GaAs/AlGaAs ヘテロ構造二次元電子系の 一次元変調磁場による磁気抵抗効果
Magnetoresistance effect of two-dimensionalelectron systems in GaAs/AlGaAs heterostructures with one-dimensional periodic magnetic fields
物理学専攻 石川浩樹 Hiroki Ishikawa
1 序論
M¨ullerら[1]は変調周期が0.5µmの静電ポテンシャル変調をかけた二次元電子系(2DEG)に垂直に磁場をかけ,
縦抵抗の磁場依存性を測定した結果,低電子濃度において大きな負磁気抵抗を観測した.一方,小平[2]はM¨uller らの実験に対して,周期2µm,及び4µm,のCoストライプを載せたホールバー型試料を作製し,周期的変調磁 場下の磁気抵抗の磁場依存性とそのゲート電圧依存性を測定した.その結果,約1.0×1015m−2以下の低電子濃 度領域でゼロ磁場近傍に負磁気抵抗を見出した.
本研究では,周期的変調磁場下で観測された負磁気抵抗の原因を明らかにすることを目的として,異なる周期,
及び試料電流に対して異なる角度の強磁性体ストライプを載せたホールバー型試料を作製し,磁気抵抗の測定を 行った.
実験はゲート電圧を変化させ,電子濃度を変えて磁気抵抗の磁場依存性を測定した.磁場は2DEGに平行で,
ストライプに対して垂直に印加した.測定には,試料電流に対して垂直な垂直ストライプ,45◦傾いた45◦ストラ イプ,平行な平行ストライプの3種類の試料を用いた.
2 実験
GaAs/AlGaAsヘテロ構造基板を用いて電子線リソグラフィー,ケミカルエッチング,真空蒸着,リフトオフに
よりゲート電極付きホールバー型試料を作製した.図1は作製した試料の設計図で,S,Dは電流端子,周りにあ るのは電圧端子とゲート電極用端子である.図2にチャネル部分の拡大図を示した.この試料はチャネルを3つ に領域を分けてある.2つは強磁性体ストライプを載せるストライプ領域,残りの1つは磁気抵抗の参照領域であ る.チャネル全体を覆うように厚さ50nmのAu,3領域の外側の2つに強磁性体としてCoをストライプ状に蒸 着してある.
図1: 試料設計図. 図2: チャネル部分拡大図.
作製した試料の100mKにおける特性を表1に示す.測定は交流4端子定電流法で,試料電流100nA,周波数
87Hz,試料温度は80mKで行った.磁場は強磁性体ストライプに垂直で2DEG面に平行に印加した.図3に
2DEGに平行で強磁性体ストライプに垂直に磁場を印加したとき,2DEGが感じる変調磁場の様子を示した.
表1: 温度100mKでの試料特性.aはストライプ周期,wはストライプ幅,tはストライプの厚さ,nsは電子濃 度,µは移動度,leは平均自由行程を表す.
試料名 a(µm) w(µm) t(nm) ns(×1015m−2) µ(m2/VG) le(µm)
]8(垂直ストライプ) 2 0.8 100 2.9 26 2.3
1 0.4 00 00 00 00
]9(平行ストライプ) 1 0.6 90 2.9 23 2.1
]10(45◦ストライプ) 1 0.5 90 2.5 22 1.8
-0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2
B z (T)
3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0
x (µm)
Stripe
2DEG Bz(x) Bap
M
図 3: 強磁性体ストライプに垂直に磁場を印加した時にストライプの磁化が2DEGに作り出す変調磁場.2DEG には三角波的な変調磁場が生じる(太線).
3 結果
図4に周期1µmの垂直ストライプでの∆ρxx(=ρxx(Bap)−ρxx(Bap = 0T))を示した.低電子濃度になると ゼロ磁場近傍に負磁気抵抗が現れているのがわかる.図5に周期2µmの∆ρxxを示した.周期2µmでもゼロ磁 場近傍で負磁気抵抗が現れている.これらの磁気抵抗の振る舞いから,低電子濃度領域では正磁気抵抗と負磁気 抵抗が混在して観測されることがわかった.周期1µmの45◦ストライプ試料でも同様に低電子濃度領域では正磁 気抵抗と負磁気抵抗が混在して観測されていた.
200 150 100 50 0 -50 -100 Drxx (Ω )
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0
Bap (T)
0V -100mV -150mV -175mV -200mV
-240mV -245mV
図 4: 周期1µmの垂直ストライプにおける各ゲート電圧 での∆ρxxの磁場依存性.
250 200 150 100 50 0 -50 Drxx (Ω )
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0
Bap (T)
-100mV -150mV -175mV -200mV
-240mV -245mV
0V
図5: 周期2µmの垂直ストライプにおける各ゲート電圧 での∆ρxxの磁場依存性.
-20 -15 -10 -5 0 5
Drxx (Ω )
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0
Bap (T)
0V -150mV -175mV -190mV -200mV
-210mV
図6: 周期1µmの平行ストライプにおけ る各ゲート電圧での∆ρxxの磁場依存性.
図6に周期1µmの平行ストライプ試料での∆ρxxを示した.平行 ストライプの場合は正磁気抵抗が現れず,負磁気抵抗のみが観測され ている.平行ストライプでは電流方向に磁場の変調がない,したがっ て,電流方向の電子の運動の妨げにならず,結果として,正磁気抵抗 は観測されなかったと考えられる.このことは,観測された負磁気抵 抗が一次元変調磁場の方向とは相関がないことを示している.2DEG に垂直な磁場成分は弱局在に起因する負磁気抵抗を引き起こす,すな わち,ストライプが作り出す磁場のz成分により,弱局在の負磁気抵 抗が現れることが考えられる.
