秋 田 大 学 教養基礎教育研究年報 65 − 74 (2013)
秋田県農村女性起業活動におけるソーシャルビジネスの発展可能性
坪 井 ひろみ
Akita Women-Based Agribusiness and Social Business Models
Hiromi TSUBOI
1.はじめに
秋田県は,農村女性起業活動が盛んな地域であ る。平成 14 年度から 20 年度までの 7 年間にわたり,
秋田県の農村女性起業数は日本一であった。その 後,大規模経営への統合,高齢化による活動休止 などにより(1),秋田県農村女性起業活動は,平 成 22 年度に件数における日本一の座を明け渡し たものの,活動自体は依然として活発である。
本稿では,まず,日本の農村女性起業活動を概 観する。次に,農村女性起業活動が最も盛んな県 のひとつである秋田県に焦点を当ててその概要を 述べ,秋田県の農村女性起業活動が盛んな要因を 施策に基づき考察する。最後に,「起業」として の秋田県の農村女性起業活動における今後の発展 可能性を,比較的新しいソーシャルビジネスの視 点から論じる。
2.農村女性起業活動の概要
農村女性起業という言葉が登場したのは,男女 平等参画社会を目指す国際的な潮流のなかで,農 林水産省が平成4年6月に公表した「農山漁村の 女性に関する中長期ビジョン」においてである。
このビジョンにおいて,女性農業者の課題が明確 にされ,課題解決のための施策のひとつとして女 性起業支援が位置づけられ,以降,具体的な取り 組みが実施されるようになった(2)。
農村女性起業とは,①農村などに暮らす女性が 中心となり,②農林漁業関連における地域の産物 を利用することで女性の収入につながる経済活動 であり,③女性が主体となって経営を担っている 経営形態であるもの,を指す(3)。活動内容は,① 農業生産に直結した経営を行う「農業生産」,②農・
林・畜・水産物を利用した「食品加工」,③食品 以外の農・林・畜・水産物を利用した「食品以外 の加工」,④直売所,インターネットなどで販売 する「流通・販売」,⑤体験農園・農場,農家民宿,
農家レストラン,農産加工体験などの「都市との 交流」,⑥「その他」の6類型に分類されている(4)。 農林水産省は,平成9年度より,農村女性起業 活動の実態調査を実施している。図1に示した農 村女性起業数の推移をみると,平成9年度の 4
,
040 件から年々増加し,平成 22 年度には 9,
757 件となっ ている。これは平成9年度の 2.
4 倍である。経営 形態からみると,グループ経営は半数以上を占め るものの平成 19 年度より減少に転じており,平 成 22 年度には 54%となっている。一方,個人経 営は堅調に伸びている。農村女性起業活動の現状を農林水産省による 直近の調査(平成 22 年度調査)(5)からみてみる。
①起業における構成員の年齢は,50 歳代(24%),
60 歳代(46%)に集中しており,次に多いのは 70 歳以上(19%)である(6)。②年間売上額は 300 万円未満が 52%であり,零細の経営が大半を 占めている。5
,
000 万円以上は 3%に留まっている(7)(8)。③グループ経営における構成員数は,10
人未満が 55%と過半を占めており,100 人以上は 2%のみである(9)。東北地方のグループ経営にお ける一人当たり販売額のうち 30 万円未満が 61%
であることを鑑みると(10),全国においても経営 規模は極めて零細であると推察される。④活動内 容は,複数回答で食品加工が 75%を占め,流通・
販売 60%,都市との交流 21%,農業生産 20%と 続く。⑤地域における他の組織との連携した活動 については,46%(グループ経営 50%:個人経営
40%)が実践している(11)。⑥雇用については,「な し」が 80%を超えている(12)。
農村の女性による起業活動が農林水産省により 平成4年に「農村女性起業」として定義され,農 村女性が起業活動を通して「見える存在」(13)となっ たそれ以前から,女性たちは起業活動に取り組ん でいた。起業活動数が多い東北地方を例に,表1 に示した経営開始時期をみると,昭和 40 年代か ら取り組まれていることがわかる。この年代の後 半以降に,行政主導により組織化された農協婦人 部および生活改善実行グループ(14)が,①健康管 理としての食生活改善のため,②食品添加物,残 留農薬の不安から食生活を守るため,③脱農・兼 業化が進行するなかでの食生活,家族関係の歪み に対応するため,④野菜を栽培することにより減 反による減収を補うため,⑤食費の節約を図るた め,といったさまざまな要因により農産物の自給 運動に意欲的に取り組んだ(15)。女性たちはこの 運動への取り組みを通して,農村の食文化,農業・
