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(1)

THEJOURNALOFJAPANESEASSOCIATION OFDIALYSISPHYSICIANS

日本透析医会雑誌

Vol.21 No.1 2006

[巻 頭 言]

透析の保険改定について 日本透析医会 副会長 吉 田 豊 彦… 1

[透析医療における

ConsensusConference2005

] 維持透析患者における腸管機能の特異性

overvi ew

―粘膜貧血・易出血性・吸収能・便通・便秘など―

眞仁会 横須賀クリニック 小 澤 潔… 3 維持透析患者における顎口腔領域の合併症

日本歯科大学新潟歯学部口腔外科学第2講座 又 賀 泉… 11 内視鏡検査・治療が有用な維持透析患者の消化管病変

札幌中央病院 消化器内科 小野寺 義 光… 16 維持透析患者における腸管虚血 札幌北クリニック 大 平 整 爾

今 忠 正 井 村 卓 増 子 佳 弘… 20 維持透析患者における直腸・肛門疾患・憩室炎

千葉社会保険病院 外科・透析 室 谷 典 義 堀 誠 司 佐 藤 純 彦 長谷川 正 行 村 岡 実 荻 野 幸 伸 松 田 幸 博 嶋 田 俊 恒 西 島 浩… 32 外科的処置が必要な維持透析患者の消化管病変

医療法人北楡会札幌北楡病院 外科 久木田 和 丘 川 村 明 夫 米 川 元 樹 山 田 理 大 安 部 美 寛 江 川 宏 寿 津 田 一 郎 飯 田 潤 一 堀 江 卓 坂 田 博 美 小野寺 一 彦 玉 置 透 目 黒 順 一… 39 透析患者の消化管周術期の経静脈栄養

東京女子医科大学腎臓病総合医療センター 外科 春 口 洋 昭… 45 維持透析患者における薬剤性消化管障害 ―消化管疾患治療薬の使用上の注意―

特定医療法人仁真会 白鷺病院薬剤科 和 泉 智

熊本大学薬学部 臨床薬理学 平 田 純 生… 49 維持透析患者における悪性腫瘍 社会保険横浜中央病院 腎・血液浄化療法科 海 津 嘉 蔵

産業医科大学産業生態科学研究所 臨床疫学教室 徳 井 教 孝

近畿大学医学部附属堺病院 腎透析科 今 田 聰 雄… 58 維持透析患者における消化管疾患検診の年間スケジュール

日鋼記念病院 伊 丹 儀 友 高 田 譲 二 浜 田 弘 巳 勝 木 良 雄 辻 寧 重

札幌北クリニック 大 平 整 爾… 64

[医療安全対策]

災害時コーディネーターの必要性について 心施会府中腎クリニック 赤 塚 東司雄 杉 崎 弘 章… 70

目 次

(2)

Preventabl eDeath

をなくすために ―医療と情報の視点から―

災害時医療連絡協議会 押 田 榮 一… 76 災害時透析医療対策としての地下水利用 医療法人くま腎クリニック 隈 博 政… 82

[臨 床 と 研 究]

透析液清浄化基準の変遷と今後の目標 あかね会土谷総合病院 川 西 秀 樹… 90 慢性腎不全と血管石灰化 大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学 谷 脇 広 道

同 腎臓病態内科学 石 村 栄 治… 95

Fabry

病の診断と治療 新潟大学医歯学総合病院 第二内科 成 田 一 衛

下 条 文 武…102 透析患者の睡眠障害に対する診断と治療

豊橋メイツクリニック睡眠医療センター 小 池 茂 文…107 透析患者の結核 近畿大学医学部堺病院 腎・透析科 片 畑 満美子 今 田 聰 雄

有 山 洋 二 玉 井 良 尚…115 透析患者のスクリーニング検査からの教訓と問題点

―腹部

CT

,消化管内視鏡,PSA,BNP,HbA1cなどを中心に―

信楽園病院 宮 崎 滋 山 添 千 春 横 山 恵美子 荒 井 麻 里 中 山 均 大 沢 豊 島 田 久 基 青 池 郁 夫 桜 林 耐 湯 浅 保 子 酒 井 信 治 鈴 木 正 司…119 血管吻合用カバー ―AVF作成を円滑に進めるために―

大野記念病院 泌尿器科 杉 浦 清 史 長 谷 太 郎 伊 藤 聡 吉 本 充 和 田 誠 次…123

[医 療 経 済]

9

回透析医療費実態調査報告 日本透析医会適正医療経済部会 同常任理事会 杉 崎 弘 章 鈴 木 満 吉 田 豊 彦 太 田 圭 洋 大 平 整 爾 小野山 攻 隈 博 政 鈴 木 正 司 山 川 智 之 小 野 利 彦 戸 澤 修 平 宮 本 孝 山

親 雄…125

2

階建て公的医療保険構想について 医療法人社団誠仁会 松 山 幸 弘…149

[医 療 制 度]

医療法人制度改革の動向 特定特別医療法人財団董仙会恵寿総合病院 神 野 正 博…154

[実 態 調 査]

透析患者の高齢化に伴う収容施設の相互連携に関するアンケート調査

日本透析医会合併症対策委員会 中 澤 了 一 笠 井 健 司 鈴 木 正 司 下 条 文 武…161 平成

16

年度千葉県における透析医療機関の感染性

廃棄物の現状に関するアンケート調査(第

5

報)

千葉県透析医会感染症委員会 浦安駅前クリニック 佐 藤 孝 彦

同 市川クリニック 田 島 知 行

三愛記念病院 入 江 康 文

玄々堂君津病院 茅 野 嗣 雄

クリニック病院 鈴 木 満…170

[そ の 他]

透析室勤務の看護師教育―病院・クリニックの状況を踏まえて―

日本腎不全看護学会 宇 田 有 希…179

(3)

[透析医のひとりごと]

医療制度改革の荒波の中で思う 医療法人社団誠仁会みはま病院 河 野 孝 史…186 透析導入患者は何故減らないの? 尚腎会高知高須病院 湯 浅 健 司…188

[た よ り]

福島県支部だより 福島県支部支部長 白 岩 康 夫…190

山梨県支部だより 山梨県支部支部長 三 井 靜…193

山形県透析医会の設立にあたって 山形県透析医会会長 工 藤 健 一…194 常任理事会だより 日本透析医会 常務理事 山 川 智 之…197 投稿規定 202

編集後記 佐 藤 壽 伸…203

お知らせ

5回「維持透析患者の補完・代替医療研究会」のお知らせ 184 平成18年度 透析療法従事職員研修のお知らせ 185

学会ご案内(H18.5月~7月) 200

(4)
(5)

平成

18

4

月,医療保険改定史上最大の

3. 16

% の引き下げ改定が実施された.大幅な引き下げ 対象として,特に透析と終末期医療が最大の標的となり,ついで眼科のコンタクトレンズ,門前薬 局,整形のリハビリなどが重点的対象となった.このような厳しい状況の下にあって,今回透析の 保険改定で後述するような一定の成果を得ることができたのは,ひとえに本会の会長と日医の方々 との,言葉に尽くせぬご努力,そして透析医療の質をなんとか担保した引き下げ改定をしたいとい う保険局医療課の方々のご尽力によるものである.

