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障がい・疾患を有する家族をもつ子どもの家族関係と精神的健康の関連 [ PDF

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問題と目的 これまで,子どもがいきいきと生活していくために は,家族との関わりが重要だと示唆されてきた。例え ば,子どもが親子のコミュニケーションを円滑に取るこ とができていると認知しているほど,子どもの心の健康 度は高くなること(小西・黒川,2010),きょうだいの 存在が多様な経験に繋がり,それらを通し豊かな感情も 培い生活できること(白佐,2004)などが示唆されて いる。 しかし,障がい・疾患を有する家族の存在が家族関係 や精神的健康に影響すると示唆されている。その代表的 な概念として,「ヤングケアラー(YC)が挙げられる。 YC 研究の第一人者である Becker(2000)によると,YC とは「家族メンバーの介護やサポートを行う18 歳未満 の子ども」のことである。YC 研究が進むイギリスで は,YC が「要支援児童」と認識され,法的な支援もな されているのとは対照的に,日本のYC は「家族思いの 子ども」として美化され,問題視されることが少ないと 考えられている(澁谷,2017)。日本においても,イギ リスと同様の心理的負担が示唆されているが(土屋, 2006;森田,2010),ケア役割を担うことのみが子ども の精神的健康に負の影響を与えるわけではなく,その背 景にある家族関係などの環境とケアの必要性が重なり, 精神的健康への影響が生じうると考えられる。よって, ケア役割の程度と家族関係という二つの視点から子ども の精神的健康について考えることは有益であると考えら れる。 以上より,本研究では,日本における障がい・疾患を 有する家族をもつ子どもの,該当家族へのケア役割の差 や,家族関係の違いが,彼らの精神的健康に影響を及ぼ していたのかについて明らかにし,そのような子どもの 支援方法について考える手がかりとすることを目的とす る。 方法 Web 上で質問紙調査を実施。障がい・疾患を有する 家族と暮らした経験のある18 歳以上の男女 79 名(男 性35 名,女性 44 名;平均年齢 40.42 歳,SD = 11.54)には 2018 年 2 月,障がい・疾患を有する家族 と暮らした経験のない18 歳以上の男女 100 名(男性 46 名,女性 54 名;平均年齢 40.46 歳,SD = 11.47)に は2018 年 12 月に調査を実施。 1) フェイスシート ①対象者本人について:対象者の年齢,性別,職業など ②家族について:小学校卒業までに同居した経験のある 家族(家族構成),(障がい・疾患を有する家族と暮らし た経験のある対象者のみ)家族の障がい・疾患の種類, 介護への関与感の程度など 2) 母親の養育態度尺度 龍・小川内(2013)の尺度から一部の項目を削除し,母 親の養育態度尺度として使用した。小学校卒業までの間 に母親と過ごす機会があった対象者のみに対し,小学校 卒業までの母親の養育態度をどのように認知しているか について4 件法で回答を求めた。 3)きょうだい関係尺度 森下・山口(1992)のきょうだい関係尺度から一部の項 目を削除し,文言を一部変更して使用。きょうだいがい る対象者のみに対し,小学校卒業までのきょうだい関係 について4 件法で回答を求めた。また,障がい・疾患 をもつきょうだいがいる場合は,そのきょうだいとの関 係について,いない場合は,対象者が最も身近に感じて いたきょうだいとの関係について思い浮かべ回答しても らった。 4)DSRS-C 日本語版

Birleson(1981)の Birleson Depression Self-Rating Scale for Children(DSRS-C)の日本語版(村田他, 1996)を精神的健康の指標として使用した。抑うつ傾 向があると判断されるカットオフポイントは16 点。対 象者全員に対し,小学校卒業までの時期の心理的状態を 思い浮かべて3 件法で回答を求めた。 結果と考察 1. 測定尺度の因子分析 上述した3 つの尺度それぞれに対し,主因子法・プ ロマックス回転を用いて因子分析を行い,因子負荷量が