農家の価値を新たに見出し,主体性を強めていっ た。彼女たちは,余剰農産物を青空市で販売する,
あるいは味噌,漬物に加工するなど,販売,加工 に積極的に取り組んでいき,その中からより主体 的に事業として取り組む女性たちが育っていった。
農村女性起業のルーツは,ここに見出される(16)。 こうしたルーツをもつ農村女性起業は,グルー プで経営されている場合が多く,女性たちの「志 し」志向(女性自身が抱える課題の解決も含む自 己実現,能力向上,地域の活性化など)と「ビジ ネス」志向(地域資源のビジネスへの有効活用)
の両輪からなるものである(17)。多くの女性たち は経済的事業を開始する前に学習活動および地域 活動を行っており,それらを通して課題を発見・
認識して解決を志し,活動から学んだ地域資源の 活用方法を課題の解決手段としてビジネスに活か し,志しを果たしつつ,自身の収入を確保するこ とにより経済的な力をつけていった。農村女性の 地位向上はこうして図られてきた(18)。
これまで農村女性起業活動の中心であったグ ループ経営は,先述のように,起業数において全 体の半数以上を占めるものの,平成 19 年度より 減少に転じている。グループ経営が減少している 要因として,①生活改善実行グループ,農協女性 部といった起業の母体となる組織の組織率が低下 していること,②グループ成員の高齢化,③グルー プづくり,農産加工指導といった生活関連の普及 事業の後退,④零細経営による事業体の脆弱性,
⑤継承問題(後継者,事業形態・事業体制,農産 図 1 農村女性起業数の推移
加工技術・知識の継承など)が指摘されている(19)。 一方,増え続ける個人経営は,①事業内容および 活動時間における裁量性の高さ,②起業目的およ び活動内容に関する調整の不要さ,③家業と起業 との調整の容易さ,④個人の能力の直接的活用,
といった利点があり(20),これまでとは違った多 様な展開をしている。農村女性起業活動は,新た な段階を迎えているのである。
表 1 東北地方の農村女性起業における経営開始時期
(平成 19 年1月1日現在)
(件)
青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 昭和44年以前 3 2 4 1 0 1 昭和45〜49年 5 2 1 2 3 0 昭和50〜54年 4 1 2 5 7 2 昭和55〜59年 4 9 29 13 12 7 昭和60〜
平成元年 27 25 52 41 23 23 平成2〜6年 47 39 33 68 28 32
(出所)農林水産省東北農政局(2007)「農村女性による起業 活動実態調査結果(平成 19 年 1 月 1 日現在)」。
3.秋田県の農村女性起業活動の概要
表2に示すように,秋田県における農村女性起 業数は平成 14 年度から平成 20 年度まで日本にお いて最も多く,さらにグループ経営が多いことが 特徴である。平成 22 年度には全国6位となった ものの,依然としてグループ経営の割合は高い。
一方,平成 22 年度1位である千葉県は個人経営 が多いことが特徴であり,秋田県の3倍の起業数 である(21)。
次に,秋田県農林水産部農林政策課による直近 の調査(平成 23 年度調査)(22)から現状をみてみる。
表3からわかるように,①起業件数は減少傾向に あるものの,ひとつの組織が複数の起業活動に取 り組む事例が増加しているため,活動内容延数は 増加している。活動内容のうち,農産物加工およ び農産物直売が大部分を占めているものの,割合 においては減少傾向にある。「都市との交流」は盛 んになってきており,農家レストランおよび農家 民宿は堅調に件数を伸ばしている(23)。②売上額は 伸びており,平成 20 年度より 50 億円を超えてい る。このうち直売が 80%以上を占めている(24)。
③起業活動参加者は 7
,
000 人程度であり,このうち 6,
000 人程度が「流通・販売」に参加している(25)。 平成 23 年度に限ってみると,④平均年齢層については,60 歳代が最も多く全体の 54%を占め,次 に 50 歳代の 21%,70 歳以上の 18%と続いている。
⑤グループ経営の構成員数は,10 人未満が 43%,
10 〜 19 人が 24%であり,小規模経営が大半を占 めている。100 人以上は 5%である。⑥売上額は,
100 万円未満が 24%と最も高く,100 〜 300 万円 未満が 23%,1
,
000 〜 3,
000 万円未満が 13%と続く。1億円以上は 4%(18 件)である。⑦グループ経 営および個人経営における年間一人当たり販売額 は,30 万円未満が 35%であり,100 万円未満まで 拡大すると 70%以上となる。⑧雇用については,