今回の改定の内容としては,ダイアライザーの大幅引き下げや,夜間・休日加算の削減など,マ イナス改定幅は甚大であるものの,透析の技術料たる人工腎臓の処置料

1, 590

点は死守されたこと,

また外来維持透析では,EPOの包括化により

290

点が上乗せられたことは,まことに素晴しい改 定であったと思う.なぜなら,ほとんどの施設の

EPO使用量は,平均すると 1, 500

単位/1透析以 内であり,今後各施設が透析液の清浄化をすすめたり,透析量を増やすことにより,現時点の

Hb

Ht

を維持しつつ,現在の

EPO使用量を 30

~40% 減少させることは難しいことではないと考え られるからである.

また,入院の透析医療費が守られ,外来維持透析のみの引き下げで済んだことは,結果として入 院施設とサテライトとの格差是正にも役立ったと思われる.いずれにしても,今回の透析の質を担 保したマイナス改定は,改定当初は多数の会員の方々から,お叱りを受けるかもしれない.しかし,

1

年後には必ずや理解していただけると確信している.

次に,今後の透析の保険改定についての私見を述べてみたい.今後の改定においては前提条件と して,①透析患者の増加が止まらないこと,②総医療費に占める,透析医療費率が増加し続けるこ と,の

2

点があげられる.この

2

点が続く限り,たとえ経済が上向き,プラスの保険改定が今後行 われる時でも,透析自体はマイナス改定となると思われる.これは,日本だけでなく,全世界が同 様な傾向にあり,われわれ透析医としては,今後以下のような努力をする必要があると思っている.

1.何故の透析か.もう一度透析の適応について,原点に立ち返って見直し,各地で倫理委員会

を立ち上げ,充分に議論を尽くし将来に備える必要がある.

2.医療の質を維持し高めるためには,絶対にお金が不可欠である.よく日本の医療費は GDP

比率で国際比較すると,18~20位くらいの低医療費国であると言われ,しかもこれをあたか も政府や官僚が好んで行っていると,国民や医療人も勘違いをしている向きがある.しかしこ の苦況は,現在の医療保険制度が戦後

60

年を経て制度疲労を起こしているためである.一つ の公的保険制度のみで医療費を賄っていくには限界があり,どのように工夫しても対応しきれ なくなるのは目に見えている.

医療制度構造改革案と透析 1

[巻 頭 言]

透析の保険改定について

(社)日本透析医会

副会長

吉田豊彦

(6)

国民は,病気になった時には一番良い医療を受けたい,一番良いサービスを受けたいと思って働 いているであろうし,これのためには,国民医療費が

GDPの 13

% くらいになったとしても,受 け入れてくれると思う.今,新しい保険制度を設立し,GDPの

13

% くらいの医療費が使えるよう になれば,自然に透析医療の質も担保され,高められることは容易なことであろう.

至近的には,2008年には新高齢者保険制度が発足する.この時,透析はどのように扱われるの であろうか.今から充分に対策を考えておかなければならない.

今後の透析の保険改定に際し,透析医会が果たす役割は,益々重くなっていくと思われる.しか し改定がうまくいくか,いかぬかは,全国の透析医が,年々縮小していく財源の中で,いかに工夫 し,いかに透析医療の質を維持し高めていくかにかかっており,「保険が下がったから」とか,「国 が引き下げたから」などという理由をあげて,透析の質を決して落としてはいけない.

もし,透析医の中から,金権亡者といわれる者が現れれば,透析医療全体が世間から冷視され,

多数の施設が閉鎖に追い込まれるまでは,マイナス改定は止まらないことになるであろう.医療人 としての信念と良心が問われているのである.

日本透析医会雑誌 Vol.21 No.1 2006 2

(7)

要 旨

腎不全の進行とともに消化管病変,消化器症状はほ ぼ必発する.透析開始後に自覚症状は速やかに改善す ることが多いが,消化管粘膜病変は依然高頻度に発生 する.腎不全で絶対的に不足するエリスロポエチンに 対する受容体は造血細胞のみならず,胃粘膜細胞にも 存在することが証明されつつある.非生理的高濃度の 実験系ではあるが,エリスロポエチンは胃粘膜細胞の 増殖を促すことがわかってきた.エリスロポエチン同 様に,腎不全で不足する代表的物質であるビタミン

Dは,生理的な濃度で十二指腸粘膜細胞の正常構造

の維持,障害に対する修復において大きな役割を有し ている.

近年,低回転骨(副甲状腺機能低下症)となること を避けるため,ビタミン

D投与を控える例が増えて

きている.十二指腸炎をはじめとする病変の増加が憂 慮される.

はじめに

透析患者の消化管の特徴を簡単に言うと,粘膜は貧 血を呈し,容易に出血し,消化吸収能は低下し,便通 は不良となって下剤を要することが多いといえる.し かし,その程度や出血性イベントの頻度などは,強力 な

H

2ブロッカー,プロトンポンプインヒビターの出 現やエリスロポエチンの臨床使用により非常に改善し てきた.

一方,便通に関しては,透析患者に特異的に処方さ れるイオン交換樹脂,炭酸カルシウムなどは便通障害 を増悪する.特に大きな期待のもとに登場した塩酸セ ベラマーは消化器症状を高頻度に引き起こし,最近の 透析現場では消化器症状に関する訴えの多くは塩酸セ ベラマーがらみであると言っても過言ではないように 思われる.

本稿では透析患者の消化管の特異性を特にエリスロ ポエチン,ビタミン

Dとの関連から overvi ewする.

