研究ノート
子どもの可能性を見出す学習評価の探究
―小学校教育における形成的アセスメントの可能性―
創価大学教職大学院 教職研究科教職専攻 今 田 景 子
要 約
今日,国立教育政策研究所から示されている学習評価として,観点別学習状況の評 価がある。この評価方法は,子どもたちの学習状況を検証し,教育水準の維持向上を 保証する機能を有する。しかし,結果重視のこの評価方法のみでは,子どもたちが自 分への可能性に限界を感じてしまう場合もあるのではないかと考える。この課題に対 し,「形成的アセスメント」という考え方を導入したい。
本研究においては,観点別学習状況の評価での子どもの見え方と,「形成的アセス メント」での子どもの見え方がいかに違うのかを分析・考察した。それより,教師か らの学習評価のあり方は,授業目標を達成したか否かという結果を評価して終わるの ではなく,学びの過程を評価していくものであることが望ましいのではないかと考え た。学ぶ過程を評価するとは,単に「あの子はこういう子」と決めつけるのではなく,
その子を常に成長しているもの,動的なものだととらえ,その子自身の過去・現在・
未来を理解していくことであると考える。それは,子どもの可能性を見出す評価とい えると考える。
は じ め に
筆者は実習校で,自分の可能性を信じることを苦手とする子どもたちに出会った。
算数が苦手な
A
さんは,算数の時間に難解な問題に直面すると,解いてみようと取 り組む前に「私には無理…」と発言し,取り組もうとしない様子が多く見られた。こ れはA
さんだけに限らず,クラスの何人かの子どもたちにも見られることであった。そのような子どもたちには,「がんばりたいけど,がんばりきれない」という葛藤や,
「間違えたときの恥ずかしさに耐えることはできない」という葛藤があるのではない
キーワード:学ぶ意味,学習評価,形成的アセスメント
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かと思われる。
子どもたちがこのような葛藤を抱いてしまう一因として,教師の評価の視点がある のではないかと考える。ここでの教師の視点とは,教師のもつ「子どもの見方」であ る。つまり,一人の子どもの姿をどう解釈するのかということである。一般的に前述 した
A
さんのように,問題が解けていない子どもに対しては,教師が褒める機会は 少なくなりがちである。その場合,その子は自分への教師からの評価は低いと感じる だろう。一方,問題が解けている子に対しては,たくさんの褒め言葉がかけられるた め,そのような子どもは教師からの評価が高いと感じるだろう。そのような現状にあ る子どもたちは,算数の問題ができる子が望ましい子であり,できない自分は望まし くない子と感じてしまうのではないかと考える。本来子どもは,今の自分より成長したいと思っており,教師も子どもを成長させた いと思って取り組んでいる。しかし,学んだことの結果で評価することが一般的と なっている現状では,教師の評価が,知らず知らずのうちに子ども自身の評価を下 げ,可能性に限界を感じさせてしまっているのではないだろうか。
評価について重松鷹泰は,「一人ひとりの人間の,人間として生き抜いていこうと する生き方を察知し,その可能性を実現するための各般の契機を推測し,これを吟味 し検討していくことを評価という」(1)と述べている。
重松が言うように,評価とは「一人ひとりの可能性を実現するため」になされ,子 ども自身が成長することの喜びや,自分の可能性を感じられるものであるべきだと考 える。そのような評価を実現するにあたっては,教師の評価の視点が鍵になってくる だろう。子どものある一つの発言にしても,「よさ」や「成長」ととらえるか,つま らないものだととらえるかの判断は,教師の子どもをどのように見るのかという評価 の視点が関わってくる。教師がどのような視点で子どもを評価するのかによって,子 どもの見え方は変わってくるのではないだろうか。以上の問題意識から,本研究で は,子どもたちの可能性を引き出す教師の評価の在り方を追究していく。
Ⅰ 研 究 方 法
本研究の目的は,子どもたちが自分の成長を実感し,可能性を見出していくことが できる,教師の学習評価について追究することである。まず,文献研究を通して,今 日の学習評価の現状と課題について,さらに今後導入することが望ましいと考える形 成的アセスメントについて明らかにする。次に,国立教育政策研究所(以下,国研)
