1.はじめに
1956 年、初めて南半球でオリンピックが開催された都市でも知られるオーストラリアのメ ルボルン(Melbourne, Australia)にて、オーストラリア・ニュージーランド・スポーツマネジメ ント学会第 20 回大会(20th Anniversary Sport Management Association of Australia and New Zealand Conference: 以下SMAANZと略す)が開催された。
SMAANZは、表 1 にあるように 1995 年にオーストラリア・メルボルンでの開催をきっかけに、
1999 年の延期を除き毎年開催され、2014 年に同じくオーストラリア・メルボルンで 20 回記念 大会が行われた。また、SMAANZはオーストラリアで 2 回、ニュージーランドで 1 回というロー テーションで学会大会が開かれており(柴田・柳,2011)、本記念大会でホストを務めたディーキ ン大学(Deakin University)は、1995 年に開催された第 1 回大会、2004 年に開催された第 10 回 記念大会と節目の学会大会でもホストを務めており、本記念大会のホストとして相応しい大学であ る。
会場となったメルボルン・オリンピック・パーク(Melbourne and Olympic Parks)は街の中心で あるフリンダースストリート駅(Flinders Street Station)からトラム(Tram)と呼ばれる路面電車 で約 5 分、徒歩で約 15 分。ここは 1956 年にメルボルンオリンピックが開催された場所で、その
オーストラリア・ニュージーランド・
スポーツマネジメント学会第 20 回大会
20th Anniversary Sport Management Association of Australia and New Zealand Conference
棟田雅也
(大阪体育大学生涯スポーツ実践研究センター)住田 健
(オタゴ大学大学院)表1 過去の大会スケジュール
Session Year Host Session Year Host
1st 1995 Melbourne, Deakin University 11th 2005 Canberra, Canberra University
2nd 1996 Lismore, Southern Cross University 12th 2006 Melbourne, In conjunction with Interational Sport Conference 3rd 1997 Auckland, Massey University 13th 2007 Auckland, Auckland University of Technology
4th 1998 Gold Coast, Griffith University 14th 2008 Fremantle, Curtain University 5th 2000 (JAN)Sydney, University of Technology Sydney 15th 2009 Gold Coast, Bond University 6th 2000 (NOV)Hamilton, Waikato University 16th 2010 Wellington, Ictoria University 7th 2001 Melbourne, Deakin University 17th 2011 Melbourne, La Trobe University 8th 2002 Rockhampton, Central Queensland University 18th 2012 Sydney, University of Technology Sydey 9th 2003 Dunedin, Otago University 19th 2013 Dunedin, Otago Universiy
10th 2004 Melbourne, Deakin University 20th 2014 Melbourne, Deakin University
名前が残っている。第 5 シードに入った錦織圭選手も出場する全豪オープンテニス 2015(2015 年 1 月 19 日~ 2 月 1 日)の会場ともなっている。筆者は、プログラムにあるガイドツアー(Facility and Venue Guided Tour)に参加し(写真 1)、歴代優勝者の写真が並ぶ通路や、ロッカー、インタビ ュールーム、15,000 人収容のセンターコートに設置されたスーパーボックス席など関係者やスポ ンサー企業しか入ることのできないエリアに触れることができた。
本大会テーマは、“20: 20 Vision for sport(過去 20 年のスポーツ背景から、未来 20 年のスポーツ ビジョンへ)” として、2014 年 11 月 26 日から 28 日の 3 日間、表 2 に示されている日程で開催
写真 1 ガイドツアーの様子
表2 大会概要
日程 11 月 26 日(水) 11 月 27 日(木) 11 月 28 日(金)
タイムスケジュール
8:30~ Conference Welcome and Academic Keynote
8:30~ Academic Keynote 9:30~ Oral Presentation 1 09:30~Oral Presentation 4 10:00~Registration Opens
11:00~Morning Tea 11:00~Morning Tea 11:30~Oral Presentation 2 11:30~Oral Presentation 5 12:00~Industry Keynote1
“Facility Development and Destination Melbourne “
13:00~Lunch 13:00~Lunch 13:00~Lunch