障がい・疾患を有する家族をもつ子どもの家族関係と精神的健康の関連

キーワード:ヤングケアラー,養育態度,きょうだい関係,精神的健康 人間共生システム専攻 臨床心理学指導・研究コース 藤田 由起 氏 名 1

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0.40 以上の項目を採用した(表 1~3)。 2. ケア役割の程度が精神的健康に及ぼす影響 障がい・疾患を有する家族への介助役割を担ってい た程度について回答を求めたところ,「①とても担ってい た」が 7 名,「②ある程度担っていた」が 10 名,「③あ まり担っていなかった」が26 名,「④ほとんど担ってい なかった」が36 名であった。このことから,たとえ障が い・疾患を有する家族がいたとしても,子どもにその家 族のケア役割を取らせることなく,子どもがのびのびと 子どもらしく過ごせるような環境で過ごしてきた人々が 多いと考えられる。①②の計17 名を「ケア役割高」群, ③④の計62 名を「ケア役割低」群,障がい・疾患を有す る家族と暮らした経験がない100 名を「家族の障がい・ 疾患なし」群とした。そして,上記の 3 群を独立変数, DSRS-C の合計得点と 2 つの下位尺度得点を従属変数と する一要因分散分析を行った結果,「抑うつ気分」を従属 変数とした場合に有意差がみられた(F(2,176) = 3.16, p < .05, 表 5)。澁谷(2017)によると,YC はケアの受け手を優先 することで,自分の心身の健康や教育,余暇等を確保で きなくなることもあるうえ,周囲からもケアの受け手を 中心にしか見てもらえず,自身に対する支援や助言を得 づらいことが示唆されている。 以上のことから,ケア役割を多く担う人々は,様々な 負担を受けるにも関わらず,それに伴う悩みや不安を他 者に相談したり,適切な支援を得ることが難しく,心理 的影響を受けやすいと示唆される。 3. ケア役割高低と障がい・疾患を有する家族の有無に よる 家族関係と精神的健康の関連 上記の3 群それぞれの中で,養育態度の 3 因子,き ょうだい関係の4 因子と DSRS-C の 2 因子の相関関係 を求めたところ,複数の有意な相関関係がみられ,各群 に特徴的な結果が確認された(表5~7)。「ケア役割高」 群では,きょうだい関係とDSRS-C で多く有意な相関 関係が見られた。上述したように,ケア役割を多く担っ ている人々は,心理的な負担や時間的制限を受け,子ど もらしい生活を送れなかったり,周囲に相談しづらい状 況が生じやすかったりすることが考えられる。そのよう な環境の中,子どもながらにケア役割を取っていた人々 にとって,境遇が近いきょうだいとの関係が支えになり やすかったと考えられる。また,母親の養育態度の「従 順性」とDSRS-C の「抑うつ気分」の間にも有意な正 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 共通性 「配慮性」α = .90 17. 私のことに十分気を配っていた .82 .03 -.04 .40 15. 私が喜びそうなことをいつも考えて 行ってくれていた .79 .10 .09 .54 5. 家で私と楽しく過ごしていた .76 -.10 -.09 .34 8. 私が怖がっているときには安心させて   くれた .75 -.03 .10 .28 13. 自分のことは我慢しても私のために はやってくれることがよくあった .72 .03 -.01 .60 2. 私のことを何よりも大切にしていた .72 -.08 -.03 .54 10. 私の悩み事や心配事を理解していた .71 .02 .14 .60 「統制性」α = .85 14. 私が言いつけ通りにするまで私を責   め立てた -.13 .83 -.02 .40 6. 私には決まりをたくさん作り,それを やかましく言わなければならないと 思っていた .03 .74 .00 .55 19. 私をできるだけ自分(母親)の考え通り にさせようとした -.15 .73 .12 .49 16. 私が悪いことをすると,いつも何ら かの形で罰を与えるべきだと思って いた .13 .71 -.17 .51 1. 私を親の言いつけ通りに従わせた -.04 .63 .03 .74 9. 私の行儀をよくするために罰を与えた .31 .60 -.13 .64 4. 私に自分で物事を決めさせたことはな かった -.15 .47 .18 .51 「従順性」α = .65 12. 私の言いなりになる方だった .05 .11 .69 .66 3. 私が物を欲しがるとダメと言えない方 だった .07 .00 .57 .36 18. 