日機連20事業環境-3
平成20年度
海外機械工業企業の世界戦略に関する 調査研究報告書
平成21年3月
社団法人 日本機械工業連合会 株式会社 東 レ 経 営 研 究 所
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://ringring-keirin.jp/
序
我が国の機械工業を取り巻く事業環境は、グローバル経済の進展の中で、資源・エ ネルギー問題、環境問題、等も含め、世界規模で取り組まなければならない数多くの 深刻な問題を抱えております。
また、BRICsをはじめとした新興工業国は、生産技術力を著しく向上させており、
先進国間の差別化・高付加価値化等の技術競争も厳しさを増し、技術競争力で優位に あるとされた我が国機械産業の相対的な地盤低下が懸念されるようになってきており ます。
さらに情報通信・輸送手段の発達がそうした競争を一層激化させ、世界中で生き残 りをかけた企業競争が展開される状況下にあります。
世 界 市 場 で の 競 争 力 強 化 に 有 効 な 対 策 や 、将 来 性 の あ る 新 興 国 市 場 へ の 進 出 に 向 け た 対 応 等 も 求 め ら れ る 一 方 、 そうした技術競争の中にも、国際的な社会 責任を果たすために守らなければならない安 全 保 障 管 理 制 度 や 貿 易 制 度 調 和 が あ り 、 今 後 よ り 緊 密 に 各 国 間 の 協 調 を は か る 必 要 が で て き て お り ま す 。
こうした背景に鑑み、弊会では機械工業の事業環境に係わる調査のテーマの一つと して株式会社東レ経営研究所に「海外機械工業企業の世界戦略に関する調査研究」を 調査委託いたしました。本報告書は、この研究成果であり、関係各位のご参考に寄与 すれば幸甚です。
平成21年3月
社団法人 日本機械工業連合会 会 長 金 井 務
はしがき
我が国産業は各分野でフロントランナーの立場に立っています。しかし、先進工業国と の技術開発競争は勿論、後発工業国の激しい追い上げを受け、かつての先例フォロー型の 経営では収益拡大はおろか企業の存続すら危うい状況にあります。我が国の企業はこうし た状況に効率的かつ効果的に対応し、国際競争力を強化し、維持する戦略を立て、実行す ることが求められています。
我が国の国際競争力の源泉は、製造業の生産能力・技術開発力にあり、世界を相手にこ うした資産を積極的に活用した戦略が有効だと考えられます。
機械工業は我が国を代表する産業であり、既にグローバルに事業を展開しておられます が、当該分野は最も技術開発、市場獲得、価格等の面での競争が最も速いスピードで激し く展開されている分野です。
我が国企業は自らが保有する有形・無形の資産や能力を活用して得意とする分野で国際 競争力を確保し、強化していくことが求められています。
情報技術、輸送技術が発達した現在、国際競争力を強化するためには、世界的規模で顧 客情報の収集、生産・販売のネットワーク構築等、企業活動全体を最適化する戦略が必要 とされています。
そして、海外の競合企業に打ち勝つ「世界戦略」の立案、あるいは見直しを行うには、
「世界戦略」が備えるべき要件、そして何よりも海外の競合企業の戦略内容をよく知る必 要があります。
こうした背景に鑑み、当社では「海外機械工業企業の世界戦略に関する調査研究」を受 託し、その結果を本報告書に取りまとめました。本調査の実施ご支援いただきました、社 団法人日本機械工業連合会の会員企業、事務局の皆様に感謝申し上げますとともに、本調 査報告書が関係各位の世界戦略検討のお役立てれば幸いです。
平成21年3月
株式会社 東レ経営研究所 代表取締役社長 佐々木常夫
目 次
エグゼクティブサマリー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
調査研究の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 1.背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 2.調査体制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 3.調査研究項目とスケジュール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
第1章 今、なぜ「世界戦略」か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 1.需要構造の変化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 2.事業環境の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 3.機械工業を中心とした我が国企業の海外での活動状況・・・・・・・・・・・・ 22 4.世界戦略の必要性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
第2章 世界戦略とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 1.多国籍企業とグローバル企業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 2.戦略とは何か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 3.戦略の評価・分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 4.世界戦略は日本企業が取り組むべき新たな課題・・・・・・・・・・・・・・・・49
第3章 主要な世界のグローバル企業の戦略分析・・・・・・・・・・・・・・・・・51 1.主要な世界のグローバル企業の戦略分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・51 1.1 調査の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51 1.2 主要企業の戦略分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53 1.2.1 ディーア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53 1.2.2 キャタピラー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60 1.2.3 ノキア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68 1.2.4 ヒューレット・パッカード・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・79 1.2.5 デル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89 1.2.6 アップル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101 1.2.7 シスコシステムズ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・111 1.2.8 サムスン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120 1.2.9 シーメンス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・127 1.2.10 ボルボ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・139 1.2.11 BMW・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・147