「なし」が 72%である(26)。⑨起業開始時期は,ほ とんどが平成に入ってからであるものの,昭和 50 年以前から活動を続けている起業が6件ある(27)。
4.秋田県の農村女性起業活動支援事業の概要 表4は,秋田県の農村女性起業活動支援事業を 整理したものである。支援事業は,国の政策と秋 田県の政策との調和を図りつつ推進された(28)。 秋田県における起業活動の基盤は,戦後まもな く開始された生活改善普及事業における生活改善 実行グループおよび農協婦人部といった組織され た女性たちを中心に,地域の女性たちの地位向上 を図るための取り組み,すなわち転作作物および 地域特産物の調理・加工・貯蔵などを通して築か れた(女性グループ等の自給加工活動の推進)。
昭和 50 年代半ばより,地域特性を活かした健 康で豊かな食生活と日本型食生活が提唱され,地 産地消が推進された(地産地消による日本型食生 活の推進)。漁業地域においては,昭和 54 年度か ら「漁村生活改善推進事業」が実施され,魚の加 工が取り組まれた。
平成元年度より,地域内流通および加工活動の 推進,健全な食生活の定着を目標に定め,事業が 展開された。平成4年度からは,消費者の多様な ニーズに応えるため加工技術および流通面が強化 された。その頃,冷害,旱魃の発生により野菜の 価格が高騰し,その対策として農産物を安く提供 することが求められたため,ほぼすべてに当たる およそ 100 の直売組織に活動費(5〜 10 万円)
が助成された。その結果,多様な販売活動が定着 した(農村女性による直売グループ等への活動支 援)。
平成4年6月に生活改善実行グループは「生活
研究グループ」に改称され,組織の活力強化のた めに,個人加入および農村地区に暮らす非農家の 女性加入などが奨励された。生活研究グループの メンバーの大半は起業活動にも参加しているた め,個人加入および非農家女性の加入は起業活動 全般に広がりをもたらした(29)。
平成7年度より,女性の経済的自立を図る起業 支援活動が国・県レベルで実施され,生産・販売 が主体の活動から加工品の原価計算,労働報酬の 設定等といった経営管理にも取り組みが拡大され た。各地の「道の駅」の設置(30)により起業活動 が消費者から身近な存在として一層耳目を集めた こともあり,商品開発が促進された。また農家民
宿,農家レストラン,体験農園・体験農場といっ た「都市との交流」に対しても支援が強化される など,事業は多面的に展開されている(農村女性 起業活動の促進)。
このように,秋田県はさまざまな施策をもって 農村女性起業活動を支援してきた。とりわけ①早 い時期から地産地消に取り組んだこと,②秋田県 が独自にほぼすべての直売組織に活動費を助成し たこと,③米の単作から米と野菜の複合経営へと 転換していくなかで,転作野菜を直売で活かすこ とが女性の収入確保につながったこと,④道の駅 の設置に伴い直売所あるいは加工所が併設されて 起業活動が消費者に一層身近なものとなったた 表 2 農村女性起業数における上位 6 県の推移(平成 14 ~ 22 年)
上段:(件),下段:グループ経営の全体に占める割合(%)
平成14年度 平成15年度 平成16年度 平成17年度 平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成22年度 第 1 位
秋田 357
(77.9)
秋田 376
(76.3)
秋田 397
(73.6)
秋田 439
(72.9)
秋田 441
(72.1)
秋田 442
(70.4)
秋田 424
(71.0)
千葉 431
(20.6)
第 2 位 熊本 358
(59.5)
熊本 374
(56.1)
熊本 365
(57.5)
宮城 407
(53.3)
熊本 420
(47.1)
宮城 414
(47.8)
宮城 417
(50.6)
長崎 429
(39.6)
第 3 位
大分 339
(57.9)
大分 355
(54.9)
宮城 362
(57.2)
熊本 375
(53.6)
宮城 409
(51.3)
長崎 399
(47.9)
岩手 401
(47.9)
宮城 424
(50.5)
第 4 位 宮城 335
(58.8)
宮城 353
(58.6)
大分 339
(54.3)
岩手 355
(50.7)
福島 374
(50.5)
岩手 388
(50.3)
長崎 397
(44.8)
新潟 423
(41.1)
第 5 位
長崎 299
(69.2)
新潟 333
(54.1)
岩手 327
(50.8)
新潟 332
(41.6)
岩手 368
(51.6)
熊本 372
(57.3)
千葉 391
(21.5)
岩手 421
(46.3)
第 6 位 新潟 278
(54.7)
長崎 278
(54.7)
