博 士 ( 水 産 科 学 ) 笹 岡 晃 征 学 位 論 文 題 名
北太平洋亜寒帯域における植物プランクトン分布および 基礎生産の変動機構の解明
ーマ ルチセンサ ーリモートセンシングによるアプローチー
学位論文内容の要旨
北 太 平 洋 亜 寒 帯 域 は 世 界 で も 生 物 生 産 が 非 常 に 高 い 海 域 で 、 植 物 プ ラ ン ク ト ン ダ イ ナ ミ ッ ク ス で は 、 東 部 と 西 部 で 異 な っ た 特 色 を 持 つ こ と か ら 、 東 部 と 西 部 の 比 較 研 究 が 最 近 良 く 行 わ れ て い る 。 本 研 究 海 域 に お け る 、 植 物 プ ラ ン ク ト ン 、 基 礎 生 産 に 関 す る 研 究 は 、1960年 代 か ら 、 非 常 に 多 く の 研 究 者 に よ っ て な さ れ て き た 。 特 に 東 部 の ア ラ ス カ 循 環 域 (AG) に は Stn.Papa(145゜W,50°N)と 呼 ぱ れ る 国 際 的 な 大 測 点 が あ り 、 多 数の 研 究者 に よ る 大 量 の デ ー 夕 蓄 積 が あ る 。AG域 は 、 春 に 明 瞭 な ブ ル ー ム が 見 ら れ ず 、 表 層 の ク ロ 口 フ イ ルa濃 度 が 通 年 で 約0.4 mgm‑3以 下 の 、 高 栄 養 塩 低 ク 口 ロフ イ ル海 域(HNLC: High Nutrient Low Chlorophyll)と言 われている 。 低 い ク 口 口 フ イ ル 濃 度 に な る 理 由 と し て 、 鉄 制 限 に よ っ て 植 物 プ ラ ン ク ト ン の 成 長 が 抑 制 さ れ る と い う 知 見 や 、 動 物 プ ラ ン ク ト ン に よ る 補 食 圧 が 高 い 等 の 知 見 が あ る が ま だ 不 明 な 点 が 多 い 。 特 に 、 西 部 亜 寒 帯 循 環 域(WSG) での 知見はAG域に 比較してさ らに少ない 。
近 年 、 人 工 衛 星 搭 載 の 海 色 セ ン サ ー に よ る り モ ー ト セ ン シ ン グ 技 術 を 用 い て 、 全 球 規 模 か つ 連 続 的 に 、 海 洋 植 物 プ ラ ン ク ト ン 現 存 量 が 観 測 さ れ て い る 。 1978年 か ら 1986年 ま で 稼 働 し た 米 国 NASAの 実 験 気 象 衛 星 、 Nimbus‑7搭 載 のCZCS(Coastal Zone Color Scanner) デ 一 夕 は 、 初 め て 海 洋 観 測 に よ る 植 物 プ ラ ン ク ト ン 現 存 量 の 観 測 を 実 現 し 、 我 々 に 多 く の 海 洋 学 的 知 見 を 与 え た 。 そ の 後10年 間 は 利 用 で き る 海 色 セ ン サ ー は な か っ た が 、OCTS(Ocean Color and Temperature Scanner) を 搭載 し た宇 宙 開発 事 業 団 の み ど り ( ADEOS) 衛 星 が1996年 8月 に 打 ち 上 げ ら れ 、 1997年6月 ま で 稼 働 し た 。 現 在 は 1997年 8月 にNASAが 打 ち 上 げ た 海 洋 観 測 衛 星 Orbview‑2衛星搭載のSeaWiFS(Sea‑viewing Wide Field of view Sensor)、1999 年 12月 に 打 ち 上 げ ら れ たTerra衛 星 搭 載 のMODIS(Moderate Resolution
Imaging Spectroradiometer)が、 全 球 規模 の 植物 プ ラン ク トン 観 測を 継 続し て い る 。