13:30~Industry Keynote2
“Evolution of the Grand Slam of the Asia Pacific “
13:30~Workshops 13:30~Award Presentations
14:30~Concurrent Sessions 14:30~Past Presidents Workshop 14:30~Oral Presentation 6 15:00~Afternoon Tea 15:30~Afternoon Tea 15:30~Oral Presentation 7 16:00~Concurrent Sessions 16:00~Oral Presentation 3
17:00~Facility and Venue Guided Tour
17:00~General Meeting
18:00~Pre-Dinner Drinks 18:00 18:00~Cocktail Party and Close
18:30~Dinner
20:30 20:30
された。SMAANZは第 20 回を迎え、過去 20 年間のオーストラリア・ニュージーランドにおける スポーツマネジメント研究・実践を基に、次の 20 年に向けてのアイデアを構築することを目的に、
16 カ国から 170 名を超える様々な背景を持った国際的なスポーツマネジメント関係者が一同に介 し、貴重な意見交換が行われた。
日本からは、大阪体育大学から冨山浩三氏(写真右)・棟田雅也氏(写真左筆者)、ニュージーラ ンドのオタゴ大学(博士後期課程)から住田健氏(写真中央筆者)の合計 3 名が参加した(写真2)。
2.基調講演
基調講演は、3 つのセッションに分かれての発表であった。表 2 に示されているように学会 初 日 にIndustry Keynote1「Mr. Brian Morris, CEO, MOPTよ り “Facility Development and Destination Melbourne(メルボルンの施設開発とそのゴール) ”」、Indutry Keynote2「Mr. Craig Tiley, CEO, Tennis Australiaより“Evolution of the Grand Slam of the Asia Pacific(アジア太平洋グランドスラムの発展) ” が行われ、学会 2 日目にConference Welcome Academic Keynote3「Dr. Joon-ho Kang(Seoul National University)より“Developing a Nation’s Sport Capacities and Capabilities(国民的スポーツ開発の潜在 的能力と特殊能力)」 ”が行われ、学会最終日にAcademic Keynote4「Prof. Marijke Taks(University of Windsor / University of Leuven)より“Linking sport events to participation: What we know and need to
know(スポーツイベントの参加者ランキング:私たちは何を知り、何を知る必要があるのか) ”」
と題して発表が行われた。SMAANZはオセアニアのスポーツマネジメント研究を対象にする学会 である。オセアニアは、アジア太平洋地域との関係が地理的にも、文化的にも密接に関わっており、
北米やヨーロッパとは異なった視点でSMAANZが現在抱えている問題と、その解決方法の提案が 述べられた。
写真 2 日本からの参加者(筆者左:棟田、中央:住田)
3.ワークショップ
ワークショップは、2 つのセッションに分かれて行われた。1 つ目のワークショップは、
SYMPOSIA1「SMR Editor’s Workshop: Best Practices for Publishing and Reviewing(論文執筆と先行レ ビューのベストプラクティス)」、SYMPOSIA2「Transforming the New millennial Student into a Sport Management Professional by Using Games?(新時代を生き抜く学生をスポーツマネジメントで働く プ ロ 育 て る に は?)」、SYMPOSIA3「Monitoring and Evaluation of Sport-for-Development Programs
(スポーツ開発プログラムのモニタリングと評価)」として 3 か所で同時に行われた。著者らは、
SYMPOSIA1のセッションに参加したので、その内容をまとめたい。このセッションを担当したの
は、Sport Management Review (SMR)でチーフエディターを務めるDr. Dohetryであった。彼女の 話によれば、海外の雑誌に論文を投稿する際には、著者は謙虚にならなくてはならない。例えば、
雑誌の目的や研究範囲に投稿する論文がどう貢献できるかをきちんと考えること、論文の体裁、参 考文献の引用方法が適切であることなどが挙げられた。我々は英語で論文を書く際に、論文の内容 や英語そのものの表現方法に目がいきがちであるが、それと同時に雑誌のエディターや査読者は雑 誌の目的や貢献もきちんとチェックしている。こういったアドバイスは、我々には非常に有意義な ものであった。
2 つ目のワークショップでは、Past Presidents Workshopということで過去のSMAANZの学会長
(David Shilbury, Tracy Taylor, Lesley Ferkins, Russell Hoye, Paul Jonson)が、これからのSMAANZの あり方を目的に討論を行った。討論のテーマは、SMAANZの発展、役割、重要性を高めるための 発言を積極的に行うこと、または共有すること、SMAANZが果たすべきリーダーシップへの個人 の考えを集約すること、SMAANZが見据えるべき将来の挑戦と目的を設定することであった。フ ロアも交えた活発な議論が行われ、会員のSMAANZに対する熱意が端から見ていても伝わってく るようであった。
