日本透析医会雑誌
Vol.15 No.1 2000[巻 頭 言]
医会活動について 日本透析医会会長 平 澤 由 平… 1
[医 療 制 度]
日本版
DRG/PPS
の現況と今後の見通し―腎臓内科領域について― 日本大学大学院 高 橋 進… 3
[医 療 倫 理]
透析中止のガイドライン―不可避だが苦渋のジレンマ―
日鋼記念病院 外科・腎センター 大 平 整 爾… 11
[感 染 対 策]
透析と劇症肝炎 東京医科歯科大学医学部付属病院 第二内科・血液浄化療法部 秋 葉 隆… 20 兵庫県
B型肝炎院内感染調査報告書
兵庫県B型肝炎院内感染調査委員会…
27[透 析 医 会]
日本透析医会 ―最近の動向― 増子記念病院 山 崎 親 雄… 61
[ConsensusConference・
99
]Ⅰ
Bl oodAccess
血流不全に伴う諸問題 東京女子医科大学 第三外科 春 口 洋 昭… 68Ⅱ
Bl oodAccess
不全の診断と評価―非観血的診断,血管造影―横浜市立大学市民総合医療センター 放射線部 竹 林 茂 生… 71
Ⅲ 狭窄に対するインターベンション治療の適応と評価
天神会古賀病院腎センター 佐 藤 隆… 74
Ⅳ 閉塞シャントに対するインターベンション治療の実際
熊本赤十字病院腎センター 宮 田 昭… 78
Ⅴ
Bl oodAccess
インターベンション用各種デバイスの取り扱い方と実際仙台社会保険病院 放射線科 後 藤
雄… 81
Ⅵ ブラッドアクセストラブルに対するインターベンション治療の適応と限界
―操作・設備,医療経済性,予防的治療効果についても考える―
社会保険中京病院 透析療法科 天 野 泉… 84
Ⅶ インターベンション治療による長期的
Bl oodAccess
管理と展望―医療経済的展望を含む― 北楡会 札幌北楡病院外科 久木田 和丘… 86
[臨 床 と 研 究]
透析療法のクリニカルパス
東京医科歯科大学医学部保健衛生学科 看護管理学 阿 部 俊 子… 89 虚血性心疾患の病態と治療:透析患者の特徴と管理
弘前大学 医学部第二内科 奥 村 謙… 95 大 沢 弘
目 次
[研究助成論文]
腹膜機能低下および腹膜硬化進展機序に関する研究
―腹膜中皮細胞と
AGEs
の関連― 広島大学医学部第二内科 頼 岡 徳 在…102 西 田 陽 司 邵 金 昌広島県透析連絡協議会 辰 川 自 光 原 田 知 土谷 晋一郎 北海道における慢性血液透析患者用ブラッドアクセスに関する
アンケート結果とその分析 日鋼記念病院腎センター 大 平 整 爾…107
札幌北クリニック 今 忠 正
いのけ医院 猪野毛 健男
旭川医科大学第一内科 菊池 健次郎
廣田医院 廣 田 紀 昭
市立札幌病院腎臓内科 上 田 峻 弘
クリニック1・9・8札幌 戸 澤 修 平
滝川クリニック 菅原 剛太郎
札幌北楡病院外科 久木田 和丘
[実 態 調 査]
透析医療機関実態調査について
日本透析医会医療経済委員会 実施基準検討作業班 山 崎 親 雄…122 鈴 木 正 司 秋 澤 忠 男 秋 葉 隆 鈴 木 満 吉 田 豊 彦 第
3
回透析医療費実態調査報告日本透析医会医療経済委員会 透析医療費調査分析作業部会 鈴 木 満…127 吉 田 豊 彦 山 崎 親 雄
[た よ り]
宮城県支部だより 宮城県透析医会会長 関 野 宏…153
福岡県支部だより 福岡県透析医会会長 東 泰 宏…155
常務理事会だより 日本透析医会常務理事 山 崎 親 雄…159
投稿規定
編集後記 飯 田 喜 俊
お知らせ
社団法人日本透析医会通常総会開催について 平成12年度 透析療法従事職員研修のお知らせ
今回の医会雑誌
15
巻1
号から,B5判をA4
判に改めた新装丁となりました.遅れ馳せな がら,学会誌や官公庁書類に準ずる次第です.診療報酬のレセプトも数年前からA4
判に変 わっています.医会雑誌の衣更えに当たって,当会の過去の経緯を思い出しました.透析医療の将来への危機感を持って開催された
1978
年12
月の設立説明会では,1)透析 医療の提供による国民への貢献,2)医師会の透析への偏見打破,3)厚生省との情報交換等 を目的として結集を呼びかけ,任意団体が設立されました(1979年4
月15
日).爾来,満20
年が経過し,本年は21
年目の活動を行うことになります.20
年後の今,設立当初の目的は達成されたでしょうか.透析医療は大幅に進歩し国民への 貢献は達成されていると信じています.透析医療への日本医師会の理解は完璧ではありませ んが,20年前とは雲泥の差があります.厚生省との情報交換は,当時と比較すると,密度の 濃いものとなりました.本年度は災害対策事業をさらに充実したいと考えております.有珠山噴火で活躍されてい る北海道透析医会から学ぶものが多く,阪神大震災の経験をされた会員の知恵を生かし,災 害時でも透析者が不安なく透析医療を提供できる対策を総括すべく,全力を結集する所存で す.
昨年度は,総会直後に報道された院内感染による
B型劇症肝炎の発生とその透析患者の死
亡6
名という現実に,当会は全力を挙げて取り組み,積極的に協力した果実として『透析医 療における標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル』を会員各位にお届けしま した.昨年に会員各位からご協力頂いた,診療行為別にレセプトを分析した結果と透析施設 実態調査の分析結果は,本号に報告されています.平成
12
年度の診療報酬改定結果は満足するものではありませんが,透析者の入院と介護 保険関連施設における透析者の位置づけには充分に配慮されたと理解しております.2年後 の改定には,今回は及ばなかった技術料の適正評価を再度最重点項目とし,関係各位のご理 解を得て会員各位に提示できるよう努力いたします.医 会 活 動 に つ い て
(社)日本透析医会
会長
平 澤 由 平
[巻 頭 言]
最後に,社会保障の概念に触れたいと思います.現在は,従来の福祉が全面に打ち出され た公助の社会保障から,互助および自助の精神も付加された新しい社会保障の概念に変わる 変革期を迎えていると考えます.当医会は,自助の国民的合意形成が涵養されたとき,透析 者がどのように社会から定義されるのか,また,どう定義されねばならぬのかを叡智を絞り 結論を国民に提示する義務があると考えます.透析者は加齢と高齢者の導入により年々年齢 の平均が上がっています.現在でも終末期医療が問題とされていますが,終末期医療におけ る透析医療の位置づけを当会で真剣に議論しなければなりません.終末期医療の平均余命と 高齢者でかつ透析者の平均余命を調査し,その差を明確に呈示することは喫緊の課題であり ます.
