≪書 評≫
吉戸昌昭著
『現代企業行動論』を読んで
櫻井克彦
現代の企業環境は多方面に亙り急激な変化を遂げつつあり,企業経営者は かかる環境変化への経営政策的対応を不可避としている。愛知学院大学助教 授・富戸昌彦氏の著書『現代企業行動論』(同文館,昭和59年)はそのよう な経営政策的対応のあり方について論じたものであり,時宜を得た書物であ
る。
著者はわが国の中小企業論の権威である末松玄六博士に師事して,長年,
経営政策の研究を行ってきたのであるが,筆者もかねてより著者の研究成果 が書物の形でまとまることを期待しており,ここに本書についていささかの 感想を述べる機会を得たことを嬉しく思う次第である。
I 本書 の 構成
はじめに,本吉の構成を示すことにしたい。本書は7つの章と追捕とから 成っているがその内容はつぎの如くである。
第1章 現代企業の環境変化 第2葦 現代企業の行動基準 第3章 現代企業の経営行動 第4葦 現代企業の立地行動 第5葦 現代企業の財務行動 第6章 現代企業の設備投資行動
第7章 現代企業の海外投頁行動−製造業を中心として−
追補 製造業の立地に関する実態調査
それぞれの章は幾つかの節より成るが,その標題は以下のようであるD す なわち第 l章の現代企業の環境変化は,環境変化の種類,都市化と企業,資 源問題と企業,スタグプレーションと企業,国際化と企業,高齢化と企業,
先端技術化と企業,市場の変化と企業といった節から構成されるD 第
2
章の 現代企業の行動基準では,現代企業の意味と目的,企業の収益性,企業の流 動性,企業の成長性,企業の生産性,企業の社会性,企業の総合評価が,第3
章の現代企業の経営行動は,環境変化に対応する経営行動,外部経営行動 と内部経営行動,経営行動と社会的費用が,節の標題となっているo
更に,第
4
章の現代企業の立地行動は,企業の立地条件の変化,製造企業 の立地行動,販売企業の立地行動という節より,第5
章の現代企業の財務行 動は,企業の財務目的,資本の調達行動,資本の運用行動,利益処分行動,現 代企業の財務行動基準という節より,第6
章の現代企業の設備投資行動は,設備投資の概念と種類,設備投資の決定過程,設備投資の評価方法,不確実 性下の投資決定,設備投資の決定要因なる節より構成される
o
最後に,第7
章の現代企業の海外投資行動は,海外投資の動向,海外投資の動機,海外投 資の問題点,海外投資の行動基準の諸節より成っている口本書の構成は上に示された如くであるが,本書にあっては第 l章で現代の 企業をめぐる主要な環境変化が論じられたあと,第
2
章では乙のような環境 変化に照応してこれからの企業がもつべきであるところの目標がとり上げら れるo
そして変化する企業環境と経営目標に対応して企業においてとられる べきであるところの経営戦略ないし経営方針について第3
章で概説がなされ たあと,第 4:i主では立地戦略が,第 5章および第 6章では財務戦略が,そし て第7
章では国際化戦略が論じられているo
このことが示すように本書は現 代の企業の経営政策について論じた書物であるが,本書にあっては経営政策 論の展開に際して企業行動についての経営理論への留意が一貫して存在して いるのであって,著者も理論的研究と政策論的研究のかかる統合を意図して いる(序)。E
本 書 の 特 徴本書の構成は上に示した如くであるが,本書の特徴としてなにを挙げうる であろうか。
本書の特徴として幾つかのものを指摘する乙とができるが,管見によれば 本書の基本的特徴として
2
つを挙げうるo 1
つは,現代の企業においてとら れるべき経営政策について体系的かっ総合的に論じようとしていることであ る。他は,企業の「社会性」の増大への経営政策的対応の重要性が強調され ていることであるo
( 1 )
体系的・総合的接近まず本書の基本的特徴として,体系的・総合的な形で経営政策論の展開が 意図されていることを指摘できる。
すなわち,本書でははじめに,企業が今日の社会で直面している重要な
「環境変化」が論じられており,そのような変化として「都市化j,
r
資源 問題j
,r
スタグフレーションj
,r
国際化j
,r
高齢化j
,r
先端技術化j