4.一般研究発表
本大会では、発表応募数 112 件のアブストラクトのうち、15 名のレビュワーによる査読を通過 した 83 件が発表された。研究発表は口頭発表のみであり、時間配分は 20 分の発表と 5 分の質疑 応答で、日本の学会との異なる点は、日本は座長(研究者)およびタイムキーパー(学生スタッフ)
により各会場・セッションが運営されている。しかし、本学会では、座長が存在せず、学生スタッ フ 1 名が各会場の運営(タイムキーパーなど)を行っており、スタッフ一人ひとりの質の高さを 感じたとともに、本学会のスタッフ教育の充実にも感心した。
表 3 は、本大会の国別発表件数を降順で示している。オーストラリアからの発表が 49.4%、ニ ュージーランドからの発表が 16.9%であり、全体の 56.3%の発表がオセアニア圏からであった。
オセアニア圏に次ぐのはアメリカ(13.3%)、カナダ(6.0%)、イギリス(3.6%)であった。ほと んどの発表が英語圏からの発表であり、国際学会における英語の重要性を改めて認識することがで きた。日本からの発表は、大阪体育大学生涯スポーツ実践研究センター研究員の棟田雅也氏(筆 者)が発表した「Course Design in Sport Management Education: Students’ Preference through Conjoint Methodology(スポーツマネジメント教育におけるコースデザイン:コンジョイント分析を用いた 学生の選好行動に関する研究)」の 1 件のみであった。
表 4 には、本大会の分野別の発表件数を降順で示している。これら 15 の分類項目は、本大会発 表プログラムで分類されているものをそのまま(分野が似ているものは合算)示している。最も多 く発表された研究分野はマーケティング(Marketing)であり、全体の 3 割以上を占めた。マーケ ティングの研究対象は多岐にわたり、メディア(Media)8 件、ブランディング(Branding)5 件、
スポンサーシップ(Sponsorship)4 件、消費者(Consumers)3 件、その他 6 件)の発表が行われた。
近年、ソーシャルネットワークサービス(SNS)やインターネット、スマートフォンなどのメディ アツールの普及からメディアに関する研究が最も多い結果になったことが考えられる。
国名 2014 年 %
オーストラリア 41 49.4%
ニュージーランド 14 16.9%
アメリカ 11 13.3%
カナダ 5 6.0%
イギリス 3 3.6%
ドイツ 2 2.4%
イスラエル 1 1.2%
韓国 1 1.2%
北アイルランド 1 1.2%
日本 1 1.2%
台湾 1 1.2%
デンマーク 1 1.2%
フランス 1 1.2%
合計 83 100%
表4 分野別の研究発表件数
カテゴリー 2015 年 %
Marketing 26 31.3%
Development 7 8.4%
Event/Facilities 7 8.4%
Management 6 7.2%
Governance 6 7.2%
Community 5 6.0%
Volunteers 5 6.0%
Disability 3 3.6%
Education 3 3.6%
Economics/Finance 3 3.6%
Gender 3 3.6%
Impact 3 3.6%
Organizational Theory 3 3.6%
Drugs 2 2.4%
Analysis 1 1.2%
合計 83 100%
著者らが今回の学会を通じて感じたことはガバナンス研究の必要性である。ガバナンス
(Governance)は、発表件数は 6 件と少なかったが、近年その重要性が叫ばれている分野でもある。
本学会の 2 つのConference Award(Student Awardを含む)を獲得した研究がガバナンス分野であっ たことからもこの分野の重要性がわかる。例えば、プロラグビーチームにおける商業的オーナーシ ップを調査した研究が報告されていた。プロスポーツチームを誰が所有しているかという問題は時 に大きな社会問題を引き起こす。2004 年の近鉄バッファローズが消滅した際も、スポーツチーム は一体誰のものか?という問いを日本スポーツ界に投げかけた。ガバナンスはマネジメントやマー ケティングにも大きく関わる分野であることから、日本スポーツマネジメント学会においてもガバ ナンス研究を積極的に推奨していく姿勢が求められるように思う。
5.まとめ
SMAANZ2014第 20 回大会における基調講演、シンポジウム、一般研究発表を略説した。今回
は記念すべき 20 回大会ということで、SMAANZのこれまでの歴史を振り返り、将来の目標を定 めることの重要性を強調した基調講演やシンポジウムが多いように感じられた。SMAANZの方向 性を議論するシンポジウムでは、学会員の積極的なコミットメントも見てとれ、SMAANZが今後 どのように舵をとっていくのかは著者らも楽しみである。今大会は学会という組織が社会に対して どう貢献すべきなのかということを強く考えさせられた学会であった。日本スポーツマネジメント 学会は比較的新しい学会ではあるが、日本のスポーツ組織が抱える問題に対してどのようにして アプローチできるのか、していくべきなのかを議論することは必要であると思われる。なお、次の 21 回大会はオーストラリアのタスマニア(Tasmania)にて行われる予定である。
【参考文献】
柴田恵里香・柳久恒(2011)オーストラリア・ニュージーランド・スポーツマネジメント学会第 16 回大会.
スポーツマネジメント研究,3(1):95-99.