新潟 320
(42.2)
福島 324
(61.4)
新潟 356
(44.9)
千葉 369
(23.0)
新潟 384
(43.2)
秋田 407
(69.5)
全国の 合 計
7,735
(70.4) 8,186
(68.8) 8,667
(65.9) 9,050
(63.5) 9,444
(61.9) 9,533
(58.6) 9,641
(57.7) 9,757
(54.2)
(出所)農林水産省「農村女性による起業活動実態調査」各年度版。
(注)割合は筆者算出。
表 3 起業活動内容および売上額の推移 14年度平成 平成
15年度 平成
16年度 平成
17年度 平成
18年度 平成
19年度 平成
20年度 平成
21年度 平成
22年度 平成 23年度 起業件数(件) 375 385 411 439 440 442 424 418 407 409 活動内容(延数) ― ― ― 443 450 445 449 451 520 652 活動内容 農産物直売 175 183 180 185 186 181 177 177 212 237 農産物加工 185 187 210 235 234 226 220 213 208 248
農家民宿 5 5 7 7 8 9 10 11 19 20
農家レストラン 8 8 13 15 19 24 25 25 33 28
その他 2 2 1 1 2 11 17 20 48 119
起業売上額(億円) 30.3 34.1 39.2 41.2 44.1 43.6 51.1 54.4 57.3 55.6 うち直売(億円) 23.7 26.3 30.7 31.9 36.8 38.1 41.6 45.0 47.7 47.2 参加者数(人) ― 5,972 6,536 6,893 7,190 6,998 7,193 6,852 6,802 6,980
(出所)秋田県(2012)「平成 23 年度秋田県農村女性起業活動の概要(平成 23 年度農村女性の起業活動実態調査)」。
め,起業活動の活性化が促進されたこと,が秋田 県の農村女性起業活動を発展させ,起業数日本一 を支えた要因と考えることができる(31)。
日本における農村女性起業活動は,行政主導に より発展してきたという傾向が強く,秋田県にお いても行政のきめ細かな支援の積み重ねが女性た ちに成功をもたらしてきたと言えよう。農村女性 の地位向上を目的とした女性たちの組織化が起業 活動の基盤となり,グループ活動を通して自分た ちの課題を解決してきた女性たちのなかから起業 活動が起こり,それが地域の課題解決まで拡大さ れていった。その過程で経済的な側面も強化され ていった。「自分の通帳を持てた」,「生きがいを 持てた」,「オーナーシップを持てた」,「誇りを持 てた」,「家族(主に男性)の理解が得られた」など,
女性たちのエンパワーメント向上を示す声は枚挙 に暇がない(32)。
秋田県において,これまで行政側の中心的存在 として農村女性起業活動を牽引してきた生活改良 普及員は,平成2年度より新規に採用されておら ず,平成 24 年4月には生活改良普及員数がゼロ となった。このため,農村女性起業活動支援に関 する兼務の担当者はいるものの,これまで行われ てきた支援は全体的に縮小されており,さらに技 術・経営に関する起業側からの専門的かつ高度な 要望への細やかな対応も難しくなってきている。
5.ソーシャルビジネスの発展可能性
バングラデシュにあるグラミン銀行とそのグ ループ企業,およびグラミン銀行関連機関との合 弁による企業は,その地においてソーシャルビジ ネスを積極的に展開している。ソーシャルビジネ スの分野は,保健医療,水,エネルギー,食料,
衣料,教育,情報など多様であり,その対象は拡 大されている(33)。
このソーシャルビジネスを提唱しているのは,
グラミン銀行の創設者・元総裁であり,2006 年の ノーベル平和賞受賞者でもあるムハマド・ユヌス 博士である。彼が提唱するソーシャルビジネスは,
バングラデシュのみならずそれ以外の国・地域に おいても多くの共感を集め,実践されている。
ユヌス博士がいうソーシャルビジネスとは,次 のようなものである(34)。それは,社会が抱える 問題をビジネスの手法を用いて解決することを目
的とする活動であり,よって,利益によってでは なく動機によって動くものである。社会的目標を 達成するためには持続的である必要があるため,
慈善事業ではなく,既存のビジネス同様に利益を 生み出すことを求める。その評価は利益の多寡で はなく社会的目標の達成度で判断される。
ソーシャルビジネスには2つのタイプがある。
