Aconsideration on the studies of 五and Market in presenレday Japan(Part1)
徳 江 和 雄
1 はじめに そして岩田〔1988,1992〕へと検討を進める。
現代日本の「土地市場」論に関する諸研究 岩田規久男〔1977〕はファンダメンタルズ・
を整理することがわれわれの目的である。 モデルのいわば古典的タイプを代表し,投資 ここでの「土地市場」とは,土地市場の需要・ 家の資産選択理論として土地需給論を展開し 供給関係が一つの中心的役割を果たしている ている。岩田〔1977〕から西村〔1990,1995〕
とは考えるが,それ以外に社会的,政治的, へ,さらに岩田〔1988,1992〕への展開のな 法的側面などの「土地制度」に関わる諸要因 かから,われわれはこのようなアプローチの も直接,間接に土地市場に影響していると考 問題点と有るべき方向が示唆されていると考 える。このことは,土地が居住や,農耕,商 える。(但し,本稿が扱うのはここまでであり,
工業の基盤としての「土地サービス」を提供 以下は別稿で取扱われる。)次に,小川/北坂 し地代や地価を形成しているという,経済効 〔1998〕を検討する。これは,銀行貸出や企 率性の側面だけでなく,その上に都市や地域 業の投資行動に関する計量分析を踏まえて,
のコミュニティが形成され,人々の公的意思 土地資産を組み込んだ一般均衡・モデルを構 決定に基づいた街づくり,都市づくりが営ま 築しているが,80年代以降の金融市場の構造 れることの土台となっていることからも明ら 変化に基づく都市銀行の土地担保貸出が80年 かである。だから,「土地市場」は,土地需給 代後半の「平成景気」を説明する重要な要因 論という狭義の土地市場論だけでなく,日本 となっていることを明かにした。即ち,これ の社会・政治・経済の総体が関係する広義の は,日本経済の中枢部分,都銀=大企業,都
「土地市場」論=「土地制度」論と考えねばな 銀=中小企業関係で生じた変化に光を当て,
らない。 この中枢部分における変化が土地価格の大規 従って,土地問題に関する研究も経済学者, 模な変動をもたらしていることを明らかにし 税・財政学者,法律学者,都市社会学者など ている。最後に,五十嵐敬喜〔1991〕ら法律 からの多彩なアプローチが見られ,また彼ら 学者からのアプローチを検討する。
の間で少なからず見解の相違が見られるのは
土地市場のかかる多面性を反映しているから 皿 「資産選択(ポートフォリオ・セレクショ である。そして,この相違点を解明すること ン)理論」アプローチ
を通じて現代日本の土地市場と政治・経済・ 岩田〔1977〕第一部「地価の理論と土地課 社会の問題性を看取できると考える。 税」は,土地をその他の物的資産や金融資産
以下,経済学者の諸研究から検討する。は と並ぶ資産と捉え,投資家の「資産選択理論」
じめに,ファンダメンタルズ・モデルの立場 として土地需要形成と地価の決定などを論じ から日本の地価決定の仕方を説く岩田規久男 ている。
〔1977〕から検討し,西村清彦〔1990〕,〔1995〕, 新古典派経済学,特にトービンの投資理論
110 茨城大学人文学部 社会科学論集
の土地への適応であるが,そこでは,投資家 1 短期静学理論
が保持する資産制約条件〔式〕,あるはそれか 不確実性の高い土地と不確実性ゼロの定期 ら構成される「投資機会線」と,保持する諸 預金の2資産モデルから見よう。r*,P*,
資産の「期待効用関数」(無差別曲線)が2大 P,eをそれぞれ期末に予想される期待地代,
キー・カテゴリーである。全ての土地投資家 期待地価,期首の地価,期末の土地の期待収 は,土地を含む保有資産の期待効用を最大化 益率とすると, eニ(r*十P*−P)/Pで するように土地とその他の資産保有比率を決 ある。土地の収益率は不確実で,θ1,θ2を,
定するが,これは,土地投資家が危険回避者 それぞれπ1,π2の確率で生起する土地収益率 であると仮定すると期待効用曲線は原点に凸 の「状態」とし,iを定期預金利子率として,
となり,資産制約線(投資機会線)との接点 e(θ2)<i<e(θ1)の関係を仮定する。
