高純度金属材料の開発と分析・評価に関する研究
-金属材料の耐食性・耐候性に関する研究-
御幡弘明
*1小川俊文
*1猪口真規
*1柿原秀晴
*2Study on Development ,Analysis and Evaluation of the High-Purity Metallic Material
The Research on Corrosion and Weather Resistance of the Metallic Material − Hiroaki Obata, Toshifumi Ogawa, Shinki Inokuti, Hideharu Kakihara
超高純度鉄の耐食性について評価するため,純度の異なる鉄を用いた屋内暴露試験を行い,鉄の純度と腐食量の 関係,ならびに初期に形成される自然酸化被膜の耐食性に及ぼす影響について検討を行った。屋内暴露試験におい て,超高純度鉄(4N)は他の鉄(3N,2N)に比べ暴露初期から高い耐食性を示し,6ヶ月以降はその差が一段と大きくな った。また前処理後の鉄の硫酸ナトリウム溶液中での自然電位の測定ならびに鉄表面のAESやESCAの測定結果から,
超高純度鉄は他の鉄に比べ,緻密で安定的な酸化皮膜を形成しやすいため,屋内暴露試験において高い耐食性を示 したと考えられる。
1 はじめに
近年,窒素酸化物や硫黄酸化物などのガス状大気汚 染物質や酸性雨などによる屋外構造物や文化財建造物 の腐食・劣化や森林枯渇が問題となっており,汚染物 質の影響評価や対策が必要となっている。また,省資 源,リサイクル問題などの観点から,構造用材料や機 械機器材料などには,耐久性とその寿命予測が求めら れている。
構造用材料として鉄は大量に用いられているが,新 素材としては,鉄の高純度化が困難であり,不純物の 存在によって生じる欠点を改良するために第3元素を 加えるといった方法が繰り返されてきたため,鉄本来 の性質に関してはあまり検討されてこなかった。しか し近年の真空技術の進歩と共に,超高真空状態におい て不純物元素を分析限界以下まで除去した超高純度鉄 が開発され,従来の鉄にはない性質が見いだされてお
り
1) 2) 3), 超高純度金属自体が高耐食性を有する新素材
として期待される。
そこで本研究では,超高純度鉄の耐食性を評価する ため屋内暴露試験を行うと共に,鉄の純度と暴露試験 における耐食性に影響を及ぼす自然酸化被膜の特性に ついて検討を行った。
*1機械電子研究所
*2黒崎化学工業株式会社
2 実験(方法)
2-1 試験片の調製および組成
超高純度鉄は,純鉄(電解鉄)を超高真空中で溶解 して作製したインゴットを鍛造処理後,冷間圧延した ものを,市販純鉄および市販鋼(SPCC)は市販板材を,
大きさ20mm×50mm,厚さ1mmの形状に加工した。また それぞれの試験片は,加工時のひずみを取り除くため に,550℃で10分間の真空熱処理を行った。また,暴 露用試験片および表面解析用試験片は,前処理として 1000番までのエメリー紙研磨,フッ化水素酸+過酸化 水素+水の混合溶液での化学研磨を行った後,エチル アルコール中で洗浄処理を行った 。
4)また,鉄表面の酸化皮膜の評価を行う際は,前処理 後の試験片をデシケータ中で所定日数保存することに より,自然酸化皮膜を形成させた。
今回用いた各種試験片の主要元素の組成分析値を表
‑1 に示す。
表‑1 暴露試験片の組成
C Si Mn P S
超高純度鉄 (99.99wt%) 1 1 0.01 0.1 0.51
市販純鉄 (99.9wt%) 10 <20 2 <10 <10
市販鋼 (99wt%) 400 120 2000 100 120
2-2 暴露試験片の設置および回収
北九州市内に位置する当所の屋外階段部に暴露試験
台を設置した。暴露場所は海岸から約7km程度で,す
ぐそばに交通量の激しい国道があり,海からの海塩粒 子や自動車からの硫黄・窒素酸化物等の影響を受けや すく,非常に厳しい暴露環境にある。
暴露試験は平成11年2月から平成11年10月まで9ヶ月 間行った。試験片は暴露開始後1ヶ月ごとに暴露台よ り回収し,その重量を測定した後,暴露試験台に戻し 試験を継続した。
2-3 暴露試験片の評価
腐食前後の重量変化は,増量および減量を測定した。
