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日本透析医会雑誌

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(1)

THEJOURNALOFJAPANESEASSOCIATION OFDIALYSISPHYSICIANS

日本透析医会雑誌

Vol.17 No.2 2002

[巻 頭 言]

医療改革 医療サービスと患者中心の医療の実践

日本透析医会常任理事 小野山 攻…125

[透析医療における

CurrentTopics 2002

透析非導入と透析継続中止 国内外の現況と課題

カレスアライアンス日鋼記念病院 腎センター 大 平 整 爾…127 血液透析不導入・中止の応用医学哲学的考察

板橋中央総合病院血液浄化療法センター 阿 岸 鉄 三…135 精神科医として,患者として,「日本での透析中止」を考える

松江青葉クリニック 春 木 繁 一…139 透析スタッフが抱えるストレスとその対処

東京都医学研究機構・東京都精神医学総合研究所リエゾン精神医学心身医学研究部門 福 西 勇 夫 神 山 佳奈絵

新生会第一病院教育訓練センター 岡 山 ミサ子…146 透析中断の諸問題(合意にむけて) 患者・医師のアンケート調査より

衆済会 増子記念病院 伊 藤 晃…150 進行癌を合併した透析患者の終末期医療を考える 博樹会 西クリニック 西 忠 博…159 外来透析施設における終末期看護 湯沢会 西部腎クリニック 大 坪 みはる…165

[危機管理対策]

透析業務におけるインシデント・アクシデント報告

桜町病院 桜町クリニック 外科 舩 越 哲

長崎大学医学部附属病院 腎疾患治療部 原 田 孝 司…172

[医 療 経 済]

平成

14

年度社会保険診療報酬改定の周辺 雑感

日本透析医会専務理事 鈴 木 満…180

5

回透析医療費実態調査報告 医療経済委員会 透析医療費調査分析作業部会 鈴 木 満

杉 崎 弘 章 吉 田 豊 彦 山

親 雄…183

[臨 床 と 研 究]

内部濾過促進型血液透析

東京女子医科大学腎臓病総合医療センター血液浄化部門 峰 島 三千男…227 透析と降圧薬 透析症例の降圧療法に関する臨床研究について

そねクリニック 曽 根 正 好…232 献腎移植 レシピエント選択基準の変更

日本臓器移植ネットワーク コーディネーター部 小 中 節 子

医療本部 菊 地 耕 三…239

[各支部での特別講演]

北海道における透析導入の現況 道内透析施設のアンケート調査より

市立札幌病院 腎臓内科 上 田 峻 弘 城 下 弘 一

日鋼記念病院 腎センター 大 平 整 爾 伊 丹 儀 友

札幌北楡病院 外科 堀 江 卓

旭川日本赤十字病院 腎臓内科 石 黒 俊 哉

札幌医科大学 第二内科 浦 信 行…248

目 次

(2)

[研究助成論文]

糖尿病性腎症による透析患者の血中ホモシステインの動脈硬化性病変への関与

兵庫県透析医会 学術・統計委員会 原泌尿器科病院 腎臓内科 吉 矢 邦 彦

服部病院 内科 関 田 憲 一

住吉川病院 内科 井 上 聖 士

兵庫医大 人工透析部 中 西 健

荒川クリニック 荒 川 俊 雄

三木内科クリニック 三 木 章 三

宮本クリニック 宮 本 孝

県立淡路病院 内科 松 尾 武 文

県立尼崎病院 内科 金 津 和 郎

高砂市民病院 内科 後 藤 武 男…255 慢性透析患者における身体活動性や生命予後におよぼす要因に関する前向き長期多施設研究

大阪府立病院 腎臓内科 勝 二 達 也 北 村 温 美 金 子 哲 也 戸 川 雅 樹 岡 田 倫 之 椿 原 美 治

大阪厚生年金病院 腎臓内科 藤 井 正 満

大阪大学医学部 病態情報内科学 今 井 圓 裕…261 透析中の低血糖の機序 大阪医科大学 泌尿器科 高 橋 朗 柴 原 伸 久

上 田 陽 彦 勝 岡 洋 治

血液浄化センター 井 上 徹

第一内科 寺 前 純 吾 北 岡 治 子 花 房 俊 昭

第二生理学 窪 田 隆 裕…267 維持透析患者におけるビタミン

E固定化ダイアライザーを用いた酸化ストレス軽減作用に

関する検討 香川医科大学 第二内科 高 橋 則 尋 森 脇 久美子 原 大 雅 松向寺 孝 臣 細 谷 陽 子 人 見 浩 史 藤 岡 宏 安 岐 康 晴 清 元 秀 泰 河 野 雅 和

同総合診療部 福 永 惠

三豊総合病院 石 津 勉 秋 山 賢 次 広 畑 衛…273

eNOS

遺伝子多型が透析患者の動脈硬化進展に与える影響の検討

広島大学大学院医歯薬総合研究科病態制御医科学講座 浅木森 幸 晃 頼 岡 徳 在

広島県透析連絡協議会 高 杉 敬 久 辰 川 自 光…277

[厚生科学研究]

長期透析に伴う合併症の克服に関する研究 主任研究者 平 澤 由 平

分担研究者

親 雄 鈴 木 満 秋 澤 忠 男 鈴 木 正 司 吉 田 豊 彦 横 山 健 郎 室 谷 典 義 長谷川 真 二 山 根 伸 吾 杉 崎 弘 章 武 田 亘 弘 黒 田 重 臣 大 平 整 爾…282

[総会資料と決定事項]

日本透析医会通常総会資料および主な決定事項 専務理事 鈴 木 満

事務局長 加 藤 和 男…292

[た よ り]

和歌山県支部の現況 和歌山県支部会長 柏 井 利 彦…322 熊本県支部だより 熊本県透析施設連絡協議会会長 本 田 義 信…324 常任理事会だより 日本透析医会常任理事 鈴 木 正 司…326 投稿規定 330

編集後記 小 野 利 彦…331

お知らせ

(社)日本透析医会15周年記念シンポジウム開催について 321 学会ご案内 328

(3)

4

1

日から実施された診療報酬改定は,マイナス

2. 7

% どころではなく,医療現場の実態を 無視したものとなっています.

会員諸氏も「医学的根拠と無縁の改定内容への怒り」をお持ちだと思います.今回の診療報酬 改定では,財政削減のための辻褄合わせとされ,第一線医療の存続が大きく脅かされる事態を生 じています.とりわけ私たち透析領域への影響は著しく,医療経営の破綻そして医療への重大な 支障が避けられません.日医も「問題の多いところは救済措置を考慮」と訴えているので,医会 としても緊急レセプト調査等,次回の改定に対しての準備が今から必要です.診療報酬改定への 対応とともに,医療制度改革に対しても十分な対処が必要であることは言うまでもありません.

人工透析の包括化については,過剰投与や過剰診療になる可能性のある部分が少なく,透析の ような定型化した治療では,これ以上包括化する必要性は低いと考えます.