私が悪いことをしてもあまりとがめ たてなかった .04 -.15 .57 .60 因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅰ - -.18 .16 Ⅱ - -.04 Ⅲ -表1 母親の養育態度尺度の全対象者のデータでの因子分析結果 (プロマックス回転後の因子パターン,N =172 ) Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 共通性 「分離的きょうだい関係」α = .86 1. あまり話をしなかった .80 .00 .06 -.08 .62 9. 話が合わなかった .79 .00 .08 .11 .70 15. 一緒に何かをするということはなかった .79 .07 -.06 -.01 .59 18. 必要なこと以外あまり話をしなかった .72 -.08 -.07 .05 .77 「相補的きょうだい関係」α = .88 2. 恋愛など親に言えないことも話した .04 .87 -.04 .00 .31 8. 異性の話をした .13 .81 .05 -.03 .66 19. 悩み事を相談した -.03 .80 .01 .00 .67 11. 良き相談相手だった -.27 .65 .07 .07 .64 「養護的きょうだい関係」α = .80 21. ものを買ってあげた .04 -.01 .92 -.09 .36 4. お小遣いをあげた .11 .12 .72 -.12 .50 16. 勉強を教えた -.07 -.07 .66 .16 .61 12. きょうだいの世話をした -.11 .06 .51 .12 .45 「対立的きょうだい関係」α = .79 5. 喧嘩相手だった .00 -.15 .09 .88 .58 22. 口喧嘩をした -.05 -.07 -.03 .75 .67 14. お互い批判し合った .21 .17 -.05 .62 .80 6. きょうだいに叱られた -.05 .21 .00 .49 .54 因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ - -.22 -.07 .17 Ⅱ - .60 .16 Ⅲ - .20 Ⅳ -表2 きょうだい関係尺度の全対象者のデータでの因子分析結果 (プロマックス回転後の因子パターン,N =168 ) Ⅰ Ⅱ 共通性 「活動性及び楽しみの減退」α = .89 7. 元気いっぱいだ .84 .03 .63 12. いつものように何をしても楽しい .82 .04 .31 1. 楽しいことがたくさんある .82 .06 .60 16. 落ち込んでいてもすぐに元気になれる .69 -.10 .45 4. 遊びに出掛けるのが好きだ .68 .02 .67 11. やろうと思ったことがうまくできる .66 .07 .35 9. いじめられても自分で「やめて。」と言える .60 .01 .68 8. 食事が楽しい .59 -.06 .38 13. 家族と話すのが好きだ .56 -.05 .35 2. とてもよく眠れる .50 -.10 .59 「抑うつ気分」α = .90 17. とても悲しい気がする -.02 .82 .39 5. 逃げ出したいような気がする -.03 .80 .65 3. 泣きたいような気になる .06 .79 .34 15. 独りぼっちの気がする -.01 .76 .35 10. 生きていても仕方がないと思う -.10 .72 .58 18. とても退屈な気がする .01 .72 .55 6. お腹が痛くなることがある .07 .62 .68 14. こわい夢を見る -.01 .59 .51 因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅰ - -.43 Ⅱ -表3 DSRS-Cの全対象者のデータでの因子分析結果 (プロマックス回転後の因子パターン,N =179 ) ケア役割 高群 (N = 17) ケア役割 低群 (N = 62) 家族の 障がい・ 疾患なし群 (N = 100) 分散分析 結果 (F値) 活動性及び楽しみの減退 1.95 1.90 1.84 0.47 (0.50) (0.53) (0.48) 抑うつ気分 1.90 1.67 1.57 3.16 (0.52) (0.54) (0.48) 高群<なし群 DSRS-C合計得点 16.71 14.31 13.01 1.93 (6.53) (7.87) (7.58) ( )内は標準偏差 p < .05 下段は多重比較の結果 表4 ケア役割の程度,家族の障がい・疾患有無ごとの DSRS-Cの2下位尺度得点と合計得点の平均値および分散分析の結果 * * 2 2