4 考察
ストライプの磁化にともなって2DEGに生じる変調磁場の垂直成分が引き起こす,弱局在に起因する負磁気抵 抗を求めるために,変調磁場の実効値(式(1))を定義する.図7に計算の際に用いた磁化曲線と,上の式から求 めたBz∗を示した.
Bz∗ = 1 a
Z a
2
−a2
q
Bz(2 x0, M)dx0 (1) ここでM = M(Bap), Bz(x0, M)∝M
2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 M(Bap) (T )
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0
Bap (T)
0.10 0.08 0.06 0.04 0.02 0.00
Bz *(T)
図7: 変調磁場の実効値B∗zを求めるときに用いた磁化曲線M(Bap)とBz∗.左軸が磁化曲線,右軸がBz∗に対応 している.
負磁気抵抗がほとんど現れない高電子濃度領域の磁気抵抗はそれぞれのゲート電圧で定数倍することで一致す る.図8に定数倍する前の磁気抵抗を,図9に定数倍した後の磁気抵抗を示した.ほぼ完全に一致しているのが 分かる.このことから,低電子濃度領域の正磁気抵抗もこの方法で推定することができると考えられる.参照領
160 120 80 40 0 Drxx (Ω )
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0
Bap (T) Sample #8
a = 1µm
+200mV 0mV -100mV -150mV
図 8: 定数倍する前の高電子濃度領域の磁気抵抗.
35 30 25 20 15 10 5 0 Drxx (Ω )
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0
Bap (T)
+200mV(×1) 0mV(×0.69) -100mV(×0.32) -150mV(×0.21)
図9: 定数倍した後の高電子濃度領域の磁気抵抗.
域の磁気抵抗∆ρref
xx の横軸をBz∗でスケールし直すと図10の∆ρNMR
xx ようになる.これを負磁気抵抗成分とす る.このようにして求めた負磁気抵抗成分を高電子濃度領域から推定した正磁気抵抗成分に足し合わせることで,
測定結果の再現が出来る.図11に∆ρxx,∆ρNMR
xx ,高電子濃度領域から推定した正磁気抵抗成分∆ρ0xx,測定結 果を再現したもの(∆ρ∗xx)を示した.∆ρ∗xxが∆ρxxをよく再現で来ていることがわかる.すなわち,負磁気抵抗 成分を正しく求めることが出来た事を示している.
0.00 0.05zB(T) *
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0
Bap (T) -300
-200 -100 0
Drxx (Ω )
DrxxNMR
Drxxref
Bz* Sample #8
VG = -245mV a = 1µm Scaled with Bz*
図 10: ∆ρNMR
xx ,∆ρref
xx,Bz∗の磁場依存性.∆ρref
xx から
∆ρNMR
xx を求める様子を示している.
300 200 100 0 -100 -200 Drxx (Ω )
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0
Bap (T) Dr'xx
Dr*xx
DrxxNMR
Drxx
図11: ∆ρxx,∆ρNMR
xx ,∆ρ0xx,∆ρ∗xxの磁場依存性.
そこで,異なるゲート電圧,異なる変調周期でも同じ解析をしたものが,図12と図13である,垂直ストライ プの周期1µmも2µmもともに,∆ρ∗xxが∆ρxxをよく再現できている.このことは,異なるゲート電圧および異 なる周期でもこの解析法が適用できることを表している.また周期1µmの45◦度ストライプでも∆ρ∗xxと∆ρxx
がよく一致しており,異なる角度のストライプでもこの解析が適用できることを示している.
これらの結果から,低電子濃度領域で観測される負磁気抵抗は弱局在に起因する負磁気抵抗であることが明ら かになった.
200 100 0 -100 Drxx (Ω )
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0
Bap (T) Drxx
Dr*xx
VG = -220mV -240mV
-250mV
図 12: 周期1µmの垂直ストライプの各ゲート電圧にお ける∆ρ∗xxと∆ρxx
300 200 100 0 -100 Drxx (Ω )
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0
Bap (T) Drxx
Dr*xx VG = -220mV
-240mV -250mV
図 13: 周期2µmの垂直ストライプの各ゲート電圧にお ける∆ρ∗xxと∆ρxx
5 まとめ
異なる周期,及び試料電流に対して異なる角度の強磁性体ストライプを載せた試料を作製し,縦抵抗率の磁場 依存性を測定した.低電子濃度領域において負磁気抵抗成分と正磁気抵抗成分が混在した磁気抵抗を観測した.変 調磁場の実効値を定義して見積もった負磁気抵抗成分と,高電子濃度領域の結果から見積もった正磁気抵抗成分 を用いて,測定結果を再現できた.測定結果の再現は,異なるゲート電圧,異なる周期の変調磁場,および異な る角度の変調磁場でもよい一致を見せた.これらの結果,負磁気抵抗成分は弱局在に起因する負磁気抵抗である ことが明らかになった.
参考文献
[1] G. M¨ulleret al., Phys. Rev. B50, (1994) 50
[2] 小平幹.中央大学大学院理工学研究科2005年度修士論文