が示す評価規準での子どもの見方と,形成的アセスメントの事例として,富山市立堀 川小学校(以下,堀川小学校)における「子どもの自己形成を見取る視点」での子ども の見方を比較分析し,考察を行う。その際,自己の授業実践や,授業観察の事例を取 り上げ,二つの評価の視点から一人の児童を評価し,両者の違いを明らかにしていく。
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Ⅱ 今日の学習評価の現状と課題
今日の多くの学校において,一般的に用いられている評価規準は,管見の限りでは あるが,国研が示しているものがモデルとなっているように思われる。
国研の「学習評価の在り方」に関する考え方は,「評価規準の作成のための参考資 料」(2)の中で,示されており,ここでは,平成12年の教育課程審議会答申「児童生徒 の学習と教育課程の実施状況の評価の在り方について」(3)の「指導要録の取り扱い」
の項が引用されていることから,この答申の考え方に基づいているものと考えられ る。
教育課程審議会答申「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の評価の在り方につい て」の「指導要録の取扱い」においては,「現行学習指導要領の下においても,目標 に準拠した評価である観点別学習状況の評価を基本とし,従前の四つの観点により,
実現の状況を3段階で評価することを基本的に維持すること。」と述べられている。
ここで言われている「四つの観点により,実現の状況を3段階で評価する」という評 価の方法は,新学習指導要領を踏まえ,「関心・意欲・態度」,「思考・判断・表現」,
「技能」及び「知識・理解」と変化しているものの,今日の学校現場においても継続 して行われているものである。
このような従来の評価の方法では,子ども一人ひとりの学習の結果を計測するた め,目標に対する達成状況を明確にすることができる。また,その評価データは,教 師にとって自己の実践を振り返るための指標ともなる。しかし,このような評価の方 法について,佐伯胖は以下のように述べている。
ものごとを評価するとき,単一の評価尺度だけで序列をつくるという見方を捨 てることである。一つのテストを施せば,クラス全体に一つの序列がつく。これ は否定すべくものでない事実である。わたしが言おうとしているのは,テストが いけないということではない。わたしが強調したいことは,一つの序列で何もか もを評価してはならないということである。(中略)ものごとには,互いに比較 することのできない評価基準による,多元的な価値というものがある……(4)
国研が示す評価規準には4つの観点があるが,あらかじめ定められた観点からすべ ての子どもの学習状況の結果を評価するという意味では,単一の評価尺度といえるだ ろう。佐伯は,子どもたちにおいても,単一の評価尺度では比較することのできない
「多元的な価値」があると述べ,単一の評価尺度ですべてを評価することの危険性を 指摘している。国研の評価規準は,学習指導要領の目標と内容からみた学習状況の達 成を測る上では重要であるが,それに加えて,佐伯の指摘するように「多元的な価
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値」を評価することができる多様な視点をもった評価が必要ではないだろうか。
教師からの評価は子どもたちに大きな影響を与えていると考える。今日一般的に行 われている教師からの単一の尺度による評価のみでは,「クラス全体に一つの序列が つき」,その序列で低い順位の子どもは,自分の可能性を感じ難いという状況が生ま れているのではないかと思われる。そのため,単一の尺度による評価のみでなく,子 どもの「多元的な価値」を評価する手だてを考えていく必要があると考える。
Ⅲ 形成的アセスメントの可能性
では具体的にどのような評価が子どもの「多元的な価値」を評価していくことを可 能とするのだろうか。筆者はここで,OECD教育研究革新センターの提唱する「形成 的アセスメント」という考え方を取りあげたい。
1 「形成的アセスメント」
OECD
教育革新センター編著『形成的アセスメントと学力』(明石書店,2008)に おいて,「形成的アセスメント」とは,「生徒の学習ニーズを確認し,それに合わせて 適切な授業を進めるための,生徒の理解と学力進歩に関する頻繁かつ対話型(インタ ラクティブ)のアセスメント」(5)であると定義されている。「形成的アセスメント」の 特徴,「形成的アセスメント」と従来の評価の大きな違いとしては次の2点が挙げら れる。1点目は,「対話型」ということである。この「対話」とは,教師と子どもの対話,
