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2 0 1 7 年 4 月 1 8 日
日 本 銀 行 大 分 支 店
日本銀行大分支店 ミニレポート
原油価格に対する感応度が全国よりも低い
大分市の消費者物価
はじめに
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本レポートでは、
① 最近における大分市の消費者物価の動きについて説明
したあと、
② 2015~16年にかけて全国と大分市とで差がみられた要
因とその背景について考察する。
③ その上で、今後の大分市の消費者物価をみる上での留
意点およびポイントを整理する。
1.大分市と全国の消費者物価の推移
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大分市の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、以下同
じ)は、2015年半ば以降、振れを伴いつつも前年を下回っ
て推移してきたが、足もと、2017年1~2月にかけては、2
か月連続で前年比プラスとなった。
こうした背景としては、これまで消費者物価を下押ししてき
た2014年夏以降の原油価格下落の影響が、ここにきて一
巡しつつあることが挙げられる。
── 原油価格は2016年初頭をボトムに緩やかに持ち直している。
こうしたもと、消費者物価指数のうち「エネルギー」(電気代・ガ
ス代・他の光熱(灯油)・ガソリンの4品目)の前年比マイナス幅
は、2016年6月以降縮小に転じ、2017年1月には、2年2か月振り
に前年比プラスに転じている。
── これまで消費者物価の下押し要因となっていた「エネルギー」
価格は、2017年度は、小幅のプラス寄与となっていくとみられる。
小幅のプラスに転じつつある大分市の消費者物価指数
▲ 15.0 ▲ 10.0 ▲ 5.0 0.0 5.0 10.0 ┗ 1 4 ┛┗ 1 5 ┛┗ 1 6 ┛┗ (前年比、%) 17 (年) ▲ 1.0 ▲ 0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 ┗ 1 4 ┛┗ 1 5 ┛┗ 1 6 ┛┗ (前年比、%) 17 (年) (注)WTI原油先物(ドル建て)と円ドル為替を用いて算出。以下同じ。 (資料)時事メイン
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▽WTI原油先物(円建て)の推移
▽大分市の消費者物価指数の推移
▽うち「エネルギー」の推移
(注)2014/4月の消費税率引き上げによる直接的な影響を調整したベース(試算値)。 (資料)総務省「消費者物価指数」「エネルギー」
:電気代・ガス代・他の光熱(灯油)・
ガソリンの4品目
[消費者物価全体に占める割合7.9%]
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 ┗ 1 4 ┛┗ 1 5 ┛┗ 1 6 ┛┗ (円/バレル) 17 (年)17/2月:
+0.2%
16/8-9月:
▲0.3%
原油価格下落
新興国経済の
減速
(注)2014/4月の消費税率引き上げによる直接的な影響を調整したベース(試算値)。 (資料)総務省「消費者物価指数」6
大分市の消費者物価指数は、概ね全国と同じような動き
となっている。但し、仔細にみると、
2015年夏場から2016
年末にかけて全国より前年比が高めに推移
している。
こうした差が生じた背景としては、消費者物価指数のうち
「エネルギー」のマイナス寄与が、大分市は全国よりも小
さかった
ことが挙げられる。
原油価格の下落は全国も大分市も同じ条件であるにもか
かわらず両者に差がみられる背景としては、
大分市では
「エネルギー」品目の原油価格下落に対する「感応度」が
全国よりも低い
ことが挙げられる。
以下では、どのようなメカニズムで感応度に違いが生じて
いるかについて分析する。
全国との差とその背景
▲ 0.64 ▲ 0.84 0.56 0.52
▲ 0.08
▲ 0.32
▲ 1.00 ▲ 0.80 ▲ 0.60 ▲ 0.40 ▲ 0.20 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 大分市 全国 (%) エネルギー以外 エネルギー CPIの前年比 ▲0.24 ▲0.20 ▲ 1.0 ▲ 0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 ┗ 1 4 ┛┗ 1 5 ┛┗ 1 6 ┛┗ 全国 大分 (前年比、%) 17 (年)7
