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(1)

研究機関近況

分子腫瘍学センター 活動報告!

分子腫瘍学センターの研究成果概要 "

分子腫瘍学センター長 医学部教授 黒 木 政 秀

はじめに

福岡大学分子腫瘍学センターは、この3月で 第二期の5年(2002−2006年度)を終了した。

前回に続いて研究成果を整理し紹介する。

成果の概要:プロジェクト

!

消化器癌 4.ヒト抗体/HLA複合体による

T

細胞の腫 瘍ターゲッティング(黒木 求)

体内で癌化した細胞を排除するためには、細 胞傷害性

T

細胞(CTL)が重要な役割を果たし ている。CTLが変異した自己を見つけ排除す るためには、その

T

細胞 レ セ プ タ ー(TCR)

で、標的細胞上にある自己の腫瘍組織適合性抗 原(HLA)と

HLA

が提示する癌抗原ペプチド を併せて認識する必要がある。したがって

CTL

が効率よく標的細胞を傷害するためには、標的 細胞表面に

HLA

が十分量発現していなければ ならない。細胞が癌化することにより体細胞の

HLA

の発現はしばしば低下や消失し、癌の増 殖や転移が亢進する。一方癌細胞には、癌化で 細胞表面に発現が増加した種々の腫瘍関連抗原 がある。黒木(求)らは、ヒトの代表的な腫瘍 関連抗原である

CEA

に対する抗体 と

HLA

分 子の遺伝子を組み合わせて融合タンパクを作り、

HLA

発現の低下した癌細胞に、本来ウイルス 抗原に対して反応する

CTL

を誘導し働かせる ことを試みた。インフルエンザウイルスやサイ トメガロウイルスの抗原ペプチドを提示できる

HLA-A

24の遺伝子、抗

CEA

ヒト抗体の

H

鎖可 変部遺伝子および

L

鎖可変部遺伝子を結合さ せた組み換え遺伝子を作製し、大腸菌にその融

合タンパクを作らせた。このタンパクを用いる ことで、本来インフルエンザウイルスやサイト メガロウイルスなどに対して働く

T

細胞を、

HLA

の発現に関係なく

CEA

発現癌細胞をター ゲッティングでき、癌細胞を傷害させることが 可能となった。

5.ヒト

scFv

抗体/TCR・融合遺伝子による

T

細胞の腫瘍ターゲッティング(芝口浩智)

癌の治療でしばしば問題となるのは、前記し たように腫瘍細胞で

HLA

が消失するかあるい は機能不全となり、癌細胞由来の癌ペプチドを

CTL

に提示できないために、CTLの攻撃を免 れることである。芝口らは、この問題を回避す るために、CEAに対する抗体遺伝子と

TCR

遺 伝子とのキメラ融合遺伝子を作製し、CTLに 遺伝子導入してヒト抗体/TCR・融合タンパク を発現させることで、CTLを

HLA

の発現の有 無には関係なく癌細胞にターゲッティングし殺 傷することを証明した。しかしながら、当初用 いた

CEA

特異的なモノクローナル抗体の可変 領域はマウス由来でヒトにとって異物であるた め、ヒトへの応用を考える場合その免疫原性が 問題となる。そのため、黒木(政)らが新たに 作製したヒト抗

CEA

モノクローナル抗体の遺 伝子を利用することにした。まず、ヒト抗

CEA

抗体の可変領域遺伝子を単離した後、ヒト単鎖 抗体(scFv)の遺伝子を作製した。次いで、ヒ ト

scFv/TCR・融合遺伝子を構築し、ヒトの CTL

に導入して抗腫瘍効果を検討した。その結果、

ヒト抗

CEA scFv

抗体/TCR・融合遺伝子を導

―13―

(2)