タイプⅠは,社会的利益を生み出す製品,サービ スなどを提供し,それを通して社会的問題を解決 する,つまり社会的目標を達成しようとするもの である。ビジネスから得た利益は,投資家に対し ては投資額の払い戻しという形で配分され,それ 以外は社会的問題の更なる解決のために再投資さ れる。このタイプには,グラミン・ダノン,グラ ミン・ヴェオリア・ウォオーター,およびグラミ ンユニクロ,グラミン・ユキグニマイタケといっ た日系企業も該当する。
もうひとつのタイプⅡは,社会的問題を抱えて いる当事者がオーナーシップを発揮するものであ る。利益は彼らの社会的目標の達成に向けられる ため,それにより社会的利益を得ることができ る。タイプⅡの代表例はグラミン銀行である。グ ラミン銀行は,貧困層である借り手により所有さ れている銀行である。グラミン銀行の利益はすべ て,貧困削減という社会的目標の達成のために再 投資されているため,借り手を含む貧困層の助け となっている。
これまで述べてきたソーシャルビジネスと秋田 県農村女性起業活動には類似点がみられる。秋田 県農村女性起業活動の始まりは,組織化された農 村女性たちが自身の地位向上を図るという動機に よってもたらされた,転作作物および地域特産物 を調理・加工するというビジネスに求めることが できる。戦後の農村民主化により農村女性の置か れた地位は戦前に比べ高くはなったものの十分で はなく,農業経営に従事しているにもかかわらず 労働対価として正当な報酬を受け取ることもきわ めて稀であった。また,農村部においては雇用機 会に乏しく,女性が他の産業にそれを見出すこと も難しかった。こうした状況にあって,自家農業 外のビジネス,すなわち農村女性起業活動により 得ることができた収入は,女性たちを評価させる 大きな要因となった。彼女たちは家族(主として 夫)および地域社会から認められ,自信を持つよ
表 4 秋田県の農村女性起業活動支援事業
年度 起業活動支援事業等 取り組み内容
○女性グループ等の自給加工活動の推進
昭和52〜59 農村婦人の家設置事業(県内7地域に設置)・調理・加工実習室,共同学習室等の整備
・味噌・缶詰加工等の普及 昭和55〜 地域生産物活用促進の具体的目標設定「1
生活改善普及員1自給・加工グループ育成」
○地産地消による日本型食生活の推進
昭和55〜59 地域内食生活向上対策事業(国)(全国8 カ所のモデル事業のひとつとして旧河辺町 で実施)
青空市,学校給食への食材供給,給食メニュー「河 辺シチュー」の開発等を展開
昭和59〜61 地域型食生活推進対策事業(峰浜村,大内
町,湯沢市で実施) ・自給野菜コンクール,共同育苗・栽培等により女性 グループの生産活動活発化
・沿道に無人販売所が立ち並ぶ
・加工技術・意欲の向上により生産・加工・直売の全 県にわたる普及の兆しがみえる
○農村女性による直売グループ等への活動支援(活動費補助)
平成4〜6 地場農産物利活用促進事業および地場農産
物新需要開発促進事業 地域特産品づくり,市日の開催,宅配が活発化 平成5〜6 野菜等直売活動促進緊急対策事業
(県がほぼすべてに当たる約 100 の直売グ ループに活動費助成)
平成5年の冷害,平成6年の旱魃による野菜の高騰 に対応し,消費者への安価な野菜の提供および直売 活動の拡大強化対策として実施
○農村女性起業活動の促進(支援事業の継続実施)
平成7〜8 農村女性グループ起業活動支援事業 <生活研究グループ対象>
平成8〜 11:いきいきむらづくり活動促進事業(地 域資源掘り起こしワークショップ)
平成9 農村女性ニューワーク活動支援 食 業起こしコースおよびグリーン・ツーリズム入 門コースを実施
平成10〜11 農村女性パワーアップ事業 ・全県規模の直売フェスタ開催
・各地区において「直売活動連絡会」を設置 平成12〜14 がんばる農村女性活動促進事業 <生活研究グループ対象>
生ゴミの堆肥化・土づくり実践等で起業活動の展開 平成15〜16 女性起業チャレンジ支援事業 <生活研究グループ対象>
平成 16 〜 20:畑の学校開設事業
( 農と食 の認識を消費者と共に深めるために県内 40 カ所で実施)
起業グループの運営改善や商品開発のための経費助成 平成17〜21 女性起業サポート事業
平成18〜21 人づくり・モノづくり 応援事業 起業グループの運営改善や商品開発のための経費助 成
平成22〜現在に
至る 農村発,新ビジネス展開支援事業 ・直売連絡会における「看板スイーツ」共同開発に対 する助成(平成 22 年のみ)
・農村女性活動の促進支援
・女性起業のキャリアアップ支援
・直売所における新たな段階へのステップアップに対 する助成
平成23〜現在に
至る 女性起業者高度化支援事業(補助事業) 女性起業活動の経営のレベルアップ,体質強化を図 るための条件整備事業および活動支援事業
平成24〜現在に
至る 次世代を担う女性起業者緊急育成事業 ・若手女性農業者の交流