2.訪問調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・155 2.1 調査の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・155 2.2 訪問調査結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・156 2.2.1 ノキア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・156 2.2.2 ボルボ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・159 2.2.3 キャタピラー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・161 2.2.4 シスコシステムズ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・164 3.まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・167
第4章 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・173
エグゼクティブサマリー
第1章 今、なぜ「世界戦略」か
1.需要構造の変化
我が国では少子高齢化が進み、一人当たり GDP も 1995 年以降伸び悩み、横ばい傾向に ある。一方、BRICs を中心とした後発工業国では今後とも人口が増加し、工業化の進展 とともに一人当たり GDP も大きく伸びると期待される。我が国機械工業企業が成長を続 けるためには、後発工業国を中心に需要の伸びる海外の市場を開拓しなければならない。
2.事業環境の変化
・後発工業国においては自動車が未だそれほど普及しておらず、一人当たり石油消費量 も少ない。このため今後、工業化の進展、自動車の普及に伴い、環境問題が深刻化す ると考えられる。 我が国機械工業企業にとっても、資源エネルギー問題ならびに環 境問題は解決すべき喫緊の課題であるが、同時に我が国企業の持つ技術力を活用して ビジネスチャンスとすることが重要である。
・特許の出願数は 1995 年以降、年率 4.7%で増加している。特に電気・電子、医療、
視聴覚技術、情報関連技術等の機械分野での増加が著しく、我が国は米国と 1 位、2 位を争っている。
・IT、通信技術の発展は著しく、我が国が多数出願・保有する機械分野特許を活用した、
スピードのある事業展開が必要である。
3.機械工業を中心とした我が国企業の海外での活動状況
我が国機械工業の対外直接投資は 10 年前と比較して金額ベースで約 3 倍と伸びてい る。
海外生産比率も輸送機械、情報通信機械が 35%前後と高くなっている。
投資先は、北米とアジアの両地域が中心であるが、北米では現地での組立販売が主で あり、アジアではコスト低減を目的とした輸出が主となっているなどその投資目的は大 きく異なるが、10 年前と大きな変化は無いと考えられる。
4.世界戦略の必要性
IT 技術、輸送技術の発達等から世界経済の一体化は進んでおり、後発工業国等の市 場が拡大しつつある。従来の日本型経営とグローバル化時代の経営はパラダイムシフト と言ってよいほど異なっており、最近では携帯電話、カーナビゲーション、5 万円パソ コン等の世界市場対応において海外企業に遅れを取っている。
今、我が国機械工業企業は環境変化に対応した戦略の見直しが急務となっている。
第2章 世界戦略とは
1.多国籍企業とグローバル企業
多国籍企業では、企業に必要な機能を現地法人レベルで最適化しているのに対し、グ ローバル企業では企業に必要な機能をグローバルレベルで最適化する。
2.戦略とは何か
・企業戦略は、ミッション(企業の使命)、ビジョン(企業の目標)を達成するためのセオ リーであり、「企業が競争優位を構築する」道筋である。
・世界戦略は世界的視野で競争優位を構築することである。
世界戦略の立案は現状分析から始まり、他社に真似されにくい独自性のある事業コン セプトを創ることが肝要であり、独自性のある事業コンセプトを効率的に遂行する道 筋を描くことである。
・現在は、戦略の遂行に「スピード」が要求されることから「選択と集中」および「組 み合せ・分業(連携)」が重要である。
・どこに進出するか、どの企業と連携するかの問題よりも、そうしたネットワークの中 心となる「世界戦略本部」の持つ求心力(競争優位)が何よりも重要である。
3.戦略の評価・分析
評価・分析の代表的な方法として SWOT(強み、弱み、機会、脅威)分析を簡単に紹 介し、我が国機械工業を対象に分析を試みた。(本文参照)
4.世界戦略は日本企業が取り組むべき新たな課題
日本企業は、長期的視野に基づき、独自性、オペレーションの効率化、収益性の追求、
選択と集中および組織改革などを世界的視野で戦略的に考える必要がある。
第3章 主要な世界のグローバル企業の戦略分析
1.調査の概要
経済雑誌『フォーチュン』、『フォーブス』等の各種の世界企業ランキング上位企業か らグローバルに事業展開する機械工業企業 11 社を選出した。
選出企業は、ディーア、キャタピラー、ノキア、ヒューレット・パッカード、デル、
アップル、シスコシステムズ、サムスン、シーメンス、ボルボ、BMW の 11 社である。
2.グローバル企業の戦略分析
(1)ディーア
創業以来「大地に関係する」顧客を対象に事業を伸張させてきている。世界戦略も手 堅く進めている。
(2)キャタピラー
建設工事用機器および鉱業設備機器を扱う。マトリックス型組織運営、6シグマを取 り入れるなど経営改革に取り組む。インド、中国等の市場開拓に注力中。
(3)ノキア
モバイルに集中特化し、40%近いシェアーを活用したマーケティングを実施している。
海外も含め、自製率は 80%であり、研究開発費 56 億ユーロを使用する。
(4)ヒューレット・パッカード