入した

CTL

は、ヒト胃癌細胞

MKN

‐45にター ゲッティングでき、抗腫瘍効果を発揮すること を証明した。この結果は、ヒト抗

CEA scFv

抗 体/TCR・融合遺伝子導入

CTL

は、癌細胞上 の

HLA

の発現の有無にかかわらず、癌の免疫 療法の一つとして有望であることを明らかにし た。

6.カプセル形成固形癌に対する新抗癌剤・球 状ミニタンパク質の開発(李 相男)

李らは、細胞膜に作用しチャンネルを形成し て細胞死に導く両親媒性タンパク質やペプチド の作製に成功している。まず、アミノ酸69残基 からなる球状ミニタンパク質(SGP)をデザイ ンし作製した。SGPは、癌細胞に対してはア ポトーシスを引き起こし、ヌードマウス移植カ ポジ肉腫に対して強い抗腫瘍活性を示す。その 後、新たな3つ

SGP

誘導体:アラニンオリゴ マーを脂溶性の高いロイシン(L)オリゴマー に置換し溶血毒性減少を期待した

SGP-L、分

子全体の脂溶性を減らし毒性の低下と安定性の 向上を目指した

SGP

‐5、そして体内分解を避 け細胞にネクローシスを引き起こす以下の濃度 でアポトーシスを誘導する

D-SGP

を作製し、

その抗腫瘍効果と溶血毒性を検討した。その結 果、ヒトの胃癌細胞や脳腫瘍であるグリオーマ を移植したヌードマウスにおいて、D-SGPや

SGP

‐5は有意にその増殖を抑制した。これら の

SGP

の溶血毒性を抗癌剤マイトマイシン

C

と比較したところ、より弱いものであった。

李らは、さらに新たな

SGP

誘導体4つをデ ザイン作製した。一つは

SGP-L

のロイシンを

D−体にした SGP-DL

である。あとの3つは、

アミノ酸18個からなるペプチドで13個が疎水性 のアミノ酸で5個が親水性のアミノ酸であるた め

Hel

13‐5と名付けたが、さらに3個の ア ミ ノ酸を

D−体に置換したものを Hel

13‐5D3、

5個のアミノ酸を

D−体に置換したものを Hel

13‐5D5と命名した。これらの4つ

SGP

誘導

体のヒト肝細胞癌

HepG2に対する抗腫瘍活性

と溶血毒性を比較したところ、特に

Hel

13‐5D 5は細胞傷害活性が強く、一方溶血毒性は著明 に低下した。以上の結果は、膜へ作用して癌細 胞毒性を示すタンパク質やペプチドに

D−アミ

ノ酸を導入することにより、これらの局所的応 用のみならず全身投与への可能性を示し注目さ れた。

7.超音波力学を利用した新しい遺伝子導入治 療法の開発(立花克郎)

近年、診断用の超音波技術は目覚ましい進歩 を遂げてきた。現在でとくに注目を集めている のは、薬物送達システム(DDS)への超音波の 応用や超音波造影剤を組合せた遺伝子治療への 応用などである。立花らは、マウスの大腿部の 骨格筋内へ造影剤のオプジゾンと

GFP

‐プラス ミド

DNA

の混合物を筋肉注射した後に超音波 照射し、2週間後に組織学的に遺伝子の発現率 を測定したところ、遺伝子導入率がコントロー ル群と比べ10倍以上増強されていた。超音波を 用いてプラスミド

DNA

の状態で効率的に遺伝 子治療が出来れば、ウイルスを使わずに遺伝子 治療を行い、血管新生または血管新生阻害を誘 発させて毒性の低い治療法が確立される可能性 が高い。立花らはまた、オブジゾンと血管新生 作用も有する肝細胞増殖因子(HGF)の遺伝子 を併用してウサギの虚血下肢モデルに血管新生 を誘発させ、コントロール群より高い血流量を 得ることに成功した。今後はこの手法は心筋や 脳における血管新生に応用されると期待されて いる。逆に血管新生抑制薬物を同様の手法でマ ウスに実験したところ、卵巣癌の増殖を抑える ことも可能であった。以上の結果は、超音波で の遺伝子導入が可能であることを示しており、