教師と教師の対話,子ども同士の対話である。教師の一方的な評価だけでなく,対話 を通した相互作用の中で評価をする。教師と子どもの相互作用の中で評価するという ことは,教師が子どもの表面的な言動を見て評価するのではなく,子どもの言動から 教師が感じたことを子どもに問いなおしたり,また子どもが教師に対して考えを述べ たりする中で,子どもの潜在的な部分にせまり評価を成立させるということである。
こうした「対話」活動からは,様々な評価の観点を見出すことができ,このことは,
決められた単一の尺度による評価ではなく,一人ひとりのニーズに応じた尺度での評 価を可能にする。
2点目に,「形成的アセスメント」は,「未来志向型」ということである。「形成的 アセスメント」は,「学習者が,自らの学習の中でどこにいるのか,どこへ行く必要 があるか,そしてどのようにすれば最善にそこにたどり着くのかを,決めるために,
学習者と教師によって(力・心を合わせて=協同で協働で)使われる証拠を探し解釈 する(見取り,見立て,見究める)プロセス」(6)であるとされている。「自らの学習の 中でどこにいるのか,どこへ行く必要があるか,そしてどのようにすれば最善にそこ にたどり着くのか」という視点は,子どもがどのように学びを進めていこうとしてい
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るのかという,学びの過程を見ようとするものである。過程を見ることを通して,子 どもがどのような学びを描いていこうとしているのか,その学びを実現するための手 立ては何かということも評価する。このように子どもの姿から,子どもの願いをとら え,その願いの実現へ向けて評価していこうとすることから,「未来志向型」である とされている。
以上のことから,形成的アセスメントを導入することにより,単一の評価で子ども を見ていくのではなく,一人ひとりの学びの過程を重視した評価をしていくことが可 能ではないかと考えることができる。学びの過程を評価していくことが「多元的な価 値」を評価することになると考える。
2 富山市立堀川小学校の評価の視点
ここで馬場百々子が,堀川小学校の評価の視点と「形成的アセスメント」の考え方 は「合い通じるものである」(7)と述べていることを受け,富山市立堀川小学校の学習 評価について取り上げたい。
堀川小学校において,子どもの成長をどのようにとらえるかという評価の議論は
「対話型」(教師と教師,教師と子ども,子どもと子ども)で行われており,かつ「未 来志向型」で行われている。
富山市立堀川小学校著『子どもの学びと自己形成』(明治図書,2006)に掲載され ている実践事例からは,教師と教師,教師と子ども,子ども同士の対話から,一人ひ とりのニーズに応じた評価をしようとする取り組みが見て取れる。ここでは,教師と 子どもの対話の事例をあげる。教師と教師,子ども同士の対話は(注)を参照してい ただきたい1。
4年単元「ようこそ わくわくタウンへ」の授業において,教師と子どもの対話が 見られる。本単元では,「わくわくタウン」という町を作っていく活動であり,藤田 君はわくわくタウンの中にスーパーを作っていた。藤田君は,スーパーを作ったこと に自信を持ち,たくさんの友達がスーパーに来てくれることを楽しみにしていた。そ の中で,藤田君は「招待状を配る」と言いながらも何もすることなく,お店の中で寝 転んで漫画を読む姿があった。それを見た教師は,「どうして 漫 画 を 読 ん で い る の?」と尋ねた。藤田君は,「読んでいないよ。待ってるの」と返答する。「事情を聞 いていると,藤田君はすでに朝活動のうちに友達を誘っていたのである。」(8)教師は,
漫画を読んでいる姿を見て納得がいかず,藤田君に問いかけることによって,藤田君 を知ろうとしていると見ることができる。このように,対話することで藤田君という 一人の子どものニーズに応じた評価をしようとしている。
また,堀川小学校の評価観は,「自己形成を生き生きと描く」ことであるとされ,
その具体は以下の引用に端的に述べられている。
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①個性的な言動の背景をとらえ,くらしをつくるよりどころとなっているものを つかむ。
