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日本透析医会雑誌

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(1)

THEJOURNALOFJAPANESEASSOCIATION OFDIALYSISPHYSICIANS

日本透析医会雑誌

Vol.15 No.3 2000

[巻 頭 言]

日本の透析医療を考える 日本透析医会副会長 今 忠 正…301

[災 害 時 対 策]

透析施設における災害対策―病院の立場から― 甲南病院 内 藤 秀 宗…303 透析施設における震災対策―診療所の立場から― 坂井瑠実クリニック 坂 井 瑠 実…307 大災害時における透析医療活動マニュアル 北海道透析医会 札幌市透析医会…310 岡山県における透析医療危機管理システム―岡山方式―(第

2

報)

岡山県医師会透析医部会 笛 木 久 雄 菅 嘉 彦 西 崎 哲 一 大 森 浩 之 草 野 功

岡山県医師会担当理事 福 岡 英 明…340 災害時情報ネットワーク委員会記録 危機管理委員会 災害対策部会部会長 吉 田 豊 彦

災害時情報ネットワーク委員会委員長 服 部 義 博

災害時情報ネットワーク委員会 武 田 稔 男…351

[感 染 対 策]

C型肝炎集団感染調査報告書の掲載にあたって

日本透析医会専務理事 鈴 木 満…363

C型肝炎集団感染調査報告書

千葉県保健福祉局保健衛生部健康管理課

C型肝炎集団感染調査委員会…

364 大阪府における透析患者の結核発症状況

大阪透析医会・大阪透析研究会合同感染対策委員会 長谷川 廣 文 今 田 聰 雄 岸 本 武 利 飯 田 喜 俊…380

[医療事故対策]

透析医療事故対策―東金病院事故を振り返って―

危機管理委員会 医療事故対策部会 部会長 秋 澤 忠 男…390

[ 臨 床 と 研 究 ]

糖尿病性腎不全 東京女子医科大学 糖尿病センター 馬場 園 哲 也…394

PTAによるシャント再建術

日本大学医学部第二内科 奈 倉 勇 爾 樋 口 輝 美…405 透析管理とコンピュータ

新屋敷クリニック 田 中 伸 明 松 本 高 揮 田 添 昇

熊本第一クリニック 田 尻 宗 誠…409

目 次

(2)

[研究助成論文]

維持透析患者における酸化

LDL

分画を用いた酸化ストレスの検討

―ダイアライザーによる比較― 香川医科大学 総合診療部 福 永 恵

香川医科大学 第二内科 高 橋 則 尋 森 脇 久美子 原 大 雅 松向寺 孝 臣 細 谷 陽 子 人 見 浩 史 藤 岡 宏 清 元 秀 泰 河 野 雅 和

三豊総合病院 石 津 勉 秋 山 賢 次 広 畑 衛…419 高糖濃度下でのヒト腹膜中皮細胞と線維芽細胞における塩基性線維芽細胞増殖因子の

役割と

predni sol one

の効果について

広島大学医学部第二内科 頼 岡 徳 在 尾 形 聡

広島県透析連絡協議会 辰 川 自 光 原 田 知 土 谷 晋一郎…425

[た よ り]

愛知県支部だより 愛知県支部支部長 山 崎 親 雄…431 岡山県支部だより 岡山県医師会透析医部会会長 草 野 功…434 鹿児島県透析医会だより 鹿児島県透析医会会長 前 田 忠…437 常任理事会だより 日本透析医会常務理事 山 崎 親 雄…439

[ 事 務 局 連 絡 ]

中央省庁の再編成について 日本透析医会事務局…442

投稿規定

編集後記 飯 田 喜 俊

お知らせ

(社)日本透析医会研修セミナー案内

(3)

1982

年頃,一部に透析医療に対する根拠のない中傷,批判がありました.これを動機として,

全国各地から専門医会の結成が必要であるとの声が上がり,適正な透析医療の普及,啓蒙を目的 とした都道府県透析医会連合会が組織されました.その後,稲生前会長,平沢会長などのご努力 で

1987

7

月社団法人としての認可を受けることができ,日本透析医会として正式に発足いた しました.以後

13

年が経過し,多岐にわたる事業を実施し,社会的な貢献を果たして参りました.

最近は特に災害対策,院内感染対策,医療事故防止対策など頻発する事件に迅速に対応し,高い 評価を得ていることは周知の事実であります.

しかし,残念なことに会員施設数

943

,総会員数

1, 160

名とその組織率は芳しくありません.

透析医療が自分の本業であると自信を持って言える専門医が少なくなって居り,透析医会の活動 に関心が薄くなっているためと考えます.

日本透析医学会の統計調査では

3, 220

の透析施設数で,透析専従医師

3, 300

名となっておりま す.20万の患者数に対してこの数字が適正なのか,判断できませんが意外に少ないとの印象です.

かなりの部分が兼務医師に任されているのが現実のようです.人工透析は標榜科として認可され ておりませんし,盆暮れ,正月も無い,3Kの分野として若い医師に敬遠されているのも原因か もしれません.

医療経済の逼迫した環境の中で将来にわたって現在の透析医療の質を担保するには,適正な診 療報酬を確保するとともに,透析医療に従事する医師に希望を与えるような環境を整備すること も重要であります.また,施設基準の作成を含めて自主的な透析医療の点検なども検討し,専門 医集団としてより強力な社会的な信頼を得るためには組織率の向上が急務であります.

私が約

30

年前経験したアメリカの透析医療システムが現在のアメリカの原点でないかと考えて おりますが,日本の透析医療が当時のアメリカの方向に進んでいるとの危惧をいだいております.

1967

年から

2

年余クリーヴランドクリニックに留学しましたが,帰国後透析室を立ち上げるた めには,透析室運営のノウハウを修得することが必須でした.透析室には患者と一言,二言言葉 を交わす程度の回診に

5

分ほどドクターが顔を出すくらいで,透析室の運営は主として技士と看

常任理事会だより 301

日本の透析医療を考える

(社)日本透析医会

副会長

今 忠 正

[巻 頭 言]

(4)

護婦に任され,透析装置の特徴,操作,保守管理などについてはほとんど技士から学びました.

これらについての全般的な知識を備えたドクターが少なく,教えを請うことができなかったから です.

チーム医療として透析医療を考えたとき,私がそのコーディネーターとしての責任を遂行する ために,透析室運営に関する全般的知識をここで学んだことは非常に有意義なことであったと考 えております.

このような観点から若い医師の教育カリキュラムへ看護婦,技士の業務内容も含めるべきで,

透析医療全般についての知識を身につけて欲しいものだと考えます.

当時,透析医療に携わっていた医師の多くは私と同様の努力をした経験をお持ちのことと思い ます.現在,こういった意味での透析医療にどっぷり浸かった医師が減ってきているのではない でしょうか?