1 尿毒症性腸炎

Jaffe

1が提唱したいわゆる古典的な尿毒症性腸 炎とは,下部消化管で大腸粘膜の浮腫,びらん,出血 性水泡などを高頻度に生じることをさす.これらは腸 管粘膜の微小循環不全や腸内細菌が関与していると推 定されている.

実際,透析患者では腸管粘膜に対する有害物質を産 生する好気性菌の比率が高まっているとされる.好気 性菌の持つ酵素によって,強い細胞毒性を有するアン

維持透析患者における腸管機能の特異性overview 3

[透析医療における ConsensusConference2005]

維持透析患者における腸管機能の特異性 overvi ew

粘膜貧血・易出血性・吸収能・便通・便秘など

小澤 潔

眞仁会 横須賀クリニック

keywords

:胃十二指腸びらん,Brunner腺過形成,粘膜上皮増殖刺激,エリスロポエチン,ビタミン

D

Characteristicsofgastrointestinaltractabnormalitiesinchronichemodialysispatients ShinjinkaiYokosukaClinic

KiyoshiOzawa

表 1 尿毒症性腸炎 1.腸内細菌の粘膜障害

大腸粘膜の浮腫 微小循環不全,拡張,破綻 → 腸内 細菌の浸潤 → 潰瘍,壊死

2.腸内細菌の産生する腐敗産物 好気性菌の増加――|

尿 → アンモニア → 細胞毒性 チロシン フェノール 血小板抑制 トリプトファン インドール リンパ球抑制

(8)

モニアは,尿素からウレアーゼにより産生されるし,

チロシンから産生されたフェノール類は粘膜からの出 血を促す.また,トリプトファンから産生されるイン ドール類は免疫を抑制し,細菌の浸潤を許してしまう と考えられる(表 1).

2 消化管の運動

消化管機能は消化管の潰瘍,炎症などの器質的変化 の有無,腸管の運動および消化吸収に関与する酵素に よって決まる.これらの因子を順に見ていく.

消化管の運動をコントロールしている神経には,外 来神経としては自律神経が,内在神経としては

Auer- bach

,Mei

ssner

神経叢がある.自律神経は消化管の 運動以外にも膵,消化管の多彩なホルモン分泌も制御 し,消化吸収に関与している.

これらの神経障害を生じる結果,胃では胃停滞時間 の延長,胃電図で

3cpm

の減少,

bradygastri a

(低周 期性胃蠕動)を呈し,小腸は時に逆向きの動きを呈す る異常や,特に

E.col i

Enterobacter

による

bacte- ri alovergrowth

(細菌の過剰増殖)によって神経障 害様の異常を示すことが報告されている2.大腸では 大腸通過時間の延長が認められ,各分節別では,特に 上行結腸と直腸-S状結腸の通過時間延長が著しく3, これらの運動障害が便秘の主な成因となっている(表 2).

3 消化酵素の面より

多量の脂肪負荷試験で得られた糞便中の解析デー タ4や,生検によって得られた組織での単位蛋白量あ たりの酵素活性値の比較では,腎不全状態にあると多 くの酵素活性は低下し,炭水化物,脂質,蛋白とも吸 収不良状態にあるといえる.さらに,糞便中への蛋白

喪失も報告されているが,小腸は十分な

capaci ty

を 有しており5,吸収不良が臨床的問題となる例は少な いと考えられる.

4 腎不全における胃粘膜血流

最も重要な器質的障害はなぜ生じるのであろうか.

障害の原因がなんであろうと,正常粘膜の維持,障害 を受けた時の修復には粘膜への血流量が重要な働きを していることは疑う余地はない.腎不全患者の胃粘膜 血流測定に関する報告の多くは伊藤6,7によってなさ れている.

伊藤は内視鏡下に電解式組織血流計で胃粘膜血流を 測定し,動脈血ガス分析により胃粘膜酸素供給量を求 めた.胃粘膜血流量の測定では胃体部で

22

%減少,

前庭部で

16

%減少しているのみであるが,酸素供給 量からみると胃体部では

61

%の減少,前庭部では

59

%もの減少を認めたとしている(図 1).そして,こ れらの変化は胃の細動脈の収縮と胃粘膜のうっ血,浮 腫が関係していると考察した.

近年,臓器血流維持における一酸化窒素の重要な役 割の認識に伴い,5/6腎摘腎不全ラットで胃粘膜血流 と一酸化窒素の関係が報告8されている(図 2).腎不 全では胃粘膜下血流は増加していたが,粘膜血流は低 下していた.胃粘膜では一酸化窒素合成酵素の

mRNA

の発現量は対照に比し

47

%に減少しており,

eNOS

蛋白の発現量は対照に比し

58

%に減少していた.ま た,

eNOS

酵素活性は対照に比し

79

%に減少してい た.腎不全の進行とともに,胃粘膜において一酸化窒 素合成能が減少し,粘膜血流が低下することによって 粘膜障害を生じやすくなることが推察される.

日本透析医会雑誌 Vol.21 No.1 2006 4

表 2 腸管運動の異常

神 経 消化管 報告されている異常

外来神経

交感神経と副交感神経 モチリン

ソマトスタチン 胃抑制ペプチド ガストリン 膵ポリペプチド

小腸

胃停滞時間の延長

EGGで3cpmの減少,bradygastria(低周期性胃蠕動)

abnormalmotility

bacterialovergrowth(細菌の過剰増殖) 神経障害様の異常

内在神経

AuerbachMeissner神経叢 大腸 大腸通過時間の延長

(9)

5 エリスロポエチンによる改善

伊藤6,7はエリスロポエチン投与後の胃粘膜病変の 臨床経過の観察とともに胃粘膜血流,酸素供給量を再 度測定している(図 3).エリスロポエチン投与

14

週 間で平均

Hb

値は

7. 5g/dl

から

10. 0g/dl

に改善した.

これに伴い,胃粘膜血流量は

3

% 増加するのみであっ たが,酸素供給量は

60

% も上昇した.この間,出血 性胃病変に対して抗潰瘍薬は

87

% に有効であった.

出血性病変の改善は果たして抗潰瘍薬と酸素供給量の 増加のみで得られたのであろうか.