インクカートリッジは自製に拘るが、プリンタのハード、パソコンはほとんど外注し ている。最近は、企業買収により IT 関連のソフト、サービスに力を入れ、IBM と競合す る。
(5)デル
非常に合理的なデルダイレクトシステムで業績を著しく伸ばしたが、他社の模倣する ところとなる。デルは企業向け市場に特化していたが、消費者向けで HP に遅れを取った。
現在、消費者需要に対応すべく、ダイレクトシステムを見直し、量販店対応等を進めて いる。
(6)アップル
スティーブ・ジョブズ氏の強烈なリーダーシップで I-Pod、i-Phone 等の開発、上市に より、事業拡大が続いている。アップルの経営の特徴は顧客中心の巧みなマーケティン グと製品開発等における完璧主義にある。
(7)シスコシステムズ
シスコ最大の特色は、ベンチャー企業の買収による先端技術と人材の入手にある。
生産の 95%を外注するが、自ら売上の 13%を研究開発に投入するなど、ネットワークの求 心力を維持強化。
(8)サムスン
半導体ビジネスで業績を著しく伸ばし、最近はデジタルコンバージェンスを中心に世 界戦略を推進中である。
サムスンは IT 関連では後発であるが、マーケティング基盤の強化に積極的に取り組み、
ブランド戦略および海外の地域専門家育成等の人材育成で業績拡大を進めている。
(9)シーメンス
高い収益性と事業安定を目指し、資本、技術集約的な産業用機器、エネルギー分野、
健康管理分野に事業を絞り、徹底したポートフォリオ管理を進めている。
(10)ボルボ
1999 年に乗用車部門をフォードに売却する一方で、ルノー、日産ディーゼル等のトラ ック事業を買収し、商用輸送に集中する。
海外は需要立地主義で展開している。
(11)BMW
高級車ブランドである。ロールスロイス、ローバーなどを買収し、業容拡大する。
ドイツ中心の生産であるが、最近は中国、インドにも進出している。
3.訪問調査結果
上記 2 で取り上げた企業の中から、4 社(ボルボ、ノキア、シスコシステムズ、キャ タピラー)を訪問、文献等調査の補足と世界同時不況突入後の状況についてインタビュ ー調査を実施した。
(1)ノキア
・生産の 80%自製は、将来の大型市場、インド等の生産インフラ発達国、かつ低廉労働 力活用等を考慮して実施している。
・これからは、携帯電話メーカーとパソコンメーカーの競合が激しくなると思われるが、
提携の可能性もある。フレキシブルに対応するとしている。
・現下の情勢対応については、モバイルの成長性が損なわれることは無く、シェア 40%
をフル活用してさらにシェアを伸ばす。
(2)ボルボ
・グローバル展開は低廉労働力が最優先ではない。
中国、アジア、東欧がエマージングマーケットとして重要である。
・スウェーデン・ヨーテボリ本社の統括機能の重要性を強調する。狙いはマトリックス 事業組織とネットワークハブの強化である。
(3)キャタピラー
・1960 年頃からグローバル化に取り組み、米国以外にも 58 工場を有している。
・同社の事業は、組み立てよりコンポーネントや材料の比重が高く、コンポーネント等 の生産は資本集約的事業という。
合弁、合併、買収、統合等がアライアンスの中心に据えられていると考えられる。
・グローバル R&D では、本社が主導的役割を果たし、インド等はデザインセンターであ る。
(4)シスコシステムズ
・グローバル化は、ビジョン・戦略・実行が基本であるとする。
ビジョンを実現する戦略をスピーディに実行する。
・シスコの M&A の特徴は、A&D(買収と開発)である。ベンチャー企業を買収後、自社の既 存技術、製品、組織と統合(integration)することにある。
・外注は厳しく品質管理・生産管理を実施している。
・研究開発開発費は売上高の 12~14%と高くなっているが、ハイテク分野では手を抜く ことはできない。ネットワークの求心力として重視していると考えられる。
・現在の情勢下にあってもビジョンと戦略は変えない。
3.まとめ
3.1 調査において注目された事項
(1)戦略とミッション、ビジョン
調査対象とした企業では、戦略とミッション、ビジョンの関係はよく理解され、ほと んどの企業で整合性が保たれている。ミッション、ビジョンの役割はグローバル化、多 様化の中にあって求心力として重要性を増すと考えられる。
(2)組織
マトリックス組織が注目される。
グローバル化、事業の高度化、事業部制採用の結果、企業全体の競争力強化、効率化 のために横串が必要になっている。
(3)選択と集中
HP、シーメンス、アップル、サムスン等、各社の持っている資産の違いから、選択と 集中の仕方は異なるが、選択と集中の進展度は非常に高いといえる。
(4)海外展開
シスコシステムズが第 2 本社、HP が本部を置き、また、多くの企業がインド、中国に 研究所、生産拠点を持つなど、インド、中国等BRICsを戦略的地域としている。
日本は市場としてよりも、先端技術動向を窺う場所として注目されていることに留意 すべきである。
(5)パートナーとの連携
生産面から見た場合、米国の HP、デル、シスコシステムズおよびアップルの外注依存 度は非常に高い。OEM はまだしも大量に ODM に生産委託するに及んで製造業として重要 な生産技術力が失われていくことに繫がり、何らかの対策が必要と考えられる。
3.2 世界戦略における分業・連携に関する考察
(1)分業システムの有効性
自前主義、現在の仕入先に取引を限定していては、能力の低いパーツがあれば足かせ となり、逆に世界的視野で最高の機能を持ったパーツに切り替えることができれば製品 の評価は上昇することになる。
我が国企業は、連携が、特に海外企業との連携・分業が不得手であると言われている。
連携・分業だけでなく M&A その他の方法も検討すべきである。
(2)事業のスピードと完成度を高める分業システム
我が国企業は垂直統合型生産システムが得意で水平分業型生産システムは不得意とさ れるが、ともに分業システムであることに変わりはなく、あえて分ける必要はないと考
えられる。要は異なる技術の「組み合せ」、企業の「連携」、「分業」により、事業のスピ ードと完成度を向上させることが重要である。
(3)事業ネットワークハブの求心力
その製品の核となる機能を所有するものがリーダーシップをとり、支配力を有するこ とになると考えられる。核となる機能は、企画力でも、ブランド・販売力でも、技術力 でも生産工程の管理能力、ネットワークの求心力でもかまわない。
それぞれの機能の立地・分散は、賃金水準だけで決まるのではない。市場へのアクセ ス、労働力の質、その他インフラ等トータルで考える必要がある。ネットワークで何よ りも重要なのはネットワークハブ(=世界戦略本部)が求心力・ハブとしての輝きを失わ ないことである。
(4)模倣されにくい仕組み
連携・分業は取り組み相手を信頼することから始まるが、海外進出、多国間分業の際 には、模倣されにくいシステムを作る必要がある。
核となる技術の生産工程の完全内製化、技術の特許化またはブラックボックス化等が 必要である。
ネットワークの外部に対して、販売面では、製品発表時に完成度の高い商品を提示し、
技術の高さ、供給能力を誇示するほか、ライバルがすぐには追随できない価格設定にす るなどが考えられる。
