研究機関近況
分子腫瘍学センター 活動報告!
分子腫瘍学センターの研究成果概要 !
分子腫瘍学センター長 医学部教授 黒 木 政 秀
はじめに
福岡大学分子腫瘍学センターは、「癌および 関連疾患の診断と治療に関する遺伝子工学的新 戦略」を開発プロジェクトに掲げて1997年(平 成9年)に第一期(1997−2001年)をスタート した。その間、当大学の医学研究科を中心に遺 伝子操作を駆使して癌の新しい診断法や治療法 の開発に挑んでいる指導者を結集し、組織内の 有機的な連携による情報交換と技術協力を容易 にすることで癌克服におけるそれぞれの研究の 位置づけを明確にし、各自が独自に進めていた 技術開発をより効率的に前進させてきた。
第二期(2002−2006年)の今回のプロジェク トでは、これら癌および関連疾患に対する新し い診断法や治療法に関する新技術開発の中で、
本医学研究科における研究により、とくに進展 が期待できる消化器癌[プロジェクト!]と造 血器腫瘍[プロジェクト"]に対する新しい診 断法や治療法の具体化を進め、社会的にも大き く貢献することを目標に進めてきた。第二期最 終年度の後半に入り、これから数回にわたって、
これまで進めてきた研究の概要と研究組織なら びに研究成果の概要を整理し紹介する。
研究の概要
1.消化器癌に対する新しい免疫療法および遺 伝子療法の確立
ヒトの代表的な腫瘍関連抗原である癌胎児性 抗原(CEA)および
MK
‐1抗原は、癌の免 疫 療法の標的分子としても注目されている。一方、ヒト染色体導入マウスによるヒト抗体の作製法 が最近注目されている。黒木グループは、新し いヒト抗
CEA
抗体およびヒト抗MK
‐1抗体を 作製し、その抗体遺伝子を利用した消化器癌に 対 す る 新 し い 免 疫 遺 伝 子 療 法、と く にMHC
(HLA)非依存的にT細胞免疫療法の開発を めざした。また、山下グループは、癌細胞に特 異的に集積した薬品を超音波で励起させて癌細 胞を殺す方法、すなわち超音波による切らない 癌治療をめざしており注目されている。この方 法と黒木らのヒト抗腫瘍抗体を組み合わせた超 音波免疫療法の開発を試みた。また、立花グルー プは、超音波照射による癌細胞への新しい遺伝 子導入法も開発して国際的にも注目を浴びてお り、これを利用した新しい遺伝子療法の開発を 目標とした。一方、李グループは、新しい抗癌 剤として有効な球状ミニ蛋白質(SGP)を開発 して注目されており、これを利用した新しい治 療法の開発も推進してきた。
2.造血器腫瘍に対する分子生物学的診断法お よびバイオ治療法の確立
成 人T細 胞 白 血 病/リ ン パ 腫 は、HTLV‐1 ウイルスが原因でとくに九州に多く、化学療法 が効かない難病である。最近、腫瘍免疫反応で 寛解を得ることがアロ造血幹細胞移植により判 明してきた。一方、バーキットリンパ腫を中心 とする悪性リンパ腫や本邦では研究者が少ない 軟部腫瘍は未解明の部分を多く残す疾患である。
木村および大島グループは、成人T細胞白血病
―20―
を中心とする白血病に対してのT細胞療法およ びワクチン療法の開発を目標とし、また、成人 T細胞白血病/リンパ腫)を中心とする悪性リ ンパ腫において、各種タンパク質の表現型と遺 伝子型を解析することによる最適治療法の選択 と予後因子の同定をめざした。田村グループは、
バーキットリンパ腫をモデルにした
DNA
複製 におけるDNA
結合タンパクの機能解析による 発癌機序の解明と予後因子の同定に挑戦し、ま た、金属プロテアーゼ誘導物質で腫瘍関連タン パク質であるエンプリン発現を解析し悪性リン パ腫の進展様式を検討することによる予後因子 の同定に挑んだ。一方、岩崎グループは、軟部 腫瘍に関して臨床像や病理像と対比した染色体 異常や遺伝子異常の分子生物学的解析に基づく 軟部腫瘍の診断精度の向上を進めた。研究組織
