設備保守や顧客の業務改善等のサービスを提供している.
Figure 1-4
新事業展開のスタンス[経済産業省 2019]
7
サービス化による効果
これまでの関連分野における先行研究([Gebauer 2008], [Neely 2011] , [藤川 2012]
等)に基づけば, (PSS の実現による)非サービス業のサービス化がもたらす効果・利 点は,以下の
3つに整理できる.
(1) 顧客の問題解決,生活支援
前述のように,製品が市場に溢れる現代では,製品を使用・消費する生活者が求める 価値は, 「製品そのもの」ではなく,自身のスタイルや好みと合うか?という, 「顧客視 点,顧客価値」の側面にシフトしている[経済産業省 2017].これに対して,製品を
PSSとして提供することにより,製品を販売するだけでなく,製品を通じた各顧客に適した 問題解決や生活支援が可能となる.例えば,大手機械メーカーであるコマツは,
2007年 より開始した「ブランドマネジメント(BM)活動」において,顧客視点を重要視して いる.
BM活動では,顧客と対話を重ね,それによって顕在化した顧客が長期的に目指 す理想状態(将来あるべき姿)と、現状との差にある「真の課題」顧客と一緒に解決を 目指す.そのため,顧客は自身のニーズに適した製品やサービスの提供を通して課題の 解決が可能である.
(2) 生産者の安定した収益獲得
現代では,製品のコモディティ化が進み,製品自体の差別化を図ることが困難になっ ている.そのような状況下で,製品にサービスを統合することにより,競合他社との差 別化を実現することができる[Tan 2010a] .加えて,製品販売後もサービスを継続的に 提供することで,消費者との長期的かつ継続的な関係を構築することが可能となる.こ れにより,消費者の囲い込みを実現し,生産者が安定した収益を得ることが可能となる
[McAloone 2004].
8
(3) 地球環境への貢献
PSS
では,製品自体の提供から製品の機能を提供するサービス(自動車製品で言えば,
カーシェアリングやレンタカー,タクシー等)により,製品の大量生産と大量消費に依 らない, 「脱物質」的な価値提供[冨山 2001]が可能となる.これにより,少ない製品 や資源で消費者の要求に対応することが可能となり,循環型社会の実現に貢献すること が期待される.実際に,
PSSによる,環境への影響の低減効果についての期待は大きく,
実際の効果に関する分析が多くの研究者によって行われている(例えば, [Tukker 2004],
[Aurich 2006]等) .
1987
年に国連の「環境と開発に関する委員会(通称,ブルントラント委員会)」がま とめた報告書では, 「Sustainable Development (持続可能な発展) 」が今後の人類の最重要 課題として取り上げられた.また,2015 年
9月の国連サミットにおいては, 「持続可能 な開発のための
2030アジェンダ」にて記載された
2030年までに持続可能でよりよい世 界を目指す国際目標である「SDGs」が採択され,持続可能性が国際的にも重要視され ている.SDGs における持続可能性は,貧困や飢餓等を無くす「安全衛生面での持続可 能性」 ,経済成長や産業等に関する「経済社会の持続性」,気候や海,森林資源等に関す る「環境の持続性」の
3つの観点からなる[外務省 2015] .その意味で,地球環境に対 する負荷を低減(前述の(3))しつつも,生活者の問題解決(前述の(1))や生産者の安定 した収益獲得を実現(前述の(2))する
PSSは,持続可能な発展を目指す今後の社会に おける「非サービス業のあるべき姿」の一つであると言える.
特に,豊富な天然資源や安い労働力を持たない我が国の非サービス業が,新興国等の
国々から多くの製品が流入し製品が溢れる現代社会で生き残るためには,製品の単純な
価格競争に陥らないことが重要である.そのためには,自身の製品を用いた
PSSを実現
し,提供する価値の差別化や安定した収益獲得を図るとともに,持続可能性のあるビジ
ネスを展開し,競争力向上を達成することが非常に重要となる.
9
本研究の目的
前節では,製造業の現状を打破する手段として,サービス化が注目を集めていること を述べた.実際に,欧州を中心にサービス化されたビジネスの成功事例が数多く報告さ れている.また関連する分野における先行研究では,その実施を支援するための方法論 が数多く提案されている.そのような研究の中で,サービス化されたビジネスモデルを 実際に展開していくためには,サービス化の指針を明確化する必要性,すなわち,サー ビス化に係る戦略を洗練させることの必要性が指摘されている.
これに関して,多くの研究では戦略的マネジメント理論が適用されている.戦略的マ ネジメントとは,企業の目標を達成するための,分析,実行,そして評価の戦略的実施 を目的とした研究分野であり[David 2011] ,この観点から様々な研究者がサービス化を 達成するために必要な戦略や戦略目標を提案している[Parida 2014] [Reim 2015]
[Rabetino 2017] [Story 2017] .例えば,Story らは, 「顧客と長期的にかかわる関係を 築く」を,サービス化を実現する上での戦略目標一つとして挙げている.設計者はこの ような知識を参考とし,各企業に当てはめることで,サービス化に係る戦略を獲得可能 である.しかしながら,既存の研究において議論されてきたサービス化の戦略や戦略目 標が全ての企業に対して一意に当てはまるとは限らない.この理由として,サービス化 の戦略は,企業の業種,ターゲットとする顧客の属性,その企業を取り巻く環境等,サ ービス化が検討される事業に関する様々な要素,すなわち企業固有の状況(以下 企業 状況)によって異なる為ためである.先に示した例に則って言えば,顧客と長期的に関 わる関係を築くことが,単に達成しなければならない戦略目標に留まらず,その企業に おける強みとなる可能性も考えられる.その場合,その仕組みに関する戦略目標に関し て重点的に議論し,より強みを活かすことができるような戦略を策定することが望まし い.すなわち,その企業状況に適したサービス化戦略を検討していくことが必要である.
