博 士 ( 医 学 ) 西 條 泰 明
学位論文題名
Relationship of Helicobacter pylori InfeCtionto ArterialStiffneSSlnJapaneSeSubjeCtS
(動脈硬化の危険因子としてのHelicobacterpylori 感染に関する疫学研究 ― 脈 波 伝 搬速 度 よ り 評 価 し た arterialstifmess を 指 標 と し て)
学位論文内容の要旨
動脈硬化には炎症の要素があることが報告されている。日本はHelicobacter pylori (H. pylori) 感染率が先進国の中で比較的高く、また、H. pylori と虚血性心疾患や 脳血管疾患との関連が報告されている。一方では、最近の欧米の研究をまとめたメ タアナリシスではH. pylori の虚血性心疾患への影響は、はっきりしないと報告され、
H . pylori の動脈硬化性疾患への役割にっいては結論が得られていない。さらに、H.
pylori と早期の動脈硬化の関連については十分研究されていない。本研究では、上 腕・足首脈波伝播速度(brachial‑ankle pulse wave velocity :baPWV) により評価 したarterial stiffness を動脈硬化の指標として、H .pylori と動脈硬化の関連につい て検討し、H. pylori の動脈硬化の危険因子としての役割を明らかにすることを目的 としている。
対 象は2003 年度の職場健康診断を受診した 35 歳以上の一地方自治体職員である
(男 性8229 人;女性2194 人)。健康診断受診前に質問紙票を配布し、同意の得ら れ た 人 か ら受 診 時 に 質問 紙票 を回 収した (男 性3907 人 ;女性 1044 人) 。685 人
(男 性495 ;女性 190 人)は、冠動脈疾患、脳血管疾患の既往、足関節上腕血圧比 (ankle/brachial pressure index ; ABI) が0.9 未 満、 baPWV が 未測 定、血液の未 検査 の理 由に より除 外し 、最 終的に 、3412 名の男性と854 名の女性が解析対象者 となった。健康診断時に、身長、体重測定を行い、空腹時血液検査により、総コレ,
ス テ ロ ー ル(TC) 、 中 性 脂 肪 (TG) 、 HDL‑ コレ ス テ ロ ー ル(HDL ― C) 、尿 酸(UA) 、
血糖(FBS) 、CRP 、 H .pylori IgG 抗体価を測定した。H .pylori IgG 抗体価は酵素免
疫 測 定 法(E plate,Eiken Chemical)により 、CRPは 高感 度法 であ るラテ ック ス・ ネ フ ェ ロ メ ト リ ー 法(N Latex CRPn,Dade Behring)に よ り 測 定 し た 。 ま た 、TCと HDL‑C測定はCDC (Centers for the Disease Control and Prevention)の脂質標準化プ 〆
ロ グ ラ ム の 認 定 を 受 け て い る 。質 問紙 票に より 喫煙 習慣 、飲 酒習 慣、運 動習 慣、 学 歴 、 病 歴 を 把 握 し た 。baPWVはForm PWV/AVI( 日 本 コ ー リ ン )に より非 侵襲 的に 測 定した。これは、両上腕と、左右足首にカフをまき、カフ内の容積脈波から両上腕と両足首 の脈派を得ることができる。上腕と足首の脈派から立ち上がりの時間差(△t)を測定し、大 動脈弁口から上腕・足首の距離に、その時間差(△t)を除してPWV値を求める。また、P WV測 定 中 に 、 両 腕 の カ フ よ り 血 圧 を 測 定 し 、 心 電 図 よ り 心 拍 数 を 計 測 し た 。 H. pylori抗 体 価 陽 性 とCRPの2分 位 の 上 位(high CRP)に つ い て 、 そ れ ら と 、 そ れ ら の 組 み 合 わ せ がbaPWV高 値 (3分 位 の 上 位 群 ) と な る オ ッ ズ 比 を2項 ロ ジ ス ティ ック 回帰 によ り解 析した(性、年齢、BMI、収縮期血圧、心拍数、TC、log TG、 HDL‑C、UA、FBS、 喫 煙 、 飲 酒 、 運 動 習 慣 、 学 歴 、 高 血 圧 、 糖 尿 病 、 高 脂 血 症 で 調 整 ) 。 結 果 は 、 男 性 に お い て、H. pylori抗 体 陽 性 の オ ッズ 比 が1.27(95%CI;
1.05‑1.52) 、H. pylori抗 体 陽 性 とhigh CRPの 組 み 合 わ せ の オ ッ ズ 比 が1.50 (95%CI; 1.14‑1.98)と、いずもbaPWV高値となるオッズ比が有意に高かった。さらに49 歳 以 下 の 男 性 の 解 析 に お い てH. pylori抗 体 陽 性 の オ ッ ズ 比 が1.40(95%CI;
1.04‑1.88) 、H. pylori抗 体 陽 性 とhigh CRPの 組 み 合 わ せ の オ ッ ズ 比 が1.81 (95%CI; 1.16‑2.80)と、いずもbaPWV高値となるオッズ比が有意に高かった。しかし、50 歳以上の男性と女性ではいずれも有意な関連は認めなかった
本 研 究 で は 、H. pylori抗 体 陽 性 が 、 特 に49歳 以 下 の 男 性 に お い て 、 有 意 に arterial stiffnessの上昇に関連していることを示した初めての報告である。また、H.