地 球 規 模 の 気 候 ・ 環 境 変 化 に 対 し て 、 地 域 的 、 時 間 的 な 植 物 プ ラ ン ク ト ン ・ 基 礎 生 産 の 分 布 特 性 と 変 動 メ カ ニ ズ ム 現 象 を 解 明 し て い く た め に 、 従 来 の 船 舶 観 測 や 、 定 点 観 測 に 加 え て 、 衛 星 観 測 に よ る 長 期 的 な 時 系 列 解 析 を 行 う こ と が 重 要 だ と 考 え て い る 。 本 研 究 で は 、 複 雑 な 植 物 プ ラ ン ク ト ン ・ 基 礎 生 産 分 布 メ カ ニ ズ ム の 解明 の ため に 、植 物 プラ ン クト ン をは じ め 、 水 温 ・ 風 ・ 目 射 等 の 複 数 の 環 境 要 素 を 同 時 に 、 連 続 に 、 か つ 広 域 に 観 測 す る こ と が で き る マ ル チ リ モ ー ト セ ン シ ン グ を 適 用 し た 。 長 期 の マ ル チ セ ン サ ー リ モ ー ト セ ン シ ン グ デ ー タ を 用 い れ ば 、 季 節 変 動 、 年 々 変 動 も 含 ん だ 長 期 的 な 海 洋 の 生 物 生 産 の 変 動 と 地 球 環 境 と の 関 係 を 同 時 に 理 解 す る こ と が 可 能 と な る 。
本 研 究 で は 前 述 し た 問 題 点 を ふ ま え 、El Nino,La Nina年 も 含 ん だ1997 年 か ら2000年 ま て の 、 ク ロ 口 フ イ ル 、 基 礎 生 産 、 水 温 、 海 上 風 、 日 射 量 な ど 衛 星 マ ル チ セ ン サ ー デ ー タ を 用 い て 、 北 太 平 洋 亜 寒 帯 域 で 衛 星 広 域 観 測 を 行 い 、 以 下 の 2点 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。
@ 北 太 平 洋 亜 寒 帯 域 に お け る 植 物 ブ ラ ン ク ト ン 濃 度 お よ び 基 礎 生 産 の 時 空 間 分 布 変 動 特 性 を 記 述 す る 。
◎ 北 太 平 洋 亜 寒 帯 域 に お け る 植 物 プ ラ ン ク ト ン 濃 度 お よ び 基 礎 生 産 の 時 空 間 分 布 変 動 特 性 と 物 理 環 境 と の 関 係 を 考 察 す る 。
解 析 し た 結 果 、 以 下 の こと が 明ら か にな っ た。
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@
◎
1998年 か ら2000年 ま で3年 間 に お け る 、 植 物 プ ラ ン ク ト ン 分 布 の 季 節 変 動 、 年 々 変 動 の 空 間 的 特 徴 を 把 握 す る た め 、 各 年 で 作 成 し たChI‑a濃 度 最 大 ・ 最 小 出 現 月 画 像 を 用 い て 、 定 常 的 な 分 布 バ タ ー ン と 年 々 変 動 が あ る 分 布 バ タ ー ン が あ る 海 域 を 区 別 で き た 。 Chl‑a濃 度 最 大 ・ 最 小 出 現 月 画 像 を 用 い て 海 域 区 分 を 行 う こ と によ っ て 次 の3つ の 総 観 的 分 布 特 性 が 明 ら か に な っ た 。1っ は 、 高 緯 度 域40N以 北 で は 、5月 に 最 大 に な る 海 域 は2月 に 最 小 と な る バ タ ー ン が 多 い 。2つ 目 は 、 中 緯 度 に 分 布 す る4月 に 最 大 と な る 海 域 は 夏8月 に 最 小 と な る 海 域 が 多 い 。3つ 目 は 低 緯 度 に 分 布 す る 12月 に 最 大 値 と な る 海 域 は8月 に 最 小 値 が 出 現 す る 傾 向 が あ る 。 Area2と し て 区 分 さ れ た5月 にChl‑a濃 度 の ピ ー ク が 出 現 す る ク リ ル 諸 島 ・ ア リ ュ ー シ ヤ ン 列島 周 辺海 域 は、 本 研究 海 域で 最 もChl‑ロ 濃 度 、 基 礎 生 産 が 大 き か っ た 。 高 いChl‑ロ 濃 度 が 維 持 さ れ る 原 因
@
