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トラスツズマブ療法中にHER2陰性肝転移をきたした胃癌の1例 第74巻08号2157頁

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  症  例

トラスツズマブ療法中にHER2 陰性肝転移をきたした胃癌の 1 例

横浜市立市民病院消化器外科1),同 病理診断科2),横浜市立大学消化器・腫瘍外科学3) 川 口 大 輔1)  高 橋 正 純1)  山 口 直 孝1) 村 上 あゆみ2)  林   宏 行2)  遠 藤   格3)  症例は75歳,女性.2011年 6 月,多発肝転移(S2,S3)を有する根治切除不能胃癌 と診断され,DOC/S-1を施行した.2011年11月に,噴門側胃切除,肝外側区域部分切 除を施行し,病理所見では,原発巣はpCR,肝転移巣 2 個のうち 1 つはpCR, 1 つは pPRであった.HER2 発現は,原発巣(化学療法前生検標本)と肝転移巣ともに,IHC  2 +,FISH陽性であった.術後 4 カ月後CEA,CA19-9が上昇し,肝右葉後区(S7) に最大径12mmの転移巣が出現した.Tmab+PTXを開始したが,60mm大に増大し, PDとなった.新病変の出現なく,単発転移であり,2012年 9 月に肝後区域切除術を施 行した.HER2 発現はIHC 0,FISH 陰性であり,HER2 陰性と診断された.HER2 陽 性胃癌原発巣とTmab療法を施行した転移巣におけるHER2 発現を比較検討した報告は 稀であり,文献的考察を加え報告する.

索引用語:HER2 陽性胃癌,胃癌肝転移,trastuzumab はじめに

 根治切除不能・再発胃癌の薬物治療に対するToGA 試験の結果,human epidermal growth factor recep-tor-2(HER2)陽性胃癌に対するtrastuzumab(Tmab) の上乗せ効果が示された1).それゆえ治療対象となる 胃癌組織におけるHER2 発現の有無は重要である.一 方で,HER2 発現の有無が治療戦略の根幹をなす乳癌 では,原発巣と転移巣でその発現が乖離する症例が存 在するという報告が散見される2)~4).今回,同時性肝 転移を有するHER2 陽性胃癌に対しdocetaxel(DOC) +S-1療法後に切除術を行い,術後肝再発に対して Tmab+paclitaxel(PTX)療法が無効となったため, 肝切除を行った結果,再発肝転移巣ではHER2 陰性で あった症例を経験した.HER2 陽性胃癌の原発巣と転 移巣あるいは再発部位におけるHER2 発現を比較検討 した報告は本邦初であるので報告する. 症  例  患者:75歳,女性.  主訴:特になし.  家族歴:父 胃癌,兄 胃癌,姉 大腸癌.  既往歴:50歳 十二指腸潰瘍.  手術歴:30歳 卵巣嚢腫,73歳 Bowen病.  現病歴:2011年 6 月,検診の上部消化管造影検査で 陥凹性病変を指摘され,前医で施行された上部消化管 内視鏡検査では体上部小彎に陥凹性病変を認め,生検 で腺癌が検出されたため手術目的に当科を受診した.  来院時現症:身長148cm,体重50kg.眼結膜に貧血, 黄疸は認めず.腹部は平坦,軟で腫瘤は触知せず.直 腸診では異常を認めなかった.  血液検査所見: 術 前 の 血 液 生 化 学 検 査 で は,Hb 10.4g/dlと 貧 血 を 認 め た. 腫 瘍 マ ー カ ー は,CEA 25.9ng/ml,CA19-9 2,665U/mlと高値であった.  上部消化管内視鏡検査所見:胃体上部小彎前壁に発 赤調で,中心にひだの集中,途絶,融合を有する 3 cm大の浅い陥凹性病変を認め,深達度MP以深の 0 -IIc-advancedの進行胃癌と診断した.生検組織学的 検査では中分化から低分化腺癌と診断された.HER2 蛋白発現に関しては,免疫組織化学法(immunohisto-chemistry:IHC)でscore  2 +,さらに蛍光in situ ハイブリダイゼーション法(fluorescence in situ hy-bridization:FISH)陽性であり,HER2 陽性と診断 した.