1.研究プロジェクト遂行のための責任体制 研究代表者・黒木政秀は、「福岡大学分子腫 瘍学センター規程」に基づく分子腫瘍学セン ター長として、2つのプロジェクト組織を指揮 するとともに、プロジェクトの進捗状況の中間 報告書作成や最終報告書作成、ならびに学内誌 による研究成果の紹介やセミナー開催の企画お よび予算編成などを統括した。
2.研究者間・研究チームの調整・連携 2つのプロジェクト、すなわち消化器癌を対 象とするプロジェクト!と造血器腫瘍を対象と するプロジェクト"のいずれも基礎医学と臨床 医学の研究者が協力する有機的組織である。プ ロジェクト!では、合計11名の研究者が参加し ており、内訳は医学研究科の基礎医学から5名、
臨床医学から4名、薬学研究科から1名、理学 研究科から1名であった。各研究者は、各人が 対象とする消化器癌(大腸癌、胃癌、肝細胞癌 および膵胆道癌など)の新しい免疫療法(6名)
および遺伝子療法(5名)の開発などを担当し た。一方、造血器腫瘍を対象とするプロジェク
ト"では、6名の研究者が参加しており、内訳
は医学研究科の基礎医学から2名、臨床医学か ら4名であった。各研究者は、それぞれが対象 とする造血器腫瘍(成人T細胞白血病と悪性リ ンパ腫)や軟部腫瘍の分子生物学的診断法(4 名)およびバイオ治療法(2名)の開発を担当 した。研究代表者の指揮の下で、各プロジェク トリーダーが中心となって相互に連絡を取り合 い、補完的ないしは有機的に協力するとともに、
年平均4回の分子腫瘍学センターセミナーを開 催して各人の成果を公開し討議した。
3.研究支援体制
学内における本分子腫瘍学センターの位置づ けは、重要な教育研究施設で福岡大学研究推進 部・付置研究所の一つであり、通常の運営・研 究支援は、福岡大学研究推進部の研究振興課と 研究支援課および福岡大学医学部事務課で行わ れた。また、「福岡大学分子腫瘍学センター規 程」に基づき、研究推進部長、医学部長、医学 研究科長、センター長などを委員とする運営委 員会が各年度に開催され支援していただいた。
4.大学院生・PDの活用状況
とくに、プロジェクト!には、PD1名も常 時参加しており、5年間に邦人は無論のこと。
中国人やエジプト人も採用し活用した。また、
必要に応じてRAも採用した。
5.その他
大学を初めとする学外の研究機関との共同研 究などは、基本的には各研究者レベルで実施し てきた。企業との共同研究などは、福岡大学研 究推進部の産学官連携センターと協力し、特許 申請や製品開発レベルまで達した時点で、各研 究者と綿密な連絡をとって進めてきた。
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研究機関近況
資源循環・環境制御システム研究所
埋戻し用低強度コンクリートとしての焼却灰の 利用に関する研究
資環研 研究開発室長 添 田 政 司
1.はじめに
最終処分場の残余年数は、平成15年度で約13 年余りと逼迫しており、埋立処分に対する環境 保全の面から、新たな用地の確保や建設が困難 な状況となっている1)。また、近年良質な天然 骨材の枯渇が深刻な問題となり西日本地区では 将来的に骨材の供給不足が懸念されており、不 足する天然骨材の代替骨材選定が急務になって いる2)。
そこで本研究は、建設資材の一つとして需要 が多い埋戻し材に適用する焼却灰を用いた低強 度コンクリートを開発しており、これを紹介す る。
2.埋戻し用低強度コンクリート
埋戻し用低強度コンクリートは、米国
ACI
229 委員会で「材齢28日の圧縮強度が8.3N/
"以 下になるように制御されたセメント系スラリー 材料」と定義される制御型低強度材料に準拠し たものとする。この材料の特徴は、流動性・自 己充填性・自己硬化性に優れ、通常の工事で必 要な締固め作業が不要であり、施工後の再掘削 も容易にできることである。3.実験概要 3.1使用材料
結合材として普通ポルトランドセメント(密 度:3.16%/$、略号C)を、混和材として
