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熱間鍛造性に優れた高強度-型チタン合金,KS EL-F

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(1)

まえがき=高強度なα-β型のチタン合金で最も代表的 な材料は Ti-6Al-4V である。この合金は各種力学的性質 のバランスが優れていることから使用実績が多く,航空 機などの既存分野で利用されているチタン合金の 90%

以上を占めるといわれている。また今後は,Ti-6Al-4V は 性能上,航空機分野のみならず,軽量化の観点から量産 自動車のコンロッドやバルブなどへの適用も期待され る。量産自動車などへの適用を想定した場合,いかに高 い生産性で素材を製造し,かつ,2 次加工コストも含め た部品としてのトータルコストをどこまで下げられるか が重要な点として上げられる。しかし,Ti-6Al-4V は熱間 加工性が必ずしも良好ではない。そのため,ビレット製 造段階での歩留り低下はもとより,型打鍛造での鍛造割 れや,温度低下に伴う変形抵抗の上昇による塑性流動性 の低下で金型に材料が部分的に充満しない欠肉などの問 題も生じる。したがって,加熱を複数回に分けて鍛造す る場合も少なくなく,部品形状によっては高い生産性と 低いトータルコストを実現するには不向きなチタン合金 である。また,鍛造部品の素材としては丸棒が主要な製 品形態であるが,α-β型チタン合金は強度と延性のバラ ンスから等軸組織が望まれる一方,棒圧延は放熱が少な いため,変形抵抗が高い Ti-6Al-4V では加工発熱によりβ 変態点を越えてしまう場合がある。そのため,φ25mm 程度以下の細径の丸棒圧延では純チタンの半分程度まで 圧延速度を落とす必要があり,素材の生産性が良くない という問題もある。

 このような状況に鑑みて当社では,純チタンのように 熱間鍛造が可能で,かつ,力学的性質は Ti-6Al-4V と同等 ということを合金設計のコンセプトとして新しい高強度 α-β型チタン合金を開発1),KS EL-F との商品名で上市 した。EL-F は Extra Low Flow-stress の頭文字からきて

いる。本稿では,KS EL-F の開発データの一部を報告す るとともに,型打鍛造品の試作例を紹介する。

1.KS EL-F の物性と材料学的特徴

 表 1に KS EL-F の物性を Ti-6Al-4V との比較で示す。

KS EL-F の公称組成は Ti-4.5Al-4Cr-0.5Fe-0.2C で,常温で の構成相はα相とβ相に加え,微量の TiC が存在してい る。β変態点は約 970℃で,一般的な Ti-6Al-4V より若干 低めである。密度は 4.49g/cm3と若干 Ti-6Al-4V より高め であるが,純チタンの 4.51g/cm3よりは低密度である。

 図 1に KS EL-F の常温から高温までの引張試験結果を Ti-6Al-4V との比較で示す。素材はφ20mm の圧延丸棒

(700℃ 焼鈍材)である。常温から 500℃ までは Ti-6Al- 4V と同等である。一方,700℃以上では温度上昇に伴う 強度低下が Ti-6Al-4V より大きく,850℃での 1 点のデー タ比較ではあるが,JIS2 種クラスの強度と同等まで低下 する。これが KS EL-F の最大の特長である。この特長 は,従来,チタンにとっては不純物元素として扱われて いた C は,常温引張性質に必ずしも悪い影響を与えない うえに,固溶強化能が常温では高く高温では低い格子間 元素であることに着目し,C を固溶限まで多量に添加し たことで常温と高温での大きな強度差を引出せたことに よる。

 ベース組成の成分系としては,500℃程度までの高温 強度は Ti-6Al-4V と同等の強度を維持すべくAl添加は必

神戸製鋼技報/Vol. 59 No. 1(Apr. 2009) 85

鉄鋼部門 加古川製鉄所 技術研究センター

熱間鍛造性に優れた高強度α-β 型チタン合金, KS EL-F

New α-β  Type Titanium Alloy, KS EL-F, for Forging, Having Mechanical  Properties Comparable to Ti-6Al-4V

Ti-6Al-4V is one of the most popular α-β type alloys with its well-balanced mechanical properties. However,  the alloys low productivity and high fabrication cost, caused by its relatively poor hot-workability and high  flow-stress,  prohibit  its  use  in  high-volume  applications  such  as  automotive  parts.  To  overcome  this  shortcoming, Kobe Steel has developed a new titanium alloy, KS EL-F, based on a design concept,  quasi Ti- 6Al-4V workable like CP titanium .