第4章 まとめ
1.我が国機械工業企業の世界戦略構築に向けて
機械工業企業の世界戦略
世界戦略
①顧客・ニーズ
⑤価値 ③機械工業企業
②ニーズ 把握
④価値 創造
⑥価値 伝達
先進国にも後進国にも夫々ニーズがある。世界戦略はニーズを把握するところからはじ まる。機械工業企業は技術、生産、販売やブランドといった自社保有の資産を棚卸し、さ らに利用可能なパートナーの資産まで把握して価値創造を行うべきである。
世界戦略においては、利用可能な世界の資産を競争優位、生産効率の面から組み合わせ
る。世界に散在する知識や機能を最適に再編、再配置することで世界に通用する価値が生 まれる可能性が大きくなる。創造された価値はマーケティング、営業、物流等により的確 にユーザーに伝えなければならない。その際ブランドは重要な役割を果たす。
2.最後に
我が国の企業は国内で成功した商品を持って海外展開を図ろうとするが、今回調査した 世界の先進的企業は最初から世界展開である。戦略的な企業とは、環境変化を先回りし、
環境変化を活用し、市場創造を組織的にできる企業である。
ライバル企業は世界に多数存在する。世界を相手にビジネスを展開するにはスピーディ なビジネスモデルを構築することが重要である。ビジネスモデルは戦略の結果である。
戦略運営のポイントは、顧客のニーズを抽出し、創造した価値を的確に伝えることである。
その間の作業はスピーディに行う必要があり、そのためには打てば響くような組織が必要 であり、選択と集中により、自社の競争優位を磨き上げ、分業(連携)の核とした上で、世 界中の優れた機能を持つ企業と連携することである。
我が国機械工業企業はこれまで以上に世界の顧客あるいはニーズに関する情報を収集し、
分析し、「新たな需要は何か、自社が提供できる価値は何か、パートナーの資産を含め活用 できる資産は何か」について考え抜くことが重要である。
調査研究の概要
1.背景と目的
企業における「世界戦略」とは、企業が国内外における競争力を強化するために生産あ るいは販売、研究開発といった企業活動を世界を舞台に最適化する戦略と考えられる。
戦後の我が国製造業は、「安くて、良い物を作れば売れる」と信じ、欧米先進工業国の 企業に対し追い付き追い越すことを目的に工場の生産性向上と製品の改善・改良に努めて きた。また、新たな技術開発も進め、特許申請数も増加してきている。
しかし、多くの産業や企業では研究開発、生産技術の進歩に比較して経営戦略やビジネ スモデル等はさほど顧みられることは無かった。
平成 20 年 9 月の米国リーマン・ブラザーズの破綻に至るまで、ここ数年の企業業績は好 調であったが、一転して世界は「百年に一度の不況」に突入している。
各企業はこの不況からいち早く脱出するべく努力しているが、そのためにはこれまでの 戦略を見直す必要があると考えられる。
個々の活動、例えば生産だけをとっても、①国内で自社生産する、②国内他社に生産委 託する、③海外子会社で生産する、④海外他社に生産委託する、⑤部品から製品まで一貫 生産する、⑥最終組立など特定の段階のみ自社で生産する、あるいはそれらの組合せ等さ まざまなものがある。
そして、各社はこれら多様な選択肢の中から、自社の状況や世界的に見た経営環境等を 総合的に判断して、それぞれの行き方を決定しているのが現実の姿であり、成功に至る秘 訣や法則があるというものでもない。一方で、地域や国における傾向、その時々の流行が あり、どちらかというと我が国企業はそうしたものに流されやすい傾向にあると言える。
一般に、我が国の国際競争力の源泉は、製造業の生産能力・技術開発力にあり、今後 も競争力を持ち続けるには、世界を対象にこれらを活用する戦略を立案し、遂行していか ねばならないといわれる。
現在の厳しい環境下、明確な世界戦略なしには、先進工業国の競合企業に対しては勿論、
後発工業国の新興企業に対しても対抗できなくなる恐れがある。
本調査研究は海外のグローバル企業の経営戦略を調査研究することを通じて、我が国機 械工業企業の国際競争力を強化する世界戦略の立案あるいは見直し、グローバル経営のさ らなる進展に資することを目的とした。
2.調査体制
㈱東レ経営研究所、調査研究部門内に本事業の運営と事業計画作成、調査研究遂行、事 業の取りまとめ等を実施するための「海外機械工業企業の世界戦略調査プロジェクトチー ム」を設け、当初の目的を達成すべくこれを推進した。
プロジェクトチームのメンバーは以下の通りである。
調査研究責任者 調査研究部門 理事 馬田 芳直 主要調査研究員 調査研究部門 常務理事 高橋 健治 主要調査研究員 調査研究部門 特別研究員 古宮 達彦 主要調査研究員 調査研究部門 特別研究員 大西 吉臣
3.調査研究項目とスケジュール
(1)調査研究項目
①世界戦略が必要とされる背景
我が国機械工業では少子高齢化および経済成長率の低迷による需要の低下が懸念され る一方、世界的には、先進国企業との技術開発競争が激化し、後発工業国の激しい追い 上げを受けている。この様なわが国機械工業を取り巻く競争環境に関する最近の文献及 びデータから世界戦略が必要とされる背景を分析した。
②世界戦略・国際競争戦略の枠組み
国際競争力の強化を中心とした世界戦略(グローバル経営戦略)に関連する文献等の 調査により、世界戦略の理論・定義ならびに策定に当たって参考とすべき検討枠組みに ついて整理した。
③事例調査
海外の主要なグローバル企業の経営戦略について文献・WEB等調査により、成功事 例を抽出し、事業成功の背景と戦略のポイントについて整理した。
調査は、わが国企業の競争力が大幅に低下した半導体、LCDやグローバルな展開に 遅れをとった携帯電話等の情報通信分野等々、機械工業の分野によって様相がガラリと 変わることから、本調査においては機械工業を一般機械、電気機械、輸送機械に 3 分類 して考え、各種の世界企業ランキング上位の企業から、各分類に属する企業を 11 社抽出 し、各企業のホームページ、アニュアルレポート、外部野分析情報等の調査から、ビジ ョン/経営哲学、歴史、世界進出の状況、研究開発ならびにイノベーション等について 整理した。
◇事例調査
海外の代表的グローバル企業の成功事例の経営戦略を分析することにより、成功 事例戦略のポイントと背景を抽出すると同時に立案の背景について整理した。
・過去の戦略については、文献、WEB、マスコミ等調査
・現時点から将来の戦略については、有価証券報告書、アニュアルレポート等に おける経営方針、研究開発の方向等の記載事項、IR情報等から分析した。
<調査内容>
*各社のビジョン、経営哲学/企業の歴史、ミッション *世界戦略
*戦略推進のための諸施策
強みを活用し、弱みを補完するために取られた諸施策(企業連携、M&A、
組織編成、海外進出、知的財産保護、技術導入 その他)
*研究開発の状況
④ヒアリング調査
上記の調査結果を踏まえて、必要に応じ当該企業あるいは事業部に上記の調査で不明 な点等に関する質問状を送付して回答を求めたほか、上記調査対象企業の中から欧米各 2 社の企業に対して訪問ヒアリング調査を行い、文献等、質問状による調査で不足する 情報ならびに最新の情報を補完した。
