論文内容要旨
スーパー救急病棟における発達障害の臨床的特徴 精神科 第 30 巻第 2 号 2017 年掲載予定
精神医学専攻 森田哲平
近年,発達障害に対する専門的な治療のニーズは日に日に高まっている 一方で,その入院治療についての詳細な報告はわずかしかない。発達障害 では青年期から成人期に成長するに伴って新たな臨床的問題が二次障害 として起こってくる可能性を有しており,精神病症状,感情障害,激しい 行動障害と退行などの報告がある。そのため,学童期までは精神科医療を 必要とせず,施設や家庭で対応可能であった発達障害患者でも青年期や成 人期になって新たな併存障害や行動障害が生じ,改めて精神科医療機関を 受診するケースも多い。さらにこのような精神症状や行動障害が重篤化し た場合に対しては,迅速で強力な精神医学的介入が必要となるため,精神 科救急医療の対象となる可能性が高いとされている。このような背景から,
当院ではスーパー救急病棟において二次障害が重篤化した発達障害の治 療がしばしば行われている。
今回の研究では、平成 22 年から平成 25 年の 4 年間に、当院スーパー救 急病棟に入院した全患者について診療録から集計を行い、発達障害(広汎 性発達障害、注意欠如多動性障害)とその他の診断名の患者について比較、
検討を行った。発達障害患者は 58 人(28.0 歳、男性 44 人、女性 14 人)
で、そのうち広汎性発達障害 49 人(27.2 歳、男性 41 人、女性 8 人)、注 意欠如多動性障害 9 人(32.4 歳、男性 3 人、女性 6 人)だった。発達障害 の遺伝負因がある者は 11 人(18.9%)で,その他の精神障害の遺伝負因が ある者は 8 人(16.0%)であった。平均教育年数は 12.7±2.0 年で入院時 に就労していたのは 3 人(5.2%)のみであり,ほとんど(55 人,94.8%)
が無職か不登校の状態だった。併存障害は,適応障害が 27 人(46.5%)と 最も多く,精神遅滞,大うつ病性障害,双極性障害が続いた。入院時の状 態像は精神運動興奮状態が 27 人(46.5%),うつ状態が 22 人(37.9%)と 多く認められ,8 人(13.8%)に幻覚,妄想などの強い精神病症状を認めた。
最終処方のクロルプロマジン換算値は 309.2mg、平均在棟期間は 54.7 日 で、84.5%の患者が自宅退院となった。発達障害以外の障害と発達障害と の間で比較すると,非自発入院率と在棟期間には差がなかったが,発達障
害では年齢がより低く(t=14.61, p<0.01),自宅退院率が有意に高かった
(x2=6.25, p=0.012)。また,最終処方の抗精神病薬の使用量は CP 換算値 で発達障害群が有意に少なく(t=4.59, p<0.01),気分安定薬が多く使用 されていた(x2=7.37, p<0.01)。
激しい精神症状で入院しても適切な環境を提供することで改善する可 能性があること,薬物療法は低用量でも,通常の精神障害よりも同等以上 の転帰が望める可能性があることがわかった。当院では発達障害患者を専 門に診療している関係上,今回の結果は一般化するのが困難であると思わ れるが,本邦での研究の蓄積が少ない発達障害の入院治療について有用な 所見が得られたと考えられる。(1145 字)