日本透析医会雑誌
Vol.22 No.1 2007[巻 頭 言]
透析医療が直面している諸問題
日本透析医会副会長大 平 整 爾…
1[透析医療における ConsensusConference2006 ]
ガイドライン作成の基本的スタンス
神戸大学腎臓内科 腎・血液浄化センター深 川 雅 史…
3Ca/P 管理目標とその設定根拠
東京慈恵会医科大学 腎臓高血圧内科横 山 啓太郎…
6二次性副甲状腺機能亢進症と骨代謝
新潟大学医歯学総合病院 集中治療部風 間 順一郎…
13副甲状腺インターベンション
名古屋第二赤十字病院 移植・内分泌外科冨 永 芳 博…
17二次性副甲状腺機能亢進症ガイドライン ―今後の課題と問題点―
秀和綜合病院腎臓内科/日本透析医学会二次性副甲状腺機能亢進症ガイドライン小委員会
塚 本 雄 介…
21[医 療 経 済]
第 10 回透析医療費実態調査報告
―レセプト調査からみた透析医療診療報酬の変遷を含めて―
日本透析医会 適正医療経済部会/同常任理事会
杉 崎 弘 章 太 田 圭 洋 大 平 整 爾 小 野 山 攻 隈 博 政 鈴 木 正 司 山 川 智 之 吉 田 豊 彦
同適正医療経済部会
鈴 木 満 小 野 利 彦 戸 澤 修 平 宮 本 孝
同常任理事会
山 﨑 親 雄…
24透析医療の国際比較
大阪市立大学大学院医学研究科泌尿器病態学
武 本 佳 昭 長 沼 俊 秀…
64[医療安全対策]
災害時患者搬送における河川利用の問題点
東京海洋大学海洋工学部
庄 司 邦 昭 庄 司 る り 木 村 昭 夫 石 橋 篤…
69広島県呉市における長期断水とその対策
医療法人社団森本医院森 本 忠 雄…
77[実 態 調 査]
高齢者透析患者の脳心血管系合併症治療の実態 ―アンケート調査より―
北海道高齢者透析研究会
上 田 峻 弘 伊 丹 儀 友 大 平 整 爾 久木田 和 丘 戸 澤 修 平 菅 原 剛太郎…
81[臨 床 と 研 究]
バスキュラーアクセスに対する当院における治療成績
―インターベンションから外科的治療への判断―
福岡赤十字病院 腎臓内科
池 田 潔 平 方 秀 樹…
86糖尿病性足病変の治療の実際
大阪厚生年金病院 皮膚科宮 島 進…
91目 次
手術時間の短縮をめざしたシャント作製術
―後壁を一点固定し,縫い代(bi te )に考慮した縫合法―
大野記念病院 泌尿器科
杉 浦 清 史 杉 田 省 三 伊 藤 聡 吉 本 充 和 田 誠 次
吹田市民病院 泌尿器科
長 谷 太 郎…
96[そ の 他]
透析患者の栄養管理における NSTの役割
慶應義塾大学病院 中央透析室稲 本 元
同 食養管理室
加 藤 学…
99透析医療における電子カルテ ―導入による功罪―
桜町病院
丸 山 祐 子
桜町クリニック
船 越 哲…
109[各支部での特別講演]
腎不全における代謝異常 ―予後の改善をめざして―
島根大学内科学第一
矢 野 彰 三…
118血液透析に伴う認知症
成田記念病院 神経内科川 畑 信 也
同 腎臓内科
大 林 孝 彰
明陽クリニック 腎臓内科
鶴 田 良 成…
1252006 年診療報酬改定後の透析施設シミュレーション
関東学院大学大学院 経済学研究科
工 藤 高…
134[透析医のひとりごと]
C型肝炎ウイルス対策
広島県透析連絡協議会(土谷総合病院)土 谷 晋一郎…
138[た よ り]
長崎県支部だより
長崎県透析医会会長新 里 健…
140新潟県支部だより ―中越地震に学ぶ新潟県における透析施設災害ネットワーク―
新潟大学医歯学総合研究科 腎・膠原病内科
成 田 一 衛 下 条 文 武
大森内科医院
大 森 伯…
142常任理事会だより
日本透析医会常務理事山 川 智 之…
145投稿規定
152編集後記 原 田 孝 司…
153お知らせ
平成
19年度透析療法従事職員研修のお知らせ((財)日本腎臓財団)
147学会ご案内(H19 .5 月~8 月)
148末期慢性腎不全に対する維持透析療法がわが国に根付いて,約 40 年が経過した.この間,この 領域における進歩を,揺籃期から同療法に関わった者の一人として強く実感している.しかし,腎 機能代替療法としての維持透析療法に限界が存在することを,長期患者の増加に呼応して増えてき た各種の合併症出現や適用の多様化に伴って痛感せざるをえない.
医療は純粋に,①医学的な側面に留まらず,これに関連して派生してくる,②社会的・経済的な 側面,③倫理的な側面,そして,④法律的な側面,などを加えて多面的に考察しなければならない ものであろう.医学的な進歩が著しければ著しいほど,4 つの側面を総合的に論ずる必要性が高ま るものと言える.ここではこれ等に関して最近感じている様々な問題の中から幾つかを取り上げて 感想を述べてみたい.
1.血液透析の形態
「1 回 4 時間・週 3 回」という画一的な治療形態が様々な属性を持つ患者に対して満足すべき効 果をあげ難いことは,自明の理であろう.患者は現行の治療形態に自らの広義の生活一般を適合せ ざるをえないでいるが,年齢・性別・生活様式・活動度・食生活等々に合致した個別性のある治療 形態は,ごく一部の施設で自己犠牲的に試行されるに留まっている.例えば,①連日・短時間透析 では,在宅施行とせざるをえない点に隘路があり,②隔日透析では,有職者の勤務形態や透析スタ ッフの休日勤務が施行を困難にし,③1 回透析時間の延長は,たとえ患者が希望しても施設の都合,
主としてスタッフ不足・人件費の面から敬遠されがちである.いずれの方策も幾つかの利点があげ られながら,全面実施に至らない現状をもどかしく感じておられる透析医が多かろうと推測するが,
診療報酬制度のあり方に影響されるところが大きいのであろう.
2.透析の質の担保
DOPPS などの血液透析の国際比較報告を概観すると,透析患者に対する精神医学的な配慮など 相当に遅れをとっている分野のあることも明らかになってはいるが,押しなべて世界に冠たる成績 をこれまではあげてきている.しかし,薬価・診療報酬制度がしばしば不当に変革される現状や,
大いに懸念される高齢者医療制度の発足などがあって,将来的にも良質の透析医療を継続できるか 否かは保証しえないのではないか.個人的な努力や犠牲には,限界があるからである.日本という 国の富をどのように分配するのかが,国民的論議で有効・公正に決せられるべき時期に来ている.