⑤我が国機械工業企業の世界戦略に関する総合検討
機械工業を取り巻く環境、理論的枠組み、ならびに事例分析の結果から、ビジョンと 戦略・戦術(施策)の整合性、研究開発成果の活用など我が国機械工業の世界戦略の立 案、見直しに資する項目を整理して、調査報告書にとりまとめた。
◇総合検討の視点(例)
・ビジョンと戦略、戦術(施策)の整合性
・グローバル展開における海外拠点(立地と役割・機能)
・戦略立案のキーとしての研究開発
・その他、世界戦略のポイント など
(2)事業のタイム・スケジュール
上半期 下半期
半期別・月別
項 目
20 年
/
7 8 9 10 11 12
21 年
/
1 2 3
①事例調査のための基礎 調査
②事例調査
③事例調査の補完・検証
④我が国機械工業企業の 世界戦略に関する総合検 討とまとめ
⑤報告書の作成・公表
第1章 今、なぜ「世界戦略」か
1.需要構造の変化
1.1 国ベースの人口増減
一国の需要額はGDPであり、それは人口と一人当たりのGDPの積である。人口は その国の需要額を左右する大きな要因であるといえる。
図表 1.2、1.3 は図表 1.1 を元にグラフ化したものである。図表 1.2 から先進国の人口は 横這い傾向であるのに対し、BRICs 諸国では 2050 年頃まで人口が大幅に増加する見通しで あること、図表 1.3 から日本とドイツの人口減が大きく、逆にインドとアメリカの人口増 が大きいことが分かる。図表 1.4 は主要国の年齢別人口構成をグラフ化したものである。
これは一般的に人口ピラミッドと呼ばれているが、日本、韓国、中国、ロシアなどでは高 齢化が進み、ピラミッドとは呼べない形をしている。
人口の増減、年齢構成の変化は需要構造に大きな影響を与えることから、人口減少、高 齢化が進む我が国の需要は減少することになる。我が国企業は、今後、人口が増加し、ま た工業化の進展による一人当たり GDP 増も期待できる BRICs等の市場開拓に力を入れてい く必要があろう。
図表 1.1 世界主要国の人口推計
単位:百万人 日本 アメリカ ドイツ フランス イギリス 先進5ヶ国 ブラジル ロシア インド 中国 BRICs 1950 84 158 68 42 51 403 54 103 372 555 1,083 1960 94 186 73 46 52 451 73 120 446 657 1,296 1970 105 210 78 51 56 499 96 130 549 831 1,606 1980 117 231 78 54 56 536 122 139 689 999 1,948
1990 124 256 79 57 57 573 150 149 860 1,149 2,307
2000 127 285 82 59 59 612 174 147 1,046 1,270 2,638
2010 127 315 82 63 62 648 199 140 1,220 1,352 2,911
2020 123 343 81 65 64 675 220 132 1,379 1,421 3,153
2030 115 366 79 67 66 694 236 124 1,506 1,458 3,325
2040 106 386 77 68 68 704 248 116 1,597 1,448 3,409
2050 95 402 74 68 69 709 254 108 1,658 1,409 3,429
出典: 総務省統計局刊行、総務省統計研修所編集「世界の統計 2008」
図表 1.2 先進 5 カ国と BRICs の人口増減見通し
2000 年を基準とした人口増減見通し
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000
百万人
BRICs
先進5ヶ国
図表 1.3 主要国の人口推計
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8
1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 年 中国 インド アメリカ 日本 ドイツ フランス イギリス
図表 1.4 人口ピラミッド(年齢階級別人口構成)
出典:国連資料に基づいて(財)矢野恒幸太郎記念会「世界国勢図会 2008/09」が作成している。
1.2 一人当たり GDP
先進5ヵ国とBRICs諸国では、2006年時点における一人当たりGDPは大きく乖離し ている。この乖離は BRICs 諸国の経済成長の余地と捉えることもでき、人口問題と考え 合わせると長期的展望を持って市場開拓に取り組まなければならないと言える。
図表 1.5 一人当たり GDP 推移
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0
1985 1990 1995 2000 2003 2004 2005 2006
千ドル/人
日本 アメリカ ドイツ フランス イギリス ブラジル ロシア インド 中国
単位:千米ドル
日本 アメリカ ドイツ フランス イギリス ブラジル ロシア インド 中国
1985 11.4 17.2 9.1 9.7 8.1 1.6 - 0.3 0.3
1990 24.8 22.5 21.6 21.3 17.3 2.9 3.8 0.4 0.4
1995 42.0 27.2 30.9 26.3 19.6 4.4 2.7 0.4 0.6
2000 36.8 34.3 23.1 21.8 24.5 3.5 1.8 0.4 1.0
2003 33.2 37.1 29.5 29.0 30.4 2.8 3.0 0.5 1.3
2004 36.1 39.3 33.2 33.0 35.9 3.3 4.1 0.6 1.5
2005 35.7 41.3 33.7 33.9 37.0 4.3 5.3 0.7 1.8
2006 34.3 43.6 35.0 35.4 39.2 5.6 6.9 0.8 2.1
出典: 総務省統計局刊行、総務省統計研修所編集「世界の統計 2008」
グラフは上記資料をもとに東レ経営研究所が作成
1.3 GDP の変化
図表1.6、1.7は主要国のGDPの伸び率を1995年を基準にグラフ化したものである。
先進国では伸びが少なく,BRICs 等の伸びは大きい。この傾向は、今後かなり長期的に継 続するものと考えられる。
図表 1.6 先進 5 カ国の GDP 推移
0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 4.00
1985 1990 1995 2000 2003 2004 2005 2006
日本 アメリカ ドイツ フランス イギリス
図表 1.7 BRICs の GDP 推移
0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 4.00
1985 1990 1995 2000 2003 2004 2005 2006
ブラジル ロシア インド 中国
図表1-8 主要国のGDP推移