によって与えられる。(図1は土地と定期預金 また,投資家の期首と期末の保有資産額を との2資産モデルでE1が期待効用を最大化 W。, Wとする。 X。, Xはそれぞれ期首,期末 する主体均衡点であることを示す。後述。) の土地保有面積であり,D。, Dは期首,期末
土地を含む諸資産は,収益性,確実性,流 の定期預金額である。
動性,可分性,可逆性,一般受容性などの特 W。=P瓦十D。ニPX十D
性を持ち,これらの特性は投資家の期待効用 Wニ(1十e)PX十(1十i)D
曲線の形状を規定する。また,土地及び土地 図1は,W(θ2)を縦軸, W(θ1)を横軸 用益の取引市場における「取引費用」,「転用 とし,原点からAを通る45度線は期末資産が 費用」,「土地税制」の有り様が投資家の投資 全て定期預金で保有される状態を示し,原点 機会線の形状を規定し,「土地税制」の有り様 からBを通る直線は全て土地資産で保有され
は投資機会線だけでなく期待効用曲線の形状 た場合を示す。AB線が投資機会線である。投 にも影響する。そして土地投資に対する金融 資家のW(θ2),W(θ1)に関する期待効用 制約が存在しない場合を前提して議論が進め 曲線(無差別曲線)は,投資家が危険回避者 られるが,借り入れによる土地投資や利子率 であると仮定すると,原点に対して凸となる。
上昇がこれら2つのキー・カテゴリーに影響 C点は投資家の期首の状態を現しているが,
することになる。 ここでは,投資家は,保有している土地の一 岩田の「地価の基礎理論」は,資産の諸特 部を売却して定期預金額を増大させるものと 性のうち「不確実性」だけを取りだし,この して登場する。彼はAB線との接点E1におい 点で不確実性の高い土地と不確実性ゼロの定
期預金の2資産モデルから分析をはじめて地 w(θ2)
価に関する土地需要曲線を導出すること,そ A
の上で流動性,金融制約,土地の異質性など
フ諸要因を追加的に考察して土地市場の需給 A 髄E,
関係を具体化することに特徴がある。そして 1
l Il EU3 また,2資産の選択モデルを前提して取引・
]用費用,土地税制などの諸要因を追加的に l察し,日本における「持ち家」志向や農家
l El
の農地転用問題さらに土地税制の効果に関す W(θ1)
る分析を行っている。 図1
て資産保有の期待効用を最大化させるように いかえれば「フローの土地供給」は減少する。
資産構成を変化させる。 図2では,定期預金を引き出して土地購入 ここで1回限りの期首における地価上昇が を予定する新規土地需要者としての投資家を 土地需要に及ぼす影響を考える。地価上昇に 想定している。投資家の期首の状態がC点で よって,AB線は期首のC点を軸にんCB とシ 現され,1回限りの地価上昇があるとAB線は フトする。新しい均衡点はE3である。資産構 C点を軸にんCB とシフトする。新しい均衡 成のE1からE3への変化は,一層の土地売却と 点はE3である。地価上昇前の均衡点はE1で 定期預金の増大を意味するが,これは土地需 あるから,地価上昇の土地需要への影響は負 要に対する地価上昇の「代替効果」と「現在 である。ここでもElからE3への変化は,代替 資産効果」とに分けて考察される。 効果と現在資産効果とに区分とて考察できる 後者は地価上昇による保有資産額の増大に が,ここでは両効果は共に負の効果である。
よって土地需要が受ける影響を,前者はその こうして,1回限りの地価上昇に対する個 保有資産額の増大分を徴税によってゼロとし 別投資家の反応としての新規土地需要と留保 た場合の地価上昇の影響を表す。課税による 需要が考察され,これらを集計して市場需要 調整はMN線で表され,均衡点はE2である。 曲線が求められる。図3のP。,P3のように地 地価上昇は土地収益率eを低落させるから, 価は,一定である総供給線と総需要曲線との 投資家は土地売却を進め,定期預金を増大さ 交点よって与えられる。(右上がりのP1一 せる。すなわち代替効果は負である。後者の P2の価格域については後述される。)ここで 現在資産効果は,地価上昇によって保有資産 は各投資家の最大の期待効用が実現されてお 額が増大すると投資家は土地売却を抑制す り,他の条件が一定ならば,これ以上の動き