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と し て 、 両 海 域 は 水 平 、 鉛 直 的 に も 栄 養 塩 の 供 給 が 常 に 大 き い 海 域 で あ る と 考 え ら れ る 。5月 のChl‑a濃 度 の ピ ー ク は 、 日 射 量 の ピ ー ク と 一 致 す る こ と か ら 、 本 海 域 は 安 定 し た 豊 富 な 栄 養 塩 と 日 射 条 件 の 整 っ た5月 に ブ ル ー ム が 起 き 、 そ し て 栄 養 塩 供 給 が 絶 え ず 起 こ っ て い る こ と か ら 、 ブ ル ー ム も 比 較 的 長 く 維 持 さ れ る と 考 え ら れ る 。 ブ ル ー ム の 終 焉 は 夏 季 昇 温 期 に 表 層 の 成 層 化 に よ っ て 下 層 か ら の 栄 養 塩 供 給 が 弱 め ら れ る と き 表 層 の 栄 養 塩 の 枯 渇 と 同 時 に 起 こ る も の と 推 測 さ れ る。
Area3と し て 区 分 さ れ た ア ラ ス カ 循 環 北 縁 の9月 に 必 ずChI‑a濃 度 ピ ー ク が 出 現 す る 海 域 は 、 そ の 空 間 分 布 と 亜 寒 帯 太 平 洋 に お け る 夏 季 のMacro‑zooplanktonの分 布(Mackas and Tsuda,1999)と を比 較 す る と 、 そ の 海 域 とMacro‑zooplanktonバ イ オ マ ス の 高 い 海 域 が 非 常 に 良 く 一 致 し て い た 。 こ の こ と か ら9月 にChI‑a濃 度 ピ ー ク が 見 ら れ た こ の 海 域 は 、 春 季 か ら 夏 季 に か け てMacro‑zooplankton バ イ オ マ ス が 多 く 、 補 食 圧 も 高 い と 考 え ら れ 、 同 時 期 の 現 場 観 測 デ ー タ が な い こ と か ら 定 量 的 に は 議 論 で き な い が 、Area3に お け る9月 の ピ ー ク は 、 春 以 降 夏 ま で 高 か っ た 動 物 プ ラ ン ク ト ン の 補 食 圧 が 、 秋 以 降 が 弱 ま る こ と が 起 因 と な る 見 か け の ピ ー ク で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。
165E付 近 Area6を 含 む 46‑53Nの WSG周 辺 海 域 で は 、 1998年 の 秋9月 が 他 年 の 同 時 期 よ り 高 いchl‑a濃 度 に な り 、 約1.0 mgm‑3の 高 濃 度 バ タ ー ン が 広 く 分 布 し た 。1998年44N以 北 で は 、 春4月 か ら 夏 季9月 ま で は 、 正 の 風 ア ノ マ り が 持 続 さ れ た 。 特 に5月 、6 月 は 最 も 風 が 強 く 、 こ の 春 の 強 い 風 は 鉛 直 混 合 を 高 め 、 水 塊 安 定 度 を 弱 め 、 春 季 の ブ ル ー ム を 抑 制 し た と 考 え ら れ る 。WSG付 近 の 1998年 秋9月 の ブ ル ー ム を 強 め た 原 因 は 、 例 年 よ り 多 い 冬 季 の 栄 養 塩 の 供 給 と 春 か ら 夏 の 強 い 風 が 鉛 直 混 合 を 高 め 、 秋 の ブ ル ー ム が 起 こ っ た と 考 え ら れ る 。
1999年 の み6月 に Area6を 含 む50‑52N付 近 に1.0 mg I11‑3の 高 濃 度 域 が 見 ら れ る の は 、 冬 か ら 春3月 に か け て 風 が 強 ま っ た こ と に よ り 、 鉛 直 混 合 が 促 進 さ れ 、 栄 養 塩 の下 層 か ら の 供 給 が 高 め ら れ 、 さ ら に 春 以 降 風 が 弱 ま っ た こ と に よ っ て 成 層 化 が 促 進 さ れ 例 年 よ り も 高 い ブ ル ー ム が 起 こ っ た と 考 え ら れ る 。1999年 はLa Nina年 で あ り 、 ア リ ュ ー シ ヤ ン 低 気 圧 が 西 方 シ フ ト し た こ と に よ っ て WSG付 近 の 冬 季 の 風 が 強 ま っ た 。 こ の こ と は 、 地 球 規 模 の 環 境 変 化 が 高 緯 度 域 に テ レ コ ネ ク シ ョ ン し 、 大 気 の 風 速 場 を 変 化 さ せ 、 海 洋 の 植 物 プ ラ ン ク ト ン 分 布 に ま で 影 響 を 与 え て い る こ と を 示 唆