・研修活動支援・参加者企画型実践研修(実践グルー プ研修)の実施
(出所)秋田県(2010)「あきたの農山漁村女性たちの起業活動」76 頁。秋田県(2012)「女性農業者の育成に関わる支援体制について」。
うになり,生き甲斐も増し,女性の主体性が一層 向上していった。こうした過程が女性たちの地位 を押し上げることに結びついていった(35)。以降,
次第に,女性たちは地域資源(36)を活用しつつ地 域の活性化に向けた起業活動も展開するようにな り,それに伴い活動内容も多様になっていった。
これらを鑑みれば,秋田県農村女性起業活動には,
ソーシャルビジネスとしての条件が整っている。
では,秋田県の農村女性起業活動をソーシャル ビジネスとして発展させるためには,どのように したらよいであろうか。
まず,これまで捉えていた自身および地域など が抱える社会的問題を再認識し,問題解決を起業 活動の社会的目標として明確化することが大事で ある。その上で,地域資源の活用強化を念頭に経 済的・人的持続性のあるビジネスを追求する。こ のためには,助成金,補助金および寄付金への依 存を避ける努力が要求される。また,秋田県にお いては高齢化が加速しているため,地域資源を活 用できる後継者の育成が急務である。さらに,地 域資源は多様であるため,活用に際しては地域内・
地域外・自治体・他機関などとの連携および新た な仕組みづくりが不可欠となる。
次に,経営の強化・拡大のためには,投資を募 ることが必要となる場合もあろう。また,人的ネッ トワークを広げるため,非農家の女性,男性の参 画を促進することも重要となる。さらに,消費を 決める者は女性であることが多いため,製品・サー ビスの開発に際しては消費者との連携を視野に入 れた女性の視点も,市場との差別化を図るために は必要となろう。
さらに,秋田県農村女性起業の大半が小規模経 営である現状においては,それぞれが掲げる社会 的目標を迅速に達成するために,ひとつの起業の 経営規模を拡大させるという「単独経営規模拡大 指向」と複数の小規模経営から成る緩やかな紐帯 による「小規模経営グループ化指向」の併用が重 要である。これらの指向は女性たちが築いてきた 信頼関係,協同関係に基づくべきであり,働き方 は女性のライフステージに合った自由度の高いも のでなければならず,したがって利益の最大化を 目指すような働き方に陥ってはならない。
最後に,農村地域の変化に伴い,地域には新た な社会的課題が生じている。これを解決するため
に,生産,加工,販売,都市との交流といったこ れまでの活動の枠組みを,たとえば,農地・環境 保全,高齢者福祉,農村景観といった広範囲に捉 え直すことも,ソーシャルビジネスとしての発展 には必要となろう。
6.おわりに
「100 円単位の野菜を売ってどうする」(37)と揶 揄されたこともあった秋田県農村女性起業活動 は,40 年を経て,総売上 50 億円を超えるまでに 成長した。秋田県の農村女性起業家たちは,もは や見えない存在ではない。彼女たちは地産地消に 早い時期より取り組み,生産者と消費者を価格以 外の豊かな情報で結びつけてきた。そこでの消費 者の行動は,価格の安さより,むしろ秋田でつく られた製品・サービスに対する安心・安全と誇り,
そして生産者である女性たちへの共感に基づいて いると言えよう。
秋田県における農村地域の将来を描くうえで,
経済的要素と非経済的要素から成るソーシャルビ ジネスとしての農村女性起業活動の役割は大きく なる。今後,女性たちの元気を浪費することのな い,持続可能な地域をもたらす女性起業活動が期 待される。
注
(1)秋田県(2012a)参照。
(2)農山漁村の女性の地位を向上させるために,5つの 課題(①あらゆる場における意識と行動の変革,② 経済的地位の向上と就業条件・就業環境の整備,③ 女性が住みやすく活動しやすい環境づくり,④能力 の向上と能力開発システムの整備,⑤「ビジョン」を 受け止め実行できる体制の整備)が提示され,課題
④において女性起業という言葉が使用された[澤野
(2012)16-18 頁]。具体的な施策として,平成6年度 より「農村女性グループ起業支援事業」が開始され,
情報提供,セミナー開催,経営指導,交流などが実 施された[原(2009)6 頁]。農文協(2007,36-43 頁)
も参照のこと。
(3)定義は農林水産省(2012)による。
(4)分類は農林水産省(2012)による。
(5)農林水産省(2012)参照。
(6)40 歳代は 4.6%,30 歳代は 1.3%,20 歳代は 0.2%
であり,若年層がきわめて少ない。
(7)300 〜 500 万円未満,500 〜 1,000 万円未満,1,000
〜 5,000 万円未満はそれぞれ 11%である。