3.透析医の勤務と後継者の確保
今日の日本の透析療法を粉骨砕身築き上げた第一世代が第一線を退きつつあるが,毎年ほぼ 1 万 人規模で増え続ける透析患者に見合うだけの透析医は,その間隙を埋めるべく補充されているので あろうか.この領域の重要性を認識し興味を抱いてくれる若手医師を育て上げることが急務だと痛
[巻 頭 言]
透析医療が直面している諸問題
(社)日本透析医会
副会長 大平整爾
感するのは,エンドレス・24 時間オンコール・サービス残業である透析医の日常生活が,小松秀 樹氏の指摘する「立ち去り型サボタージュ」と称される現象を引き起こしつつある現状を身近に見 るからである.一方,看護師員数に関わる診療報酬体系の改定は濃厚な患者ケアを名目に実施され るに至ったが,小中医療機関の看護師確保が次第に難しくなってきている.かくして,透析患者の 高齢化・長期化などに伴う重症化を支える看護職員の不足が顕性化して,社会的な問題になること を苦慮するのである.医事紛争・医療訴訟の急増に対して,①事故防止対策,②紛争の処理・解決,
③医療に対する適切な社会通念の醸成などが欠かせられないが,必要十分な透析スタッフの配置は 第一義的な重要課題であろう.透析の分野に限らず,全医療における人員配置不足に関して社会へ のアピールが必要である.単なる員数増加ではなく,役割に応じた医師の雇用体系を確立・施行す ることが肝要である.
4.患者の意向と医師の説明・裁量権
患者の自己決定(権)を尊重することは現代医療の根幹であるが,患者の自己決定(希望)をそ のまま鵜呑みにできないことは言うまでもない.患者が常に正しい選択をするわけではないし,患 者は得てして自分に都合のよい方向・手段を選択しがちだからである.昨年 9 月末に「人工透析患 者死亡 賠償命令 岡山地裁 医師のミスを認める―遺族 1 億 3, 400 万円要求,5, 800 万円の支払 いを命ず」の記事が報道された.先刻ご承知だと思うので本訴訟経緯の詳細は省くが,患者がドラ イウエイトの引き下げに抵抗する場合の透析医の対処法に示唆を与えるものであろう.地裁の判決 文には,「患者がたとえ医師の指示に同意しなかった場合でも,家族に説得を依頼することは医師 の注意義務に含まれる」とある.当該病院は控訴しており最終判決を見守りたいが,「説明と同意 / 拒否」の過程は患者の自己決定権と医師の裁量権との鬩ぎ合いであることも多く,慎重な対応が 求められることを銘記いたしたい.患者・家族への説明事項をカルテに記載しておくことを,習慣 としなければならない.
5.慢性腎臓病(CKD )対策並びに腎移植の推進
CKDが国民病の様相を呈してきている昨今,これに対する啓発が一般医および国民に対して精 力的になされようとしている.その推進に透析医も一翼を担わなければならないであろう.また,
腎移植の推進は一層強く望まれ,透析医が関与すべき役割も小さくはないと認識すべきである.た だ,腎移植を進めるために,透析医療を余りに耐え難いものと貶める論法には些か疑義を感じるも のである.
6.医会の活動
本会の活動は,各会員に支えられたものである.組織の存続には当然ながら,本会活動が会員に 利益を還元するものがなければならない.本会定款第 3 条の目的には「透析療法の普及・技術の向 上,関係者の教育研修,腎不全対策の推進,会員の倫理の昂揚・資質の向上,国民の保健・福祉の 向上」が謳われている.これをより具体的かつ今日的に要約すれば,①教育・研修,②医療レベル を維持・向上すべく「適正な診療報酬制度」を確保するための提言・実行となる.大方の会員が望 む事項は②であろう.つまり,毎回の診療報酬制度改定に際して,厚労省からそれなりの果実を獲 得することである.この点に関してはご不満の会員もおられると危惧するが,意思決定の方式が小 泉内閣時代には大幅に変化したためもあり,医会としての対応もきわめて難しいものとなった.た だ歴代・現会長を中心とした努力により厚労省には然るべきパイプがあり,寄せられた会員の意向 を練り上げて真摯に伝達しつつ希望を強く具申している.この点にご理解を賜り,今まで以上にご 意見をお寄せくださるようにお願いいたしたい.
医会活動の一つは本誌発行にあるが,本号にも多くの会員から一読に値するご寄稿をいただいた.
執筆者に謝意を表し,会員諸兄のご一読を切に願う次第である.
要 旨
腎機能低下にともなうミネラル代謝異常は,骨病変 だけでなく,血管石灰化など全身疾患であり,生命予 後にも大きな影響を及ぼす.最近日本透析医学会から 発表された「透析患者における二次性副甲状腺機能亢 進症治療ガイドライン」では,目標値の設定に際して,
日本人のデータの解析に基づいた生命予後を最も重視 している.実際の治療にあたっては,リン,カルシウ ムの管理を優先し,これが達成された場合のみ副甲状 腺の管理を考えること,さらに内科的治療に抵抗する 重症の副甲状腺機能亢進症を,早めにインターベンシ ョン治療に持ち込むことが強調されている.
はじめに
腎臓は,カルシウム(Ca ),リン(P )のバランス 保持に非常に大きな役割を果たしており
1),腎機能が 次第に低下していく慢性腎臓病 (chroni c ki dney di sease;CKD )では,骨ミネラル代謝異常が必発す る.この異常は,透析患者の生命予後にも大きな影響 をおよぼすことが注目されている.
2006 年に日本透析医学会より「透析患者における 二次性副甲状腺機能亢進症治療ガイドライン」が発表 された
2).このガイドラインは,現在アクセスできる 日本の透析患者のエビデンスに可能な限り基づいたも のであり,これまでの治療方針と比較して,生命予後 を重視したものになっている.
イントロダクションとして,このガイドライン作成 の基本的スタンスを解説することによって,その新し い考え方を理解してもらうことを目指したい.
1 慢性腎臓病患者における骨ミネラル代謝異常
(CKD-MBD)
CKDにおける骨ミネラル代謝の異常は,骨の病変 を生ずるだけでなく,長期的には血管を含む全身の石 灰化を介して,生命予後にも影響を及ぼす.このこと の重要性を強調して,新たに全身性疾患として「CKD- mi neralandbonedi sorder;CKD-MBD (慢性腎臓 病にともなう骨ミネラル代謝異常)」という概念が提 唱されている
3).一方,従来からの腎性骨異栄養症
(renaloasteodystrophy;ROD )という用語は,骨 の病変に限定して使用されることになった.
二次性副甲状腺機能亢進症は, CKD-MBDの中で も,頻度が高く,重要な病態である.CKD患者にお いては,低 Ca 血症,高 P血症,さらに FGF23 を介 する活性型ビタミン D産生低下
4)などが適切に補正さ れなければ,副甲状腺ホルモン(PTH )の分泌が刺 激され,高回転骨病変(線維性骨炎)や心血管系の石 灰化等を生ずるため,これらの異常の補正が,その管 理の前提となる.
