慣 性 の 法 則
力学を入門のところから講義するのに 静力学から入る仕方と,運動力学から入る 仕方とがある.前者の方法は物理学史的に は導入しやすいが,記述にいくらかの厳密さを求めるとすればどうも説明 しにくいところが出てくる.この本では第2の方法を選ぼう.物体の運動 を論じるのに慣性系が基本となるので Galilei,Newtonとその後の物理 学の発展史からみて,重要性の増した慣性系に対する運動を議論すること からはじめるのが今日では自然であろう.
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基 準 座 標 系 ・ 運 動の第1
法則l
運 動の第1法則または慣性の法則とよばれるものは高等学校の物理でも相当く わしく学び,読者もよく知っているものと思う.また,日常会話でも慣性とか惰性*とか いう語は運動現象以外のことがら,たとえば,慣れたことを変更するのが困難だという 場合の表現にも使われている.
慣性の法則の説明には滑らかな水平な机の面の上で物体を滑らせる実験がよ く引き合いに出され, これがもっとも手近な導入法であるが,ここでは重複を 避けるためと,地上で見られる力学現象(たとえば,実験室内の力学現象)か ら一応離れてもう少し一般的に考えてみよう.このことは,地上の実験室内に 固定した座標系の,力学という学問での地位,すなわち,なぜ地上に固定した 座標系で力学を通常のように論じてよいか,とL、う問題をも明らかにするであ ろう.
私たちの地上で、の実験室は通常静止しているものとして扱うことが多い.し
‑今日では,特に物理学では慣性のほうがよく使われている.
『基礎物理学選書1質 点 の 力 学 ( 改 訂 版 )~ (原島 鮮 箸 / 裳 華 房 )
2 1. 慣 性 の 法 則
かし地球は他の天体全体からみて回転しているし,また太陽のまわりを公転し ているので,この実験室は宇宙的立場からみれば静止しているとは考えにくい であろう.現代の普通の人の常識または直観からいうと,宇宙には絶対静止し ている空聞があって,その中に恒星その他の天体が存在していて,天体を考え るときはこの絶対静止空間に対する運動を考えようとするであろう.物理学か らいうと,絶対静止空間という考えを使う以上,これを見出すのにはどうすれ ばよいか,また実際に,これこれの点が絶対静止空間に対して静止しているか どうかを確認する実験的方法(直接にしても間接にしても)が与えられること が必要である.実際にはこのような方法は存在しないので,そのことは絶対静 止空間というものを物理学では考えないということになる.
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世紀には宇宙 の空間(物質の内部まで)を満たしているエーテル(巴th e r )
とL、う物質様の ものを考えて,これ自身が絶対に静止しているかどうかは依然として意味のな い問題であるが,物理的空間のただ1
つの標準になるものと考え,このエーテ ルに対して静止している物体を絶対静止とよぼうという考えがL、だかれた.し かし,相対論によりエーテルの存在も否定されたので,このような考えも廃止 された.それで現在は,物体の位置は他の物体(1つの天体とか,地球表面上に固定 された物体とか現実の物体)に相対的な位置だけによってきめられるという立 場をとる.そして, 一番便利と思われる