単位:10億米ドル
日本 アメリカ ドイツ フランス イギリス ブラジル ロシア インド 中国
1985 13,752 41,875 7,089 5,490 4,559 2,232 - 2,272 3,091 1990 30,634 57,572 17,144 12,392 9,911 4,383 5,697 3,279 4,045 1995 52,625 74,323 25,226 15,702 11,358 7,042 3,992 3,705 7,570 2000 46,662 97,648 19,002 13,280 14,422 6,017 2,597 4,690 11,928 2003 42,402 109,080 24,395 17,999 18,128 5,057 4,315 5,925 16,479 2004 46,092 116,573 27,406 20,600 21,541 6,039 5,917 6,888 19,365 2005 45,576 123,979 27,869 21,266 22,263 7,959 7,644 8,089 22,784 2006 43,755 131,923 28,887 22,344 23,725 10,678 9,849 9,032 26,668 出典: 総務省統計局刊行、総務省統計研修所編集「世界の統計 2008」
図表 1.6,1.7 は上記資料をもとに東レ経営研究所が作成
2.事業環境の変化
2.1 資源エネルギー問題
長期的に世界戦略を考える場合、人口、GDP 問題に次いで重要と考えられるのは資源・
エネルギーと環境の問題である。
図表 1.9 に見るように国別石油換算エネルギー使用量は、米国と中国が突出している。
図表 1.10 の一人当たり消費量では、米国が突出している。BRICs 諸国では、ロシアの消 費量が多いが、中国、インド、ブラジルは少ない。
2009 年1月就任した米国の新大統領による環境対策取り組みで米国の消費量は大幅減 少が予想される。一方、BRICs 等後発工業国においては、図表 1.11 の自動車保有台数の現 状における少なさから見ても、工業化の進展と共に資源エネルギーの大幅な消費量増大が 見込まれ、資源、エネルギー確保、代替技術開発ならびに省資源、省エネルギー対策技術 の開発が今後とも世界の大きな関心事であることは間違いない。
図表 1.9 国別石油換算エネルギー使用量(2005 年)
53,046
234,029
34,475 27,597 23,393 20,953
64,668
53,731
171,715
0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000
日本 アメリカ ドイツ フランス イギリス ブラジル ロシア インド 中国
万t
図表 1.10 国別・一人当たり石油換算エネルギー使用量(2005 年)
4.15
7.89
4.18 4.40
3.88
1.12
4.52
0.49
1.32 0.00
1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00 7.00 8.00 9.00
日本 アメリカ ドイツ フランス イギリス ブラジル ロシア インド 中国 トン/人
出典:(財)矢野恒幸太郎記念会「世界国勢図会 2008/09」
図表 1.11 自動車保有状況(100 人当たり)
出典:日本自動車工業会「世界自動車統計年報」(2005 年 8 月) 日 アメリ ド フ イ ブ ロ
59.4
81.8
60.4 59.8 58.0
13.0 23.0
1.5 2.8 0.0
20.0 40.0 60.0 80.0 100.0
本 カ イツ ランス ギリス ラジル シア インド 中国
%
<参考>図表 1.12 米国 WTI/原油価格の推移
出典:http://tonto.eia.doe.gov/dnav/pet/hist/rclc1d.htm
2.2 環境問題
先進国、後発工業国を含めて世界的な経済成長、快適な生活追求によるエネルギー消費 量の急増、後発工業国・発展途上国のエネルギー効率の悪さから地球温暖化が進行しつつ ある。
また、環境汚染物質の大量流出による海洋汚染、大気汚染等も進行しているから、関連 技術需要が増加することも確かな方向であると言える。
図表 1.13 主な国の二酸化炭素排出量
一人当たり排出量 GDP 当たり排出量
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 t-C
1990 2005
0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 t-C
1990 2005
国 1990 2005 増減率(%) 1990 2005 1990 2005
日本 294 341 16.0 2.4 2.7 71.5 68.3
アメリカ 1,330 1,599 20.2 5.3 5.4 189.0 145.0
ドイツ 260 222 3.3 2.7 169.0 113.0
フランス 101 107 5.9 1.8 1.8 92.5 74.6
イギリス 159 157 2.8 2.6 140.0 96.7
ブラジル - - - -
ロシア 641 423 4.3 3.0 1,661.0 1,208.0
インド 165 325 97.0 0.2 0.3 601.0 497.0
中国 632 1,386 119.3 0.6 1.1 1,422.0 734.0
一人当たり(t-C) GDP当たり(t-C)
二酸化炭素総排出量(百万t-C)
-14.6 -1.3 -34.0
出典:省エネルギーセンター「エネルギー・経済統計要覧 2008 年版」
2.3 技術進歩
2.3.1 技術革新のスピード/特許出願数の推移
1995年以降における特許出願数の年平均伸び率は4.7%である。しかし、2005年は前 年比7%増であった(世界の特許出願件数約166 万件)。技術開発競争は激化していると 言える。
図表 1.14 世界の特許出願件数の推移
出典:WIPO PATENT REPORT Statistics on Worldwide Patent Activities http://www.wipo.int/export/sites/www/freepublications/en/patents
2.3.2 世界の技術分野別特許申請
技術分野別に世界の特許申請数を見ると、第1位は電気電子技術で 32%を占めている。
2000 年から 2004 年にかけて出願件数の伸び率の高い分野は、医療関連技術(32.2%)、視 聴覚関連技術(28.3%)、情報関連技術(27.7%)などである。
図表 1.15 世界の技術分野別特許申請
出典:WIPO PATENT REPORT Statistics on Worldwide Patent Activities http://www.wipo.int/export/sites/www/freepublications/en/patents
2.3.3 地域別・技術分野別特許出願状況