, および「市場の変化」が挙げられている(第1章)。ついで,かかる環境変 化が企業の「行動基準」ないし経営目標の多元化を要請している乙とが述べ られるo
そのような「行動基準」とは「収益性j
,r
流動性j
,r
成長性j
,「生産性
j
,および「社会性」の5
つであってr
収益性」が企業の基本的 目標であるとしても他の要素も企業において重視されるとされるo
すなわち「企業目的は収益性の追求にウエイトがある乙とは明確であるが,その他の 下位目的に関しても十分考察する必要がある乙とはいうまでもない
J ( 3 9
頁)とされる(第2章)口そして,前記のような環境変化の結果
r
内部経営行 動とならんで,あるいはそれ以上に外部経営行動が必要になってきたJ ( 8 4
頁)とされるとともに,企業のとるべき戦略が考察されるo
この場合,戦略として「生産戦略,市場戦略ないしマーケティング戦略(多角化戦略に特に 関連する),財務戦略,労務戦略,研究開発戦略,組織戦略,撤退戦略,等」
( 8 9
頁)が指摘されるとともに,本書では「生産戦略の一環としての立地行 動,資本の調達,運用,利益処分を中核とする財務行動,生産戦略,研究開発戦略ならびに財務戦略に関連する設備投資行動,および立地戦略,設備投 資戦略に特に関連する海外投資行動の四つの霊要な企業行動をとりあげ,特 に環境変化とのからみあいで考察する
J
(89"'‑'90頁)乙とが述べられる(第3
章)。乙のようにして本書では
r
環境変化」→「行動基準J
(経営目標)→「経営行動
J
(経営戦略)の形で論理展開がなされるとともに,更には「立 地行動(第4
章),r
財務行動J
(第5
章),r
設備投資行動J
(第6n)
,r
海 外投資行動J
(第7
章)の形で幾つかの特定の経営戦略が考察されているo
実践に適用可能であるような体系的かっ総合的な経営政策論は,第1!乙現 代の企業をめぐる諸状況について論ずることを必要とするD 乙の場合,とり わけ企業環境の動向の考案が重要となる。第
2
に,経営政策論は企業がもつ べき目的を論ぜねばならないのであり,乙の場合,経営目標への論及が不可 欠であることはいうまでもない。第3
に,それは目的の達成のための基本方 針ないし戦略を総合的にとり上げねばならないとともに,戦略の適切な実践 のための条件についても考察することを要するo
しかるに本書が企業環境,経営目標および経営戦略を総合的にとり上げんとしていることは既に眺めた 如くであり,その限りで本書は体系的・総合的な経営政策論の構築を試みる
ものであるといってよい。
(2) 企業の「社会性」の強調
本書について指摘しうる他の基本的特徴のlつは,いわゆる社会的責任が 重視される乙とであって,本書では企業の「生産性」および「社会性
J
, と りわけ後者がしばしば強調されるD すなわち,企業の「社会性」の増大が強 調されるとともに「社会性」の増大への経営政策的対応の重要性が少なから ず論じられるのであるo
この点について述べるならば,ここに企業の「社会性」とは主として消費 者および地域社会に対する企業責任,とりわけ地域社会への企業責任に関連 するとみてよい。つぎの文は,乙のことを部分的に哀付ける
o rここでは,
消費者に対する公害防止と住みよい環境の提供が主題となる。消費者に対し ては,商品の安全性の確保のために使用された研究費や,商品の値下げによ
る利益減少額,あるいはアフターサービス費等が関連し,地域社会に対して は,公害防止費,公害補償費,グリーンベルトの設置費等が関連する
o ( 6 1
~2 頁 )J それはともかく本書では,企業の「社会性」への言及がしばしば みられる
o
例えば,第l
章では企業環境の変化が論じられるが,その第2
章の「都市化と企業」においては,都市化現象に伴い公害問題等の都市化の 弊害が表面化し企業に対し立地行動のあり方をめぐる問題を提起しているこ とが示される。そして経営目標について論じた第2
章ではr
企業の行動基 準」のlつとして「社会性」が挙げられるとともに企業の地域社会関係がと り上げられているo
また,経営戦略について述べた第3
章では,第3
節の「経営行動と社会的費用」において
r
経営者は,意思決定システムの領域 内に消費者や地域社会の利益を導入する乙と,換言すれば,社会的費用の内 部化が要請されるJ ( 9 9