以上の議論は,サービス化に関わる戦略についての検討は,企業状況がサービス化戦 略に対してどのように働くかによって異なるということを意味している.すなわち,
個々の企業のサービス化戦略は,サービス化戦略に対する企業状況の影響によって異な ると考えられる.以上を踏まえ,本研究では,達成すべき目的を以下のように設定する.
「企業状況を考慮したサービス化戦略目標策定手法の提案」
上記の研究目的を達成し,サービス化戦略目標の策定を実施するための一連の手順を
明確化することで,企業状況を考慮したサービス化戦略についての検討を支援可能とす
る.
10
本論文の構成
本論文は全
6章から構成される.以下に,各章の概要について述べる.
第
1章「序論」では,我が国をはじめとする先進国製造業の現状と課題を概観し,そ れを踏まえたうえで,今後の製造業にとって「サービス」が重要なキーワードになるこ とを述べるとともに,それに伴うサービス化に対する期待の高まりについて論じた.そ して,サービス化戦略についての検討を行う際の問題点を指摘し,本研究の目的を述べ た.
第
2章「先行研究と本研究の位置づけ」では,まず,先行研究におけるサービス化戦 略の策定支援について解説する.また,先行研究において議論されてきたサービス化に 関する知識について述べる.そして,先行研究を踏まえたうえで,サービス化戦略を策 定する上での課題を明らかにし,本研究の位置づけを述べる.
第
3章「企業状況を考慮したサービス化戦略目標策定手法」では,2 章で明らかにし た課題を解決するための提案手法について解説する.先ず,先行研究において提唱され ている知識や手法を調査し提案手法の構成要素を整理する.そして,その結果を基に構 築した企業状況を考慮したサービス化戦略策定手法を説明する.
第
4章「事例適用」では,製造業に勤める実務家と共に実施した事例適用の概要と結 果ついて述べる.
第
5章「考察」では,事例適用結果について考察すると共に,提案手法の有効性と課 題について述べる.
第
6章「結論と展望」では,本論の結論と今後の展望について述べる.
Figure 1-5
に本論文の構成を示す.
11
Figure 1-5
本論文の構成
第1章 序論
先行研究と本研究の位置づけ 第2章
企業状況を考慮した 第3章 サービス化戦略目標策定手法
事例適用 第4章
第5章 考察
結論と展望 第6章
12
13
先行研究と本研究の位置づけ
はじめに ... 14
サービス化に関する知識 ... 15
サービス化の方向性や種類に関する研究 ... 15
戦略的マネジメント視点でのサービス化支援 ... 19
サービス化へのプロセス ... 19
サービス化のための戦略マップ ... 20
PSS
ビジネスの実装を成功させるための
5つの運用戦略検討 ... 21
本研究の位置づけ ... 24
本研究が解決すべき課題 ... 24
本研究の位置づけ ... 24
本章のまとめ ... 25
14
はじめに
本章では,まず本研究に関連する先行研究を紹介する.そして,先行研究における課 題を整理したのち,本研究の位置付けを述べる.
2.2
節では,先行研究において整理されているサービス化に関する知識について説明 する.
2.3
節では,戦略マネジメント視点におけるサービス化に関する先行研究について述 べる.
2.4
節では,先行研究を踏まえたうえで,サービス化を実現するうえでの課題を整理
したのち,本研究の位置付けを明確化する.
15
サービス化に関する知識
本節では,先行研究にて,議論されてきたサービス化に関する知識について説明する.
サービス化の方向性や種類に関する研究
Zeithaml
らは,サービス化されたビジネスにおいて提供されるサービスを,それぞれ
のサービスの特徴をもとに分類している[Zeithaml 2014].Table 2-1 に
Zeithamlらが定 義したサービスの種類と,各種類のサービスの特徴を示す.