している。
◎ WSG 海 域 と AG 海 域 の 東 西 循 環 系 海 域 を 比 較 し た 結 果 、 WSG の 方 が AG に 比 べて ChI‑a 濃度 が比較 的高く 、変動 は大 きい。 1999 年 の み で あ るが WSG で は 6 月に ピ ー ク が 見ら れ た 。 衛 星観 測に よる ChI‑a 濃度の西高東低バターンは、Shiomoto et al. (1998) の 船 舶観測 によ る東西 比較結 果と良 く一 致した 。 AG では春季に明 確なクロロフイルの増加が見られない知見があるが( Parsons and Lalli ,1988 )、今回の衛星観測結果でも同様のバターンが見られた。
AG のクロロフイルa 濃度観測結果では、 Wong et al. ( 1995 )によ ると、通年で約 O .4mg/m3 以下の低濃度で推移すると言われている が、今回の衛星観測では秋のピークを除けぱ良く一致していた。
本研究では、マルチセンサーリモートセンシングを用いることによって、
植物プランクトン分布、基礎生産分布とその物理環境との関係を同時に捉 えることができた。また、衛星デ一夕であるので空間的に広い範囲を同時 に観測でき、空間解像度もこれまでの船舶観測や数値モデルにはない9km であり、よりきめ細かな時空間分布バターンが解析できることを示した。
今後、さらに本研究を発展させ、北太平洋亜寒帯域における海洋生態系の
植物プランクトンと基礎生産量の時空間分布変動を定量的に明らかにで
きれぱ、地球環境変化に対する海洋植物プランクトンの応答の解明、さら
には太平洋における水産資源における餌環境を通した生存・成長に与える
影響や資源管理予測など水産海洋学的応用にも役立っものと考えている。
学位論文審査の要旨
主査 教授 齊藤誠一 副査 教授 岸 道郎 副査 教授 三浦汀介 副査 教授 飯田浩二
副査 教授 才野敏郎(名古屋大学)
学 位 論 文 題 名
北太平洋亜寒帯域における植物プランクトン分布および 基礎生産の変動機構の解明
一 マ ル チ セ ン サ ー リモ ー ト セン シ ング に よ るア プ ロー チ ―
近年 、衛星を 用いた地 球環境観 測技術が 進歩し、 海洋の物 質循環や汚 染のモニ タリン グ に 応用可能 な海色リ モートセ ンシング に関心が 高まって きた。特に 船舶で常 時観測す る の が困難な 遠隔の外 洋域で、 このよう な観測技 術を用い てその生産 性やその 健康度を モ ニ ターして いくこと は極めて 重要な課 題である 。現在ま で北太平洋 亜寒帯域 における 広 域 にわたる 春季ブル ームなど の生物生 産過程の 時空間変 動に関する 研究は極 めて少な く 、 従来の船 舶観測に 加え、広 域を、瞬 時に、繰 り返し観 測できる衛 星による 海色観測 が非常に有カな手段となりつっある。
本研 究で対象 とした北 太平洋亜 寒帯域は 、世界で も生物生 産が非常に 高い海域 で、植 物 プ ランクト ンの変動 特性は、 東部と西 部で異な った特色 を持つこと から、東 部と西部 の 比 較研究が 最近良く 行われて いる。本 研究海域 における 、植物プラ ンクトン 、基礎生 産 に 関する研 究は、1960年 代から、 非常に多 くの研究 者によっ てなされて きた。特 に東 部の アラスカ循環域(AG)にはSt.Papa(145゜W,50°N)と呼ばれる国際的な大測点があり、
多数 の研究者 による大量 のデー夕 蓄積がある。AG域は、春に明瞭なブルームが見られず、
