認知バイアスの修正における バイアスの盲点
工 藤 恵理子
取り組んでいる仕事をいつまでに終わらせることができるのか、レポート をいつまでに書き終えることができるのか、というような予測は日常的に誰 もが行うことである。しかし、このような予測はかなり不正確なものである ことが多い。通常、課題の完了時点の予測は楽観的、つまり実際よりも早く 終わると推測する方向に歪んでいることが繰り返し示されており、計画錯誤 と呼ばれる(
e.g., Buehler, Griffin, & Ross, 1994, 2002
)。例えば、Buehler et
al.
(1994
)のstudy 2
では、実験参加者の大学生は、翌週のうちに終わらせるつもりの学業に関する課題(レポートなど)と学業以外の日常的な課題
(部屋の掃除をするなど)を挙げ、それらを実際にいつ終わらせるつもりか を回答した。そして次の週に実際にそれらの課題を行ったのはいつか、尋ね られた。学業の課題については、平均で
5.8
日後、日常の課題については平 均で5.0
日後に終了すると予測されていたが、実際に終了したの日の平均は それぞれ、10.7
日後と9.2
日後であり、予測よりも実際に終わるまでに要し た日数は長かった。この計画錯誤という現象の興味深い点の1
つは、我々 は自分が立てた予測よりも終了日が遅くなるということを繰り返し経験して いても、このような楽観的な予測の傾向がなくならないことである。実際、Buehler et al.
(1994
)の実験でも、過去の経験(課題の締め切り直前に課題を終わらせたこと)を想起させても(それだけでは)、計画錯誤を弱めるこ とはできず、想起した過去の経験を今回の課題に結びつけて予測を立てるよ うにという半ば強引な教示をしてはじめて計画錯誤は消失した。このように 計画錯誤とはかなり頑健なバイアスと言える。
本研究では、この計画錯誤を題材として、自分の認知バイアスに気づき、
その修正の機会を与えられた時、他者も同様にバイアスを修正すると予測す るかどうか検討する。桑山・工藤(
2010
)は、感情予測における持続性バ イアスを用い、ネガティブな経験によって引き起こされる自分のネガティブ 感情が予測するほど長く続かないことを経験することが、同じ状況における 他者の感情状態を予測することに生かされるかどうかを検討した。結果は、他者の感情の予測は、自分の感情体験を反映したものとはならず、ネガティ ブ感情が予測よりも早く消失することを経験しても、それを他者の感情予測 には利用しないことが示された。同様の傾向は、後悔感情の持続を用いた研 究でも示されている(工藤,
2009
)。しかし、これらの研究で扱っていたの は、明示的に外部から知らされる予測の誤りに関する情報ではなく、参加者 自身が経験する主観的な体験としての予測のエラーであった。一方、本研究 が扱うのは、実際に自覚的に体験する予測のエラーではなく、知識として示 されるエラーに関する情報である。社会心理学においては、自己奉仕的帰属のバイアス、基本的帰属錯誤、認 知的不協和(による自己正当化)など、実にさまざまな認知的、あるいは動 機的バイアスの存在が明らかにされてきている(
e.g., Gilovich, 1991; Kahn- eman, 2011; Nisbett & Ross, 1980; Tversky & Kahneman, 1973
)。これらのバ イアスについて、我々は説明されれば、そういった傾向が自分にもあると認 識できることが多い。しかし、その一方で、我々は、自分よりも他の人々の 方がそういったバイアスを示しがちであると感じている。このような現象を バイアスの盲点(bias blind spot
)と呼ぶ。バイアスの盲点の存在を示したPronin, Lin, and Ross
(2002
)では、参加者にさまざまな認知バイアスや動機によるバイアスを平易な記述で示し、そういったことがどれくらい自分 に、あるいは平均的な人にあてはまるかを尋ねた。具体的には、例えば、
人には学業や仕事での達成場面で自己奉仕的傾向があり、うまくいったと きは自分の力によるものと思い、うまくいかなかったときはそのときの状況 に原因を求めやすい(自己奉仕的原因帰属のバイアス) といった記述を示
し、そのような傾向が自分自身にどれだけあるか、平均的な人にどれだけあ るか、回答を求めたのである。その結果、参加者は、自分にもその傾向はあ る程度あると回答したが、一貫して他者の方がその傾向が強いと回答するこ とが示された。つまり、我々は説明されれば、自分が陥りやすい認知的、あ るいは動機的錯誤を認識することができるが、他者が示す錯誤に気づくほど には、自分の陥る錯誤に気づいていないと考えられる。つまり、我々は実際 よりも自分自身の判断や推論は客観的であると感じていると考えられる。