■特集:オンリーワン/ナンバーワン製品・技術〜材料編〜  FEATURE :  Only One  High-end Products : Materials

(技術資料)

大山英人(工博)

Dr. Hideto OYAMA

逸見義男 Yoshio ITSUMI

Ti-6Al-4V KS EL-F

Physical properties

α+β α+β+TiC

Phase

995 970

β transus (℃)

4.42 4.49

Density (g/cm3)

表 1  KS EL-F の物性 Physical properties of KS EL-F

(2)

須と考え,また,β安定化元素としては比較的安価で高 温強度には比較的寄与が小さいといわれている遷移元素 である Cr,および,将来的には低品位なスポンジチタン も有効活用することを想定した少量の Fe を選定した。

公称組成を中心に各添加元素量を種々変えた場合の常温 強度,および 850℃での高温強度への添加元素量の影響 を,それぞれ図 2(Al 量依存性),図 3(Cr 量依存性), 図 4(Fe 量依存性),および図 5(C 量依存性)に示す。

Al 量の 4.5%は Ti-6Al-4V の常温での強度レベルを維持で きる最低量であり,高温での強度上昇を抑えている。一 方,Cr 量は高温強度という観点からは 4%より増やした 方が下げられるが,これは,β変態点が低下することに よる 850℃ でのα相量の減少によるものと考えられる。

実際の鍛造を考えた場合は加熱温度を下げる必要がある ことから,Cr 量増加見合いの低変形抵抗が実際の鍛造 では期待できないため,Cr 量に関しても Ti-6Al-4V の常 温強度レベルを維持できる最低量に抑えた。Fe は VAR 溶解でのマクロ偏析を考慮して 0.5%としている。C は 常温では添加量の増加に伴い強度上昇している。しか し,850℃の強度にはほとんど影響をおよぼしていない。

 図 6に KS EL-F の疲労強度特性を Ti-6Al-4V 文献データ との比較で示す。KS EL-F は若干の TiC が存在すると前 述したが,疲労強度特性に問題となるような悪影響はも たらさず,Ti-6Al-4V と同等の疲労強度特性が得られる。

86 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 59 No. 1(Apr. 2009)

図 2  Al 量が常温および 850℃での引張強さに及ぼす影響   Effects of Al content on tensile strength at room temperature 

and 850℃

1,200  1,000  800  600  400  200  0

Tensile strength  (MPa) Flow stress at 850℃  (MPa)

Flow stress at 850℃→ 

Strain rate=20%/min

←Tensile strength Level of Ti-6Al-4V TS at RT

Level of JIS class 2 σf  at 850℃ 

180  150  120  90  60  30  0 Al content  (%)

8 6

4 2

0

図 1  KS EL-F の変形抵抗の温度依存性(20mm 圧延丸棒の引張試験)

  KS EL-F temperature dependence of tensile strength (φ20mm  rolled bar)

Ti-6Al-4V

0 200 400 600 800 1,000 1,200

High solution hardening KS EL-F Gr. 2 Strain rate=20%/min 1,200 

1,000 

800 

600 

400  200 

 

Tensile strength  (MPa)

Temperature  (℃)

Low solution hardening Strain rate=0.5%/min

図 5  C 量が常温および 850℃ での引張強さに及ぼす影響   Effects of C content on tensile strength at room temperature 

and 850℃

1,200  1,000  800  600  400  200  0

0.2% proof strength at R.T  (MPa) Tensile strength  at 850℃ (MPa)

180  150  120  90  60  30  0 C content  (%)