最近,エリスロポエチンは造血細胞以外のいろいろ な細胞で受容体が確認され,細胞増殖やアポトーシス の抑制,さらには抗酸化作用などを通して影響を与え

ている可能性が報告9,10されている.胃粘膜に対する エリスロポエチンの効果に関する報告としてはいずれ も実験動物での成績であるが,ラット11,ブタ7でな されている.

ラットでの成績では(図 4),エリスロポエチンは 容量依存性にラット培養胃粘膜細胞 (RGM-1) に

thymi di ne

の取り込みを増加させる.標識エリスロ ポエチンは特異的に

RGM-1

細胞に結合し,RT-PCR でエリスロポエチン受容体

gene

の発現も確認されて いる.

培養ブタ胃粘膜上皮細胞に対するエリスロポエチン の増殖促進作用では(図 5),添加エリスロポエチン 濃度

0. 063

から

1. 0

μ

g/ml

まで容量依存的な促進効果 を認め,エリスロポエチンによって促進された増殖促

維持透析患者における腸管機能の特異性overview 5

図 1 胃粘膜血流量と酸素供給量

(伊藤和郎:医学のあゆみ,145;619,1989より)

図 2 腎不全ラットの胃粘膜で eNOSは減少

(TomikawaM :Am JPhysiol,274;F1102,1998より)

(10)

日本透析医会雑誌 Vol.21 No.1 2006 6

図 4 EPOは胃粘膜細胞を直接的に増殖させる(ratgastricmucosalcell

(OkadaA:Digestion,57;328,1996より)

図 5 胃粘膜上皮細胞への EPOによる増殖刺激(ブタ胃粘膜上皮)

(伊藤和郎:ProgressinMedicine,24;675,2004より)

図 3 EPO投与による胃粘膜血流量,酸素供給量の改善

(伊藤和郎:医学のあゆみ,145;619,1989より)

(11)

進作用は抗エリスロポエチン抗体によって抑制された.

これらの知見は,いずれも非生理的な高濃度のエリ スロポエチンではあるが,血流や酸素供給量を介さず にエリスロポエチンが直接的に胃粘膜障害を改善させ る可能性を示している.

6 Brunner腺の過形成と腎不全

エリスロポエチンと同じように,腎不全患者で特異 的に不足する物質で,消化管粘膜に作用をしている物 質はあるだろうか.

図 6は筆者が

20

年前に報告11した

4

症例の

1

人の 上部消化管造影である.十二指腸球部に多発性の陰影

欠損を認め,内視鏡では山田

II

~III型の多数のポリ ープ様病変を認めた(図 7).4症例は血清

Cr

5. 0 mg/dl

~維持血液透析施行中の慢性腎不全患者で,い ずれも主訴は食欲不振であった.経口ビタミン

Dは

服用しておらず,血清

1, 25

(OH)2

D

3濃度は低値であ り,ガストリンは高値である一方,胃酸の分泌は正酸

~低酸であった.

図 8は消化管出血で死亡した

69

歳男性症例の剖検 所見で,十二指腸の多発性ポリープ様病変は著しい

Brunner

腺の過形成であることが判明した.図 9に みられるように,十二指腸粘膜は絨毛の丈が短く不規 則で,Li

eberkuhn

腺窩は広がり,広範囲に単核細胞

維持透析患者における腸管機能の特異性overview 7

図 6 上部消化管造影

38歳 男性 主訴:食欲不振 Cr:10.7mg/dl 1,25(OH2D3:8pg/ml ガストリン:121pg/ml BAO:1.1mEq/hr MAO:15.4mEq/hr

図 7 十二指腸球部内視鏡所見

(12)

の浸潤を認めた.病理学的には強い十二指腸炎が存在 するといえる.

Brunner

腺の過形成と腎不全の関係は,1934年す でに

Feyrter

が指摘12していた.すなわち

2, 800

例の 連続剖検標本で

14

例(0.

5

%)に

Brunner

腺の過形 成を見出し,過去の

6

例と合わせて検討した結果,① 腎不全患者は腎機能正常者に比べて

15

倍の高頻度で

Brunner

腺は過形成に陥る,②男性は女性の

4

倍の 高頻度に認めた,というものである.

7 ビタミン Dと十二指腸粘膜

Gol dstei n

13は保存期腎不全および血液透析患者に

ビタミン

D投与前後で十二指腸内視鏡所見を観察し,

粘膜生検をした(表 3).

Ca

値をモニターし,1,

25

(OH)2

D

3の投与量は

0. 5

~1.

5

μ

g/

日とほぼ生理的使用

日本透析医会雑誌 Vol.21 No.1 2006 8

図 9 剖検所見

図 8 剖検所見:Brunner腺過形成

表 3 1,25(OH)2D3の十二指腸粘膜維持作用 保存期腎不全,血液透析患者

十二指腸粘膜生検 → 1,25(OH2D3投与(0.5~1.5μg)後再生検 絨毛の丈は短く,Lieberkuhn腺窩は浅く広がり,小窩内の 細胞のmitoticactivityは障害され微絨毛は不規則

VitD投与 ―→|

mitoticactivityは盛んになり微絨毛は修復され,絨毛は長 く,腺窩は深く成長する

(GoldsteinDA:KidneyInt,19;324,1981より)

(13)

量に近い.腎不全患者の十二指腸粘膜の絨毛の丈は短 く,Li

eberkuhn

腺窩は浅く広がり,小窩内の細胞の

mi toti cacti vi ty

は障害され微絨毛は不規則となって いる. ビタミン

D投与後に再生検すると, mi toti c acti vi ty

は盛んになり微絨毛は修復され,絨毛は長く,

腺窩は深く成長していた.

ビタミン

Dは十二指腸において Ca

結合蛋白を増加 させ,Caの吸収を促す.十二指腸粘膜の正常構造を 維持し,障害が生じた場合にはその修復を促す作用を 併せ持っていることは合目的性があり容易に理解され る.

8 慢性腎不全,十二指腸炎そして Brunner腺の 過形成

Brunner

腺は十二指腸にあり,アルカリを分泌し て胃酸を中和する.胃液の過酸状態あるいは十二指腸 炎などの刺激に対して過形成を生じることがある.報 告した症例で胃酸分泌測定例はいずれも正酸~低酸で あった.一方,血中

1, 25

(OH)2

D

3濃度は著しく低値 で,強い十二指腸炎を伴っていた.

すなわち,「慢性腎不全→ビタミン

D欠乏→十二指

腸炎→Brunner腺の過形成」を生じるため,腎不全 では腎機能正常者に比し,著しく頻度が増加すると理 解される.