JIS A
6201のフライアッシュ!種相当(密度:2.36%/$、比表面積4200#/%、略号FA)を、
細骨材として発生場所の異なる焼却灰A、B(以 下A灰、B灰)と焼却灰Bを水洗処理したもの
(以下、水洗B灰)および海砂の計4種類を、
混和剤として高性能AE減水剤(SP8N標準 形)と起泡剤(ファインホーム707)を用いた。
なお、このフライアッシュも電気事業から発生 する指定副産物である。
3.2試験フロー
図1に本研究の試験フローを示す。焼却灰の 物理・化学的性状を把握するため、密度及び吸
図1 低強度コンクリートの試験フロー
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水率(電気抵抗法:JSCE‐
C
506‐2003)、塩化物 イオン含有量(JSCE‐C
502‐1999)および環境 庁告示46号法(以下、46号法)による溶出試験 を行った。配合条件は、既往の研究成果より、
W/B:7
0%、Air:3
0%と一定とした2)。結合材は、セメント の容積に対してフライアッシュを50、70、90%の割合で置換した。細骨材は、各焼却灰の容積 に対して海砂を0、50、100%の割合で置換し た。流動性(JIS A5201)は、フロー値を240±
20"に調整し、V漏斗流下時間及び流動停止時
間(20秒以内)で評価し、圧縮強度(JIS A1108)
は材齢28日で8.3
N/
#以下とした。環境安全性の評価としては、塩分・重金属類 の溶出量を測定した。この溶出量試験は「硬化 したコンクリートからの微量成分溶出試験方法 試案」(以下、微量成分溶出試験)3)に準拠し、
重金属類8項目と、この検液を用いた塩分濃度 の測定を行った。
4.実験結果及び考察
表1に焼却灰の物理・化学的試験結果を示す。
焼却灰は海砂と比べて、密度は小さく吸水率は 高い値を示した。粒径は海砂に比べて粗く、塩 化物イオン含有量が多い。水洗B灰は水洗前(B 灰)と比べて、塩化物イオン含有量が半減した。
表2に46号法による溶出試験結果を示す。A灰 の
Pb
は基準値以上であったが、その他5項目 は基準値以内であった。B灰は6項目すべて基 準値以内であった。図2に流動性試験結果を示す(写真1参照)。
各焼却灰、海砂ともV漏斗流下時間は1.5〜3.0
s、
流動停止時間は15秒以内となり、材料分離、V 漏斗での閉塞も見られない。このことより、焼 却灰を用いても海砂と同等の良好な流動性と材 料分離抵抗性を得ることが可能である。
図3に圧縮強度試験結果を示す。各焼却灰、
海砂および
FA
置換率に関わらず、材齢に伴い 強度は増加し、材齢28日の圧縮強度は8.3N/
#以下を満足した。FA置換率50%の海砂は6 試験項目 単位 海砂 焼却灰
A 焼却灰
B 焼却灰 B(水洗)規定値 表乾密度 %/$ 2.57 1.73 1.62 1.70 ≧2.5 吸水率 % 1.59 38.43 38.30 38.57 ≦3.0 粗粒率 F.M. 2.41 3.69 3.01 3.29 − 塩化物イオン
含有率 % − 0.66 0.54 0.23 ≦0.02
分析 項目
焼却灰 A
焼却灰 B
環境基準
Cd <0.001 <0.001 0.01 Cr(!) 0.013 0.009 0.05 T‐Hg <0.00005 <0.00005 0.0005
Pb 0.159 0.007 0.01 As <0.001 <0.001 0.01 Se <0.001 <0.001 0.01 表1 焼却灰の物理・化学的性状 表2 46号法による溶出試験結果
図2 流動性試験結果
写真1 フロー試験状況
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N/