Table 2-1
サービスの種類と特徴[Zeithaml 2014]
Entitlement
services
顧客の製品使用を支援するサービス
Delivery of product, installation, warranties, call centers, repair, maintenance, online support/website
Value-added
services
顧客の製品購入を支援するサービス
Financing, credit, insurance, extended warranties, customer service agreements
Asset
management
製品機能を管理,保証するサービス
Maintenance, safety/security, software upgrade/protection, logistics
Supplementary
services
製品と独立して提供される顧客の目的・目標達成を支援するサービ
ス
Financing of operations, insurance of operations, safety/security of operations, feasibility studies, training of staff
Business process outsourcing
顧客のビジネスプロセスを管理するサービス
Back-office processes (compliance, IT maintenance, payroll) Customer facing management (billing/payment, call center)
Smart services
製品をセンシングして,自動化するサービス
Remote monitoring, data analysis/diagnostics Software as
service
顧客のソフトウェア使用を支援するサービス
Application management, website security, data backup, analytical tools, project management/scheduling, conferencing Managed
services
顧客の業務を効率化するサービス
Supply chain management, intellectual property management,
financial administration, accounting, legal, public
relations/investor relations, safety/security management, customer service
Advisory services
業務分析や製品開発等,顧客の業務に対してコンサルティング,ア ドバイスを提供するサービス
Integrated product-service solutions
特定の顧客のために製品やサービスをカスタマイズ
顧客と共同で製品・サービスを設計,提供
16
Table 2-1
に示したサービスは,
Figure 2-1に示すように, 「製品が機能を発揮すること
を支援するためのサービスであるか(Service in support of product),製品使用に関わる顧 客の活動を支援するサービスであるか(Service in support of customers)」という軸に基づ いて分類されている.
Figure 2-1
サービスの方向性[Zeithaml 2014]
これより,
Zeithamlらは,顧客の活動支援に焦点を当てたサービスを提供することを,
サービス化の方向性の
1つとして提唱していると捉えることができる.
Tan
らは,
PSSの事業形態を, 「Product use services (製品の使用段階を考慮した
PSS)」,「Product life services(製品ライフサイクル全般を考慮した
PSS)」,「Customer activity services(顧客の業務活動を支援する
PSS)」,「Business supporting services (顧客のビジネ
スを支援・代行する
PSS)」の
4つに分類している[Tan2010b].Figure 2-2 では,図中
の左側に近いほど,当該
PSSにおけるコア製品に直接的に関連するサービスを提供す
るような製品志向の大きい
PSSを示し,右側に近いほど,製品を使用する顧客の活動や
業務に関連するサービスを提供するようなサービス志向の大きい
PSSを示している.
17
Figure 2-2 PSS
において提供されうるサービスの種類[Tan2010b]
上記の
4つの事業形態は,「Design for X」という考え方に基づき定義されている.
Design for X
とは,設計対象とその設計の意義を明確にするための考え方であり,ここ
での
Xは,設計時における問題意識の対象を意味する.すなわち,Tan らは,「どのよ うなことに問題意識を当てられて設計された
PSSであるか」という観点から
4つの事 業形態を定義していると言える.それぞれの
PSSの事業形態を設計する際の
DfXの問 題意識としては,それぞれ,製品志向の
PSS事業形態から順に「Design for Serviceability」,
「Design for Supportability」 ,「Design for Service」, 「Service Design」と定義している.具 体的には,まず, 「Design for Serviceability」では,製品に対するメンテナンスや修理等,
顧客が製品を利用する際の可用性や保守性のサポートに問題意識を置く
PSS設計を意 味し,例えばインスタレーションやアフターケアがこれに該当する.次に, 「Design for
Supportability」では,製品のライフサイクル全般に対するサポートに問題意識を置くPSS
設計を意味し,例えばリースやシェアリングがこれに該当する. 「Design for Service」で
は,顧客が製品を使用する際の活動を部分的にサポートすることに問題意識を置く
PSS設計を意味し,例えば,従業員教育の代行や製品の運用といったサービスがこれに該当
する.最後に, 「Service Design」は,顧客が当該製品を利用して業務(活動)を行う際
のビジネスそのものをサポートすることに問題意識を置く
PSS設計であり,例えばコ
ンサルティングやアウトソーシングがこれに該当する.
18
Oliver
らは,サービスを提供する際の収益方法の違いと,価値提供における焦点の違
いの
2軸からサービス化の進行の度合いを分類している[Oliva 2003].収益方法の違い に関しては,顧客がサービスを利用する度に対価を払う場合と,サービスの利用期間に 応じて対価を払う場合で分かれ,後者の方がサービス化の進行の度合いが高いとされて いる.前者に該当するサービスの例としては,配達サービスやコンサルティングサービ スが挙げられる.後者に該当するサービスとしては,期間契約によるメンテナンスサー ビスや製品利用のマネジメントサービスが挙げられる.後者のビジネス形態に移行する ためには,製品利用に関する問題に対して,提供者が責任を負う必要がある.また,価 値提供における焦点の違いに関しては,製品の提供や可用性を重要視する場合と,製品 利用に関わる顧客の活動の支援を重要視する場合で分かれ,この分類においても,後者 の方がサービス化の進行の度合いが高い.前者に該当するサービスとしては,配達サー ビスや期間契約によるメンテナンスサービスが挙げられる.後者に該当するサービスと してはコンサルティングサービスや製品利用のマネジメントサービスが挙げられる.後 者の場合においては,提供者は製品そのものではなく製品利用によるソリューションを 提供する必要がある.
Figure 2-3 2
軸によって分かれるサービス化の分類[Oliva 2003]
19
戦略的マネジメント視点でのサービス化支援
本節では,先行研究において議論されてきた戦略的マネジメント視点でのサービス化 支援に関する知識について説明する.