アメリカの透析室は電話で指示を受けられる医師と契約している場合,ライセンスを持った看 護婦が一人居ればあとは技士,看護助手で運営できるようです.医療費が低く押さえられている ためこのような形態になったといわれています.アメリカでは当初,社会保障制度がまだ整備さ れていない時代に多くの患者に透析医療を提供することに重点が置かれ,医療の質を無視した合 理化によるコスト削減が行われました.その結果,コスト計算から算出された医療費が現在の低 い水準に据え置かれているとも考えられます.日本と比較して治療成績が悪い原因の一つにこの ような医療環境での質の低下も関係しているのではないでしょうか.日本では医師法などで規制 されていますからこのような状況はまず考えられませんが,一部の施設が採算性を重視して医師 不在の手抜きをした方向へ進むならばこれが透析医療全体へ影響を及ぼし,医療の質の低下が日 常化する恐れがあります.いずれわが国も透析医療費が抑えられアメリカの二の舞となる可能性 もあります.・悪貨は良貨を駆逐する・ような結果となることを憂います.

このように日本透析医会の果たすべき仕事は山積しております.透析医療を真剣に考える多く の医師に入会していただき,権威ある専門医団体として発展していくことを願っています.

日本透析医会雑誌 Vol.15 No.3 2000 302

(5)

はじめに

阪神淡路大震災より早6年が経過しようとしている.

この間に,各医療分野で多くの災害対策やネットワー クの構築がなされ,それはそれで有珠山噴火や三宅島 の噴火などで危機管理として応用され,阪神淡路大震 災以前より数段勝っていることは確かである.

しかし災害対策やネットワークの作成は,その規模 や季節,時刻など如何なる場合にでも対応できるもの の作成が望まれる.しかし,阪神淡路大震災を事例と し,あたかもそれに即した震災が繰り返し起こること を前提にした「災害対策マニュアル」がよく作成され ているが,冬期で午前

5

46

分であったことを忘れ てはならない.すなわち,医療者は家族の安否確認を してからの出動であり,かつぎ込まれる患者の多くも 家族を伴っていた点を見逃してはならない.

したがって,被災患者の中の行方不明者も少なかっ た.これが,災害対策マニュアルやネットワ-クとな ると,平日の昼間と仮定しても単に「透析中である」

と短絡的な条件が加わるだけではなく,まったく院外 の様相が異なる.透析中の患者をどうするかという問 題もさることながら,現実は震災の

20

~30分以内に はサテライトといえども罹災患者がかつぎ込まれるで あろうし,また透析に来なかった透析患者の消息や所 在は,震災地区内なのか地区外なのかさえ不明であろ う.これを知るには患者の来院を待つしか無いが,患 者は家族の安否を確認したり,近傍の透析機関を求め たりで混乱するに違いない.医療機関では,直接的な 被害が無くても当日出勤以外の職員の安否も定かでな く,ライフラインが切れ,夏場なら冷房が切れただけ

で医療機関を放置せざるを得ないこともある点を考慮 したマニュアルや災害対策も考える必要がある.

このように,震災の発生の時間や状況によって規模 が同じでも様相が異なることを考えておく必要がある.

1

震災の発生条件による状況変化

震災は昼夜,季節を問わず発生の可能性があるが,

その発生する条件により医療機関の状況は大きく変化 する.そこで以下に発生条件と予測される医療機関内 の状況や大まかな対応を列記してみた.

1

) 時間帯による状況変化

時間外(透析時間外)での発生

① 患 者:入院患者のいる医療機関では安全確 認は病棟だけでよい.外来透析予定者に対する 透析の可否などの連絡が必要となる.

② 職 員:夜勤職員のみで,当直看護婦以外は 限られた職種と人数になる.クリニックでは連 絡が取れない場合がある.これは,医師も同様 で必ず在宅しているとは限らない.

③ 責任者:当直医師(当直医師がいない施設で は,同上).

④ 状 況:在宅している職員は自宅,家族の安 全を確認してから緊急出動する.したがって,

その後の勤務が多少激務であっても耐えられる し,当直職員がいる施設では交代して帰宅する などして家族,自宅の安全を確認する余裕があ る.

時間内での発生

① 患 者:透析中の患者や他の外来患者の存在

透析施設における災害対策 303

透析施設における災害対策

-病院の立場から-

内藤秀宗

[災害時対策]

財)甲南病院

(6)

に対する緊急対応.

② 職 員:日勤職員が多数勤務している.

③ 責任者:院長または代行者の存在.

④ 状 況:まずは透析中の患者の避難誘導,職 員の安全確保を同時に要求され,しかし現場で はかなりの混乱を生じる.患者はもとより,職 員も家族,自宅の安全確認ができない状態が続 けばパニックに陥るであろうし,交通手段が無 ければ業務の継続が早い時機に不可能となりや すい.医療行為中における院内医療機器による 人的被害が発生する可能性が高い.また,時間 経過とともに家族の安否が確認できない職員の 業務を続行させれば,

PTSDの発生する確率

も高くなる.事前に透析患者や家族に,あらか じめ指定してある医療機関の近傍の避難場所を 周知徹底しておく必要がある.

2

) 季節による状況変化

発生直後の状況には季節の直接的な関係は無いが,

時間の経過とともに季節により変化を生じる.特に夏 場は,感染症の発生,廃棄物,排泄物処理,清潔維持,

生活環境等は冬期とでは大きく異なる.夏期ではライ フラインの復活,特に空調設備が復旧しない限り,震 災地区での透析医療は短期間しかできないと考えるべ きである.

3

) ライフラインの状況

① 電 気:診療機能は電気の有無に大きく左右 される.自家発電には限界があり,送電停止状 況が続くならば,診療機器だけでなく院内照明,

エレベーターをはじめ,診療支援機能も麻痺し て診療継続は不可能となる.エレベーターは地 震後は保守点検後でないと可動しない.

また特に近代建築では冬期の暖房,夏期の冷 房等,空調設備の停止は生活レベルや先に述べ た治療行為の大幅な低下をもたらす.いわんや 透析医療は不可能に近い.自家発電には時間の 限界があることも認知すべきである.通電すれ ば,血液濾過や

ECUM

などの方法が可能なの で,水が無いからといって血液浄化を諦めるこ とはない.

② 給 水:給水停止で最もダメージを受けるの

は透析医療や生活機能である.緊急医療には上 記のように水は必須ではないが,時間経過とと もに透析やさらには洗浄,消毒ができないこと,

患者の清拭等,清潔維持が困難になる.水洗ト イレの使用不能が続けば,生活レベルは極端に 低下する.このトイレの問題がかなり生活機能 の低下をきたすことをなおざりにしがちである.

給水は医療用水,生活水,飲料水に分けて考 えるべきで,飲料水の不足はペットボトルの補 給で簡単に解決される.