①国民皆保険制度の堅持,②医療制度への市場原理導入の阻止,③プロフェッショナルフリー ダムの確立,等が協議され,日本医師会でも今回の診療報酬改定についての影響度調査が行われ ていますが,その分析には医療機関側だけでなく国民の理解と共感を得るような視点が必要と訴 え,医療の本質を守り抜いていかなければなりません.

「医療サービス」についてもう一度考え直す必要があり,患者は診断の的確さ,利便性,待ち時 間の短縮化,スタッフの親切度,低価格化等を望んでおり,私達は医療機関の効率化と現場にもっ と目をむける必要があります.一方患者は病気についての情報に乏しいので,私達も色々な手法 で情報提供が必要であり,患者自身も知識を蓄える必要があり,私達は過去のしがらみから抜け 出して,皮下脂肪を筋肉質に変えねばなりません.

サービス向上に絞り込んだ経営理念を持ち続ければ,両者の関係も協力と信頼のもとに改善さ れるでしょう.今求められているのは,こうした力強い変革の原動力をもとに,新しい医療シス テムを考える必要があります.

医療の質には技術や能力の質と人間関係の質があり,後者について患者が医療から得たいと望 んでいる中心的なものは「患者中心の医療」です.2000年

3

月に福岡県医師会が出された診療情 報共有福岡宣言は次のように述べています.

医 療 改 革 125

医 療 改 革

医療サービスと患者中心の医療の実践

(社)日本透析医会

常任理事

小野山 攻

[巻 頭 言]

(4)

―患者さんの病気,死の恐怖の克服に役立てるために―

1.我々は病気に伴う不安や死の恐怖を,先ず,共有します.

2.共有できないときは何故かを考えます.

3.患者さんに対する説明責任論理を結果責任論理に優先させます.

4.その為に診療情報を患者さんと医師とで共有します.

5.我々は情報を共有することが常に実現できるように,診療に関わる不安要望・苦痛を,患者

さんから受け入れます.

6.診療総合相談窓口を設置します.

同宣言を普及・推進させるために福岡県医師会は次のような支援を行う.

1.診療情報の共有が困難であったり,実現できなかった事例を関係者の論理まで掘り下げる事

例検討会を持ちます.

2.その結果を当事者に報告します.

3.さらに,これら事例を類型化し,診療報酬共有宣言を推進するために公表します.このこと

により,医師・患者とも,より賢くなることを期します.

4.以上のことがより速く,円滑に推進できるように,ヘルスコミュニケーション技術の研究,

開発,研修,人材の導入を行います.

その結果,平成

12

年度で

479

件の相談事例がありました.

上記を読むと,医の原点に戻って,医を提供する側と医を期待する側とで病気の概念,イメー ジ,感覚が一致しているかどうか,という根元的な問いにこだわらなければならない時代である と痛感させられます.その必要性は,医事紛争や訴訟の急速な増加や医学研究の急速な展開への 危惧の表明にみてとれます.

「患者中心の医療」を色々な側面から考える必要があり,それらは,①患者の価値観,意向,ニー ズの尊重,②ケアの連携と統合,③情報コミュニケーション,および患者教育,④身体の苦痛の 解消,⑤心理的支援,不安の緩和,⑥家族と友人の関与,⑦ケアの継続性,です.

医療の分野で働く人たちは誰もが人々を助けたいという動機で職業を選んできた人たちであり,

患者中心の医療のあらゆる側面に特にかかわりを持っているのが看護職の仕事です.つまり,医 療施設と患者とをより人間的につなげる仕事をしているといえます.

医療サービスや医療施設を患者の視点で見直すことによって得るものがあると思われます.こ の数年,患者の満足度を測ることに対する関心が高まっていますが,これは患者から高い評価を 得ることだという意識の高まりを物語っています.患者を個人として尊重することは,人間的な 医療の基礎です.病気を引き起こしている人間的な背景を十分考慮する必要があります.患者を 個人として尊重し,患者が持つ不安や心配をすくい上げ,解決に向かって取り組むことが求めら れています.

患者に「透析中に最も重要なことはなんでしょうか」と尋ねた所,最も多かった答えは,「自分 が有能な専門家にケアしてもらっていると感じられること」でした.そのように感じることがで きれば,患者は自らが置かれた状況のなかで,最大限安心することができると思われます.つま り,患者は,「能率」と「円滑に機能する組織」を重視し,このことがわれわれ医療機関にとって 信頼や信用されることにつながっていくと信じます.

日本透析医会雑誌 Vol.17 No.2 2002 126

(5)

はじめに

末期慢性腎不全患者は,医師から現症(腎機能の低 下度および全身状態など)並びにその後の治療法の選 択肢に関して説明を受ける.

相当以前から定期的な受診を続けていた患者と然ら ざる患者とでは,①医師からの説明,②医師-患者間 の質疑応答などを経て,③患者自身の納得と理解,④ 家族などの協力度合い,⑤医療者・家族の勇気付け,

など様々な要因によって,医師の提示した治療法の受 諾・非受諾(医師の立場からは導入・非導入)へ至る 道程はかなり異なってくる.医師は自説を押し付ける のではなく,まず患者の言い分を傾聴することから始 めなければならない.また,医師は患者との対話が開 始された後,できる限り速やかに患者・家族から信頼 感を得ることが肝要である.然らざれば,如何に公平 な説明や情報の提供を行っても有効なものとはなり得 ない.一方で一旦透析療法が開始されても,種々の合 併症や加齢に伴う障害の出現などのためにその継続が 困難か苦痛となり,透析継続の中止が患者・家族また は医療側から考慮せざるを得ない状況が生まれてくる.

これ等の事態は近年次第に増加し,医療者および受療 者の関心度を深めている.本論ではこれにかかわる諸 問題を概説したい.

1

現代医療の根幹

医の倫理は, ①自主性 (autonomy), ②無害性

(nonmal

efi cence

),③慈愛(benefi

cence

),④正義

(j

usti ce

)の

4

点にあるとされている.リスボン宣言 はこれを受ける形で,患者の権利をより具体的に述べ ている(表

1

).

これ等を要約すれば,現代医療の根幹は「患者の自 己決定権の尊重」にあると言うことができよう.この 故に,患者は医師から自らに関する医療情報の真実を 包み隠さず提示されることを要求し得る権利を有し,

医師にはそのように行うべき責務が課せられているも のとなる.インフォームド・コンセント(IC)はま

透析非導入と透析継続中止 127

透析非導入と透析継続中止

国内外の現況と課題

大平整爾

医療法人社団カレス アライアンス 日鋼記念病院腎センター(現,札幌北クリニック)

[透析医療における CurrentTopi cs2002 ]

Non initiationtoandWithdrawalfrom DialysisTherapy~CurrentStatusandProblemsintheWorldandJapan Kidneycenter,NikkoMemorialHospital(now,SapporoKitaClinic

SeijiOhira

1 患者の権利に関するリスボン宣言 1.患者は,自分の医師を自由に選ぶ権利を有する.