今後その導入効率が制御できれば、癌を含めた あらゆる疾患に対する非侵襲的な新しい治療方 法として大いに期待できることを示唆している。

8.HGFのアンタゴニスト遺伝導入による膵

―14―

(3)

胆道癌治療法の開発(志村英生)

各種の癌治療法は、局所に留まった癌病巣に はかなり有効となってきたが、転移の予防や治 療に有効な手段は少ないのが現状である。膵胆 道癌は、周囲組織進展が早く局所再発や肝転 移・腹膜播種転移などが生じるため、はなはだ 予後が悪い疾患である。正常な組織は転移浸潤 に抵抗性を示すが、何らかの損傷を受けた部位 は転移の温床になりやすい。志村らは、損傷部 位の修復に肝細胞増殖因子(HGF)が関与して 重要な役割を果たすが、これが転移をも助長し ているとの仮説を立て治療法を検討した。HGF 分子の断片ペプチドで

HGF

のアンタゴニスト

でもある

NK4の遺伝子を組み込んだアデノウ

イルスベクターを用意し、ヒトの胆嚢癌細胞

GB-d1の増殖能や浸潤能に与える影響を検討

した。まず

in vitro

の基底膜浸潤モデルである マトリゲルを介した浸潤阻止試験で、GB-d1 に

HGF

をと、GB-d1の運動能は著明に亢進し たが、共培養した腹膜中皮細胞に

NK4遺伝子

を導入すると、GB-d1の浸潤は完全に阻止さ れた。次に、マウスの腹膜播種転移モデルで、

NK4遺伝子導入の効果を検討した。ヌードマ

ウスの腹壁に穿孔創を作り、腹腔内に

GB-d1

を接種した。正常の腹膜に癌転移は起きないが、

創には転移結節を発生した。同時に腹腔内に

NK4遺伝子を組み込んだアデノウイルスベク

ターを投与すると、癌結節出現は著明に抑制さ れ転移は阻止された。以上の結果より、HGF のアンタゴニストを利用した分子標的治療によ る癌再発予防は、外科手術を補助する有力な治 療となると期待された。

9.癌細胞の集団遊走における細胞間接着解離 機構および

MMP

局在機構の解析(鍋島一樹)

細胞の運動能は癌の浸潤において重要な役割 を果たしている。従来、その

in vitro

での研究 は、単一細胞として挙動する白血球と同様に、

酵素処理でばらばらにされた細胞を用いて、単

一細胞移動(SCL)を見るモデルで評価されて きた。しかし、中・高分化型癌が80%以上を占 める大腸癌の

in vivo

の病理組織では、癌細胞 は細胞間接着を保ち腺管あるいは癌胞巣を形成 しつつ浸潤している。鍋島らは、このような浸 潤様式に着目し、これを集団移動様式(CM)

として提唱し、in vitroの

CM

モデルを作製す ることで、より正確な癌の移動機序の解明がで きると考えた。In vitroの

CM

モデル は、ヒ ト 大腸癌から樹立された

L

‐10細胞をチャンバー スライドに接着させ、各種の腫瘍遊走因子を作 用 さ せ る こ と で 作 製 し た。肝 細 胞 増 殖 因 子

(HGF)で刺激すると、接着を保った一層の細 胞シートとして遊走し、先頭の細胞では遊走細 胞に特徴的な先導葉の形成を認めた。この遊走 細胞シートの細胞間を電顕で観察すると、細胞 上部ではデスモゾームを伴って密な細胞接着を 維持しながら遊走し、細胞下部では接着が緩み 先行する細胞の下部へ先導葉類似の細胞突起を 伸ばしながら遊走した。CMモデルの特徴は、