③ 都市ガス:病院内では厨房等の一部で使用さ れているので,緊急医療への影響は少ないが,

ガス漏れ等,二次災害への影響が大きい.

④ 医療用ガスは,酸素,空気(コンプレッサー 用),吸引があるが,酸素配管のダメージの有 無の確認も必要である.

4

) 建築被害の状況

もし建築被害が発生すると,被害発生場所によって は透析や入院の維持が不可能になり,退去せざるをえ ない.この場合あらかじめ決められた避難場所の徹底 が必要である.

2

震災発生直後から,診療機能復旧のために 行うべき事項の整理

阪神淡路大震災の経験から,発生直後~24時間以 内と,24~48時間以内に実際に行った事項および今 後行うべきと考えられる事項を,時間経過を追って記 載してみた.これを要約すれば以下の通りとなるが,

これらは診療責任者だけでなく各部門で同時並行的に なされる事項が多い.ただし,これらの情報が診療責 任者に報告,統合されることが必要である.あくまで 上記した季節の因子が限定されている点を念頭に入れ て欲しい.

1

)発生直後~24時間以内

治療中および在院中の患者,および職員の安全 性の確認

建築被害の確認

これらの情報が退去か診療継続かを判断する因 子となる.

電気,水,ガス設備の被害確認

日本透析医会雑誌 Vol.15 No.3 2000 304

(7)

① 被害の確認と二次災害の防止対策.特に都市 ガス配管・設備と漏電に留意する.

② 酸素ボンベおよび配管被害の有無と,屋外酸 素タンクの被害確認

③ 給水棟,貯水槽被害確認

非常用発電の稼動時間推定

① 発電用燃料の残量把握と稼働時間の推定

② 燃料確保の可能性

診療体制の構築

① 診療継続の可能性を判断し,透析中患者の避 難とつぎに生じる震災患者に対する,現有職員 で可能な限りの緊急診療体制を構築する.

② この時期に自治体レベルに対策本部が組織さ れるであろうが,災害の規模により,その時間 経過にはかなりの差があると考えるべきである.

診療場所の設定

診療再開に必要な人員が確保できれば,診療場 所を設定して外来対応,透析対応などの役割を徹 底する.

医薬品,診療材料等の在庫確認と診療機能の 評価

① 実際には診療機能を評価して,受け入れる患 者を選別することはできないので,応急処置を 行いながら機能評価結果をみて,支援内容や後 方への透析患者などの移送対策を決める.

② 重症患者の院内搬送体制の設定

③ 停電時はもとより,たとえ発電が再開されて も点検無しでエレベーターを稼動することは危 険である.このような状況で重症患者を階段搬 送するには,相当数の人員と労力を要し,これ が円滑に行われないと患者の渋滞が発生して診 療機能を阻害することにもなる.

④ 透析用の医療物品では,ECUMや血液濾過 法を念頭に入れておく.濾過用のバッグは,外 部からの搬送によって入手可能である.

外部情報の収集と連絡

特に自院の周辺の被害や交通機関等の外部情報 が的確に把握できれば,自院の診療機能に応じた 対応策の構築が容易となる.阪神大震災ではほと んどの通信機能が麻痺して外部情報が無く,まっ たく見通しの無いままに診療を継続せざるをえな かったが,移動通信手段が発達した現在では,外

部情報の収集,解析が緊急診療体制の構築には必 須であろう.

遺体収容場所の確保

2

24

~48時間(被害状況の再評価の時期)

機器,設備,人員の総括的診療機能の見直し その後に集まった職員の参加,機器設備被害の 確認等により,診療機能のより正確な評価が可能 となり,ここで改めて今後の対応策,方針を確認 する.特に,後に診療機能を失いかねないような,

避難所と化さないようにすることが必要である.

被害状況の詳細把握と再評価

震災直後の被害報告は,ほとんど外観的,直感 的な判断によるものが多い.特に給水管,配水管 等の切断による浸水被害や転倒,落下被害では,

整理が進むにつれて思ったより診療機能が損なわ れていない場合もあり,より正確な情報による診 療機能再評価が必要となる.

診療機能を維持するためのライフライン復旧と 補給対策

① ライフラインの被害,特に給水機能は院内の 貯水槽,給水ポンプ,配管等の復旧だけでは解 決せず,またその復旧にはかなりの時間を要す る.したがって院内の給水,排水設備の被害の 有無にかかわらず,外部からの給水が途絶した 場合は給水対策は何よりも優先する.タンクロ-

リはボランティアに頼ることになる.

② 送電が停止された場合,たとえ燃料が確保で きていても,自家発電で維持できる時間は限ら れている.その後の燃料確保が困難で,送電見 通しが無い場合は,ほとんど診療機能は麻痺し,

昼間の緊急処置程度になる.

③ 都市ガスの需要は厨房程度であり,その影響 は他の被害状況よりも少ないが,むしろ二次被 害の防止に注意しなければならない.

外部情報の収集と今後の見通し

① 地区災害対策本部との情報交換と支援内容,

状況を把握して今後の対応策を検討する.

② 被害状況の報告と後方支援病院の確認,搬送 手段の依頼

患者,職員のための食料,飲料水等と生活手段 の確保

透析施設における災害対策 305

(8)

① 外部からの支援体制が整うまでに自力で可能 な食料と飲料水の確保.おかれる環境,状況が 異なるので,各病院の即座の判断で行動するよ り方法が無い.阪神大震災の経験からすれば,

飲料水は数日後にはペットボトルで充分供給可 能であり,貯水よりも当面の供給対策を考慮す べきである.

② 交通手段の混乱で帰宅ができなかったり,緊 急出勤で支援する職員等,平常勤務数の倍程度 の職員が院内にとどまる可能性があり,これら の職員の生活の場を特定し,寝具等を確保する 作業も念頭におく必要がある.

おわりに

震災対策は個々の医療機関で総合的に,かつ系統的 に計画し,尚,地域における防災ネットワークに組み 入れるべきである.阪神淡路大震災からの経験を基に 強調したいことは次の点である.

病院の建築物と建築設備の被害を最小限にする 対策をまず考えること.

また,緊急用透析離脱用具を用いる場合は,脱 出後の患者やスタッフへの指示や行動も考えるべ きである.建物が崩壊しなかった医療機関内では,

ベッドの上が一番安全であった.

緊急避難や緊急医療を行う場所をあらかじめ設 定しておき,そこに必要な設備を搬送すること.

同一医療機関内であると,一次診療の場所は外 傷の患者が搬入される入り口と同一レベルの場所 にしばしばあることになる.ただし,こういった 場所は大震災直後は,エレベーターは使用不可と 考えるべきである.このような状況の中で患者を 垂直移動することの困難さは,実際に訓練してみ れば容易に実感できる筈である.もう1つは,緊 急時の一次診療場所や一次避難場所が職員全員に 認識されているかどうか,特定の担当者だけがわ かっていても震災時には混乱するだけである.