る,言いかえれば土地に対する「留保需要」を がなくなる静止点である。岩田の地価理論の 増大させる。つまり正の効果を持つ。従って, 最も深い中心部分はこのような短期の静学理 地価上昇の土地需要との関係は,土地売却予 論である。
定者の場合,代替効果と現在資産効果との大
小関係によって決定される。後者の正の資産 2 短期静学理論のメリット
効果が負の代替効果を上回れば,地価上昇に 土地取引を土地および他の資産保有からの よって土地の留保需要はむしろ増大する。言
地 D S 価
W(θ2)
P3
P2
@M
̀E2 Pl
̀ 3
Po
b EU2 E1
EUo EUl
a・ N B D
r w(θ1)
土地量
図2 図3
(出所)岩田〔1977〕P35 2−2図より。 (出所)岩田〔1977〕P41 2−4図より。
112 茨城大学人文学部 社会科学論集
期待効率を最大化するように決定すると言う 地を切り売りして借家住まいをするケースで 静学的主体均衡モデルの枠組みが確立すれ ある。農家にとって期末土地保有額の期待値 ば,そこで農家が土地売却して住宅サービス と期末インカムゲインの期待値とからなる期 を提供する仕方の違いやそれに対する土地税 待効用曲線がu1のように与えられているな 制の効果を分析することが可能となる。 らば,均衡点はE1であり,農家はアパート経 図4は縦軸で農家が土地を売却した後の期 営や借家住まいではなく持ち家を選択する。
末の土地保有額の期待値,E(G)を,横軸は また,図5はAB線がアパート経営を現して その代金で持ち家,アパート経営をする場合 いる。そして土地保有による期末キャピタル・
の期末のインカム・ゲインの期待値,E(R) ゲインの確実性をどのように予測するか,ま を示している。土地売却と持ち家の組合せは た自己の流動性選好をどのように考えている AB線であり,土地売却とアパート経営の組合 かによってU1,U が決定される。前者U1は,
せはAC線で,土地売却を一定としたとき前者 農家が土地保有の不確実性を重く考え流動性 の持ち家の期末インカム・ゲインの期待値は 選好を高めている場合であり,後者U はそう DE1で,後者のアパート経営のそれDFより大 ではなく,土地の不確実性を軽視し,また流
きい。これは,貸家経営の場合,借家人との 動性選好を低めている場合の効用曲線であ 契約締結,その更新,さらに契約解除や他の る。前者の場合,土地売却は大幅に(ADま 利用への転用などのための費用が大きくなる で)行われるが,後者の場合,土地売却は小 ためである。借地・借家法がこの費用を巨額 規模(ACまで)であり,未〔低〕利用状態の なものにしていることは言うまでもない。 土地が大規模に存続することになる(1)。
AGは農家が持ち家もアパートも建てずに土 そして図6では,土地面積を単位に土地保
E(G) E(G)
期末の土地保有額の期待地
u
UI A
A Ul
C Eノ
D D El
G
C B B
E(R) E(R)
0 0Z宅サービスの消費額 家賃の期待値
(インカム・ゲイン)期待値
図4 (出所)岩田〔1977〕P107 4−2図より。図5
(出所)岩田〔1977〕P103 4−1図より。
有税が課された場合,農家の投資機会線ABが 3 短期静学理論の問題点
A B 線へとシフトする。課税額は両線の水平 第一の問題点は,他の財と異なり,「価格が 距離によって測られる。課税前における農家 上昇すると供給が減少する」と言う土地資産 の土地売却とアパート経営はE1によって与 の独自性を如何に説明するかである。岩田は,
えられ,農家はCEIのインカムゲインの期待 土地売却予定者の「留保需要」に注目するが,
値を予測できる。が,その時点で課税される 地価上昇に基づいて留保需要が増大するの と税額はDEIとなり,インカムゲインの期待 は,土地が「上級財」であることによるから 値をオーバーする。農家は,土地売却をAFま である,としている。保有資産額の増大に伴っ で拡大し,高度利用を高めることによりイン て特定資産が増大〔減少〕する場合,その資 カムゲインの期待値をFGまで増大させて課 産は上級財〔下級財〕と定義されるが,これ 税額E3G を納めることが出来るようになる による説明は同義反復である。岩田は,図3