今年度の初頭に当たり,いささかの所感を述べさせて頂きました.
はじめに
わが国の医療制度の特徴は,昭和
36
年(1961)の 国民皆保険制度の完成がきっかけとなり,フリーアク セス,出来高支払制,自由開業制が現在まで維持され てきていることである.しかし,急速に少子高齢社会 が到来し国民医療費,とくに老人医療費の伸びが経済 の低迷とともに国民所得を上回って高騰することとな り,このままでは医療経済に破綻を生じる危険性が生 じ,すべてが経済問題とは限らないが,医療保険制度 の見直しが検討されるに至った.診療報酬支払いの見 直しは「技術,もの,ホスピタルフィーの適正な評価」,「急性期・慢性期に応じた評価」,「医療機関の機能分 化の推進と評価」が
3
本柱であるが,根本は医療費の 増大を抑制し,保険財政の健全化を促進することであ る.その施策の一つが包括支払い制度を導入すること で,平成9
年7
月に「急性期入院医療の定額支払い方 式」いわゆる日本版DRG/PPS
の試行検討委員会が 設置され,議論を重ね,試行が国立病院8
施設と社会 保険病院2
施設の合計10
病院において平成11
年11
月1
日から開始されている.しかし,日本において病院に定額払いが導入された のは,1990年,老人病院に選択的に導入されたのが 最初であるが,そのときは定額払いの目的はケアの質 の向上であり,医療費抑制効果はまったく論じられて いなかった.また,今回の「急性期入院医療の定額支 払い方式」は慢性期の老人入院医療とは同一に論じる ことはできないが,当時は老人入院費は定額支払制の 導入によりむしろそれまでの出来高払制よりは診療報 酬額が増加している.このことや,諸外国の状況など
を考慮すると,
DRG/PPS
の導入が医療の質をより向 上させ,国民の健康が今まで以上に保持され,且つ医 療費の抑制効果を期待することに疑問が残るが,現在 の状況では好むと好まざるにかかわらず近い将来DRG/PPS
の導入は避けられないだろう.本稿では今 日までの情勢と将来に対しての問題点について述べる.1 DRG/PPSとは
DRG(di agnosi srel ated group
)は,すでに本誌 の14
巻3
号にその概略を記述している1)が,再度簡 単に記述する.DRGは国際疾病分類ICDで1万以上
ある病名をマンパワー,医薬品,医療材料,入院期間 や入院費用など医療資源の必要度から似通っている入 院患者を,統計上の意味のある診断群にまとめて整理 する病院管理の一手法である.1965
年,アメリカで 公的老人医療保険制度(メディケア)が導入されたの を契機に,1969年にアメリカのエール大学で医療サー ビスを客観的に測定・評価する目的で患者分類の研究 から構築された2).1983年,連邦政府が医療費が高騰 し大きな社会問題となり,メディケア(パートA
) の支払い方法として,DRG
毎に定額支払い方式(prospecti
vepaymentsystem :PPS
)を採用するこ日本版 DRG/PPS の現況と今後の見通し
― 腎臓内科領域について ―
高橋 進
[医 療 制 度]
日本大学大学院 国立横須賀病院名誉院長
表1 出来高制とDRG/PPSの比較
視 点 出来高制 DRG/PPS
支払い単位 危険負担
診療のインセンティブ 医師のコスト意識 病院経営
医療の質についての認識
サービスの出来高 患者・保険者 過剰診療も 小 売上高増加 小
診断・処置で包括 医療機関
(粗診・粗療?)過小診療 大
コスト重視抑制 大
ととなり,このときに
DRGと PPS
との組み合わせ が始まった.その後アメリカ全州に,また欧州諸国,オーストラリアなどで独自の分類あるいは自国に適合 させた形で,支払いや予算配分などに利用されている.
出来高(freeforservi
ce
)制度とDRG/PPS
の主 な相違点を表1に示す.DRGの先進国アメリカでは DRG/PPSの導入により,医療機関は診療面では重
症度の高い,すなわちDRG係数の高い患者のみを入
院させ,可能な限り短期間で退院させる傾向も出現し た.その結果重症度の低い患者は外来診療にシフトし,急性期の後はナーシングホーム,在宅医療へと移行し,
これは医療機関の機能分化へとネットワークの形成の 促進につながっている.経営面ではコスト管理が重要 視され,効果・効率についての標準化のガイドライン も作成され,いわゆる効率の劣る病院は必然的に淘汰 されてきている.
日本における診療報酬制度改革の目玉として,日本 に適合した形での
DRG/PPS
が脚光を浴びることを 期待したい.2
日本におけるDRGの作成
現在日本に広がっている
DRGの概念には誤解があ
ると思う.DRGとPPS
は一体化されたものではなく,前述のごとく別々の概念である. 重ねて述べるが
DRGは ICD
(国際疾病分類)コードを基にした疾病 診断別グループであり,疾病毎の「くくり」を行い,効率性と生産性を向上させようとするマネジメント方
法の一つであることも確認する必要がある.