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の相関がみられた。三富(2000)は,YC が子どもながら に成人同様の責任を負い,情緒的成熟を迫られることで 「親子関係の逆転」が生じることを指摘している。親子 関係が逆転しうる状況の中で,親としての考えを示さな いことは,親子関係の逆転を助長させたり,親からの関 与感を抱きにくくさせたりし,結果的に抑うつ感に繋が ると示唆された。 4. 家族の障がい・疾患有無による家族関係の違い ここからは「ケア役割高」群,「ケア役割低」群を 「家族の障がい・疾患あり」群としてまとめて分析を行 った。 (1) 母親の養育態度についてのクラスタ分析の結果 「家族の障がい・疾患あり」群において,母親の養育 態度の3 下位尺度得点を用いて,Ward 法によるクラス タ分析を行い,4 クラスタを得た。4 クラスタを独立変 数,母親の養育態度の3 下位尺度得点を従属変数とす る一要因分散分析を行い,その結果を基に各クラスタの 特徴を見出し,命名した(図 1)。「家族の障がい・疾患な し」群においても同様の手続きで4 つのクラスタを得 た(図2)。 (2) きょうだい関係についてのクラスタ分析の結果 上記と同様の手続きで,「家族の障がい・疾患あり」 群,「なし」群それぞれで5 クラスタずつが得られた(図 3,4)。 5. 家族の障がい・疾患有無や養育態度の違いが精神的 健康等に及ぼす影響 家族の障がい・疾患有無及び,きょうだい関係のあ り方の違いが,精神的健康に影響を及ぼすのかどうかに ついて検討するために,図1,2 に示したきょうだい関係 の10 クラスタを独立変数,DSRS-C を従属変数とする 一要因分散分析を行った。その結果,全ての分析におい て有意な主効果がみられた(活動性及び楽しみの減退: F(7,164) = 7.16, p < .001,抑うつ気分:F(7,164) = 3.53, p < .01,合 計得点:F(7,164) = 6.81, p < .001)。多重比較の結果,表8 に 示したように,「家族の障がい・疾患あり」群/「なし」 群双方の「関わり過小」型が,「家族の障がい・疾患あ り」群の「バランス」型や,「家族の障がい・疾患あ り」群/「なし」群双方の「受容」型と多く有意差を示 していた(表 8)。この結果から,家族の障がい・疾患有 無にかかわらず,母親からの関与感の希薄さが最も子ど もの抑うつ感の促進や活動性の低下につながりやすいと 考えられる。そして,母親が子どもに対する受容的態度 に加え,厳しさと優しさを両立した態度で向き合い,子 どもが「母親にとって自分は大切な存在である」と実感 できることが,子どもの精神的健康に繋がると考えられ る。 6. 家族の障がい・疾患有無や養育態度の違いが精神的 健康等に及ぼす影響 家族の障がい・疾患有無及び,きょうだい関係のあり 方の違いが,精神的健康に影響を及ぼすのかどうかにつ いて検討するために,図3,4 に示したきょうだい関係の 10 クラスタを独立変数,DSRS-C を従属変数とする一 活動性及び 楽しみの 減退 抑うつ気分 DSRS-C 合計得点 配慮性 -.33 .29 -.07 統制性 -.43 .18 -.22 従順性 -.15 .62 .28 分離的きょうだい関係 -.11 .49 .28 相補的きょうだい関係 -.73 .10 -.52 養護的きょうだい関係 -.43 .13 -.25 対立的きょうだい関係 -.38 .56 .11 * p < .05, ** p < .01, *** p < .001 表5 「ケア役割高」群における母親の養育態度,きょうだい 関係とDSRS-C間の相関関係(N =17) ** * * * 活動性及び 楽しみの 減退 抑うつ気分 DSRS-C 合計得点 配慮性 -.54 -.51 -.59 統制性 -.09 .12 .01 従順性 -.03 .08 .02 分離的きょうだい関係 .08 -.03 .04 相補的きょうだい関係 .17 -.13 .05 養護的きょうだい関係 .25 -.02 .17 対立的きょうだい関係 .06 .01 .05 * p < .05, ** p < .01, *** p < .001 表6 「ケア役割低」群における母親の養育態度,きょうだい関 係とDSRS-C間の相関関係(N =62) ** ** ** 活動性及び 楽しみの 減退 抑うつ気分 DSRS-C 合計得点 配慮性 -.50 -.40 -.52 統制性 .23 .40 .35 従順性 -.04 -.04 -.05 分離的きょうだい関係 .30 .09 .24 相補的きょうだい関係 -.28 -.06 -.21 養護的きょうだい関係 -.17 -.12 -.17 対立的きょうだい関係 .09 .18 .15 * p < .05, ** p < .01, *** p < .001 表7 「家族の障がい・疾患なし」群における母親の養育態度, きょうだい関係とDSRS-C間の相関関係(N =62) ** ** ** ** * ** ** ** * * 1 2 3 4 5 6 7 8 関わり 過少型 (N =30) 従順型 (N =13) バランス 型 (N =14) 受容型 (N =15) 干渉型 (N =18) 関わり 過少型 (N =20) 受容型 (N =42) アンビバ レント型 (N =20) 平均値 1.88 1.77 1.58 1.50 1.71 1.84 1.40 1.54 SD 0.50 0.67 0.43 0.43 0.56 0.53 0.40 0.38 平均値 2.18 1.75 1.51 1.71 1.87 2.22 1.66 1.83 SD 0.36 0.42 0.51 0.46 0.49 0.44 0.43 0.42 ※多重比較結果が分かりやすくなるよう,各クラスタに便宜的に1~8の番号を振った。 p < .001 表8 養育態度クラスタのDSRS-C下位尺度得点および分散分析の結果 6・1>7 F 値 (下段は 多重比較) 7.16 6・1>3・7・4 3.53 家族の障がい・疾患あり群 家族の障がい・疾患なし群 活動性及び楽 しみの減退 抑うつ気分 *** *** ***