"程度となり、焼却灰を用いた供試体と比 べて高い値を示したが、他のすべての配合にお いて顕著な差は認められない。このことより、焼却灰は低品質な材料であるものの、海砂と同 様な強度発現の制御が可能であり、低強度コン クリートとして十分利用可能である。
図4に塩分溶出量試験結果を示す。累積塩分 濃度はすべて24時間後の検液の塩分濃度が最も 高い値を示し、経過時間とともに減少している。
焼却灰種の影響は、焼却灰中の塩化物イオン含 有量(表1)の高いA灰がB灰に比べて若干高 い傾向を示した。水洗処理有無の影響は、FA 置換率に関わらず溶出する塩分は4割程度低下 した。水洗B灰と海砂は、ほぼ同程度の値を示 した。
表3に微量成分溶出試験結果を示す。A灰、
B灰および海砂50%置換A灰の3水準で評価し た。A灰は46号法による溶出試験において
Pb
の溶出量が基準値以上(0.159≧0.01)であっ たが、微量成分溶出試験では、基準値以内とな りPb
の安全性が確認できた。他の重金属類も すべて基準値以内であった。B灰は重金属類8 項目のすべてが基準値以内であった。5.まとめ
本研究で得られた結果を以下に示す。
1)A灰、B灰および水洗B灰いずれも、流動 性、圧縮強度を満足した。
2)焼却灰の塩分溶出量は、海砂と比べて大差 なく、初期ほど多く次第に減少した。
3)A灰の46号法溶出試験では
Pb
が確認され たが、微量成分溶出試験では基準値以内となり 環境安全性が確認できた。以上のことから、焼却灰は埋戻し用低強度コ ンクリートとして十分利用可能であると判断さ れる。今後は実用化に向けた取り組みを一層強 め研究を行っていきたいと考えている。
参考文献
1)環境省:循環型社会白書、平成18年版 2)岡本将明ほか:都市ごみ焼却灰の制御型低
強度材料への適用性に関する研究、第61回年 次学術講演会講演概要集、pp901〜902、2006 3)土木学会:コンクリートからの微量成分溶
出に関する現状と課題、コンクリートライブ ラリー111
分析 項目
FA90% FA70%
環境 焼却灰 基準
A
焼却灰 A−50%
焼却灰 B
Cd <0.0001 <0.0001 <0.0001 0.01 Cr(!) 0.011 0.012 0.010 0.05 T‐Hg <0.00005 <0.00005 <0.00005 0.0005
Pb <0.001 <0.001 <0.001 0.01 As <0.006 <0.006 <0.006 0.01 Se <0.002 <0.002 <0.002 0.01 B <0.03 <0.03 <0.03 1
F <0.5 <0.5 <0.5 0.8
図3 圧縮強度試験結果
図4 各供試体の累積塩分濃度 表3 微量成分溶出試験結果
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研究機関近況 高機能物質研究所
実験室超軟X線分光スペクトル測定装置の開発と性能評価
理学部助手 栗 崎 敏 理学部教授 脇 田 久 伸
【序論】
近年、リチウム、アルミニウムやケイ素といっ た軽元素を含んだ新規機能性物質が創成されて いる。これら機能性物質中の軽元素の電子情報 を得るには数
KeV
以下の軟X線や150eV
以下 の超軟X線XANES
スペクトルを測定する必要 がある。しかし、この測定には高強度で安定な 光源が必要であり、通常は放射光を用いて測定 する必要がある。そのため、XANESスペクト ル測定には時間的および場所的な制限がある。これまでに我々は、実験室で超軟X線
XANES
スペクトルを測定できる試料水平型実験室超軟 X線分光スペクトル測定装置の設計・開発を 行ってきた。そこで本研究ではこの装置を用い てLi
‐K XANES
スペクトル等を測定し他の放 射光施設で測定したスペクトルと比較検討しそ の性能評価を行う。【実験】
測定装置写真を図1に、基本パラメータを表 1に示す。
測定は、この装置専用の試料ホルダーに導電 性炭素テープを貼りその上に粉末試料を塗布す る。その後、この試料ホルダーをこの装置に取 り付け真空を立ち上げ、真空度が5x10−4