各病院で緊急時の院内組織作りが進められてい るが,災害は予測できない.不測の事態で緊急医 療を最大限に行うには,責任者が常に院内の状況

(欠陥を含めて)を把握できるような組織と情報 伝達,責任者の決断による不足条件の補完ができ ること,すなわち指揮命令系統が平時から機能し

ていることである.災害医療には院内の各部署が 参画するが,平時の対策をその部署任せにしてい たのでは緊急時に対応できない.またたとえ部署 で問題点を指摘していても解決されないまま残さ れることが多い.

必要最小限度のライフラインを確保すること.

透析医療には,電気,水を必要とする機器が圧 倒的に多い.慢性腎不全治療やクラッシュ症候群 の予防・治療のための透析治療の目的は,まず

「急速に高まる血中カリウムイオンの除去」と

「除水」であり,この目的には腹膜灌流や血液濾 過や持続的血液濾過でもある程度対応可能である.

このような代替手段を含めて,なおかつ必要な最 低限度のライフライン確保対策が立てられるべき である.

大震災直後の診療機能レベルは考えているより も低い.

再三述べるように,大震災直後にできる診療行 為はきわめて限られていると思われる.その理由 はきわめて短時間に患者が集中し,しかも緊急処 置や治療を必要とするので,まず職員数が不足す ること.次に,緊急透析中断やトリアージのよう な,まったく経験したことの無い作業を強いられ るので,組織だった作業がきわめて困難になるこ とがあげられる.したがって,震災時の緊急医療 の内容は可能な限り単純で,かつ限られた内容に ならざるをえない.震災から

24

時間は,緊急血 液浄化を除いて(それも低レベルで)不可能と考 えてよい.一方,できるだけ多数に実施できるよ うな診療機能や臨機応変の血液浄化法などの対策 をあらかじめ知るべきである.

1 河口 豊:病院における震災後の診療機器などの復旧によ る診療機能の回復に関する研究.平成9年度厚生科学研究費災 害支援対策研究事業,1999

2 河口 豊,内藤秀宗,松山文治:震災時に医療機能を早期 回復するための診療機器の日常点検に関する研究.日本集団災 害医学会誌,4;24,1999

3 NaitoH:Thebasichospitaland replacementtherapy in the Great Hanshin Earthquake.RenalFailure,15;

701,1997.

日本透析医会雑誌 Vol.15 No.3 2000 306

(9)

はじめに

阪神大震災から

6年が経過しようとしている.こ

こ数年情報機器の普及は目覚しく,各地域や日本透析 医会の災害時透析ネットワークも機能し,行政に対す る支援要請を含む日本透析医会の大規模災害対策も構 築されて,もうあのときのような混乱は回避できる???

と思っていた矢先,10月

6

日午後

1

30

分久しぶ りに震度

4

の地震を透析室で経験し,あの

6

年前の 恐怖が思い起こされた.今回の鳥取西部地震のように 広域の場合もありうるのだと,映し出されるテレビの 震災情報の速さに驚きながらこの原稿を書いている.

直後には回線の混雑で電話がなかなか繋がらなかっ たとはいえ,予測も災害対策もなにもなく,何処へ連 絡をとってよいのかさえわからなかった阪神大震災の ときと比べて,水道管が破裂した透析施設に自衛隊が すぐ駆けつけて給水が可能だったと聞いたとき,各分 野の災害対策は格段に進歩していると実感した.した がって現在は,一刻を争うほどの緊急性のない通院透 析患者には,SOSを発信する方法さえ確実であれば 診療所の災害対策はまずまず及第点と思っている.確 実に言えることは,災害は起こるものとして日頃から 対策を考え,訓練をしておくこと,しかしすべての事 象を想定しての対策,訓練は不可能で,常に臨機応変,

応用篇であるということを肝に銘じたい.

本稿では,震災時,透析患者以外の一般被災救急患 者の対応をほとんどしなくてよい透析施設(診療所)

の震災対策を述べさせていただく.

1

基本的な考え方

阪神大震災の経験から,広域にライフラインが途絶 えるような規模の地震の場合は,安全な場所での透析 を考え,なるべく日常と同じ質の透析ができるよう考 えるべきと思っている.一つの透析施設での受け入れ は,許容量を大幅に超えることのないようにしたい

(無理な受け入れは被災していない患者の死亡も含め,

その後の死亡の増加を招くということも考慮して欲し い).診療所で救急患者の対応が少なければ,施設の 透析を再開するスタッフを残して,医師,看護婦は可 能な限り患者とともに受け入れ施設に行き,透析に少 しでも関わるということで,患者の動揺を少なくでき る.蛇足ながら阪神大震災時の保険請求はみなし請求 が認められ,1月,2月分は前年の

10

月,11月分の 請求分で対応された.

2

透析施設の震災対策―診療所の場合―

1

) 建物の耐震性のチェック,免震システムの 導入

病院であれ,診療所であれ震災で潰れない建物にし ておくことが大切で,1981年以前に建てられた旧耐 震設計下の建物は耐震診断を受けた上で,強度評価の 低い建物では柱や梁の補強,壁の増加等で耐震度のアッ プに務め,免震システムを導入しておく.耐震性配管 の工夫(接続に遊びをもった柔軟性のある接続)も大 切で,透析機器の応急処置がしやすいようにする.

2

) 落下防止,転倒防止

キャスター付きの透析機器はほとんど転倒しなかっ

透析施設における震災対策 307

透析施設における震災対策

診療所の立場から

坂井瑠実

[災害時対策]

坂井瑠実クリニック

(10)

たので,あえて固定しないほうがよさそうである.テ レビはなるべくテーブルに固定し,照明器具も頭に落 ちてこないような位置に取り付ける.透析機械,家具 は転倒防止金具をつけるなど,転倒防止策を講じてお く.ゆめゆめ高いところに重いものを載せないよう心 がける.

3

) 院内での災害対策時の組織,役割分担の決定 院長がいないときには誰が指揮をとるか,情報担当 は誰が行うのかという具体的な指揮系統,役割分担を 決める.常に緊急連絡先電話,FAX,メールリスト,

職員連絡網,患者連絡網の整備,更新を行い,定位置 に置く.

4

) 通信手段,情報収集手段の確保

携帯電話やインターネットが普及しても,一斉に使 われると停電でなくても繋がらなくなる.何重にも情 報伝達手段を考えておく必要がある.停電対応電話,

緊急用優先回線,単独回線,携帯電話

PHS

,FAX, コンピューターを用いた通信ネットワーク

etc

,多け れば多いほど安心ではある.しかしネットワークの利 用さえ思いついて,根気よくアクセスさえすればいつ かは繋がると思っている.情報の発信,受信は遠くの 電話は繋がった経緯から,なるべく遠くを中継点とし て情報を伝えることの有用性も知っておくと役に立つ.