0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0.0

0.2% proof strength of Ti-6Al-4V at RT

←0.2% proof strength  Strain rate 0.5%/min

TS of  Gr.2 at 850℃ 

Tensile strength at 850℃→ 

Strain rate=20%/min

図 4  Fe量が常温および 850℃での引張強さに及ぼす影響   Effects of Fe content on tensile strength at room temperature 

and 850℃

1,200  1,000  800  600  400  200  0

Tensile strength  (MPa) Flow stress at 850℃  (MPa)

Flow stress at 850℃→ 

Strain rate=20%/min

←Tensile strength Level of Ti-6Al-4V TS at RT

Level of JIS class 2 σf  at 850℃ 

180  150  120  90  60  30  0 Fe content  (%)

2.0 1.5

1.0 0.5

0.0

図 3  Cr量が常温および 850℃での引張強さに及ぼす影響   Effects of Cr content on tensile strength at room temperature 

and 850℃

1,200  1,000  800  600  400  200  0

Tensile strength  (MPa) Flow stress at 850℃  (MPa)

Flow stress at 850℃→ 

Strain rate=20%/min

←Tensile strength Level of Ti-6Al-4V TS at RT

Level of JIS class 2 σf at 850℃ 

180  150  120  90  60  30  0 Cr content  (%)

8 6

4 2

0

図 6  KS EL-F の疲労強度特性(φ32mm 丸棒,Ti-6Al-4V との比較)

  Smooth axial fatigue of φ32mm KS EL-F bar in comparison  with φ32mm annealed Ti-6-4 bar

    Material Properties Handbook Titanium Alloys, ASM, 1994, p.548 Number of cycles

700℃×2h/AC annealed  Tensile strength=991MPa  Yield strength=959MPa  Elongation=13.7% 

Reduction of area=46.2% 

104 105 106 107 108

φ32mm annealed  bar of  Ti-6Al-4V*)

KS EL-F Runout Unnotched specimens (R=0.1)

Maximum strength  (MPa)

1,000  900  800  700  600  500  400   

(3)

2.KS EL-F の熱間鍛造性

 図 7に KS EL-F の据込み鍛造時の最大荷重より求めた 変形抵抗の温度依存性を Ti-6Al-4V および JIS2 種クラス の純チタン(図中では Gr. 2 Class CP と表記)との比較 で示す。図 1 に示した比較的低ひずみ速度での引張試験 結果では 850℃で JIS2 種純チタンの変形抵抗と同等であ ったが,実際の鍛造のようにひずみ速度が大きくなると JIS2 種純チタンよりは高変形抵抗であり,同じ温度で見 ると,KS EL-F の変形抵抗は,Ti-6Al-4V と JIS2 種純チタ ンとの中間に位置する。しかし,実際の鍛造では各材料 の加熱温度はβ変態点を基準にそれぞれ選定するのが一 般的である。そこで,β変態点からの温度低下量に対す る変形抵抗の変化という形で図 7 のデータを再整理した 結果を図 8に示した。これより,温度低下が起こらなけ ればそれぞれの材料の変形抵抗は同様に低いものの,Ti- 6Al-4V は温度が低下すると変形抵抗が急激に上昇するこ とがわかる。これに対し KS EL-F は,変形抵抗の上昇が JIS2 種純チタンとほぼ同等で,純チタン並みの低荷重で 実際の鍛造が可能であることがわかる。

3.KS EL-F での型打鍛造の例

 図 9に,実際の型打鍛造の例を示した。この鍛造品 は,直径 70mm,長さ 200mm の円柱ビレットを 1 ヒー トで試作した油圧ヘッドである。Ti-6Al-4V であれば通 常,欠肉対策上 2 ヒートで行う必要がある。KS EL-F は 温度低下しても変形抵抗が低く材料の流動性が良いこと から,1 ヒートでも欠肉が起こらないことが確認できた。

図10に,通常は鋼(SCM415)で直径 45mm,長さ 66mm の円柱ビレットを 1 ヒートにて型打鍛造する金型を用 い,同様に 1 ヒートにて試作した自動車の歯車部品の例 を示す。図 9 の鍛造品の例では製品としての表面の状況 が分るようにショット・酸洗にて黒皮を除去しているが,