もし、課題の終了時の予測において、自分の予測はさまざまな要因を考慮 してなされた妥当なものであり、計画錯誤に陥っている可能性は低いと考え るのであれば、計画錯誤について説明を受けても、自分の予測を下方修正す る可能性は低いと考えられる。一方、他者が予測を修正するかを推測する場 合、他者はその予測を大きく修正すると考えるかもしれない。なぜなら、他 者が行う終了時の予測は過度に楽観的で計画錯誤を起こしていると考えられ るからである。しかし、逆に、自分は計画錯誤についての説明を理解し、そ れを適切に自分の推測にあてはめられるが、他者はそうできない(すなわ ち、予測を下方修正しない)と予測する可能性も考えられる。
そこで、本研究では、授業で課された学期末の課題を終わらせる日につい ての予測を求め、その後計画錯誤についての説明を行い、再度課題の終了日 の予測を求めた。その際、参加者は、自分の課題終了日の予測に加え、同じ クラス内のランダムに選ばれた
1
名が終了日の予測をどのように回答する かを推測して回答した。また、課題終了日の予測の前に焦点化の操作を行 い、計画錯誤を生起させる要因の1
つと考えられる焦点化の影響も検討に 加えた。ここでの焦点化とは、当該の課題のことに注意が向き、その他の事 項を十分に考慮しないことであり、このような思考方法が終了時の予測を早 めることに寄与していると考えられる。先行研究いおいても、当該の課題を どのように行うか具体的に想像する方が、楽観的シナリオを描きやすく、計 画錯誤が強まることが示されている(Buehler & Griffin, 2003
)。そこで、課 題の終了日の予測の前に、当該授業の課題についての質問に回答し、その課題に焦点を当てる焦点化条件とその学期末にあるすべての課題についての質 問に回答する脱焦点化条件を設けた。本来、計画錯誤とは、課題の完了時の 予測と実際の完了時のズレ(完了時についての楽観的予測)をさすが、本研 究では、実際の課題の完了時点の回答を求めていない。本研究で焦点を当て ているのは予測時点での修正の程度である。しかし、計画錯誤が生じている かを確認するために、全員の課題提出日の平均(締め切りから何日前か)と 提出日の予想との関係を検討した。質問紙への回答は匿名であったため、個 別の提出日の記録と質問紙の回答の対応付けはしていない。
方法
参加者 女子大学生
76
名手続き 実験は教室内で集団で実施された。参加者は
2
種類(焦点化条件、脱焦点化条件)の質問紙のうちどちらか一方を受け取った。質問紙の条件の 並びは事前にランダマイズした。質問紙は期末レポートについての
6
つの 質問(課題の難しさ、課題の量、レポート締め切りまでの主観的時間的距 離、レポート作成に必要な時間の予想、レポートに対する気構え、レポート にかける時間とレポートの出来についての考え;すべて9
件法)、レポート 執筆完了日、提出日、着手日の予測の質問がそれぞれ3
種類(最も早い予 測、最も遅い予測、最もあり得そうな予測)、同じ質問に対する他者の回答 の予測からなっていた。レポート執筆完了日等の予測については、計画錯誤 の講義の前と後の2
度回答する形式となっていた(別のページに回答するた め、講義後の回答時に講義前の回答を参照することはできなかった)。焦点化の操作: 質問紙の最初に配置されたレポートについての
6
つの質 問で焦点化の操作を行った。焦点化条件では、当該授業のレポートについて 尋ねた。一方、脱焦点化条件では、当該授業に限定せず、その学期末に提出 しなくてはならないレポート全般について尋ねた。他者の回答の予測: 他者が同じ質問にどのように回答していると思うかを
尋ねた。ここでの他者とは、同じ授業を受講している
1
名を指していた。具体的には、質問紙に番号が割り振られ、同じ番号の質問紙が
2
部配布さ れており、参加者には自分と同じ番号の質問紙に回答している参加者の回答 の推測を求めた。*1ここまでの質問に全員が回答したことを確認し、計画錯誤についての講義 を約
20
分間行った。その間、質問紙は閉じさせていた。講義が終了したと ころで、再度質問紙を開かせ、計画錯誤についての説明を聞いた上でもう一 度レポートの執筆完了日についての予測を同一の質問項目を用いて尋ねた。質問紙への回答終了後、実験の内容を説明して実験を終了した。実験の内 容は授業の一部に組み込まれており、質問紙を使用した集団実験の方法の具 体例として解説を行った。さらに、次の学期の授業において分析結果を報告 した。