▽消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)
の推移
(注)2014/4月の消費税率引き上げによる直接的な影響を調整したベース(試算値)。 (資料)総務省「消費者物価指数」▽2016年の消費者物価指数の前年比
とその内訳
(注)生鮮食品除く総合(前年比)およびエネルギー(寄与度)の16年平均。 エネルギー以外は両者の差として計算。 (資料)総務省「消費者物価指数」(参考)「エネルギー」の構成品目・万分比
「エネルギー」は、電気代・ガス代・他の光熱(灯油)・ガソリンの
4品目からなる。それぞれがCPIに占めるウェイト(万分比)をみ
ると、大分市は「電気代」「ガス代」「他の光熱」のウェイトが全国
よりも低い一方で、「ガソリン」のウェイトが高い。もっとも、エネ
ルギー全体のウェイトは大分市・全国ともにほぼ同じ。
2016年の消費者物価指数を
「エネルギー」と「エネルギー
以外」に分解すると・・・
(万分比) 電気代 ガス代 他の光熱 ガソリン エネルギー 大分市(①) 331 167 18 273 789 全国(②) 356 181 41 206 784 差(①-②) ▲ 25 ▲ 14 ▲ 23 67 5大分と全国のCPI
前年比の差はほぼ
エネルギーの寄与
度の大小によるも
のであることがみ
てとれる。
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(参考)大分市と全国で異なる「エネルギー」の原油価格に対する感応度
エネルギー品目の前年比差(全国-大分市)を被説明変数、原油価
格の前年比を説明変数として回帰分析を行うと、両者の間には相関
がみられる(決定係数:0.55、t値:12.02)ことから、
原油価格が変動
する局面では、全国と大分市のエネルギー品目の動きに差が生じや
すい
(原油価格に対する感応度に有意な差がある)ことが窺われる。
▽「エネルギー」の前年比差(全国-大分市)とWTI原油先物の前年比の推移
(注)電力会社やガス会社が価格決定時に用いる原料費調整制度は、1~3月の原油価格の平均を6月分の料金に 反映させるといった決定方法を取っており、原油価格の転嫁には半年程度の期間を要すると想定されるため、 原油価格の前年比は6か月先行のデータを利用。 (資料)総務省「消費者物価指数」、時事メイン回帰統計
重相関 R
0.74
重決定 R2
0.55
補正 R2
0.55
標準誤差
1.10
観測数
120
係数 標準誤差
t
P-値
切片
0.03
0.10
0.32
0.75
WTI原油先物
0.04
0.00
12.02
0.00
回帰分析の結果をみると、大分市
と全国の「エネルギー」の前年比差
と原油価格の前年比には有意な相
関関係がみられる。
⇒原油価格が前年比▲10%減少し
た場合、全国の「エネルギー」の前
年比は大分市より▲0.4%(▲10%
×0.04)下回ると推定可能。
(注)回帰分析においては、2007年1月~2016年12月のデータを利用した。 特に言及のない限り以下同じ。 ▲ 8.0 ▲ 6.0 ▲ 4.0 ▲ 2.0 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 ▲ 80.0 ▲ 60.0 ▲ 40.0 ▲ 20.0 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 120.0 ┗ 07 ┛┗ 08 ┛┗ 09 ┛┗ 10 ┛┗ 11 ┛┗ 12 ┛ ┗ 13 ┛┗ 14 ┛┗ 15 ┛┗ 16 ┛ WTI原油先物(円建て、前年比、6か月先行) エネルギー(前年比差)<右軸> (%) (%) (年)2.原油価格が変動した場合の
エネルギー品目の感応度
原油価格が変動した場合の「電気代」への影響度合いは、
大分市は全国(県庁所在地の市町村、以下同じ)の中で
も小さめ
。
「電気代」の原油価格に対する感応度…大分市:0.067 全国:0.109
⇒ 地域を管轄する電力会社によって感応度が異なっており(東京
電力管内は感応度が高い一方、九州電力や北陸電力の管内
は感応度が低い)、電力会社ごとに原料費調整制度の係数(調
整単価や上下限値)が異なることが背景にあると推察される。