ことが示される。 におけるように,基調として右下がりの土地 また,図7では,実現及び未実現のキャピ 需要曲線のなかに特定の,地価上昇期間にお タルゲイン税が課税された場合,AB線はA ける右上がり部分を挿入している。そしてそ B 線へとシフトする。税額は,両線の垂直距 の根拠を上級財としての土地の性格に求めて 離によって測られる。課税前では農家はACの いるが,問題は,土地を上級財たらしめる市 土地売却でCE1のインカムゲインの期待値を 場関係である。そして,その市場関係の解明 予想できたが,課税後,税額EIE はインカム には,短期静学理論を越える視点が求められ ゲイン期待値を上回るから農家はADまで土 ているのである。
地売却を拡大し,高度利用を図ることによっ 従って第二に,1回限りの地価上昇ではな てインカムゲイン期待値をDFまで増大させ, く,持続的な地価上昇,それによる将来地価 キャピタルゲイン税FE3を納税することが可 の期待値の上昇,そして両者の関係が問題と 能となることが示される。 なろう。将来地代の上昇は,図8のように,
E(G) E(G)
Ul A Ul
A A
E1
D C C
U E1
匹 e
DA
F GE3
B B
E
BE3
E(R)
B/
@ E(R)
0 0
図6 図7
(出所)岩田〔1977〕P135 5−3図より。 (出所)岩田〔1977〕P148 5−7図より。
ll4 茨城大学人文学部 社会科学論集
投資機会線ABをAB 線へとシフトさせる。結 はすまないであろう。図9は,期待効用曲線 果は,均衡点をE1からE3へ変化させる。ここ が原点に対し凹となった場合を示している。
では,代替効果(E1からE2へ)も,期待資産 ここでは,期首においてC点にある投資家は 効果(E2からE3へ)も土地需要を増大させる。 B点へ,借り入れを含めて自己の資産を総動
「期待の弾力性」は,現在地価の上昇に対する 員して土地買収へと向かうであろう。反対に,
将来地価の期待値の反応度を示す概念である 金融逼迫と土地資産収益の不確実性が増大す が,正の弾力性のもとでは,現在地価の上昇 るもとにおいては,借り入れの返済に迫られ,
は,将来地価の期待値を増大させ,後者は更 流動性選好を高騰させた投資家たちは,土地 なる現在地価の高騰をもたらすことになる。 資産を投売りし,預金形成に奔走することに こうして,地価の持続的上昇がイメージされ なるであろう。C点からA点へのシフトであ るが,問題は,この関係をもたらす市場関係 り,これは「資産デフレーション」を意味する。
であり,「期待の弾力性」という言葉の背後に 第三に,投資家の資産選択理論は一般に土 隠されたメカニズムである。ここでは,土地 地の需要論としての特徴を持つ。だから,こ の期待収益率eではなくて,純粋に土地の の理論を前提した「土地供給」論は農地所有 キャピタルゲインを目的とする投機取引が支 者である農家を投資家と見立てて彼の投資効 配的となる。そのとき,借り入れによる土地 率を最大化するという観点から論じられるに 購入が進展することが当然考えられるが,「金 過ぎない(上記,2「短期静学理論のメリット」
融緩和」や「過剰流動性」が投資家の借り入 を参照)。しかし農家による土地と土地サー れによる投機行動に推進力を付与することに ビスの供給は,投資効率と言う観点を超えた なる(2)。 農業政策的アプローチが必要であろう。食料
しかし問題は,このような市場においては, 安保,近郊の緑化,中山間部の水利保全など 投資家は個人も企業も過剰な流動性のもとで の観点だ。一般に,土地問題,地価問題には,
ハイリスク・ハイリターンの行動に転換する 都市計画,公的住宅政策,公共事業政策,土 ことである。それは,岩田の静学モデルの前 地税制が基本的に重要であり,土地資産市場 提である危険回避者としての行動,またそれ はこれらの関連の中に位置付けられなければ に基づく原点に凸の期待効用曲線を変質させ ならない。岩田〔1988,1992〕はこのような るであろう。それは,単に原点に凸の期待効 視点への転換を行っている〔IVで後述〕。