平成
8
年2
月中央社会保険医療協議会(中医協)に おいて,「国立病院である急性期病院における入院医 療の包括化の試行」が提言された.これを受けて厚生 省は平成8
年4
月から12
月までの,10
病院の入院32, 342
症例を収集し,治験患者,正常分娩,80
歳以 上の高齢者などをデータクリーニングし,24, 308
件 をICD-9
を基に,各診療科毎にMDC
(majordi ag- nosi scategori es
)を13
分野に定め(表2
),各分野 の上位80
パーセントに含まれる疾患を対象としてい る.この基本データはアメリカのそれと比較し極端に 少なく,今後も症例数の蓄積を図ることが重要である.診断群は疾患名,合併症の有無,診療行為の三要素 で定義し,この基本線の下に「診断群分類作成調査研
表2 MDC(主要診断群分類)
MDC 1 神経系疾患 MDC 2 眼科疾患 MDC 3 耳鼻咽喉科疾患 MDC 4 呼吸器系疾患 MDC 5 循環器系疾患
MDC 6 消化器系疾患,肝臓・胆道・膵臓疾患 MDC 7 筋骨格系疾患
MDC 8 皮膚・皮下組織の疾患 MDC 9 乳房の疾患
MDC 10 内分泌・栄養・代謝に関する疾患 MDC 11 腎臓・尿路系疾患および男性生殖器系疾患 MDC 12 女性生殖器系疾患および産褥期疾患・異常妊娠分娩 MDC 13 血液・造血器・免疫臓器の疾患
MDC11 腎臓内科領域
ネフローゼ症候群 慢性腎不全 腎の感染症
血漿交換なし 血漿交換あり 腎移植 手術
なし あり なし あり
人工腎臓・腹膜灌流なし 人工腎臓・腹膜灌流あり 合併症なし 合併症あり
除外 1108 1109 1110 除外 1111 除外
1107
図1 MDCの分類(腎臓内科)
究班」に,それぞれの分野における日本版
DRGを作
成するよう依頼した. この経過によって, 日本版DRG
は183
群となり, 現在試行されている. この183
分類もアメリカの496
分類に比較し少ない.重要 な点は,様々な批判はあるが,そもそも現在のDRG
は完成したものではなく,だからこそ試行であり,試 行錯誤の上改正が繰り返されることになっていること である.今年も分類の見直しがなされており,対象患 者の拡大など理想に近づくよう検討されている.次期 見直しではMCDは 15
となり,小児科,新生児が追 加されることに決定している.腎臓・尿路系疾患および男性泌尿器系疾患は
MDC 11
に分類されている.図1
にMDC11
の腎臓内科領 域の分類を示す.なお,慢性腎炎症候群は腎臓内科の 分野では忘れられては困る疾患であるが,前回の疾病 調査で症例数が少なかったとして183
分類の中に入っ ていなかった.今回の改正では追加されている(図2
).3
これまでの「試行」の概要とその影響平成
10
年11
月1日以降,国立仙台・埼玉・千葉・豊橋・神戸・南和歌山・岡山・九州医療センターおよ び岐阜社会保険・健康保険諫早の各病院に入院する患
者のうち,定められた
183
群に該当する疾患(群)の患者は,すべて日本版
DRG/PPS
として診療報酬 は表3を基に算定している.診療報酬については,
各診断群分類に応じ,手術料その他を除いた検査,薬 剤,入院料などを包括部分としてまとめた定額報酬の 係数値を基準として決められている.これに手術料
1, 000
点以上の処置料などを加えれば医療費が算定で きる.包括範囲は表4
―a4)に,1,000
点以上で出来高 払いとなる処置の種類を表4
―bに示す.透析療法に おいてはダイアライザーやヘモフィルターは包括に該 当する.試行の進捗状況はおおむね
6
カ月毎に中医協に報告 されることになっている.その都度問題点を検討し5
年計画で本格的な包括支払い制度の導入が考慮されて いる.第1回報告の成績,すなわち平成10
年11
月か ら平成11
年4
月までの半年間の状況が中医協に報告 されており,その試行の現状についての概略とその影 響について述べる.① 症例数
平成
10
年11
月から6カ月間の試行10
病院におけ る183
の診断群に該当する患者数は7, 346
人で,入院 患者数は平成10
年11
月1
日以降に一般病院に入院しMDC11
(腎・尿路系疾患及び男性生殖器系疾患)
ネフローゼ症候群 慢性腎炎症候群
慢性腎不全 腎臓の感染症
血液浄化療法
(血液交換,吸着等) 腎移植 腎臓摘出術
なし あり なし あり なし あり
血液浄化療法
なし あり
血液吸着療法
なし あり
図2 MDCの分類(腎臓内科)(第二次案), 内の番号は未定
平成
11
年4
月30
日以前に退院した患者の総数で25, 498
人であり,該当率(定額払い該当患者数/入院 患者数)は28. 8
% である.183
の診断群分類のうち100件 以 上 の 主 な 診 断 群 は , 白 内 障 (DRG
分 類201
~204)で883
件と最も多く,全体の12
% を占め ている.そのほか,脳梗塞,肺炎,狭心症,心不全,糖尿病や大腸の良性新生物などであるが,腎臓内科領 域の診断群分類は表
5に示すがいずれも極端に少な
い.② 平均在院日数
183
の診断群に該当する患者の平均在院日数は,18. 8
日から試行後は17. 4
日と1. 4
日短縮し,診断群の非該当患者は
16. 4
日から15. 8
日とやや短縮してい る.DRG該当群のほうが短縮の度合いが大きかった.「脳出血」や「胃の悪性新生物」など診断群によって は在院日数が逆に増加したものもあるが,「慢性中耳 炎」は
20. 5
日から10. 6
日に,「乳ガン」は38
日から22. 6
日になり,減少が大きかった.そのほか白内障 では7. 3
日,循環器系疾患(経皮的冠動脈形成術のみ あり)で5. 4
日であった.③ 患者の転帰
患者の転帰については,試行調査で該当症例が
100
件以上あった17
の診断群についての報告では,「白内 障(合併症あり,手術あり,片目)」は治癒の患者割表3 診療報酬額・算定方法 対象患者に係わる診療報酬の額は,以下に掲げる額の合算額とする.
1.診断群分類に応じた定額報酬
診断群分類毎に,入院環境料,看護料,入院時医学管理料,検査料,画像診断料,投薬料,注射料および基本部分が 1,000点未満の処置に係わる処置料,ならびに処置,手術および麻酔に伴う薬剤料および特定保険医療材料料(「包括評 価の対象外となった加算」に掲げるこれらの点数の係わる加算を除く.以下「包括対象項目」という)について,入院日 から退院日までを通して包括的に評価したものをいう.