②自分の世界を広げていく中に,形成しつつあるものをとらえる。
③仲間との関わりの中で自分をみつめ見直す動きから形成しつつある動きをとら え,将来の可能性として描く。
出会った対象(教材)を通して知識や技能を身に付けたり,〔中略〕既成の法 則性を理解したりすることではない。それらのことを身に付けたり,理解したり することで,どのように子どもが自分のくらしを創っていこうとしているのか,
またどのようにものの見方,考え方,感じ方を広げたり,深めたりしつつあるの かを可能性として描き出すことである。
可能性として描くには,まず目の前の子どもをしっかりととらえ理解すること が先決である。それができなければ子どもの新たな可能性が見えてくるだろう し,それを描き出すことによって,子どもに対する具体的な指導の手だてを教師 が明確にすることができる(9)。
子どもが知識や技能を身につける中で,自分の学びをどのように進めていこうとし ているのかという視点で子どもを見ており,本章1で述べた,「形成的アセスメン ト」の特徴的である「未来型志向」と重なる部分が非常に多いと考えられる。
また,堀川小学校では,子どもが「自己形成を生き生きと描く」ための教師の視点 は,次の3点であると考えられている(10)。
ここでいう視点とは,馬場によると,「ある一定の枠の中に,何とか子どもを入れ ようとしたり,ある特定の規準をもち,そこまで何とか高めようとしたりするための ものではない。教材のもつ特性と照らしながら,子どもひとりひとりのよさと可能性 をみつめていくためのものである。」(11)とのことであることから,学習の結果を志向し たものでないことが指摘できよう。
また,上記3つの視点から子どもをとらえるとき,①については「子どもがくらし の中で大切にしているこだわり,よりどころ」に,②は「自分のそれまでの価値観が 突き崩されていく瞬間」,③は「子どもが自己をみつめる契機」と「可能性」に目を 向けていくことが必要であると考えられる。
堀川小学校の評価の視点は,子どものこだわりや価値観がどのように形成しつつあ るのかの過程で評価し,将来それらがどのように形成していくのかも評価していくも のであると考えられ,このことも「形成的アセスメント」における「未来志向型」の 考え方と近いものがあるといえるだろう。
以上のことから,堀川小学校の評価においても,「対話型」であることや「未来志
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向型」であることから,形成的アセスメントとの共通性があると考えることができ る。
Ⅳ 実践からの分析
本章では,国研の評価規準での評価と「形成的アセスメント」の考え方での評価と では,子どもの見え方にどのような違いがあるのかを筆者の授業実践と授業観察の事 例を用いて分析していく。
1 分析方法
筆者が教育実習校で出会った4年生の
M
子さんを,異なる2つの評価の視点から 評価し,比較することを通し,2つの評価の視点による子どもの見え方の違いを考察 する。評価の視点は,多くの学校で用いられている国研の評価規準と,「形成的アセ スメント」の考え方の2つである。「形成的アセスメント」の考え方からの評価をす る際,その具体として,富山市立堀川小学校の「自己形成を生き生きと描く」3つの 視点を用いることとしたい。国研の評価規準による評価においては,4つの観点の内,「関心・意欲・態度」の 観点を取り上げている。「関心・意欲・態度」の観点は,昭和55年の学習指導要録か ら,子どもの学習状況の良し悪しだけではなく,子どもの「関心・意欲・態度」も評 価し,子どもの可能性を評価しようという意図で導入されたものである。この観点を 取り上げた理由としては,観点別学習状況の評価における四つの観点の中で,「形成 的アセスメント」における「未来志向型」の評価の対象に最も近いものだと考えたた めである。「未来志向型」とは,子どもの「知識理解」度を見たり,「技能」の達成度 をみたりするものではない。どちらかと言えば,知識を理解するまで,技能を達成す るまでの「関心・意欲・態度」に目を向けていると考えられる。2つの視点から分析 し,比較するにあたっては,近いものを評価の対象としている必要があると考え,取 り上げる観点を設定した。2つの視点における評価結果は,教職大学院の教授ととも に行った。
