博 士 ( 医 学 ) 江 原 ( 三 谷 ) 亮 子 ′学位論文題名
Helic 〇ろac とer pyl 〇rf による
胃 粘 膜 細 胞 傷 害 性 に 関 す る 基礎 的検 討
学 位 論 文 内 容の 要旨
I研 究 目 的
Helicobacter pylori(以下H.pylon)は、ヒト胃粘膜から分離培養されたグラム陰性桿菌で あり、胃粘膜病変との関連が注目を集めている。しかし、その病原性については尚不明 な点が多い。本研究ではH.pyloriの胃粘膜細胞に及ぼす影響を家兎より分離した遊離胃 粘膜細胞を用いてin vitroの系で基礎的,に検討した。
II材 料 と 方法
1.H.pyloriの培養
胃粘膜病変を有する患者から分離培養したH.pyloriの中からウレアーゼ活性の高いも のを尿素培地10倍希釈法で選択した。菌体を微好気条件下(0250h,C0215c,N2800/0)、馬 脱繊血5‑70hを添加し、ブルセラ寒天を基礎培地とした血液寒天培地で96‑120時間培養 後 、微 好気 条件 下、 馬血 清を7‑10ワ。 を添加 した ブル セラ ブ口 スで 液体 振盪 培養を 96rpm、4872時間行った。
2.H.py刪抽出液の作成
菌体を界面活性剤nーoctyl―gluc6sid1%を加えたNaphosphatebuffer中で溶菌し、遠沈し た上清を透析後、H,p.yJ刪抽出液とした。
3.ウサギ遊離胃粘膜細胞の作成
日本白ウサギ(雄性1.5‑2.Okg)の耳介外側の静脈にpentobarbitalを投与後胃を摘出し 胃粘膜を剥離細切した。これをディスパーゼ0.05%、コラゲナーゼ0.03%、Bovine serum albumin0.2%を 添加し たMedium199中で37℃、20分間インキュベート後、ピペッテイン グ を 行 い 再 度 20分 間 イ ン キ ュ ベ ー ト し 、 遊 離 胃 粘 膜 細 胞 を 作 成 し た 。
4.顆粒球の調整
ヒ ト前腕静脈 からへパ リン加採 血した血液試料を3.5%デキストランで沈降させ、上 層を溶血後、Ficoll Hypaqueに重層した。遠沈して得た沈殿を洗浄しPhosphate buffer so‑
lution (PBS、pH7.4)で顆粒球浮遊液とした。
5.細胞傷害実験
遊離胃粘膜細胞浮遊液にH.pylori抽出液,尿素及びH.pyloni抽出液と50mM尿素を同時に添 加 し、37℃、30分 間インキ ュベート 後、細胞外 液のLDH流出 量、pH及ぴ アンモニ ア濃 度を測定した。
III結 果
1.H.pylor:i抽出液単独(終濃度0.54mg/ml)、尿素単独(終濃度50mM)ではコントロール に 比較して 有意な細胞傷害を認めなかったがH.pylori抽出液と尿素の両者を胃粘膜細胞 浮 遊液に添 加した場合には著明な細胞傷害性を認め同時に、アンモニアの産生が認めら れ た。細胞 外液のpHはH.pylori抽出液と50mM尿素の両 者を添加し た場合にのみ、経時 的な上昇を示した。
2. 尿素(50mM)の存在下‑C.H.pylori抽出液の濃度を変化させて添加した場合、10倍希 釈(終濃度0.054mg/ml)では100倍希釈(終濃度0.0054mg/ml)に比較して有意に強い細胞傷 害 性を示し た。100倍希 釈では10倍 希釈に比較して細胞外液のアンモニア濃度は低値で あった。
3. 外因性の アンモニ ア添加に よる細胞 傷害性とH.pリ弸抽出液と50mM尿素を同時に 添 加した時 の細胞傷害性はほぽ一致し、産生されたアンモニア濃度は細胞傷害を惹起し た外因性のアンモニア濃度にほぼ等しかった。