さらに長期に PTH分泌が持続すると,副甲状腺過 形成が生じ,結節性過形成の段階に達すると,副甲状 腺の Ca イオンや活性型ビタミン Dに対する感受性が 低下するため,通常の内科的治療では管理できなくな
[透析医療における ConsensusConference2006]
ガイドライン作成の基本的スタンス
深川雅史
神戸大学腎臓内科 腎・血液浄化センター
keywords :カルシウム,リン,PTH ,CKD-MBD ,ガイドライン
PrinciplesoftheJapaneseGuidelineforCKD-MBD
DivisionofNephrology& KidneyCenter,KobeUniversitySchoolofMedicine MasafumiFukagawa
るだけでなく,治療そのものが石灰化を促進してしま うような重篤な病態に進行する
5).したがって,二次 性副甲状腺機能亢進症の管理には,適切な予防策を講 じ,病態の進行度を考慮して,適切な治療法を選択す ること,さらに内科的な治療が効かない症例を深追い しないことも重要となる.
2 ガイドラインのスタンスと作成過程
CKD患者の骨ミネラル代謝異常に関するガイドラ インとしては,すでに米国(K/DOQI )
6),ヨーロッ パのガイドラインが広く用いられており,オーストラ リア,イギリスなどのガイドラインも出版されている.
骨ミネラル代謝異常を全身疾患として捉え,骨などの 特定の臓器の病変の改善ではなく,生命予後の改善を 最も重要な目的として,各目標値を設定するようにし ているのが特徴である.さらに,これらのガイドライ ンは,なるべくエビデンスに基づこうという方針で作 成されている.このエビデンスのレベル評価は,一段 と厳しい基準になりつつある
7).
日本のガイドラインを作成するためにも,生命予後 を含めた臨床のエビデンスに可能な限り立脚する必要 があるが,日本人のデータにもとづいて出版されてい る英文論文の数はきわめて少ない
8).そこで,どうし ても設定しなくてはならない目標値に関して,統計調 査委員会に依頼して,透析医学会のデータベースの公 式な解析を行った
9).また,J-DOPPS にもデータの 追加解析を依頼した
10).
3 日本のガイドラインの重要なポリシー
本ガイドラインの作成にあたって,目標値の設定に は,生命予後を最も重要視したが,正常人の基準値や,
骨回転を考慮した値など,従来から使われている治療 目標の根拠についても,まったく無視しているわけで はない.このガイドラインの重要なポリシーをまとめ ると,以下のようになる.
① 「ルーチン検査の結果をきちんと解釈する」
最近の保険の包括制度等も考慮に入れ,このガイド ラインでは,ルーチン検査から得られる情報を最大限 活用し,特殊検査は,明確な目的を持って,症例を選 んで行うというポリシーを徹底している.測定頻度も,
一応目安を示してあるが,画一的なものでなく,症例 や治療法によって運用に自由度を持たせてある.
② 「血清 P , Ca 濃度の管理をすべてに優先する」
P :3. 5 ~6. 0mg/dl 補正 Ca :8. 4 ~10. 0mg/dl
P , Ca の管理を PTHの管理に優先するのは,そう したほうが生命予後に良い影響をおよぼすことが示さ れているからである
11).
③ 「これが達成されている場合にかぎって,PTH 濃度を適切に調節する」
i ntactPTH :60 ~180pg/ml
PTHの管理目標も,骨代謝を妥当に保つ
12)よりは,
生命予後を重視して,従来よりやや低めに設定した.
一方,骨代謝の評価については
13),脚註で骨型アルカ リフォスファターゼに言及するに限り,骨生検の適応 もきわめて限定している.石灰化の評価,骨密度の評 価についても,現在のところ治療の変更には直接つな がらないため,簡単にしか記述されていない.
④ 「内科的治療に反応しない重篤な副甲状腺機能 亢進症は,深追いせずにインターベンション治療 にまわす」
内科的治療に抵抗するとは,PTHが管理目標にコ ントロールできない状態だけでなく,それを目標に治 療すると,P , Ca が管理目標からすぐに逸脱してしま うような状態をいう.治療抵抗性の結節性過形成の存 在は,臨床経過以外に,i ntactPTHが 500pg/ml 以 上,腫大副甲状腺の大きさが 0. 5cm
3以上が参考にな る.
インターベンションの方法としては,外科手術だけ でなく,わが国で長期予後を含むエビデンスが蓄積し ているエタノール注入療法も採用している
14,15). 4 ガイドラインの運用と問題点
果たして,このガイドラインの目標は容易に達成さ れるのであろうか? 現時点で P , Ca 濃度が管理目 標に達している症例は半数以下と推定される. PTH の管理目標を満たしている症例はさらに低いであろう.
しかしながら,目標範囲に達しなくても,それを目標
にするということで,より良い管理になると考えられ
る
16).また,近い将来,ci nacal cet の登場などで,達
成率は上がると予想される
17).当面管理に影響すると
考えられるのは,透析歴である.透析歴の短い症例の
ほうが,達成は容易と予想される.一方で,透析歴
10 年以上の症例では,ガイドラインを当てはめると,
内科的治療に抵抗性と判断される例が非常に多くなり,
一時的に副甲状腺インターベンションの適応例が著明 に増加する可能性が高い.
おわりに
将来の展望
このガイドラインは,可能な限りエビデンスに基づ いたものであるが,日本人のデータに基づくエビデン スは充分でなく,今後さらに長期的展望を持ったデー タの収集,解析,出版が必要である.設定された目標 値を含む,ガイドラインの妥当性の検討も,不可欠で ある.さらに新しい薬剤の登場にも対応しなくてはな らない.
また,今回のガイドラインは,基本的に血液透析患 者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療に限定している.
したがって,保存期患者, CAPD患者,さらにこれ 以外の骨ミネラル代謝異常に関してもカバーできる広 範なガイドラインの作成が望まれる.このことは,
KDIGOの gl obalgui del i ne に対する日本の貢献につ ながるだけでなく,アジア人種に適応できるガイドラ インの策定という意味でも,きわめて重要と考えられ る.
文 献
1) Fukagawa M,Hamada Y,NakanishiS,etal.:The kidney and bone metabolism :Nephrologists・pointof view.JBoneMineralMetab,24;434438,2006.
2) 日本透析医学会:透析患者における二次性副甲状腺機能亢 進症治療ガイドライン.透析会誌,39;14351455,2006. 3) MoeS,DruekeT,Cunningham J,etal.:Definition,
evaluation,and classification ofrenalosteodystrophy:
A position statementfrom kidney disease:improving globaloutcomes(KDIGO).Kidney Int,69;19451953, 2006.
4) FukagawaM,KazamaJJ:EditorialComments:With or without the kidney:the role ofFGF23 in CKD.