細胞接着からの部分的離脱によって集団として の移動が可能になっている点である。このモデ ルを使い、細胞間の接着因子を解析した結果、

HGF

刺激では

E

‐カドヘリン(EC)とカテニン の発現に変化はなく、接着を離す機構の一つで あるリン酸化も変化しなかった。しかし、

EC・

カテニン複合体の中で

EC

をアクチン細胞骨格 に接続するαカテニン量が減少していた。そこ で、αカテニンを複合体から遊離する

IQGAP1

というタンパクに対して抗体を作製し検討した ところ、IQGAP1は

HGF

刺激によって細胞質 から細胞膜に移動し、EC・カテニン複合体の 中に増加していることが明らかになった。つづ いて鍋島らは、IQGAP1タンパクの体内にお ける役割を解析する目的で、その分布を大腸癌、

卵巣癌、食道癌の病理標本を利用して免疫組織 化学的に検討し た。そ の 結 果、IQGAP1発 現 は、正常組織に比べてこれらの癌組織において

―15―

(4)

は有意に増強し、さらにその高発現とびまん性 発現パターンが患者の生存率と有意に相関して いること、すなわち高発現とびまん性発現は、

それぞれ予後に悪く影響することを証明した。

以上の結果は、細胞間接着解離機序や

MMP

の 遊走細胞集団先頭への局在機序を解明し、その 制御方法を模索すれば、癌の浸潤や転移の抑制 につながることを示唆している。

10.肝細胞癌における腫瘍随伴症候群の解析

(早田哲郎/向坂彰太郎)

腫瘍随伴症候群とは、腫瘍細胞がある生理活 性を有する物質を過剰生産することに起因する 症候群であり、肝細胞癌は比較的この腫瘍随伴 症候群を伴いやすいことで知られている。肝細 胞癌でしばしば見られる腫瘍随伴症候群には、

高コレステロール血症や低血糖あるいは赤血球 増多症や高カルシウム血症などがあるが、この 中で最も頻度が高いのは高コレステロール血症 である。肝細胞癌に伴う高コレステロール血症 の機序は、コレステロールのフィードバック機 構の破綻によりその合成亢進が起こる結果と推 測されてきたが、それ以上の機序は不明であっ た。正常肝細胞におけるコレステロールの合成 の調節には、細胞内 で 働 く

HMG-CoA

還 元 酵 素と細胞表面の

LDL

レセプターが重要な役割 を演じており、HMG-CoA還元酵素は合成に対 し促進的に、LDLによる

LDL

レセプターから のシグナルは抑制的に作用する。早田/向坂ら は、これらの事実に注目し、LDLレセプター の発現について高コレステロール血症を伴う肝 細胞癌群と伴わない群で比較した。免疫組織化 学的な共焦点レーザー顕微鏡による観察で、高 コ レ ス テ ロ ー ル 血 症 を 伴 う 症 例 で は 癌 部 の

LDL

レセプターの発現は明らかに低下してい た。一方、高コレステロール血症を伴わない症 例では、癌部も非癌部も明瞭に

LDL

レセプター の発現を認めた。そこで、高コレステロール血 症を伴う例につき、19

p

13.2に存在する

LDL

セプター遺伝子のヘテロ接合性消失(LOH)

を調べた結果、1/3の症例で

LOH

を認めた。

以上の結果は、肝細胞癌に伴う高コレステロー ル血症は、癌細胞における

LDL

レセプターの 発現低下が原因であることを示しており、LDL レセプター遺伝子の

LOH

をはじめとする遺伝 子異常が、その基礎に存在する可能性を示唆し た。

一方、肝細胞の発癌の原因と し て、最 近

B

型肝炎ウイルス(HBV)の重要性が再度注目 されている。その理由は、非

A

B

型肝炎に 起こった肝細胞癌を調べると、その約半数で肝 組織内に

HBV

が検出され、血清学的に明らか でない

B

型肝炎ウイルスいわゆる不顕性

B

型 肝炎ウイルスの発癌への関与が明らかになって きたことなどである。また、この不顕性

B

型 肝炎ウイルスについては、C型肝炎における肝 細胞の発癌への関与までもが示唆されるように なった。さらに、元々はエイズウイルス(HIV)