番号さえあれば(あらかじめ登録しておくことも可能)

情報は発信できるし,得ることもできる.救援を含む すべての災害対策は,各施設の情報提供から始まると いっても過言ではないので,透析医会の言うように,

各施設で情報提供,情報収集担当者を複数で明確にし ておく必要がある.

5

) 患者搬送手段の確保

なぜかこの度の阪神大震災では自衛隊が搬送に大き な役割を果たしてくれたが,偶然とか,たまたまとい うのではなく,頼りになる救援,搬送手段として要請 があれば自衛隊が出動できるシステムとか,バスを緊 急車両にして目的の透析受け入れ施設まで搬送すると いう具体的な対応がいる.とにかく何十人という大勢 の患者の搬送はシステムとしての対応が必要であるが,

透析医会の災害対策の中に行政に対して支援要請を行 うという項目があるので期待しかつ安心している.

6

) 患者教育,患者情報カードの作成

日頃から緊急時は自分でほかの施設を探すなど,自 分で考えて行動できるよう教育する.透析情報カード

(透析患者であることの記載,患者情報を盛り込む)

の作成と常時携帯,透析条件(DW,使用薬剤,アレ ルギーなど)の周知徹底,透析施設,患者会,全腎協 などの緊急連絡電話,FAX番号を配布する.水,カ リウムなどの

1

~2日透析ができなくても大丈夫なよ うに余裕のある自己管理を指導し,カリウム吸着薬の 常備も指導する.

① 透析中に地震が起きたとき

透析中に地震が起きた場合は,針が抜けないように 血液回路をしっかり握り,ベッドから落下しないよう にして布団をかぶり揺れのおさまるのを待つ.ライフ ラインが途絶える規模の地震の場合,本震の何十秒か はスタッフも立っておれる状況ではなく,したがって 回収どころではない.その後停電などで透析が続行で きなければ,時間の余裕があるときは手動で返血回収 する(最近の機械はバッテリー内臓のものが多く便利 である).震災直後に火災が発生するというような切 羽詰った状況では次の方法で緊急離脱を行う.いずれ にしろ責任者の判断に負うところ大であるので,日頃 から命令指揮系統は明確にしておく必要がある.

[緊急離脱の方法]

常にベッドサイドに緊急離脱用のペアン,ハサミ,

固定用のテープを置いておく.透析の機械を止め,下 図のごとく血液回路を

2

本まとめてペアンで

2

カ所 止め,ペアンの間の血液回路をハサミで切断する.回 路をテープで固定し穿刺部位全体を敷き布で覆い保護 する.

患者もスタッフも家族の安否が気遣われて,自宅に 帰りたいとか連絡したいとかで,多分仕事にはならな

日本透析医会雑誌 Vol.15 No.3 2000 308

回路の切断 非難時

(11)

い.家族の安否が確認できたスタッフで,対策委員会 を構成する.緊急離脱後は安全な場所に避難誘導する.

② 透析をしていないときに地震が起こったとき 阪神大震災のときは

5

46

分という早朝であった ため,まだ被害が少なかった.患者もスタッフも少な くとも家族の安全を確認してからの出勤であったので,

役割分担もスムーズに決めることができた.患者は予 定日に透析ができないこともあるので,日頃から十分 透析をし,カリウム,水分等

1

~2日の余裕のある管 理をするよう教育する必要を痛感する.あとは通信手 段が得られれば施設に安否と状況の連絡をいれるよう 義務づける.患者個人としての対応,透析施設として の対応,地域ネットワークとしての対応をうまくくみ 合わせて有機的に対応したい.

おわりに

世は国をあげての

IT時代,今よりもっともっと情

報発信,情報収集は簡単になるのは間違いないし,も ちろん二重三重のバックアップ体制の確立も可能にな るはずである.コンピューター嫌いで通すつもりさえ なければ,最大の災害対策は透析医会や地域透析医会 の災害対策本部にアクセスすることであろう.いかに コンピューターが嫌いでもこれこそ患者を守る唯一の 効率のよい方法であるとすれば,スタッフの誰かにこ の役割を分担させればよい.水や電気の確保もできる に越したことはないし,食料や透析機材の備蓄もする に越したことはないが,今の時代,何時来るかわから

ない地震災害に高額な設備投資をするよりも,目の前 の高齢化対策や,感染対策に投資をすべきで,日頃か らのコンピューターの使い慣れと,ネットワークの活 用,地域でのコミニュケーションをはかることが必要 と考えればよい.火災のように秒を争って対応する必 要が少ない地震対策は,地震そのものの被害を最大限 予防して,後は安全な場所で救援の車を待つ.阪神大 震災で大変であったのは一般の被災者,死者の対応と,

受入先の確保,患者の搬送を一施設で模索してせねば ならなかったことである.確実にキャッチしてくれる 場所にむけて

SOS

さえ発信でき,現状を伝えること ができれば,後は救援を待てばよい思っている.震災 も火災発生時のように,通報,安全な場所に避難誘導,

消防車の来るのを待つという単純明快な対策が打ち出 せればよいと思っている.どのような状況でも特定の 番号で簡単に繋がるネットワークがあれば最高である.

1) 寺杣一徳:透析医療での危機管理を考える―阪神淡路大 震災現場からの報告.日透医誌,14(3;38 43,1999.

2) 申 曾洙:兵庫県透析医会のパソコン通信ネットワーク.

日透医誌,14(3;51 54,1999.

3 坂井瑠実:阪神大震災―透析患者の災害後の状況と経過―.

日透医誌,11(1;17 20,1995.

4) 申 曾洙:再確認!わが施設の防災対策兵庫県の取り組 み.透析ケア,6(2;12 17,2000.

5 山崎親雄:(社)日本透析医会の危機管理. 透析ケア, 6(2;38 42,2000.

透析施設における震災対策 309

(12)

はじめに

平成

7

1

17

日,想像を絶する大被害をもたら した阪神淡路大震災が起きて,すでに

5

年が経過し た.その記憶の薄れる暇もなく,サハリン北部地震

(平成

8

1

月),沖縄,奄美や東海地方の群発地震,

さらに外国では昨年,トルコ,ギリシャ,台湾中部で 大地震が相次いで発生し大惨事を起こしている.地球 はまさに激動の惑星なのである.

北海道は日本でも有数の地震多発地帯である.われ われは

7

年前の釧路沖地震(平成

5

1

月)をはじ めとして奥尻の北海道南西沖地震(平成

5

7

月),

北海道東方地震(平成

6

10

月)など過去に透析医 療にも大きな被害をもたらした幾多の地震を経験して いる.これらの地震はほとんどが海洋の深いところで 発生する「プレート型地震」と呼ばれるものだが,阪 神淡路大震災のように大都市の直下に発生する「内陸 地震」は震源が近いためより大きな被害をもたらすこ とになる.北海道でも大きな内陸地震が発生する可能 性があるのだろうか.