サービス化へのプロセス
Martinez
らは,3 つのサービス化の事例に基づき,作成したサービス化戦略モデルと
提示している[
Martinez 2017].Figure 2-4に
Martinezらが提示した戦略モデルを示す.
Figure 2-4
サービス化のプロセス
Figure 2-4
に示したサービス化の戦略モデルは,サービス化を実施するにあたって必
要不可欠な
7つの段階を表す.また,各段階は相互依存しているため,サービス化によ
る成果を得るためには,各段階を同時に実施する必要がある.
20
サービス化のための戦略マップ
Rabetino
らは,サービス化のための戦略マップを提示している[Rabetino 2017].戦略
マップとは,戦略目標である「財務」,戦略目標を達成することで実現できる顧客価値 を指す「顧客」 ,戦略目標を達成するために必要な組織内で業務を指す「内部プロセス」,
戦略目標を達成するのに必要な財産を指す「学習と成長」の
4つの観点に基づくビジネ スの目標とそれを達成するための実施項目と行動計画,さらにそれらの関係を構造的に 表現することにより,ビジネス戦略を具体的に表現することが可能なフレームワークで ある[Dorf 1997].Figure 2-5 に
Rabetinoらの提示したサービス化戦略マップを示す.
Figure 2-5
サービス化戦略目標マップ[Rabetino 2017]
財務の視点の戦略は「生産性戦略」と「成長性戦略」の
2つの戦略からなる.「生産 性戦略」は,短期的な戦略であり,主に運用の最適化、コストの削減等を実施し,効率 的に資産を運用することによって、収益の向上や競争優位性が目的である.一方,「成 長性戦略」とは,中長期的な戦略であり,主に顧客に対し製品関連の様々なサポートを 提供する長期的な関係を築くことで,収益の安定性が目的である.顧客の視点は,顧客 のニーズを解決するために作られており,特定の顧客のプロセスや短期間の取引から、
長期的かつ関係的な合意を得ることが目的である.内部プロセスの視点では,サプライ
チェーンを管理,効率化やリスク管理を行う「業務プロセス」,顧客と長期的な関係の
管理や準備を行う「顧客管理プロセス」,新たな製品やサービスの開発を行う「イノベ
21
ーションプロセス」の
3つからなる.成長と学習の視点では,サービス化のために必要 な無形資産として,「企業文化の調整」,「サービス志向の人材確保」,「サービス志向の 情報通信技術(以下 ICT)の獲得」が挙げられている.
PSS ビジネスの実装を成功させるための 5 つの運用戦略検討
Reim
らは,製造者をサービス化し,PSS ビジネスを実装させるための運用戦略を提 示している[Reim 2015] .この運用戦略は「顧客との契約」 , 「マーケティング」, 「ビジ ネスパートナーや顧客との関係」, 「製品/サービスの設計」, 「持続可能性の検討」の
5つ からなり,それぞれに対して
PSSビジネスモデルがどのように運用されるか「product-
oriented」, 「use-oriented」 , 「result-oriented」の
3つの観点で示している.例えば,マーケ ティングの運用戦略において,既存顧客との交流に関する戦略では「product-oriented」
では,一定期間毎もしくは,顧客からの要請があった場合に応じるのに対して,「use-
oriented」,
「result-oriented」では,頻繁に交流を持つ戦略が適しているとしている.
Table2-2,Table2-3
に
Reimらが提示した
5つの運用戦略の概要を示す.
22
Table 2-2 PSS
ビジネスの実装を成功させるための
5つの運用戦略①[Reim 2015]
key aspects product-oriented use-oriented result-oriented
Responsibility for agreed-upon service Responsibility for availability Responsibility for result Agreement focuses on tasks, payment and
information
Agreement focuses on level of availability and monitoring
Agreement focuses on characteristics of the result
Highest Formalization Medium Formalization Lowest Formalization
Lowest Complexity Medium Complexity Highest Complexity
Low level Medium level High level
Higher than expected service efforts Make clear who is charged for what More freedom in provision of the result
Adverse behaviour Adverse behaviour
key aspects product-oriented use-oriented result-oriented
Related to functionality and durability Influence attitude towards ownerless
consumption Task and responsibility reduction
Information campaigns related to the benefits on customer side
Try to reach new customer segments
Regular or on—demand interaction Frequent interaction Frequent interaction
Relation building Trust building Trust is necessary
Insights into functionality and durability from usage information
Insights into customer habits when using the
product Comprehensive data collection
Efficiency of the service Data on service design Increased speed of innovation
顧客との契約
Contractマーケティング
Marketing Responsibility terms of agreementFormalization and complexity
Risk level
Communication of value
Extent of customer interaction
Customer and market insights
23
Table 2-3 PSS
ビジネスの実装を成功させるための
5つの運用戦略②[Reim 2015]
key aspects product-oriented use-oriented result-oriented
Dealer and providers are intermediates
between manufacturer and customer Third-party provider Direct contact with customer
Financial institutions Some tasks can be completed by third-party Direct contacts with customers are handled by
dealers or providers Focus on co-creation
Manufacturer needs to establish close
relationship with dealer Close to vertical integration
Based on trust Establish methods to coordinate tasks, focus
on formalization Much personal communication
Legal considerations Implement new working routines
key aspects product-oriented use-oriented result-oriented
Easy to maintain Easy to maintain Significantly large opportunities
Easy to reuse Increased durability High flexibility
Improved reliability Easy upgrading and remanufacturing Reliable service provision
Customization Some customization for large customers High degree of customization
key aspects product-oriented use-oriented result-oriented
Prolonged lifetime of the product or service Intensified use High incentives for provider to improve Better recycling Prolonged lifetime of the product or service
Risk of rebound effects Incremental innovation addressing durability
and usability
Radical innovations can lead to significant sustainability effects
Product and service innovations Business model innovations
ビジネスパートナーや顧客との関係
Network製品/サービスの設計 Product and service design
持続可能性の検討 Sustainability
Type of partnersType of relationships
Sharing and coordination activities
Functionality
Extent of innovation Improved resource utilization
24
本研究の位置づけ
本節では,本研究の位置づけを明確にする.そのために,まず,サービス化戦略の策 定を支援する現状の取り組みを踏まえ,本研究が解決すべき課題を明確にする.そして,
上記を踏まえたうえで,本研究の位置づけについて述べる.