頁)乙とが示されているo
更に,特定の経営政策に ついて論じた第4章以下では,例えば,企業の立地行動を扱う第 4章で産業 公害への経営的対応にかなりの紙幅が割かれている口あるいは,国際化戦略 を論じた第7
章でもr
社会性を無視した収益性のみの追求では存在不可能 となるJ
(210頁)乙とが指摘されるとともにr
社会性J
I乙関して重要と なる事項として「現地化の推進j
,r
インダスリアノレ・パーク的構想j
,r
投資先分散
j
,および「受入国の開発促進」が挙げられている。このように本書にあっては,企業の「社会性」を中心に,企業の社会的責 任の問題が少なからずとり上げられている
o
E
本 書 の 意 義本書の基本的特徴としては上述のように,体系的・総合的接近ならびに企 業の「社会性」の強調を挙げることができる
o
むろん本書の特徴としては,著者自身が序で強調するところの,理論的研究と実践的研究との統合,およ び大企業と中小企業との二面的考察といったことを挙げてもよいかもしれな い。しかしながら, こ乙では基本的特調として前記の二つを示すことにす
る
o
それでは,本書はどのような意義を有するであろうかロ乙の点についてい うならば,本書が実践においてワーカブノレであるような経営政策論の展開に 対して寄与しうるものを少なからず有していることは,明らかであるD かか
る貢献は,既に眺めた本書の基本的特徴に関連する
o
すなわち,現代の企業は変化する企業環境に適応しえねばならず,乙こか らそれは適応のための理論的手引きを必要とするのであって,かかる要請に 答えうるような経営政策論の確立が今日緊契となっている。乙の場合,その ような政策論は,現代の企業が直面する多様な環境変化を認識するととも に,そのような変化に照応して企業が設定を必要とするところの経営目的お よび経営戦略を総合的に論ずるものであることを必要とする。そして,問題 への体系的・総合的接近を基本的特質の lつとしてもつ本書が,かくの如き 政策論の展開に対して貢献しうることは否定しえないであろう
o
加うるに,現代の企業に対し対応を要請するところの基本的な環境変化の 一つは企業環境主体の多様化と企業へのこれら主体の期待の変化であるD 換 言すると企業は,利潤追求を含めて多様な経済的ならびに非経済的な責任の 履行を社会から要請されており,その経営者はかかる社会的責任の履行を通 じて企業の存続と成長を図るととを不可避とされているO そして,乙乙から 現代の経営政策はその中味において社会的責任指向の経営政策である乙とを 必要とするのである。されば
r
収益性」のみならず「社会性」や「生産 性J,等を企業の「行動基準」として強調するところの本書はこの意味でも,現代の要請に応えうるような経営政策論の確立に対し寄与をなしうることに なる
o
以上のように本書は,経営学研究の進展に対し貢献を行っているといって よい。むろん,本書の内容については問題点も少なからず指摘しうるであろ う。例えば,企業環境の変化の分析に関連していえば,主要な環境変化のー っとして社会のひとびとの価値観の変化が論ぜられるべきであろうD また,
企業の「行動基準」の考察に関連しては,具体的な企業目的たる経営目標が とり上げられるのみに止まらず,経営理念の動向とあり方についても検討が なされる必要があると思われる。あるいは経営目標についても従業員の自己
実現欲求への対応のような非経済的目標も強調されることも重要であるとと もに,多元的な経済的ならびに非経済的な目標の統合のための方、法について なんらかのより具体的な方策が提示されるととが望まれる
o
更には,経営目 的の達成のための経営戦略ないし「経営行動」に関しても,社会監査やディ スクロージャー等の問題への言及も必要であろうo
むろん,乙れらの注文は 望萄の誘たることを免がれないであろうし,著者自身にあっても,なにが今 後の課題として残されているかについての十分な認識が存在するo
以上で明らかなように,本書は現代の経済社会において有用であるような 経営政策論の展開を試みるものであるとともに,本書のそのような意図はか なりに達成されているとみてよい。筆者の努力に敬意を表するとともに,今 後の研究成果lこ期待をするものである。