情報、AV、電気・電子機器等、消費関連機器、分析・制御、農業・食品関連機器、通信機 器等の技術分野に対する特許出願は、日、米の Patent Office への出願数が多くなってい る。その中で最近韓国、中国の比率が高まってきているのが注目される。
図表 1.16 技術分野別・特許出願先別の出願状況(2000~2004)
出典:WIPO PATENT REPORT Statistics on Worldwide Patent Activities http://www.wipo.int/export/sites/www/freepublications/en/patents
2.3.4 IT 化/通信コストの低減とスピード化
世界戦略について検討するに当たって、どうしても欠くことが出来ないのが IT 技術の発 達・普及である。IT 機器の供給産業規模拡大もあるが、世界戦略検討の観点からは、むし ろ機器を使うことによるビジネス戦略の変化を重視する必要がある。
特にインターネットの発達は情報の即時伝達、大量の情報の分析・加工・管理を可能に し、企業レベルだけでなく個人レベルにまで自由に情報交換ができるようになったことか ら、地球規模の事業展開が可能になり、様々な業界でそのメリットを戦略に取り入れる動 きが始まっている。
図表 1.17 インターネット利用率(2007 年)
0
74 72
52 50
66
26 21
17 16
10 20 30 40 50 60 70 80
日本 アメリカ ドイツ フランス イギリス ブラジル ロシア インド 中国
%
図表 1.18 動電話加入率(2007 年)
120.
140.
100.
出典:ITU(ICTStatistics Database.200840. 年6月)により作成
84.0 83.5
117.6
89.8
118.5
63.1
119.3
20.0
41.2
0.0 20.0 0 60.0 80.0 0 0 0
日本 アメリカ ドイツ フランス イギリス ブラジル ロシア インド 中国
%
出典:総務省統計局刊行、総務省統計研修所編集「世界の統計 2008」
3.機械工業を中心とした我が国企業の海外での活動状況
3.1 日本企業の海外進出概観
近年の日本の製造業の海外進出を概観する。
1990年ごろから、わが国企業は低コストを武器にした世界市場の獲得を目指し、消費 財ばかりでなく、資本財、部品、部材分野まで、安価な労働力を求めて中国やその他ア ジア諸国を中心に生産拠点の移転を進めていった。
海外への生産拠点移転が進んだ結果、海外生産比率の上昇が進む一方、国内生産比率 減少、国内の労働力余剰という問題を引き起こし、1990年代後半から日本国内では「産 業の空洞化」が問題視されるようになった。
その後も海外進出は継続しているものの、現地労働力の質の問題、インフラの問題、
さらに進出先における技術流失の問題などがあり、2003、2004年ごろから「国内回帰」
現象も目立つ様になってきている。
図表 1.19 我が国の対外直接投資の推移
0 50 100 150 千億円 200
流入 30 29 32 64 36 42 58 83 86 68 81 91
流出 55 61 64 90 70 89 98 116 120 118 139 178 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
出典:財務省資料http://www.mof.go.jp/bpoffice/bpfdi.htm 3.2 機械工業の海外事業活動展開状況
本項は経済産業省経済産業政策局調査統計部「第 37 回我が国企業の海外事業活動」(平 成 20 年 6 月)に取り上げられた機械工業に関するデータを加工分析したものである。
3.2.1 機械工業の海外進出状況
図表 1.20 は業種別の進出状況を示している。
輸送機械関連分野の海外進出企業数の伸びが高くなっている。
2000 年から 2001 年にかけて 電気情報通信、一般機械に IT(あるいは半導体)不況の影 響が見られ、海外進出企業数の減少が見られる。また、情報通信機械は 2006 年に減少して いる。これは韓国、台湾、中国等の企業の成長の影響と考えられる。
図表 1.21 は地域別の機械工業業種別の進出であるが、その中心は中国、ASEAN4、NIES3
を中心としたアジアと米国になっており、その2つの地域で約8割を占めている。
図表 1.20 機械工業の海外進出企業数
0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000
97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 社
一般機械 電気情報通信 電気機械 情報通信機械 輸送機械 精密機械
(業種別) (単位:社)
97 98 99 00 01 02 03 04 05 06
一般機械 677 643 776 764 656 665 785 820 848 883 電気情報通信 1,549 1,505 1,619 1,827 1,472 1,612 1,653 1,809 1,848 1,791
電気機械 499 556 576 656 665 679
情報通信機械 973 1,056 1,077 1,153 1,183 1,112
輸送機械 921 914 948 1,036 1,071 1,127 1,194 1,332 1,375 1,506 精密機械 203 200 240 269 216 239 248 253 273 277
注:電気情報通信は 2001 年から電気機械と情報通信に分けて集計されるようになった。
2001 年以降の電気情報通信の数字は分割された業種の数値を合計している。
図表 1.21 地域別進出企業数
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 10
一般機械 電気機械 情報通信機械 輸送機械 精密機械
北 米 中南米 中国 ASEAN4 NIEs3 インド べトナム 中 東 ヨーロッパ オセアニア アフリカ
(単位:社)
北 米 中南米 中国 ASEAN4 NIEs3 インド べトナム 中 東 ヨーロッパ オセアニアアフリカ 全地域 BRICs
一般機械 155 28 288 143 113 8 9 1 130 6 1 883 28
電気機械 77 14 262 125 93 12 10 6 74 4 2 679 251
情報通信機械 121 26 383 271 167 7 22 1 106 7 - 1,112 311
輸送機械 345 70 319 351 104 47 32 1 193 20 14 1,506 390
精密機械 51 8 95 32 38 - 8 - 43 - - 277 77
749 146 1,347 922 515 74 81 9 546 37 17 4,457 1,311 17% 3% 30% 21% 12% 2% 2% 0% 12% 1% 0% 100% 29%
注. 「操業中」と回答した企業を集計。
計
2
3.2.2 機械工業の海外進出状況