本研究が解決すべき課題
1.2
で述べたように,サービス化を実現するうえでは,サービス化の指針を明確化す る必要がある.ここで言う指針の明確化とは,すなわち,サービス化戦略の検討を意味 する.このようなサービス化戦略についての検討に関して,2.3 節で紹介した先行研究 において議論されているサービス化についての知識は,サービス化戦略を策定における 参考情報となり得る.例えば,サービス化の戦略目標に関する知識を参考として,サー ビス化戦略を策定する場合,主に自社に対してその戦略目標適用することに焦点が置か れる.このように,これまで議論されてきたサービス化に関する知識は,製造業が目指 すべきサービス化の在り方を示唆している.言い換えれば,既存のサービス化に関する 知識は,サービス化の戦略をある一定の方向に促す役割を担っていると言える.
しかしながら,是であるとされてきたサービスの在り方が,すべての企業に対して当 てはまるとは限らない.例えば,先行研究においてサービス化戦略目標として位置づけ られていう要素が,ある企業にサービス化戦略においては不要な要素となる場合も考え られる.
以上を踏まえると,先行研究においては,以下の課題が存在すると考えられる.
企業状況とサービス化の為の戦略目標の策定手段との関連性に関する具体的な議論 が十分でないため,「製造業のサービス化」のための戦略目標策定を実践する上での具 体性と合理性が不足している.
本研究の位置づけ
1.2
節で述べたように,本研究では,
2.5.1項で述べた課題に対して, 「企業状況を考慮
したサービス化戦略策定手法の提案」を目的とする.提案する手法は,サービス化に係
る企業状況を分析し,その後分析結果に基づきサービス化戦略目標の策定を行う手法を
構築する.
25
本章のまとめ
本章では,まず本研究に関連する先行研究を紹介した.そして,先行研究における課 題を整理したのち,本研究の位置付けを明確化した.
2.2
節では,先行研究において整理されているサービス化に関する知識について説明 した.具体的には,サービス化の方向性や種類に関する知見と,サービス化に影響する 要因に関する知見について述べた.
2.3
節では,先行研究において提案されている戦略的マネジメント視点でのサービス 化支援について述べた.
2.4
節では,先行研究を踏まえたうえで,サービス化を実現するうえでの課題を整理 したのち,本研究の位置付けを明確化した.具体的には,「サービス化に関する企業状 況の分析から,自社のサービス化戦略の策定までの一連の手順が明確化されていない」
ことを課題として整理し,その課題を解決する提案として本研究を位置づけた.
26
27
企業固有の状況を考慮した サービス化戦略目標策定手法
はじめに ... 28
提案手法構築のアプローチ ... 29
提案手法構築のための構成要素 ... 30
企業状況の構成要素 ... 30
サービス化に係る戦略目標のカテゴリ ... 39
サービス化に関わる戦略目標策定手法 ... 42
Step1:企業情報の調査... 42 Step2:企業状況の分析... 43 Step3:戦略目標の策定... 44本章のまとめ ... 45
28
はじめに
本章では,本研究の目的を達成する手法を構築するためのアプローチと,そのアプロ ーチに基づいて構築した提案手法について説明する.
3.2
節では,提案手法を構築するためのアプローチの概要について述べる.
3.3
節では,アプローチを踏まえて,提案手法を構築するための具体的な要件を整理 する.
3.4
節では,
3.3節で整理した各要件に基づいて構築した提案手法の全体像と,その使
用手順について説明する.
29
提案手法構築のアプローチ
本研究では,企業状況の分析を支援するために,まず,「製造業のサービス化」に影 響を及ぼす企業状況の構成要素を整理する.次に,サービス化に係る戦略目標の策定を 支援するために, 「サービス化の目的と期待」,「サービス化の促進要因と障害」,「サー ビス化戦略マップの要素」を整理し,サービス化に係る戦略目標のカテゴリを整備する.
最後に,それら結果に基づき,企業の状況の分析からサービス化戦略目標の策定までの 一連の手順の明確化と支援ツールの開発を通じて,企業状況を考慮したサービス化に係 る戦略目標策定手法を提案する.