 2013年 6 月 6 日受付 2013年 6 月25日採用  〈所属施設住所〉

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 腹部CT検査所見(Fig. 1A):短径 8 mmの小彎リ ンパ節の腫大と,漿膜面の不整のない胃壁全層の肥厚, 肝S2,S3 にそれぞれ最大径20mmの内部不均一で辺 縁不整な腫瘤を認めた.  経過:上記の検査の結果,肝転移を有する胃癌U-Ant T3 (SS) N2 H1 P0 Stage Ⅳと診断され,2011 年 8 月より,DOC/S-1療法を開始した. 2 コース施 行後,上部消化管内視鏡検査による評価では,陥凹性 病変はほぼ平坦となり瘢痕化し,CTでは肝転移はS2 のものは消失,S3 のものも最大径11mmと45%の腫 瘍縮小が認められた(Fig. 1B).他部位への新規転移 を認めなかったため,総合判定でPRと診断され,同 年11月に噴門側胃切除および肝外側区域部分切除, D2 郭清によるR0 手術を施行した.  病理組織学的検査所見:摘出標本の胃に腫瘍の残存 は認めず,原発巣はcomplete response(pCR)であり, 化学療法治療効果はgrade 3 と診断した.肝転移巣は, 2 個 の う ちS2 の 1 つ は 消 失,S3 の 1 つ は 7 × 7 × 12mmへ縮小していた.高分化型の腺管構造を認めて おり,内部は壊死を伴い,組織球の浸潤を認め,化学 療法の治療効果はgrade 1bであった(Fig. 2A).肝 転移巣のHER2 蛋白発現は,IHCではscore 2 +(Fig.

2B),FISH陽性で,原発巣の術前生検組織と同様で

あった.郭清リンパ節の病理組織学的転移は認めず, 一部のリンパ節では線維化を認め,化学療法による腫 瘍の壊死後の変化が推定され,その治療効果はgrade 3 と 診 断 し た. 最 終 診 断 は 胃 癌,no cancer rest, pT0,ly0,v0,pN0,pH1 (tub2),P0,M0,Stage Ⅳであった.

 初回手術後経過:術後のCT検査では遺残病変なく,

Fig. 2 Histopathological examination of the resected liver specimen shows a

well-differentiat-ed adenocarcinoma (A), with 2 + HER2 expression (B).

Fig. 1 Computed tomography shows two low density tumors in the left lateral segment of the

liver.

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腫瘍マーカーもCEA 3.8ng/ml,CA19-9 56.0U/mlへ と低下した.術後化学療法として,S-1単独内服療法 が 施 行 さ れ た が,2012年 3 月 にCEA 7.1ng/ml, CA19-9 401.6U/mlまで上昇し,腹部CT検査で肝右 葉後区(S7)に最大径12mmの転移巣が出現した(Fig. 3A).2012年 4 月からTmab+PTX療法を開始した. 4 コースまでSDで推移していたが, 5 コース施行後 の腹部CT検査で,肝右葉後区域の病変は60mm大に 増大し,PDと判定された(Fig. 3B).新病変の出現 を認めず,単独転移であったため,2012年 9 月に肝後 区域切除術を施行した.  摘出標本では肝右葉後区域に55×75×55mm大の黄 色充実性腫瘤が認められた.病理組織学的には前回手 術時の切除肝転移巣と類似した中分化型腺癌が大部分 を占めていた(Fig. 4A).壊死は明らかではなく,治 療効果はgrade 0 と診断された.標本を多分割し腫瘍 5 カ 所 でHER2 検 査 を 実 施 し た と こ ろ 全 てIHC 0 (Fig. 4B),FISH陰性であり,HER2 陰性と診断した.  再手術後経過:2012年10月よりCPT-11+CDDP療 法を開始した.肝切除術後 8 カ月経過し,腫瘍マーカ ーの上昇やCT上再発病変の出現を認めていない. 考  察  HER2 陽性進行・再発胃癌に対するTmabの有効性 を証明した大規模第III相比較試験(ToGA試験)に おいて, 5 -FUもしくはcapecitabinとCDDPの併用 療法にTmabを加えることで,全生存期間中央値は

Fig. 3 Abdominal CT obtained 4 months after the proximal gastrectomy and

left lateral segmentectomy shows a low-density area, 12 mm in diameter(A).  The tumor is markedly increased in size after5 courses of chemotherapy(B).

Fig. 4 Histopathological findings : The metastatic liver lesions appear to be similar to the

car-cinoma cells in the specimen obtained during the first operation (A), but the expression of HER2 is weaker (score of 0) than in the tumor cells obtained during the first operation (B).