2 分析結果
〈事例1〉 5月9日(月) 理科「春の自然」(授業観察)
子どもの事実【小学校4年生(10歳)女児M子さん】
理科「春の自然」本時は単元最後のまとめの時間である。子どもたちは一人ひとり本単 元で学んだことをノートにまとめていた。M子さんは自分が持っている色鉛筆を何本か 無くしてしまい,自分の思う色に塗ることができずに機嫌を損ね,まとめノートの作成を 渋っていた。その時,「友達に貸してもらう?」と筆者は助言した。そのまま渋っていた が,何分か経つと友達から借りて,少しずつではあったが活動を始めた。ちょうどその
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〈事例2〉 5月17日(火) 算数「2桁÷1桁の割り算」(授業観察)
時,M子さん担当のカウンセラーが観察のため教室に入ってきた。なかなか活動しない M子さんの様子を見てカウンセラーはそばに行き,授業が終わるまで個別に声をかけ,
学習の支援を行った。しかし,その後のM子さんはますます姿勢は乱れ,ほとんど活動 することなく授業は終了した。この様子について,担任教師は「M子さんは長時間,個 人指導をされると,クラスの中でできないのは自分だけなのではなかと感じてしまうとこ ろがある。自信を失ってやる気が低下することがある。」と述べていた。
国研の評価規準
【自然事象への関心・意欲・態度】
・身近な動物の活動や植物の成長に興味をも ち,進んでそれらの変化と季節とのかかわ りを調べようとしている(12)。
堀川小学校の子どもを見る視点
① 個性的な言動の背景をとらえ,くらしを つくるよりどころとなっているものをつか む。
評価
観察はしているが,過程を記録することはで きていない。自分の発見を表現したり,分か りやすくまとめようとしたりする意欲も欠け ている。
評価
M子さんが個別指導をされると自信をなく してしまう行動の背景には,根底的に自分を 認めることが苦手であり,自分への自信のな さが伺える。本学級のほとんどの子どもは,
教師の個別指導が入ることを嬉しいと感じて いるようであるが,M子さんは違っている。
個別指導をされている自分をどこかで客観視 し,周りと比べ自分は劣っていると強く感じ るようである。しかし,そこにはM子さん が人の力を借りてできるようになるのではな く,自分でできるようになりたいという願い もあるように感じられる。色鉛筆を借りるこ とを拒むことも,クラスの友達が一人ででき たことを,自分も一人でやりとげ,そのこと を皆に認めてほしいという気持ちの現れでは ないだろうか。
子どもの事実【小学校4年生(10歳)女児M子さん】
算数「2桁÷1桁の割り算」本時は「数直線のまとめ」である。算数では,少人数クラ スで,M子さんは4年生1組2組両方で8人で構成されるグループに所属している。担 当は隣のクラスの女性教師である。
教師は,初めに復習問題を必ず取り入れ,答え合わせの際にグループ全員の子に一通り 発表させる。その中でM子さんも答えを発表し,正解を答えることができた。M子さん は,クラスでの授業よりも自信をもって発言している。復習の後,本時の内容に入り,M 子さんは自分の解き方でどんどん課題を進めている。隣の席のSくんは,同じ課題の理 解が進んでいなかった。それを見たM子さんは,S君に話しかけ,教えはじめた。M子 さんが苦手とする算数を教えている。このような様子を見たのは初めてである。担当教師 も「今日のM子さんはとても生き生きしていて,友達に教えるなんて!」と驚いた。
国研の評価規準
【算数への関心・意欲・態度】
・(何十)÷(何十)の計算を十を単位として 考えれば一位数の計算として求められると いうよさに気付いている。
・暗算を,筆算や見積もりに生かそうとして いる(13)。
堀川小学校の子どもを見る視点
② 自分の世界を広げていく中に,形成しつ つあるものをとらえる。
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〈事例3〉 5月20日(金) 国語説明文「あめんぼはにん者か」(筆者の授業実践)
評価
復習問題の中で,十を単位として考えること がよいと発言しており,そのよさや便利さに 気付き,他の問題にも生かそうとしており,
積極的に学んだことを生かしている。
評価
M子さんは大人数の授業(自分のクラス)