(医師選択の自由)

2.患者は,何ら外部からの干渉を受けずに自由に臨床的お よび倫理的判断を下す医師の治療看護を受ける権利を有 する.

(医師独立性・倫理性への期待権)

3.患者は,十分な説明を受けたのちに,治療を受け入れる かまたは拒否する権利を有する.

(提示医療計画への受諾と拒否権)

4.患者は,自分の医師が患者に関するあらゆる医学的な詳 細な事柄の機密的な性質を尊重することを期待する権利 を有する.

(守秘義務への期待権)

5.患者は,尊厳をもって死を迎える権利を有する.

(尊厳死選択の権利)

6.患者は,適当な宗教の聖職者の助けを含む精神的および 道徳的慰めを受けるか,またはそれを断る権利を有する.

(宗教的,道徳介入の受諾権と拒否権)

〔19959月,第47回世界医師会(注:1981年宣言を改 定)

(6)

ず医師が患者の言い分を傾聴した後に情報の提供と説 明を加え,両者間で質疑応答がなされ,患者の理解と 納得のうえで,患者自身が医師の提案に対して諾否を 自己決定するというプロセスである.当然ながらこの 過程は,あらゆる検査や治療の開始に際して欠かせな い必要事項となる.

2

患者の自己決定権と医師の裁量(権)

患者の自己決定権は,「エホバの証人輸血事件」で 最高裁判決が示したように,憲法上保障された人格権 の重要な一端をなすものであり,医師が道徳的・倫理 的な心得えとして具備すべきもの以上に強い強制力を 持って,医師にその順守を迫るものである.しかし,

医師が患者の自己決定権を容認し患者の求める情報を 提供するにしても,患者が理解不十分であったり逡巡 を示したりして,患者の自己決定が常に円滑に進むも のではない.

あるいは,患者が意思を明確に表明したとしても,

患者の決定が医療の専門家の立場からみて必ずしも妥 当ではないと判断される状況が出現するものである.

したがって,医師の都合・利益,傲慢や怠惰に根差す 一方的な父権主義はむろん排除されなければならない が,医師が患者に対して共感と寄り添いを示しつつ指 導的な協力あるいは協力的な指導は完全には排除され るべきではなかろう.

つまり,「患者による自己決定」というプロセスに は,患者と医師の共同作業の工程(shared deci

si on maki ng

)が多くの場合に必要になると考える.この ように考えを進めると,患者の自己決定権には一言で 言い切ってしまえない複雑で微妙な側面が存在する.

3

透析非導入と透析継続中止の現況

1

) 透析非導入

これに関しては,

Hi rschらの見解がしばしば引用

されている(表

2

1

2

の中で,2)~5)の項目のような状態では,透 析を開始しても患者に望ましい

QOLの向上が求め得

ず,また,透析の実際の施行に著しい困難が伴うもの であるために,積極的な透析導入を患者側に勧められ ないのは理解でき妥当な見解であろう.これに対して,

項目

1

)と

6

)では見解の別れるところであろう.痴 呆の透析患者導入は問題が多いが,原則的には患者の

事前指示(書)か代理人の判断に委ねられるものと考 える.詳細は拙著23を参照していただきたい.6)に ついては,時にこのような患者に接するが,根気よい 説明や薬剤などによって対処できる場合も少なくはな く,一概に否定的なことにはならないように思われる.

さて,医学的に腎機能低下が顕著で透析導入が適応 とされながら諸般の事情から非導入となる患者の数や 比率に関しては,正確なデータに接していない.欧米 では当該患者が腎疾患専門医を受診する前に家庭医が その判断をすることがあって,家庭医が言わば

・gate keeper・の役を果たしてしまう場合があると聞き及

ぶ.同様な事情は日本でも有り得ることと推測される.

家庭医または初診医と専門医相互の密な連絡が必要で あろうと考える.

北海道のアンケート調査3(道内の

12

施設)によ れば,1994-1998年の

5

年間に

22

例で透析非導入 が決定されている.その理由を複数回答からみると,

①悪性腫瘍末期

14

例(64%),②高度の痴呆

15

(68%),③心筋梗塞などによるきわめて劣悪な循環 動態

11

例(50%),④DIC9例(41%),⑤重度の心 肺機能低下

12

例(55%)であり,非導入は医師と家 族間で話し合われて決定されている.いずれの症例も 著しく全身状態が不良で,透析療法を開始しても病態 の好転と

QOLの向上を望み得ないと判定されたもの

である.

医療側からみて患者が判断力を有し,かつ,透析施 行が可能な症例での非導入例は存在しなかった.医師 が透析療法を適応と考えて患者に勧めて患者が強固に 拒否する事例は必ずしも少なくはないが,このような

日本透析医会雑誌 Vol.17 No.2 2002 128

2 患者または家族に対して慢性透析導入の拒否を助言する 諸共存因子に対する基準

1) 非尿毒症性痴呆(dementia

2 転移性または切除不能な実質性腫瘍,または難治性悪 性血液疾患

3 肝・心・肺疾患の末期状態(患者はベッドまたは椅子 に終始拘束され,日常生活活動に介護を必要とする)

4 運動能力と日常生活活動を著しく損なう不可逆性神経 性疾患

(重度の脳卒中,酸素欠乏性脳障害)

5 生命維持の極めて困難な多臓器不全

6) 透析のたびに薬剤による鎮静か器具による制動をしな ければブラッド・アクセスを機能できない状態

〔Guidelinesto Comorbid FactorsSuggesting Patients /FamiliesBeAdvised toRefusetheOfferofChronic Dialysis1

(7)

症例でもほとんど大半がその後医療側の説明・説得で 透析導入が患者により受諾されるのが実態であると感 じている.

2

)透析継続の中止

ア メ リ カ で は 透 析 中 止 が 先 行 し て 死 亡 (wi

th- drawalfrom di al ysi sbeforedeath

)に至る比率が 近年

20

-25%に達して,死因の第

2

位または第

3

位 を占めていると報告されている4.・death by wi

th- drawalfrom di al ysi s・

(WD:透析中止による死亡)

を既述のように

・wi thdrawalfrom di al ysi sbefore death・

(死亡に先行した透析中止)と

USRDSが死

因分類を変更したのは,透析中止による死亡を「生命 の自然経過」と受け止めたい意向を示すものであろ う3)5.さて,アメリカにおける

WDの比率には,地

域格差が存在するごとくであり,Cohenら6によるア メリカおよびカナダ

8

施設の調査では

WDに伴う死

亡は全死亡の

8

-53% であるという.透析中止率は 施設間格差のほかに人種間の差異も顕著であり,白人 で

81. 5

人/1,

000 pati ent- years

であるのに対して,

黒人では

34. 2

人であった.