(8)農村女性起業活動がもたらす経済効果として,農 林水産省による売上高についての調査は実施されて いるものの,農村女性起業活動が地域にもたらす波 及効果については定量的な把握が進んでいない。女 性たちの起業活動を客観的な指標を用いて評価する 上で,定量的な経済波及効果の研究も重要であろう。
農業・食品産業技術総合研究機構農林工学研究所
(2008)は,農村女性起業活動による経済的波及効果 の推計手法を提示している。
(9)10 〜 19 人 23%,20 〜 29 人 8%,30 〜 39 人3%,
40 〜 49 人2%,50 〜 99 人 4%である。
(10)農林水産省東北農政局(2007)によると,平成 19 年1月1日現在におけるグループ経営一人当たりの年 間売上額 30 万円未満は,青森県 40%,岩手県 51%,
宮城 県 51%,秋田県 50%,山形 県 64%,福島県 52%,東北 6 県では 51%である。30 万円未満を 100 万円未満まで拡大すると東北 6 県では 81%となる。
先進的な取組事例を集めた農林水産省「女性グルー プの農林水産業の取組事例」(平成 15 年度,16 年度)
を対象に,筆者が 71 のグループ経営における一人当 たりの年間売上額を試算したところ,100 万円未満は 68%であり,内訳は 30 万円未満 31%,31 〜 100 万 円未満 37%であった。このことから先進的な起業で あっても零細規模が多いことがわかる。
(11)現在の連携先あるいは今後の連携先として,複数 回答でJA組織 32%,他の女性起業経営体 27%,商 工会 26%,農業生産組織 21%となっている。
(12)雇用「なし」の内訳は,常時雇用・正規社員 92%,
常時雇用・パートタイム 85%,臨時雇用 84%である。
(13)これまで「見えない存在」であった農村女性を「見 える存在」に変えた意義については宮城道子(2001a, 6-12 頁)を参照のこと。
(14)連合軍総司令部が終戦直後より推進した農村民主 化三大改革(農地改革,農業協同組合事業,協同農 業普及事業)のひとつである協同農業普及事業を実 施するため,昭和 23 年,農林省に普及部他2つの部 と 1 つの課からなる農業改良局が設置され,普及部 内に生活改善課が設置された[市田(岩田)(1995)
1-63 頁および市田(岩田)(2003)1-12 頁]。
(14)生活改善とは,生活技術の普及による生活経営の 合理化であり,それを通して農村女性の地位向上と 農村の民主化に寄与することが目標とされた[同上 書]。生活改善普及事業は,生活改善課および生活改 良普及員(昭和 24 年に第1回改良普及員資格試験実 施)により取り組まれ,事業として,婦人会とは別に 農村女性が自主的に参加する生活改善実行グループ
の結成が促された[同上書]。
(14)鹿児島県で実施された生活改善グループ育成調査
(昭和 60 年4月現在:調査対象グループ数 788)に よれば,グループで取り上げている課題は,自給率 向上のための農産加工の実施(20.8%),地域(自家)
生産物の有効活用(19.6%),家庭菜園の充実,自給 野菜の確保(17.4%),記帳に基づいたくらしの改善
(13.0%),保存食や行事食などの共同加工(11.1%),
仲間づくり活動(8.0%)と,食生活の改善,向上に 取り組んでいることがわかる[日本農村生活研究会 西日本支部編(1988)33-41 頁]。
(15)農産物自給運動の契機については根岸(2000,37 頁)
を参照。
(16)農村女性起業のルーツについては根岸(2000,38 頁)
を参照。岩崎(1997,47 頁)が引用した調査(平成5,
6年に地域社会計画センターが実施)によると,農村 女性起業代表者における地域活動の参加経験として,
生活改善実行グループ(76.7%),地域婦人会(73.3%),
農協・漁協や商工会婦人部(65.5%),PTA役員(56.5%)
などが挙げられている。
(17)宮城(2001a,6-21 頁)および宮城(2001b,210- 218 頁)参照。澤野(2012)の既存研究整理によると,
多くの女性起業は利潤の追求では説明できない目的
(自分たちの生産したものや地場の農産物にこだわる こと,地域の活性化をめざすこと,女性の収入を確 保すること,女性の特性を活かした仕事づくりである こと,生産技術を改めて評価すること,女性同士のネッ トワークをつくること,都市との交流をもつことなど)
をもっており,こうした目的(目的というほどはっき りと意識されていない場合もある)は「ビジネス」志 向に対して「志し」志向と呼ばれていると指摘してい る[澤野(2012)31-32 頁]。
(18)宮城(2001a,6-21 頁)および宮城(2001b,210-218 頁)
参照。