NephrolDialTransplant,20;12951298,2005.
5) Fukagawa M,NakanishiS,Kazama JJ:Basic and clinicalaspectsofparathyroid hyperplasia in chronic kidneydisease,KidneyInt,70(Suppl102);S3S7,2006.
6) NationalKidney Foundation:K/DOQIClinicalPrac- ticalGuidelines.Am J Kidney Dis,42(Suppl3);S1S 202,2003.
7) Uhlig K,MacLeod A,Craig J,etal.:Grading evi- denceandrecommendationsforclinicalpracticeguide- linesinnephrology.A positionstatementfrom kidney disease:improving globaloutcome(KDIGO).Kidney Int,70;20582065,2006.
8) NakaiS,Wada A,Kitaoka T,etal.:An overview ofregulardialysistreatmentinJapanasof31Decem- ber2004.TherApherDial,10;476497,2006.
9) NakaiS,AkibaT,KazamaJJ,etal.:Effectsofse- rum levelsofcalcium,phosphorus,andintactPTH on survival in chronic hemodialysis patients in Japan.
TherApherDial,inpress.
10) Kimata N,AlbertJM,Akiba T,etal.:Association ofmineralmetabolism factorswith allcauseandcar- diovascularmortality in hemodialysispatients:theJa- pan dialysis outcomes and practice patterns study.
HemodialysisInt,inpress.
11) Block GA,Klassen PS,LazarusJM,etal.:Mineral metabolism,mortality,and morbidity in maintenance hemodialysis.JAm SocNephrol,15;22082218,2004.
12) Akizawa T,Kinugasa E,Akiba T,etal.:Incidence andclinicalcharacteristicsofhypoparathyroidism indi- alysispatients.KidneyInt,62;S7274,1997.
13) Martin KJ,OlgaardK,Coburn J,etal.:Diagnosis, assessmentandtreatmentofboneturnoverabnormali- tiesin renalosteodystrophy.Am J Kidney Dis,43;
558565,2004.
14) Koiwa F,Kakuta T,Tanaka R,etal.:Efficacy of percutaneous ethanolinjection therapy(PEIT)is re- lated tothenumberofparathyroid glandsin haemo- dialysispatientswith secondary hyperparathyroidism.
NephrolDialTransplant,22;522528,2007.
15) 小野田教高,深川雅史,冨永芳博,他:選択的副甲状腺局 注療法に関するガイドライン,透析会誌,41;3135,2007.
16) NoordzilM,KorevaarJC,BoeschotenEW,etal.:The Kidney DiseaseOutcomeQuality Initiative(K/DOQI) guidelineforbonemetabolism anddiseaseinCKD:as- sociation with mortality in dialysis patients.Am J KidneyDis,46;925932,2005.
17) MoeS,Chertow GM,Coburn JW,etal.:Achieving NKF-K/DOQIbonemetabolism and diseasetreatment goalswithcinacalcetHCl.KidneyInt,67;760771,2005.
要 旨
CKDにおける骨ミネラル代謝の異常では,従来から 使われている腎性骨異栄養症(renalosteodystrophy;
ROD )から,新たに全身性疾患として「慢性腎臓病 にともなう骨ミネラル代謝異常(CKD mi neraland bonedi sorder;CKD MBD )」という概念が提唱され ている.
わが国でも,2005 年日本透析医学会から二次性副 甲状腺機能亢進症治療ガイドラインが発表された.こ のガイドラインは「生命予後を良好に保つことを目標 とし,血清 P, 血清 Ca がコントロールされている前 提で PTHをコントロールしていく」という骨格を基 として立案されている.管理目標値は血清 Pが 3. 5 ~ 6. 0mg/dl ,血清 Ca は 8. 4 ~10. 0mg/dl と設定された.
また,Ca 負荷が生命予後に悪影響を与えるという報 告から「炭酸カルシウムの投与量は 3g/dayを越え ないことが望まれる」ことが明記された.
1 慢性腎臓病患者における骨ミネラル代謝異常の 新しい概念へのパラダイムシフト
細胞外液中の Ca イオン濃度を生理的範囲に厳密に 保つための精巧な制御システムが存在するが,腎臓は,
副甲状腺,骨,腸管とともに,中心的な役割を果たし ている.したがって,腎機能が障害される慢性腎臓病
(chroni cki dney di sease;CKD )では,様々な骨ミ
ネラル代謝異常が生ずる.
CKDにおける骨ミネラル代謝の異常は,従来から 使われている腎性骨異栄養症(renalosteodystrophy;
ROD )に主眼を置いて評価され管理されていたが,
CKDにおける骨ミネラル代謝の異常は,骨の病変を 生ずるだけでなく,長期的には血管を含む全身の石灰 化を介して,生命予後にも影響を及ぼすことが明らか になってきた. その結果, 従来から使われている RODという用語は,骨そのものの病変に限定して使 用することとし,新たに全身性疾患として「慢性腎臓 病にともなう骨ミネラル代謝異常 (CKD mi neral and bonedi sorder;CKD MBD )」という概念が提 唱されている
1).
このような疾患概念のパラダイムシフトは,1990 年以降の欧米を中心とした EBM (evi dence based medi ci ne )研究と,それに基づくガイドライン作成 によってなされたといって良い.EBM 研究は生命予 後をアウトカムとした多数例の観察研究であることが 多いが,CKDにおける骨ミネラル代謝の異常と生命 予後が深くかかわっていることが明らかになっていっ た. そして遂に 2003 年 K/DOQI ガイドラインが NKFより公表された
2).わが国でも,2006 年に透析 患者における二次性副甲状腺機能亢進症治療ガイドラ イン(JSDTガイドライン)が,深川雅史委員長のも と日本透析医学会により作成された
3).
本稿では CKD MBDの Ca , Pの管理について,
[透析医療における ConsensusConference2006]
Ca/P管理目標とその設定根拠
横山啓太郎
東京慈恵会医科大学 腎臓高血圧内科
keywords :二次性副甲状腺機能亢進症,血清 P ,血清 Ca ,ガイドライン
Controlofserum phosphorusandcalcium levelsinGuidelinesforTreatmentofSecondaryHyperparathyroidism inHemo- dialysisPatientsinJapan
DivisionofNephrologyandHypertension,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine KeitaroYokoyama
JSDTガイドラインに基づき記述する.
2 ガイドラインとはなにか
筆者も JSDTガイドライン作成に参画し,先ず考 えたのは「ガイドラインとはなにか」ということであ る.多くの先生方の話の中には「ガイドラインを遵守 しないと医師が患者から訴えられる危険性がある」と 心配するものもあった.しかし,実際に筆者が「日本 で, K/DOQI ガイドラインにおける管理目標値の血清 P ,血清 Ca ,血清 PTHすべてを満たしている症例は,
僅かに 9 % しかいない」と報告した時に, K/DOQI ガイドラインの責任者である Massryから「ガイド ラインは順守されるかが問題ではなく,ガイドライン を目標に治療することで,全体の治療水準が上がるこ とが大切である」と返事があった.