2.技術料などの出来高報酬
上記1.以外の初診料,指導管理などの費用および在宅療養指導管理料,ならびに基本部分が1,000点以上の処置に係 わる処置料,手術料及び麻酔料(薬剤料および特定保険医療材料料を除く)ならびにリハビリテーション料及び放射線治 療料について,現行の医療点数表によって評価したものをいう.(1,000点以上の処置一覧)
3.入院時食事療養費
入院時食事療養費について,現行の算定方法によって評価したものをいう.
手術料等 出来高報酬
定額報酬(包括部分) 検査・画像診断など
薬剤・材料 入院料
・入院環境料
・看護料
・入院時医学管理料
* 診療群分類に応じた定額報酬の算定方法
定額報酬(基礎償還点数×相対係数+調整点数)×10円 注1) 基礎償還点数
全試行病院における包括部分にかかる医療費の総平均 38,803点 注2) 相対係数
各診断群分類の平均的に使用される医療費を,全体の平均(基礎償還点数)と比較した 相対値であり,その診断群に対して支払われる医療費を示すもの
〔例〕虫垂炎・虫垂切除術 0.6436 循環器疾患・冠動脈バイパス術 9.2822 注3) 調整点数
基礎償還点数および相対係数に含まれない,それぞれの試行対象
病院固有の費用(看護料加算部分,地域加算等の合計)をカバーするもの.
合が
3. 6
%から23. 7
%,「肺炎 (合併症なし)」 は4. 9
% から19
%,「前立腺肥大症」は0
% から17. 6
% と増加している.④ 出来高払い報酬との比較
試行病院では
DRG/PPS
と出来高支払計算とを平 行 し て 行 う 二 重 の 手 間 を か け て い る . 日 本 版DRG/PPS
の会計は退院時に完結する仕組みであり,同じ時期の出来高を積算して初めて両者を比較するこ とができる.
また,
DRG/PPS
試行診療報酬額を出来高制の仮の 請求額と診断群番号毎に比較した場合,一部赤字となっ ていることも判明しているが,在院日数が重要な因子であることも影響していることもあり,今後の調査課 題である.
⑤ その他の評価
試行前後の病床利用率,入院外来比率,入院中死亡 率はいずれも若干増加しているが,今回の調査は冬季 をまたいでおりその影響もあると思われ,今後の調査 が待たれる.
その他,患者満足度,看護業務量や看護度などにつ いては現在集計中である.
4
腎臓・泌尿器系疾患および男性性器疾患,とくに 腎臓内科領域の実態調査国立病院等試行
10
病院の6
カ月間における腎臓内 科領域のMDC 11
の件数は前述のごとくきわめて少 なく,この調査結果からのみ結論を論ずることは不適 で,むしろ危険をはらみ,幅広い実態調査の必要があ る.また国立病院は一般民間病院,大学付属病院など と支払いおよび経費の面などで大差があることはアメ リカにおいて実証されている.とくに教育に関しての 維持経費は莫大であり無視できない.筆者は厚生省社会保険委託調査研究として腎臓内科 分野,とくに慢性腎不全の診療時のコスト算定等を科 学的根拠に基づいたといえるように,基礎データを増 やすため実態調査を実施しているが,前回に続いて地 域を考慮し研究を行っている.本実態調査に協力を得 た全国
12
病院(大学付属病院5
施設,公的病院3
施設,民間医療法人4
施設)の診療報酬明細書(レ セプト)を基に,入院から退院までが確認できたもの表4 a 包括範囲の考え方
項 目 限定的な包括 試行の包括範囲 全範囲の包括 入院料
(入院環境料)
(看 護 料)
(入院時医学管 理料)
○
○
○
○
○
○
指導管理料 ○
検 査 ○ ○ ○
画 像診 断 ○ ○ ○
投 薬 ○ ○ ○
注 射 ○ ○ ○
リハビリテーション ○
処 置 ● ○
手術料・麻酔料
(手術料)
(薬剤・材料等) ○ ○
○
○ 放射線治療
(放射線治療料) ○
入院時食事療養費
○印 包括する項目 ● 1,000点以上の処置
(文献4から引用)
表4 b 包括から除外される1,000点以上の処置一覧 1.エタノールの局所注入
2.高気圧酸素療法 3.人工腎臓 4.血漿交換療法 5.局所潅流 6.吸着式血液浄化法
7.腹膜潅流2,その他の腹膜潅流 8.カウンターショック
9.食道圧迫止血チューブ挿入法 10.熱傷温浴療法
11.腎盂内注入(尿管カテーテル方を含む)
表5 腎臓内科領域(MCD11)の診断群分類(試行病院合計)
診断群分類番号 診断群分類 合 併 症 診療行為等 件数 1107 原発性ネフ
ローゼ症候 群
人工腎臓なし,
および血漿交換 療法なし
3
1108 慢性腎不全 腎移植術なし,
人工腎臓なし,
および腹膜潅流 なし
30
1109 慢性腎不全 合併症なし 腎移植術なし,
人工腎臓あり又 は腹膜潅流あり
9
1110 慢性腎不全 合併症あり 腎移植術なし,
人工腎臓あり又 は腹膜潅流あり
8
1111 腎の感染症 36
で且つ在院日数を計算でき,同時に退院後同月のうち に再入院していないことを確認しえたレセプトを対象 とした.集計は試行病院とほぼ同じ基準で機械的に行っ た.12病院の1入院件数は
1, 693
件であったが,上 記のごとくの条件を満たした件数は598
件であった.これらの成績は現在試行中の成績の
10
倍以上である が,未だ数は少ない.今回の脱落している症例の原因 については調査中であるが,退院の記述が不明なもの や退院後同月のうちに再入院しているものなどが含ま れている.また,598件の性別は男性324
件,女性は274
件であり,とくに性別に大差はなかった.在院日数の調査結果は表
6
に示すが,症例数を前 回の独自調査と比較しても概略は大差がなかった.な お,表には示していないが透析の種類による検討では,血液透析に比較し腹膜潅流,すなわち
CAPDの際の
在院日数が前回同様に少なかった.これは腹膜炎等の 合併による入院が比較的多いことにも由来していると 思う.診療報酬点数については施設間の看護料などの違い による補正がまだなされておらず,現在集計中で次の 機会に報告したい.試行調査においては事前に提出さ れた患者サマリーなどによって調整されたレセプトか ら算定されているが,今回の独自研究では事前にアウ トライヤーを除外していない生データを使用している.