では,失敗を恐れ発表することを拒んでしま う傾向がある。しかし,少人数のグループ学 習においてはM子さんにあったペースで学 び,分からないということを恥ずかしいと感 じずに,安心して学ぶことができている。自 分より少し分からない友達に教えることを通 して,他の人の学びを助け,自分の学びを深 めている。これは落ち着いて自分の学びを作 り出す契機となったのではないだろうか。
自 分 に 自 信 が 持 て な い よ う なM子 さ ん が,本授業を糧に友達に教えるまでにいた り,自分を卑下していたM子さんとは違っ た,生き生きとした表情が見られたことは,
M子さんの中に自分に対する信頼を形成し ているのではないか。
その表情からM子さんは,自身の成長を 実感する喜びを感じているようであった。授 業中,発表することができたこと,友達に教 えて友達に伝わったという経験は,M子さ んの中で自分の殻を破る瞬間だったと考え る。
子どもの事実【小学校4年生(10歳)女児M子さん】
国語 説明文「あめんぼはにん者か」第5時(全9時間)授業中にHくんの疑問を取 り上げ,学級全体で意見交換をした。その疑問とは,「あめんぼは油があると浮かばない のに,なんで油を出しているのですか?」というものである。油が浮いている水では浮か ぶことができないあめんぼが,体から油を出している。その矛盾点を問題にしたH君で あった。何人かの児童もその疑問に共感し互いに考えを伝え合った。児童が口々に自分の 考えを述べ,「なるほど!」などのつぶやきが多く出ていた。M子さんはその時,何も発 言していなかったが,真剣に友達の発言を聞く姿が見られた。授業後の「学びの足あと」
(※筆者が考えたふりかえりカードのこと)に,M子さんは7時間目(前単元を含めて)
にして始めて疑問を書いていた。その疑問とは「なぜ油を出すの?」である。6時間目ま での「学びの足あと」(疑問の欄)には,常に「なし」と大きく記述されているだけであっ た。第10時間目の「学びの足あと」には,「全部わかったよ」と「なぜあめんぼはいる の?」(疑問)との記録があった。
国研の評価規準
【国語への関心・意欲・態度】
・生き物についての知識を得るとともに興味 を広げる(14)。
堀川小学校の子どもを見る視点
③ 仲間との関わりの中で自分をみつめ見直 す動きから形成しつつある動きをとらえ,
将来の可能性として描く 評価
全11時 間 の 授 業 でM子 さ ん が 書 い た 疑 問 は,今回を含め2回である。
M子さんの中では,少しずつ教材に対して 興味を示しているようにみられるが,本単元 を通しての関心は低い。
評価
本授業まで疑問を一度も書いていなかった M子さんが真剣に友達の意見に耳を傾けて いたことは,H君の疑問が教科書通りの疑問 ではなかったからではないだろうか。H君の 本音の本題にぶつかったことが,M子さん
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3 事例からの比較分析の考察
国研の評価規準から見えてきたことは,教えるべき内容に対して,どこまでできた のかという「結果」であった。この評価規準からの評価では,M子さんを,「関心・
意欲が欠けている児童」として評価することとなる。M子さんは,全体的に学力が 低い児童であり,気分によって学びに対する姿勢が変化してしまうため,ある一時点 の「結果」のみで評価することは適切ではないと考えられる。
一方「形成的アセスメント」の視点からは,M子さんが,学びに対して葛藤や喜 びを抱きながらも,前に進もうとする姿や,他者に自分の学びを教えることで自分の 殻を破ろうとする姿をとらえることができた。そのことから,「自分なりに主体的な 学習をつくりだそうとする児童」として見ることができた。「形成的アセスメント」
の視点で見るということは,M子さんにあったものさしを見出し,評価することで ある。そのため,M子さんなりの学びに対する姿の変化を見取ることができたと考 えられる。
これらより,国研の評価規準での子どもの見え方と「形成的アセスメント」での子 どもの見え方に大きな違いがあることが明らかである。教師が,どのような視点で子 どもを見るかによって,一人の子どもをどのようにとらえるかにも変化が現れるので ある。これは,教師が一人の子どもの可能性をとらえることができるかどうかにも関 係が深いと思われる。
教師の子どもへの評価の視点を,一人ひとりの子どもの学びの過程とすることは,
子どもの可能性を探っていこうとすることとなると考える。
まとめにかえて