表層のクロロフイルa(Chl‑a)濃度が通年で約0.4 mgn一3以下の、高栄養塩低クロロフイル海 域 (HNLC:HighNumentL0wChlorophyll)と言 われてい る。低いCh1‐a濃度に なる理由 と し て 、鉄制限 によって 植物プラ ンクトン の成長が 抑制され るという知 見や、動 物プラン ク ト ンによる 補食圧が 高い等の 知見があ るがまだ 不明な点 が多い。特 に、西部 亜寒帯循 環域(WSG)での知見はAG域に比較してさらに少ない。
地球 規模の気 候・環境変 化に対し て、地域的、時間的にどのように植物プランクトン・
基 礎 生産が変 動してい るのか明 らかにし ていくた めに、従 来の船舶観 測や、定 点観測に 加 え て 、 衛 星 観 測 に よ る 長 期 的 な 時 系 列 解 析 を 行 う こ と が 重 要 で あ る 。
申請者は、複雑な植物プランクトン・基礎生産分布の変動機構解明のために、連続に、
かつ広域に観測することができるマルチセンサーリモートセンシングデータを利用し て、単に植物プランクトン分布の時空間変動を記述しただけでなく、海上風、海向温度 な ど の 物 理 環 境 を 同 時 に 解 析 し そ の 影 響 を 考 察 し た も の で あ る 。
特に審査員一同が評価した点は以下の通りである。
1. 1998年から2000年まで3年間における、植物プランクトン分布の季節変動、年々変 動の空間的特徴を把握するため、各年で作成したChl‑a濃度最大・最小出現月画像を 用いて、定常的な分布パターンと年カ変動がある分布パターンがある海域を区別し て総観的な分布特性を明らかにした。
2. Chl‑a濃度最大・最小出現月画像を用いて海域区分を行うことによって次の3つの総 観的分布特性が明らかになった。1)高緯度域40N以北では、5月に最大になる海域 は2月に最小となるパターンが多く、2)中緯度に分布する4月に最大となる海域 は夏8月に最小となる海域が多く、3)低緯度に分布する12月に最大値となる海域 は 8月 に 最 小 値 が 出 現 す る 傾 向 が あ る こ と を 明 ら か に し た 。 3. WSG周辺海域では、1998年の秋9月が他年の同時期より高Chl‑a濃度になり、約1.0 mgm‑3の高濃度パターンが広く分布し、WSG付近のブルームを強めた原因は、例年 より多い冬季の栄養塩の供給と春から夏の強い風が鉛直混合を高め、秋のブルーム が起こったことを考察した。これは、マルチセンサーリモートセンシングを用いる ことによって、植物プランクトン分布、基礎生産分布とその物理環境との関係を同 時に捉えることができることを示したものである。
4. WSG海 域 とAG海 域 の東 西 循環 系 海域 を 比 較し た 結果 、WSGの方 がAGに 比 べて Chl‑a濃度が比較的高く、変動は大きいことを示した。衛星観測によるChl‑a濃度の 西高東低パターンは、過去の船舶観測による東西比較結果と良く一致した。AGでは 春季に明確なクロロフイルの増加が見られない知見があるが、今回の衛星観測結果 でも同様のパターンがあることを示した。
5. 1999年はLa Nina年であり、アリューシャン低気圧が西方シフトしたことによって WSG付近の冬季の風が強まった。このことは、地球規模の環境変化が高緯度域にテ レコネクションし、大気の風速場を変化させ、海洋の植物プランクトン分布にまで 影響を与えていることを示唆した。
6.本研究は、地球環境変化に対する海洋植物プランクトンの応答の解明、さらには太 平洋における水産資源における餌環境を通した生存・成長に与える影響や資源管理 予 測など水産 海洋学への衛星海色リモートセンシングの応用可能性を示した。
今後、このような方法で、長期のマルチセンサーリモートセンシングデータを用いて いけば、4‑5年スケールのENSOイベント周期からさらに10年スケール以上の年々変動 も含んだ長期的な海洋の生物生産変動と地球環境変動との関係を同時に理解することが 可能となる。
審査員一同は、本研究が、北太平洋亜寒帯域における植物プランクトン分布に関する 重要な知見を得たものと高く評価し、本論文が博士(水産科学)の学位論文として価値 あるものと認定した。