9 腎不全とピロリ菌感染

筆者は,腎不全の進行とともに,胃酸の分泌は減少

し,低酸状態になり,消化吸収能に影響を与えている と当然のように考えてきた.ところが,ピロリ菌感染 の有無により比較した

Watanabe

らの報告14による と胃酸の分泌やガストリン濃度は腎不全の有無ではな く,ピロリ菌感染の有無により決定されるという(図 10).

ピロリ菌は胃粘膜の萎縮とアンモニアによる胃酸の 中和を引き起こし, 高ガストリン血症を呈する.

Brunner

腺過形成例でも低酸,高ガストリン血症を 呈していたため,ピロリ菌感染があったのかもしれな い.今後の検討は,たえずピロリ菌の感染の有無を含 めて考慮しなければならないだろう.

おわりに

潰瘍修復過程において,

HGF

,TGF-β1などの増 殖因子と

IL-1

などのサイトカインとの複雑なネット ワークが組織修復にとってきわめて重要である15とさ れている(表 4).

エリスロポエチンやビタミン

Dは,腎不全以外で

は欠乏することはほとんどないため,増殖因子として は取り上げられていない.腎不全においては,ここに あげられている諸因子の異常に加え,エリスロポエチ ンやビタミン

Dの不足が特異的に加わり,最も高頻

度に認められる胃・十二指腸びらん性病変形成の一因 となっているものと考えられる.

特にビタミン

Dの十二指腸粘膜に対する作用は生

理的濃度で確認されている.近年,低回転骨(副甲状

維持透析患者における腸管機能の特異性overview 9

図 10 腎不全患者の胃酸分泌におけるピロリ菌感染の影響

(WatanabeH:JInternMed,254;439,2003より)

(14)

腺機能低下症)を回避するためビタミン

Dの投与を

控える例が増加しており,十二指腸炎の発症など,十 二指腸粘膜にとっては不利益となることが憂慮される.

1 Jaffe RH and Lain DR:Changes of the digestive tractinuremia.ArchInternMed,53;851864,1934.

2 StridH,MagnusS,StotzerPO,etal.:Patientswith chronic renalfailure have abnormalsmallintestinal motilityandahighprevalenceofsmallintestinalbac- terialovergrowth.Digestion,67;129137,2003.

3 WuMJ,ChangCS,ChengCH,etal.:ColonicTransit Time in Long-Term Dialysis Patients.Am J Kidney Diseases,44;322327,2004.

4 SchurrD,Levy E,Goldstein R,etal.:Intestinalfat malabsorptionintheuremicrat.IntJPediatrNephrol, 8;129134,1987.

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日本透析医会雑誌 Vol.21 No.1 2006 10

表 4 潰瘍修復過程における反応細胞ならびに増殖因子の消長

炎 症 相 増 殖 相 再形成相

障害後日数 0~3 3~14 以後数年 反応細胞 顆粒球,単球

マクロファージ

線維芽細胞 マクロファージ

線維細胞 マクロファージ 血管反応 血管拡張,透過性亢進 血管新生 毛細血管網退縮 化学伝達物質 トロンボキサン

LT,PG,NO

PG IL-1,IL-6 増殖因子 PDGF,TGFβ1 HGFα,TGFβ1

EGF,bFGF,ECM

TGFβ1,PDGF

上 皮 化 contactguidance contactinhibition 基底膜形成 TenascinmRNA CollagenⅣ,Laminin

Fibronectin

創 収 縮 筋線維芽細胞 dynamicequilibrium

(小林絢三:日本臨床,56;2215,1998より)

(15)

要 旨

透析療法施行中の患者の顎口腔領域に発症する主な 合併症について,現状とその対策について紹介した.

合併症として歯には特徴的なものは見られなかったが,

歯槽硬線の消失,顎骨の線維性骨炎,顎関節の異常が あげられた.また食事に影響を与える味覚障害や唾液 分泌機能の低下があげられ,特に味覚障害は腎移植後 改善した.

はじめに

維持血液透析療法中の患者総数は

248, 166

人(2004 年)で1,この数字は中小都市に匹敵する数の患者の 多くが歯科医院へ受診していることになり,すでに透 析療法が特別な治療法ではなくなっていることを意味 している.この陰には近年における透析療法の発達が めざましく,生存率も飛躍的に向上していることも見 逃せない.一方,長期透析患者においていまだ解決す べき合併症が残されており,この中には微少症状への 治 療 , い わ ゆ る

maj or compl i cati onか ら mi nor compl i cati onへも救済の手が差し延ばされる時代に

入ってきたともいえよう.

歯科についていえば,顎口腔領域における歯や顎骨 を含めた硬組織と,口腔粘膜や唾液腺組織などの軟組 織における問題がある.また神経伝達および感覚的問 題として味覚障害や唾液分泌機能の低下のように自律 神経機能の障害があり,食事療法による塩分摂取コン

トロールに大きく関与してくる.最終的には患者の

qual i tyofl i fe

に与える影響はきわめて大きい.

これらの発症原因や透析療法との因果関係が判明し ているものはいまだ多くない.そこで透析療法中の患 者の顎口腔領域における合併症の概要について検討し てきたので,概念的に紹介する.

1 歯および顎口腔領域の合併症の概要

信楽園病院において維持透析中の患者

282

名を対象 に,書き取りアンケートとスクリーニング口腔診査に よる疫学的調査を行い,歯,顎骨および顎関節の変化 を

X線写真,CTおよび骨シンチグラフィーにより精

査した.さらに口腔乾燥に対しては唾液腺機能検査,

唾液腺造影,唾液腺シンチグラフィー,唾液腺の生検 を行い,味覚異常に対しては味覚検査および血清亜鉛 値の測定と末梢神経伝導速度を測定した.さらに透析 療法の影響かどうか確認するために,透析前の慢性腎 不全状態の患者および腎移植前後の評価も加えて比較 した.