JSDTガイドラインは K/DOQI ガイドラインの大 きな特徴の一つである,「腎疾患患者の Ca ,P代謝異 常を骨病変との関連のみで捉えるのではなく, むし ろ動脈硬化や生命予後の関連した病態として捉える」
という理念を踏襲している.しかしながら, K/DOQI ガイドラインでは 13 ものアルゴリズムがあり,その いくつかは関連しあうため,大変複雑なものとなって
いる(図 1 ).一つのアルゴリズムでは完結せず,さ らにほかのアルゴリズムに適応しなければいけない場 合があり,日常臨床上 K/DOQI ガイドラインのアル ゴリズムを使用することは不可能に近い.JSDTガイ ドラインでは K/DOQI ガイドラインのようにほかの アルゴリズムに移るような複雑性は排除された.
また,JSDTガイドラインは,維持血液透析患者の 大規模横断的観察研究から,生命予後を良好に保つた めの血清 P濃度と血清 Ca 濃度を管理目標値として設 定したため,CAPD患者に関しては妥当性を示すエ ビデンスは乏しい.したがって,JSDTガイドライン は原則として一般的な維持血液透析患者を想定して作 成されたものである
3).
3 透析患者の生命予後への血清 P,血清 Ca,
血清 PTH値の寄与度
アウトカムを生命予後とした場合,血清 P ,血清 Ca ,血清 PTHのいずれの順で寄与度が高いだろうか.
いくつかの観察研究では,各測定値の死亡に対する相 対危険度を比較して,血清 P ,血清 Ca ,血清 PTH の順で死亡に対する相対危険度に大きな影響を与えた ことを示している.しかし,透析患者における各測定
図 1 K/DOQIガイドライン
値の分布が異なるため,単純に各測定値の死亡に対す る相対危険度を比較することは困難かもしれない.
各測定値の分布が逸脱することと生命予後との関連 については, Sl i ni nは USRDS waves1 , 3 , and 4 study を解析し,血清 P ,血清 Ca ,血清 PTHの各測 定値の分布を 20 パーセンタイル毎に分けて各グルー プでの死亡に対する相対危険度を比較している.すな わち,各測定値において,大きく逸脱している高値 20 パーセンタイルのグループの死亡に対する相対危 険度が,相対危険度が最も低値を示すグループに比べ どの程度上昇するかを解析している
4).この結果でも,
相対危険度の上昇は,血清 P ,血清 Ca ,血清 PTH の順で高かった
4~6).
したがってアウトカムを生命予後とした場合,血清 Pがコントロールされていることが最優先され,その 後血清 Ca ,続いて PTHとなることが妥当であると 考えられた. JSDTガイドラインも「血清 P ,血清 Ca がコントロールされている前提で PTHをコント ロールしていく」という骨格を基として立案された.
4 血清 P,Ca値の管理目標値とその根拠 1 ) 血清 Pの管理目標値
前述の条件下では,血清 P ,血清 Ca 管理目標値の 範囲を狭くすればする程 PTHのコントロールは制限 されることになる. JSDTガイドラインでは P ,Ca の順で管理目標値が記述された.
Pの管理目標値は,3. 5 ~6. 0mg/dl と設定された.
K/DOQI ガイドラインでは,3. 5 ~5. 5mg/dl である.
「中程度の高 P 血症」 (5. 01 ~6. 5mg/dl )が透析患者の 独立した死亡危険因子であることも報告されている
7). 日本人を対象とした解析では,「2004 年わが国の慢 性透析療法の現況」では血清 P 濃度 8mg/dl 以上で,
日本人のデータベース(日本透析医学会)を新たに解 析した結果によれば,1 年生命予後では 7mg/dl 以上,
3 年生命予後では 5mg/dl 以上の血清 P濃度におい て高い死亡リスクを認める.また,JDOPPS では 6. 5 mg/dl 以上で有意な死亡率の上昇を示していた
8).
これらは,観察研究であるが,縦断的観察研究によ って K/DOQI ガイドラインの Pの管理目標値を遵守 することが,生命予後に良好な影響を与えることも明 らかになっている
9).日本が週初めの採血を参考にし ていることを考えると, K/DOQI の 5. 5mg/dl 以上
は 6. 0mg/dl 以上に相当すると考えられ,日本人の P の管理目標値は 3. 5 ~6. 0mg/dl となった.ヨーロッ パでは 4. 6mg/dl を目標にしているが,血清 P は血液 透析後に大きく低下するので,生命予後を最も良好に するための測定値から管理目標値を決定した(しかし ながら CAPD患者においては HD患者より低い P値 の設定が可能かもしれない).
2 ) 血清 Ca の管理目標値
血清 Ca は補正 Ca で評価し,管理目標値は 8. 4 ~ 10. 0mg/dl となった.血清 Ca に関しては血液透析直 後に大きく低下することはないので,生命予後を最も 良好にするための測定値と正常値の両者の値を参考に し,管理値を求めることにした.管理目標値設定の根 拠は,日本人のデータベース(日本透析医学会)を新 たに解析した結果により,1 年予後,3 年予後ともに 補正 Ca が 10. 0mg/dl 以上において高い死亡リスク を認めたことにある.血清 Ca 値が低ければ低いほど 生命予後が良好であることを示した観察研究がある が
6,7),日本人のデータベース(日本透析医学会)を 新たに解析した結果によれば,血清 Ca が管理目標値 より低下しても生命予後との関連はなかった.
3 ) 許容値の設定
今回,管理目標値に加え,治療の許容値を設定した.
血清 Pが 7. 0mg/dl を超える場合,あるいは補正血 清 Ca 値が 10. 5mg/dl を超える場合には「速やかに 治療の変更を考慮する」こととされた.
今回の指針では,血清 Pと血清 Ca が管理目標値と 比べて,①低い,②コントロールされている,③高い,
に分けて,その組み合わせの 9 パターンにおけるそれ ぞれの治療指針が作成された.そして血清 Pと血清 Ca の値によって行うべき治療法が表 1 のように紹介 され,K/DOQI ガイドラインのようにほかのアルゴ リズムに移るような複雑性が排除された.なお,血清 Ca ・ P 積に関しては,その値がほとんど血清 Pに左右 されること,またパラメータを一つ増やすことが治療 アルゴリズムを複雑化することから,JSDTガイドラ インでは治療指針のパラメータから省かれた.
4 ) 治療法
血清 Pを下げる治療,血清 Pを上げる治療,血清
Ca を下げる治療,血清 Ca を上げる治療,それぞれ の内容は K/DOQI ガイドラインに準じて図 2 のよう に設定された
1).本邦において,活性型ビタミン D製 剤の能書に高 Ca 血症患者ではその投与量を減量する
ように記載されているが,高 P血症患者では減量す るように明記されていない.そのため,従来,高 P 血症患者でも高 Ca 血症を認めない場合,活性型ビタ ミン D製剤を使用している施設も少なくなかった.