pylori抗体 陽性 とhigh CRPの 組み 合わ せでさ らにarterial stiffness上昇のオッズ比 が高くなることも明らかにした。先に述べたように欧米の研究のメタアナリシスでは、有 意 な オ ッ ズ 比 の 上 昇 は 無 か っ たと して いる が、 日本 の急 性心 筋梗 塞の症 例対 照研 究 で は 、 特 に55歳 以 下 で 有 意 に オ ッ ズ 比 が 高 か っ た と す る 報 告 が あ る 。 ま た 、H.
pyloriか ら の 発 癌 や 潰 瘍 形 成 に遺 伝 的 感 受 性 が 関 与 す る と の 報 告 も み ら れ る 。H.
pyloriか ら の 動 脈 硬 化 性 疾 患 発症 に関 する 遺伝 的感 受性 の研 究は みられ ない が、 そ のよ うな 遺伝 的感 受性 の人 種差 が存 在する こと が、H. pyloriの 動脈硬 化性 疾患 ヘ
の影響が日本と欧米で異なるのかもしれない。
本研究は、動脈硬化の各危険因子で調整してもH. pylori抗体陽性、また、H. pylori 抗体陽性とhigh CRPの組み合わせによりarterial stiffnessが上昇することを示した 初めての報告である。日本人はH. pyloriへの曝露率が高く、また、H. pyloriは抗生 剤に より 除菌 する ことが でき る。 今後 、さ らに 前向 き研 究により、日本人集団にお い てH. pylori抗 体陽 性とhigh CRPが動 脈硬化 性疾 患発 症の 予測 因子 とし て有 用か 検討し、その有用性を確立する必要があると考えられる。
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Relationship of Helicobacter pylori Infection to Arterial StiffneSSlnJapaneSeSubjeCtS
(動脈硬化の危険因子としてのHeliCobacterpylori感染に関する疫学研究 ―脈 波 伝搬 速 度よ り 評価 し たarterialstiffnessを指 標 とし て )
日本はH.pylori (HP)感染率が先進国の中で比較的高く、また、HPと虚血性心疾患や 脳血管疾患との関連が報告されている。二方では、最近の欧米の研究をまとめたメタアナ リシスではHPの虚血性心疾患への影響は、はっきりしないと報告され、HPの動脈硬化 性疾患への役割にっいては結論が得られていない。さらに、HPと早期の動脈硬化の関連 については十分研究されていない。本研究では、上腕・足首脈波伝播速度(baPWV)によ り評価したarterial stiffnessを動脈硬化の指標として、HPと動脈硬化の関連について検 討し、HPの動脈硬化の危険因子としての役割を明らかにすることを目的としている。対 象は、3412名の男性と854名の女性。健康診断時に、身長、体重測定を行い、空腹時血 液検査により、総コレステロール、中性脂肪、HDL、尿酸、血糖、CRP(高感度法)、HHP IgG抗体価を測定した。HPIgG抗体価は酵素免疫測定法(Eplate,Eiken Chemical)により、
CRPは高感度法であるラテックス・ネフェロメトリー法により測定した。質問紙票によ り喫 煙習慣、飲 酒習慣、運 動習慣、学 歴、病歴を 把握した。baPWVはForm PWV/ABI により非侵襲的に測定した。HP抗体価陽性とCRPの2分位の上位(high CRP)について、
それらと、それらの組み合わせがbaPWV高値(3分位の上位群)となるオッズ比を多重 ロジスティック回帰により解析した(性、年齢、BMI、収縮期血圧、心拍数、TC、log TG、 HDL‑C、UA、FBS、喫煙、飲酒、運動習慣、学歴、高血圧、糖尿病、高脂血症で調整)。
之 博