とくに算術平均と幾何平均値とに大きな差があること が判明し,すなわち,慢性腎不全(保存期および透析 療法)全体の在院日数は,算術平均では
25. 72
日,幾 何平均では14. 58
日となっている.このことは幾何平 均の意味を考えると,標準偏差が大きく症例によって その医療内容に大きな違いがあり,退院できない症例 が少なくないことを示していると判断できる.生涯に わたり継続する慢性透析療法はほかの疾患と違った配 慮も必要で,とくに慢性腎不全に対するDRG/PPS
の導入には併発症,合併症などを含めてアウトライヤー の分析が重要である.
5
今後の見通し第1回の中医協に提出された資料によれば,入院期 間の短縮が認められ,各病院でもクリティカルパス
(クリニカルパス)の作成・利用が推進され,確実に 診療に関する変化が認められている.今後この傾向が さらに加速するものと思われる.しかし,今回の試行 病院はあくまでも国の施設で,民間の施設が参加して いないことを念頭に置かねばならない.今回の試行を 通じての問題点は多種多彩であるが,一般的なものを 表
7
に示す.また,国立病院等の医師の交代や治療 方針の変更により,患者資料作成当時と比較し,症例 分布に差が生じているDRGもあるようだ.これらは
基礎償還点数・相対係数に変化を来す要因であり,定 期的に点数・係数の見直し,手直しが必要である.今回の試行の基礎は,入院治療を要する疾患名(主 病名)を正確に把握し,統一コードにより分類するこ とから始まり,それに医療費を積み上げることである.
それにより病院間あるいは国際的な比較にも耐えうる データが蓄積されれば,試行の成果が得られたことに なる.DRGを応用すれば,たとえば必要とされる医 療資源の相対値について病院全体の平均値を算出比較 すれば,入院している患者の傾向(難易度)として医 療機関単位のパフォーマンスが評価できる (case
mi x compl exi ty
)5).しかし現状の出来高払いのレセ プトには,一入院期間を通じ症状に応じて診断や治療 を実施するため,多数の病名が記載され,どれが主病 名か判然としないレセプトも少なからず見受けられる.病名や手術を統一コードで整理している病院はまだ少 なく,その上わが国では療養型病床群等の一部で用い られている「限定的なマルメ?」の延長としての日本 版
DRG/PPS
を模索しているようである.全範囲の 包括化はまだ時間的に猶予が必要であろう.試行は5
年の予定で進められているが,少なくとも現時点では,分析に堪えうるデーターには届いていないと思う.
DRG/PPSの制度を継続し,あるいは拡大するに
しても,現在はICD-9
で作業を行っているが,まずICD-10
による主病名のコード化が最低限必要である.(次回から
ICD-10
が導入されることが決定している.)そのためにはすべて医師の判断に委ねられている現在
表6 自験例の慢性腎不全の在院期間
診断群分類番号 診断群分類 症例数 治療法 在院日数 1108 慢性腎不全 267 保存期 18.50
(24.98) 1109 慢性腎不全 35 透析:
合併症なし
25.17(25.27
~33.38) 1110 慢性腎不全 221 透析:
合併症あり
26.14(25.27
~33.38)
( )は試行病院での償還時平均入院期間
では限界があり,相談に応える診療情報管理士などの いわゆるコーダーなどを各病院に配置すべきである.
その他原価計算の方法が確立していない問題など,今 回の試行を通じて医療を巡る
i nfra-structure
の強化 が必要であることを痛感する.DRG/PPSの導入に際しては医療に質をどのよう
に担保し,どのように監視するかが大切であり,併せ て検討される必要がある.介護保険制度の導入により,透析患者は医療で行わ れるべきか,どこまでが介護の分野なのかについての 議論が巷でなされていると聞くが,筆者は入院の透析 療法はすべて急性期医療の範疇に入るものであると考 えている.
慢性疾患には日本とアメリカでは比較的共通点があ るが,急性疾患に関して医療保障・供給制度の日米の 違いを無視できない.アメリカの
DRG方式では技術
料は別で,ホスピタル・フィーと分離されているが,わが国ではこれが一体となっている.この問題をどの ように解決していくかも残されている課題である.
筆者は
DRG/PPS
制度そのものには反対ではない が,アメリカの保険制度はいわゆる二階建,すなわち,メディケイド,メディケア以外の保険を併用できるシ ステムであり,州や地域によって,またプライベート の保険の種類によって診療報酬が違っている(表
8
).この値は筆者が訪問して直接調査したものである.ま た,アメリカでは「医療費を取れる人から」という,
「コストシフティング」が成り立っており,日本は国 民皆保険制度のもと,混合診療が認められていない統 制された診療報酬制度であることを考慮すると,この 違いは
DRG/PPS
制度の導入に際し無視できない問 題点であり,この点をどのように解決するかが本方式 の導入に際しての鍵ではなかろうか? また,アメリ カにおけるDRG/PPS
はすべての患者を対象にして いるわけではなく,退院患者の30
% に適応されているにすぎないことも忘れてはならない.すべてアメリ カを見習うのは無理がある.
6
結 語医療保険制度に出来高方式が採用されたのは,医学 という科学が存在し,その科学に基づく診療行為に対 して保険制度内での公平性が確保できたためと思うが,
確かに過去と違い医学・医療技術の進歩,社会情勢の 変化に伴いその経費も膨大になってきている.このよ うな状況が進むなかで,従来の医学という科学のみに 依拠できない範囲が拡大される傾向にある.この点な どから考えても,すべて出来高払いを支持しえなくなっ てきていることも否定できない.今,診療現場で問わ れなければならないのは,薬剤の処方をはじめ多くの 診療行為が科学的に適正であることの追求が疎かにさ れていないかどうかである.この問題に答えるために はもちろん様々なケースがあるが,この疾患にはこの 治療をして,入院期間はこれだけという治療に関する
「標準化」が必要となる.単純ではないがその基準と 比較し,病院間の格付けも行われるようになる可能性 もあり,また
DRG/PPS
がその一つの道具となりう る可能性がある.少なくとも「クリティカル・パス」の導入が不可欠となろう.