用曲線の形状を変えずにシフトさせるだけで
W(θ2) W(θ2)
EU2EU3EUl
@ 、
U2A u1
A 、M 、
@El\\理 E3 \、 \ \ \ NB Uo
@ C
S5°
B B
45°
W(θ1)
0 W(θ1) 0
図8 図9
(出所)岩田〔1977〕P45 2−6図より。
皿1「ファンダメンタルズ・モデル」アプローチ 値の予想」(西村〔1990〕,p113)を現すとさ 西村〔1990;1994〕は,岩田〔1977〕のよ れるが,今期の名目利子率,実質地代,予想 うな2資産モデルからなる資産選択論を取ら インフレ率が将来変わらないとされる場合,
ず,土地市場と金融市場との裁定取引と言う これらの経済指標によって決定されるファン よりブロードな観点から地価決定関係に焦点 ダメンタルズ地価に他ならない。
を当てつつ「ファンダメンタルズ・モデル」 では,このようなファンダメンタルズ・モ を立てている。西村は,この「ファンダメン デルに基づく地価は,日本の1960〜1980期の タルズ・モデル」と,日本の土地税制並びに 地価動向に適応可能であるのか。
土地利用規制のあり方とによって高度成長期 西村は,地価の代表として不動産研究所の を含む1960〜1985年の期間における日本の地 「市街地住宅地価格指数」を,他方ファンダメ 価の変動は,説明可能であると考える。 ンタルズの代表として実質国内総生産(予想
では,その「ファンダメンタルズ・モデル」 地代の代理変数)と実質金利(全国金利平均 とは何か。西村は次のような諸仮定を想定す 貸出約定金利一前年の消費者物価上昇率)を る。 とり,それら変数の変化率の関係をグラフに
第一に土地は異質であるが土地利用による して考察する。図10は,実質国内生産の変化 限界生産という効率性によって全ての土地の 率マイナス実質金利の変化を「ファンダメン 価値を判定することが出来ること,第二にそ タルズ」の総合変数とし,六大都市市街地住 のために完全競争的な土地賃貸市場が形成さ 宅地地価の変化率と対比している。ここから れていること,第三に土地所有権に関しても 1960〜1985における日本の地価は日本経済の 完全競争的土地市場が成立し,また同時に完 ファンダメンタルズの変化に対して密接に関 全競争的な金融市場とが並存し,市場参加者 連して変動したと結論する。即ち,1960年ご は価格に関する完全な情報が与えられ両市場 うから住宅ローンが始まり土地市場が大衆化 問における裁定取引を行う,と想定される。 されたこと,それ故,この期間においては
その場合に,p,π, q, r, Rをそれぞれ 「『ファンダメンタルズ・モデル』で考えたよ 今期の物価水準,予想物価上昇率,実質地価, うな,土地を資産と考えて,資産ポートフォ 名目利子率,実質地代とし,下つき(十1)を
次期のデータとすると, 40
l l l l l l l (1十r)pq=P+1 q+1十pR (1) 30
@(P+1−P)(q+1−q) ≒0 20と近似して
@(1十r一π)qニq+1十R (2) %10 ニなる。(2)から O
@q= (△q十R)/(r一π) (3) −10となる。ここで更に(第四の仮定として),市
齊Q加者(投資家)が将来永久にr,R, −20
l l l l : : l 魔戟?P慕Ill三研1烈・踊ll− lll
撃撃倦?撃戟@〆il: 浅
π 1956 1961 1966 1971 1976 1981 1986 1991
が変わらないと予想し,しかも全ての投資家 年
がこのように予想するとすると,(2)を逐次代 一日一 実質地価上昇率
一+一一ファンダメンタルズの変化 入し,次の実質地価決定式を得る。
@q=R/(r一π) (4) 図10
これは「将来の実質地代の割り引き現在価 (出所)西村〔1995〕P27図1−2。
116 茨城大学人文学部 社会科学論集
リオの一つとして土地を保有する合理的な投 れること,かくして土地需要曲線は急勾配と 資家が,日本でも土地市場の価格決定に大き なり,経済変動による地価変動を大幅なもの な影響を与えていた」(西村〔1995〕,plO8) にする,と述べる(西村〔1995〕p134,図5 と結論する。 の2)。