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11.1カ月から13.8カ月へと有意に延長した1).これは胃 癌組織におけるHER2 発現の有無を明らかにして Tmabを使用するか否かが患者の予後に与える影響が 大きいことを意味する.ASCO 2012で,JFMC 44-1101試験の結果が発表され,日本人切除不能進行再発 胃癌におけるHER2 陽性率は21.1%で,多変量解析の 結果,腸管型(Lauren分類),肝転移あり,腹膜転移 なしがHER2 陽性の予測因子とされた5).2011年 4 月 から2013年 3 月までに当科で初回治療した77症例の進 行再発胃癌において,肝転移は 7 例に認め,そのうち 5 例でHER2 陽性という結果であった.本症例も腸管 型,肝転移あり,腹膜転移なしでHER2 陽性例の特徴 を有していた6)  胃癌肝転移は,診断時に他の非治癒因子の合併や肝 両葉に多発することが多く,予後不良であり,その標 準治療は確立されていない.多くは全身化学療法が選 択されるが,近年では,積極的に肝転移巣を切除した 報告も散見される.その適応については,原発巣が根 治切除可能であること,腹膜播種や大動脈周囲リンパ 節転移など他の非治癒因子がないこと,肝転移巣が切 除可能で肉眼的根治度Bが得られること,単発である ことなどが挙げられている6)~9).本症例ではS2,S3 に同時性の多発肝転移を認めたため,まず化学療法を 行う方針とし,高齢かつ患者本人が標準治療である CDDP+S-1療法による入院治療よりも外来化学療法 を希望されたためDOC+S-1療法が選択された10).こ の時点ではTmabが保険収載されていなかったが,初 回手術 4 カ月後にS6 に肝転移再発をきたした際には, ToGA試験の結果が公表されたこともあり,初回切除 標本のHER2 発現を検索した.その結果,HER2 陽性 であったため,Tmab+PTX療法を臨床試験として施 行した. 4 クールまではSDであったが, 5 クール後 にはPDとなった.乳癌では,Tmab併用化学療法後 にPDとなっても,Tmabを継続した併用化学療法の 有用性が指摘されているが,胃癌ではその有用性は明 らかではなく,また本症例では,新病変の出現がなく 再発肝転移が単独病変で根治切除が可能と判断された ため肝切除が選択された.  抗HER2 療法において先行する乳癌では,原発巣と 転移巣のHER2 発現が乖離する症例が存在するという 報告は散見される2)~4).Changらは,乳癌患者46例中 7 例においてHER2 発現の乖離を認め,その内,原発 巣でHER2 陽性,転移巣ではHER2 陰性であった症例 を 2 例認めたと報告している2).一方で胃癌では,原 発巣と転移巣のHER2 発現の一致率はIHC 94.9%, FISH 98.5%と報告がある11).しかしこの報告では Tmab治療後の症例は含まれていない.医学中央雑誌 における「胃癌」「HER2 」「trastuzumab」をキーワ ードにした1983年から2012年までの検索では,Tmab 療法を施行したHER2 陽性胃癌原発巣と転移巣で HER2 発現が乖離するという報告は 1 例も認めなかっ た.本症例では,初回手術時の原発巣,肝転移巣はと もにHER2 陽性で一致していたが,PTX+Tmab療法 5 クール後に増大した肝転移巣(S6)では,標本を 多分割し 5 カ所でHER2 検索を行ったが,HER2 陰性 であった.本症例の経過から推察すると,Tmab併用 療法を施行中SDであった 4 クールまでの期間は, PTXの効果か,もしくはTmabがHER2 陽性部分に 対して効果的であった可能性がある.一方, 5 クール 後PDとなったのは,Tmab併用化学療法後に,het-erogenousな 胃 癌 組 織 に お い て,PTX耐 性 を も つ HER2 陰性部分が増大した可能性が考えられた.胃癌 におけるHER2 発現のheterogeneityについては,一 つの腫瘍の中で組織型が異なる複数の成分があり,組 織型の異なる部分間でHER2 発現が異なること,また 均一な組織型の腫瘍であっても,検索箇所ごとで HER2 発現が不均一であることが報告されている12) Tmabによる治療効果を得るためにはHER2 発現の有 無を診断することが重要であるが,胃癌においては, 原発巣と転移巣のHER2 発現に関する報告は少なく, さらにTmab療法後の再発,再燃した癌組織のHER2 発現に関しての報告は認めておらず,今後さらなる症 例集積が必要と思われる. 結  語  同時性肝転移を有するHER2 陽性胃癌に対しDOC +S-1療法後に切除術を行い,術後肝再発に対して Tmab+PTX療法が無効となったため,肝切除を行っ た.病理組織学的検査では,再発肝転移巣ではHER2 陰性であった症例を経験したので,若干の文献的考察 を加え報告した. 文  献