スペインの

HD

・CAPD患者の死亡

116例の分析

では,30名(25.

8

%)が透析中止による死亡であり,

・mentali ncapaci ty・がその主因だという

7.イギリ スの

75

歳以上

58

例の解析によれば,透析中止によ る死亡は全死亡の

38

% であり,高齢者では高率であ る8.対象症例数,施設の特性さらに担当透析医の方 針などによって,透析中止率には相当な相違が出てく るものと推測されるが,欧米では透析中止による死亡 が決して稀な事象ではないとは言えよう.

日本における透析継続中止の実態は,その詳細が未 だ十分に把握されていない.日本透析医学会の統計調 査委員会が毎年報告する資料によれば,2000年導入 慢性透析患者の死因分類で「自殺/拒否」の項目をみ ると

0. 9

%(25/2,

641

)とされている9.死因に占め る「自殺/拒否」の比率は過去,ほぼ

1

% 内外で大き な変動は見られていない.統計調査に現れにくい側面 があろうと推測される.調査期間を

1994

-1998年 の

5

ヵ年に限定して私共が行った北海道

12

施設のア ンケート調査3によれば,透析死亡患者のうち透析継 続の中止による死亡率は

1

-2% であった.また,筆 者が所属する日鋼記念病院で

1996

-2000年の

5

年に死亡した

139例の分析では,透析継続中止によ

る死亡は

3

例(死亡時年齢:41歳,63歳,77歳)

で透析中止死亡率は

2. 2

% と算定された.わが国にお いてもより多数例の詳細な調査分析が必要であるが,

透析継続の中止を選択して死に至る事例は,現時点で は欧米に較べて著しく少ないとは言えそうである.

4

日本人のがん告知および延命治療に対する意識 朝日新聞(平成

12

10

23

日版)が行った世論 調査の結果によれば,がん告知を望む一般人は

76

% に達しているが,告知する立場の医師では「知らせる ほうがよい」と答えた比率は

53

% であり,かなりの 乖離が認められる.本人は「知らせてほしい」と高率 でその意向を示しながら,それぞれの家族への告知に 否定的な比率は

46

% に及んでいてここにも相当な差 異が存在している.延命治療に関しても同様で,自分 自身の延命治療を希望する人はわずかに

17

%,つま り

70

%超の人々は自らの延命治療を望まないとしな がらも,家族への延命治療については

40

%超が希望 するとしている.

人それぞれの生死は専らその人自身にかかわり,し たがってどの道を如何に進むかはその人自身の意向に 従うべきものなのであるが,実際には一個人の生死は その人だけの事象として止まらず,周辺の人々を巻き 込み大きな影響を与えるものと言わなければならない.

がん告知や延命治療の可否に対する日本人の意識調査 の結果にそれが如実に現れている.透析非導入や継続 中止の決定にも当事者の意向を最大限に尊重する原則 は曲げられまいが,決定の過程に幾度か居合わせた筆 者自身の感想からは先の場合と同様に,当該者を囲む 近親者の意向が大なり小なり影響するものだと実感し ている.

5

透析患者の心肺蘇生に対する受け止め方

表記に対す大変興味深い日米の調査結果が,時を隔 てずに報告された(表

3

).心肺蘇生(CPR)を要す る状況はきわめて重篤な病態であるが,日本ではその 時点での健康状態次第で

CPRを希望するとする者が 42

% であるのに対して,アメリカでは透析(血液)

中の心肺停止に対して

CPRを希望する率が 87

% に 達している.

日本の透析患者が現時点の健康に不十分感・不満感・

透析非導入と透析継続中止 129

(8)

不安感などを有しているらしいことが想像できる.こ れに対して,アメリカの透析患者が透析中の心肺停止 に対して

87

% という高率で

CPRを望むのは,生命

に対する強い執着心からであろうか.Mossらはきわ めて重篤な患者が

CPRで次々に救命されるテレビド

ラマの影響をその理由の一つにあげて,実際の臨床の 現場での厳しい成績を患者に教育する必要性を述べて いる.CPRに対して高率に期待感を表明するアメリ カ人が,一方では先に見てきたように,わが国に較べ て著しく高率に透析継続の中止を決定する一見相反す る現象は,自己の生命の終焉に対して確固として自己 主張を行うということを意味するのであろう.一方,

日本の透析患者は,①痴呆・末期癌状態で

CPR希望:

12

%,②痴呆状態での透析継続希望:18%,③末期 癌状態での透析継続希望:45%,という意思を示し ており,終末期状態での透析継続を望まない言わば生 命に対して淡泊な態度とでも言うべき比率は相当に高 率であるにもかかわらず,透析継続の中止が実際に決 定・実行される事例は少なくとも統計に現れている範 囲では低率である.概念として末期状態での生存を望 まず否定しているが,実行に移し得ない決断力の欠如・

世俗のしがらみなどの諸条件が隠されているからなの であろうか.心身の苦痛・苦悩がある程度以上排除可 能であれば,末期状態であっても大多数の患者は生命 の永らえることを望むのが人の性さがであろうと推測され るが,わが国の透析患者がそうした好ましい環境にい るからであろうか.あるいは,担当医と生命の行く末

を率直に話し合う機会を双方が回避しているためであ ろうか.数多くの不明な問題が残されているように感 じている.

6

透析療法における共同による意思決定

(RPA/ASN)

RPA

(RenalPhysi

ci ans Associ ati on

) 並 び に

ASN

(Ameri

canSoci etyofNephrol ogy

)が発表し ている表題に対する

Recommendati on Summary

10 の一端を紹介したい.

[勧告

1

]では,共同(医師と患者)の意思決定の 重要性が説かれている.患者が意思決定能力を欠く場 合には,法的な代理人が設定される.患者の同意があ る場合には,共同の意思決定に家族・友人および腎疾 患治療チームのメンバーが加わってよいとされ,患者 自身の主体性が尊重されていることがうかがわれる.

[勧告

2

]ではインフォームド・コンセントまたは 拒否の内容が説明されている.担当医が患者に診断・

予後および治療上の選択肢(実施可能な透析方法,透 析を開始せず保存的療法を継続する場合の終末期ケア,

期間を限定した透析の試行,透析の中止と終末期ケア)

を説明することを義務としている.かなり具体的な勧 告と言うべきであろう.

「医師は,患者または法的代理人が意思決定のもた らす結果を理解していることを確認する必要がある」

とする点は,当然ながら重要な視点であろう.