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エネルギー品目別にみた原油価格の変動に対する感応度
①「電気代」の感応度
「エネルギー」は、①電気代、②ガス代、③他の光熱(灯
油)、④ガソリン、で構成されている。このため、以下では、
上記のそれぞれについて、原油価格が変動した場合、ど
の程度反応する傾向があるか、を確認する。
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▽「電気代」の原油価格に対する感応度
(注)感応度は、「電気代」の前年比を被説明変数、原油価格の前年比(6か月先行)を説明変数として 回帰分析して算出された係数。以下同じ。 (資料)総務省「消費者物価指数」、時事メイン▽都道府県別の感応度と所管電力会社
0.067 0.000 0.020 0.040 0.060 0.080 0.100 0.120 0.140 0.160 0.180 水戸市 宇都宮市 前橋市 さいたま市 千葉市 東京都区部 横浜市 甲府市 長野市 岐阜市 静岡市 名古屋市 津市 青森市 盛岡市 仙台市 秋田市 山形市 福島市 新潟市 那覇市 大津市 京都市 大阪市 神戸市 奈良市 和歌山市 札幌市 鳥取市 松江市 岡山市 広島市 山口市 徳島市 高松市 松山市 高知市 福岡市 佐賀市 長崎市 熊本市 大分市 宮崎市 鹿児島市 富山市 金沢市 福井市 全国:0.109 都道府県 感応度 一般電気事業者 都道府県 感応度 一般電気事業者 茨城 0.153 東京電力 北海道 0.078 北海道電力 栃木 0.153 東京電力 鳥取 0.073 中国電力 群馬 0.153 東京電力 島根 0.073 中国電力 埼玉 0.153 東京電力 岡山 0.073 中国電力 千葉 0.153 東京電力 広島 0.073 中国電力 東京 0.153 東京電力 山口 0.073 中国電力 神奈川 0.153 東京電力 徳島 0.069 四国電力 山梨 0.153 東京電力 香川 0.069 四国電力・中国電力 長野 0.110 中部電力 愛媛 0.069 四国電力・中国電力 岐阜 0.110 中部電力・北陸電力・関西電力 高知 0.069 四国電力 静岡 0.110 東京電力・中部電力 福岡 0.067 九州電力 愛知 0.110 中部電力 佐賀 0.067 九州電力 三重 0.110 中部電力・関西電力 長崎 0.067 九州電力 青森 0.108 東北電力 熊本 0.067 九州電力 岩手 0.108 東北電力 大分 0.067 九州電力 宮城 0.108 東北電力 宮崎 0.067 九州電力 秋田 0.108 東北電力 鹿児島 0.067 九州電力 山形 0.108 東北電力 富山 0.056 北陸電力 福島 0.108 東北電力 石川 0.056 北陸電力 新潟 0.108 東北電力 福井 0.056 北陸電力・関西電力 沖縄 0.096 沖縄電力 滋賀 0.084 関西電力 京都 0.084 関西電力 大阪 0.084 関西電力 兵庫 0.084 関西電力・中国電力 奈良 0.084 関西電力 和歌山 0.084 関西電力 原油価格が変動した場合の「ガス代」への影響度合いは、
大分市は全国の中で最も小さい
。
「ガス代」の原油価格に対する感応度…大分市:0.048 全国:0.116
⇒ 感応度の地域差の背景としては、
都市ガス普及率の高低
が挙
げられる(普及率が高いほど感応度が高い)。これは、ガスボン
ベの運搬作業など原油価格に連動しない人件費の比率が相対
的に高いプロパンガスに比べ、都市ガスの方が原油価格に連
動した価格設定を行うことが比較的容易であるためと推察され
る。
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②「ガス代」の感応度
0.048 0.000 0.020 0.040 0.060 0.080 0.100 0.120 0.140 0.160 0.180 広島市 京都市 神戸市 大阪市 東京都区部 千葉市 横浜市 奈良市 大津市 さ いたま市 岡山市 名古屋市 静岡市 津市 長崎市 福岡市 福島市 新潟市 岐阜市 鳥取市 那覇市 鹿児島市 水戸市 富山市 和歌山市 高知市 高松市 熊本市 盛岡市 仙台市 宇都宮市 松山市 山口市 山形市 徳島市 甲府市 秋田市 宮崎市 松江市 佐賀市 金沢市 福井市 長野市 前橋市 札幌市 青森市 大分市 全国:0.116