4.HIp.yJ0d抽出液と50mM尿素の両者を添加した細胞浮遊液にウレアーゼ活性阻害剤 acetohydroxarnicacid(AHA)を添加したところ、細胞傷害性、細胞外液のpH及びアンモニ ア濃度は濃度依存的に抑制された。
5..HIpyj刪抽出液単独、尿素単独、H.pylod抽出液と尿素とを同時に添加した細胞浮 遊 液にヒト 由来の顆 粒球を1X106cells/mlの割合で添加し、37℃、30分間インキュベー ト したが、 細胞外液 のアンモ ニア濃度 、及ぴpH及び 胃粘膜細 胞傷害性は顆粒球を添加 しない場合に比較して差は認められなかった。
rv考 察
H.pyloriの細胞 傷害機序 を詳細に検 討した報 告はきわ めて少ない。今回の結果より H.pylori抽出液自体あるいは尿素自体の胃粘膜細胞への影響は30分間の反応時間ではほ
とんどなみられないことが明らかになった。従って、in vitroの培養系ではH.pyloriの細 胞傷 害は 尿素 の存 在下 でのH.py刪の抽出液の関与が大きいと考えられる。このように H・pリ刪と尿素とを同時に添加し、インキュベートした細胞外液には細胞傷害を起こす ことが可能な濃度のアンモニアの産生がみられることより、この系で引き起こされる細 胞傷 害は 産生 され たア ンモニアに基づくことが示唆された。invi恥で傷害性を発揮す るア ンモ ニア 濃度 はinvivoで胃粘膜を傷害性することが明らかになっているアンモニ ア濃度゛とほぽ一致した。H●p.yJ刪と尿素とを同時に添加した細胞浮遊液にウレアーゼ活 性阻害剤acetohydroxarnicacidを加えると細胞外液のアンモニア濃度の低下、pHの下降 がみられるとともに、胃粘膜細胞傷害が抑制されたことよりHIpyJ刪と尿素との併用添 加によるアンモニアの産生にはH.pリ噺の有するウレアーゼの関与が強く示唆された。
H.p.り0dによって誘導される炎症細胞浸潤と胃粘膜病変の関わりが最近注目されてい る。そこで、今回の系で穎粒球をそれぞれH・pyJ捌の抽出液、尿素及びH・p.リ弸と尿素の 同時 に添 加群 に加 えた が、細胞外液のアンモニア濃度pH及び胃粘膜細胞傷害のいずれ にも影響を与えなかった。アンモニアによる胃粘膜細胞傷害の機序は、ミトコンドリア 内外 のpHを上 昇さ せ細 胞の 呼吸 及び エネ ルギ ー機構 を阻害すること、ATP合成阻害と ATP利用 の増 大と による 細胞内ATPの減少を来たすことによると報告されている。アン モニアは胃内腔で膜透過性のない解離型NH;と膜透過性のある非解離型NH3として存在 する が今 回の 結果 では 、非解離型のアンモニアはpHの上昇に伴ってその割合が増加し た。以上よりH●p.り捌の有する高いウレアーゼ活性は血中及び食物由来の尿素を分解し てアンモニアを産生し、H・pリ0d周囲のpHを上昇させ、細胞傷害を惹起する。それとと もにH・p.り弸の存在する粘液に近接した胃粘膜上皮はpHの上昇による非解離型アンモニ ア の 影 響 を 受 け 、 細 胞 傷 害 が さ ら に 強 く 惹 起 さ れ る も の と 考 え ら れ る 。
V結 語
1. H.py噺 抽 出 液 単 独 で は 胃 粘 膜 細 胞 に 傷 害 を 起 こ さ な か っ た 。 2.H.p. ル 噺と 尿 素 と を 共 に 作用 させ ると 明ら かな 胃粘 膜細 胞傷 害が 生じ た。
3.HIpリ刪と尿素とを同時添加することによルアンモニアの産生が認められ、その濃 度は細胞傷害を惹起するのに充分なものであった。