[勧告

4

]は,医療チームと患者または法的代理人

日本透析医会雑誌 Vol.17 No.2 2002 130

3 透析患者の心肺蘇生に対する受け止め方 MossAM,etal

(Am JKidneyDis38:847-852,2001 対象患者:NY州,WV州 467

回答率:57 透析中のCPRを希望:87

希望せず:13 CPR非希望者 1) 高齢者

2 併存病変あり 3 未亡人

4 Livingwillあり 5 施設入所者 黒人が白人に比してCPR希望者多し テレビドラマの影響大

CPRのPooroutcomesの教育の必要性

TVドラマ 実際の臨床例

CPRによる蘇生率 75 30~40 CPR例の生存退院率 67 15

MiuraY,etal

(Am JKidneyDis37:1216-1222,2001 対象患者:日本の15病院,450

回答率:88

医師とのCPRの話し合い 有り :5 家族とのCPRの話し合い 有り :29 現在の健康状態でCPR希望 :42 痴呆・末期癌状態でCPR希望 :12 痴呆状態での透析継続希望 :18 末期癌状態での透析継続希望 :45 患者のCPRに対する意向は年齢に関係せず,現 在の健康状態に左右される.

(9)

との間に,意見不一致がある場合の解決策に触れてい る.

「系統的な取り組み」を勧め,①予後についての不 十分な意思疎通または誤解,②個人的または対人的見 解の揺れ,③価値観の相違など,を調整するべきとし ているが具体性に欠けており,実際には最も難しい側 面であろう.

「透析が緊急を要する状況下では,意見相違の解決 を探りながら,もし患者または法的代理人が透析を求 めるのであれば,透析を開始しなければならない」と 勧告しているのは,アメリカの医師が一定の状態の患 者に対して透析開始を相当に強い態度で勧めない状況 があるためであろう.

[勧告

5

]では,医療チームが患者から事前指示

(書)を得るべく努力するように説いている.

[勧告

6

]が透析の非導入または透析の中止(wi

th- hol di ng or wi thdrawal

)に関する勧告である(表

4

10.全体的に患者の自己決定権を尊重する妥当な 記述であるが,患者の選択が逡巡,恐怖感や誤解など によって医療者側からみて必ずしも適正ではない場合 に,どの程度,医療者側が患者の決定に干渉すべきな のかに難しさがあろう.

本勧告の「1」では

・shareddeci si on- maki ng・が

謳われており,患者の言い分をそのまま受諾すること が常には正しくはないと考えるが,節度ある干渉でな ければならないであろう.

[勧告

7

]では特殊な患者群に言及し,「非腎疾患 を原因とする終末期状態または医学的な理由から透析 の技術的な施行が不可能な急性・慢性腎疾患患者では,

透析の非導入または透析継続の中止を考慮することが 適切である」と述べている.

[勧告

8

]では,透析を必要とするが予後が不確実 で透析開始について関係者間でコンセンサスに達して いない患者にあっては,期間限定の透析試行(ti

me- l i mi tedtri al

)の検討を勧めている.

最後の[勧告

9

]は,緩和ケア(pal

l i ati vecare

) に関する項目である.非導入または継続中止を選択し た患者自身およびその家族への種々のケアが,引き続 き行われるべきだとする勧告である.終末期または緩 和ケアと言っても,癌腫・脳出血・心筋梗塞など様々 なケースがあって一括することは難しい.透析患者の 場合,透析継続の中止後,大多数の患者が

10

日前後 で死に至る.したがって,透析患者の終末期ケアは非 導入または継続中止の時点から始まるのではなく,そ れに先行する必要性が大きい.

以上,概観してきた

RPA/ASNの勧告は大原則と

してよく論議が尽くされた提案だと言えようが,個々 の事例に遭遇してこの原則をどのように具体的に演繹 していくかは,必ずしも容易ではないと考えられる.

7

透析非導入並びに透析継続の中止が選択された ことに対する事後評価

患者が透析という高度に人為的な手段を回避または 中止して自然経過として死に至った個々の事例は,適 正な尺度で評価されることが望ましい.

亡くなった当の本人から評価を得ることはできず推 測の域を脱し な い が ,

Cohenら

11

・death as goodorbad・に幾つかの項目を掲げて点数化する方

式を提案している.その詳細は原著11か拙著3を参照 して頂きたいが,試みるに値するものである.一人の 患者の死去の様々な意味の影響が家族・近親者に止ま らず,それ等の人々の感情や仕草が移入または投影さ れて医療スタッフにも及ぶことを銘記しておきたい.

8

透析非導入または透析継続中止の手順

医学的な見地からは必要と考えられる治療を開始し ないか,これまで継続してきた治療を中止するかとい うような事態は医療が始まって以来,かなり卑近に存 在してきたであろうと推測される.それがわが国で実 際上どのように行われてきたかは不詳であるが,相当 な部分がいわゆる「以心伝心」か「阿吽の呼吸」とい

透析非導入と透析継続中止 131

4 透析の非導入または透析の中止(RPA/ASN010―抜粋―

下記の状況下にある急性腎不全または末期慢性腎不全の患 者については,透析の非導入または透析の中止が適切である:

1) 意思決定能力のある患者では,十分な説明が行われ かつ自発的な選択として透析への導入または透析の継続 を拒否する場合.

2) 患者自身は意思決定能力を欠如しているが,口頭ま たは書面によって透析の非導入または透析継続の中止を 要求する場合.

3) 患者自身は意思決定能力を欠如しているが,適正に 指定された法的代理人が透析の非導入または透析継続の 中止を要求する場合.

4) 思考力・感覚・目的行動・自己および他者の認識を 欠如するような不可逆的かつ重篤な神経学的障害を有す る患者の場合.

(10)

うべき不明瞭な形での断行(善意ではあっても医師の 独断)であった懸念が大きい.

患者の自己決定権・個の尊厳を尊重する現代では,

すでに馴染まない容認されない事態の運び方であろう.

生死を分かつ状況下での医師-患者・家族との話し合 いはなかなか率直にはいかず,日頃から患者・家族と の対話を厭わずに根気よく続けることが肝要であり,

医師たる者はすべからく一定レベル以上のコミュニケー ション・スキルを身に付けることが求められよう.図

1は腎疾患々者に対して,透析導入が医学的に判断さ

れる第一段階から様々な過程を経てその患者が死亡に 至るまでのフローチャートである.ここに記したすべ ての段階で,医師・患者間で良好な意思疎通があるよ

うに臨床医は心掛けたいものである.

9

終末期透析患者が望むもの

透析の非導入,透析の継続中止いずれもその決定に 関与することは,医療者にとって

pai nful

かつ

trau- mati c

な難行である.

患者がハイテクノロジーによる延命よりも死を選択 するという事態は医療者にとってはショックな出来事 であり,医療人はこれを自らの医療行為への屈辱・侮 辱と受け止め,敗北感を募らせがちである5.患者が これ等の選択を決断する諸要因を可能な限り探り排除 しようとすることが,医療チームに課せられた第一義 的責務であろう(表

5

).しかし,ひとの命と現在の

日本透析医会雑誌 Vol.17 No.2 2002 132

1 透析の導入・非導入および中止

(11)

医療に限りがあることは認めざるを得ず,したがって,

非導入・継続中止という実態を

100

% 回避すること は不可能であろう.そして,その決断は現代医療の敗 北では決してないと考えられる.