Figure 3-1
提案手法構築のアプローチ
企業状況の構成要素の整理 サービス化戦略目標のカテゴリの 整備
提案手法の構築
「企業状況の構成要素」と「サービス化戦略目 標のカテゴリ」を基に,企業状況分析とサービ
ス化戦略目標策定からなる手法の構築
本研究に置ける企業状況の整理
文献調査によりサービス化に影響を 与える企業状況の明確化
先行研究における
「サービス化の目的と期待」
「サービス化の促進要因と障害」
「サービス化戦略マップの要素」
から,サービス化戦略目標の観点を整理
1 2
3
30
提案手法構築のための構成要素
企業状況の構成要素
本研究では,提案手法の構築に向けた準備として,まず,企業状況の構成要素を整理 した.本研究では,David らによる,一般的な戦略目標策定に必要とされる
3つの観点
「内部能力」 , 「外部環境」 , 「競争力」の定義[David 2011]を踏襲し,企業状況の要素 を「サービス化に必要な企業の内部能力」 , 「サービス化に影響を与える外部環境」, 「企 業の競争力」と定義した.
(1) サービス化に必要な企業の内部能力
関連する既存研究の俯瞰的調査を通して,サービス化に必要な企業の内部能力の構成
要素を整理し,「価値基準で価格設定を行う力」 , 「顧客と親密になる力」を含む
8つの
内部能力を整備した(Table 3-1) .以下にその調査結果と併せて説明する.
31
Table 3-1
サービス化に影響を及ぼす内部能力
内部能力 分析項目 参考
価値基準で価格設定を行う 力
製品販売による収益
[Parida 2014][Tukker 2004]
[西岡 2017]
サービス提供による追加収益 新規顧客からの収益
顧客と親密になる力
顧客との関係
[Baines 2009][Martinez 2017]
[Osterwalder 2010]
[Parida 2014]
[Story 2017]
企業のイメージ 顧客満足度 顧客の獲得 既存顧客の継続 顧客共創を行う力 製品/サービスの革新性
[ Gebauer 2012]
[Rabetino 2017]
[Story 2017]
パートナーと
親密になる力 パートナー企業との連携
[Martinez 2017]
[Osterwalder 2010]
[Parida 2014]
[Story 2017]
[久保田 2017]
サービス指向の人材を 確保する力
サービス能力
[Gebauer 2012][Rabetino 2017]
[Story 2017]
[[久保田 2017]
訓練・研修
サービス指向
ICTを持つ力
知財管理
[Osterwalder 2010][Rabetino 2017]
[Story 2017]
顧客管理システム
サービス指向の業績評価 を行う力
サービス指向の 業績評価システム
[Gebauer 2012]
[Rabetino 2017]
[久保田 2017]
PSS
に適した組織構造を構 築する力
部署横断チーム
[ Gebauer 2012][Martinez 2017]
[Story 2017]
[久保田 2017]
組織の調整
32
「価値基準で価格設定を行う力」の内部能力において,
Tukkerらは,サービス化した 企業が提供する
PSSをそのシステムが内包する製品とサービスの比率に応じて,
Product-oriented,Use-oriented,Result-oriented
の
3つに分類している[Tukker 2004] .そ
して特に
Use-oriented,Result-orientedでは,ビジネスモデルの焦点が,製品主体から,
使用やその結果に移行すると主張している.このことから,サービス化のためには製品 ベースの価格戦略から,
PSSの価値に焦点を置いた価格戦略への移行が必要であると考 えられる.また,Parida らは,価値を捉えるためには,顧客にとっての価値とそれに対 する支払意欲を理解し,競合他社の価格設定を評価することで,自社の価格設定の基準 を決める必要があると述べている[Parida 2014] .これらを踏まえて本研究では, 「価値 基準で価格設定を行う力」をサービス化に必要な企業の内部能力とし,顧客価値の理解 や顧客の支払い意欲の特定が正しく行われている製品/サービスは,安定した収益を上 げることから,その分析項目として「製品販売による収益の持続性」, 「サービス提供に よる追加収益」 , 「新規顧客からの収益」を挙げた.
「顧客と親密になる力」に関して,例えば,Parida らは,詳細な顧客知識に基づく,
柔軟性と各顧客に合ったカスタマイズにより,ニーズを捉える可能性を増大させること をサービス化に必要な要素の
1つとしている[Parida 2014].これを踏まえ,本稿では,
「顧客との親密になる力」をサービス化に必要な企業の内部能力の
1つとした.また,
Parida
らの主張の他に,Baines らは,顧客の親密さを向上し,満足度の向上や既存顧客
の維持率の増加,新規獲得に繋げることの重要性を強調している[Baines 2009].他に も,Osterwalder らは,顧客が企業に対して
PSS提供者であることがイメージできるこ とが顧客の親密さに繋がるとしている[Osterwalder 2010] .以上を踏まえ, 「顧客と親密 になる力」の分析項目として,「顧客との頻繁な交流」,「企業のイメージ」,「顧客満足 度」,「新規顧客の獲得」 , 「既存顧客の継続」を挙げた.