他方,長期的には地価とファンダメンタル 第二に,住宅地,農地など,土地利用規制 ズの代表たる地代,賃貸料との乖離は,図11 を厳格に行うと,地価を高めるようになると のように明らかである。しかし,この,「土地 述べる(高度成長や,都市集中を前提すれば)。
神話」を示す,地価・賃貸料比率の上昇傾向 しかし,農地の宅地への転化など土地利用規 は,この期間における土地税制と土地利用規 制を弾力化すれば,農地は宅地並みに騰貴し,
制のあり方に原因がある,と述べる。 宅地は商業地並に高騰する。1986年の通産省 第一に,定資産税など土地保有税が甘いご 建設経済局の通達は,不透明な弾力的運用を と,特に市街化区域内農地のそれが甘いこと, もたらし,土地の「大化け」期待を作り出し 甘い相続税と譲渡所得税の組合せが土地資産 た(西村〔1995〕第6章)。
を他の資産より著しく優遇していること,か しかし,かかる要因によって長期的には地 ,
ュして土地の長期保有傾向,「売り惜しみ」傾 価はファンダメンタルズから乖離するが,短 向を生み,土地市場を厚みのないものとして 期的には地価がファンダメンタルズの「変化」
いること,その結果地価の高騰傾向を作り出 に敏感に反応して「変化」すること,それ故 していると述べる。他方,株式や社債のキャ 短期的には住宅地や商業地の土地市場は効率 ピタルゲイン課税が事実上ゼロであるのに土 的であった,と結論する。
地譲渡所得税が割高であること,従って,一 西村の問題点。
般に,短期資金の土地市場への参入は抑制さ 1 図10は,地価とファンダメンタルズとの れるが,長期資金は土地市場に滞留すること 1960〜1985における「密接な関係」を視覚 になり,土地市場内部で土地の転売が促進さ 的に確認させるものであるが,そこから
「ファンダメンタルズ・モデル」の日本土地 市場への適用可能性を語ることには飛躍が
100
■■一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一噛幽一一一一9−一一一一一
@ 今 1_一_一_一一一__._オ_一.μ.」
@ ハ 4、
ある。あるいは,これによってモデルの諸 シ定(上記第一〜第四)の現実妥当性を主
」するとすれば,これはまったくの短絡で
lllllllllllllllllllllZlllll一鑑 l l_____」_⊥氏._ 馳 一一 . .... 一.し. ざ_一 一一
あろう。むしろ,地価が実質GDPなどファ 塔̲メンタルズから長期的には乖離しつ ツ,短期的には一対一の変動関係を取った アとが如何なる現実的関係に基づくのかが
一一一一一一一一一?[一謄τ一ズー一幽幽 一一一一一
@ ノ
@ ー一一一△奄ムー一_一一一一一一一一一一一一一一一
解明されるべき方向であろう。
△ 2 ファンダメンタルズ・モデルでは投資家
0 の裁定によって均衡価格としての地価が形
1956 1968 1973 1978 1983 1988
年 成されることを語っているわけであるが,
_◇_商業地 _畳_住宅地 一.△一農地 これは,土地の需要サイド・需要関数を 語っているだけであり,供給サイド,供給 図11地価・賃貸料比率 関数については何も語っていない。ところ
(出所)西村〔1995〕P111図4−11。 が,土地及び土地サービスの供給を問題に
すると,㍉土地税制や土地利用規制のあり方 題であり,このためにはファンダメンタル が供給サイドを規定する重要な要因となる ズ・モデルアプローチを放棄し,土地市場 ことがわかる。しかし,西村は,まずファ とファンダメンタルズ(現実経済)との構 ンダメンタルズ・モデルの1960〜1985にお 造関連が解明されるべきであろう。この点 ける日本土地市場への妥当性を強調して受 を,われわれは小川/北坂〔1998〕で検討す け止めているから,これらの要因は地価が る。
ファンダメンタルズから長期的に乖離する
ことの説明要因として副次的に位置付けら Ivr「土地と土地サービスの有効利用」アブ れることになる。土地の供給が一定である ローチ