北海道透析医会と札幌市透析医会は平成

7

7

月 に,透析医療における災害緊急時対策委員会を設け,

北海道に大きな地震が発生した場合を想定して,透析 医療の地震対策を検討してきた.

このマニュアルは,北海道の大きな都市でプレート 型地震ばかりでなく,直下型大地震が発生した場合,

迅速かつ円滑な対応を図り,透析患者の被害を最小限 にくい止めるための指針として作製された.

このマニュアルをもとにそれぞれの地域の実情にか なった,より実践的なマニュアル作りを進めて,明日 にも起こるかもしれない被害地震に対処していただき たい.

1

マニュアルの内容の見かた

このマニュアルは震度

6

以上の主に直下型大地震 を想定して作製され,以下のような構成となっている.

① 地震はどうして起きるのか(地震発生のしくみ と直下型地震)

地震はどうして起きるのか.プレート型地震と直下 型地震の違い,より大きい被害をもたらす直下型地震 の恐ろしさと活断層の関係,そして札幌市にも直下型 地震が起こる可能性があるのかなどを解説する.

② 札幌市の災害時医療への取り組み

札幌市は平成

7

年に市防災会議を発足させた.市 透析医会は,そのうちの「札幌市緊急時医療対策委員 会」に参加し,平成

9

3

月に提出された委員会の 最終報告書を基本にして当マニュアルを作製した.平 成

10

10

月現在,市の透析患者数は約

3, 320

名で,

全道患者の約

40

% 弱がここに集中しているという特 殊な状況下にある.まず第一に札幌市の透析医療の防 災対策が必要であるとの観点から,この最終報告書の 概要をまだ提案の段階だが,紹介する.

③ 災害時透析医療の活動マニュアル

実際に大地震が発生した場合,まず患者の安全確保,

ライフラインの確保,情報収集伝達の方法など具体的 対応の仕方を神戸の場合を参考にし,マニュアルに示 した.

また,北海道に

16

のキーステーションを設置し,

被災ステーションを中心としたステーション間の連携 方法を図示した.

④ 自己防衛体制(災害時に対する日頃の備え)

いざ地震が発生した時,あわてないための日頃の心 構えや,被災に対する備えを項目別にマニュアルで示 した.

日本透析医会雑誌 Vol.15 No.3 2000 310

大災害時における透析医療活動のマニュアル

平成 12 年 4 月

北海道透析医会 札幌市透析医会

[災害時対策]

(13)

特に電気と水の確保は不可欠であり,平常時よりの 準備が必要である.また,北海道の

160

の施設に対 して行った(平成

7

年)防災アンケート調査の結果 を掲載した.

⑤ 透析患者用防災の手引き

それぞれの透析施設の実情に合った,患者にわかり やすい手引きを作るための参考にしてほしい.

2

地震はどうして起きるのか

1

) 地震発生のしくみと直下型地震

地震はプレートの運動が原因となって起こり,2つ のタイプに分けられる.

地球は,「プレート」と呼ばれる厚さ数

10km

の殻 に包まれている.北海道付近では北米プレート(オホー ツクプレート)と呼ばれる陸地のプレートに海洋プレー ト(太平洋プレート)が沈み込んでいる.このプレー トの境界部では,お互いが衝突し,ゆがみが生じ,さ まざまな運動を起こす結果,地震が発生する.

① 海溝型地震(プレート型地震)

海洋プレートに引きずり込まれた陸のプレートの先 端が,ひずみに耐えきれなくなり,もとに跳ね上がる 際に起こる地震で,プレート型地震ともいう.北海道 のわれわれが過去に体験した多くの地震(表

1

)はこ の型の地震で,震源が陸地から数

10km

離れた海底 で起こる地震のため津波などを発生する.マグニチュー ドは大きいが,震源から遠いため陸地の被害は比較的

少ないのが特徴である.

② 内陸地震(直下型地震)

太平洋プレートの沈み込みのために日本列島は押さ れて圧縮がかかり,内陸の殻にひずみが生じる.その ひずみを解消するために過去に出来た断層が動き,地 震を引き起こす.陸地の比較的浅い部分で発生するの で直下型地震とも呼び,これを引き起こす断層を活断 層という.阪神淡路大震災は典型的な直下型の内陸地 震である.

2

) 直下型地震と活断層

活断層とは,新しい地質時代に活動した断層が地震 とともに再活動する事実により,この名称が提唱され た.

活断層の特徴は次のようになる.

① 内陸地震は活断層から発生する.

② 明治以降,日本の陸上に発生した

M6. 5

以上の 被害地震の

80

% は活断層または,その至近で発 生している.

③ 震源は陸地で,

10

~70kmと比較的浅いとこ ろで発生する.

④ 震源が直下のことが多いので,ゆれも激しく,

したがって被害も大きい.阪神淡路大震災,トル コ大地震,ギリシャ大地震,台湾中部大地震はい ずれもこの直下型地震で,大被害をもたらした.

⑤ 直下型地震の発生頻度(再来期間)は専門家の 計 算 式 か ら , 再 来 間 隔 は

1000年 程 度 (800

~1300年)と考えられている.

したがって,過去数百年の歴史時代に活動して いる断層近辺では,次の地震が近い将来再び起こ る可能性は小さい.逆に,歴史時代に活動した記 録のない断層は長い休止期が終わりに近づいてい るかもしれないので,近い将来活動する可能性は かえって大きいともいえる.

過去に被害をもたらした直下型地震と,過去1年間 に外国で起こった直下型地震を表

2

,表

3

に示す.

3

) 北海道の活断層

活断層は

1950

年ころより,空中写真と野外調査,

発掘調査などにより発見され,日本の主な活断層の分 布図ができている(活断層研究会編:『新編日本の活 断層』,東京大学出版会,1995).

大災害時における透析医療活動のマニュアル 311

1 北海道周辺で過去に発生した主なプレート型地震

(M(マグニチュード)7以上)

発生年月日 M 震源又は地震名 1893(明治26.6.4

1894(明治27.3.22 1952(昭和27.3.4 1958(昭和33.11.7 1963(昭和38.10.13 1968(昭和43.5.16 1981(昭和56.8.12 1982(昭和57.3.21 1983(昭和58.5.2 1993(平成5.1.15 1993(平成5.7.12 1994(平成6.10.4 1995(平成7.5.28

7.3/4 7.

8.2 8.

