Title 遺伝子工学的手法によるヒト肝癌腫瘍抗原の解析( はしがき) Author(s) 高見, 剛 Report No. 平成9年度-平成10年度年度科学研究費補助金 (基盤研究(C)(2) 課題番号09670181) 研究成果報告書 Issue Date 1998 Type 研究報告書 Version URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/374 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
はしがき 欧米での肝癌の死亡率は全癌死亡者の約2.5%であるのに対し、日本に おける肝癌の死亡率は、男性では胃癌50.0%、肺癌40.6%につそ第三位の 27・9%、女性では胃癌29.0%、大腸癌16.9%、肺癌14.6%につぎ、第四位 10・0%と高く、また、日本の肝癌に関する将来の予測統計では男性では西 暦2005年まで、女性では2010年まで増加の一途をたどるとされている。 各種治療における肝癌の3年生存率は、肝切除療法で58%、エタノール注 入療法で53%、肝動脈塞栓療法で20%と著効を示す症例はあるものの肝癌 は未だ予後の悪い重要な疾患である。 肺癌や扁平上皮癌では、日本でも新たな療治療法としてp53癌抑制遺伝
子を利用した遺伝子療法や腫瘍特異的傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導し
て行う養子免疫療法なども行われているが、その有効性を判定するほどの 症例数ではないのが現状である。 このような中、新たな腫瘍抗原分子の同定が国内外の多くの研究室で行 われている。欧米ではヒト腫癌細胞の主要組織適合抗原クラスⅠに結合した 抗原ペプチドの解析が進み、MART-1、MAGEといった腫癌抗原分子の同 定が行われた。これらは悪性黒色腫など一部の腫瘍で臨床応用がなされ、 著効を示した例も報告されている。しかしながら、他の多くの癌において は腫瘍特異抗原分子と呼べるものの報告は未だ数少なく、特に肝癌ではB型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)等に関連したウイ
ルス抗原はいくつが知られているものの肝細胞癌特異抗原ペプチドの研究 は進んでいない。 腫瘍抗原を同定するこれまでの方法は、ある特定の主要組織適合抗原ク ラスⅠ分子を発現した培養腫瘍株や多量の手術腫癌組織を用いたものであ り、多彩なヒトの腫瘍を研究するには不充分であった。本研究はこれを飛 躍的に改善するため、遺伝子工学的にヒトの主要組織適合抗原クラスⅠ分 子であるHLA分子を強制発現させることにより各種腫瘍の抗原ペプチドを 細胞外へと運搬させる方法の開発を目的に行われた。すでに同定された MART-1などの研究でも、その多くは腫瘍個別に特異的でなく同じ腫癌系 に共通する抗原であることが示されている。したがって、ヒト腫癌培養株 にHLAを強制発現して得られる抗原ペプチドは、少なくとも同一腫癌系に 広範な腫瘍拒絶抗原として利用できるものと思われる。ー1-本研究では、前述のように臨床的に重要ではあるが主要組織適合抗原ク ラスⅠの発現量が比較的低く、これまであまり解析が行われな.かった肝細胞 癌を対象に選んだ。日本人に多く発現している主要組織適合抗原HLA_ 彪402をクローニングし、これを晴乳動物発現ベクターpCDNA3.1に組み 込むことでHLA-A2402陰性細胞株である肝細胞癌Hep-3B2.1-7に導入し た。次いで、HLA-A2402発現肝細胞癌培養株からHLA結合ペプチドを分 離し、腫瘍抗原を同定することを試みた。現在までにHep-3B2.1-7以外に も、いずれもHLA-A2402陰性の胃癌細胞株MKN28、大腸癌細胞株 SW837にHLA-A2402遺伝子導入細胞のクローン化に成功している。本研 究では、腫癌特異的ペプチドか否かの同定には至らなかったが、HLA_ A24アンカー・モチーフを有するペプチド分画が1つ得られたことから、 今後もこれらの細胞を使って腫瘍抗原の同定を試みていくことを考えてい る。 最後に本研究の開始と同時に2年間にわたる文部省の研究補助金を受け ることができたことを心から感謝する次第である。 現在までの本研究の経過内容をこの報告書にまとめた。御一読のうえ、 御批判、御助言を賜れば幸いである。 研究組織: 研究代表者:高見