本研究を通して,「多元的な価値」である子どもの学ぶ過程を評価していくことの 重要性を述べた。学ぶ過程を評価するとは,単に「あの子はこういう子」と決めつけ るのではなく,その子を常に成長しているもの,動的なものだととらえ,その子自身 の過去・現在・未来を理解していくことであると考える。それは,子どもの可能性を とらえる評価といえるだろう。
にとっても,クラスのみんなにとっても学び たいとの意欲を芽生えさせたのではないだろ うか。M子さんは,教科書通りの決められ た学びをすることに対して,緊張感を覚えて いる。しかし,教科書を超えた学びになった ことで,安心して学びを深めようとする契機 になったのではないか。その後の「学び足あ と」も積極的に書こうとする姿が見られ,M 子さんの学びが深まっていく様子が伺える。
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筆者は,堀川小学校の子どもを見る3つの視点を用いたことで,教育実習中では見 ることができなかった
M
子さんの学びの過程を見ることができた。教育実習中は,基本的にこのような視点を持ち合わせていなかったと言える。今ふりかえると,この ような視点を持ち合わせ,子どもを見ることができれば,子どもの可能性の実現へ寄 り添うことができたと感じている。
子ども一人ひとりの可能性を見出し,子どもが自分らしく学びをすすめていくこと ができるよう,学びの過程を評価していくことを,これからの教師生活において生か していきたい。
最後に,興味深い実践を紹介して終わりとする。堀川小学校では,学習指導案の単 元目標に「内容的側面」の目標と「生き方の側面」の目標との2つの目標を記すよう になっている。「内容的側面」の目標とは,「教材の着眼点やとらえてくる事実,ある いは教材の中で生じてくる事実,あるいは教材の中で生じてくる操作や活動など」に 対する,児童の達成目標のことである。「生き方の側面」の目標とは,「事実と事実の 組み合わせ方,疑問や問題の持ち方,教材の抵抗の乗り越え方(工夫や努力の仕方),
整理の仕方などから描く」目標のことである(15)。
今日の学習評価の方法は,授業目標における達成状況を評価するものである。それ を考えると,これら2つの目標を掲げることは,子どもを様々な側面から評価し,「多 元的な価値」を評価することへとつながるのではないかと考える。今後,授業目標設 定の観点からも,学習評価について研究を進めていきたいと考えている。
注
1 教師と教師の対話:富山市立堀川小学校著『自己実現をはかる授業』1994.9 P.200 子どもと子どもの対話:同上 P.106―107
引 用 文 献
(1) 重松鷹泰『学習指導研修』「教師自身の自立のために」教育開発研究所 1984.8 P.29―30
(2) 国立教育政策研究所 教育課程研究センター「評価基準の作成のための参考資料」
2011.11 P.1
(3) 教育課程審議会答申「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の評価の在り方につい て」2000.12.4
(4) 佐伯胖『「学び」を問いつづけて』2003.12.10 初版第2刷発行 P.68―69
(5) OECD教育研究革新センター編著 有本昌弘訳(2008)『形成的アセスメントと学力
―人格形成のための対話型学習をめざして―』初版第1刷 明石図書 P.17
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(6)「創価教育と21世紀の教育改革」『聖教新聞』2011.6.29 朝刊 5 ・7―8
(7) 馬場百々子「生きる力を育む教育と自己形成を支えるアセスメント」『創価大学教育 学論集 第62号』2011.1.31 P.128
(8) 富山市立堀川小学校著『自己実現をはかる授業』1994.9 P.70―71
(9)(7)と同じ P.127
(10) 富山県立堀川小学校著『子どもの学びと自己形成―子どもの危機を救うこれからの評 価観―』2006.7 P.62―64
(11)(9)と同じ P.127
(12) 国立教育研究所「評価規準作成のための参考資料」2010.11 P.117
(13) 同上P.87
(14) 同上P.20
(15)(8)と同じ P.28
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