「顧客共創を行う力」に関して,多くの研究者がサービス化にあたっての新たな製品
/サービスの開発に対して,顧客共創の実施を重要視している.例えば,Rabetino
らは,
製品サービスを提供する製造業者において,「顧客の意見を取り入れ,共同で新たな製 品/サービスを解決することが重要である」述べている[Rebetino 2017] .以上を踏まえ て, 「顧客共創を行う力」サービス化において必要な内部能力の一つであると考えられ,
その分析項目として企業が現状「顧客共創により開発した製品/サービス」を挙げる.
「パートナーと親密になる力」に関して,従来の製造業に比べ,顧客価値を中心とし た製品/サービスの開発や提供方法は複雑化するため,単独の製造業者が製造から提供 までの全てを担うのは困難となる.そのため,研究者らは新たなパートナーとアライア ンスを組むことを重要視している,例えば,
Martinezらは,仕事の一部をパートナーに 任せることが,顧客への付加価値の増加に繋がると述べている[Martinez 2017].また,
久保田らは,製造業のサービス化が実施されたサービスが満たすべき要件と,それを製
33
造業が提供する上での障壁を把握することを目的として,49,801 件(大製造業者
2,661件,中小製造業者
47,140件)を対象とするアンケート調査を行った[久保田 2017].こ の調査結果において,サービス化が進んだ製造業者はそうでない製造業者と比較して
「リソースを外部から獲得すること」をサービス化の要件として重要視していることが 判明した.そこで本研究では,「パートナーと親密になる力」をサービス化に必要な内 部能力の一つとし,その分析項目を「現状のパートナーとの関係」とする.
「サービス志向の人材を確保する力」 , 「サービス志向の業界評価を行う力」, 「PSS に 適した組織構造を構築する力」に関して,久保田らが実施した製造業者へのアンケート 結果では,製造業のサービス化の障害として, 「サービスビジネスの人材状況」 「組織文 化」「サービスビジネスの評価」を指摘していることが分かった.これは,従来の製造 業がサービス化後の製造業者では,必要となる組織の構造や文化が異なるため,サービ ス化の過程で,組織構造の変更や従業員の教育が必要であるためと考えられる[久保田
2017].以上の調査結果から,「サービス志向の人材を確保する力」「サービス志向の業界評価を行う力」 「PSS に適した組織構造を構築する力」サービス化に必要な内部能力 とする.また,これらの分析項目に関して,「サービス志向の人材を持つ力」の分析項 目を「サービス提供能力を向上させる訓練,研修」と「サービス志向の人材の有無」と し,「サービス志向の業績評価を行う力」の分析項目を「サービス指向の業績評価シス テムの有無」とした.さらに,
Rabetinoらが
PSSに適した組織構造を「組織全体の
PSSに関しての方向性が一致している」ことに加えて,製品/サービスを開発する上で製品開 発やマーケティングを含む様々な部署を横断し,検討,開発を行うことの重要性を述べ ていることから, 「PSS に適した組織構造を構築する力」の分析項目において, 「組織の 方向性」に加えて「部署横断チームの有無と実績」を挙げる.
「サービス志向の
ICTを持つ力」に関して,西岡らはサービス化と
ICT技術による 顧客管理との深い関係性についても述べており[西岡 2017],また,Rabetino らは,サ ービス化に必要な
ICT技術として,社員がもつ知識や経験、ノウハウを企業内で共有す るシステムである「ナレッジマネジメントシステム」を挙げている[Rebetino 2017] .こ れは,顧客の要求が複雑化するにつれて,必要となる顧客情報や共有すべき社員が持つ 知識や経験が莫大となっていくためである.以上から, 「サービス志向の
ICTを持つ力」
をサービス化に必要な内部能力とし,その分析項目を「顧客管理システム」と「ナレッ
ジマネジメントシステム」とする.
34
(2) サービス化に影響を与える外部環境の構成要素
サービス化に影響を与える外部環境の構成要素を整備するにあたり,既存研究におけ る外部環境分析手法である「ビジネスモデル環境」 ,「5 フォース分析」, 「PEST 分析」,
「3C 分析」を調査し,その結果に基づき,本研究では,外部環境を, 「業界」, 「キート レンド」 , 「市場」 , 「マクロ経済」の
4つと定義した.以下にその調査結果と併せて説明 する.
Osterwalder
らは,ビジネスモデルを取り巻く外部環境の観点として「業界」, 「キート
レンド」 , 「市場」 , 「マクロ経済」の
4つを提唱している[Osterwalder 2010]. 「業界」は 企業における競争力を分析する観点であり,例えば市場における競合他社との優位性や,
代替品の有無等の分析する観点である.「キートレンド」は,市場の未来予測に関する 分析であり,例えば,現状の技術におけるトレンドを分析することで,市場の将来を予 測する観点である.「市場」は,企業が注力すべき市場や市場における需要を特定する 分析であり,例えば,顧客の要求を分析する観点である.最後に,「マクロ経済」にお ける分析では,経済的観点から市場を分析する.例えば,原材料やリソースの価格変動 や国際的な経済の状況を分析する.Figure 3-2 にて,Osterwalder らの分析観点の概要を 示す.