さて,透析患者殊にこの人々が終末期に至ってなに を最も求め,なにを最も重要な事柄としているかを医 療者が知ることは,きわめて重要であろう.ここでは,

Stei nhauser

12が末期癌患者・家族・医療関係者を 中心にこの問題を分析しているので紹介し,参考に供 したい.患者が重要だとして掲げた事項を重要度順に 列記すると以下のごとくであった.

① 疼痛からの解放

② 神と共にある安寧(atpeacewi

thGod

③ 家族の存在

④ 鮮明な意識

⑤ 治療の選択権

⑥ 良好な経済状態

⑦ 生命・生活の有意義感(feell

i fewasmean- i ngful

⑧ 心的葛藤の帰着

⑨ 自宅での死亡

一方,患者を看取った家族ではその順序が①②③⑤

④⑦⑥⑧⑨のようであった.これが医師では,①③②

⑦⑤⑧④⑥⑨となっている.重要度上位

3つに大き

な差異はなく三者の認識が一致している.医師が「生 命・生活の有意義感」を第

4

位に掲げているのに対 して,患者自身はこれを第

7

位に掲げているなど,

微妙なしかし恐らくきわめて重要だと思われる食い違 い が 認 め ら れ る . こ こ に は 現 れ て い な い が ,

Stei nhauser

らは,末期癌患者が大いに気に掛ける点 に,家族および社会への負担(burden)があるとし ている.患者が望み重要としている事項の認識には立 場による違いが大きく,かつ,同一グループでも個人 差が無視できないことを知っておきたい.

5

は医療者の立場から憶測した筆者の個人的な 見解に基づく「透析継続中止を決意する」諸要因であ り,個々の患者に接した場合には,熟慮されなければ ならないと痛感している.先にアメリカの報告にみた ように,透析非導入率や透析継続中止率には施設間格 差が大きく,それぞれの施設の特性や治療する患者の 特性(病態,重篤度・生命感・家族関係など)は,当 然関係してくるであろう.その他に,担当医の属性

(受けてきた教育・経験,生命感,価値観など)も大 いにこの問題に関与すると考えられるのであり,医師 に対する生命倫理領域の教育・習練や事例分析などを 今後,強化することを考えなければならないであろう.

おわりに

治療の非開始,一旦開始した治療の中止は,患者自 身が決定する専任事項なのであるが,医療者は医療の 最終の仕上げとして関与せざるを得ない重要な案件と 認識する必要がある.

1Hirsch DJ,West ML,Cohen AD:Experience with notoffering dialysisto patientswith apoorprogno- sis.Am JKidneyDis,23;463,1994.

2) 大平整爾:痴呆患者の透析療法導入の可否と留意点.臨牀 透析,17;1177,2001

3) 大平整爾:透析中止のガイドライン~不可避だが苦渋のジ レンマ~.日透医誌,15;11,2000.

4US RenalDataSystem :Expertsfrom 1998 USRDS AnnualDataReport.Am JKidney Dis,32(Suppl1; s1,1998.

5LeggatJE Jr,PortFK:JournalClub.Authors・Re- ply.Am JKidneyDis,33;603,1999.

6Cohen LM,Germain M, PoppelDM,etal:Dialysis

透析非導入と透析継続中止 133

5 患者が透析継続中止を決意する諸要因 1) 透析療法に対する不安,誤解

2) 身体的な苦痛

頻回に発生するアクセス・トラブル

動脈硬化などに起因する歩行障害,四肢の壊死・持続 的疼痛

③ 心筋梗塞に起因する持続的胸痛

④ 透析関節症に起因する全身的関節痛

⑤ その他種々の疼痛

持続的低血圧に起因する倦怠感・脱力感などの諸症状

⑦ 視力・聴力の低下

⑧ 記銘力・思考力の低下

持続的な体調不良

3 制限の多い生活や苦痛の多い透析に対する不満感・嫌 悪感

4) 透析の長期継続に起因する心身の疲弊感(燃え尽き症 候群)

5) 他者に依存する生活や生きる意義に関わる達成感の欠 如,挫折感,孤独感,煩わしさ,焦燥感

6) 家族などへの負担増に対する葛藤(罪悪感)

7) 心の3つの ・痛み・(mental/psycological,spiritual, religious

8) その他

(12)

discontinuation and palliativecare.Am JKidney Dis, 36;140,2000.

7Rodrigues JA,Garcia GM,Hernando P,et al:Pa- tients with end-stage chronic renalinsufficiency on programmed withdrawalfrom dialysis.Nefrologia,21;

150,2001.

8MunshiSK,VijayakumarN,Taub NA,etal:Out- come ofrenalreplacementtherapy in the very eld- erly.NephrolDialTranspl,16;128,2001.

9) 日本透析医学会統計調査委員会:わが国の慢性透析療法の 現況(20001231日現在).日本透析医学会,2001

10Moss AH:Shared decision-making in dialysis

(RPA/ASN,Recommendation Summary.Am J Kid- neyDis,37;1081,2001.

11Cohen LM,McCue JD,Germain M,etal:Dialysis discontinuation,A ・good・ death.Arch Intern Med, 155;42,1995.

12SteinhauserKE,ChristakisNA,ClippEC,etal:Fac- torsconsidered importantatthe end oflife by pa- tients,family,phsicians,and other care providers.

JAMA,284;2476,2001.

日本透析医会雑誌 Vol.17 No.2 2002 134

(13)

1

医学の科学性と哲学性

医学を科学とみなしても,普遍性を持った絶対的な ものではなく,本質的に確率的な不確定要素を含んで いることが指摘されるべきである.すべての医療行為 は,確率的であり,個々の患者についての診療結果に はなんの保証もない.このことを医療従事者は,明確 に認識すべきであり,患者に十分説明すべきである.

また,多くの疾患は多様性に富み,予測がきわめて困 難で,患者の知りたい病名とその予後をある程度の確 実性をもっていい当てることは,不可能に近いとすら いえる.これは,医学・医療について述べる場合の重 要な前提である.

医学は,哲学と科学の学問性を併せ持つとする発言 は多い.哲学は人間がいかに生きるべきかの原理を究 極にまで遡って探求する学であり,科学は事物と事物 の関係を探求する学である.その意味で,医学は複合 的学問である1.今日の医学における閉塞感を打開す るには,医学そのものの問題点を捉え,医学とはなに かを根本的に反省し哲学することが必要であろうと考 える.

人間は,生老病死の四苦を持った存在であるが,長 らく近代医学はもっぱら,そのうち「病」のみを対象 としてきた.しかし,現代では,誕生・老・死の問題 を避けては医学は成りたたなくなっており,生老病死 を連続的に多元的な視野をもってみる医学が求められ るようになっている.腎不全という純医学的な観点か

らは,透析療法の適応がありながら,合併症や社会的 問題などを抱えていることから,透析の導入や維持透 析の継続が,躊躇される場合が医療の現場で現実に,

そんなに稀でなく存在する.その場で医療方針を決定 するには,生老病死を全体的に考える哲学的思索が必 要になる.