学 子
裕 正
玲
井 香
蔵
筒 浅
武 岸
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 審
主 副
副 副
結果は 、男性において、HP抗体陽性のオッズ比が1.27 (95%CI; 1.05‑1.52)、HP抗体陽性と high CRPの組み 合わせの オッズ比 が1.50 (1.14‑1.98)と、いずもbaPWV高値となるオッズ比 が 有意 に 高 かっ た 。さ ら に49歳 以 下の 男性の 解析にお いてHP抗体 陽性のオ ッズ比が1.40 (1.04‑1.88)、HP抗体 陽性とhigh CRPの 組み合わせのオッズ比が1.81 (1.16‑2.80)と、いず もbaPWV高値となるオッズ比が有意に高かった。しかし、50歳以上の男性と女性ではいずれも 有意な 関連は認めなかった。本研究では、HP抗体陽性が、特に49歳以下の男性において、有 意にarterial stifnessの上昇に関連していることを示した初めての報告である。また、HP抗 体陽性 とhighCRPの組み合わせでさらにartedalstiffIless上昇のオッズ比が高くなることも 明らか にした。先に述べたように欧米の研究のメタアナリシスでは、有意なオッズ比の上昇 は 無か っ た とし て いる が 、 日本 の 急 性心筋 梗塞の症 例対照研 究では、 特に55歳以 下で有 意 に オ ッ ズ 比 が 高 か っ た と す る 報 告 が あ る 。 欧 米 と 日 本 の 菌 株 の 相 違 が あ り 、 Cytotoxin‐a8sociatedgeneA(CagA)は欧米 株で約60% に対し、 日本株で約100%とされ る 。CagAは 病原 性 が強 く 、 冠動 脈 硬化 にCagA陽 性株 が 関連 す る との 報 告が あ り 、こ れ が日本 と欧米で のHPの動脈 硬化への 影響が異 なる原因 のひとっか もしれない。本研究は、
動 脈 硬 化 の 各 危 険 因 子 で 調 整 し て もHP抗 体 陽 性 、ま た 、HP抗 体 陽性 とhighCRPの 組 み 合わせによりarterialsti倚lessが上昇することを示した初めての報告である。日本人はHPへ の 曝露 率 が 高く 、 また 、HPは 抗 生 剤に より除 菌するこ とができ る。今後 、さらに 前向き 研 究 に よ り 、 日 本 人 集 団 に お い てHP抗 体 陽 性 とhighCRPが 動 脈 硬化 性 疾患 発 症 の予 測 因子として有用か検討し、その有用性を確立する必要があると考えられる。審査において、副査 浅香教 授から、HP感染が有 意に動脈 硬化と関 連した理 由、他の生 活習慣病への影響にっい ての質 問があっ た。次に 、副査武 蔵教授よ りHP感染が 特に若年男 性の動脈硬化に関連し、
女 性 で は 関 連 が無 か っ た理 由 につ い て 質問 が あ った 。 また 、 主 査筒 井 教授 よ りHP感 染 が動脈 硬化に影 響するメ カニズム について の質問が あった。最 後に、副査岸教授より今後 の予防 への応用の可能性について質問があった。いずれの質問に対しても、申請者は自身の 研究結果や先行研究を引用し、おおむね妥当な回答をしていた。
この論文は、若年男性でH.py10ri感染と早期の動脈硬化であるartenalstif・fnessの関連 す るこ と を 初め て 明ら か に した こ と で高く 評価され 、今後のH・py10d感染の 予防医学 的 研究への発展が期待される。
審査員 一同は、 これらの 成果を高 く評価し 、大学院 課程におけ る研鑽や単位取得なども 併 せ 申 請 者 が 博士 ( 医 学) の 学位 を 受 ける の に 十分 な 資格 を 有 する も のと 認 定 した 。 −42―