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要因分散分析を行った。その結果,「活動性及び楽しみ の減退」を従属変数とした場合,有意な主効果がみられ た(F(9,158) = 1.95, p < .05,表9)。多重比較の結果,「家族 の障がい・疾患あり」群の「アンビバレントなきょうだ い関係」型が,「家族の障がい・疾患なし」群の「密接 なきょうだい関係」型よりも有意に得点が高いことが示 された。白佐(2004)でも述べられているように,き ょうだい関係には「親子関係と友人関係の橋渡し的な役 割を担うもの」という性質があり,今回の結果からは, 密接なきょうだい関係が様々な関係の橋渡しとなり,活 動性に肯定的な影響を与えていたと考えられる。しかし ながら,「アンビバレントなきょうだい関係」型では, きょうだい関係が不安定であるため,そのような安定し た橋渡し的役割として機能しづらく,子どもが活動的に 生活する基盤となりにくいと考えられる。また,「アン ビバレントなきょうだい関係」型に属する対象者の8 名中6 名が父母に障がい・疾患があり,障がい・疾患 故に子どもへの望ましい関わりができなかった可能性も 考えられる。早川・依田(1983)は,「きょうだい関係 は,親子関係にみられる「たて」の関係と,友人関係に みられる「よこ」の関係とがくみあわされている」と述 べているが,「アンビバレントなきょうだい関係」型に おいては,きょうだい関係の「橋渡し」役割が機能する 以前に,「たて」の関係である親子関係が不安定であ り,「橋渡し」となるきょうだい関係も不安定なものに なったと示唆される。そのような親子関係・きょうだい 関係の不安定さが,抑うつ感の高さに影響していると推 察される。 まとめと今後の課題 本研究においては,①障がい・疾患を有する家族と暮 らしていても,ケア役割を担ってきたと認識していた 人々は少なく,多くの人がケア役割を担わなくていいよ う配慮された環境で過ごすことができていたこと,②障 がい・疾患のある家族のケアを担うことは,子どもの精 神的健康に負の影響を及ぼすこと,③ケア役割を多く担 う子どもは,母親の養育態度を認識しづらく,そのよう な中で,母親が子どもに従順な態度であると,「心配し てもらえていない」と感じやすく,抑うつ感につながり やすいこと,④YC 的役割を担う子どもにとって,きょ うだい関係が支えとなりやすく重要であるが,支えと成 り得るきょうだい関係を構築するためには安定した親子 関係も必要であることが示唆された。 障がい・疾患を有する家族と暮らす子どもへの支援と して,大人と同等のケアの責任を負うのではなく,子ど もらしく過ごすことを保証すること,障がいを有する家 族のことだけでなく,その家族と共に暮らす子どものこ ともしっかり気にかけて関わることなどが考えられる。 今後の課題としては,ケア役割を担っていた人々への 更なる調査の実施・データ収集を行い,障がい・疾患種 別,具体的なケア役割の内容ごとなどの詳細な検討を行 うことなどが挙げられる。 主要引用文献