(1)海外投資決定理由
図表1.22は経済産業省のアンケート調査結果(平成19年3月)であるが、海外投資 決定理由は現地および地域の需要がどの業種においても 4~5 割を占め、ついで安い労働 力が2割前後となっている。日系の企業の存在は輸送機械で2割、その他で1割となって おり、資本財、部材産業の進出を反映した結果となっている。
図表 1.22 機械工業の投資決定理由
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
一般機械 電気機械 情報通信機械 輸送機械 精密機械
現地政策 安い労働力 技術者 部品調達 土地等 日本へ輸出 現地需要
地域需要 インフラ 日系企業 無回答
(2)資本出資比率
図表1.23を見ると機械工業の出資比率はどの業種においても単独出資が圧倒的に多い。
出資比率50%以上まで広げて見ると輸送機械が約8割であるほか、その他の業種では9割 前後となっており、我が国企業が経営権を確保しつつ積極的に海外進出していったことが 読みとれる。
図表 1.23 出資資本比率
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
輸送機械 情報通信機械 一般機械 電気機械 精密機械
25%未満 50%未満 50% 75%未満 100%未満 100%
(2)海外生産比率
輸送機械37.8%、情報通信機械34%と、この2業種の海外生産比率が一般機械、電気 機械、精密機械の約3倍と高くなっており、業種ごとの戦略、背景が異なることを顕わ している。
図表1.24 業種別海外生産比率の推移(国内全法人企業ベース)
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0
97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 年度
%
一般機械 電気情報通信 電気機械 情報通信機械 輸送機械 精密機械
単位:%
97 98 99 00 01 02 03 04 05 06
一般機械 10.3 12.5 11.0 10.8 10.2 10.1 10.7 11.7 13.1 14.3 電気情報通信 17.8 17.2 17.6 18.0 21.6 21.0 23.4
電気機械 9.5 11.0 11.8
情報通信機械 33.1 34.9 34.0
輸送機械 22.0 23.5 23.4 23.7 30.6 32.2 32.6 36.0 37.0 37.8 精密機械 8.4 9.3 11.0 11.2 12.0 12.9 12.8 12.4 13.8 8.9
(4)売上高
図表1-18 は海外進出企業の業種別売上高分布であるが、企業数では100 億円以下の 企業が多くなっている。
図表1.25 進出企業の売上高
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
輸送機械 情報通信機械 一般機械 電気機械 精密機械
1億円以下 10億円以下 100億円以下 1000億円以下 1000億円超
(5)現地企業の地域別売上構成
我が国機械工業の海外進出企業の進出先の 8 割はアジアとアメリカであったことから、
ここでは北米とアジアに進出した企業の販売先と仕入先について検討する。
販売先についてみれば、北米進出企業では 8~9 割が現地販売となっており、アジア進 出企業でも他のアジア諸国を含めた現地販売が5~6割となっている。
進出企業の対日輸出は、輸送機械では1割強であるが、その他業種では3割ないし4割と なっている。
図表1.26 地域別売上構成 全地域
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
一般機械 電気機械 情報通信機械 輸送機械 精密機械
日本 現地販売 北米 アジア ヨーロッパ その他
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
一般機械 電気機械 情報通信機械 輸送機械 精密機械
日本 現地販売 北米 アジア ヨーロッパ その他
北米
アジア
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
一般機械 電気機械 情報通信機械 輸送機械 精密機械
日本 現地販売 北米 アジア ヨーロッパ その他
(6)海外進出企業の地域別仕入構成
北米においては、仕入先は輸送機械が7割を現地で手当しているが、その他業種では、
一般機械が5割、電気機械が6割、精密、情報通信は7割を日本から仕入れている。
アジアでは逆に現地および他のアジアから 6~7 割を仕入れており、日本からの仕入 れは少なくなっている。
図表1.27 仕入先の地域別構成 全地域
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
一般機械 電気機械 情報通信機械 輸送機械 精密機械
日本 現地調達額 北米 アジア ヨーロッパ その他
北米
アジア
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
一般機械 電気機械 情報通信機械 輸送機械 精密機械
日本 現地調達額 北米 アジア ヨーロッパ その他
0% 20% 40% 60% 80% 100%
一般機械 電気機械 情報通信機械 輸送機械 精密機械
日本 現地調達額 北米 アジア ヨーロッパ その他
(7)海外進出企業の利益状況
海外進出企業の利益は「1億円未満」が自動車で4割強、その他業種では5~6割とな っている。また、各業種とも「1千万円未満」が約3割となっている。売上高経常利益 率は情報通信で1.5%程度、その他業種では5~6%程度となっている。
図表1.28 経常利益
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
一般機械 輸送機械 情報通信機械 電気機械 精密機械
▲10億円以上 ▲1億円以上 ▲1千万円以上 ▲1千万円未満
1千万円未満 1億円未満 10億円未満 10億円以上
図表1.29 売上高経常利益率
-2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0
97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 年
%
一般機械 電気情報通信 電気機械 情報通信機械 輸送機械 精密機械
(業種別) (単位:%)
97 98 99 00 01 02 03 04 05 06
一般機械 3.3 2.1 3.9 3.9 1.5 3.0 4.5 5.0 5.2 6.2
電気情報通信 0.8 -0.8 2.7 2.8
電気機械 2.3 3.0 4.4 4.1 4.0 4.8
情報通信機械 -0.5 1.6 2.2 2.1 1.3 1.6
輸送機械 2.9 2.4 2.6 2.8 3.1 4.2 4.2 4.5 5.1 4.9
精密機械 5.5 5.1 3.8 4.5 4.4 4.2 3.3 2.6 3.5 5.0