表 1 JSDTガイドラインによる治療指針 血清Pと血清Caの濃度を指標に9つのパターンに分け治療法
を選択する.
1.血清P濃度が目標値以上の時
血清Ca濃度に関わらず,P摂取制限の食事指導と十分な透析 量を確保する.その上で血清Ca濃度によって高P血症の治療を 選択する.
●血清Ca高値の場合
炭酸カルシウムの服薬が食事中あるいは食直後であるかを 確認する
炭酸カルシウムの減量または中止(塩酸セベラマーへの切 り替え)
活性型ビタミンDの減量または中止 不動などを含めた高Ca血症の要因を検索 透析液Ca濃度の調整
●血清Ca目標値内の場合
炭酸カルシウムの服薬が食事中あるいは食直後であるかを 確認する
炭酸カルシウム・塩酸セベラマーの開始または増量 活性型ビタミンDの減量または中止
●血清Ca低値の場合
炭酸カルシウムの服薬が実際なされているか確認する 炭酸カルシウムの開始または増量
炭酸カルシウムの増量でPのコントロールが出来ない時,
活性型ビタミンDの減量
2.血清P濃度が目標値にある時
●血清Ca高値の場合
炭酸カルシウムの減量または中止(塩酸セベラマーへの切 り替え)
活性型ビタミンDの減量または中止 不動など含めた高Ca血症の要因を検索 透析液Ca濃度の調整
●血清Ca目標値内の場合
現行の治療続行(PTH値の適正化)
●血清Ca低値の場合
炭酸カルシウムの開始または増量(食間投与)
活性型ビタミンDの開始または増量 3.血清P濃度が目標値以下の時
血清Ca濃度に関わらず,まず十分な食事ができているかどう か,また低栄養状態でないかどうかを評価する.その上で血清 Ca値によって低P血症の治療を選択する.
●血清Ca高値の場合
炭酸カルシウム・塩酸セベラマーの減量または中止 活性型ビタミンDの減量または中止
不動などを含めた高Ca血症の要因を検索 透析液Ca濃度の調整
●血清Ca値目標値内の場合
炭酸カルシウム・塩酸セベラマーの減量または中止
●血清Ca低値の場合
炭酸カルシウムの開始または増量(食間投与)
活性型ビタミンDの開始または増量
図 2 P,Ca治療管理
高Ca血症ではVitDとCaCO3減量・中止,高P血症ではVitD減量・中止とP吸着薬の 増量を図る.高P血症で血清Caが管理目標値内の時のCaCO3増量は高Ca血症の出現に留 意し,3g/dayまでの増量とする.高P血症で血清Caが管理目標値以下の時はCaCO3でP のコントロールができない時にVitDを減量する.
JSDTガイドラインでは,活性型ビタミン D製剤が 血清 Pを上昇させることを根拠に
10),K/DOQI ガイ ドラインと同様に高 P血症患者で活性型ビタミン D 製剤の減量・中止が明記された
2,3).
すなわち,高 P血症では日本腎臓学会の指針に基 づき 700mg/day 以下の P摂取制限の食事指導と十 分な透析量の確保に加えて,活性型ビタミン D製剤 の減量・中止と P 吸着薬の増量を考慮する.高 Ca 血 症では活性型ビタミン D製剤と炭酸カルシウムを減 量・中止する.また,低 P血症では十分な食事摂取 がなされているか,また低栄養状態でないかどうかを 評価し,低 Ca 血症では炭酸カルシウム開始・増量を 行うこととされた(図 2 ).
なお,血清 P ,血清 Ca ,血清 PTHは,週 3 回透 析患者の週初め(月あるいは火)と週半ばの測定値で は単純な比較ができないことから
11),週初めの(月あ るいは火)測定値を基準とし,血清 Ca は Payne の 式による補正 Ca を用いることが推奨されている
12,13).
Payne の式(血清アルブミン値<4. 0g/dl の患者 でのみ補正する)
補正 Ca (mg/dl )=血清 Ca (mg/dl )+(4 -血清ア ルブミン値)
血清 Ca の管理目標値として補正 Ca よりイオン化 Ca で設定することを求める声もあるが,日常臨床レ ベルでは困難である.また,補正式としては米国骨代 謝学会が提唱する補正 Ca (mg/dl )=血清 Ca (mg/dl )
+(4 -血清アルブミン値)× 0. 8 という換算式もある が,本邦においては透析医学会以外の学会でも Payne の式が認知されている点,また両補正式で透析患者の 補正血清 Ca 値に大きな影響を与えない点から
12),補 正 Ca 式として Payne の式が選択された.
5 ) Ca 負荷と生命予後
Ca 負荷が生命予後に悪影響を与えるという報告か
ら
14,15)「炭酸カルシウムの投与量は 3g/dayを越え
ないことが望まれる」ことを明記した.炭酸カルシウ ムの負荷量は,欧米の報告では, 3. 75g/day を越え ないことが推奨されているが,体格差を勘案し,「炭 酸カルシウムの投与量は 3g/day を越えないことが 望まれる」とされた.そのため,高 Ca 血症下での P 吸着薬の使用は,炭酸カルシウムを塩酸セベラマーに 切り替える必要があるが,血清 Ca が正常でも血清 P
が高い場合は,炭酸カルシウムの使用の上限は 3g/
day として塩酸セベラマーに切り替えることが望まれ る.実際に塩酸セベラマーがカルシウム含有 P吸着 薬より,冠動脈石灰化を進展させないという報告があ る
16,17).
また,この血管石灰化が,透析患者の生命予後と関 連することが明らかになってきている
4,18).透析導入 時は血清 Pのコントロールが可能なことが多いが,
透析導入当初から P吸着薬として炭酸カルシウムよ り塩酸セベラマーを使用した症例において,血管石灰 化の進展が抑制されていたとの報告もある
19).血管石 灰化を MDCTや EBCTで評価した報告はあるが
15,20), 日常臨床上は胸部 X線あるいは腹部 X線での観察が 主たるものである.しかしながら現段階では,胸部 X 線あるいは腹部 X 線で評価した血管石灰化と生命 予後に関連する報告は少ない
21,22).今後スクリーニン グ検査としての妥当性が評価されるべきであろう.ま た,血清 P濃度が高いことが頚動脈の内膜肥厚と関 連するという横断研究があり
23),血管石灰化のみなら ず血清 P濃度と動脈硬化との関連の解明が待たれる ところである.ただし,本邦では,塩酸セベラマーが 消化器症状を惹起する頻度が高いことから,塩酸セベ ラマー少量からの漸増投与法や,炭酸カルシウムとの 併用療法が有効であるという報告
24)に関しても参考に する必要があると思われる.