Becker,S. (2000). Young carers. In Martin

Davies(ED.). The Blackwell encyclopedia of social work (pp. 378), Oxford, Blackwell

Birleson,P. (1981). The validity of depression

disorders in childhood and the development of self-rating scale. A research report. J Child Psychiatry 22,73-88 三富紀敬 (2000). イギリスの在宅介護者. ミネルヴァ書 房, 393-481 森下正康・山口政子 (1992). パーソナリティときょう だい関係 和歌山大学教育学部紀要 教育科学 41, 85-101 村田豊久,清水亜紀,森陽二郎,大島祥子 (1996). 学 校における子どものうつ病‐Birleson の小児期うつ 病スケールからの検討- 最新精神医学 1(2), 131-137 龍裕吉・小川内哲生 (2013). 大学生の学業的延引行動 に及ぼす認知された親の養育態度と自尊感情の影響 東海学園大学研究紀要 人文科学研究編(18), 145-154 澁谷智子 (2017). ヤングケアラーを支える法律‐イギ リスにおける展開と日本での応用可能性. 成蹊大学 文学部紀要,52, 1-21 白佐俊憲 (2004). きょうだい関係とその関連領域の文 献集成 Ⅱ.論述紹介編 川島 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 分離的 きょうだい 関係型 (N =10) 批判的 きょうだい 関係型 (N =17) バランスの 安定した きょうだい 関係型 (N =24) アンビバレ ントな きょうだい 関係型 (N =8) 信頼的 きょうだい 関係型 (N =9) 密接な きょうだい 関係型 (N =33) 分離的 きょうだい 関係型 (N =16) 対立的 きょうだい 関係型 (N =10) 批判的 きょうだい 関係型 (N =22) 希薄な きょうだい 関係型 (N =19) 平均値 1.70 1.85 1.63 1.81 1.71 1.55 1.55 1.80 1.53 1.55 SD 0.64 0.61 0.38 0.67 0.63 0.44 0.56 0.51 0.43 0.52 平均値 2.03 1.79 1.89 2.23 2.01 1.64 2.04 2.03 1.91 1.85 SD 0.60 0.40 0.53 0.60 0.47 0.37 0.60 0.49 0.49 0.46 ※多重比較結果が分かりやすくなるよう,各クラスタに便宜的に1~10の番号を振った。 p < .05 家族の障がい・疾患あり群 家族の障がい・疾患なし群 表9 きょうだい関係の各クラスタのDSRS-C下位尺度得点および分散分析の結果 F 値 (下段は 多重 比較) 1.59 4>6 0.88 活動性及び 楽しみの減退 抑うつ 気分 * *

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