(19)①〜③については原(2009,7-8 頁)参照。④〜⑤ については,諸藤(2009,15-26 頁)参照。
(20)原(2009,11-13 頁)参照。東北活性化研究センター
(2011)が引用した個人起業対象の起業を始めた動機 に関する調査(平成 15 年に農村生活総合研究センター が実施)によると,自分の能力や技術を活かしたい
(36.4%),年齢に関係なく働きたい(30.1%),自らの より高い収入を得たい(28.4%),経営者として自分 の裁量で仕事がしたい(22.2%),地域社会に貢献し たい(13.6%)などが挙げられており,「志し」志向と「ビ ジネス」志向の双方が見受けられる。
(21)平成 22 年度の個人経営数は,千葉県 342 件,秋田 県 124 件である。千葉県は平成 10 年度より個人経営
がグループ経営より多くなっており,その背景として 家族の理解を得ることができるのであれば家庭内の 役割分担のもとに,目標をもった活動が展開しやすい 点(人間関係が煩わしくない,起業と家業の両立が 容易であるなど)が挙げられている[千葉県(2006)]。
(22)秋田県(2012a)参照。
(23)平成 23 年度の「都市との交流」は,表3の農家 民宿 20 件,農家レストラン 28 件,および「その他」
119 件に含まれている「体験・交流等」64 件を加え ると全部で 112 件となる。これは活動延数 652 件の 17%に当たる。
(24)平成 23 年度に初めて前年度の売上額が下回った。
その要因として,多くの直売所における起業活動者 の高齢化による会員の減少および販売物の減少が挙 げられている。
(25)「流通・販売」以外は 1,000 人程度であり,このう ちの 100 人以上が個人経営である。一方,「流通・販売」
において個人経営はほとんどない。
(26)雇用「なし」の内訳は,常時雇用 76%,パートタ イム 71%,臨時雇用 69%である。
(27)平成2年以降に開始した起業は 363 件(89%)で ある。内訳は,平成2〜6年 45 件,平成7〜11 年 90 件,
平成 12 〜 16 年 133 件,平成 17 年以降 95 件である。
(28)女性起業支援事業の変遷については,秋田県・秋 田県改良普及職員協会(1998,85-87 頁)参照。さら に,藤田貞子氏(秋田県農林水産部農林政策課:平 成 20 年8月 21 日),澁谷美奈子氏(秋田県農林水産 部農林政策課:平成 22 年 11 月 29 日),菅原裕子氏
(秋田県農林水産部農林政策課:平成 24 年9月 14 日,
眞崎正子氏(元生活改善普及員:平成 20 年9月 22 日)
にもインタビュー調査を実施した。
(29)秋田県・秋田県改良普及職員協会(1998,91 頁)参照。
(30)平成5年登録の「道の駅たかのす」が秋田県にお いて最初に登録された道の駅である。
(31)要因を考察するためのインタビュー調査は,秋田 県農林水産部農林政策課の3氏(藤田貞子氏:平成 20 年8月 21 日,澁谷美奈子氏:平成 22 年 11 月 29 日,
菅原裕子氏:平成 24 年9月 14 日)に対して行われた。
(32)秋田県(2007,72 頁),秋田県(2008,71 頁),澤 野(2012,80-90 頁),参照。
(33)エネルギー分野についてはTsuboi(2007,31-35),
保健医療分野についてはTsuboi(2008,17-22),水 分野についてはTsuboi(2010,21-27)を参照のこと。
(34)Yunus(2008),Yunus(2010),ユヌス(2008),ユ ヌス(2010)参照。
(35)澤野(2012)は,秋田県におけるJA女性部を母体 とした農村女性起業に対する調査から,①会計・清算・
税務処理等を行うことでオーナーシップが芽生え,自 負心と誇りを持つようになった,②消費者との会話が 生きがいになっている,③自分の通帳をもつことがで きた,④新たな収入先を得ることができた,⑤当初は,
家族(特に男性)の理解を得ることができなかったが,
販売額が伸びるにしたがって周囲の協力が得られる ようになった,⑥生きがいのある場所,⑦消費者との ふれあいがある,⑧家の外に出る機会が増えた,と いった声を収集している[澤野(2012)69-98 頁]。
(36)竹本(2008,275 頁)の整理によると,地域資源 には豊かな自然資源,農業生産に関わる農業的資源,
ダムや建物などの人工的資源,伝統的な芸能や風習 などの文化的資源,そして人的資源がある。
(37)秋田県八竜町「まごころの会」会長伊東サダ子氏 の談話[内閣府男女共同参画局チャレンジサイト]。
参考文献
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