4.ウレアーゼ酵素活性阻害剤の添加によりH.pリ刪と尿素併用時のアンモニアの産生 が 抑 制 さ れ 、 同 時 に 細 胞 外 液 中 のpH上 昇と 胃 粘 膜 細 胞 傷 害 とが 抑制 され た。
以上の結果から、家兎の胃粘膜から得た遊離胃粘膜細胞を用いたin vitroの検討によ って 、H.py刪 の有 する 強カなウレアーゼ活性によって産生されるアンモニアが胃粘膜 細胞傷害を惹起する可能性が強く示唆された。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Helicobac と er pylori による
胃粘膜細胞傷害性に関する基礎的検討
I研究目的
Helicobacter pylori(以下H.pylon)は、ヒト胃粘膜から初めて分離培養されたグラム陰性桿 菌 で、 胃粘 膜病 変と の関 連が 注目 を集めてい る。本研究ではH.pyloriが胃粘膜に及ぼす影 響 を 家 兎 遊 離 胃 粘 膜 細 胞 を 用 い た 細 vitroの 系 で 基 礎 的 に 検 討 し た 。
II材料
1. H.pyloriの蟹 養: 胃粘 膜病 変を 有す る患者から分離培養したH.pyloriの中からウレア ーゼ 活性 の高 いものを選択し、菌体を微好気条件下(025%,C02 15%,N2 80u/0)で血液寒 天培地で培養後、ブルセラブロスで液体振盪培養を行った。
2.H.pylor曲出遼堕佐底:菌 体をn‐octyl‐glucosid1%を加えたNaphosphatebuffer中で溶菌 し、遠沈した上清を透析後、H.p.り〇r 紬出液とした。
3:塞悪遊離冒粘膿細胞堕往 塵:家兎の耳介外側静脈にpentob訂bitむを投与後、胃を摘出し 胃粘膜を剥離細切した。これをディスノヾーゼ0.05%、コラゲナーゼ0.03ワ。,BSAO.2%を添加 し たMedium199中 で37℃ 、20分 間 イ ン キ ュ ベ ー ト を2度 行 い 、遊 離胃 粘膜 細胞 を作 成し た。.
4. 題粒 麩Q調 整: ヒト 前腕 静脈 から へパ リン 採血 した 血液 を デキ スト ラン で沈 降さ せ上 層 を 溶 血 後FicollHypaqueに 重 層 、 遠 沈 後 の 沈 殿 を 洗 浄 し て 穎 粒 球 浮 遊 液 と し た 。
III方 法
胃 粘膜 細胞 浮遊 液にH.pylonjt出液 、尿 素,H.pyloI紬 出液 と50mM尿 素の 両者 等を 添加 し 37℃ 、30分 間 イ ン キ ュ ベ ー ト後 、 細胞 外液 へのLDH逸脱 量、pH、ア ンモ ニア 濃度 を測 定 し た。
IV結果
1 .H.pylor14tfl出液単独(終濃度0.54mg/ml)、尿素単独(終濃度50mM)ではコントロールに 保雄
彦 輝邦 崎橋 林 宮石 小 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
比較 し て細 胞傷 害を 認め なか った がH.pylori抽出液と尿素とを同時に添加した場合には著 明な 細 胞傷 害と アン モニ アの 産生 とを 認め た。
2.尿 素の 存在 下でH.pylori抽出 液の濃度を変化させて添加し た場合、10倍希釈では100倍 希 釈 に 比 し て 有 意 に 強 い 細胞 傷 害性 を示 した 。100倍 希釈 以 下で は細 胞外 液の アン モニ ア濃 度 も低 値で あっ た。
3.外 因性のアンモニア添加による 細胞傷害性とH.pylori抽出液と尿素との同時添加による 細胞 傷 害性 はほ ぽ一 致し た。