顎口腔領域におけるスクリーニング口腔診査の結果,

合併症とその頻度は,口腔粘膜の貧血(71%),血腫 や出血斑(13%),歯の異常(30%),顎関節の異常

(8%),口腔乾燥(49%),耳下腺や顎下腺などの腫脹

(8%),味覚異常(67%)であった2

顎骨の画像変化は,顎骨のスリガラス状変化,歯槽 硬線の消失で,骨シンチグラフィーを用いた集積像が 透析性骨症の進行度の指標や副甲状腺摘出後の効果判

顎口腔領域の合併症 11

[透析医療における ConsensusConference2005]

維持透析患者における顎口腔領域の合併症

又賀 泉

日本歯科大学新潟歯学部口腔外科学第2講座

keywords :歯科的合併症,歯槽硬線の消失,線維性骨炎,唾液分泌機能低下,味覚異常

Complicationsatoralandmaxillofacialregioninpatientswithhemodialysistherapy

DepartmentofOralandMaxillofacialSurgeryII,SchoolofDentistryatNiigata,TheNipponDentalUniversity IzumiMataga

(16)

定に有用であった.また唾液分泌機能は低下し,唾液 腺造影所見では萎縮性変化が,唾液腺シンチグラフィ ーではテクネシウムの取込みの遅延が大唾液腺におい て認められた.耳下腺の生検による組織学的特徴は脂 肪沈着を中心とした萎縮性変化であった.味覚異常は

67

% に認められ,滴下法やディスク法による味覚検 査,電気味覚計による閾値は有意に高く,腎移植後味 覚障害は著明に改善した.

2 歯の異常

歯の変化としてエナメル質の変化(dentalerosi

on

) や歯髄内の石灰化が報告4~6されているが,これらの 変化はほかの疾患においても生じることがあり,透析 患者に特徴的ではないとする報告もみられる.著者ら の調査7~9でも,疫学的にはなんらかの形で歯に異常 ありと認めたものが

30

% を占めたが,口腔診査を行 っ結果では透析と歯の形態的変化の直接的因果関係は みられなかった.

歯のう触(虫歯)の増加傾向が認められたが,これ らは唾液分泌の低下に伴う口腔自浄作用の低下や口腔 清掃の不良による二次的変化と考えられる.最近の調 査4で骨変化と歯髄腔の大きさに関連があることが示 されているが十分な

evi dence

はない.

3 顎骨の異常

進行した腎性骨異栄養症(ROD)においては,頭 部,腰部,手指,膝・足関節,脊椎などの全身骨の変 化とともに,顎骨においても骨膜下吸収,嚢胞の形成 などの所見が現われることが知られている.

X

線学的には,歯槽骨において歯槽硬線の消失が 認められている10~13.歯槽硬線は

X線像で歯周に一

致した白い線として現れたものを称し,組織学的には 歯槽窩壁を構成する固有歯槽骨に相当し,骨皮質に相 当するものと考えられている.原発性副甲状腺機能亢 進症では歯槽硬線が消失することが知られている.歯 槽硬線の消失程度を数値的にとらえ,RODの進行度 が推定できれば,その判定法がきわめて容易であるが 故に骨パラメータとして有用である.

歯槽硬線を描出するには,歯科用

X線写真が最も

鮮明で,次に歯科用オルソパントモ写真による評価が 有用である.一方,歯科用

X線では 2

~3歯の小さい 範囲でしか歯槽硬線を撮影できないが,オルソパント

モでは全歯,上下顎骨のみならず顎関節の広い範囲を

1

枚のフィルムで読影できる利点がある.ただし歯槽 硬線は歯があるところでないと評価できず,また辺縁 性歯周炎(歯槽膿漏症)でも消失することがあるため 鑑別が必要である.

著者らが行った

282

例を対象に施行したスクリーニ ング口腔診査のうち,有歯顎患者

83

例に対する歯科 用

X線写真による検討では,その 24

% に歯槽硬線の 消失が認められた2.さらに歯槽硬線指数(LDI値)

0. 4

以上になると,透析性骨症の病期の進行と

MD

法(mi

crodensi tometry

)による

MD pattern

,関節 頭の吸収と思われる所見,骨シンチグラフィーによる

uptake

の状況とはほぼパラレルであった12

また歯根に著しい吸収が認められたもの,歯根尖部 周囲の顎骨に嚢胞様の変化が生じることが報告されて いて,これらの骨変化は

RODの進行の強いものによ

り多く見られるようである14.骨シンチグラフィーを 用いた解析では,特に線維性骨炎において頭蓋骨や下 顎骨の集積が特徴的である点をとらえ,RODの進行 度の指標や,副甲状腺摘出後の効果判定に有用であ

15,16.上下顎骨や口蓋に膨隆を認めた症例では,そ

の切除組織の病理組織学的所見の多くは線維性骨炎で ある17,18

4 顎関節の異常

顎関節 (temporomandi

bul ar j oi nt;TMJ

) は下 顎骨の下顎頭と側頭骨の下顎窩との間で営まれる関節 で,顎関節の特徴は唯一の三次元的可動関節であり,

咀嚼や構音などの外的および内的応力を負担する関節 でもある.従来より透析患者の顎関節における骨変化 は,RODに伴う系統的骨変化の一つと考えられてい た.X線学的診断では,関節突起部の骨吸収,平坦 化(fl

atteni ng

)などの形態的に特徴的な変化が生じ ることが報告され,また骨シンチグラフィーにおいて も,同関心領域の病変に対応して取込みの増加があり,

これらの変化は

RODの進行に伴って増加することが

報告されている19,20

一方,顎関節に異常症状を伴わない健常人において も,平坦化など類似した関節突起の形態を呈するもの があり,現時点では関節部の病変を

X線診断のみでこ

れらの病変を客観的にとらえるには限界がある.一方,

関節雑音を伴うものは,系統的アミロイド骨関節症の

日本透析医会雑誌 Vol.21 No.1 2006 12

(17)

一つとして,顎関節骨頭部や円板におけるアミロイド 変性などの組織学的変化を生じている可能性がある.

Payne

21は下顎頭に骨変化を認め,機能障害を きたした透析患者に対し下顎頭を摘出して再建手術を 行った結果,摘出下顎頭は肉眼的に嚢胞状変化を認め,

病理組織学的には線維性嚢胞性骨炎であったと報告し ている.

著者らも,手根管症候群と透析性肩関節症による肩 関節滑膜切除術による組織片より,病理組織学的に透 析アミロイドーシスと診断された症例で,顎関節部の ヘリカル

CT 3D構築画像による所見で,両側下顎頭

骨表層において不規則な凹凸と小孔状変化を認めた.

また下顎頭上面では粗造と一部はクレーター状の陥凹 を呈していた22~24.顎関節部は生検がむずかしいと いう問題がある.