mmHg
以下になってから測定を開始する。測定は吸収 端の測定エネルギー範囲で5から10回繰り返し 測定を行い、それを積算し実験スペクトルを得 る。スペクトルの帰属はDV
‐Xα
分子軌道法を 用いて行った。Li‐K XANES
スペクトル解析は電子遷移確率から得られた理論スペクトルと実 測スペクトルを比較検討することにより行った。
【結果と考察】
実験室超軟X線分光スペクトル測定装置の性 能評価を行うために標準試料として各種リチウ
図1 試料水平型実験室超軟X線分光スペ クトル測定装置
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ム化合物の測定を行った。また、比較のために 分子科学研究所の
UV
‐SOR
や米国のALS
など でこれら試料の超軟X線分光スペクトルの測定 を行った。測定の結果、塩化リチウムおよび臭 化リチウムはほぼ同様のスペクトル形状を取る ことが示された。一方、水酸化リチウムのスペ クトルはハロゲン化リチウムのスペクトルとは 異なった形状を取ることが明らかとなった。得 られた塩化リチウムおよび臭化リチウムスペク トルをDV
‐X
α分子軌道法を用いて各ピークの 帰属を行った(図3および図4)。その結果、低エネルギー側に現れた第一ピークに関して塩 化リチウムでは主に
Li2s,
2p
とCl4s,
3p
軌道 が寄与し、臭化リチウムでは主にLi2s,
2p
とBr5s,
4p
軌道が寄与していることが明らかとなった。また、水酸化リチウムでは主に
Li2s,
2p
とO2p
軌道が寄与していることが示された。これらの結果より、実験室レベルで50−150
eV
の範囲において放射光施設と同等の軟X線吸収 スペクトルが得られることが示された。さらに、測定したスペクトルを解析することにより、軽 元素を含んだ機能性物質の電子状態解析・評価 を十分に行えることが明らかとなった。
光源 微小焦点レーザー衝撃法
(波長領域 20−150nm、精度 0.01nm)
分光 高分解能回折格子(E/dE値>10000)
検出法 電子収量法(CCD検出法も可能)
(電子収量法による1測定所要時間、5分)
X線パス 真空度、5×10−7Torr(真空に要する時間、5分)
測定試料 固体(バルク、薄膜)、溶液(バルク、表面)
(溶液試料は差段減圧法による溶液セルによる)
利便性 試料水平型、実験室型(足場面積 1.5!) 表1 本装置設計の基本パラメータ
図2 LiBr の Li‐K XANES スペクトル
図3 LiCl の実測と理論 Li‐K XANES スペクトル 図4 LiBr の実測と理論 Li‐K XANES スペクトル
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研究機関近況 環境科学技術研究所
チタニア光触媒による殺菌に関する研究
工学部併任講師 東 英 子 環境科学技術研究所長 中 野 勝 之
はじめに
チタニア(TiO2)の光触媒作用については、
「Research」1)でも度々紹介した。当研究所では シックハウス症候群などの原因物質である揮発 性有機化合物(VOCs)のチタニアによる光酸 化分解、水中の有機物分解、外壁などの防汚作 用など、チタニアの応用技術に関する種々の研 究を行っている。本稿では、医学部 黒岩中助 教授との共同研究である「チタニアの殺菌効 果」について報告する。
これまでに殺菌の対象としてきた細菌は、大 腸菌、黄色ブドウ球菌、レジオネラ菌などで、
いずれの細菌も社会的問題を引き起こすような 危険さを持ったものである。実験ではこれらを 含むモデル試験水を作製し、チタニア光触媒で 殺菌が可能か検討した。また殺菌されたときの 菌の状態を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察 した。