の治療薬として開発された核酸アナログのラミ ブジンは、血中

HBV

を減少させ肝炎を鎮静化 することから、現在では

B

型肝炎治療の主役 となっている。最近、ラミブジンが

B

型肝炎 患者における肝細胞癌発生を減少させることが 示唆された。早田/向坂らは、このような事実 に注目し、ラミブジンによる発癌抑制のメカニ ズムを調べるために、HBV-DNA断片のホスト

DNA

への取り込み(HBxインテグレーション)

を含めた肝組織内の

HBV

の状態を、ラミブジ ン治療前後で比較した。その結果、ラミブジン 治療前の肝生検組織で認められた

HBx

インテ グレーションは、治療開始後3年目の肝組織に おいて、全ての症例で明らかに減少しており、

ラミブジンは

HBx

インテグレーションを減少 させることで効果を発揮していることが示唆さ れた。

―16―

(5)

H2S ppm

Day

H2S ppm

Day

研究機関近況

資源循環・環境制御システム研究所

浸漬した石膏ボードからの硫化水素の発生と 薬剤添加による発生抑制

資源循環・環境システム研究所 准教授 武 下 俊 宏

学術フロンティア推進事業の第二期最終年度 の研究報告会が、平成19年4月19日

$

に資源循 環・環境制御システム研究所で開催された。今 回はその時報告した内容について紹介する。

1.はじめに

石膏ボードは住宅やオフィスの天井や壁に使 われている一般的な建築材料である。これまで 化学的に安定と考えられてきた石膏ボードであ るが、廃石膏ボードを含む建築解体物の埋め立 てを行った処分場で硫化水素が発生し問題と なった。その後、短期間のうちに廃石膏ボード の最終処分方法が二転三転したため、関連業者 はその都度対応に追われ苦慮することとなった。

今回は、石膏ボードに含まれる硫化水素の発 生原因となる有機物質を明確化し、さらに試薬 を用いた実験系で硫化水素の生成を確認するこ

と、また硫化水素発生期における硫化水素発生 抑制剤の添加効果を確認することを目的とした。

2.実験方法

市販の石膏ボードを購入し、そこから10

10

!

正方の石膏ボード片を切り取った。はじめ に、石膏ボードの構成部位ごとの硫化水素発生 状況を調べるため、石膏ボード片両面の板紙を 注意深くナイフで剥ぎ取った。分離した板紙と 石膏芯材は500

#

の耐圧ガラス容器にそれぞれ 入れ200

#

の純水を加えて浸漬した。

次に、石膏ボードに含まれる化学成分を調査 した。物質安全データシートによると、石膏ボー ドには有機成分として、デンプン、セルロース、

パラフィンワックスなどが含まれていると報告 されている。そこで、市販試薬の硫酸カルシウ ム二水和物10

"

とこれらの有機物0.1

"

との混

図1 純水に浸漬した石膏ボード、石膏ボード板紙、

および石膏芯材からの硫化水素発生

記号 ■;石膏ボード、▲;石膏芯材、●;板紙

図2 硫酸カルシウム二水和物と有機物との混合物か ら発生した硫化水素濃度の経時変化

記号 ▲;トウモロコシデンプン、■;セルロース

―17―

(6)

3000 2500 2000 1500 1000 500 0

0

0.02 0.06

5% SC−381

0.1 0.14 0.18 Day 10 15 25 31 33

ml

H

2

S  ppm

合物を500

#

容のガラス容器に入れ、さらに200

#

の浸出水を加えて浸漬した。ここで用いた浸 出水は、硫化水素の発生が認められた別の実験 槽から採取した試料水で、曝気処理して使用し た。

最後に硫化水素発生抑制剤の効果と最適添加 量の検討を行った。硫化水素発生抑制剤は川崎 化成工業

%

より提供いただいた

SC‐3

81剤(原 液は50%溶液)を純水で10倍希釈した5%溶液 を使用した。切り取った石膏ボード片(10

10

!

)をさらに2

!

×5

!