Figure 3-2
ビジネスモデル環境[Osterwalder 2010]
サプライヤー企業 ステークホルダー
競合他社 新規参入 代替品
規制のトレンド 技術のトレンド 社会的・文化的なトレンド
社会経済のトレンド
グローバル市場の状況 資本市場の状況 原料やリソースに関わる
市場の状況 経済インフラ
市場セグメント 需要と供給 市場の問題 スイッチングコスト
収益の魅力
キートレンド
業界
マクロ経済
市場
35
また,
Poterらは企業が置かれている市場及び業界の状況を分析する手法として,
5フ
ォース分析を提唱している[Poter 2008] .5 フォース分析では,「売り手の交渉力」 「買 い手の交渉力」 「競争企業間の敵対関係」 「新規参入企業の脅威」 「代替品の脅威」の
5つ の視点が用いられている.「売り手の交渉力」は,製品を製造する際に必要となる原材 料やサービスを提供するために必要となるリソースの供給業者との関係に関する視点 である.例えば,原材料の仕入れ価格の設定について分析することで,自社の収益性を 予測することが可能となる.「買い手の交渉力」は,自社と顧客の関係に関する視点で ある.例えば,製品の購入価格やサービスの受給価格に対する顧客の要望について分析 することで,自社が獲得する利益を予測することが可能となる.「競争企業間の敵対関 係」と「新規参入企業の脅威」は,業界内における自社ビジネスのシェアの予測や自社 の立ち位置の明確化を可能とする視点である.「代替品の脅威」は,自社製品にとって 代わる製品の出現の可能性やその製品の特徴について分析するための視点である.これ らの
5つの要因のうち, 「競争企業間との関係」は,Figure 3-3 に示すように,他の
4つ の要因の影響を受けるとされている.
Figure 3-3 5
つの競争要因の影響関係
36
外部環境に関する要素抽出の観点として広く用いられる分析手法に
PEST分析があ る.PEST 分析とは,環境変動に影響を及ぼす要因として政治的(Political),経済的
(Economical) ,社会文化的(Socio-cultural),科学技術的要因(Technological)の
4つの 観点の頭文字を取ったものである.
Table 3-2に,これらの観点に関する説明をまとめる
[根本 2015] .
Table 3-2 PEST
分析の観点と例[根本 2015]
観点 説明
政治的要因
(Political)
当該ビジネスに関わる国家,地域の政策等に関する環境変動 要因.具体的には,政権の変化や,法規制(規制強化・緩 和)や,税制,政治団体の傾向等が該当する.
経済的要因
(Economical)
企業の財務や展開するサービスに経済的に影響を与える環境 変動要因.具体的には,景気の変動,原材料費や燃料等の価 格変動等が該当する.
社会文化的要因
(Socio-cultural)
流行の変化や地域社会等に関する環境変動要因.具体的に は,企業がビジネスを展開する地域の人口動態や,教育水 準,地域文化等が該当する.
科学技術的要因
(Technological)
科学技術の発展,既存の製品・設備の状態等に関する環境変 動要因.具体的には,新技術の普及度合い等が該当する.
「3C 分析」は,「Customer (顧客)」,「Competitor (競合)」,「Company (自社)」の
3つ の
Cが頭文字となる要素について分析する手法である[斉藤一
2004].「Customer (顧客)」
は,企業が注力する顧客やその市場を分析する観点であり,例えば,顧客の要求等がそ
の分析対象となる.また, 「Competitor (競合)」は,企業における競争力を分析する観点
であり,例えば,市場における競合他社となる企業等がその分析対象となる. 「Company
(自社)」は,企業における市場での立ち位置や内部能力を分析対象とする観点である.37
以上の調査結果より明らかになった各分析手法の外部環境の構成要素とその適応範 囲を
Table 3-3に示す.
Table 3-3
外部環境分析の調査結果
外部環境の分析の観点 競争 外部環境の
変化 市場 マクロ経済
分析手法
ビジネスモデル環境 〇 〇 〇 〇
5フォース分析 〇 × 〇 ×
PEST
分析 × 〇 × ×
3C
分析 〇 × 〇 ×
以上を踏まえて,「ビジネスモデル環境」は,本調査範囲内で最も適用範囲の広い外 部分析手法であることが分かる.しかしながら,その適用範囲の広さから,各観点に対 して詳細な分析の支援が困難である.そこで,本研究での外部環境分は,「ビジネスモ デル環境」の構成要素を踏襲し,「業界(競争) 」,「キートレンド(外部環境の変化)」,
「市場」, 「マクロ経済」の
4つと定義し,その分析項目の一部を,他の分析手法の補完 し,4 つの構成要素をそれぞれ
4~5つの分析項目に展開した.例えば, 「業界」に関し て,5 フォース分析が,焦点を当ているためビジネスモデル環境より詳細な分析の支援 が可能である.そこで,本研究では,5 フォース分析を参考に,「業界」の分析項目を
「競合他社の脅威」「新規参入者の脅威」「代替製品またはサービスの脅威」「売り手の 交渉力」 「買い手の交渉力」とした.
Table 3-4に「サービス化に影響を与える外部環境」
とその分析項目を示す.
38
Table 3-4