この平和と飽食と技術の時代においては,人間が簡 単に死ねないようになっている.長く生きることは一 種の試練であり,一種の拷問とさえいえるという発 言2すらある.医療技術の進歩・普及した現代では,

病気,あるいは死は医師の過失とされる雰囲気がある.

しかし,考えてみるまでもなく,永遠に生きる人間は いない.したがって,死は問題でなく,失敗でもない といえる.死は,単なる生の否定ではなく,生を成就 させ,むしろ生に威厳を与える自然の贈り物であると する考えもある1.そこでは,死を抜きにした人間の 生き方というものはないのであり,もし生が終わるこ とがなくどこまでも続くものであるなら,生は苦しみ の絶えることのない無げん地獄であるとさえいえよう.

Al bertSchwei tzer

は,「医学とは単なる科学では なく,医師の個性と患者の個性が相互に働きかけなが ら作り上げる芸術である」といったとされる.医師の 感性と患者の感性とが関わり合いを持つことを指して いる.

人間は古来,理性的存在(homosapi

ens

)とされ てきた.近代医学では,こうした人間観を基盤として 医学を科学とみなし,さらに(科学)技術と考えてき

血液透析不導入・中止の応用医学哲学的考察 135

血液透析不導入・中止の応用医学哲学的考察

阿岸鉄三

板橋中央総合病院血液浄化療法センター

[透析医療における CurrentTopi cs2002 ]

Considerationonwithdrawalordiscontinuationofmaintenancehemodialysis BloodPurificationCenter,ItabashiChuoGeneralHospital

TetsuzoAgishi

(14)

た.この人間観には,心身分離が前提となっており,

そこにあるのは身体の技術的支配という思想である.

しかし,人間は心身の統合的合成体であって,感性的 存在(homopati

ens

)といえる.人間は,苦しみ悩 む存在である.自らの脆弱性を他者に助けられ護られ ながら,他者の脆弱性を助け護ってゆく(助け護る人

homocurans

)ことによって,人間は人間として生 きてゆくことができる1.この思想は,医療の原点と はなにかを示唆するものであろう.

ここでキーワードになっている感性について考えて みる.感性とは,環境の変動を感知し,それに対応し,

また自己のあり方を創造していく価値にかかわる能力 であると表現されることがある3.感性は,情報を捉 えるだけの受動的能力ではなく,環境との関係のなか で自己の存在をつくり出していく能動的・創造的能力 であり,しかも環境との相関的関係が適切であるかの 価値判断をも含んでいる.医療においては,医療従事 者はつねに自らの感性を患者の感性と共鳴させること ができるよう真の意味での職業的(天職としての)技 能を洗練させなければならない.

2

透析不導入,維持透析中止の哲学

透析不導入,維持透析中止とは,数日から数週間の 後に,ある程度の確実性をもって患者に死がくること を想定している.そこで問題になってくるのは,医療 とはなにかということであり,近い将来の死を想定し ながら医療方針を決定することの要件であろう.

医療の目的はなにかということについて,人生のあ る時点において医学的にみた患者の健康状態は,その 時点から死の時点に到るまでの身体状況の

QOLの総

和の大きいほどよく,自由度の総和の大きいほどよい とする発言がある4

医療方針の決定に際して,患者の人生観・価値観・

人生計画が考慮されねばならず,よく生きることを妨 げないためである4とするのは当然であろう.そこで

は,医療における自立権5が絶対的条件として確保さ れなければならない(表

1

).注意しなければならな いのは,たとえその決定が当人に不利益をもたらすこ とであっても,自己決定の権限を持つということであ る.

これらにはすべて,QOLの向上・確保がキーワー ドになっている.QOLという用語は最近では,馴染 みのものになっているが,きわめて不明瞭な,あやふ なものであると考えられる.QOLを定義するのは,

身体的・精神的に良好であるとする生物学的観点から であるより,むしろ周囲の状況との相対的関係に影響 される社会的な観点からである要素が大きい.その意 味で,QOLの評価はきわめて主観的である.たとえ ば,腎不全患者の

QOL評価項目をみると,健康感・

自覚症状など主観的項目のみが羅列されている(表

2

6.QOLの評価法として国際的な注目をうけてい る

SF 36

7においても,評価のランキングとして数字 を用いたスコアとして表示し,数学的取り扱いの装い をしても,基本的な評価は患者のまったく個人的な主 観に基づいている.問題にしたいのは,近代科学に基 礎をおくとする現代の医学は,科学性を追求するため に主観性を排除するのが通例である点である.

また,医療行為は公共的に合意された価値評価に基 づくといいながら,QOLを評価する個人の価値観は その一般的価値評価に一致するとは限らないことを認 め,個人の人生観・価値観を尊重する4ことが現代で は容認されている不整合性も問題点とすべきであろう.

多様性を認める現代では,個人により異なる感性を 工学する立場の研究者の集団もある.当然,個別性・

主観性を取り扱わざるを得ない.主観性の科学の構築 は,21世紀の科学の直面する大問題であり,その構 築は従来の科学のパラダイムを根底から変革するとの 指摘もある8

筆者は,こう考えている.近年,わが国においては 未だしの感があるが,諸外国,特に欧米において医療 の統合への動きが激しく起こっている.これまで正統 医療とされてきた近代科学に基礎をおく現代医療と,

代替・補完・伝統医療などと呼ばれ,現体制のなかで は医療類似行為とも呼ばれるべきものとの統合である.

背景として,前者の現代医療では,生命を構成要素に 還元し,細胞を分子構造から化学的組成にまで分解し た結果,生命像の本質からますます遠ざかってしまい,

日本透析医会雑誌 Vol.17 No.2 2002 136

1 医療における自立権 1) 判断能力のある成人なら,

2) 自分の生命,身体について,

3) 他人に害を及ぼさない限り,

4) たとえその決定が当人に不利益になっても,

5) 自己決定の権限を持つ.

(橋本肇:高齢者医療の倫理;中央法規,東京,p.17 2000

(15)

人間を機械論的に見,生命をマスとして取り扱うこと が多かったという反省に由来している.後者では,人 間を包括的生命像の観点から見,主体性,したがって 主観を持つ個としての人間を尊重する立場にある.こ のような視座にあれば,QOLや

QOLを評価要素と

して重視する

EBM(evi dence- based medi ci ne

)は,

実は,現代医療のパラダイムにおいては存立し得ず,

統合医療のパラダイムにおいて理解されるべきものと いえるであろう.ただ,残念ながら,現在ではまだ,

統合医療は理論構築が十分でなく,QOL,EBMを評 価する物差しを持たない状況にある.