5 ガイドラインがもたらす P,Caおよび PTHの 管理の変化
冒頭でも述べたが,Massry は「ガイドラインは遵 守されるかが問題ではなく,ガイドラインを目標に治 療することで,全体の治療水準が上がることが大切で ある」と述べた.ガイドラインが単に管理目標値を決 めるためだけのものでなく,ガイドラインが浸透する ことによって二次性副甲状腺治療法そのものが変化す ることが目的であると仮定すれば,ガイドラインがあ る程度は遵守される必要があるかもしれない.
われわれは JSDTガイドラインがどの程度遵守で
きるかを思索した.3, 522 例で検討した結果,39. 9 %
が Ca も Pも管理目標値となった.頻度が多かったの
は高 P血症かつ Ca 管理目標値内の 19. 5 %,P管理目
標値内かつ低 Ca 血症の 12. 3 %,P管理目標値内かつ
高 Ca 血症の 10. 1 % であった(図 3 ).この分布から
は,治療法の調整によって約半数以上の患者が,血清 Pと血清 Ca は管理目標値内に治めることが可能であ ると思料された.また,Ca 含有の P吸着薬である炭 酸カルシウムの使用量の上限が 3g/dayと示されて いることから,塩酸セベラマーの使用頻度が増加する ことが予想される.
Arenas らの報告でも,K/DOQI ガイドライン発表 後,Ca 含有の P吸着薬の使用頻度が低下している.
加えて透析液の Ca 濃度も 3. 0mEq/Lの液から 2. 5 mEq/Lの液に変更する施設が増加したとしている.
また,血清 P値や血清 Ca 値は変化を認めなかったが,
平均 i PTH 値は 201pg/ml から 312pg/ml に増加し たと報告している
25).JSDTガイドラインの i PTHの 管理目標値は 60 ~180pg/ml と K/DOQI ガイドライ ンの管理目標値である 150 ~300pg/ml に比べ低く設 定されていることは
3),副甲状腺インターベンション
(副甲状腺摘出術(PTx )),または経皮的エタノール 注入療法(PEIT )の適応頻度が増加,あるいは PTH 抑制のより確実な活性型ビタミン D静注療法の早期 からの使用など,治療スタイルを変える可能性を有し ている.
6 今後の問題点
今後の問題点としては,Pおよび Ca の管理目標値 は従来の横断的観察研究による結果が基盤となってい るため,ti medependent (その値を取り続けること が生命予後にどのような影響をあたえるか)などの検 討が望まれる.また,治療薬の変遷による見直しが必 要であろう.
管理目標値は,患者個々の属性を考慮に入れていな
い.たとえば心疾患の患者は Ca レベルを低く設定し たほうが良いことが JDOPPS でも示されているよう に,今後は個々の患者の属性を勘案したガイドライン も必要と思われる.透析液 Ca 濃度も処方透析として 評価される問題であると思われる.すなわち,透析液 Ca濃度の 2. 5mEq/Lを選択するべきか 3. 0mEq/L を選択するべきかについては,Ca 含有 P吸着薬,活 性型ビタミン D ,あるいは今後使用される Ca 受容体 遮断薬やランタンなどの使用薬剤が,個々の患者の Ca 負荷量にいかなる影響をあたえるかを勘案した処 方透析として評価される問題であると思われる.
文 献
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(N=3,522)
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要 旨
副甲状腺ホルモン(PTH )の測定値は副甲状腺機 能の良好な指標であり,同時に骨代謝の指標でもある.
主として用いられる i ntactPTHアッセイと,第三世 代 PTHアッセイ系との間には係数を 1. 7 とする一次 相関関係がある.JSDTガイドラインは PTHの標準 値をそれ自体と生命予後との直接関係から 60pg/ml < i ntactPTH <180pg/ml に定めた.この範囲内を大 きく逸脱する場合は,血清 P/Ca 値が管理目標内に維 持されている前提で,治療介入を試みる.このような 治療の優先順位が確立されたので,骨に対する治療介 入を単独に行うことは困難になった.
はじめに
二次性副甲状腺機能亢進症や,それにも大きく影響 される様々な骨代謝異常は,維持透析者一般に認めら れる重大な合併症である.日本透析医学会は二次性副 甲状腺機能亢進症治療ガイドライン(以下 JSDTガ イドライン)を発表し,これらの合併症に対する標準 的な診療方針を提唱した.本稿ではこの JSDTガイ ドラインの成立背景を振り返りながら,その考え方に ついて概説したい.
1 副甲状腺の機能と内科治療 1 ) 副甲状腺機能の評価
副甲状腺ホルモン(以下 PTH)の測定値は副甲状
腺機能の良好な指標である.従来,慢性腎不全患者に おける PTHの測定には,主として i ntactPTHアッ セイが用いられてきた.しかし,近年,PTH分子の 両端を標的とするサンドウィッチアッセイである第三 世代 PTH測定系が開発され,臨床現場でも使用され 始めている.横断研究においては,これらの測定値と i ntactPTHの値との間には良好な一次相関関係が認 められ,その係数はおよそ 1. 7 であった
1~3).市場へ の i ntactPTHアッセイ供給は不安定となっており,
今後の PTH測定の主体は第三世代にシフトしていく 可能性がある.JSDTガイドラインでは i ntactPTH と第三世代 PTH測定値の間に係数を 1. 7 とする換算 式を設定し,臨床現場で第三世代 PTHアッセイを使 用する際に,過去の知見からの連続性を担保した.
慢性腎不全患者において,i ntactPTH値は多くの 骨代謝マーカーや生検骨形態計測値から得られた骨回 転の指標と相関している
4~6).PTH測定は,副甲状腺 機能の指標の他に,透析者においては最も信頼性の高 い非侵襲的な骨回転の指標でもある.この事実は,一 方で透析者の副甲状腺機能管理の考え方に混乱をもた らしてきた.すなわち,副甲状腺機能管理の目標を
「好ましい骨回転を維持すること」と捉え,PTHの管 理域を骨回転との相対的関係を念頭において設定する 流れができてしまったのである.この考え方には大き な問題がある.そもそも大前提である「健常者の状態 に近い骨代謝状態である軽度変化型骨症が,透析者に おいても最も好ましい骨代謝状態である」とする証拠
[透析医療における ConsensusConference2006]
二次性副甲状腺機能亢進症と骨代謝
風間順一郎
新潟大学医歯学総合病院 集中治療部
keywords :二次性副甲状腺機能亢進症,活性型ビタミン D ,第三世代 PTHアッセイ,骨代謝,骨生検
Parathyroidfunctionandbonemetabolism
IntensiveCareUnit,NiigataUniversityMedical& DentalHospital Jun-ichiroKazama
はないのだが,本稿ではあえてその点には触れない.