とすると,土地サービスの供給は,企業, 土地問題を資産選択論の狭い枠組みの中で 農家,家計など,既存土地所有者の土地利 のみ論ずることから脱して,適切な土地利用 用の転換によって与えられるから,土地税 計画〔都市計画〕の作成,そのための民主的 制や土地利用規制のあり方が決定的である な意思形成主体の確立といった大きな枠組み ことは自明であろう(皿の末尾参照)。 の中に位置付けられた土地市場論へ移行する 3 1985年以降の地価動向に関しては「ファ ことは決して容易ではない。岩田〔1988〕は
ンダメンタルズ・モデル」アプローチの限 そのことを良く現している。
界がはっきりする。即ち,85年以降の地価 本書の前半〔第1〜3章〕では,日本の持 はもはやこのモデルでは説明できず,非 続的な地価上昇は,高度成長による人々の所
「ファンダメンタルズ・モデル」によって説 得上昇,資本蓄積,大都市への一極集中が土 明可能とされる。後者の代表は,「合理的バ 地の限界生産性を上昇させたためであるが,
ブル・モデル」,「ケインズの美人投票モデ 同時に住宅,事務所・商業ビルの供給やこれ ル」,「情報の不完全性モデル」,「貨幣錯覚 らのための土地供給が抑制されていたためで モデル」が検討される。80年代の地価上昇 あるとする。すなわち,①甘い土地保有税や が東京の国際金融都市への転換による局地 土地相続税は土地保有をきわめて有利してい 的な高騰から始まり,その他の地域やその ること,②「単体規制」を中心とする現行都 他の用途地域へ波及していったことから, 市計画規制が法定容積率を未充足にしている 投資家の情報が著しいバラツキのある「情 こと,③借地借家法が土地と住宅の賃貸借市 報不完全性モデル」によって地価がファン 場の発展を窒息させていることなどが,その
ダメンタルズ地価から乖離したとされる 具体例である。
(また名目利子率低下という「貨幣錯覚」に しかし,高度成長と一極集中をもたらした よって乖離が促進されたのである)。そして 歴史的諸関係をそのまま前提して借地・借家 その乖離は,「合理的バブルモデル」もしく 法の改正を行うことは困難であり,土地利用 は,「ケインズ美人投票モデル」によって持 規制の緩和は80年代後半の地価高騰が示した 続させられたとされる。 ように,意図したこととは逆の結果をもたら
主張は,暫定的であり,また常識的であ すであろう。また,これらの歴史的関係を前 る。まず,こうした諸「モデル」の傾向は, 提したまま適切な土地税制を実現することも 多かれ少なかれ,それ以前にも見られたこ 不可能である。そこで,岩田〔1988〕の後半 とである。1985を起点としてファンダメン 〔第4〜7章〕と岩田〔1992〕の後半(第8章 タルズから非ファンダメンタルズへのモデ 〜)は,「都市計画と一極集中」,「都市計画と ル転換が,何故に行われたのか?これが問 適切な住宅供給」,「公共事業政策,住宅政策
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と土地税制」を正面から論じている。ここで 〔分配政策〕を含んでいること,③そしてそれ は,岩田は,単なる「土地供給」を論じてい は,適切な土地関連税制と連動することに るのではなく,土地利用の質と内容を考慮し よって財源を確保していること,であり,こ た「土地の有効利用」を問題にしている。 れらによって「土地の有効利用」が実現され では,「土地の有効利用」とは何か?抽象的 ると考える。従って,「有効な」土地基盤施設 には,「社会経済的厚生」を増大させる土地利 と住宅建設は,自由放任の市場機構によって 用が有効利用であり,且つ「社会経済的厚生」 は実現できず,むしろ土地所有者や民間業者 が公平に配分されことが,有効利用の判断基 の私権は制限されねばならないのである。こ 準となる。具体的には,ドイツなど欧米の諸 うして,計画と市場との適切なバランスを確 都市で達成されている土地利用が有効利用で 立すること,そのことによって①適切な土地 あるが,これらは,厳格な都市計画か,ある 利用計画の枠内においてファンダメンタル いは土地利用計画と土地関連税制の組合せに ズ・バリューを指標として利用しうる土地賃 よってもたらされたものである。だから,日 貸市場を育成すること,②自己努力に基づか