結果
焦点化操作のための質問への回答が条件によって異なるかどうかを確認す るために、個々の問への回答に対して焦点化条件による
1
要因の分散分析表1 焦点化条件ごとのレポート課題に関する質問への回答 焦点化 脱焦点化 平均 標準偏差 平均 標準偏差 レポートの難しさ 6.84 1.20 6.87 1.26 レポート課題の量 5.71 1.18 7.08 1.36 レポート課題の締め切りまでの主観的時間的距離 3.87 1.38 4.08 1.79 必要な時間 6.63 1.38 7.37 1.28
気構え 7.24 1.40 7.29 1.25
レポートにかける時間と成績の関係 5.29 1.94 5.34 1.91 註: 可得点範囲は1〜9 得点が高いほど、課題が難しい、量が多い、締め切りは 遠くに感じる、長い時間が必要、頑張るつもり、時間をかけた方がよいレポートが できる、と回答していたことを意味する。
*1「平均的他者」あるいは「一般的他者」の回答の予測を求めるのではなく、誰か は特定できないが、ある一人の人物の回答の予測を求めた。
を行ったところ、いずれの質問においても条件間の違いはなかった。これら の質問に回答を求めたのは、当該授業のみについて焦点化した思考をする か、期末レポート全体を考える焦点化しない思考をするかを操作するためで あり、回答の内容そのものは本研究の仮説とは直接関係がないが、参考まで にそれらの平均値ならびに標準偏差を表
1
に示した。計画錯誤の確認
実際のデータが入手可能であったのは提出日のみであったため、計画錯誤 の生起を提出日によって確認する。
実際の提出日の平均は、締め切りの
3.71
日前(SD=4.50
)であった。自 分についてと他者についての最もありそうな予測(事前と事後)の平均と実 際の提出の平均の差を算出し、それが有意に0
より大きいかを検定した。そ の結果、自分の事前予測(M=4.55,
SD=3.79
)は有意に近い差があり、他 者の事前予測(M=6.12, SD
=3.40
)では有意な差があった((t75
)=1.94,
p<.06;
(t75
)=6.17, p
<.0001
)。事後の予測においては、自分でも他者でも 実際の提出日の平均との間に有意な差はなかった。よって大枠として、自分 についても他者についても計画錯誤は生じていたと考えられる。しかし、計 画錯誤についての講義を聞くことによって、その錯誤は消失していた。終了日の予測
レポートを書き終わる時点について以下の
3
種類(「最も早いとしたら」、「最もありそうなのは」、「最も遅くて」)の予測を求めた。予測は、計画錯誤 についての講義の前と後に行い、自分についての予測に続き、クラス内の他 者についての予測を求めた。
3
種類の予測に対して、対象(自分・他者)×予測時(講義前・講義後)×焦点化(焦点化・脱焦点化)の
2
×2
×2
の混合 モデルによる分散分析を行った。対象と予測時は参加者内要因で、焦点化は 参加者間要因であった(図1
参照)。この分析において、予測時の主効果が 有意で、講義前よりも講義後に終了日の予測(締め切り日までの日数)が減少していれば、計画錯誤についての知識を得たことによる下方修正が行われ たことになる。
「最も早い」終了日予測: 対象の主効果、予測時の主効果が有意(F(
1, 74
)=19.57,
p<.0001; F
(1, 74
)=30.18, p
<.0001
)であった。さらに対象と予測時 の交互作用効果が有意であった(F(1, 74
)=5.17,
p<.05
)。予測時の主効果 は、講義を聞くことによって生じた修正を意味し、書き終わる時点の予測 は、事後において、より締め切り日に近くなっており、全体として下方修正 が行われていた。対象の主効果は、他者について、自分よりも書き終わる時 期が早いと回答するだろうと予測していたことによる。そして対象と予測時 の交互作用効果は、計画錯誤について知ることで予測を下方修正する傾向 が、自分よりも他者に顕著に認められると予測していたことを示す結果で あった。しかし、これらの効果は対象×予測時×焦点化の交互作用効果が有 意に近かったことで制約を受けていた(F(1, 74
)=3.24, p