図 10 の例では,歯の部分のシャープさも理解できるよう に型打鍛造ままの外観を示した。KS EL-F が歯車部品に 使用可能という意味ではないが,このような型打鍛造で は,鋼と同様の鍛造も期待できる結果となっている。

神戸製鋼技報/Vol. 59 No. 1(Apr. 2009) 87 図 8  β変態点を基準にした変形抵抗の比較

  Relative  comparison  of  maximum  flow  stress  at  equivalent  temperature below β transus temperature

−250 −200 −150 −100 −50 Tβ 

Temperature  (℃) 350 

300 

250  200 

150  100 

50  0

Flow stress  (MPa)

TP size:φ30mm×45 Reduction:60% 

Strain rate:1/s Ti-6Al-4V

KS EL-F

Gr.2 Class CP

図10  KS EL-F を用いて 1 ヒートで型打鍛造した鍛造品例 − 2 −

   (自動車歯車部品)

  A  gear  part  of  KS  EL-F  forged  in  a  mass  production  line  for steel (SCM415) forging in 1 heat (Billet:φ45mm×66 

mm)

97mm

27mm

図 9  KS EL-F を用いて 1 ヒートで型打鍛造した鍛造品例 − 1 −

   (油圧ヘッド)

  A hydraulic jack head part of KS EL-F forged in 1 heat     (Billet:φ70mm ×200mm, Ti-6Al-4V needs 1 heats)

190mm

130mm

図 7  変形抵抗の温度依存性(据込鍛造)

  Temperature  dependence  of  maximum  flow  stress  during  upsetting

750 800 850 900 950 1,000

Temperature  (℃) 350 

300 

250 

200  150 

100  50 

0

Flow stress  (MPa)

Ti-6Al-4V

KS EL-F

TP size:φ30mm×45H  Reduction:60% 

Strain rate:1/s

Gr.2 Class CP

(4)

4.KS EL-F の切削性

 2 次加工コストと部品加工の生産性に影響を与える要 素の一つに切削性がある。図11に超硬バイトでの穴あ け時のバイトの摩耗量を Ti-6Al-4V と比較した例を示す。

切削油にて冷却が効きやすい切削では,同図のように Ti-6Al-4V より摩耗量が少ない。しかし,切削油での冷却 が不十分で熱がこもるような状況では Ti-6Al-4V よりも 切削性に劣るという結果も得られており,現在,そのよ うな状況下でも Ti-6Al-4V より優れた切削性が得られる ように KS EL-F 改も開発中である2)

むすび=純チタンと同等の熱間鍛造性を有し,Ti-6Al-4V 相当の強度特性が得られることを合金設計のコンセプト として,高強度α-β型チタン合金である KS EL-F を開発 した。種々の分野の多くのユーザの方々に一度本合金を ご評価いただければ,必ずや熱間端造性に優れているこ とをご理解いただけるものと確信している。今後,トー タルコストと生産性が大きく問われる量産自動車部品な どにもKS EL-Fが幅広く使用されてゆくことを期待する。

参 考 文 献

 1 )  S.  Kojima  et  al.:Ti-2003  Science  and  Technology,  WILEY- VHC Verlag GmbH & Co. KGaA, 2004, Vol.5, p.3089.

 2 )  S.  Murakami  et  al.:Ti-2007  Science  and  Technology,  The  Japan Institute of Metal, 2007, Vol.1, p.427.

88 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 59 No. 1(Apr. 2009)

図11  KS EL-F と Ti-6Al-4V の切削性比較例(工具摩耗量とドリル 穴数との関係)

  Comparison  of  average  flank  wear  between  KS  EL-F  and  Ti- 6Al-4V

Ti-6Al-4V

KS EL-F KS EL-F 

Ti-6Al-4V

Speed:20m/min  Feed:0.1mm/rev  Depth of hole:15mm  Cutting fluid:Water insoluble oil Number of drill hole

0 5 10 15 20 25

0.25 

0.20 

0.15 

0.10 

0.05 

0.00

Average flank wear  (mm)

参照

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