まず,PTHと骨代謝回転とは,集団内においては 確かに正の一次相関を示すのであるが,その関係は決 して緊密なものではない.保存期腎不全患者において 血清クレアチニン濃度と糸球体濾過率との間には緊密 な関係があり,実際に血清クレアチニン値から糸球体 濾過率を推定する換算式がいくつか提唱されている.
しかし,透析者において PTHの測定値から骨形成率 を推定する試みは全くなされていない.できないのだ.
PTHと骨形成率はその程度に大雑把な相関しか示さ ないのである.PTH値と骨回転が 1 対 1 で対応する かのように考えることは実に観念的であって,現実と はかけ離れている.
さらに問題なのは腎不全状態における PTHと骨回 転の相対的な関係の変化である.PTHの骨作用は,
様々な理由によって,健常者よりも著しく鈍磨してい る.このために,透析者の骨回転を健常者レベルに維 持するためには,その副甲状腺活性を健常者の正常域 を超えるレベルに維持する必要がある.この事実から,
透析者の PTHの管理目標範囲は健常者よりも高いレ ベルに設定することが推奨されてきた
7,8). これは
「透析者の骨代謝は健常者に近づける必要があり,そ のためにその副甲状腺機能は健常者のレベルを大きく 逸脱してもかまわない」とする片手落ちな見解に則っ たものであり,その妥当性は検証されていない.「健 常者のレベルを大きく逸脱する副甲状腺機能の維持が,
長期的には内科治療抵抗性の重度二次性副甲状腺機能 亢進症発症を促進するのではないか」と危惧する声も ある.かといって,この両者に折り合いをつける妙案 も思い浮かばない.このように,従来の「PTHの管 理域を骨代謝との相対的関係で規定しよう」という考 え方は完全に行き詰まっていたのである.
2 ) 新概念と JSDTガイドライン
近年,二次性副甲状腺機能亢進症や腎性骨症は独立 の疾患ではなく,慢性腎臓病に伴う全身的な骨・ミネ ラル代謝異常のそれぞれの部分症状であるとする考え 方が提唱され
9),国際的な合意が得られている.この 疾患概念の変遷に則れば,PTHの管理目標も全身性 疾患のアウトカム,すなわち生命予後を重視して設定 するということになる.JSDTガイドラインはこの視 点の転換を世界に先駆けて取り入れることにした.
日本透析医学会統計調査委員会において解析した結 果によれば,i ntactPTH値が 180pg/ml 未満であっ た透析者群は,180pg/ml <i ntactPTH <360pg/ml に設定した標準透析者群よりも 1 年死亡率が統計学的 に有意に低かった.補正因子を変えたり,群の区切り を変えたり,アウトカムを 3 年予後としてみたりして みても,それぞれの死亡率は 60pg/ml <i ntactPTH < 120pg/ml を最小とする緩やかな J 型曲線を描くこと が再現性をもって確認された.この事実を踏まえた上,
従来の管理目標からの移行の容易さや適用の容易さな どを考慮して,JSDTガイドラインでは 60pg/ml < i ntactPTH <180pg/ml を透析者における副甲状腺 機能維持範囲に設定した.ガイドラインに記載はされ ていないが,この範囲を既述の式で第三世代 PTH測 定系の計測値に換算すると 35 ~106pg/ml となる.
なお,この範囲内での PTH値の維持は,血清 P値お よび Ca 値が管理目標内に維持されていることが前提 である.
3 ) 内科治療
PTH値が管理目標を大きく逸脱して上昇した場合 には,活性型ビタミン D製剤による内科治療がまず 試みられる.ただし,血清 P値および Ca 値の管理を より重視する立場から,活性型ビタミン D製剤によ る副甲状腺機能管理は,その厳密性よりも安全性に留 意すべきである.治療中には経口 P吸着薬の併用
10), 食事療法,低 Ca 透析液の使用
11)などの工夫が推奨さ れる. PTH値,P値および Ca 値の三者がそろって 管理域内に維持されている場合にのみ,活性型ビタミ ン D治療は成功したと評価される.
活性型ビタミン D治療が不成功であった症例に対 して漫然と活性型ビタミン D治療を継続することは 好ましくない.治療抵抗症例には速やかに副甲状腺イ ンターベンション治療の適応を検討すべきである.
2 骨代謝の評価
骨の機能は第一に生体剛性の維持,第二にミネラル
の貯蔵である.骨のミネラル貯蔵機能は細胞外液のミ
ネラル緩衝に反映されるので,それを評価したいのな
らば血清 P ・Ca 濃度を頻回に測定する方が簡便かつ
正確である.以上から,透析者の骨機能は,その生体
剛性維持機能,すなわち骨強度のみがその評価対象と
なる.
骨量は骨強度を大きく規定する因子であるが,唯一 の因子ではない.骨量以外に骨強度に影響を与える要 因群は骨質と総称されている.骨質を構成すると考え られている因子には「骨代謝回転/ 骨回転」「骨石灰 化速度」「海綿骨微小 3 次元構築」などが含まれてい るが,これらは透析者においてきわめて幅広い値をと る.すなわち,透析者の骨質は,健常者とは比べもの にならないほどの多様性を示しているのである.この ため,透析者においては骨強度に及ぼす骨量や骨質の 一構成因子の相対的寄与度が制限されている.実際に,
腎機能に大きな異常のない骨粗鬆症患者では DEXA 値が骨折の危険を予測する良好な指標となっているが,
透析者の場合にはそれほどでもない
12,13).また,透析 者において骨代謝回転の指標である PTH値が骨折予 測の指標となるかどうかも明瞭ではない
14~16).おそ らく単一で決定的なリスクとなる因子は存在しないの であろう.
このように,満足できる骨機能のモニターは存在し ない.その位置にもっとも近いのは圧倒的な情報量を 示す骨生検/ 骨形態計測であるが,侵襲的検査である 骨生検を繰り返して頻回に施行することは現実的では なく,したがって日々変化する骨代謝に日常診療で対 処する指針として用いることはできない.骨回転をモ ニターするなら骨型 ALP値や非特異的血清 ALP値 が,骨量をモニターするなら骨塩量や骨密度の測定が それぞれ有用であるが,それらはいずれも骨機能のほ んの一面を見ているだけである.そもそも JSDT ガ イドラインでは P ,Ca , PTHの順に管理の優先順位 をつけており,そこを規定されたら骨に対する治療を 修飾する余地は残されていない.となれば,骨機能を 評価すること自体に意味がないとする見解すらも成り 立ってしまう.「JSDTガイドラインは骨に冷たい」
という批判を時に頂くが,上記のような背景に基づい ていることを理解いただきたい.
骨生検を日常診療の指針として位置づけることはで きないが,しかし原因不明の骨代謝異常が遷延する場 合には積極的に適用すべきである.骨生検は代謝性骨 疾患診断のゴールドスタンダードであり,最終診断法 である.非侵襲検査だけでは診断が困難な症例におい ても,時に治療の道を切り拓く可能性がある.
文 献
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