<.08)。この交互 作用効果を詳しく検討するため、単純交互作用効果の検定を行った。その結 果、焦点化条件では、対象×予測時の交互作用効果が有意だったが、脱焦点 化条件では有意ではなかった(F(1, 74
)=8.30, p
<.005;
F(1, 74
)=.11,
ns)。このことから、先に述べた計画錯誤について知ることで生じる予測の下方修 正が他者においてより大きいと予測する傾向は、焦点化条件、すなわち当該 科目のレポートのみについて考えた場合に限定されていた。
図1 課題の終了日の予測
「最もありそう」終了日予測: 対象の主効果、予測時の主効果、対象×予 測時の交互作用効果が有意だった(F(
1, 74
)=7.57, p
<.01;
F(1, 74
)=36.6,
p<.0001; F
(1, 74
)=5.84, p
<.05
)。これらの効果は、「最も早い」予測にお いて認められたパターンと同様で、全体として下方修正が生じ、その下方修 正は他者においてより顕著であると予測する結果であった。しかし、焦点化 を含めた効果はいずれも有意ではなかった。「最も遅くて」終了日予測: 予測時の主効果が有意に近く、対象×予測時の 交互作用効果が有意だった(F(
1, 74
)=3.08, p
<.09; F
(1, 74
)=4.26,
p<.05
)。一方、対象の主効果は有意ではなかった(F(
1, 74
)=1.54, ns
)。最も遅い終 了日の予測においては下方修正の程度は小さくとどまった。しかし、他者の 方が下方修正の程度が大きいと予測する傾向はここでも確認された。着手日の予測
レポートに取りかかりはじめる日についても
3
種類「最も早いとしたら」、「最もありそうなのは」、「最も遅くて」の予測を自分と他者について求めた。
終了日に対してと同様の、対象(自分・他者)×予測時(講義前・講義後)×
焦点化(焦点化・脱焦点化)の
2
×2
×2
の混合モデルによる分散分析を行っ た(図2
参照)。「最も早い」着手日: 対象の主効果、予測時の主効果に加え、対象×予測 時×焦点化の交互作用効果が有意だった(F(
1, 74
)=7.81, p
<.01; F
(1, 74
)=21.67, p
<.0001;
F(1, 74
)=4.56, p
<.05
)。全体として、他者の方が自分より も早く取りかかると予想していた。さらに計画錯誤の解説を聞くことによ り、着手する日を下方修正していた。これらの傾向は交互作用効果によって 制限されるため、単純交互作用の検定を行ったが、焦点化条件でも脱焦点化 条件でも対象×予測時の交互作用効果は有意ではなかった。「最もありそう」着手日: 予測時の主効果が有意で、対象×焦点化の交互作 用効果が有意に近い効果が認められた(F(
1, 74
)=40.88, p
<.0001; F
(1, 74
)=3.24, p
<.08
)。予測時の主効果は、下方修正があったことを示すものである。交互作用効果は、下方修正に関わるものではないが、脱焦点化条件において、
講義の前後にかかわらず他者の方が早く課題に着手すると回答すると予測し ていたことを意味するものであった。
「最も遅くて」着手日: 予測時の主効果および対象×焦点化の交互作用効果 が有意に近い効果が認め ら れ た(F(
1, 74
)=4.04, p
<.05;
F(1, 74
)=3.09,
p<.09
)。これは「最もありそう」な着手日の予測と同様のパターンであり、予測の下方修正は生じていたが、自分と他者の間の違いや、焦点化条件によ る違いは認められなかった。
提出日の予測
レポート提出日についても
3
種類「最も早いとしたら」、「最もありそうな のは」、「最も遅くて」の予測を自分と他者について求めた。終了日に対する ものと同じ対象(自分・他者)×予測時(講義前・講義後)×焦点化(焦点 化・脱焦点化)の2
×2
×2
の混合モデルによる分散分析を行った(図3
参 照)。「最も早い」提出日予測: 対象の主効果と予測時の主効果のみが有意であっ た(F(
1, 74
)=11.42, p
<.001; F
(1, 74
)=25.17,
p<.0001
)。 前 者の効 果は、他者の方が自分よりも早い提出を予測すると回答されていたことによる。ま た、後者の効果は、予測の下方修正を示すものである。
図2 課題に着手する日の予測
「最もありそう」提出日予測: 対象の主効果、予測時の主効果が有意だっ た(F(
1, 74
)=7.72, p
<.01;
F(1, 74
)=37.35, p
<.0001