実験
中野らが開発したチタニア溶液2)をガラス基 板上にディップコートし、膜厚約40!のチタニ ア薄膜を調製した。ガラス製丸底容器にレジオ ネラ菌(初生菌数:103
cfu/ml)を含む蒸留水1
00ml
を入れ、チタニア薄膜を浸漬した。攪拌器 上で攪拌しながら、反応器上部より紫外光(6W
ブラックライトまたは殺菌灯)を照射した。一定時間後、サンプリングした菌液を寒天平板 培地上にまき、3〜4日間培養した。培地上に
形成したコロニー数を数え生菌数を求め、初生 菌数で割ることにより、生存率を算出した。ま た、殺菌前後の菌の形状を走査型電子顕微鏡
(SEM)により観察した。レジオネラ菌の他 に大腸菌、黄色ブドウ球菌などでも同様の操作 を行った。
結果と考察
ブラックライト(波長:300〜400!)を照射 した場合のレジオネラ菌の生存率の経時変化を 図1に示す。予備実験として自然減少の起こら ない条件を探索した。この条件下でブランク試 験(光触媒を使用せず、また紫外線を照射しな い)を行ったところ、レジオネラ菌の生存率の 減少は認められなかった。ブラックライトを照 射した場合(UV−A)とチタニア光触媒にブ ラックライトを照射した場合ではともにレジオ ネラ菌の生存率は減少したが、チタニア光触媒 を用いた場合の方が、ブラックライト照射のみ の場合と比較して、減少速度がわずかに大き かった。しかし、SEMにより光照射前後のレ ジオネラ菌の形状を観察すると、図2"に示す ようにブラックライト照射のみでは菌は膨張し ているが細胞壁は破壊されていなかった。一方、
#に示すように、チタニア光触媒を用いると菌 の細胞壁が破壊され、菌は原型を留めておらず、
チタニア光触媒の効果が明らかとなった。レジ オネラ菌などのグラム陰性菌では、細胞壁中の 毒素、エンドトキシンの残留が問題となるが、
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102
10
1
10-1
10-2
Survival rate [%]
0 1 2 3 4 5 6 7 8
Irradiation Time[hr]
Black UV-A TiO2 + UV-A
チタニア光触媒を用いるとエンドトキシンも無 害化できることを確かめた。一般的な殺菌方法 と比較するため、6%H2
O
2添加、10ppmClO
添加、121"での加熱処理を行ったが、それぞれ
殺菌はできたものの菌の溶解やエンドトキシン の無害化はできなかった。以上より、チタニア 光触媒がレジオネラ菌の殺菌に非常に有効であ ることを確かめることができた。光源をブラッ クライトから殺菌灯に変えることで、殺菌灯よ り放射される波長254!の殺菌線による殺菌効 果と光触媒の効果が得られるため、反応速度は 驚異的に大きくなる。
おわりに
チタニア光触媒は強い殺菌力を持ち、かつ菌 が生成する毒素も分解・無害化できることが明 らかになった。大腸菌や黄色ブドウ球菌は、レ ジオネラ菌より殺菌速度定数が小さくなり、殺 菌しやすいこともわかった。本稿では反応器に 丸底ガラス容器を用いて少量の試験液中の殺菌 を行った結果を報告した。これは当研究所で開 発したチタニア光触媒が殺菌力を有するか検討 するためで、現在は循環型の反応器を用いるな どスケールアップを図っている。また、石橋製 作所㈱との共同研究として、クーリングタワー など冷却水循環システムの抗菌対策への応用な ど実用的な研究を進めている。
1)例えば
Research Vol.
9,No.
1,3(2004),Vol.
10,No.
4(2005)など2)大 渕 ら、化 学 工 学 論 文 集21、1075−1081
(1995)
! " #
図1 レジオネラ菌の生存率の経時変化
図2 レジオネラ菌の SEM 写真
!ブランク、"ブラックライト照射、
#チタニア光触媒+ブラックライト
―28―