8.1 7.9 7.2 7.1 7.7 7.8 7.8 8.1 7.6

千島南部 根室沖 十勝沖地震 択捉島沖 択捉島沖 十勝沖地震 釧路沖 浦河沖地震 日本海中部地震 釧路沖地震

北海道南西沖地震(奥尻島)

北海道東方沖地震(釧路)

サハリン大地震(サハリン北部)

北海道の歴史上の地震はプレート型地震が主で、直下型の被害地震††

はほとんど記録されていない

日本の観測記録上で最大のマグニチュード

†† 被害地震とは大きな被害をもたらす地震をさす

(14)

北海道の活断層の概観について活断層研究会は,北 海道を東西に横切る千島火山帯の以北を内帯,以南を 外帯と分けて,それぞれの特徴をあげている(図

1

).

① 内帯の特徴

・活断層は少なく,短いもののみが散在する.

・知床半島両側,羽幌地方断層がある.

② 外帯の特徴

・襟裳岬に収束する走向をもつものがある

・帯広地方から南へ豊頃丘陵西側にかけての活断 層

・富良野盆地周辺から夕張山脈西側にかけての活 断層

・岩見沢低地東側から馬追丘陵にかけての活断層

4

) 札幌市周辺に活断層はあるか

2

は,これまでに発見された札幌周辺の活断層 の位置を示したものである.

この図では札幌市内には活断層は確認されていない.

しかし,最近

100

年間の有感地震や微小測定地震,

また液状化現象の痕跡を調べると,札幌市直下で発生 している地震はかなりあることが判明しており,活断 層の存在を否定することはできない(図

3

,図

4

).

札幌市のような沖積層下に伏在する活断層を見つけ るには,長期間にわたる微小地震,有感地震を観測す ることが必要となる.そのために札幌市は

1997

年に 微小地震計

3

基を設置し,北海道大学の観測ネット ワークにデータを提供し,活断層の研究を進めている.

5

) 札幌市に直下型地震が起きる可能性はあるか 最近の調査で判明したことは以下のようにまとめら れる(北大理学部,笠原教授の『さつぽろの地震対策』

札幌市防災会議,平成

9

3

月.資料より).

① 歴史地震

札幌市に影響を与えた

1834

年の石狩地震には津波 の被害記録がなく,震源は内陸部と推定されている.

② 液状化現象

札幌市内では遺跡発掘現場などから液状化現象の跡 が多数発見されている.

日本透析医会雑誌 Vol.15 No.3 2000 312

2 過去に被害をもたらした直下型地震 発生年月日 M 地 震 名 死者・その他 416(允恭5.7.14

1293(正応6.4.13 1828(文政11.11.12 1855(安政2.10.2 1891(明治24.10.28

1896(明治29.8.31 1923(大正12.9.1 1925(大正14.5.23 1927(昭和2.3.7 1943(昭和18.9.10 1945(昭和20.1.13 1948(昭和23.6.28 1965(昭和40.8.3 1970(昭和45. 1995(平成7.1.17

6.9 6.9 8.4

7.2 7.9 6.8 7.3 7.2 6.8 7.1 5.4 7.2

河内国地震

鎌倉大地震 越後三条地震 安政の大地震 濃尾大地震

陸羽地震 関東大震災 北馬地震 北丹後地震 鳥取地震 三河地震 福井地震 松代群発地震 阪神淡路大震災

わが国の文献に 記された最古の 地震

23,000 1,443 7,273人,内陸 地震として最大

209 99,000人, 火 災死が多かった 428 2,925 1,201 2,306 3,769 被害地震51 5,502

3 過去1年間に外国で起こった直下型地震 発生年月日 M 地 震 名 1999.8.17

1999.9.7 1999.9.21 1999.11.12

7.4 5.8 7.6 7.2

トルコ大地震 ギリシャ大地震 台湾中部大地震 トルコ大地震

1 北海道の活断層

活断層分布図(太枠は本地域の範囲,数字は図幅番号を示す)

(15)

③ 微小地震

微小地震活動と活断層の位置は深い関連があり,札 幌市域でもかなりの微小地震が観測されている.

以上のことより,将来札幌で直下型地震の起きる可 能性は十分あるといえる.

3

札幌市の災害時医療への取り組み

1

) 札幌市防災会議専門委員会の提言内容の概要

① 想定地震の設定及び被害評価

平成

9

1

月に札幌防災会議専門委員会が「地震 対策基礎調査」による膨大なデータをもとにして,現 在の札幌で想定すべき地震の規模や被害の特徴などを 検討し,「札幌市における想定地震及びその被害評価」

大災害時における透析医療活動のマニュアル 313

活断層であることが確実なもの 3.栗沢断層

5.馬追断層 9.地蔵沢断層

2 札幌市周辺の活断層

(活断層研究会編:『新編日本の活断層』,東京大学出版会,1995,より)

3 札幌市内の液状化現象の痕跡

(16)

としてまとめた.

② 想定地震の設定

過去の歴史的地震や,現在の地震活動のデータをも とに,プレート型地震と直下型地震の

2

タイプの想 定地震を設定した.

・プレート型地震

札幌市の基盤に最大の加速度を与えるものを選択 することとし,胆振西部のやや深発プレート内地震

(最大規模マグニチュード

7. 5

)とした.この場合 の最大震度を

5

(弱)と設定した.

・直下型地震

札幌市においては,歴史地震の記録が少ないこと や,地形的特徴から活断層の存在が判明していない.

このため

1834

年の石狩地震のデータや,最近の微 小活動地震,過去の有感地震の記録等を活用して検 討した.その結果,将来直下型地震の起こる可能性 は十分あると考えられ,その規模を長さ

20km

,幅

10km,変位量 1m,マグニチュード 6. 5

の断層を

設定した.この場合の最大震度を

6

(強)とした.

③ 被害評価

プレート型及び直下型の

2

つのモデルケースにお ける建物被害,火災被害,人的被害をそれぞれ評価し た(表

4

).

現段階で用いられている解析手法および収集データ をもとに,可能な限り札幌市の地域特性を考慮して検 討したが,凍死者の算定などまだ評価手法が確立され ていないものも多く,評価結果の各数値については多 少の幅がある.

なお,表

4

の各数値については,今後引き続き実 施するその他の被害評価項目の結果によって変動する 可能性がある.

(注) 札幌市の設定では,直下型地震の規模(震度)も,

また最大被害(死者,負傷者,罹災者数)も,阪神淡路大 震災に比べて低く設定されている.

2

)緊急時医療体制の基本方策

① 災害時医療情報システム

A

. 情報伝達体系(図

5

大地震発生時には,札幌市当局をはじめ,札幌市 医師会,札幌市歯科医師会等で,各々災害対策本部 を設置し,これを拠点として,医療対策を講じてい く.

このうち,市では,保健所等の医療行政機関に対 して中心的役割をもたせ,災害状況の調査,医療供 給能力の把握を行い適切な医療体制を組織し,迅速 な対応をしていく.