政府の行政改革推進本部の規制改革委員会(宮内義 彦委員長)は平成
11
年12
月14
日に「DRG/PPS」 の導入については「具体的な導入方法の検討を急ぐべ き」とする一方で,「粗診・粗療を招くなどの欠点も 指摘されている」と述べ,「問題点について併せて検 討を進める」との対応を求めている.これらのことを 考えると,好むと好まざるにかかわらず,近い将来包 括支払制度の解禁があると思う.医療の質の向上とコ スト削減に努め,激化が予想される競争に対し打ち勝表7 DRG/PPS試行で浮かび上がった問題点 1.高額な特定医療材料使用の費用
2.高度先進医療の費用 3.手術後合併症の費用 4.医師・医事職員の負担
5.高額療養費の自己負担額を巡る患者からのクレーム 6.診療報酬明細書への症状詳記の問題
7.患者の入院月と退院月しか病院収入がない.3カ月または それ以上にまたがる入院の場合には病院財政を圧迫する.
表8 アメリカにおける透析療法1回の診療費の例
(ドクターフィーを除く)
メディケア・
メディケイド HMOなど その他の保険 フロリダ州 (A施設) $122 $250 メリーランド州 (B施設) $130 最高 $650まで テキサス州 (C施設) $112 $250 ミネソタ州 (D施設) $140 $350
加重平均値160ドル前後になる
メディケアまたはメディケイドのみの症例は10%未満 メディケアに他の保険が上乗せされているのは70%
つためには,戦略を立て,且つ,心の準備の必要があ る.
韓国においても
DRGの調査導入が医療機関の自主
参加で1997
年から開始されており,現在は649
施設 となっている.試行対象疾患は眼内レンズ挿入術,扁 桃摘出術,虫垂切除術,帝王切開術などで,日本より 限定されている.DRGの支払いは同じ DRGの患者
にかかった平均費用に管理費として10
% を加算,患 者の自己負担はDRG支払い額の一律 20
%となって いる.在院日数が超過した場合は別途日数計算で支払 うことになっている.とくに韓国では診療報酬支払い 請求方式がきわめて煩雑のため,手続きの簡素化のた めにも期待されている6).あくまでも日本ではアメリカのコピーではなく,真 似や追随するのでなく,日本の医療制度を日本の国情 に適合して再構築すること,すなわち「scrap and
bui l d
」で先に進むことであろう.慢性腎不全の実態調査の独自研究の一部は「厚生省 社会保険基礎調査委託」の研究費を用いた.また,こ れらの統計処理は「国際疾病管理研究所」によって行 われた.
文 献
1) 高橋 進:日本版DRG/PPSを巡る諸問題.日本透析医 会雑誌,14;18,1999.
2) Diagnosis Related Groups Version 16.0 Definitions Manual,Chapter1,3M Health Information Systems, 1998.
3) Kahn KL,Rubenstein LV,DraperD,etal:TheEf- fects of the DRG-based prospective payment system on quality ofcare for hospitalized medicare patients An introduction totheseries.JAMA,264;1953,1990.
4) 迫井正深:診断群別定額払い(DRGs/PPS)の試みと腎 透析療法.腎と透析,46;619,1999.
5) 川渕孝一,他:米国における疾病分類の妥当性に関する研 究.医療経済研究機構,東京,1998.
6) Shin Y:Korea's experience in introducing a DRG basedpaymentsystem.病院管理,36(Suppl.),31,1999.
1
はじめに本邦における慢性透析療法の最近の特徴は,①全国 的な普及,②導入患者の高齢化,③長期透析患者の増 加,④基礎疾患としての糖尿病腎不全例の増加,など と要約できる.末期慢性腎不全患者が,何時でも何処 でも透析療法を受けうるという好ましい状況にある.
しかしその反面,高齢で重大な既存合併症を有する患 者について透析導入の可否や透析継続の可否などが患 者側・医療側双方に大きな問題を投げかけてきている.
慢性透析の中止は腎移植が行われない限り「死に至る」
選択であり,きわめて重大な意思決定と言わざるをえ ない.本論では「透析中止」を一考し,諸兄の参考に 供したい所存である.
2
本問題との個人的な関わり今忠正博士が開設した岩見沢市立総合病院の透析セ ンターに私が参画したのは
1962
年のことで,本邦の 透析医療はいわばその黎明期にあったと想起できる.高度に腎機能を喪失した患者が延命できる現場に立 ち会えて大きな医療の進歩に感銘を受ける一方,透析 療法に種々の限界を深く感じる時代でもあった.その 後,この領域の進歩・発展は目覚ましいものがあり,
それを一つ一つ実感しつつそれ以降の
40
年弱を過ご してきたのであった(表1
)1).しかし,「透析」が生 体腎の巧妙な全機能を完全に代行することは不可能で あり,かつ,これに併存病態に対する治療上の困難性 や受療者・社会の要求水準の高まりなどが加味されて,本療法には依然として不完全性が払拭できずにいる.
しかも,延命という錦の御旗のもとに適応が漸次拡
大されてきたこともあって,高齢者・既存の重篤な病 変を有する者・種々の合併症を有する長期透析者など では,「透析療法」が受療者の期待するまでに
QOL
を向上しえない状況も発生してきた.こうした状況下 に,改めて透析継続の可否が論議されることになった と言えよう.1986
年,Neuと Kj el l strandの論文
2)「Stopping l ong-term di al ysi s:A n empi ri calstudy ofwi th-
透析中止のガイドライン
―不可避だが苦渋のジレンマ―
大平整爾
日鋼記念病院 外科・腎センター
表1 慢性透析療法の進歩1)
~1970年から本療法に関わった一透析医の視点から~
(大平整爾:99/3/4) 1) Bloodaccess ① 外シャントから内シャントへの転換
② 人工血管の登場
③ 血管内留置カテーテルの進歩
④ 合併症時修復術の進歩
(InterventionalRadiology) 2) 患者監視装置 コンピューター化(利便性と安全性)
3) 水処理/透析液 ① 原水処理の意義確立と質的向上
② 液組成の再検討
③ 作製の安定化
4) 腎性貧血 rHuEPOの登場⇒ 劇的な改善効果 5) 抗凝固剤 低分子ヘパリン・FOY・Futhanの登場 6) Ca/P代謝異常 ① 活性型VDの登場
② 副甲状腺機能の解明 7) 血液浄化膜 高性能/高生体適合性膜の開発 8) 透析アミロイド症
① β2MGの病因論的意義
② 治療法・予防法の模索と発展 9) 血液浄化の方法論
各種変法の工夫
HF,HDF(P/P,on line),DHP, PEなど
10) CAPDの登場 在宅医療の推進
11) 血液浄化療法に対する社会的理解と認知,患者の社会 復帰
12) 外科的治療法の適応拡大
13) 専門スタッフの育成(D,N,Tなど)
drawalofl i fe-supporti ngtreatment
」は,私にとっ てきわめて衝撃的な内容に満ちていた.Neu
らはミ ネソタ州の慢性透析1, 766
例(1966―1984年)の死 亡705
例を分析し,透析中止による死亡は155
例で,中 止 率 約
9
% (155/1,766
), 全 死 亡 の 実 に 約22
%(155/705)に相当したと報告していたのである.彼 等はその論文の結語に次のように述べている.