に切断して全量を500

#

のガラス容器に入れ、純水200

#

を加えて浸 漬した。この容器を複数本用意し、5%SC‐381 剤を0.02〜0.20

#

まで0.02

#

刻みで変化させて 添加した。各容器のヘッドスペースガスは純窒 素で置換し、その後シリコン栓で密閉した。容 器は全て35

$

の恒温槽に静置した。殺菌や硫酸 還元菌の接種は実験を通して特に行わなかった。

3.実験結果

石膏ボードの構成部位ごとの硫化水素発生状 況を図1に示す。純水に浸漬後、硫化水素の発 生は全ての試料について認められた。その後板 紙から発生した硫化水素濃度は石膏芯材から発 生した濃度より最大値で約4倍高い約3800

ppm

を示した。この結果は硫酸還元菌により硫化水

素発生のために利用された有機物質が、主に石 膏ボードの板紙に含まれていることを示唆する ものである。さらにこの結果は、硫化水素の発 生に関わる水以外の全ての成分が石膏ボード自 体にすでに含まれていることも示している。

次に硫化水素の発生に関係する石膏ボードに 含まれる有機物質を明確にするため、試薬によ る実験を行った。結果を図2に示す。硫化水素 は硫酸カルシウム二水和物とデンプンの混合物 を含む容器でのみ生産され、その濃度は浸漬31 日 目 に 約8100

ppm

に 達 し た。一 方、水 酸 化 カ ルシウム二水和物とセルロースの混合物を含む 容器では、硫化水素は実験期間中には生産され なかった。パラフィンワックスの場合も硫化水 素の発生は認められなかった(このデータは図 2に示していない)。以上の結果から、デンプ ンが硫化水素発生の主要因となる有機物質であ ることが明らかになった。

最後に硫化水素発生抑制剤の添加効果と最適 添加量の検討を行った。結果を図3に示す。5%

SC‐3

81剤を0.18

#

および0.20

#

添加した試料 では硫化水素の発生が認められず、本実験条件 では石膏ボー ド100

"

当 た り5%SC‐381剤 を 最低0.18

#

添加すれば硫化水素の発生を抑制で きることが明らかになった。

現在、廃石膏ボードを受け入れて埋め立て処 分している関東の処分場の協力を得て本薬剤を 用いた実証実験を行っている(図4)。

図3 5%SC‐381剤添加量と発生した硫化水素濃度 の経時変化

左横軸;薬剤添加量、右横軸;恒温槽保持時間、

縦軸;硫化水素濃度 図4 SC‐381剤による処分場での発生抑制実験

―18―

(7)

研究機関近況 環境科学技術研究所

福岡県産炭地域振興センター研究開発事業に関わる 共同研究を終えて

工学部化学システム工学科助教 東 英 子 環境科学技術研究所長 中 野 勝 之

はじめに

平成17年度より、財団法人福岡県産炭地域振 興センター研究開発事業に関わる共同研究とし て、㈱石橋製作所(本社:福岡県直方市)、九 州大学、福岡県工業技術センターとともに「冷 却水循環システムにおけるレジオネラ対策のた めの光触媒装置の実用化」の研究を行い、18年 度末で約2年の研究期間を終了した。今回はそ の報告を行う。

研究の概要

冷却塔を使用する冷却水循環システムは空調 設備などに広く用いられている。このシステム では熱交換器で温かいものを冷まして、代わり に温まった水を循環させながら蒸発させて気化 熱を奪うことで冷やして再利用する。水が蒸発 することで循環冷却水中の溶存成分(カルシウ ム等の金属イオン)は濃縮されていくが、これ がスケールとして配管、設備に付着し、レジオ ネラ菌等が増殖する一因となっている。した がって冷却水循環システムではレジオネラ菌の 抑制が義務付けられており、現在は塩素系薬剤 を用いた薬剤処理が一般的であるが、その環境 への負荷が懸念されている。㈱石橋製作所では スケールの原因となる冷却水中の溶存成分を電 気分解により強制析出させ、物理的に除去する 装置を販売しており、新規な方法として注目さ れている。