B

.通信手段の確保

札幌市では平成

8

年に,情報通信器を常設した

「防災ワークステーション

SWAT

」を本庁

12

階に 設置した.また,保健所をはじめとする医療機関,

団体等への防災無線の設置を積極的に進めている.

通信手段が被災した場合には,保健所職員等が直接 医療機関に出向き情報収集の支援に当たる.

C

. 収集すべき情報

・被災者に関する情報

市民の被災状況,傷病者の発生場所や人数,

程度に関する情報

・診療機能に関する情報

医療機関の稼動の程度,医療従事者や医薬品 の不足状況,外部からの支援の有無などに関す

日本透析医会雑誌 Vol.15 No.3 2000 314

4 最近20年間の微小地震の震央分布と活断層分布

(北大,笠原教授『さつほろの地震対策』札幌市防災会議,

平成93月.の資料より)

(17)

大災害時における透析医療活動のマニュアル 315

札 幌 市 医 師 会 札幌歯科医師会 札 幌 薬 剤 師 会 その他関係団体

報告 情報提供 情報提供

市災害対策本部

保健福祉局 報道機関

情報提供 情報提供

情報提供 情報提供

報告 報告

報告

団体各支部等 保 健 所 情報提供 区災害対策部

情報提供

情報提供 情報提供

情報提供 報告 報告

各区保健センター 報告

各 会 員

報告 応急救護センター

応急救護所 情報提供 情報提供

照会 情報提供 照会 情報提供

5 災害時情報系統図 4 被害評価の結果 想定地震

被害項目

プレート型地震 直下型地震

No.1(全市最大被害) No.2(中央区最大被害)

半 壊 棟 数

(棟)

全 壊 棟 数

(棟)

半 壊 棟 数

(棟)

全 壊 棟 数

(棟)

半 壊 棟 数

(棟)

全 壊 棟 数

(棟)

建物被害

木造家屋 336,081

振動・液状化 110 60 42,100 6,900 34,000 4,200 被害率(%) 0.03 8.32 6.31 RC(SRC)造家屋

31,274

振動・液状化 0 0 680 50 650 30

被害率(%) 0.00 1.25 1.14

S造家屋 53,491 振動・液状化 6 0 410 170 400 190

被害率(%) 0.01 0.70 0.73

建物火災 出 火 件 数 0 130 100

消 失 棟 数 0 4,000 2,300

人的被害††

凍死・凍傷等を除く

家 屋 ・ 火 災 0 240 160

負 傷 者

家 屋 被 害 0 12,400 9,700

火 災 ・ 延 焼 0 590 340

0††† 12,990 10,040

430 127,100 96,900

† 被害率=(全壊棟数+1/2半壊棟数)/建物総棟数

†† 冬季時の地震では、凍死・凍傷等も考えられるが、現段階では定量的評価が困難である

††† 従来の手法を用いた結果であるが、若干の負傷者は発生すると考える

(18)

るもの

・その他の関連情報

救助,救急搬送,医薬品等の供給に関するも の,ライフラインの被災程度と復旧に関するも の

D

. 情報伝達

災害時医療に必要となる情報は時間の経過に伴い,

そのつど的確に選択し,伝達することが必要である.

・市民に対して

人工透析など医療内容や診療科目別の応受可 能医療に関する相談先,医薬品等が手に入る場 所等

・医療機関に対して

被災地域内の医療機関に対しては周辺の傷病 者の発生状況,後方支援医療機関と搬送手段,

外部からの支援状況,必要物資の供給状況等

・関係団体に対して

各対策本部,支援団体等に対しては,被災地 域の状況や医療機関の稼動状況,外部からの支 援状況等

・外部自治体等に対して

札幌市の被災状況,医療機関の稼動状況,支 援が必要な場所と内容,支援受入の窓口等

② 地震発生時の医療援助本部と指揮命令系統 札幌市では,大規模災害時には「札幌市災害対策本 部」を設置し,医療救援活動は,本部内の「衛生部

(保健福祉局)」と「医療部(市立札幌病院が担当)」

が主体となって行う.また,「災害対策本部(区役所 が担当)」を各区役所に置き,関係先との連携を図る.

この医療活動は市のほかに,札幌市医師会,歯科医 師会,薬剤師会,看護協会やその他の医療関係団体に も指揮命令系統を確立し,これらの密接な連携のもと に行う.

③ 医療救護システム

・災害発生と同時に必要な医療従事者の確保に「登 録制度」を発足させ,災害時医療従事者を募集し ている.

・札幌市災害時医療従事者登録制度への応募状況

(平成

9

4

月現在)を表

5

に示す.

・その他,市内の未登録医療従事者,他都市からの

派遣医療チーム,市外からのボランティア等を受 け入れる.また,日本赤十字社や自衛隊の医療班 との連携をとる.

④ 応急救護センター及び応急救護所の設置と医療 班の編成

災害時には各区の保健センター内に「応急救護セン ター」を設置し,医療情報の収集や医療班の編成,派 遣などを行う.「応急救護所」は応急センター内に置 き,傷病者の「トリアージ」や応急処置,重症者の移 送などを行う.

各区ごとに

10

班程度の医療班を編成,被災現場,

消防機関,避難場所等に派遣する.

応急救護センター長は医療班の指揮,統括を行い,

必要に応じて保健所長の助言,指導を受ける.

⑤ 災害時基幹病院

・札幌市では,災害時に多数発生する傷病者のうち,

緊急手術等の処置が必要な重傷者に

24

時間体制 で対応できる市内の

15

の病院を,「札幌市災害 時基幹病院」として指定した(表

6

).

・これらの病院はいずれも主要幹線道路に面してお り,短時間で傷病者を搬送できる場所に位置して おり,緊急時にヘリコプターの離発着できる空き 地も周辺に確保している.

・臨時ヘリポート設置場所を表

7

に示す.

・基幹病院を拠点とした医療機関ネットワークを図

6に示す.このネットワークを通じ,基幹病院,

応急救護センター,およびその他の医療機関は相 互に支援する体制を確保し,迅速で適切な医療を 提供する.

⑥ 保健所・保健センターの災害時業務

A

. 保健所の役割(保健所は市保健福祉局に所 属し,災害時の医療拠点となる)(図

7

・各区における医療用救護活動の総括,調整

・応急救護センターの支援

・市民に対する災害時対応の普及,啓発

B

. 保健センターの役割(各区に所属し,「区災 害対策部の指揮下にありながら保健所との連携 のもとに救援活動を行う」)(図

8

・応急救護センターの設置,運営

日本透析医会雑誌 Vol.15 No.3 2000 316

表 10 原疾患別の腎移植成績(UNOSSci enti fi cRegi stryDataasofSeptember7,1999 )
図 1 PTA前後の血管造影所見と血管内エコー検査の所見
図 7 Hi ghPerformanceDi al ysi sBedUni t
図 1 Ox LDLと年齢および透析との関係
+2

参照

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