治療の中止は慢性透析を受ける患者,殊に高齢 で変性疾患を合併する患者における一般的な死の 形式であると私共は結論する.透析療法下にある 患者の高齢化の故に,治療(透析)の撤退(中止)
は将来において今より一層一般化するであろう.
今から
13
年前のことであった.すでに同種の問題 に関心を持っていた私が,「慢性透析の中止~透析人 口高齢化に伴う一考察」と題して自験例をまとめ発表 したのは,1993年の透析医学会においてであった.発表は幕張メッセにおいての学会(第
38
回日本透析 医学会学術集会:会長 太田和夫教授)のポスターセ ッションであり,それだけに一層聴衆の大きな関心事 であることが肌で感じ取れた.その後,北海道の透析 施設に協力を要請し「透析中止」の実態をアンケート 調査した.この結果3)はすでに発表済みであるが,次 項にその要約を掲げる.3
北海道における透析中止例の分析3)道内
127
施設に対してアンケートを行い,最終集計 は1996
年12
月であり,75施設(回答率59
%)から 総計105
例の透析中止例が報告された.1996
年12
月31
日現在,北海道の慢性透析患者は7, 654
人であったが,透析中止例がそれ程多数に存在 するとは予想できず,調査期間を特に限定しなかった.① 事前指示書(advancedi
recti ves
)これを残していた患者は,僅かに
2
例(1.9
%)に 過ぎなかった.② 男女比
105
例中, 男性は63
名(60%)で, 女性は42
名(40%)であった.男女比に大差はないと考えられた.
③ 透析中止時の当該患者の意識状態
なし
36
例(34%),あり69
例(66%).「意識あり」とされた症例は
69
例であった.「適正な判断力がある」と判定された症例は,
19例で全体からみて 18
%(19/105)に止まった.
④ 透析中止の決定者
患者・家族並びに医療スタッフがこれに関与するこ とになるが,あえて主導者を分類すると患者自身によ る中止の選択は
28
% であった.前項の19
名に,事前 に明確な意思表示を口頭で医療スタッフおよび家族に 伝えていた10
名を加えて29
名(28%)となる.残る72
%は,患者家族と医療側との双方によって代理判断 がなされていた.代理判断において,家族または医療 側のいずれが主体性をとったかは判定が難しいが,家 族に主導権があったものと推測された.⑤ 透析中止例の年齢
平均年齢は,男性で
64. 7
±14.0
歳(平均±SD:21―82
歳)であり,女性では65. 2
±11.2
歳(39―81歳)であった.
60
歳 以 上の占め る 比 率 は 男 性 で73
% , 女 性 で76
% であり,透析中止例は高齢者に多いことがわか る.⑥ 中止が検討された時点での透析困難性
透析の困難性は,主として非透析時および透析時に おける低血圧状態から判定したものである.
ⅰ) きわめて困難
39
%ⅱ) 困難
28
%ⅲ) やや困難
11
%ⅳ) 通常に施行可能
22
%と報告された.通常に血液透析が施行可能例が
22
% に存在したが,いずれの症例も複数の苦痛で重篤な不 治の合併症を伴っており,早晩,透析が困難になると 推測される症例であった.⑦ 中止を検討した時点での主な病態
105
例の中止検討時の主な病態を表2
に掲げた.実表2 透析中止を検討した時点での主な病態3) 脳血管障害 脳出血 16例( 15.2%)
脳梗塞 11例( 10.5%)
老人性痴呆 12例( 11.4%)
悪液質,老衰 15例( 14.3%)
心不全,低血圧 10例( 9.5%)
重症感染症,敗血症,DIC 13例( 12.4%)
悪性腫瘍末期(胃・肺・大腸・腎・乳腺) 16例( 15.2%)
下肢の疼痛,感染,壊死,歩行困難 5例( 4.8%)
その他 7例( 6.7%)
合 計 105例(100.0%)
際には,個々の症例が複数の病態を示すことが多かっ た.人工呼吸器が装着された患者が
35
%,自力の摂 食が不能なためIVH
下に管理されている患者が62
% に達していた.重症感染症としては,呼吸器系のものが
77
% と圧 倒的に多数を占めた.⑧ 中止を検討した時点での透析期間
1
年未満31
例(29.5
%),1
―5年未満42
例(40.0
%),
5
―10年未満20
例(19.0
%),10
年以上12
例(11.
4
%)であった(図1
).透析期間の比較的短い5
年未満例が約70
%を占めていたが,透析導入時期に すでに相当以上に重症な合併症をもっての高齢導入に 起因するものと推測される.⑨ 透析中止後の臨床経過
中止決定後, 死に至るまでの期間は
5. 4
±3. 3
日(平均±SD)であり,1週間以内であった.
⑩
・Deathasgoodorbad・
(Cohen)4)の判定 これは,ⅰ) 透析中止決断後死に至るまでの期間について,
[7日以下=5点,8―13日=4点,14―20日=3 点,21―27日=2点,28日以上=1点]と定め る.
ⅱ) 主観的な苦痛の存在を
5
点 (なし) ~1点(持続して軽減しない苦痛)と評価する.