5 口腔粘膜の異常

透析患者の口腔粘膜における異常所見の主体は粘膜 の貧血(蒼白)である.これらはエリスロポエチンな どの分泌障害による貧血の一分症として現れる.辺縁 性歯周炎(歯槽膿漏症)は透析患者における特徴的変 化ではないが,増齢的に高い頻度で認められ,多くの 場合歯を失う主な原因となる.出血斑と血腫は,食物 や咳などの機械的刺激によって発症する.血腫および 口内炎を伴うものあるいは過去に経験のあるものが全 体の

37

%,特に年齢別では

65

歳未満の患者の

77

% に認められた2

口腔粘膜の偶発症として特徴的なものは粘膜血腫や 出血斑である.頬粘膜,口蓋粘膜,咽頭粘膜部に生じ ることが多く,この原因として食物の直接的刺激や咬 傷,咳などの刺激によって発症し,また歯科治療にお いては局所麻酔の刺入点粘膜に血腫が起こることが多 い.長期透析患者の血液凝固機構については,明らか な異常を生じているとする報告は少なく,透析中のヘ パリンなどの抗凝固薬の影響によって生じるものと推 測される.口内炎に関しては,口腔粘膜の貧血,易感 染性,唾液分泌機能の低下に伴う口腔の自浄作用の低 下などが関与していると考えられるが,発症頻度が透 析患者に特に多いという結果は得られていない.口腔 粘膜の貧血は最近のサイトカイン(エリスロポエチン)

の併用により,輸血の必要性も肝炎への感染の機会も 激減している.

口腔カンジダ症は臨床的に粘膜の偽膜性白斑と発赤 を特徴とし,擦過すると白斑はとれるが粘膜の炎症は 残るものと定義されている.この口腔カンジダ症がし ばしば発症するという報告もあるが,これらは必ずし も 透 析 患 者 に 特 徴 的 な 粘 膜 変 化 と は い え ず ,

i mmnocompromi sed host

における日和見感染およ び唾液分泌能の低下に伴う二次的変化と考えられる25. また口腔カンジダ症の起炎菌である

Candi daal bi cans

は口腔常在菌であり,健常人の

30

% に常在している26. 特に高齢者においては歯の喪失に伴って義歯を用いる 頻度が高くなり,この義歯内面(粘膜側)においてカ ンジダ菌が増加する.患者自身による口腔管理が不良 で,義歯の清掃が不十分な患者においてはその発症が 著明で,臨床的には特に義歯に相当する口蓋粘膜に白 斑を伴った発赤がみられ,ときに疼痛を伴う.口腔の 自浄作用や義歯の吸着には唾液の介在が不可欠である が,増齢的にまた透析患者においては唾液分泌機能が 低下することが知られており,これらの症状がさらに 増悪することが考えられる.

6 唾液分泌機能の異常

口腔乾燥(口渇)を訴える患者が多い.アンケート による疫学的調査では,口腔乾燥を訴えたものが透析 患者全体(282症例)の

49

% に認められ,透析前後 では透析後にやや改善する傾向が認められた27.ちな みに慢性腎不全非透析患者では初期において

11

(18症例),透析移行前が

33

% で28,腎移植患者では 皆無であった.

口腔乾燥症における他覚的口腔症状は,口腔粘膜の 乾燥のほかに,溝舌,舌乳頭萎縮,口角炎,口唇炎な ど一般の口腔乾燥症と類似した所見が認められる.唾 液分泌機能検査においては,透析前後ともに有意に唾 液分泌量は減少していて,健常人の約

1/4

の分泌量 である.一般的に増齢的に唾液分泌機能が低下するこ とが知られていて,高齢者においては特に著しい.口 腔乾燥を主訴に歯科外来に受診する患者の頻度は

2

% 前後で,うち

65

歳以上の高齢者が占める割合いは

60

%以上である.

高齢者における口腔乾燥の主な原因は,生理的な唾 液分泌の低下に加え,多くの場合降圧薬や抗パーキン ソン剤の副作用として口腔乾燥が生じる.一方,透析 患者においては

30

~40% が発症し,うち高齢者は

40

顎口腔領域の合併症 13

(18)

% 程度で,血液浸透圧の問題のみならず慢性透析療 法によって唾液分泌機能低下が発症することが考えら れる.

画像診断では,唾液腺造影所見で,主導管および腺 系において腺内導管の数の減少や菲薄化などの萎縮性 変化を中心とした所見が認められ,これらの造影所見 は高齢者の耳下腺造影所見に類似していた.唾液腺シ ンチグラフィーでは,耳下腺および顎下腺のテクネシ ウムの取込みの遅延が認められ,また口腔への移行機 能の低下が観察された29.透析患者の耳下腺の生検に よる組織学的特徴は,脂肪沈着を中心とした萎縮性変 化であった.

以上の結果より,慢性腎不全に対する長期透析によ り唾液腺の老化が促進される可能性が示唆される.こ の変性の発症機序は現段階では不明であるが,皮膚の 乾燥の原因が汗腺の萎縮によると考えられている点を 総合すると,すべての外分泌腺が系統的に障害を受け ている可能性がある.

口腔乾燥を訴える患者の口腔症状は,粘膜の乾燥の ほかに,溝舌,舌乳頭萎縮,口角炎,口唇炎,口腔カ ンジダ症の増加などである.これら唾液分泌量の減少 に伴って口腔の自浄作用が低下し,透析患者が易感染 性であることに加え,呼吸器感染の危険性や耳下腺炎 などの慢性唾液腺炎の発症の素地をつくっている.耳 下腺,顎下腺にみられる腫脹は,経導管的逆行性感染 の結果生じる唾液腺炎であると考えられている.

7 味覚機能の異常

味覚異常は,塩分摂取を中心として透析患者の栄養 管理に大きな影響を与えていることが考えられる30. 透析患者

271

例を対象とした味覚に関するアンケート による疫学的調査では,味覚に異常を感じると答えた ものが全体の

41. 3

%(271症例中)に認められ,透析 前後では,透析後やや改善する傾向が認められた31. さらに慢性腎不全非透析患者では

12. 6

%(18症例),

腎移植患者(18症例)では

30

% であった.