本においても欧米並の土地有効利用に近づく ない開発利益を税制によって吸収する土地売 「ためには,民主主義的手続きを踏まえた市民 買市場が形成されることが,土地の有効利用
参加の都市計画を確立することが第一義的に を実現するだろうと岩田は考える。岩田 重要である。図12は,日本と欧米先進国の大 〔1977〕では,土地税制は2資産モデルの枠組 都市の土地利用を比較しているが,ここから みを前提してその効果が分析されたが,今や,
ドイツと比べて日本の大都市における不充分 土地保有税や土地キャピタル・ゲイン税は地 で,ゆがんだ土地「有効利用」がイメージさ 方自治体の固有税となり,住民参加による都 れる(岩田〔1992〕,p178)。 市計画と住宅政策のための税源として位置付
かくして,「土地の有効利用」とは,①市民 けられることになる。
が「自分たちのすむ町の将来の絵」を描けて
いること,②その街区の計画は,シビルミニ V 暫定的小結
マムとしての居住権を保障する住宅関連政策 岩田〔1977〕から岩田〔1988,1992〕への 道のりは,土地問題の考察は単なる土地市場 理論にとどまらず,民主的な合意形成,それ A共同オフィスビル による適切な都市計画,公共事業政策,住宅
↓期住宅 政策土地税制を前提せざるを得ないこと・
土地市場は,こうして「誰が」「どのように」
c低層住宅市街地 利用するかを適切に反映するものとして新し
、\↓じ\
市街化区域内農地 く位置付けらねばならないことを示してい
@ 郊外団地・マンション る。
@ ⊥. 農地 一一方,西村〔1990,1995〕は,その問題点
A卜S」._畑B を通して・ファンダメンタルズ・モデル1こと
o都心 時間距離 らわれることなく・日本経済が1985年以降地
価バブルを展開した現実的関係を明らかにす図12 日本と欧米先進国の大都市の土地
@ 利用の比較 る理論的立場を開拓することが必要であるこ
(注)曲線ABは欧米型都市,点線CDは日本型都市。 とを示している。
(出所)岩田〔1992〕P178図8−2。 そして,岩田と西村との検討結果は総合さ
れねばならない。すなわち,民主的な都市政 現在地価を上昇させることを示す。そして,2−8 策主体の欠如こそ,中央集権的行政主体に 図は,借り入れによる土地需要の増大を示している よって進められてきた生産者優先,産業基盤 が,借入れ利子率の低下はこれを一層促進させるで 優先という経済政策の裏側に他ならない。勤 あろう。そして,2−9図は「期待の弾力性」が正 労者の生活と住環境を軽視しつつ進められた である価格域を示すが,そこでは現在地価の上昇が 経済政策のもとで,長時間労働とマイホーム 期待地価の上昇をもたらすことが示される。そし の夢を求めてひたすら貯蓄に励むこと,この て,これは2−6図の関係へと循環する。
ことが,設備投資と高度成長を実現せしめた
のである。70,80年代においては内外の経済 く参 照 文 献〉
環境の激変を通して,このような歴史的発展 五+嵐敬喜〔1991〕,r土地改革のプログラムー都市 とそれを進めた諸関係の行き詰まりが明らか への権利一』(日本評論社)
になり,また行き詰まりが「バブル経済」と 岩田規久男〔1977〕,「土地と住宅の経済学』(日本 して現れているのである。(未完) 経済新聞社)
岩田規久男〔1988〕,『土地改革の基本戦略』(日本
〈注〉 経済新聞社)
(1)ここでは,農地利用とそれの売却による持ち家, 岩田規久男〔1992〕,『ストック経済の構i造』(岩波 貸家経営とが収益率によって比較され,前者が低利 書店)
用あるいは未利用,後者が高度利用とされているこ 小川一夫/北坂真一〔1998〕「資産市場と景気変動』
とに注意。これは,資産選択理論アプローチによる (日本経済新聞社)
土地供給論の限界を示唆するものである。次項3の 西村清彦〔1990〕,「日本の地価決定メカニズム」(西 問題点で再論される。 村/三輪編「日本の株価・地価』,東京大学出版,第
(2)以上は,岩田の説明を繋ぐことによっても可能で 5章)
ある。岩田〔1977〕第2章の2−6図は,将来地代 西村清彦〔1995〕,『日本の地価の決まり方』(ちく
〔将来地価〕の期待値の上昇が土地需要を増大させ, ま新書)