4.H.pylontjth出 液 と 尿 素 を 同 時 に 添 加 し た 細 胞 浮 遊 液 に ウ レ ア ー ゼ 活 性 阻 害 剤 acetohydroxamic acid(AHA)を 添加 した とこ ろ細 胞傷 害性 、 細胞 外液 のpH、ア ンモ ニア 濃度 は 抑制 され た。
5.穎 粒球 の添 加は アン モニ ア濃 度 、外 液のpH, 細胞 傷害 のいずれにも影響しなかった。
V考察
本 研究 で はH.pyloriの 抽出 液及 び尿 素自 体の 胃粘 膜細 胞へ の影 響 は30分間の反応時間 ではほとんどみられなかった。.したがって、in vitr0の系ではH.pリ(洒の細胞傷害性は尿 素の 存在 下 でのH. 剛0dの抽出液の関与が考えられる。H.jび〇dと尿素との同時添加での 細胞 外液 に はア ンモ ニア の産 生を 認め 、こ の系 で惹 起さ れる 細胞 傷 害は アンモニアに基 づ く も の と 推 定 さ れ た 。 わW加 で 傷 害 性 を 発 揮 す る ア ン モ ニ ア 濃 度 は 加Wy0で 胃 粘 膜 を傷 害す る こと が明 らか にな って いる アン モニ ア濃 度と ほぼ 一致 し た。 且刪。打と尿素 を同 時に 添 加し た細 胞浮遊液にウレアーゼ活 性阻害剤acもtohydroxamicacidを添加すると 細 胞 外 液 の ア ン モ ニ ア 濃 度 , 細 胞 傷 害 も 抑 制さ れ、Hpリ 研と 尿素 の併 用添 加に よ るア ンモニアの産生にはH・pリ〇ガの ウレアーゼ活性の関与が示唆された。H.p川〇n抽出液と H・p. ル 捌 の 菌 体 そ の も の と で は 顆 粒 球 の 反 応 性 が 異 な る こ と が 考 え ら れ た 。 胃内に多量のH.p.灯0ガが存在する場合、H・剛odの有する高いウレアーゼ活性が血中及 び食 物由 来 の尿 素を 分解 して アン モニ アを 産生 し、 〃. 剛刑 司囲 のpHを 上昇させ、細胞 傷害 を惹 起 する とと もにH.pル捌 の存 在す る粘 液に 近接 した 胃粘 膜 上皮 はpHの上昇によ る 膜 透 過 性 の ア ン モ ニ ア の 影 響 を 受 け 、 さ ら に 傷 害 さ れ る も の と が 考 え ら れ た 。
VI結語
1 .H.pylori抽 出 液 単 独 で は 胃 粘 膜 細 胞 に 傷 害 を 起 こ さ な か っ た 。 2.H.pylori抽 出 液 と 尿 素 と を 共 に 作 用 さ せ る と 明 ら か な 胃 粘 膜 細 胞 傷 害 が 生 じ た 。 3.H.pylon抽 出液 と尿 素と の同 時添 加に よルアンモニアの産生が認められ、その 濃度で細 胞 傷害 の惹 起が 可能 なも ので あっ た 。
4. ウ レ ア ー ゼ 活 性 阻 害 剤 の 添 加 に よ りH.pyloriと 尿 素 併 用 時 のア ンモ ニア の産 生が 抑 制 さ れ 、 細 胞 外 液 中 の pHの 上 昇 と 胃 粘 膜 細 胞 傷 害 と が 抑 制 さ れ た 。 以上 より 、家 兎遊 離胃 粘膜 細胞 を 用い たin vitroの 検討 から 、H.pyloriの有 するウレ ア ー ゼ 活 性 が 産 生 す る ア ン モ ニ ア が胃 粘 膜細 胞傷 害を 惹起 する 可能 性が 示唆 され た。
よ っ て 、 本 研 究 は 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 論 文 と し て 妥 当 な も の と 判 断 さ れ る 。