そこで透析患者に対して施行した滴下法やディスク 法による味覚検査による判定結果では,四基本味覚閾 値ともいずれも健常人に比較し有意に高かった.電気 味覚計による支配神経別の電気味覚閾値でも,鼓索,

舌咽,迷走神経領域ともに高く,明らかに味覚障害が 他覚的にも認められた.そこで味覚に与える関連因子

として血清亜鉛値および末梢神経伝導速度を測定した 結果,透析患者全体では低下が認められたが,いずれ も味覚異常群と非味覚異常群との間で両者に統計学上 の有意差はなかった.

以上の結果より,透析患者における味覚低下の機序 は味覚伝導神経障害をベースに,唾液分泌量の低下に よる味物質の溶解不全,味蕾への移送障害および味蕾 細胞の機能低下などの関与が考えられる.腎移植後味 覚障害が劇的に改善する事実32から,味覚機能は器質 的障害により発症するのではなく,末梢神経障害など により可逆的に発症していることが考えられ,今後味 覚異常の発生機序のみならず,透析療法あるいは慢性 腎不全が自律神経への影響の解明に大きく寄与するこ とが考えられる.

結 語

透析患者の顎口腔領域にみられる合併症の発症機序 は複雑で,その機能異常には慢性腎不全によるもの,

透析自体により発症するものが混在していると考えら れる.そこで透析導入前の慢性腎不全と腎移植後の口 腔症状に関する検討を行っている.

口腔乾燥については,導入前よりもみられるが,透 析導入後その頻度は増加し,移植後改善する傾向が認 められる.味覚異常は,移植後明瞭に改善が認められ る.今後腎性骨症による顎骨の変化についても,腎移 植後と比較して継続的な観察が必要である.

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顎口腔領域の合併症 15

(20)

要 旨

維持透析患者の胃・十二指腸潰瘍についてその特異 性を検討した.発見率をみると透析患者では内視鏡施 行患者の

18. 1

% であり,平成

16

1

年間の全内視鏡 検査施行患者からの胃・十二指腸潰瘍発見率

12. 0

(431例/3,

591

例)と比較すると有意に(P=0.

0292

) 高率であった.その臨床症状は一般的な上腹部痛など とは異なり,貧血の進行,吐血,タール便,便潜血と いった出血による症状,徴候が半数に達した.実際,

胃・十二指腸潰瘍で止血処置を実施した割合は

34. 6

% に達し,一般患者の

9. 3

% と比較して非常に高率であ った.透析患者の原因疾患で発症率に差があるかどう か検討する目的で糖尿病性・非糖尿病性腎不全におけ る胃・十二指腸潰瘍の発症率を比較したところ差がな く,原因疾患よりも透析治療そのもの,あるいは透析 患者を取り巻く環境になんらかの原因があるものと推 察された.透析導入後胃・十二指腸潰瘍発症までの期 間をみると,その半数以上が

2

年以内でしかも

40

% が

1

年以内であり,透析導入後比較的早期に発症する傾 向が示された.また既往としての胃・十二指腸潰瘍が 再発しやすい状況となっているものではなかった.胃・

十二指腸潰瘍発症前

1

カ月のエピソードを調べるとそ の約半数に

NSAIDs

の使用があり,一般患者に比較 し

NSAIDs

に対す耐性が低い傾向が示された.一方 シャント術直後,趾切断術後が

4

例おり精神的,身体 的ストレスの関与も大きな要因の一つと考えられた.

はじめに

近年透析治療が進歩した結果,維持透析患者は増加 の一途をたどり現在も毎年

1

万人以上増加している.

特に高齢者の透析患者が増加し,平均年齢の高齢化と ともに他疾患同様消化器系疾患の合併症も問題となっ ている.しかも,もともと腎不全状態は様々な消化器 症状を引き起こす.したがって上部消化管検査を行う 機会が増加しており,透析患者における消化管疾患の 特異性を知ることが重要となってきた.今回は透析患 者の胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)についてその発 症率に視点をあて検討したので報告する.

1 対象患者

対象とした透析患者は日鋼記念病院腎センター,東 室蘭サテライトクリニックおよび登別記念病院で維持 透析治療を受けている

268

例で,そのうち上部消化管 内視鏡検査受検者数は

144

例であり

53. 7

% であった.

対照としての一般患者は平成

16

1

年間の日鋼記念 病院でのドック,検診を除く全上部消化管内視鏡検査 受検者

3, 591

例とした(表 1).

日本透析医会雑誌 Vol.21 No.1 2006 16

[透析医療における ConsensusConference2005]

内視鏡検査・治療が有用な維持透析患者の消化管病変

小野寺義光

札幌中央病院 消化器内科

keywords

:透析患者,慢性腎不全,消化性潰瘍,NSAIDs

UpperGItractlesionusefulforendoscopicexaminationandtreatmentinmaintenancehemodialysispatients Departmentofgastroenterology,Sapporochuohospital

YoshimitsuOnodera

表 1 検討した維持透析患者数と上部消化管内視鏡検査件数 透析患者数 内視鏡施行者数 日鋼記念病院腎センター

東室蘭サテライトクリニック 登別記念病院

47 127 94

29(61.7%)

69(54.3%)

46(48.9%)

268 144(53.7%)

図 4 EPOは胃粘膜細胞を直接的に増殖させる(ratgastri cmucosalcel l )
表 1 腸管虚血(mesenteri ci schemi a):分類 1.主幹動脈の閉塞:腸間膜動脈血栓症(SMA ,IMA ) 2.主幹動脈に閉塞なし:狭窄(±) 腸管虚血の誘因 (1 ) 全身性因子:血圧降下(心機能低下,大量除水) (2 ) 血管側因子:動脈硬化,アミロイド症 (3 ) 腸 管 因 子:内圧亢進(便秘)・腸蠕動低下 (大平) 図 2 非閉塞・狭窄型の腸管虚血(大平)
図 1 わが国における維持透析患者の死因
表 5 CTで定量的に評価した透析患者の大動脈石灰化指 数(aorti ccal ci fi cati oni ndex)に影響する因子の 解析(多変量解析) β p 年齢(歳) 性(男性=1 ,女性=0 ) 喫煙(本数×年) 透析期間(月) 糖尿病(有り=1 ,無し=0 ) 収縮期血圧(mmHg ) 拡張期血圧(mmHg ) 総コレステロール(mg/dl ) カルシウム(mg/dl ) リン(mg/dl ) l og (i ntact-PTH ) 0
+7

参照

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