)。全体として他者の 方が自分よりも早く提出すると予測され、予測の下方修正も認められた。さ らに対象と予測時の交互作用効果も有意であり、下方修正は他者の予測にお いて顕著に認められた(F(1, 74
)=5.24, p
<.05
)。加えて、予測時×焦点化 の交互作用効果が有意に近かった(F(1, 74
)=2.95,
p<.10
)。これは、焦点 化条件での方が下方修正が大きい傾向にあったことを意味していた。「最も遅くて」提出日予測: 予測時の主効果のみが有意であり、全体とし て下方修正が生じていた(F(
1, 74
)=4.92, p
<.05
)。しかし、図3
からも明 らかなように、下方修正の巾は小さくなっていた。考察
本研究では計画錯誤とその修正に焦点を当てた。対応付けがなされていな い分析ではあるが、事前の予測と実際の提出日の間には差が認められ、計画 錯誤が生じていることが確認できた。ただし、自分についての回答に見られ た計画錯誤はそれほど大きなものではなかった。一方、他者の回答の予測に は大きな差が認められた。
課題の終了日、着手日、提出日のいずれについても、計画錯誤について講 義を聞くことで予測の下方修正がなされた。講義の内容には、過去の経験を
図3 課題の提出日の予測
生かすことが難しいといった計画錯誤の特徴も含まれており、下方修正する ことが求められるものであった。しかし、この下方修正の程度は、自分自身 の予測よりも、他者の予測の回答において顕著に認められた。特に、最も早 い予測と最もありそうな予測においてそのような傾向が確認された。
このような自他の違いが生じたのは、自分の予測においては、十分とは言 えなくてもレポートに取り組むことを妨げる要因を考慮していたが、他者に ついて予測するときには、他者がそのような検討をしていることを考慮しな かった可能性が考えられる。桑山・工藤(
2010
)などが示すように、自分 の主観的な経験(この場合は、さまざまな要因の考慮)は自分の個人的なユ ニークな経験と捉えられ、他者の心的状態の推論(この場合は課題の完了時 などの予測)にそのまま利用されにくいのではないかと考えられる。計画錯 誤に限らず、認知バイアスやエラーについて知識を得たとしても、自分自身 には多少はそれを防ぐ試みをしている自覚があるために、自分の判断や推論 の修正は十分になされないのか、検討の必要があるだろう。もうひとつの検討課題であった、課題への焦点化の操作の効果は、部分的 な確認にとどまった。課題終了日の最も早い予測において、焦点化の効果が あり、他者の方がより下方修正をするという予測が焦点化条件のみで生じる という結果が得られた。これについては、焦点化条件の方が、自分はよく考 えたという経験がより個人的な経験としてとらえられやすいために生じたと いう解釈も可能であるが、最もありそうな予測や最も遅い予測においては同 様の傾向が認められていないため、その操作方法を含めて、さらなる検討が 必要である。
本研究は授業のプログラムに組み込んで実施したため、質問の数を限定せ ざるを得ないことなどいくつかの制約があった。また、予測については、予 測をしやすくする目的もあり、最も早い予測、最も遅い予測を尋ねたあと に、最もありそうな予測の回答を求めていた。この回答方法をとったことに よって楽観的な予測が生じにくくなっていた可能性も考えられる。また、本 研究では、自分の予測の下方修正に比べて、他者は大きく下方修正すると予
測する傾向を確認することができたが、それが生じる原因については推測す るのみであった。今後の検討課題としたい。
引用文献
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Gilovich, T. (1991). How we know what isnʼt so: The fallibility of human reasoning in ev- eryday life. New York: Free Press.
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工藤恵理子(2009)他者の感情を推測するときの自己中心性: 後悔感情の場合 日本 社会心理学会第50回大会発表論文集、358–359.
桑山恵真・工藤恵理子(2010)感情予測におけるネガティブ経験の効果: 経験は他者 の感情予測に役立てられるか 社会心理学研究 26, 109–118.
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キーワード
バイアスの修正、計画錯誤、バイアスの盲点