ⅲ) 心理社会的領域における主観的評価を,[中止 決断時の環境・意識レベル・意思の疎通性・死に臨 んで一人きりか/家族・友人と共にいるか]など の観点から
5
~1点を判定する.ものである.総計
10
点以上(最高点=15点)を・goo ddeath・とする.北海道集計 105
例中この判定に必 要な資料が備わった症例は64
例であったが,44
例(44/64=69%)が
good death
であった.残る20
例 は鎮痛剤等の使用に困難があり,苦痛の軽減が十分で はなかったと報告された症例である.⑪ 遺族および透析スタッフに対する透析中止決断 の影響
12
症例(11%)の家族では中止の決断がその後一 旦は揺らいだが,再度の話し合いで中止決断の意思が 覆されることはなかった.担当医が死亡退院後,家族 との接触において直接クレームや不満が表明されるこ とはなかった.しかし,代理判断を行った家族のなか には,未だに決断の妥当性について逡巡し苦悩してい るものが皆無ではなかった.また,透析中止に関わっ た看護婦,特に若い看護婦のなかには同様な心理的動 揺を引きずるものが認められた.⑫ 透析中止による死亡の比率
このアンケートの調査方式では,死亡患者総数中透 析中止死亡例がどの程度の比率を占めるかを算定でき なかった.
4
再度施行した北海道における透析非導入と 透析中止例の分析道内の透析施設約
150
の中から地域性を勘案し,さらにそれぞれの地域で中心的役割を果たしている
20
施設を選出した.これ等20
施設に対して,透析の 非導入と継続中止とをアンケートで調査した.調査期間は
1994
~1998年の5
年間であり,12施 設(60%)から回答を得た.以下はその分析結果で ある.1
) 透析非導入例12
施設から22
例が報告[複数回答]されたが,① 悪性腫瘍末期
14
例(64%)② 高度の痴呆
15
例(68%)③ 心筋梗塞などによるきわめて劣悪な循環動態
11
例(50%)④
DIC9
例(41%)⑤ 重度の心肺機能低下
12
例(55%)などの症例であった.非導入決定は医療側と家族との 間で話し合われ,問題は生じていない.
透析が治療の一手段として考慮された段階で非導入 全例が著しく重篤な病態にあり,透析療法が病態の好 転や患者の
QOL向上に有効に働くとは考え難いと判
図1 中止検討時点での透析期間
断されたものである.
2
) 透析の中止一旦透析が開始されその継続が中止された症例は,
調査の
5
年間で8
例であった(表3
).各調査年の死 亡率は9
~14% であり,透析の継続が中止されて死亡 した比率は全死亡例の0. 9
~1.9
% と算定された.アメリカの報告2,5,6)では中止死亡例数は全死亡例 数の
6
~22% を占めており,これに比較すれば今回 の北海道集計のそれは明らかに低率といえよう.報告 された透析中止死亡例の概要は表4
に掲げた.いず れの症例も何らかの複数の重度障害を有する患者であ り,「判断力がある」と判定された症例は8
例中1
例 に止まった.この症例は胃癌末期と診断されているが,常々患者が「耐えられない苦痛が生じたら透析を止め てほしい」と表明していたという.残る
7
例には透析 中止を検討する時点で「判断力はない」状態であっ た.またこれ等
7
例に明確な事前指示書は残されてはい ない.表4
の症例①は「透析を止めてほしい」という 口頭の訴えが医師・家族になされているが,判断力が あるとは考えられない.したがって,この7
例では医 師または家族が代理判断をなしたものである.7例中3
例では,明らかに担当医が主導で「透析中止」が家 族側に提案され,話し合いの末に決断がされている.既述の
Cohen
らの・gooddeath・の観点からは,全 8
例中7
例がgooddeath
と判定された.1例は心理 社会的評価のうえで,家族・友人のいない「寂しい死」であった.
症例④では中止は医師から提案されたが,患者の枕 頭で家族や友人が聖書を読むなどし,時間をかけて患 者との別れをしたとのことである.家族側の中止申し 出の主な理由は,
① 持続的な苦痛を早く終えてやりたい
② 患者のイメージが崩れることを恐れる尊厳死の 求め
であった.中止の現場に立ち会った医師のコメントの 中には,
① 中止後の経過観察を一人の医師で見守る心理的 な重圧感
② 中止決断後,病状の僅かな好転に患者家族側が 動揺することに対する対応の難しさ
③ 家族側全員の意見一致が得られる困難性
④ 中止決断後の具体的な処置・治療選択上の苦労
表4 透析中止による死亡例(北海道,94~98年:12施設の集計)
症例 年齢 性 透析期間 主な病態 透析困難性 意識状態 中止の申し出者 中止後死亡までの日数
① 93歳 女 9年1カ月 低血圧,痴呆 BA不調
きわめて困難 ±,判断力なし 患者
家族・医師 21日
② 87歳 男 1年8カ月 胃癌末期 持続的疼痛
困難 + 本人・家族
10日
③ 71歳 男 3年 痴呆・嫉妬妄想 施行可能 +,判断力なし 家族・医師 3日
④ 74歳 女 11カ月 IVH,呼吸管理 昏睡,心機能低下
きわめて困難 - 医師
9日
⑤ 58歳 女 4年 CVA,高度痴呆 IVH,経鼻酸素
困難 - 医師
8日
⑥ 83歳 女 4年 高度痴呆,自力摂食不能 循環動態不安定,BA不調
困難 +,判断力なし 医師
14日
⑦ 74歳 男 15年 ASO(高度下肢痛)
脳梗塞,虚血性腸炎,悪液質
やや困難 +,判断力なし 家族
1日
⑧ 85歳 男 3年1カ月 痴呆,BA不調 困難 +,判断力なし 家族・医師 5日
[上記8例すべて血液透析]
表3 透析の継続中止による死亡例(回答施設数=12施設)
年 度 回答施設年
度末患者数 死亡患者数
(A) 死亡率 継続中止
死亡例(B) B/A 1994年 901人 87人 9.7% 1人 1.2% 1995年 952 86 9.0 1 1.2 1996年 998 110 11.0 1 0.9 1997年 1045 104 10.0 2 1.9 1998年 1129 160 14.2 3 1.9