3

透析不導入・維持透析中止の臨床

米国においては,維持透析の中止が透析患者の死亡 原因の第二位を占めるといわれる.わが国においては,

患者統計中に項目すら存在しない.この主題は,著し く宗教的・倫理的・哲学的・社会的・家族的な意味を 持つ,微妙な問題であり,日本人が口に出して討論す

るのには不得意な対象である.むしろ習慣的に,言わ ずに理解する阿うんの呼吸の世界,日本人に特有な「な あなあ」の世界であった.しかし,最近では,医療の 解釈についてもグローバリゼーションの思想が入り込 み,情報の公開が求められるようになっている.一方,

医療における生の継続・維持,あるいは近い将来の死 の想定は,基本的にきわめて個人的・主観的な問題で あり,両者の折り合い,あるいは,妥協点を見つけだ すことが,実際には難問である.維持透析を差し控え,

中止する条件が日本でも(表

3

9,米国でも10提出 されているが,後者の方が条件として緩やか,拡大さ れている感じがある.文化の違いを反映していると見 られる.

この問題は,ときに安楽死と深い関わりを持つよう になる.安楽死の先進国とも見なされるオランダでは,

2001

4

月に安楽死法が成立しているが,その意義 は,患者の死の選択に協力しても刑事訴追を受けない ことにとどまり,安楽死支援を行った医師に対する起

血液透析不導入・中止の応用医学哲学的考察 137

2 腎不全患者のQOL

合計

人(%) 施 設 透 析

866(100.0 透 析

59(100.0 CAPD

87(100.0 腎 移 植 186(100.0

健康感

とてもよい よい 普通 悪い とても悪い 不明

61 209 509 73 5 9

7.0

(24.1

(58.8

8.4

0.6

0.1

8 17 27 4 3 0

(13.6

(28.8

(45.8

6.8

5.1

0.0

3 12 54 11 0 7

3.4

(13.8

(62.2

(12.6

0.0

8.0

37 63 66 14 1 5

(19.9

(33.9

(35.5

7.5

0.5

2.7

**

のどの渇き…

のどの痛み…

体の疲れ,だるさ…

体のかゆみ,むずむず感…

頭痛…

胃の痛み…

こむらがえり,足がつる…

胸のむかつき,吐き気…

便秘…

下痢

不安や心配な気持ち…

動悸,息切れ…

めまい…

骨や関節の痛み…

筋肉に力が入らない,脱力感…

手足のしびれ…

腰痛…

睡眠不足…

732 225 746 635 499 350 522 363 459 268 576 550 368 557 429 378 526 556

(84.5

(26.0

(86.1

(73.3

(57.6

(40.4

(60.3

(41.9

(53.0

(30.9

(56.5

(63.5

(42.5

(64.3

(49.5

(43.6

(60.7

(64.2

45 15 49 39 28 24 30 24 28 20 32 35 20 30 29 19 36 42

(76.3

(25.4

(83.1

(66.1

(47.5

(40.7

(50.8

(40.7

(47.5

(33.9

(54.2

(59.3

(33.9

(50.8

(49.2

(32.2

(61.0

(71.2

59 21 71 70 37 24 34 36 46 30 55 55 38 49 41 35 40 55

(67.8

(24.1

(81.6

(80.5

(42.5

(27.6

(39.1

(41.4

(52.9

(34.5

(63.2

(63.2

(43.7

(56.3

(47.1

(40.2

(46.0

(63.2

60 51 128 41 71 57 48 41 76 51 107 87 45 60 44 34 75 81

(32.3

(27.4

(68.8

(22.9

(39.4

(30.6

(25.8

(22.0

(40.9

(27.4

(57.5

(46.8

(24.2

(32.3

(23.7

(18.3

(40.3

(43.5

(朝倉隆司:移植,28(6;714,1993

健康感については,一つのみ選択

** 自覚症状については,該当する患者の複数選択

表 2 -2 病院・診療所別集計結果表 -病院 1 ・ 2計- 年 齢 透 析 歴 再 診 計 13 :指導 栄養指導(130 ) 集団栄養(80 ) 特定疾患(225 ) 標 本 数 合 計 平 均 標準偏差 標準誤差 中央 値(メジアン) 最 頻 値(モード) 2, 719159,27258.5774181712.475781590.2392561775954 2, 52923,103.069.1352550426.9221124440.1376462037.125.08 2, 7192,224,480
表 2 -3 病院・診療所別集計結果表 -病 院 1 - 年 齢 透 析 歴 再 診 計 13 :指導 栄養指導(130 ) 集団栄養(80 ) 特定疾患(225 ) 標 本 数 合 計 平 均 標準偏差 標準誤差 中央 値(メジアン) 最 頻 値(モード) 2, 054120,75358.7605839412.504414160.2758401225954 1, 87416,787.688.9582070446.8829675250.1589977317.115.08 2, 0551,613,172784
表 2 -4 病院・診療所別集計結果表 -病 院 2 - 年 齢 透 析 歴 再 診 計 13 :指導 栄養指導(130 ) 集団栄養(80 ) 特定疾患(225 ) 標 本 数 合 計 平 均 標準偏差 標準誤差 中央 値(メジアン) 最 頻 値(モード) 66538,55057.9699248112.413883990.4813897735852 6556,315.389.6418015277.0135411920.2740417318.043.06 665612,080920.421052656.21
表 2 -5 病院・診療所別集計結果表 -診療所- 年 齢 透 析 歴 再 診 計 13 :指導 栄養指導(130 ) 集団栄養(80 ) 特定疾患(225 ) 標 本 数 合 計 平 均 標準偏差 標準誤差 中央 値(メジアン) 最 頻 値(モード) 2, 339136,36658.3009833312.153884070.2513043345852 2, 24619,835.658.8315449696.7699537010.142850197.0655.03 2, 3392,272,138971.41
+7

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第16回(2月17日 横浜)

地域 東京都 東京都 埼玉県 茨城県 茨城県 宮城県 東京都 大阪府 北海道 新潟県 愛知県 奈良県 その他の地域. 特別区 町田市 さいたま市 牛久市 水戸市 仙台市

参加議員:福田康夫 JPFP 会長(衆・自)、広中和歌子 JPFP 会長代行(参・民)、逢沢一郎 JPFP 幹事長(衆・自)、南野知惠子 JPFP

Public Health Center-based Prospective Study.Yamauchi T, Inagaki M, Yonemoto N, Iwasaki M, Inoue M, Akechi T, Iso H, Tsugane S; JPHC Study Group..Psychooncology. Epub 2014

本部事業として「市民健康のつどい」を平成 25 年 12 月 14

なごみ 11 名(2 ユニット) 、ひだまり 8 名(2 ユニット)短期入所(合計 4 名) あすわ 2 名、ひまわりの家 2 名

1.制度の導入背景について・2ページ 2.報告対象貨物について・・3ページ

演題  介護報酬改定後の経営状況と社会福祉法人制度の改革について  講師