 1) Bang YJ, Van Cutsem E, Feyereislova A, et al : Trastuzumab in combination with chemothera-py versus chemotherachemothera-py alone for treatment of HER2-positive advanced gastric or gastro-oe-sophageal junction cancer (ToGA) : a phase 3, open-label, randomized controlled trial. Lancet 2010 ; 28 : 687-697

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 2) Chang HJ, Han SW, Oh DY, et al : Discordant human epidermal growth factor receptor 2 and hormone receptor status in primary and meta-static breast cancer and response to Trastu-zumab. J Clin Oncol 2011 ; 41 : 593-599  3) Gong Y, Booser DJ, Snige N, et al : Comparison

of HER-2 status determined by fluorescence in situ hybridization in primary and metastatic breast carcinoma. Cancer 2005 ; 103 : 1763- 1769

 4) Lower EF, Glass F, Blau R, et al : HER-2/neu expression in primary and metastatic breast cancer. Breast Cancer Res Treat 2009 ; 113 : 301-306  5) 日本人切除不能進行・再発胃癌患者における HER2発現状況の前向きコホート試験による検討 (JFMC44-1101試 験 ),(Accessed May 1, 2013, at http://meetinglibrary,asco.org/con-tent/105439-133)  6) 梨本 篤,土屋嘉昭,佐々木壽英:肝転移胃癌に 対する肝切除の意義.外科 1996;58:842-846  7) 古賀倫太郎,斎藤明夫,山本順司他:肝転移を伴 う胃癌の治療方針.消外 2006;29:1281-1286  8) Okano K, Maeda T, Ishimura K, et al : Hepatic

resection for metastatic tumors from gastric cancer. Ann Surg 2002 ; 235 : 86-91

 9) Koga R, Yamamoto J, Ohyama S, et al : Liver re-section for metastatic gastric cancer : Experi-ence with 42 patients including eight long-term survivors. Jpn J Clin Oncol 2007 ; 37 : 836-842 10) 牧野洋知,國崎主税,高橋正純他:進行再発胃癌

に対するbi-weekly DOC/S1併用化学療法.癌の 臨 2011;57:39-45

11) Bozzetti C, Negri FV, Lagrasta CA, et al : Com-parison of HER2 status in primary and paired metastatic sites of gastric carcinoma. Br J Can-cer 2011 ; 104 : 1372-1376

12) Hofmann M, Stoss O, Shi D, et al : Assessment of a HER2 scoring system for gastric cancer : results from a validation study. Histopathology 2008 ; 52 : 797-805

 

A CASE OF HER2-NEGATIVE LIVER METASTASIS DURING TRASTUZUMAB+PACLITAXEL TREATMENT FOR POSTOPERATIVE HER2-POSITIVE LIVER METASTASIS FROM GASTRIC CANCER

 

Daisuke KAWAGUCHI1), Masazumi TAKAHASHI1), Naotaka YAMAGUCHI1), Ayumi MURAKAMI2), Hiroyuki HAYASHI2) and Itaru ENDO3)

Department of Surgery, Yokohama Municipal Citizen’s Hospital1)

Department of Pathology, Yokohama Municipal Citizen’s Hospital2)

Department of Gastroenterological Surgery, Yokohama City University3)

 

  A 75-year-old woman developed advanced gastric cancer with multiple liver metastases (S2, S3). Af-ter docetaxel (DOC)/S-1 treatment, the liver metastases were reduced in size. Subsequently, in Novem-ber 2011 the patient had a proximal gastrectomy, a left lateral segmentectomy, and a D2 dissection. On histopathology, no cancer was found in the resected stomach. The primary tumor biopsy tissue obtained before chemotherapy and the resected liver tissue were both positive for HER2 (IHC 2+, FISH positive). In March 2012, despite postoperative S-1 therapy, the woman’s CEA and CA19-9 levels increased, and the abdominal CT showed liver metastasis (S7). Trastuzumab (Tmab) and paclitaxel (PTX) were added, the liver metastasis increased in size. Abdominal CT showed no new lesions ; therefore, a posterior seg-mentectomy was performed in September 2012. The resected lesion was negative for HER2 (IHC 0, FISH negative).

Key words:HER2-positive gastric cancer,liver metastasis of gastric cancer,trastuzumab

Fig. 1 Computed tomography shows two low density tumors in the left lateral segment of the  liver.
Fig. 4 Histopathological findings : The metastatic liver lesions appear to be similar to the car- car-cinoma cells in the specimen obtained during the first operation (A), but the expression of  HER2 is weaker (score of 0) than in the tumor cells obtained

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