なお,腐食減量は,鉄系試料を10%クエン酸二アンモ ニウム溶液で除錆後の重量を測定し,暴露前の重量か ら差し引いた値とした。
暴露試験片からの溶出イオンの測定には,DIONEX㈱A S14/CS12A によるイオンクロマトグラフィーを用いた。
溶出イオンの抽出方法は前報と同じである 。
4)2-4 自然電位の測定
鉄表面に生成した自然酸化被膜の安定性を評価する ために,0.1N硫酸ナトリウム溶液中(PH6)での自然電 位の測定を行った。測定試験片は前処理後,デシケー タ中で4日間保存したものを用いた。測定には電気化 学測定装置(ソーラトロン社製,SI 1280B)を使用し た。対極にはPtを,参照電極にはAg/AgCl(飽和KCl)電 極を用いた。本文中の電位はAg/AgCl(飽和KCl)電極を 基準として表示した。試験溶液は,屋内暴露試験を模 擬する系とするために,脱気を行わず空気飽和の状態 で測定した。試験温度は298Kで,3時間の自然電位測 定後,試験片を溶液中から取り出し,錆層を水洗除去 した後に,試験面の実体顕微鏡観察を行った。
2-5 自然酸化被膜の膜厚評価
鉄表面に生成した自然酸化被膜の膜厚を評価するた めに,オージェ電子分光分析(AES)を行った。測定試 験片は前処理後,デシケータ中で4日間保存したもの を用いた。測定には日本電子(株)製JAMP‑10Sを使用し た。測定は鉄表面の全定性分析を行った後,Ar イオ
+ンによる鉄表面のスパッタリングを行い,Fe,O,Cの深 さ方向分析を行った。またSiO 標準試料を同一条件で
2スパッタリングし,酸化皮膜の膜厚計算時の基準とし た。
2-6 自然酸化被膜の結合状態評価
鉄表面に生成した自然酸化被膜の酸素の結合状態を 評価するために,X線光電子分光分析(ESCA)を行った。
測定試料は前処理直後のものと,1日間デシケータ中
で保存したものを測定した。測定には島津製作所(株) 製 ESCA‑K1を用い,Fe
2p3/2,O ,C
1S 1S1/2軌道の分析を行った。
3 結果と考察
3-1 屋内暴露試験結果
図‑1に屋内暴露試験における腐食増量速度の経時変 化および除錆後の腐食減量速度を示す。超高純度鉄(4 N)は,市販純鉄(3N)や市販鋼(2N)に比べ,暴露初期か ら腐食量がもっとも少なく,5ヶ月目以降は腐食の進 行が遅く,その差が一段と大きくなった。錆落とし後 の腐食減量速度を比較しても,超高純度鉄がもっとも 高い耐食性を示していることが分かる。
図‑1 屋内暴露試験結果
図‑2に暴露試験終了後の各試験片の実体写真を示す。
市販純鉄および市販鋼は全面錆で覆われているのに対 して,超高純度鉄は一部に金属光沢部を有しており,
高い耐食性を示していることが観察される。
超高純度鉄 市販純鉄 市販鋼
図‑2 暴露試験後の試験片の実体写真
図‑3に暴露試験片からの溶出イオンの分析結果を示 す。各試験片間での溶出イオンに大きな違いは見られ
0 5 10 15 20
2
月3
月4
月5
月6
月7
月8
月9
月 10
月 除錆後腐食増量速度
(
μg/ d ay /c m
2)
20 25 30 35 40
腐食減量速度
(
μg/ d ay / c m
2) 超高純度鉄(4N)
市販純鉄(3N)
市販鋼(2N)
なかった。腐食性イオンとしては塩化物イオンの溶出 量が大きく,また陽イオンであるナトリウムイオンの 溶出量が大きいことから,腐食因子として海からの飛 来海塩粒子(NaCl)の影響が大きいことが明らかとなっ た。
図‑3 暴露試験片からの溶出イオンの分析
図‑4 自然電位の測定結果
3-2 自然電位の測定結果
図‑4に硫酸ナトリウム溶液中での自然電位の測定結 果を,図‑5に自然電位測定後の試験面の実体写真を示 す。超高純度鉄は,他の鉄に比べ,初期の自然電位が
超高純度鉄
0
Cl- NO3- SO42- Na+ NH4+ K+ Mg2+ Ca2+
相対濃度
市販純鉄
0
Cl- NO3- SO42- Na+ NH4+ K+ Mg2+ Ca2+
相対濃度
市販鋼
0
Cl- NO3- SO42- Na+ NH4+ K+ Mg2+ Ca2+
相対濃度
-0.7 -0.6 -0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0
0 2000 4000 6000 8000 10000 time(sec)
電位