一方、チタニア(酸化チタン、TiO)光触媒

は、環境科学技術研究所におけるこれまでの研 究で、レジオネラ菌などの殺菌が可能であるこ とが明らかとなったが、実用化に際しては、触 媒表面へのスケール等汚れの付着により触媒劣 化がおこると予想される。上述したスケール除 去システムと組み合わせることにより、設備等 へのスケール付着防止、レジオネラ菌の殺菌を 同時におこない、薬剤の使用を低減できる画期 的な装置の実用化を目指し、本研究を開始した。

また、光触媒を励起させる新規なエネルギーと して電磁誘導エネルギーの利用の可能性も同時 に検討した。

研究の成果

筆者らが開発したチタニア光触媒によるレジ オネラ菌の殺菌はこれまでシャーレなど小規模 な実験装置を用いておこなってきた。今回はチ タニア光触媒をガラス管内壁にコーティングし て図1に示す循環型の光触媒反応器を作製した。

これを用いてレジオネラ菌の殺菌操作(実験条 件;対象菌:レジオネラ菌、初生菌数:22,000

〜25,000

cfu/ml、反応溶液体積:1

00

ml、光源:

ブ ラ ッ ク ラ イ ト(6W×4本)、流 速:200

ml/min)を 行 い、結 果 を 図2に 示 す。菌 に 対

して何も処理を施していない

Control

では、時 間が経過しても菌数に大きな変化がなかった。

ブラックライトにより紫外光(UV)照射をお こなった場合、UVの影響により菌数が減少し た。チタニア光触媒を用いると菌数の減少の度

―19―

(8)

合いがさらに大きくなった。レジオネラ菌の減 少が一次反応に従うと仮定して算出した殺菌速 度定数を図中に示している。チタニア光触媒を 用いたときの殺菌速度定数は、UV照射のみの 場合と比較して約2倍大きく、チタニア光触媒 による殺菌効果の有効性を明らかにすることが できた。

次に実用化を考えて

UV

光源としてブラック ライトを殺菌灯に変更したところ、殺菌速度定 数は0.418

min

−1となり、ブラックライト使用時 の約20倍となった。また、流速を大きくすると

(例えば、1000

ml/min

程度)さらに殺菌速度 が大きくなること、走査型電子顕微鏡での殺菌 操作前後のレジオネラ菌の形状観察により、光 触媒を用いた場合のみ、菌の細胞壁などが破壊 され、原型を留めていないことなどを明らかに した。

総合的な成果として、現行の電気分解式ス

ケール除去装置(SRS、図3)は、溶存成分の 析出メカニズムや最適な運転条件などほとんど 明らかにされておらず、用いる循環水の水質に より効果に差が生じるなどの問題点があったが、

今回、福岡県工業技術センターによる詳細な基 礎データの集積により、その一部が明らかと なった。また、SRS装置および光触媒装置を 組み合わせた実証プラントを作製した。これら の組み合わせによる効果や起こりうる問題点を 把握するための実験を開始した。さらに、光触 媒を励起させる新規エネルギーとして超音波装 置を利用した電磁誘導エネルギーによる光触媒 活性化の実験も試み、その可能性が見出せた。

おわりに

本研究は㈱石橋製作所、福岡県工業技術セン ター、九州大学とともに産官学連携の共同研究 として行い、互いの得意なエリアでの実験を積 み重ねることで、実用化には至らなかったが、

一定の成果を得られたと考えている。今回、2 年間という研究期間であったが、ファンドの申 請、決定後、研究費が手元に届いてから、実験 結果をまとめ、報告書を作成する実労時間は非 常に短く、その限られた時間内に成果を達成す る難しさを痛感した。今後は実証プラントによ るデータの蓄積、問題点の把握、また新規励起 エネルギーの利用などやり残した点を検討して いきたい。

図1 循環型光触媒装置概略図

図3 スケール除去システムの概略図

図2 レジオネラ菌の生存率の経時変化

―20―

参照

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